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Eternity~銀髪の守護者ルーファス~  作者: カルダスレス


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27 地下遺跡インフィランドゥマ 突入

ようやく王都からメクレンまで戻ったルーファスの前に、またも暗黒種が姿を現します。研究所が狙われていると知り、アインツ博士達を助けようとしました。無事に再会したところで、リカルドの意外な話を聞くことに。驚いたルーファスは慌てて彼を探しに出ようとしますが…

     【 第二十七話 地下遺跡インフィランドゥマ 突入 】



「こ…こいつ、しゃべった…!?」

 青ざめた顔でウェンリーが呟く。

「ああ、キー・メダリオンをよこせ、と言ったな。…暗黒種は話せるのか…?」


 魔物が言葉を話すなど聞いたことがない。ああ、でも暗黒種は魔物じゃないってリカルドが言っていたような――


「なんでこんな化け物がキー・メダリオンを欲しがるんだよ…!?」

 ウェンリーの疑問は尤もだと思う。だが目の前のこいつに意思があるとも思えない。今の言葉も、ただ決められた台詞を繰り返しているだけのような感じがした。

「――とにかくさっさと倒すぞ、博士達を助けないと。」

「う…おう、んじゃ魔法頼むわ。」

「ウインド・スラスト。」


 ゴッ…


「…せいッ!!」


 シュルルッ…ガキンッ パアンッ…


 ――ウェンリーがスピナーで魔核を砕くと、ザアッという音を立て暗黒種は霧散した。


 まともな生き物には到底見えないが、言葉を話されるとそれだけで嫌な気分になる。理性もなく、意思疎通も出来ないのに言葉だけは話せるなんて、悪趣味極まりない。


「アインツ博士!トニィさん、クレンさん!!大丈夫ですか!?」

 俺達はすぐに鍵を開けて貰い、ドアを開け応接室の中に駆け込んだ。

「ル、ルーファスさあん…!!」

 半べそのトニィさんがしがみついて来たので、その背中をポンポンと叩きながら宥める。

「怪我はしていませんか?すべて魔物は倒しましたから、もう大丈夫です。」

「アインツ博士も大丈夫かよ?具合悪くなったりしてねえか?」

 ウェンリーがすぐにそばへと駆け寄り、気の抜けた様子の博士の手を取って支える。

「ふいぃ、なんとかの。さすがに寿命が縮まったぞい。まだ死ねんのじゃから勘弁して欲しいわ。」


「ウェンリー、悪いが表へ行って、完全に魔物がいなくなったことをフェルナンド達に伝えて来てくれないか?よく礼を言っておいて欲しい。」

「あいよ。」

 頷いてウェンリーが部屋を出て行った。


「――アインツ博士、今すぐに俺が渡したキー・メダリオンを返してください。どうやらあの暗黒種はそれを狙ってここを襲ったみたいなんです。」

「むう…」

 アインツ博士が渋い顔をする。

「やっぱりそうだったんですか、あの黒い化け物『キー・メダリオン』って、何度も言うんですよ。僕らその声にぞっとして…!!」

 そう言ったトニィさんの顔色はまだ青ざめたままだ。よほど怖かったんだろう。

「で、でもキー・メダリオンはまだ調べ終わってないですし…あれは僕らが長年探し続けてきた貴重なものなんですよ?せめてもう少しだけでも――」

 クレンさんが食い下がって来た。命の危険があるというのに、研究どころではないと思うんだが。


「だめです。命と研究、どちらが大事なんですか?それに危ないのは貴方達だけじゃない。今夜の出来事でかなりの数の守護者が亡くなりました。キー・メダリオンがここにあることで、メクレンの街にも被害が出てしまったんです。」

