270 現実世界<ラ・フェリューテラ>
並行世界の消滅後、無事にルーファスにとっての『現実世界』へ戻ったルーファスですが…
【 第二百七十話 現実世界 】
――ウェンリー…もしもおまえが、俺のしたことを知ったなら…どう思うだろう。
俺の選択で俺の分身であるゲデヒトニスが、死の呪いに苦しむおまえの命を奪い…俺の代わりに滅ぼす者となって並行世界のフェリューテラを消滅させた。
俺の時間軸にするとほんの数時間前までは確かに存在していたのに、そこに生きる数多の命たち諸共、完全に消え失せたのだ。
その事実は世界の記憶に刻まれることはなく、『並行』して別に『在る』ことすら許されない“完全なる無”へと帰す…
それは生命が生きて行く道程で、常に選択を繰り返しながらいつか来る終焉に向かうのと同義だったが、俺の選択を正しいと言えるのは後にも先にも俺だけであり、俺が覚えている限り永遠に消えることはない真実となる。
俺にとっての現実世界は初めからこの世界のみであることに間違いはないが、選ばなかった並行世界もまた、僅かな時間だけ存在した〝現実〟だった。
俺はもう、おまえの目を真っ直ぐに見て笑えないかもしれない。この先何度もあの光景が頭を過り、傍にいることが苦しくなっておまえの前から姿を消してしまいたくなるかもしれない。
だがこれは俺が選んだ答えの代償だ。
誰にも理解されなくて構わない。恨まれても憎まれても、俺はこれからも『救世主』ではなく、自分の望む未来のためだけに生きて行く、『守護者』であり続けるだろうから――
<メル・ルーク王国マロンプレイス/ファーガス診療所>
――目を開けると、俺は見覚えのある病室の寝台上に横たわっていて、白いラプロビスの天井が見えた。
ここは風守りの集落『ヴェントゥス』で起きた並行世界の出来事から、逆転の鍵<リヴァーサル・クレイス>による遡りを経た三ヶ月ほど前の時間軸に当たる。
俺は戻って来たんだ…俺にとっての『現実世界』に。
正確にはもう少し前に戻って来てはいたのだが、俺の一部は『霊力』の状態で拡散していて、全てレインの身体へ戻るのに若干の時間差があった。
――随分と長い夢を見ていたような気分だ。…当たり前か、ここからヴェントゥスまでの旅路を遡って戻ったんだからな。
顔を動かす前に再度目を閉じて手足の指先に意識を集中すると、身体の隅々にまで流れる魔力とは異なる強い力を感じられた。
ああ、これが『神力』か。…レインの言っていたことは本当だったんだな。
並行世界で知らずに彼を喰らい、自己管理システムから使用可能になったという通知を受けた…無限界の力。
だが今この身体の中には、レインの砕け散った魂である一部の『欠片』と、それを核にした『疑似魂』は元通りに〝存在〟している。
つまりレインを〝喰らった〟からエーテルを使えるようになったわけではなく、あれは覚醒する切っ掛けとなっただけであり、元から俺はこの力を使うことができたと言うことだ。
このことは後でじっくり考えるとして…レインを元に戻せたのは、ラケシスとアテナ、そしてラファイエが協力してくれたおかげだ。
たとえあの場で自分の器を取り戻し〝本来の俺〟に戻れていたとしても、レインを喰らった後の俺がただ過去へ戻っただけでは変えられなかった。
最初から彼女らが俺の選ぶ道をわかっていたかはともかくとして、これは飽くまでも『逆転の鍵<リヴァーサル・クレイス>』を使うことができたからこそ成し得たことなんだ。
代償としてとても重い罪を背負うことにはなったが、これでレインの欠片さえ集まれば…次はきっとお互い本当の姿で会うことができるだろう。
俺のたった一人の家族――双子の兄さんである〝レインフォルス〟に。
「――目が覚めたようだね…お帰り、ルーファス。」
その声に顔を向けると、壁際の椅子に腰かけて静かに微笑むゲデヒトニスが俺を見ていた。
「…ああ、おまえもな。」
俺も彼を見て複雑な思いを抱えながら目を細め、ゆっくりと上体を起こした。
現在はシエナ遺跡でのイスマイル解放後、戻った膨大な魔力の負荷にレインの身体が耐えられず、その反動で俺が意識を失っていた時期だ。
「僕らの間に生じていた問題は解決し、記憶の同期も出来るようになったね。…あれ?これは――どこかでライに会ったのかい?」
記憶の同期で俺の意識が拡散していた間の出来事を見たゲデヒトニスは、淡々と尋ねる。
それに俺は答えを肯定する意味で、一度だけ長く目を伏せた。
「…そう。」
「ゲデヒトニス…一つ聞きたい。あれは一体なんなんだ?」
俺がゲデヒトニスに尋ねたのは、俺の知らない(思い出せない)部分にあった、並行世界を消滅させる滅ぼす者のことだ。
「――殲滅の番人『アバドン』のことだね。世界の記憶では破壊者、とか殲滅者とも呼ばれている。」
「アバドン…」
「心配しなくても君は大丈夫だ。…あれに変わるのは分身である〝僕〟の役目だからね。」
「え?」
どういう意味だ…?
