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2.回帰後

バシンッ


頬に強い衝撃が走った。

真っ暗になっていた意識が一気に開けた。

私の目に飛び込んできたのは険しい顔をした父だった。

なぜお父様がここにいるの?

私はキンバレー子爵家にいるのに。それに結婚してから一度もお父様は私に会いに来てくださらなかった。何度も、何度も手紙を書いた。「助けてくれ」という手紙を。けれど返事が来たことはなかった。

私がどうなっていようとお父様には関係のないことだった。寧ろ私が死んだと知って喜んだかもしれない。そういう人だった。

「何をボサッとしている。さっさとサインをしろ」

「サイン?」

そう言われて初めて私は自分がお父様の書斎にいることに気づいた。

お父様の書斎?

私はラーク公爵家に帰って来たの?

どうやって?

そもそもどうして私は生きているの?

私はダハルに殺されたはずなのに。

そう言えばサインって言っていた。

「えっ」

私の手には羽ペンが握られており、机の上にはアリエスをラーク家の養女にする旨が記載されていた。

どういうこと?

まるで分からない。アリエスは既に公爵家の養女で、私の婚約者だったワーグナー・ヴィザール第三王子と結婚したはず。そしてワーグナー殿下が公爵家の当主になったはずなのに。

どうして私の手元にアリエスを養女にする為に必要な書類が未処理のままあるの?

それだけじゃないわ。書類の日付が七年前に戻っている。

アリエスを養女に迎えた時、私は十六歳だったはず。つまり、死ぬ前に時間が戻っている?

「スフィアっ」

バシンッ

再び頬に強い衝撃が走った。

遅れて頬を叩かれたのだと理解した。そうか、さっきも頬を叩かれたのか。

暴力を振るわれ続けると痛みが麻痺するのか、どうしても理解が遅れてしまう。

「‥…嫌です」

「は?」

もう二度とあんな人生は送りたくない。

みんなが私を見て嗤う。私を嘲る。どうして私はこんな惨めな人生を送らないといけないの?

耐えて、耐えて、耐え続けてその結果が殴り殺されるの?

「嫌です。嫌です。嫌です。嫌ですっ!」

もう二度とあんな人生は御免だ。

あんな辛くて、苦しくて、痛いだけの人生なんて。

「っ」

さっきよりも強い衝撃が来た。

杖で頭を殴られたのだ。私の体は床に転がり、頭から血が流れた。


‥‥‥痛い


「アリエスは両親を事故で亡くしたんだぞっ!お前はあの子が可哀そうだと思わないのか?お前の従妹だっ!なぜ助けてやれない」

可哀想?

両親を事故で亡くしたのは確かに可哀そうなのかもしれない。

じゃあ、私は?

どうして私がアリエスを助けないといけないの?

アリエスは私の婚約者も、アーク公爵家も私から奪っていった。

私は傷物令嬢として社交界で笑われた。でもアリエスもお父様も庇ってくれなかった。

子爵家に嫁いで、毎日暴力を振るわれる生活を送るようになった。私、二人に何度も手紙を書いたのよ。助けてくれって。でも、あなた達からの返事はなかった。

私は死んだのよ。誰にも助けられることなく、誰にも看取られることなく。一人、寂しく。あの牢獄のような場所で死んだのよ。

ねぇ、その時あなた達は何をしていた?

私のことなんか忘れて幸せに暮らしたの?

私のことなんかどうでも良かった?

ねぇ、私はあんな人生を送らなければならないほど酷いことをしたの?

お父様は床に転がった私の体を何度も何度も杖で殴った。

殴られ続けると感覚が麻痺して痛みを感じなくなった。その代わり、殴られた場所はジンジンと熱を帯びる。

散々殴って疲れたのか、お父様は殴ることを止めた。私の腕を掴み、ソファーに座らせるとペンを持たせた。アリエスを養女にする為の書類にサインをしろということだ。

お父様は元男爵家の人間で婿養子だから私の許可がないとアリエスを養女に迎え入れることはできない。それに今は当主の座に座っているけどラーク家の血が入っていないお父様を正式に当主にすることもできない。ラーク家唯一の跡取りは私のみ。お父様は私が成人するまでの間の中継ぎの当主なのだ。

きっとその事実がお父様のプライドを傷つけているのだろう。



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