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Eternity~銀髪の守護者ルーファス~  作者: カルダスレス


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46 アインツ博士、再び

リカルドがギルド支部全体に緊急通達を出した翌日、ルーファスとリカルド、そして戻って来たシルヴァンの三人はギルドで依頼の掲示板を見ていました。そこにはアインツ博士の地下遺跡調査の依頼が出されていて…?一方意外に時間がかかってメクレンにようやく戻って来たウェンリーは、ルーファスのところへ行きますが…

      【 第四十六話 アインツ博士、再び 】



「――おいリカルド、シルヴァン。ちょっと見てくれ、この依頼って…」


 昨日リカルドの名前でギルド全体に緊急通達を出して貰った後、俺達は出来る限りの高ランク討伐依頼を(こな)し、メクレン周辺の魔物を狩り続けた。

 俺の懸念通り、エヴァンニュ全体で魔物の活性化と強力化現象が起きており、経験の浅い低ランク守護者や冒険者の中には、命を落とした者や、大怪我をした者、依頼を放棄して逃げ帰った者がかなりの数出たそうだ。

 殺到する依頼に俺達もへとへと…とまではいかないものの、かなり疲れた状態で夜REPOS(レポス)の部屋に帰ると、「いったいこんな時間までどこでなにをしていたのだ!!」…と理不尽に怒るシルヴァンが待っていた。


 おまえの方こそこれまでどこに行っていたんだ、と俺達の方が言いたかったが、一日中Aランク相当の魔物討伐をしていた俺とリカルドにそんな気力はなく、詳しい話は明日聞く、と言って半分眠りかけながら風呂に入ると、早々にベッドに入った。


 そうして今朝早く起き、朝食を取りながら今後の話をしようと思ったのだが、エヴァンニュ王国から出る際に必要となる、シルヴァンの身分証明を先ずは手に入れた方がいい、とのリカルドの助言を受け、急遽守護者の資格(ハンター・ライセンス)の取得からやることにした。

 記憶のない俺がそうしてエヴァンニュ国籍を手に入れたように、シルヴァンも守護者になれば出身の詳細に関わらず手っ取り早く国籍を持てるようになる。

 守護者(ハンター)になるために必要なのは、規定数の魔物を狩ること(受験者が止めを刺す必要がある)と、他の正守護者(ハンター)と組んで依頼を一つ完遂すること。

 この二つの条件を満たしさえすれば、その日のうちにID(今さらだがIDとはアイデンティティ<存在証明>の略だ)を発行して貰えるのだ。


 そのシルヴァンの資格試験のために今、良さそうな依頼を探そうとギルド二階の掲示板前にいるのだが…新たに張り出された高ランク依頼の中に、気になるものを見つけた。


〖 至急!!依頼ランクUNKNOWN(アンノウン)/地下遺跡調査、探索の護衛求む・報酬応相談/パーティーランクがAランク級以上推奨/アインツ・ブランメル考古学研究所 〗


 俺達は依頼用紙を覗き込む。内容を見るなりリカルドはすぐさまジト目で呆れ、眉間に皺を寄せると、頭痛がする時のように手を額に当てた。

「――アインツ博士達はもう…またこんな依頼を出して、引き受ける守護者がいるはずないじゃないですか。」

 リカルドが困った顔をして "はあ…"、と深い溜息を漏らす。


 それに対してシルヴァンが、なぜ引き受ける守護者がいないのか、と俺に聞いて来た。

「依頼ランクがUNKNOWN(アンノウン)になっているだろう?UNKNOWN(アンノウン)っていうのは、依頼内容の危険度が全く不明という意味なんだ。おまけに報酬が応相談になっているということは、リスクの割に儲けの少ないことが圧倒的に多い。」

 俺の説明の後にリカルドが付け加える。

「つまりは余程の物好きでない限り、まずこんな依頼に手を出す守護者(ハンター)はいない、ということですよ。しかもAランク級以上のパーティーランクだなんて、守護者達から苦情が来ます。」