「ゲデヒトニス…おまえもファエキスと同じく、なんらかの理由で俺の記憶の一部を封印しているのか?」
以前から思っていた。俺達は離れている間に経験した出来事を『同期』という形で互いに自分のこととして共有することができる。
だが俺は俺の意思でゲデヒトニスに伝える記憶を〝限定〟することが可能であり、もしかしたら分身であるゲデヒトニスにも同じことができるんじゃないかと。
そうでなければ幾つか説明の付かないことがあったからだ。
ゲデヒトニスは俺の問いを肯定するようにただ黙って微笑む。それはファエキス同様事前に俺が〝そう〟と決めてやらせていることであり、分身であるゲデヒトニスの意思ではないことを暗に伝えていた。
俺は〝自分〟という存在の不可解さに、長く深い溜息を吐く。
「――時々思うよ。もしかしたら俺も『ルーファス』の分身なんじゃないかって。…だってそうだろう?俺は俺自身のことがあまりにもわからなくなってしまうんだから。」
少年の顔で困ったように目を細めると、ゲデヒトニスは首を振る。
「なにを言うのかと思えば…それは絶対にない。僕らの元である主体は間違いなく君だよ。君がどんなに自分のことがわからなくても、それでも君が本物の『ルーファス』だ。」
「………」
俺が本物のルーファス、か…
「悩む必要のないことで不安に駆られている暇はないよ。それより逆転の鍵<リヴァーサル・クレイス>はもう使えない。過去へ戻ってもあの世界は完全に消滅しているから二度と同じ方法は取れないんだ、覚悟しないと。今後のためにまだ見つかっていない他の鍵をできるだけ探し出しておいた方がいい。」
「はあ…そうだな。…差し当たっては俺が一度目にした『救済の鍵<サルバシオン・マフテアフ>』からだ。あの鍵は最も重要なのに、なぜか半分に分かれていた。どこにあるのか早めに見つけて修復しなければならない。」
「…ルーファス、あの鍵は――」
ガチャッ
ゲデヒトニスが言いかけたところで病室の扉が開くと、俺は自分でも意図せず心臓がドクンと波打ち、身体がビクッと大きく揺れた。
これは音に驚いたわけでも、扉がノックなしに開いた所為でもない。精神的な面から来る自然な反応だった。
「予の君…?お気がつかれたのか…!!」
「リヴ…」
俺を見た瞬間にパアッと表情を明るくして、その次には一月もの間心配をかけたことで瞳をウルウルさせたリヴは、慌てて踵を返し扉を開け放したまま廊下へ逆戻りする。
「す、すぐにファーガス医師殿をお呼びし、シル達にも知らせまする…!!」
「あっ、おい…!!」
今の一瞬…入って来たのがウェンリーかと思ってドキリとした。会うのは少し怖いが、俺が変な態度を取ればあいつはなにかあるとすぐに気づくだろう。
気をつけないと…
「――リヴ達に消滅並行世界の記憶は残っていないんだよな?」
「うん。ただ極僅かに〝既視感〟として断片的に思い出すことはあると思う。」
「…文字通り〝既に視たような感覚〟として、か?」
「そうだね。世界の記憶は流れゆく時間の記憶によって『世の全て』を刻んでいるけど、人の場合は自分に関することだけを魂の霊力に事細かく記憶している分、残滓も残り易いんだ。大概は本人が強く後悔したことや、もう一度やり直したいと望んだことに繋がる一つの『分岐点』へ差し掛かる直前なんかに甦るみたいだけど…全く関係のない日常的な部分でふと感じることもあるらしいね。」
「――でもそれが辿らなかった〝並行世界での自分〟や、既に消滅した世界の〝消えた自分〟の記憶による断片であることには気付かない。いや…たとえ気付いたとしても想像の域を出ることは不可能で、誰にもそれを確かめることはできない、と言った方が正しいのか。」
「うん…それが〝理〟だからね。」
