きのこりあん『ペットのつもりでした』
こそこそと隠れながら森の中を進む。
一日、二日と用心していたが、三日目辺りでディラはさすがに飽きてきた。忍者ごっこも遊びじゃなければ飽きる。
それに──
「そろそろ狩りがしたい」
モソモソとパンと干し肉囓りながらディラは独り言を呟いた。ぶっちゃけ言って暇をもて余していた。
「どうせ俺はいわゆるメインストーリーとやらに関わることは無いだろうから、少しぐらいはしゃいでも良いのではなかろうか?
このエクスカリバーだってきっと遊びたいだろう。
だってこんなにも元の俺の弓に似ているし、たくさん使ってやりたい」
というか、色々確かめたいこともあるし。と、エクスカリバーを眺めながら思う。
例えば使い勝手だとか、医療システムだとか、立ち回りのしやすさだとか…。
ズズゥゥ…ン…と、馬の振動とはまた違う音が聞こえた。
「ん?」
わりとすぐ近くで木が倒れたような音に似ていた。
左手に常に持っている方位宝針は音とは全く違う場所を示しているから教会関係ではなさそうだ。
とすると、なんだこの音は。
またしても音が聞こえ、ディラはさっさと残ったパンを平らげると、音の方向へと向かった。
音のする場所の近くの繁みから見てみると、小型トラックサイズの大きなダンゴムシが森の中をゆっくり進んでいっていた。
ブリオンで見掛ける低レベルモンスターに似ているそれは、全くこちらに気が付いていない。
願ってもない獲物だ。
「よーし」
ディラはエクスカリバーに矢をつがえ、ダンゴムシ狙いを定めた。
「おい、聞いたかあの話」
「なんだ?なんの話だ?」
「アルミタマ虫が一撃で殺られていたって話だよ」
「ああ、あの話か。デマだろ?」
「デマじゃねーんだって。本当にあの岩よりも硬い虫が一撃で仕留められていたんだって。俺の友達が虫の死骸を見たっていうから本当だよ」
「お前の友達って、ハンターのか?」
「そうだよ。誰がやったのか見てないから知らねえけど、近くに凄いハンターでもいるのか?」
「いんや。全く聞いてないな。でもそうならきっと町は大騒ぎになるぞ」
□□□
「っしゃあ!!!三日経った!!!」
目の前で方位宝針がストンと落ちたのを確認した。
これで森の中の潜伏生活が終わりを迎える。待ちに待った森生活からの解放を一人で雄叫びをあげて喜び、ディラは早速道へと進路を切った。
「あまりにも暇だったから、その辺の見たことのある草むしったりキノコ採ったり襲ってくる獣狩ったりしてたけど、これでようやく仲間が作れるぜ!なぁ、エクスカリバー!」
「………」
心なしかエクスカリバーも祝ってくれている気配を感じる。
「まずはどうしようか。おばあちゃんからお小遣い貰ったからそれで減った食料を買い溜めて、そっからどうしようかなー。まずは図書館とかあったら行きたいなぁー」
先日捕まえたアルキキノコがバタバタと暴れている。蔦のリードを付けてるから犬みたいだけど、れっきとしたキノコである。
そのキノコとエクスカリバーに話し掛けながら道を目指して歩くこと丸1日。
「よいしょ」
ディラはようやく森から脱出した。草じゃない地面が違和感。
もちろん日本の道よりは全然酷いものだけど、そんなの気にしてたらきりがない。
辺りを見回して、目的のもよを見つけるとリードを軽く引っ張った。
「おいでー、キノコリアン」
呼ぶとアルキキノコが付いてきた。可愛いなこいつ。
キノコと共にゆっくり道を歩いて、森の向こう側に見える町へと向かうことにした。
「アルキキノコ…」
「なんでアルキキノコが…」
「散歩?」
「なにあれ」
「アルキキノコ??」
町に着いたディラは唖然とした。その町はみたことのあるものだったから。勿論全部が同じじゃないけど、門の感じとか、建物の位置とか。
「凄い。待ってここ見たことある…」
ブリオンの割りと初めの方で。
「ちょっと細部が違うけど、でも大体合ってる。なに?ブリテニアスオンライン予知能力でも搭載してる??」
どうりであのアルミオオムシがいると思ったよ。おかげで良い運動になった。それに──
「使い慣れた方法とか、威力とか、全部再現できるし。あれはゲームだから生身だと体が付いてこないかなーって思ってたけどなんとかなったし」
スキルとかあったらもっと良いんだけど。
「そういうのあったらエクスカリバーも凄く強くなるけど贅沢は言っちゃダメだよねー。な?エクスカリバーにキノコリアン」
「………」
「……キュッ」
「あ、そんな音出すんだお前」
売るの可哀想になってきたな。
