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あなたが今後手にするのは全て私が屑籠に捨てるものです【書籍化決定】  作者: 音無砂月


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24.虎が持つ威を己のモノだと思い込んだ狐が喚く姿は道化師のようだった

side.ヴィトセルク


「リオネス、帰ったか。どうだった、久しぶりの茶会は?」

「中々面白い茶番劇でしたわ。ヴィトセルクの仰る通り、ラーク女公爵は変わりましたわね」

今回のお茶会は全て仕組まれたことだった。

まずお茶会を公爵家で開催するきっかけとなったルシフェル嬢のアリエス嬢に向けた手紙は彼女がスフィア嬢に頼まれたから出したものだ。

代わりにラーク女公爵がルシフェル嬢の生家で行っている商売の後ろ盾になることになっている。

ルシフェル嬢の家は手広くやっていて潤沢な財力のある家だが、階級が低すぎる。その為、財力目当てで不当な要求をしてくる高位貴族を退けることにいつも苦労していた。中には親子ほど年が離れているにも関わらずルシフェル嬢を自分の嫁にと言ってくる連中もいる。

しかし、ラーク公爵家が後ろ盾になればいかに高位貴族と言えど下手に手は出せない。

彼女は新米の公爵で、女。しかも愚弟に婚約破棄された身で馬鹿にしている貴族もいるが異母弟のヴァイスが彼女を気にかけている。目ざとい奴は既に気づき、利に敏い奴らは彼女の味方に回り始めている。

商売で成功しているレーヴェル子爵家がそのことに気づかないはずがない。

「『最近、お茶会に来られないから心配しています。そう言えば、ラーク公爵家のお庭は素晴らしいと有名ですわね。一度見てみたいですわ』」

リオネスはソファーに腰かけ、ルシフェル嬢がアリエス嬢に出した手紙を読む。

この手紙は不利になるようなことは書かれていないがアリエス嬢のことだ。どのような悪事に利用し、ルシフェル嬢にどんな影響があるか分からないのでスフィア嬢が回収し、リオネスに渡したのだ。

「たったこれだけでルシフェルがお茶会を公爵家で開催するように提案して来たとアリエス様は思ったらしいですわ。面白い方ですわね」

「そうだな。俺たちには考えられない発想力だ」

‥‥…全てスフィア嬢の思い通り、か。

彼女が指示したのはルシフェルにリオネスが先ほど読んだような内容の手紙をアリエス嬢に出すということの一点のみ。

お茶会をアリエス嬢が無断で開催したのはアリエス嬢の独断。ルシフェル嬢がお茶会のことをリオネスに話したのはルシフェル嬢の独断。ルシフェル嬢からお茶会の話を聞いたリオネスがルシフェル嬢の同伴と言う形でお茶会に参加したのはリオネスの独断だ。

いったいどこまでが偶然で、どこまでが彼女の予測なのだろうか。

「最近、アリエス嬢はお茶会に呼ばれなくなったそうですわ」

「そうだろうな。彼女の言動は目に余るものが多かった。それでも前ラーク公爵に気に入られていたのと、ラーク公爵家の養女になることがほぼ確定していたから。そして気弱なスフィア嬢が彼女を制御できないのも明白だった。だから誰もが我慢を強いられる羽目になったのだ」

例え、自分の方が身分が上だろうと。例え今の段階でアリエス嬢の身分が男爵令嬢であろうと公爵家の養女になることが確定していたのならいつかは自分よりも上の地位になる。そんな人間と好き好んで仲違いしたいとは誰も思わない。

『いつか』を予測して動かなければ高位貴族だって簡単に踏み潰されてしまう。貴族社会とは魔の巣窟なのだから。そういう点で言えば、アリエス嬢は『いつか』を予測することができなかったのだろう。

自分が公爵家の人間にならない未来が来るなんて想像もできなかったから彼女は今、報復にあっているのだ。

「アリエス嬢は鬱憤が溜まっていたでしょうね。なれると当然のように思っていた公爵令嬢という地位はアトリ殿が逮捕されたことで怪しくなり、それでもと期待をしていたのに公爵位を継いだラーク女公爵はまるで別人のように変貌を遂げた。望んだ地位が手に入らないかもしれないという不安。簡単に離れていく人心」