『時翔人』である俺は、その〝理〟からなにもかもが外れた存在だ。レインが言ったように俺達が双子でフェリューテラに生を受けたのなら、俺はいつ、なんの理由でこうなったのか…そのことはまだ思い出せていなかった。
もしかしたらそのことだけは永遠に思い出せないかもしれない。…そんな気がした。
――並行世界同様にシエナ遺跡での『神魂の宝珠』封印解除後、一月ほどの入院生活を終えてファーガス診療所から退院した俺は、マロンプレイスの宿に借りている一室で仲間全員と集まり、先ずはゲデヒトニスについての説明をする。
この時点で俺が目を覚ます前から、既にみんなに受け入れられていたゲデヒトニスは、表面上はウェンリーに対しても俺より遥かに落ち着いた態度で接しているように見えた。
その後は俺の身体の不調に関して話し合いをし、既にわかっていることを敢えて知らない振りをして、できるだけ以前と同じ過程を辿るように意識して努める。
俺はいっそのこと消滅並行世界での記憶を一定期間封印しようかとも考えたのだが、あちらの世界で起きた〝本来の現実世界では起こり得ないこと〟を確実に回避するために、敢えて全て覚えたままにしておくことを決めていた。
問題は俺が壊滅的に嘘を吐くのが下手だということだけだが、それもその内に慣れてなんとかなるだろう、ととりあえず楽観的に思うようにする。
そうして俺自身の感情や罪の意識、同じことをもう一度繰り返さなければならないという不自然さをどうにか取り繕いながら、『レインフォルスを呼び出して話を聞いてみる』という、サイードの提案を受けたところまではなんの問題もなく進んでいた。
ところがこの後、明確に並行世界とは異なる事態が起こる。
「――レインフォルスが呼び出しに応じてくれなかった…?」
「…ええ。」
それはレインと表層意識の交替を試みたものの、俺がサイードの催眠魔法による深い眠りから目覚めてみれば〝失敗〟に終わった、という予想外の結末だった。
サイードは驚く俺に困惑顔で続ける。
「理論的にはこれで上手く行くと思っていたのですが…やはりウェンリーの懸念通り、あなたになんらかの危険が迫らないと彼は出て来てくれないのかもしれませんね。」
「いや、そんなはずは…」
ない、と言いかけて俺は口を噤む。
並行世界ではサイードのこの提案によりレインフォルスが表面化し、俺に身体の問題を解決するためには次の神魂の宝珠の封印を解く前に亡国ラ・カーナへ行って、クラーウィス・カーテルノという名の人物を探すように告げた。
だから俺は自然にその流れを辿るようサイードの提案を受け入れ、同じようにレインの口から亡国ラ・カーナを目指す方向へ誘導して貰おうと思っていた。
でなければそこへ行く理由もクラーウィス君のことも、未来を知らないはずの俺からみんなに伝えることはできないからだ。
それなのに肝心のレインが出て来てくれないとは思わなかった。
どうなっているんだ…まさかレインが俺と交替するのを拒んだ?…いや、それこそあり得ないな。
消滅並行世界での記憶が残っているのならまだしも、レインは俺の定めた『裁定者<アジュディケイター>』という役割上、一切なにも覚えていないだろう。
だとしたら他には深淵で眠るレインの身に、なにか表に出て来られなくなるような異変が起きている可能性が高い。
もしそうなら少し不味いことになる…
風守りの集落『ヴェントゥス』で、クラーウィス君の中にある俺の器の保管場所へ行くには、恐らくレイン固有の特殊能力『邪眼』が必要不可欠なはずだ。
でなければレインがクラーウィス君を見つけたら呼び出せ、などというはずはないし、千年前でも俺ならきっと彼に生きる理由を課すため、『レインでなければならない』という、他の誰にも代わりのできない条件を指定するだろう。