「ふむ…」

 わかったのかわかっていないのか、シルヴァンは不思議そうな顔をする。

「…シルヴァン、なにを考えているかわかるぞ。おまえのことだ、〝我なら面白そうだと受けてやってもいいのに〟とか思っているんだろう。」

「おお、さすがは我が(あるじ)、我の考えていることはお見通しか。」


 なにを言っているのやら…そう嬉しそうに笑いながら返すシルヴァンだが、別に褒めているわけじゃない、寧ろ以前のようにあまり問題を起こすなよ、と言いたかった。

 この数日間でさらにシルヴァンのことを思い出して来た俺の記憶が確かならば、元々彼は自分の実力にかなりの自信を持っており、荒事や揉め事、他者が嫌がり困難だと思うようなことに進んで首を突っ込みたがる嫌いがあった。

 そんなシルヴァンのせいでいつも割を食い、七聖の中でも俺の代わりに窘めてお説教をする役目を担っていた女性がいた。俺はシルヴァンのひたすら謝る昔の姿と共に不意にそんな彼女のことを思い出したのだ。


 ラベンダー色の長い髪をいつもきっちりとアップに纏め、お気に入りの本と手帳を戦闘中でさえ手元から離さず、「わたくしが思いますに」と前置きするのが口癖だった紫の瞳の眼鏡美女…彼女…彼女の名前、は――


「…イスマイル…そうだ思い出した、『イスマイル・ガラティア』だ。」

 俺の口をついて出た名前に、シルヴァンがギョッとした顔をして即反応する。

「な、なぜそこで今イスマイルの名を思い出す!?」

 その表情を見るにシルヴァンは、事あるごとに彼女からのお説教を喰らう立場であったことを思い出したのだろう。

「いや…おまえを見ていたら、急に彼女のことが頭に思い浮かんだんだ。ラベンダー色の髪をした眼鏡をかけた美女だったよな。マイル、とかイシーとか呼ばれていたような気がする。合っているか?」

「む、合ってはいるが…一瞬彼奴の説教が聞こえた気がしたぞ、驚いた。」


〝おまえはいつも彼女に怒られてばかりいたっけ〟と微苦笑した俺に、〝そ、そそ、そんなことはないぞ!!〟と大慌てで横に首を振り否定する。

 そんな俺とシルヴァンのやり取りを隣りにいたリカルドは、微笑ましいものを眺めるような視線で目を細め、微笑んで見ていた。


「だけどこの地下遺跡って…まさかインフィランドゥマのことじゃないよな?入り口は地震で崩れて塞がったままのはずだし、いくらなんでも復旧するには早すぎる。」

「ええ、そうですね、どこか他の遺跡のことだとは思いますが…」


 俺とリカルドの目が合った。


「――イシリ・レコアのことを諦めそうにないとは思ったけど、別の入り口でも見つけたのかな?」

 俺はあの遺跡の全ての階を端から端まで見て回ったわけじゃない。幾つか開かない扉もあったようだし、最後にシルヴァンの操作で戻ったあの装置には行き先を指定できる機能があった。

「シルヴァンティス、インフィランドゥマの他にイシリ・レコアに行く方法はあるのですか?」

「イシリ・レコアへはラビリンス・フォレストかインフィランドゥマからでなければ行けぬが、インフィランドゥマへ通じる道はヴァンヌ山のあそこだけではないぞ。」

「「えっ…!?」」

 シラっとアッサリそう口にしたシルヴァンに、俺とリカルドが同時にハモった。


「あの転送陣の他に出入り口があったのですか!?」とリカルドは詰め寄る。

 それはそうだろう、出口が見つからずに彷徨い、挙げ句ゴーレムに追いかけられ転落して死にかけたのだから。


 シルヴァン曰く、インフィランドゥマの機能は一番最初の時点では、まだ封印されていたのだが、俺がキー・メダリオンを機能回復装置に嵌め込んだことで、外部からの転送陣と力封じの一部分(俺と俺に属する者の魔法使用がそれに当たるらしい)だけは既に解放されたと言う。