リオネスはルシフェルの書いた手紙を見て妖艶に微笑む。まるで悪魔が欲望を満たしたかのような美しい笑みだった。

「そこへ来たお茶会の提案。アリエス様はこう思ったでしょうね。『自分がラーク家の人間であるとみんなに知らしめる為にラーク家でお茶会をしよう』と」

「女公爵家の許可も得ず?」

「必要ないと考えたのでしょう。だって、自分が何をしようが自分の勝手だとそう思っていたのだから。そして今まではそれが罷り通っていた。アトリ殿がそうさせていた。そのことに長年、彼女を見てきたラーク女公爵は気づいていらしたわ。だから利用した」

リオネスはマッチで火をつけ、ルシフェル嬢が書いた手紙を灰皿に入れてそこで燃やした。

「そして以前、アリエス嬢が私のことを女だてらに剣を振り回す野蛮人だと言ったことをルシフェルが怒っており、その仕返しを虎視眈々と狙っていたことも彼女は知っていましたわ」

「つまり、全てスフィア嬢の予測した通り。彼女の掌で踊らされていたと?」

「おそらくは」

もしそれが本当だとするとスフィア嬢は絶対に敵に回したくない相手だな。

それにしても俺の知っているスフィア嬢とは似ても似つかない。何が彼女をそこまで変えたのだろうか?愚弟と従妹の裏切りにそれほどまでに傷ついたのか?あれにそんな価値はないと思うが。

若しくはただ単に堪忍袋の緒が切れただけか?

普段大人しい人間ほど怒ると怖いというが、これはその言葉だけでは表現しづらいな。

「そうそう、アリエス嬢ですが周囲に味方がいないと気づくとエーベルハルトに必死に視線を送っていましたわ。きっと彼なら助けてくれると思ったのでしょうね」

「それは何とも的外れな男に助けを求めたな」

俺はリオネスと一緒に部屋に入って来て、今は俺の後ろで控えているエーベルハルトに視線を向ける。俺の視線に気づいたエーベルハルトは「何か?」と優し気な笑みを浮かべて問うてくる。俺は首を左右に振って何でもないと答えた。

「エーベルハルトは優しいと令嬢方に評判でしたから。本人を知る者は絶対に彼に対して優しいなどと思いませんものね」

エーベルハルトは狂っている。

こいつにとって大事なのは自分の邸に囲っている幼馴染の女だけだ。それ以外がどこで生きようが死のうが奴は興味を示しはしない。

目の前で胸を掻きむしりながら必死に助けを求めている人間がいても素通りするだろう。もしそいつが助けてもらおうと手を伸ばしてきたのなら「血で汚れるので触らないでください」と言ってその手を切り落とすぐらいは平然とする。

どこまでも他人に無関心でどこまでも冷酷な人間だ。何せ彼は幼馴染を手に入れるためだけに国を一つ滅ぼしたのだから。

「虎の威を借りる狐と言うけれど、虎が狐に威を貸したことなどないのに、狐は何を勘違いしたのでしょうね。仮に借りられたとしてもそれは結局、他人のもの。自分のものでない以上はいつか泡沫の夢のように消えてなくなってしまうのに」

傲慢な狐はそのことに気づかなかった。見たくない世界には目を閉じた。知りたくない世界には耳を塞いだ。そして彼女は今日、自分の世界を虎により崩壊させられたのだ。

もうアリエス嬢にまともな縁談など来ないし、社交界への復帰も難しいだろう。今日、お茶会に参加した令嬢たちは親に、親は知り合いに話すだろう。お茶会で何があったかを。

礼儀と身分を重んじる社交界でアリエス嬢の行いは到底許されるものではない。彼女と関わって自分たちも同種なのだと思われたくはない連中はアリエス嬢を貴族社会から締め出すだろう。

「明日だったな、ワーグナーの謹慎が解かれるのは」

「ええ。殿下はこの事態をどう対処なさるつもりでしょうね」

あれには事態を悪化させることはできても好転させることはできないだろう。その能力が著しく欠けているのだから。

「愚弟が一人いなくなったところで王家に損害はない。損害がないのなら何の問題もないさ」

どのみちスフィア嬢に手を出したワーグナーに未来はない。たとえスフィア嬢が許してもヴァイスが許さないだろうから。

「それはようございましたわ」

暗い話はここまでにして俺は仕事を片付け、最愛の妻であるリオネスとのお茶を楽しんだ。

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