――どうする…みんなにどう伝える?今の時点でレインと面識があるのはウェンリーとシルヴァンだけで、前回は俺でさえまだレインについて良く知らない状態にあった。
それなのにここで俺が知るはずのない情報を口にし、挙げ句下手に余計なことを言えば簡単に襤褸が出てしまうに決まっている。
ラ・カーナ行きのことはともかくとして、せめてなにが起きているのかの状況だけでも調べたい…レイン自身の意思で応じなかったのなら左程問題はないが、それ以外の理由からなら多分かなり深刻なはずだ。
俺はレインのことが心配のあまり、一時周りにいる仲間のことすら忘れるほど黙して考え込んでいた。
当然ウェンリーを始めシルヴァン達は、俺のただならぬ様子を敏感に感じ取りほどなく心配し始める。
「この試みが上手く行かなかっただけで、なにをそんなに考え込んでいるのだ。あなたがそれほどまでに深刻になるようなことか?ルーファス。」
「シルヴァンの言う通りだぜ。大体にしておまえ1002年の時だって、あいつのしたことに驚いて青い顔してたじゃんか。なのになんでンな仲間の消息がわからねえみたいに悩んでんだよ?」
「シルヴァン、ウェンリー…」
この時の俺には二人の言葉にレインの存在を軽んじているような節が見えてしまい、思いがけず酷く不快に感じていた。
シルヴァンもウェンリーもレインが俺の双子の兄だとは知らないのだから無理もないが、それでも俺は無意識に眉間に皺を寄せ、一瞬で不機嫌な顔になっていたらしい。
なぜなら、シルヴァンとウェンリ-が俺の顔を見て、二人同時にビクッと身体を揺らしたからだ。
「…どうやらシルヴァンティスもウェンリーも、あまりレインフォルスのことを良く思っていないようですね。話によると徹底的に相手を殲滅したことが原因のようですが、これまでルーファスの窮地を度々救ってくれたことを思えば、寧ろなぜ応じてくれなかったのかと心配して当然なのではないですか?」
サイードはまるで俺の気持ちを代弁するかのように言ってくれるも、そのサイードに対しシルヴァンは、はあ、と深い溜息を吐いて腕組みをする。
「…そなたは実際にあの禍々しき力を目にしておらぬからそう言えるのだ。」
「そうだぜ、サイード。あんま言いたかねえけどさ、あいつは巨大な眼を呼び出すだけで同士討ちさせたり、気を狂わせて自ら自殺するように仕向けたりすんだ。あン時だってそうだ…いくら敵だとしても、あんな残酷な死なせ方までする必要はねえだろ?俺らの目の前で死にたくねえって叫びながら、自分の剣で自分の首を切り落とした奴だっていたんだぜ。」
「ま、まあ…なんて惨い…!それは本当ですの?ウェンリー。」
ウェンリーがレインの力について生々しい証言をしたことで、イシーはゾッとし真っ青に顔色を変えてしまい、リヴも瞬時にその表情が険しくなる。
「予もそこまで具体的には聞いておらぬぞ、シル。」
「わざわざ気分の悪くなる話をする必要はないであろう。――だが我もあの力はまともではないと思っている。レインフォルス本人があのような残虐行為を好むとまでは言わぬがな。」
「………」
俺はこの後も続くシルヴァン達の話を、ただ黙って聞いていた。
二人はみんなに代わる代わるレインについて質問を受けるが、都度大袈裟に話すわけでも悪意を持って悪し様に言うわけでもなく、見たままの事実をありのままに話している。
なのに俺はそうとわかっていても、いっそのことレインとの関係を打ち明け、彼は俺の兄さんだからそれ以上疑わないで欲しいと言いたい気分になった。
――以前はレインが呼び出しに応じてくれて、無愛想ながらも実際に落ち着いて話すことができたせいか、シルヴァンもウェンリーも俺の前ではここまであからさまに警戒するようなことを口にしていなかった。