「この国…エヴァンニュ王国の地下には、国土と同規模の広大な地下迷宮が広がっている。それぞれの地域は区切られていて、必ずしも隣接地域と繋がっているとは限らぬが、様々な場所にある転送陣を使えば最終的に国内のどこにでも行けるようになっていると言われている。その転送陣の行き先の中にインフィランドゥマに通じる物があるのだ。」

「エヴァンニュの地下に広大な迷宮?…まさかアインツ博士達は、それを見つけ出した、とか?」

「いや…だとしてもわが獣人族(ハーフビースト)の一族でもなければ、それがインフィランドゥマに通じているなど知るはずはない。イシリ・レコアへの行き方は、たとえ誰であっても人間に知らせてはならぬと厳しく言い聞かせてあった。千年前の文献にでさえも記されていないと思うぞ。」

「ではやはり違う遺跡のことなのでしょう。私達が気にすることではありませんよ、ルーファス。」


 リカルドの言う通り、俺達が気にする必要はないかもしれないが、やけに気になるのだ。これは俺の勘だ、きっと無視しない方がいい。…そんな気がする。


「…万が一イシリ・レコアに関係していたとしたら、シルヴァンは気にせずにいられるか?」

「冗談ではない、我が獣人族(ハーフビースト)の地に我の許可なく人間が立ち入るなど、決して認めるものか!!」


 思った通りシルヴァンが怒り出した。そう言うだろうと思ったよ。


「だったら、アインツ博士に確かめた方がいいんじゃないか?おまえは興味を持っていたようだし、なんならこの依頼は俺達が引き受けてもいいと思う。」

「ルーファス!?」今度はリカルドがギョッとして俺を見る。

「正気ですか?こんな面倒臭そうな依頼(しごと)を受けようだなんて――」


 意外なことにリカルドの方が偉く渋い顔をした。リカルドはアインツ博士達と親しくしているんじゃなかったのか?少しは喜ぶかと思ったのに。


「いいじゃないか、前回の依頼は結局完遂出来なかったんだし、引き受けてくれる守護者は見つかりそうにないんだろう?それに以前と違って、今の俺なら博士達を守護魔法できちんと守れる。そう難しくはないと思うけど。」

