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友人機ウニー  作者: 久米 藍
三章
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地下通路

 


 その部屋は一見普通の、豪奢で朽ちた室内だった。

しかし部屋の奥にある本棚が床に仰臥していて、本来棚が屹立していたはずの場所には大きな空洞がある。その中は階段になっていた。

「いわゆる隠し部屋ってやつかな」

 ウニーが恐る恐る奥を覗き見る。

「石造りで丈夫そうだし、降りられそうだ」

 同じく覗き込みながらハウヴィは答える。階段は途中から漆黒が呑み込んでいる。

「少し奥の方へ進んでみたんだが、その時に、いくつかの木箱を見つけた。かなり道のりが長そうだから一度引き返してきたんだ」

 シースは周囲を今だに警戒している。まるで最初の失敗を恐れるかのように。

「俺に中身を確認してほしいってことか」

 何故かそんなシースを見たくなかったハウヴィは、意識をこちらに向けさせるように少し大きい声で言う。目を丸くしたウニーがゆっくりと頷き、

「危険だけど、物資はいつもカツカツだからな。食料でも武器でも何でも欲しい」

 ハウヴィはカービン銃のアクセサリー・レールにフラッシュライトを取り付け、点灯してから階段をまず一段降りる。それだけで肌に伝わる空気が一変するのが分かった。降りるたびに擦れあう装備の金具が音を出し、狭い空間にいやに反響する。振り向いて、まだ階段へ足を踏み入れていないウニーへ言う。

「俺がある程度下って確認してくるから、それまでここで待機していてくれ。この狭さじゃ二人いたところでお互いを邪魔するだけだ」

「何よ、足手まといって?」

「そうかもな」

 投げやりに返してハウヴィは階段を降り続ける。

 フラッシュライトの灯りで常に先を照らしながら歩く。既に入り口の日の光が届かないほどに下っていた。そのことからかなり下へ降りてきたことが分かる。

 最後の一段を降りて、ハウヴィは地下通路に降り立つ。

 ハウヴィの射撃を邪魔しない左斜めに位置するウニーが眼を眇める。

「かなり狭いな」

 そこは正方形の形をしていて、長身の人間だったら少し屈まないといけないほどに狭い。湿気が強いようでフラッシュライトで石の床や壁を照らすと、てらてらと反射する。耳をそばだてると、水の流れる音がする。崖下を流れていた川が近いのかもしれない。そこで、ハウヴィはふと違和感を覚える。

「……なんだ?」

 頭に何かが降り積もる。手で髪に触れて、手の平を確認してみると、細かいつぶてや砂が付着していた。天井にライトを向けると──。


 天井に亀裂が走っていた。


「走れ!」 

 シースが叫ぶよりも早くハウヴィは疾駆する。

急な酷使に両足が悲鳴を上げるが、それを無視して無理することには慣れていた。カービン銃を持っているせいで腕を振れないのが辛くて、捨ててしまいたくなるが我慢する。

背後で耳を塞ぎたくなるような轟音が響きはじめ、更に足を速く動かす。

それでも頭や肩に小石がパラパラと当たってくる。歯を噛み砕くほど食いしばった。

「ァアアア!」

 最後は飛び込むように地面に身体を投げ出す。

ごろごろと転がった後にカービン銃で頭をかばった。

 しばらく断続的に空間が揺れ続けていたが、それもじきに落ち着いた。頃合いを見はからいハウヴィはシースに呼びかける。

「なにが起こった?」

「……天井が抜けたっぽい」

 気の抜けたような声音でシースが答える。

 起き上がりながら嫌々振り返る。

階段は大小の瓦礫によって完全に塞がっていた。シースが嘆息する。

「まあ、形を保ってたのが奇跡だったんだろうがな」

「まんまと餌に誘い込まれたネズミだな。俺達」

「ネズミなんて大層なんもんじゃないだろ。俺達」

 ハウヴィはカービン銃とピストルに小石が入り込んでいないか確認しつつ、

「シース、ウニーにこっちは大丈夫だったって伝えてきてくれ。お前なら通り抜けられるだろ」

「そうだ。ウニーちゃん平気だったかな」

 すぐさまシースは岩石をすり抜けて向こうへ渡る。

 ハウヴィはその後ろ姿を見送ってから、瓦礫の奥で驚愕していることだろう同行者の言葉を思い出す。

『訊いたよ、そうしたらはぐらかされちゃった。あの子はハウヴィに訊いてほしいの』

 あれほど親しくなったウニーには言えず、ただずっと一緒にいただけのこちらにしか言えないこととは何だ、と頭を捻ってみても皆目わからない。

 思考に耽る間にシースが戻ってくる。

「ウニーちゃんも大丈夫そうだった。むしろあっちの方が顔青くしてたぜ。まあ状況的には俺達は閉じ込められたみたいなものだからな」

「瓦礫を動かしてみるか?」

「それは最後の手段にしておきたいな。下手に動かして今より状況が悪くなるかもしれない」

「先に進むか? ほかにも出入り口があるかもしれない」

「んー、たぶんあるんじゃねぇかな。出口が。だってこの道、隠し通路なんだろ。だったらどっかに繋がってなきゃおかしいぜ」

 シースは瓦礫とは反対の方向、通路の奥を見遣りながら言う。

「もしかしたら財宝の隠し場所なだけかもしれない」

「財宝ね。このご時世じゃなけりゃ、ぴょんぴょん跳ねて喜んだんだがな」

 シースは瓦礫を、厳密にはその奥にいるであろうウニーを指す。

「ウニーちゃんはどうする? 待機させておくのがいいと思うんだが」

「……ウニーだから飢えるとかの問題は無いけど。……三十回、陽が上ったら独断で行動してくれ、とそう伝えてくれ」

「なんだそりゃ」

「それだけの時間ここから脱出できないんじゃ、多分俺が野垂れ死んでる。手持ちの水も少ない。食料や水のタンクは四輪のところに置いたままだし」

「……そういうことね。はいよ」

 シースがまたあちらへ向かい、戻ってくる。少し呆れていた。

「百回までは待つってよ。言っても聞かねえや」

 そう言いながらもわずかに口端が上がっている。

「……じゃあ戻らないとな」とこちらも同じ表情を作る。

 まあ、とりあえず進もうぜ、とシースはハウヴィの横に着いた。

 シースは夜目が効くわけではないため、ここでは先行するつもりは無いようだ。

 中断された探索を再開した。


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