せめて俺が邪眼について詳しければなにか言いようもあるが、俺はまだレインの力について良く知らず(これも思い出せないだけかもしれないが)、もどかしく思っても庇うことすらできない。
それにもし詳しく知っていたところで、あれほど悲惨な遺体を見た後ではみんなの懸念を完全に拭えたかは疑問だった。
「その御方の力は、闇属性や暗黒属性、冥属性が主なんでしたっけ?こう言っちゃなんですが、その三属性魔法は元から結構エグいのが多いっすよね。」
「ぶー!喧嘩売ってんのか、こら。テルツォはその三属性が得意なんだけど?エグいとか言うな、馬鹿テロン。」
「ンなっ…!!」
「二人とも黙って。」
「…うぃーす。」「…はーい。」
いつもならプロートン達三姉弟妹のそんなやり取りで場も和むところだが、今は俺が終始無言でいるために、室内の空気は恐ろしいほど気まずくなっている。
そんな空気を変えるためか、将又他の理由からなのか、インフィニティアの存在であるサイードから意外な話題が飛び出した。
「――確か『邪眼』、でしたね…その〝邪眼〟と聞くと私は、古代期のフェリューテラに実在したと言われる、伝説の邪龍マレフィクスを思い出します。」
「あー!それってウルルさん達黒鳥族の話に出てくる?」
「そうだね。良く覚えてるね、ウェンリー。」
興味深げに身を乗り出したウェンリーにゲデヒトニスが頷き、それとなく自尊心を刺激する。
サイードがなにを話すつもりなのかはわからないが、ゲデヒトニスは途中でウェンリーに話の腰を折らせないために、邪龍の瞳から生まれたという黒鳥族の話からは気を逸らせるつもりのようだ。
「そりゃあな。前にアテナとノクス=アステールでちょっと勉強したからだよ。」
上手く乗せられたウェンリーは、鼻の頭を擦りながらドヤ顔をしている。
「へえ、そうだったんだ…知らなかった。」
「そりゃゲデは知らねえだろ。…って、あれ??ゲデは分身で…ルーファスが知ってれば知ってるはずなのか。…ってか、ややこしいな、オイ!!」
「サイード、古代期と言うがそれはどの程度昔の話だ?ウルルは邪龍について尋ねても全くと言って良いほど話したがらぬのでな。我はあまり詳しく知らぬのだ。」
ウェンリーとゲデヒトニスのやり取りに構わず、シルヴァンはサイードの話がなんの脈絡もないものとは思っていない様子で問いかけた。
「ああ…そう言えば影の一族である黒鳥族は邪龍の瞳から生まれたと言われているのでしたね。」
「うむ。恐らくそれは真実であろうが、我の生まれる相当遥か以前の話のようなのだ。」
「そうでしょうね。私はインフィニティアの生まれなのでこの話がどこまで正確かはわかりませんが、フェリューテラの時間軸で言うと最低でも二千年以上は前の話だそうです。以前のオルファランが現在も健在であれば、私の家に関連する書籍も残されていたでしょうが…お館様が城ごと姿を消した際に、それらの希少本も全て持って行かれてしまいました。」
「ふむ…つまりサイードはその書籍から情報を得たのか。」
「ええ。」
――シルヴァン達にこれを話したことはまだないが、インフィニティアでこのフェリューテラは『神の箱庭<イティ・ガルテン>』と呼ばれているらしい。
そんなフェリューテラの逸話が、なぜあのオルファランで本になどなっているのか…
俺はふとサイードの話に小さな違和感を抱いた。そしてそれはイシーも同じなようだった。
「あの…サイード様、インフィニティアとはフェリューテラから見て互いに異世界に当たるのでしょう?サイード様とルー様がここにいる皆と行き来された際は、時間と空間を超えるために時空転移魔法が必要だったと伺いました。」
「ええ、そうですよ、イシー。」