「そ、それはそうですが…」


 ――結局、〝我は確かめずにおられぬ!!行くぞ、リカルド!!〟と熱り立ったシルヴァンに押され、俺がそう決めたのなら、と最終的にリカルドも同意した。


 依頼票を掲示板から剥がし、受諾受付の窓口に持って行くと、俺は契約書を取り交わし、シルヴァンの資格試験対象にこの依頼を指定した。

 いきなり高ランク依頼で試験なんて大丈夫ですか、と受付嬢に心配されたが、パーティーメンバーがSランク級の俺達だとわかると〝いえ、大丈夫ですね〟と彼女は笑った。


 こうして俺達は詳細を聞くべくギルドからすぐに連絡を入れてもらい、アインツ博士の研究所をこれから訪ねることにしたのだが…


「先に行っててくれなんて、どうしたんだろう?シルヴァン…博士の研究所に着くまでの合間に、この数日間、どこでなにをしていたのか歩きながら聞こうと思っていたのに。」

「そう…ですね。…なにか用事を思い出したのでしょうが、守護七聖<セプテム・ガーディアン>というのは、思ったより自由気ままにあなたのそばから離れるんですね。」

「俺は余程じゃない限り自分で自分の身を守れるからな。シルヴァンもあまり心配していないんじゃないか?」

 そう言って笑った俺に、リカルドが真顔で〝笑い事じゃありませんよ。〟と切り返す。

「魔物が相手であれば私もいますし、特に問題はないでしょう。ですがあなたは、ヴァハで正体不明の人間達に背後から斬られたことを、忘れていませんか?」

「!」


 それは…と思わず口籠もる。


 もちろん完全に忘れていたわけじゃないが、それでもリカルドの指摘通り、そのことが頭から消えかけていたのは確かだった。


 何故なら俺は、たとえ心臓を剣で貫かれたとしても、おそらく自分が死なないだろうとわかっているからだ。

 俺がそのことをどう口に出そうか考えているうちに、リカルドは俺の考えを見透かしたかのように続けて言った。


「命のやり取り云々だけで言っているのではありません。私はあなたに殺意を持って害を成そうとする人間が存在している、そのことが心配なのです。もし、万が一にもあなたになにかあったらと思うと…それだけで私は平静ではいられないのですよ。」

「お…大袈裟だな、少なくとも俺はそんな油断はしないし、ヴァハの時は…あれは確かに気をつけていても斬られたのには違いないけど、それでもあんなことはそうそう起きるものじゃないだろう。」

「いいえ、ルーファス。あなたは心の中で自分を殺せる者はこの世に存在しない、と思っているはずです。ですがもし…もし、ですよ?そのあなたの『不老不死』を断ち切る武器や手段があったら、どうするのですか?」

「リカルド…」


 もしそんな武器や手段があったらどうするか…?


 …考えたこともないからわからないが、もしそんな方法があって、俺が誰かに殺されるようなことがあったら…それはそれで仕方がないような気がする。

 その時は俺が全ての世界から必要ない…若しくは俺 "自身" が "自分" で存在している必要がない、と判断した時のような気がするからだ。


 そんな風に考えるのは、少し傲慢かもしれない。だけど実際、俺には暗黒神と戦い、フェリューテラを救う、という使命のようなものがある。

 それを放棄させてまで殺したいと思われるのならば、世界にとっての俺の存在など必要ない、と言われたも同然じゃないのか?


 いや、さすがにそれは言い過ぎか。


「もしそんなものがあったら…そうだな、もしそんなものがあって、それを使って暗黒神やカオスじゃない…例えば人間や、俺が守ろうとしている存在の中の誰かが俺を殺そうとするのなら、その時はなにもかもを受け入れて消えるよ、多分。…まあもちろん、そんなことにはならないと思っているけどな。」


 この時の俺はリカルドがなぜこんなことを言い出したのかわからなかったが、後にアテナが、"俺にとって最も危険な存在は、『人間』だ" と度々警告するようになるまで、確かに人間を信じ切っているところがあったのは否定できない。


 俺達がアインツ・ブランメル考古学研究所に着くと、満面の笑みを浮かべたアインツ博士に出迎えられた。


「いやあ、はっはっは、まさかリカルド君とルーファス君がわしらの依頼を受けてくれるとは…思わず喜んで小躍りしてしもうたわい!!」


 バンバン、と俺の両腕を叩いて喜ぶ博士に、相変わらず元気な人だ、と俺は思う。


「私は至極不本意なのですが、ルーファスが前回の依頼は完遂出来ずに終わったと、気に病んで受けたいというものですから、仕方なく、です。」

「あ、ありがとうございます!!ルーファスさあん!!」

 拝むように両手を合わせ、目をウルウルさせているのはクレンさんだ。

「いえ…こんにちは、アインツ博士、クレンさん。先日はメクレンまで送り届けられず、申し訳ありませんでした。」

「いやいや、なんのなんの、ちゃんとスカサハ君とセルストイ君に送り届けて貰ったでの。あの地震であちゃこちゃ被害が出とったそうじゃが、ヴァハの村は大丈夫だったんかね?」