 さすがにこの俺の言葉を聞いて、アインツ博士も諦めてくれたらしい。

「仕方がないのう、キー・メダリオンはルーファス君に返すんじゃ。」

「うう…わ、わかりました。」

 クレンさんが鍵付きの保管庫からキー・メダリオンを取り出し、ようやく俺に返してくれた。俺はそれをすぐに無限収納に仕舞い込む。


「ところでルーファス君、リカルド君の姿が見えんようじゃが…おらんのかの?」

「リカルドは2、3日前からメクレンに戻っていないみたいなんです。ですから今日は俺だけですよ。」

「え…リカルドさんが戻っていない?」

 クレンさんの顔色が変わる。

「博士、まさか…」

「うむう…」

「リカルドの行方に、なにか心当たりがあるんですか?」


「そのお話は是非我々にもお聞かせいただきたい。」

 ウェンリーと一緒に入って来るなり、スカサハさんとセルストイさんがそう言った。

「この人達が話をしたいってさ。おいルーファス、リカルドの奴…本格的にやべえんじゃねえか?」


 スカサハさん達の話を聞くに、彼らはリカルドと個人的な繋がりのある人達らしく、理由はわからないが、日に何度か必ず連絡を取り合っているらしい。その連絡が今日でもう丸二日以上途絶えたままなのだそうだ。


「我々の調べでは、最後にこちらの研究所に立ち寄ったことが確認されております。あの方についてなにか御存知ならば、教えていただけませんか。」

 深刻な表情でスカサハさんがそう言った。

「心当たり、というか…もしかしたら、今度調査予定の遺跡に関係があるんじゃないかと思ったんです。」

 クレンさんがこちらを見て心配そうに口にした。

「確かにリカルド君は遺跡について簡単な話を聞きには来た。じゃがどこへ行くとは言っておらんかったんじゃがのう。」

「ですがリカルドさんなら、事前に下調べに行っても不思議はないんじゃないですか?今回は危険度が高そうだと心配していましたし。」

その言葉に俺は同意見だ。


 そうだ、それなら考えられる。依頼対象の周辺調査は守護者がよく行う準備の一つだ。リカルドは特に用心深い性格で、事前に一人で探索対象を見に行くことはこれまでにも度々あった。だが…――

「いや、だとしても単独で足を踏み入れたりはしないはずだ。未知の遺跡の危険性は俺より余程よくわかっている。それでもなにか理由があって戻って来ない…もしくは戻って来られないのだとしたら…――」

 

 ――想定外のことが起きた…?


 俺は漠然と感じていたあの胸騒ぎが、このことだったと気付いた瞬間、全身の血の気が音を立てて引いていくのを感じた。


 リカルド…!!


「アインツ博士、もう一度正確な遺跡の場所を教えてください!きっとあいつの身になにか起きたんだ…!!」

 俺は慌てて無限収納からヴァンヌ山の地図を取り出して広げた。

「え…お、おい、落ち着けってルーファス!今何時だと思ってんだよ!?真夜中だぞ…!!」

 そう言ってウェンリーが俺の右腕を掴んだが、時間なんて関係ない。

「真夜中でもなんでも、すぐに助けに向かわないと…いなくなって既に三日近く経っているんだぞ!?動けないような怪我でもしていたら、命取りになる…!!」

「いやそりゃそうだけど、けど…!!」

「ウェンリーさんの言う通りですよ、ルーファスさん!探しに行くにも、助けに行くにも、今すぐは無理です。きちんと準備をしてからでないと、二次被害を受けることになりかねません…!」

 クレンさんまでもが俺を落ち着かせようとそう言った。

「落ち着いてください、ルーファス様。夜が明けたらすぐに出られるように、先ずは準備をしましょう。我々も同行します、いざとなれば回復魔法も使えますし、転移魔法で移動も可能です。ですからどうかそれまでお待ちを。」

 確かにそれなりの準備は必要だ。リカルドに不測の事態が起きるような遺跡なら、どんな危険があるのかわからない。

「くっ…わ、わかった。」

 セルストイさんの説得に俺は仕方なく諦める。


 ――無事でいてくれ、リカルド…!!



 朝までに可能な限りの準備を整え、夜が明けたらすぐに遺跡に向かうと話し合ってからいったん解散する。ギルドに緊急討伐の完了報告もしなければならなかったのだが、それは後でも構わない。眠れるわけはないが、それでも身体を休めるために俺はウェンリーと一緒に宿の部屋へと戻った。


 横になっても寝付けずにいる俺の頭に、アテナが話し掛けてくる。


『ルーファス様…よろしいですか?一つ気になることがあります。』


 気になること?なんだ?


『――あの緑髪の二人は、おそらく普通の人間ではありません。“カオス”の者達と同等の異質な力を所持しています。』


 カオス…あの少年と?