「そんな時間軸の異なるインフィニティアで、古代期のフェリューテラに関する伝説が書籍として残されていることなどあるのですか?」
「それはどういう意味の質問なんだい?イシー。」
「ゲデちゃん…いえ、わたくしサイード様の仰る『伝説』という言葉を少し不思議に思いまして。もしもわたくしが異世界に関する重要な書籍を記すとするのなら、伝説ではなく現実で見聞きしたことを残すと思いますわ。ですからサイード様は『伝説』と仰いましたけれど、その書籍は『史実書』か『紀行文』のような類いではなかったのかと疑問に思いましたの。」
「ふふ、鋭いですね。――あなたの想像通りですよ。オルファランで私の見た書籍は、実在した邪龍についてのものでしたから。」
ウェンリーを含めウルルさんという友人のいるシルヴァンすらも、どこかこの話にピンと来ていない様子だったが、黒鳥族が現実に存在しているのだから、それは改めてサイードが言うまでもない事実だろう。
ただサイードがこのタイミングで、何故その話をするのかがわからなかった。
「しかしそれとレインフォルスの固有能力である『邪眼』に今なんの関係がある?」
「あ、俺もそれが聞きたかった!」
俺もシルヴァン達の意見に同意だ。サイードはなにを考えて…?
「先ずは私の話を聞いてください。」
サイードはにこっと微笑んで続ける。
「オルファランにあった書籍には、フェリューテラに出現した邪龍マレフィクスの誕生から消滅に至るまでの詳細な史実が記されていました。ここでは誕生に関してを省きますが、邪龍は『暗黒竜』や『漆黒竜』などとも記されており、遥か太古の時代から幾度倒されても復活を繰り返す存在でもあったようです。」
――その邪龍は左眼に過去や未来までもを見通せる『千里眼』を持ち、右眼に『憎悪と怨恨を伴う邪悪な力』と『人智の及ばぬ特殊な力』を持っていた。
しかし邪龍の真の力はその殆どが右眼のみに集中しており、そこを深く傷つけられればその傷が完全に癒えるまでの間は力を失って、一定期間眠りにつくことが広く知られていたそうだ。
そこで古代期のフェリューテラに住む人間(この場合は全ての種族)達は、飛び抜けて能力の優れた者を世界中から探し出して集め、束の間の平穏のために邪龍討伐へ向かわせていた。
先ずその一行を率いるリーダーとして、武力に優れ、光神より賜りし聖剣『デュランダル』に選ばれた心正しき者を“勇者”とし、清き心と慈愛に溢れ光の大精霊による祝福を受けた女性を“聖女”、その聖女が選んだ伴侶を“聖騎士”と定め、他にそれぞれその時代に合った猛者と魔法士が協力して戦いに挑んだ。
「そんな歴史が何百年と続いた後に、フェリューテラに奇蹟が訪れます。真に求めるは束の間の平穏でなく、全人類存続のため恒久たる安寧を望む〝真の勇者〟が現れたからです。」
その勇者の名を『クアドルガ』、聖女の名を『アミッド』、その伴侶たる聖騎士を『ユスティディア』と言う。
他に弓使いと剣豪、賢者に魔法士と言った総勢七名の顔触れにより、想像を絶する死闘の末遂に邪龍マレフィクスは倒される。
「ところが邪龍は今際の際に呪いの言葉を吐き、我が邪眼ある限りフェリューテラの滅びは永遠に免れぬ、と恐ろしい言葉を言い残します。完全に息絶えた邪龍の死骸を前にして滅びが現実となるを怖れた勇者達は、急いで死骸から邪龍の右眼を取り出し、有りと有らゆる方法でその力を封印しようと試みました。」
けれども邪龍の勇者に対する憎悪と怨恨は果てしなく深く、当時の聖女と聖騎士の力を以てしてもどこにも封印することは叶わなかった。
そこで勇者クアドルガは邪龍の真の力である右眼を、『憎悪と怨恨を伴う邪悪な力』と『人智の及ばぬ特殊な力』との二つに分断し、勇者の仲間であった賢者の協力で『邪悪な力』の方だけを誰にも知られない場所に閉じ込めることにした。