「ええ、まあ…」


 ウェンリーの家が火事になって、伝説の八岐大蛇(やまたのおろち)に襲われた、とはいくらなんでも言えないな。


 やがてトニィさんがお茶を運んで来てくれたのだが、そのタイミングでシルヴァンが遅れて到着した。


「なんだこの汚い屋敷の内部は!!我をこんなところで遭難させるつもりか?見渡す限り本だの書類だの巻物だので、薄暗いし足の踏み場もないではないか…!!」

「こらこらシルヴァン、着くなり口が過ぎるぞ。」

 気持ちはわかるが本当のことは言うな、と思う俺に対して、本当のことですから構いませんよ、とリカルドはさらりと返す。

 その後でなんの用事があったのかシルヴァンに問いかけていたが、シルヴァンは野暮用だとしか答えなかった。


 お茶を入れてくれたトニィさんにもお礼と挨拶をすると、早速本題に入る。

「それでアインツ博士…依頼に出されていた、『地下遺跡の調査と探索の護衛』と言う内容ですが、まさかインフィランドゥマのことじゃないですよね?」

「違うのう、インフィランドゥマに繋がっとる可能性は高いかもしれんが、別の遺跡じゃ。もちろん、わしらの目的はイシリ・レコアなんじゃがの。」


 ほっほっほっと、眼鏡の奥の小さな目を垂らしながら、博士は機嫌良さそうに顔を綻ばせる。


 ああ、やっぱり。


「なんだと?おい博士とか言う老人。貴様、誰の許可を得てイシリ・レコアに行こうとしている?たとえインフィランドゥマを抜けられても、我が一族の隠れ里には、我の許可なくして足を踏み入れさせぬぞ。」

「ほ?」

「え?」

「へ?」

 博士、トニィさん、クレンさんが三者三様の声を出す。


「……えーと…あなたは確か、あの時ルーファスさんと一緒にインフィランドゥマから出て来た…シルヴァンティスさん、でしたよね?」

 クレンさんが身を乗り出し、顔をずいっとシルヴァンに近付けて尋ねる。

「今…なんと仰いました?聞き間違いでしょうか?()()()()()()()()、と仰ったように聞こえたのですが…気のせいですよね??」


 俺とリカルドがシルヴァンに注目する中、シルヴァンは堂々と言い切った。


「聞き間違いなどではない、我は獣人族(ハーフビースト)が最後の(おさ)、シルヴァンティス・レックランドだ。』


 ふんぞり返ってそう言うなり、シルヴァンは博士達の前で銀狼の姿に変化したのだった。



              ♢ ♢ ♢


 メソタニホブからの、大、大混雑したシャトル・バスを降りると、俺はようやく見慣れた場所に戻って来た、とホッとした。


 シルヴァンと別れ、ヒックスさんの出身地に行き、そこのギルドでIDを発行して貰い守護者(ハンター)の資格を得たものの、初期ランクがDランク級だったために、Cランク級まで上げねばならず(理由は第三十八話参照)、なんとか頑張って単独で依頼を終わらせてから…な・ん・と!!二日が過ぎていた!!


 当初Cランク級に昇格後、すぐプリーストリ村を発つはずだった俺は、帰りの移動手段を確保することをすっかり忘れてたんだ。

 エヴァンニュ王国の交通手段であるシャトル・バスは、中から大規模の主要都市同士を結ぶ交通手段だ。

 よって、メソタニホブやメクレンなどの比較的大きな街には通っているが、車両の通れない場所にあるヴァハや、ちょっと離れたところにある小さな町や村などには直接行かない。

 行きはセリオさんを運ぶために運搬車両を利用し、その護衛として乗せて貰ってたから気付かなかったけど、俺ってば帰りどうすんのか考えてなかったんだよ…馬鹿だろ!?