『はい。それでも敵意を感じないので大丈夫かとは思いますが…どうかお気をお許しにならぬよう、ご注意ください。』


 ――わかった、一応気をつけるよ。


 普通の人間じゃない?あの二人が?…そんな人達とリカルドにどんな関係があるんだ?今考えてたところで、どうしようもないが――


 少し気にはなったが、今は後にすることにした。



 あくる朝、まんじりともしないまま数時間を過ごし、明るくなって来たのを確認すると、俺は食事もそこそこにウェンリーと宿を出る。

 念のために、ある程度の水と携帯食料を確保した上で、それを無限収納にしまい、スカサハさん達やアインツ博士達との待ち合わせ場所である、ヴァハ側の入口へと急いだ。


「おはよう、ルーファス。今日はやけに早いんだね、なにかあったのかい?」

 警備兵のノクトがいつものように俺を見て声を掛ける。

「ああ…おはようノクト、うん、少しな。」

「…深刻そうだね、大丈夫かい?なにか手伝えることがあったら、いつでも声をかけてくれよ。」

「ありがとう、助けが必要になったら頼むよ。」

 メクレンの門の前でそんな会話を交わしていると、すぐにスカサハさんとセルストイさんがアインツ博士達と一緒に足早にやって来た。

「お待たせしました、ルーファス様。こちらの準備も整いました。」

「スカサハさん…アインツ博士達も用意は大丈夫ですか?」

「大丈夫じゃ。」

 頷いてそう返事が返ってくる。

「んじゃ出発すっか。」


 総勢7人のグループにノクトが目を丸くしながらも、“気をつけてな!”と手を振ってくれる。

「――ルーファス様、我々のことはどうか呼び捨てに願います。リカルド様同様、必要とあらば如何様にもご命令くださって構いません。」

「え…?いやでも――」

「我々はリカルド様に付き従う者。リカルド様のパートナーであるルーファス様も同じく大切な御方です。今後はなにかとお目にかかる機会も増えるかと存じますので、何卒お見知りおきください。」

 そう言ってスカサハさんとセルストイさんの二人が頭を下げた。


 急にそんなことを言われても…と思ったが、今はリカルドのことが心配で正直それどころじゃない。


「おい、リカルドってホント、何者なワケ?」

 ウェンリーが二人をも訝しむ。

「俺にだってわからないよ。」

 今まで打ち明けられずに、話せないでいることは俺の方が多いだろうと思っていたけれど…どうやらリカルドの方にも、俺に話せないようなことが色々とあったみたいだな。

 だからと言って俺とリカルドの信頼関係が変わるわけじゃない。少なくとも…俺の方は、だ。


「アインツ博士、その遺跡の入口は、六合目の展望広場近くにあるんですね?」

「うむ、そうじゃが…ヴァハ側に抜けて出ては辿り着けん。ヴァンヌ自然洞の途中に隠し通路があっての、そこからメクレン側の裏手に出て少し行った崖の下にあるんじゃ。」

 歩きながら話を聞いて行く。

「ヴァンヌ自然洞の中?隠し通路って、んなもんあんのか?」

「普段気が付かないからこそ隠し通路なんだろう。」

 …とはいうものの、あの自然洞のどこにそんなものがあったんだろう。


 それは程なくしてすぐにわかる。


 ヴァンヌ自然洞にメクレン側から入って、緩やかな傾斜道を下りきったところに、知らなければ絶対にわからない、鍾乳石に擬態された隠しスイッチがあったのだ。

「うへ〜…マジか。こんなん、ぜってえ見つけられねえよ。」

 ポカンと口を開けるウェンリーの前で、トニィさんとクレンさんが鍾乳石のスイッチを押し込む。


 ゴトン、というなにか重いものが動いた音がして、ただの地面だと思っていた床の一部分がめり込んで動いた。

 そこは低く狭い隠し通路になっていて、階段を降りると人一人がやっと通れるくらいの幅と高さの緩やかな上り坂になっていた。

 そのまま俺が先頭を歩き、ちょこちょこと壁の隙間から現れる小スライムを倒しながら進んで行くと、すぐに草木に覆われた出口に辿り着いた。


 周囲は木と草に完全に覆われており、ヴァンヌ山のどの辺りなのかもよくわからない。辛うじて残る獣道に沿って進むと、やがて山肌が抉り取られたような崖下のぽっかり空いた空間に出た。