そうして後は『特殊な力』だけが残されたが、その力は賢者によって一羽の大きな黒い鳥に変化し、その鳥は二度と邪龍の元へは戻らないと誓って大空に飛び立って行ったと言う。
「それ!!その黒い鳥ってのがウルルさん達黒鳥族のことだ!!」
「喧しいわ、ウェンリー!まだ話の途中ぞ!!」
「…子供か。」
全員がサイードの話に聞き入っている中、ゲデヒトニスの機転も虚しくウェンリーに口を挟まれ、リヴは怒りシルヴァンは呆れる。
「あ、ごめん、つい…」
「続きをお願い致しますわ、サイード様。」
「ええ。二つに分断された邪龍の『右眼』ですが、『邪悪な力』の方はどこに閉じ込めたのか当時の誰にも知らされませんでした。――それもそのはずで、恐ろしいほどに強力で膨大なその力は、人が考え得る場所ではやがて再び復活してしまうのではという不安が到底拭えなかったからでした。ならば後は絶対に誰にも取り出すことのできない場所へ隠すしか方法はありません。そして勇者は邪龍の恨みが最後に止めを刺した自分に向いていることを理由に大きな決断をして、自らの体内へそれを封印することにしたそうです。」
「人の体内へ…ですか!?」
「そんなことできんのかよ?」
「〝できるできない〟ではなく、試行錯誤を重ねた上で必死に〝成した〟のでしょうね。そして邪悪な力は勇者の中へ封じられたまま、勇者の死と共に霧散していつかは完全に消滅するはずだったのでしょう。」
普段ならここで俺が補足するところだが、今日はその役目をゲデヒトニスがしてくれる。
「通常肉体に宿る力は、それがどんな形であれど肉体が滅びれば消滅するしかなく、永遠に留まり続けることは不可能だ。…勇者はそれを見越して自分の体内へ封じることにしたんだね。」
「その通りです。――ですがその願いも虚しく、邪龍の力は勇者の子供へ宿り、やがて血族を通じて寄り集まると少しずつ力を取り戻して行きます。そして不幸なことに、それは何百年もの時を経た後になって色濃く子孫へと受け継がれてしまった。私はそれこそがレインフォルスの『邪眼』だと思っているのです。」
「「「「「「「「「「!!?」」」」」」」」」
え――
「なんの関連があるのかと思えば…つまりレインフォルスは、邪龍を倒した勇者クアドルガの血を引く子孫だと言うことか?」
「その可能性は非常に高いと思います。――ただ残念ながらレインフォルスの出生と正確な血統がわからない限り、それを確かめる方法はないでしょうね。」
「信じらんねえ…あいつが勇者の子孫?…マジかよ。」
「飽くまでも私の見解ですよ、ウェンリー。もしかしたら徹底的に探せば、このフェリューテラにもどこかにそれに関する記録が残っているかもしれませんけれどね。」
――まあ要するに、と前置きしてサイードは俺を一瞥する。
「私が言いたいのは、わけ知らずして人を疑うべきではないと言うことです。治癒魔法も使い手によって稀に人を害すことがあるように、邪悪だと言われるような恐ろしい力も全ては使い手次第でしょう?レインフォルスの邪眼がどれほど残酷に人の命を奪っていたとしても、少なくとも彼はその力をルーファスのためにしか使っていません。その事実を蔑ろにするのはあんまりではないかしら。」
サイードが誰よりもどかしく思っていた俺にできなかったことをして、ウェンリーやシルヴァンの心に一石を投じる。
俺はそんな彼女の姿を見ていて複雑な思いを感じていた。
「――確かにサイードの言う通りだな。七聖としてある程度の警戒は必要だが、疑うほどのことをされたわけではないのに我が少々狭量であったようだ。」
「はあ…シルヴァンがそう言うんなら俺もこれ以上は言わねえよ。あいつを信用するかどうかはまた別の話だけどな。」