街をぐるっと回ったら放してあげよう。
なんとなく愛着が沸いてきたキノコリアンを連れて町を回る。
食べ物屋、服屋と並んでいる通りに、目的と思われるお店を見つけた。
「お?ここ道具屋っぽい」
足を止めてお店を眺める。
村の道具屋よりもでかいけど、看板の印が同じだ。
ディラは早速お店の扉を開けた。
「こんにちわー」
挨拶をしながら中に入ってみると、何故か先客がこちらを見るなり逃げ出してしまった。
そしてカウンターにいる店員がキノコリアンを指差し怒鳴り付けてくる。
「ばか野郎!!!魔物を店の中に入れるんじゃねぇ!!!」
「魔物?」
「そのキノコだ!!!」
キノコといえば、このお店にはこのキノコリアンしかいない。
「ああ、そうか。わかった」
ペット入場不可的なやつか。仕方がない。
ディラは回れ右をして店を出ると、店の近くにあった柵にキノコリアンを繋いだ。
蝶々結びだけど大丈夫だろう。なんでか大人しいし。
「キノコリアン。すぐに戻るからここで待ってるんだぞ」
「……キュッ」
キノコリアンに見送られ、今度こそと店に入ると、店員が少しだけホッとした顔をしていた。
さて目的を果たしますかとディラはカウンターへ向かい、訊ねた。
「ここってとってきたのを売れたりします?」
「ああ、売りに来たのか。ビックリしたぜ。てっきりあの魔物で店荒らししに来たのかと」
「大人しいですけどねぇ」
「とりあえずあんたの頭がおかしいのは分かったが、仕事は仕事だ。何を持ってる?」
「えーと、まずこれと」
草各種。
「これと」
キノコ各種。
「これ」
襲ってきた獣の皮。
それらをカウンターに並べた。
状態は全て良いはずだ。なにせちゃんと村で教えられた通りに処置したのだから。
「……」
意外そうにディラを見ていた店主が、カウンターに並べられたものの鑑定を始めた。
鑑定はすぐに終わった。
「とりあえずみんな買い取れる。価格はこのくらいだな」
机の上に置かれる32マルダ硬貨。おかしいなとディラは首を捻った。
「ナッツ村で教わったよりも大分安いな」
というよりも、ブリテニアスオンライン価格の半分しかない。
あれ?計算間違えたかなと思っていると、店員が突然キレてきた。
「はぁ!?俺がぼったくっているってのか!?」
あ、とディラは思った。
この焦りかた、もしかして。
「確認していい?この睡眠作用によく効くシツミン草っていくら?50ゼイン?(マルダよりも下の単位)じゃあこの胃薬になるセーロン草は?割りと高値で取引されるって聞いたけど」
色々確認していくと、ついに店主が盛大に舌打ちして、追加で硬貨を叩き付けるように置いた。
「降参だ。なんだよアホのふりしやがって。ほら、持ってけ。文句ないだろ?」
数えたらブリテニアスオンラインよりもちょっと低いけど、ナッツ村で教えて貰ったのと同じ値段になった。
ぼったくり未遂か。
じとっと店員を見詰めながら脅してみた。
「繋いでいるアルキキノコをここでダンスさせていい??」
「上乗せしてやるから早く帰れよ」
追加が机に置かれた。これでゲームと同じ価格。
ありがたく追加報酬をポケットに仕舞う。
「ありがとうおっちゃん。また来るね」
「来なくて良い!!」
ディラは店を出ると繋いでいたアルキキノコをほどく。
蝶々結びでもほどけた様子はなく、それどころか一ミリも動いてないキノコリアンに感動した。忠犬か。
こんなに大人しいのになぁ。
チラリと後ろをみると、みんなが一斉に顔を逸らす。
なんとなく感付いてたけど、このキノコリアンでもアウトらしい。マスコットみたいな見た目なのにな。
「なんか君連れて歩き回るとみんな吃驚するみたいだから先に離そうか」
「…キュッ」
仕方がないと一旦街を出て、キノコリアンの綱をほどいた。
なんだどうしたと、キノコリアンがディラを見上げた。顔があるかは知らないけど、笠を反らして見上げるような姿勢を取った。
「勝手に捕まえたり離したりごめんね。これ、選別」
くびれているところにお試しで作ったなんの効力もないただのアクセサリーを着けてあげた。
雄なのか牝なのかもしらないけれど、何かの役にでも立ててくれ。
「じゃあ、またどっかで会ったらね」
バイバイとディラが手を振ると、アルキキノコは頭をユサユサ振って森の中へと消えていった。
さらばキノコリアン。元気でな。
「戻るか」
次に目指すは図書館だ。
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(。・ω・。)ノ