「ここにも隠しスイッチがあるんじゃ。」

 アインツ博士がひょいひょいと崖の方へ進んで行く。ここまで山道を登って来たのに、本当に元気だな。

「今度はどこだよ?」

 ウェンリーがキョロキョロと辺りを見回す。

「こっちです、ウェンリーさん。」

 トニィさんの案内でその場に行くと、ウェンリーが俺を呼んだ。

「おいルーファス来てみろよ。」

「どうした?」

「これ、つい最近岩を動かした跡がある。やっぱあいつここに来たのは間違いないんじゃねえか?」

 ウェンリーの言う通り、岩の後ろに押して動かしたような跡が地面に残っていた。

「結構重いんですけどねえ…まあリカルドさんならアーツという魔法で簡単に動かせたのかもしれませんね。」

 俺達が手を貸し、二人で足元の岩を押しずらす。


 ゴ、ゴンッ


 一定の位置までずらしたところで、どこか地面の下で音がしたと思ったら、僅かな震動と連続したゴトゴトという音の後でゆっくりと崖下の壁が動き始めた。


 ゴゴゴ…ゴゴゴゴ…ゴゴンッ


 ただの土壁だと思っていた場所が隠し扉になっていて、その中に十メートル四方の岩壁で作られた部屋が現れる。

「凄いな…外からじゃ、ここが隠し扉だなんてまったくわからなかった。古代の遺跡っていうのは、みんなこんなに厳重に隠されているものなのか?」

「いいえ、そんなことはありません。まあ、中には見つけにくいものもありますが、ここは特別なんですよ。」

 クレンさんの説明を聞きながら、俺達はぞろぞろと部屋の中に入っていく。

「通常遺跡というのはそこが以前何らかの形で、人々に使われていた建物であったり、その痕跡であったりして、崩れたり壊されていたりが原因で入るのに苦労することがあっても、ここのようにほとんど情報がなく、その存在が表に出て来ないようなものは稀です。

 フェリューテラを追われた獣人族(ハーフビースト)の隠れ里“イシリ・レコア”に通じる道かもしれない、ということ以外にも…ここにはなにかもっと重要な秘密が隠されている気がします。」

「秘密、ねえ…」

 ウェンリーが“そんなものあんのか?”という疑うような顔をしている。


 全員が部屋に入りきると、なにもしていないのに音を立てて背後の隠し扉が勝手に動きだした。

「扉が…!」

 驚いた俺達の後ろですぐに完全に閉まってしまう。

「ああ、大丈夫です、その扉を開けるには手順があって、僕らにはわかっていますから。」

「僕らにはって、リカルドは知ってたのかよ?」

 ウェンリーの鋭い突っこみが入った。

「もちろん教えましたよね?ねえ博士。」

「わしは話しとらんぞ。おまえさん達が説明してくれたんじゃなかったんか?」

「いえ、僕はなにも…それじゃトニィ、君が?」

「僕はあの日研究が忙しくてリカルドさんとほとんど話していませんけど。」

 その会話に俺達は絶句した。


「確か遺跡の中には転送陣で入る、って言ってたよな?」

「あ、ああ…。」

 研究所で聞いた説明ではそうらしかった。

「あのさあ…ってことはだぜ、リカルドは開け方を知らなくて四苦八苦しているうちに、なんか弄くって遺跡の中に飛ばされたんじゃねえのか?」

 ウェンリーの冷ややかなジト目が博士達を見る。

「い、いや、じゃがリカルド君はここに来るとは一言も――」

 “言っておらんかったんじゃよぉ”とその両の手の人差し指をもじもじと捏ねくりながら、気まずそうな声が小さくなって行く。

「大丈夫ですよ、責めてはいませんから。」

 スカサハとセルストイがにっこりと微笑んで博士を慰めていた。


 隠し扉が閉まり、外からの光が完全に遮断されているのに、この部屋は壁の発光石のおかげで室内が見えるようになっていた。その上、微かにどこからか空気の流れを感じる。一応窒息しないようにはなっているみたいだ。