 結局プリーストリ村で一泊してから入念に準備して、馬車やなんかだと1時間かかる距離を魔物と戦いながら自力で歩き、6時間かけてメソタニホブに辿り着いた。

 ところがどっこい、今度はメクレン行きのシャトル・バスに問題が発生。以前にルーファスが解決した災難ほどではなかったものの、やっぱり魔物の襲撃で一時的に運行が止まっちまって、結局もう一日足止めを喰らうことになった。もうマジかよぉぉってなって、ああ…ホント、ツイてねえ。


 シルヴァンとメソタニホブで別れてからでさえ三日経ってんだぜ?…まさか、ルーファス達がもういねえ、なんてこと…ねえよな?


 んにゃ、たとえいなかったとしても、シルヴァンならきっと俺宛の伝言を残しといてくれてるはずだ!!

 俺は大急ぎで走ってREPOS(レポス)の受付カウンターに駆け込んだ。ところが、だ。


「ウェンリー様宛に、という伝言はなにもお預かりしていませんよ?…本当にお約束なさってたんですかい?」


 ガアーーーーン!!!…ガーンガーンガーン…


 宿のご主人がそう言った。うっそだろ…マジで置いてかれた…?頭を横からハンマーで殴られたような激音が何度も何度も木霊する。いや、まだだ…!!


「え、けどリカルドは部屋を借りたままなんですよね?いつ戻ってくるとか、どこへ行くとか言ってませんでしたか?」


 くそっ、なんか手がかり…ちらっとでもいいから、どこ行ったとかなにしてる、とか…なんか教えてくれよ、自分で追っかけるから!!


「うーん、言ってなかったねえ…なんでも近々ここを引き払うそうで、その時になったら早めに言ってくれるとは話してたけど…まあ、いつも通りギルドに行ってなにかの仕事を引き受けたみたいだから、そっちに聞けばわかるんじゃないかい?」

「!!」


 そっか、ギルド!!ギルドにも確か、民間人、守護者、冒険者からの制限なく守護者宛に伝言を残す仕組みがあったはずだ…!!

 もしかしたらシルヴァンはそっちに残してくれてんのかも…!!


「ありがとうございます!!あ、そうだ、リカルド達が帰って来たら、俺も同室に泊めて貰うんで、そん時はお願いします!」

「おお、はいよありがとうさん、気をつけてな、兄さん。」


 ギルド、ギルド、ギルド、ギルドっと!!!


 俺はREPOS(レポス)を飛び出してギルドに向かった。多分守秘義務があるから、窓口にルーファス…にゃ、この場合リカルドの野郎か?の仕事内容とか受けた依頼とかを聞いても教えて貰えねえだろう。

 リカルドやルーファスに知られねえようシルヴァンが伝言を残すんなら、確かに宿のご主人に託したんじゃばれちまうよな。だったら、きっとここだ。


 守護者フロアに行って窓口に聞くと、あった!!ありましたよ、シルヴァンから俺宛の手紙が、ちゃーんと!!やっほー、シルヴァン、大好きだぜ!!


 けど書かれてた内容を見て、予想の斜め上を行く事態に俺は焦った。


「はあ!?シルヴァンの守護者資格試験を兼ねて、アインツ博士の依頼を受けた!?…地下遺跡って、どこだよ…!!!」


 インフィランドゥマ…は入り口が塞がってたよな、他に地下遺跡なんてあったのか?追いかけようにも日付は一昨日…んないきなり出発ってことあんのかよ?…とりあえずアインツ博士のとこに行ってみっか、うん、それしかねえ。

 くるりと踵を返し、読んだ手紙をポケットに突っ込みながら階段を目指すと、前から来たデカブツにドシン、と頭からぶつかった。


「いでっ!!」


 あ、なんかこのデカさ…見覚えが――


「おう、痛えぞ赤毛の。…うん?おう、なんだ、ウェンリーじゃねえか!ガハハ、あの暗黒種騒動以来だなあ、あんときゃ稼がせて貰ったぜ、どうよ?元気にしてるか!?」

「お、おお!?フェルナンドじゃん、相変わらずデケえな、この前はあんがとな!おかげでルーファスも助かったって、喜んでたぜ!!」


 初対面の悪印象はどこへやら、ガシッと挨拶代わりに腕を組み合う。この豪快なおっさんが俺は気に入ってた。思った以上に気は良くて面倒見はいいし、Aランク級守護者なだけあって、やっぱり腕も確かだった。


「なあなあフェルナンド、俺、守護者になったんだぜ!!ほら見てくれよ!!」


 ぺか〜ん、と輝きを放つ守護者のIDカードを自慢げに見せる。どうよ!!


