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4.あなたの頭に飾るに相応しい宝石(ゴミ)ね。

「お姉様」

裏庭でワーグナーと密会していたアリエスが私の部屋に入って来た。その手には先ほどワーグナーに貰ったと思われる髪飾りが握られていた。それは蝶の形をしたイエローダイヤモンドの髪飾りだった。

自慢しに来たのだろう。

「どうしたの、アリエス」

「これ、ワーグナー様に貰ったの」

嬉しそうに私に報告するアリエスは勝ち誇ったように口角を上げていた。きっと私が傷つくと思ったのだろう。前の私なら傷ついた。

誰からも愛されない私にとって婚約者は唯一私を愛してくれるかもしれない存在だった。そんな存在に疎んじられていると思いたくなかった。だから尽くした。

アリエスと恋仲だと知っていてもただ耐えた。アリエスにもワーグナーにもいい顔をしていたらいつかは振り向いてくれるかもしれないと思ったから。結局そんな日は来なかったけど。

「そう、良かったわね」

傷ついた顔をしない私にアリエスは怪訝な顔をする。

まさかアリエスとワーグナーがこの時期から付き合っていたとは思わなかった。前の私は本当に愚かだったのね。彼女たちに見下され、搾取されるのは当然のことだったんだわ。

「お、お姉様にも貸してあげる。つけてみたら?」

「遠慮するわ」

どうせつけた瞬間に私に盗られたと騒ぐのでしょう。

「そ、そんなこと言わずに。きっとお姉様に似合うわ」

思ってもいないくせに。

「私には似合わないわよ」

そんなゴミ。

「もうっ!そんなことないったら。どうしてお姉様はそんなに卑屈なの」

散々、あなたが言ったんじゃない。

似合うとおだてて、みんなの前で似合わないと馬鹿にして。

アリエスはどうしても私を髪飾り泥棒に仕立て上げたいようだ。半分は意地になっているのもあるだろう。私が今までと違う対応をして来たから自分の思い通りにならずに苛立っているようにも見えた。

無理やり作っている笑顔が誰の目から見ても不自然だ。

「ほうら、当ててみて。絶対に似合うから。私が保証する」

アリエスは髪飾りを持った手を私に伸ばしてきた。髪飾りが私の髪に触れる瞬間、私は彼女の手を払った。

「きゃっ」

髪飾りは床に落ち、アリエスは何が起こったか分からない顔をしていた。

そうでしょうね。私があなたにこんな態度をとったこと一度もないもの。お父様に愛されているあなたにいつも優しくしたわ。何をされても笑って許したわ。あなたに優しくすればいつかあなたに向かっているお父様の愛情が私にも向くのだと信じていた。

馬鹿よね。

例え向いたとしてもそれは私への愛情ではないわ。だってアリエスに優しくしないと向けてもらえない愛情なんでしょう。それは私へではなくアリエスへ向けられた愛情じゃない。言外にアリエスに優しくない私には何の価値もないと言っているようなものよ。

そんなものを欲しがっていた過去の自分が心底嫌になる。本当にどれだけ愚かだったのだろう。

「嫌だって言っているじゃない。私が嫌がることを私に対する親切心からだと厚かましく押し付けるのがあなたの優しさなの?」

「そ、そんな、私はただ」

困惑しているのだろう。

アリエスからは私に対する怒りは感じない。今は。冷静になれば私に対する怒りが湧き上がって来るだろう。見下した相手に反論される。これほどの屈辱はないと。でもあなたは自分では何もしない。お父様やワーグナー様に涙ながらに訴えるだけ。

訴えられた彼らはどんな行動をとるか。今までの経験から嫌でも分かるわ。

私は床に落ちた髪飾りを拾って押し付けるようにアリエスに渡した。アリエスは何の反論もできないまま髪飾りを受け取った。

「私には似合わないから。それにこれはワーグナー殿下があなたに贈ったものよ。それを他人の私に渡すのは失礼よ」

「た、他人だなんて‥‥‥お姉様、どうしたの?何だか今日、様子変だよ」

ええ、そうでしょうね。

あなたの、あなた達の思い通りに動いてくれる、反応してくれる私はもういないのよ。だってあなた達に殺されたから。

そして今度はあなた達が死ぬ番よ。

「そう?疲れているの。用がないのなら失礼するわね」

アリエスはまだ何か言おうとしていたけど構わず部屋のドアを閉めた。

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