 部屋の中央に視線を移すと、地面に埋め込まれ点々と顔を出す円柱型の岩があり、よく見るとそれらは一定の間隔に並んでいて、数を数えてみたら全部で十二個もあった。

 その岩と岩の間には細い溝が掘られていて、綺麗な円を描くように配置されていることから、これがおそらく転送陣なのだろう。


「博士、これが例の転送陣ですか?」

「そうじゃ。決まった順番で岩に触れると、仕掛け魔法が発動する仕組みになっておるらしい。」

「ルーファスさんこっちです。奥の壁を見てください。」

 俺はクレンさんと一緒にその壁の前に立つと、光る文字が浮かんでいる金属製のプレートを見た。触れると確かに金属みたいなのだが、パッと見た感じでは大きな駆動機器のモニターみたいだ。

「これは古代文字の碑文が刻まれたプレートです。解読は済んでいますので、資料を参考にして頂ければわかると思います。」

 俺は手渡されたその資料を参考に碑文を確認してみる。すると記載された文字とプレートの文字が一致していないことに気付いた。

「――このプレートの文字…資料と違うぞ?もしかしたら、プレートの方の碑文が変わっているんじゃないか?」


 俺の言葉に慌てた様子で博士達三人がすぐに確認を始める。

「そんな…!!ルーファスさんの指摘通りです、碑文が…プレートの碑文が変わっています!我々が書き写し、解読したものとはまるで違う…こんな…あり得ない!!」

 クレンさんの顔色が真っ青に変わった。


「ど、どうなっちまうんだ?」

「碑文の意味がわからなければ、転送陣の仕掛けはすぐに解けないでしょう。つまりは内部に入るのに時間がかかると言うことです。」

「プレートの文字はフェリューテラの古代言語です。これは我々でも読めません。」

「我々でもって…その言い方、微妙に気になるんだけど。あんたらなに者?」

 ウェンリーがスカサハ達を不審な目で見る。


「ぬう…いかんな、これはそう簡単に解読できるものじゃないわい。困ったの…」

「と、とにかく資料を…古代言語の!ど、どこだ…!?」

「お、落ち着けトニィ!!たしかここに…あれ?あれ?」

 慌てふためく博士達にこれはまずい、という雰囲気になりかけたところで、ウェンリーがルーファスに話しかけようと横を見た。

「なんかまずくねえ?助けに行く前に、入れるかどうかすら怪しくなって来…って、あれ?」


「――…の…より…」

 プレートを見るルーファスがなにやらブツブツと独り言を言っている。

「おいルーファス?」

 ウェンリーはルーファスの元へと近付いた。

「汝ら、白き御魂に呼応せし者ならば、穢れなき意思を以て我が身に触れよ。地に埋められし標は時と古国を示すものなり。正しき流れにて導かれん。」

「ルーファス…読めんのか!?」

 ルーファスのそばへと全員が駆け寄る。

「こりゃ驚いたわい、この難解な碑文をそらで読み解くとは…おまえさん古代文字が読めることを隠しておったのか?」

「いえ、そう言うわけじゃ…読めると言うより、意味がわかると言った方が正しいです。」

 実際、ルーファスの感覚的にはそれが最も近かった。アテナに頼れば古代文字も読めるのかもしれないが、彼女に頼るまでもなくなにが書いてあるのかは自然に理解できてしまったのだ。


「なんと…!」

「う、羨ましい…それはルーファスさんの魔法かスキルですか?」

 クレンさんが詰め寄る。

「え?いやスキルかもしれないけれど…わ、わからないです。」


 俺は永く生きているみたいだし、古代文字を読めても不思議はない。そう説明するわけにもいかないし、今はそれどころじゃない。


「それよりもこの“正しき流れ”の通りにそこの石柱に触れれば、転送陣が作動するはずです。碑文は俺が読みますから、仕掛けを早く解きましょう。」


 時と古国を示す、というこの石柱は、一つだけ目印の付いたものが北の方角と一致したことから、そこが十二時であるとも考えられた。

 碑文に書かれた文章は全部で七つのキーワードで示されている。その順番通りに触れて行けば良いはずだ。


 ――『若獅子を奉じる都』から見て『砕けぬ鉱石を生み出す地』に触れ、『外地へ通ずる門の場所』へ移動し、『海底に沈む都市』へと至る。そこから『災厄の眠る宮殿』に向かって『永遠に彷徨う深き森』に『今この時』開かれる扉。