「ほう、やるな、資格を取ったばっかでもうCランク級に達してんのか、すげえじゃねえかウェンリー。」

〝今度俺らとも一緒に仕事しようぜ!〟と笑いながらフェルナンドが、バンバン俺の背中を叩いた。げほげほげっ、痛えよ、馬鹿力…

 けど嬉しくて、〝褒めてくれてあんがとな!!これでルーファスと一緒に俺も仕事が出来るぜ!!〟…素直にそう言ったら、このフェルナンドから意外な情報が手に入ったんだ。


「おう、ルーファスか。今朝リカルド・トライツィともう一人、屈強な身体付きの…そういやあの兄ちゃんも斑だが銀髪だったな、とにかくそのもう一人の奴と三人で、メク・ヴァレーアの森にあるヴァレーア・スパイダーの巣から地下遺跡に入るんだとか言ってたな。アンノウンクラスの依頼で大した金にもなんねえのに、考古学者の護衛を受けるなんざ、ホント酔狂な奴らだぜ。」


 ガハハハ、と笑うフェルナンドに「それ、本当か!?」と詰め寄る。

「おうよ、間違いねえぞ。」と答えてくれたこいつを『救いの神!!』と崇めたくなった。


 お、おまえって…なんていい奴!!!おまけに俺って、運良くねえか!?


 ありがとよ、んじゃあまたな!!と手を振って、俺は情報通りに真っ直ぐメク・ヴァレーアの森に向かった。


 一昨日手にした依頼の報酬と、ヒックスさんと折半したメソタ鉱山の報酬で買い揃えた道具や薬類は無限収納に入れてあるし、おっしゃ準備よし!!ルーファス達を追っかけるぜ!!


 …とその前に、ヴァレーア・スパイダーってどんな魔物だったっけ?えーと…


 二日前にリカルドから各ギルド支部に通達があって、それ以降魔物の脅威度ランクが悪化修正された。

 物凄い速さで新しい情報が収集され、次々魔物の最新情報が出現地域ごとに纏められて冊子が出されてる。

 もちろん、ここメク・ヴァレーアの森の情報も一番新しいものを貰ってきた。


「げっ…毒が猛毒になったのかよ。弱点が火属性?俺は魔法使えねえっつーの。まあでも魔法石を幾つかメソタ鉱山の報酬で貰ったから、試しに使ってみっかな。」


 書かれた呪文字の意味はわからねえけど、貰った魔法石は雷石(トール・ストーン)が三個と精炎石(イフリート・ストーン)が五個…それから氷柱石(ヴィルジナルストーン)が二個。

 魔法石は呪文字の意味を理解して魔法の発動を願うと込められた魔法効果が、道具として使うと魔法に付随する効果を相手に与えられる。…らしい。(だって使ったことねえんだもん)


 雷石は麻痺、精炎石は火傷と炎上、氷柱石は凍結、ってな具合に補助効果が出るみてえだ。

 まあこれは非常時に取っておくとして、毒消しもちゃんと持ってるな。


 脅威度ランクはBランクか…この間までCランクだったらしいのに、俺より格上かよ。やばけりゃ捕獲糸に掴まる前に、速攻で逃げるしかねえな。


 どーか、無事にルーファスに会えますように!!!


 誰に、とはなしに手を合わせて俺は祈る。よっしゃ、行くぜ〜!!



次回、仕上がり次第アップします。

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