 これは正に考古学者かなにかでなければ解けないキーワードだろう。


 簡単にどう言う意味かを並べていく。


 『若獅子を奉じる都』とはエヴァンニュの王都だ。初代国王を含め、王位に就いた人物を幾度となく“若獅子”と呼んできた過去があるからだ。

 次の『砕けぬ鉱石を生み出す地』とはメソタニホブにあるメソタ鉱山を示すと思われた。遠い昔にはオリハルコンという名の特殊な鉱石が産出された有名な場所でもあったらしい。

 そして『外地へ通ずる門の場所』はそのまま北にある国境の町レカンだと思う。あとの『海底に沈む都市』とは遙か昔にはあったというオルディスという名の街のことではないかと博士が言った。その街は西の海上にあったらしいが、海神の怒りに触れ海に沈んだのだそうだ。

 残る『災厄の眠る宮殿』、『永遠に彷徨う深き森』だが、後者はおそらくラビリンス・フォレストを差しているのだと思う。が、災厄の眠る宮殿というのがわからない。

 するとここでずっと黙っていたスカサハとセルストイが口を開く。


「災厄の眠る宮殿、とはおそらくこの七時の方角だと思います。これは我々の知る情報ですが遺跡都市ルクサールのことだろうと。詳しくは話せませんが、間違いないでしょう。」

「なんで詳しく話せないんだよ?」

 またウェンリーの突っこみが入る。

「その辺りは…どうかご容赦ください。」

 そう言ってスカサハが困ったような顔をした。


「よし、とりあえずこのキーワードを頼りにエヴァンニュの各街の場所と方角を合わせて触れて行ってみよう。スタートは王都…中心から見て東、メソタニホブの位置からだ。」

 話し合った順番の通りに石柱に触れて行く。すると触れた石柱が青い光を放ち始めた。石柱に触れる度に足元の光と鈍いブウンというなにかの音が大きくなって行く。

「最後は今の時間…午前十時だ。」

 そう言って十時を示す最後の石柱に触れる。


 ボウオォン


「!!」


 一瞬にして床の魔法陣から白い光が立ち上った、と思ったら、身体が浮き上がったような感じがして…俺は突然真っ暗な闇の中に飛ばされた。




 ゴッゴッゴ…


 入って来た時と同じように、入口の隠し扉が開いて行く。

「なんだよ今の感じ…ってあれ?場所変わってねえじゃんか。」

 ウェンリーが周りを見る。

「今確かに転送陣が光りましたよね?きちんと発動したように見えたんですが…」

「むう、おかしいのう。」

「ルーファス様…?」

 ハッとしてセルストイが顔を上げる。

「スカサハ!ルーファス様がおられないぞ!!」

「え…っ」

 その声にウェンリーがすぐに立ち上がり、ルーファスの姿を探す。

「ルーファス…?ルーファス!!おいどこ行ったんだよ…!!?」


 その場所から、なぜかルーファスの姿だけが消えていた。




「う…ん…?」

 顔に触れた、温かくもふもふしたものの感触で俺は目を覚ました。…はずなのだが、真っ暗でなにも見えない。


 ――なにか…頬に触れていたような…?


 ジャリッ


 手には冷たく硬い石のような感触に、散らばる土か砂のざらつき。どうやら俺は倒れて地面に横たわっているようだ。

 感覚的に気を失っていたのはものの数分だろうと思う。上の方向に手を伸ばすが、なににも触れず空を彷徨うだけだった。

 なにも見えないので、とりあえず慎重に身体を起こす。


 怪我とかはしていないみたいだな、でも――


「自己管理システムの画面が表示されない…?」

 いつもなら頭に現れるステータス画面と、簡易マップが見えない。


 アテナ!…アテナ?


 いくら呼びかけてもアテナの返事が返って来なかった。そこで異変に気付き、俺は愕然となる。アテナの存在どころか、自分の体内に魔力を一切感じなかったからだ。


 どうなっているんだ?


「――ウェンリー?アインツ博士、みんな…!どこにいるんだ?」

 ほんの少し闇に慣れたところで、一緒にいたはずのウェンリーと博士達の気配を探す。


「誰の気配もない…というか、感知スキルさえ使えない…!?」


 この場所は…まさか力封じの遺跡か…!!!


 ――そう呼ばれる特殊な遺跡があると、思い出せないほど随分前に…誰かから聞いたような覚えがある。

 魔法も、スキルも使えず、完全に自身の力だけで探索しなくてはならない、高難易度の古代遺跡だ。その内部にはトラップもかなり仕掛けられていて、隠し部屋や隠し扉、落とし穴やからくり壁など、とても一筋縄では攻略できない。


 ウェンリーは!?無事なのか?みんなはどこなんだ!!


 立ち上がろうと脇に手をついたそこに、さっき顔に触れたものと同じような温かく、もふもふしたなにかがいて、それがもぞりと動いた。


「うわっ!?」

 俺のそばに、なにかいる…!!


 驚いて身体を動かし手を床についた拍子に、カコン、とそこが沈み込み、なにかのスイッチを押してしまった。

「しまっ…」


 ポッポポポポッポッ…


 冷や汗を掻く俺の心配を余所に、どうやらそれは灯りを点すためのものだったらしく、壁に埋められた発光石が一斉に光り出して周囲が一気に明るくなった。


「発光石のスイッチだったのか…」

 ホッとした俺のすぐ横に、さっき手が触れた温かくて、もふもふしたものの正体がいた。

「お、まえは――」


 ファサッ、ファサッ、ファサッ、とそれは嬉しそうに、その長いフサフサした尻尾を振っている。


 そこにいたのは、あの銀色の大きな狼だった。


「はふっ!わうっ!!」

 その狼は俺の身体に頭をすり寄せ、嬉しそうに甘えてきた。

「ちょ…おい、押すなよ。重いって。」

 甘えられるまま、俺は思わず銀の狼を抱きしめる。

「銀色の狼…まさかこんなところで会うとはな。もしかしておまえ、倒れていた俺を守ってくれてたのか?」

「ばうっ!!」

 まるで犬のように返事をする狼に、思わず笑ってしまう。


 ウェンリーが犬みたいだと言っていたけど、本当だな。


「でもこの狼がどうしてこんなところに?…どこか外から出入りできる入口が他にもあるのかな。」

 立ち上がって周囲を見回す。


 俺がいたこの場所は、二メートル四方の行き止まりになっており、ここから前方に真っ直ぐと細い通路が延びているようだった。

 その途中途中にいくつかの扉があり、その先は暗くて見えにくいがT字路になっている。


「おまえ、ウェンリーを見なかったか?前に六合目であいつを引き止めてくれたんだろう?赤毛のエアスピナーを持った俺の親友だ。」

 本当に言葉が通じると思っていたわけではなかったが、試しに聞いてみることにした。するとこの狼はぶんぶんと2回、首を横に振ったのだ。

「え…」


 ――まさか本当に言葉がわかるのか?


「…おまえ、本当に俺の言葉がわかるのか?もしそうなら、一回だけ吠えてくれ。」

「ばうっ!」

「――…わかるんだな。」


 これは――


 これは本当にただの狼なのか?…そう思ったが、どちらにしろ言葉が通じるのなら有り難かった。なぜならこの狼は遺跡の中に詳しいかもしれないからだ。


 ウェンリーを見ていないのなら、転送陣で中に入れたのは俺だけだったのかもしれない。力封じの遺跡には資格のない者を最初から弾くような(ケース)もあると聞く。

 もし俺だけしか入れていないのなら、それならそれでリカルドの捜索だけに専念できる。


「ウェンリーは見ていないんだな?それじゃ、金色の長い髪をした背の高い、美男子を見なかったか?もしかしたらどこかで怪我をして、動けなくなっているかもしれないんだ。」


 俺の問いかけに銀の狼は、一瞬何事かを考えているような顔をして、その後で“ばうっ”と吠えた。


「見たのか…!!頼む、俺は彼を探してここに来たんだ、どこかで見かけたのなら、そこへ案内してくれないか!?」


「わうっ!」


 銀色の狼は俺の前に進み出ると振り返り、任せろ、とでも言うようにそう一声吠えたのだった。


 

銀の狼の協力で無事にリカルドを助け出せるのでしょうか?次回、仕上がり次第アップします。皆様、良いお年を!

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