「それで良いのですよ、ウェンリー。」
「……サイードは…」
「はい?」
俺が声を掛けると、サイードはこちらを見ていつものように微笑む。
「なんでしょう?ルーファス。」
「…サイードは一度も会ったことがない相手を、どうして庇えるんだ?邪眼の話もシルヴァンとウェンリーから聞いただけだろう?レインフォルスの為人を良く知らなければ、イシーやリヴのような反応が普通だと思う。――それともサイードにはレインフォルスとの面識があるのかな。」
サイード以外のみんなはこの質問の意図がわからずに不思議そうな顔をしているが、ゲデヒトニスだけは黙って静かに目を伏せる。
俺はサイードが答えてくれるまで、祈るような思いで彼女の目をじっと見つめた。
「簡単なことですよ、ルーファス。」
「…え?」
「シルヴァンティスとウェンリーのレインフォルスに対する言葉を聞いて、あからさまにあなたが顔を顰めたからです。」
続けて彼女は俺がレインの心配をしているのに、シルヴァン達がそれを軽んじるようなことを言ったから不快に思ったのでは、と俺の胸の内を言い当てるように語る。
「意識を失っている間に動かれていても、当のあなたは信用している節が見えたので、私も同じように信じたのです。…間違っていましたか?」
「――いや…」
そう来たか…
『…彼女はまだなにも話してくれる気はないみたいだね。』
頭にゲデヒトニスからの思念伝達が響く。俺はサイードにそれ以上なにも問わず、ゲデヒトニスには〝そうらしいな〟、と一言だけ同じように返した。
♦
「――…い!…おい、起きろ!!ライ・ラムサス!!!」
身体をゆさゆさと揺さぶられ、至近距離で聞こえて来たその切羽詰まった声に、ライはガバッと飛び起きた。
真っ先に目に入ったのは、ライが気がついたことでホッと安堵の表情を浮かべるフォション・ボルドーの顔だった。
フォションは脱力したように地べたに腰を下ろすと、まだ呆然としているライに苦笑いを浮かべながら話しかけて来る。
「叩いても揺すっても中々目を覚まさねえから焦ったぜ。あの恐ろしい場所から俺だけ戻って来られたのかと思って心配になっちまった。ハハ…」
そんなフォションに返事もしないまま、ライは一心不乱にきょろきょろと辺りを見回す。すると自分とフォションがいるのは、見覚えのない一室だった。
部屋の造りはエヴァンニュ王国で言うところの一般民家のようで、特徴の無い木製の寝台が二つにありふれた家具が置かれ、木床には円形のラグが敷かれている。
それを見てライが思ったのは、今いるこの場所がカエルレウム宮ではない、と言うことだった。
「フォション、ここはどこだ?あんたが目を覚ました時、俺達の傍に俺のような黒髪の男がいなかったか?背丈は俺ぐらいで、二十代後半ぐらいの――」
矢継ぎ早に尋ねるライにフォションは目を丸くして身体を引いた。
「待て待て!俺もここがどこなのかは知らねえって。そもそも俺は変な連中に襲われたって言っただろうが。それに俺も目を覚ましてからそれほど経ってねえし、傍には誰もいなかったぜ。」
「…!」
フォションの答えを聞いた瞬間、ライは酷く落胆して肩を落とした。
「――そうか、誰もいなかったか…」
「?」
須臾後気を取り直したように顔を上げたライはスタスタと部屋の扉へ向かうも、外に出ようと手を伸ばしたところで、あるはずの物がないことに気づき固まった。
「おい、どうした?」
「…この扉、ドアノブがないぞ。」
「は?」
「どこにも取っ手が付いていない…どうやって開ければいいんだ?」
「なんだと?」
驚いたフォションもライの傍へ来て確かめるも、ライの言葉通り入口の扉にはどこにも取っ手が見当たらなかった。
「どうなってやがる…引き戸か?」
「引き戸にしても手をかける場所がなければ動かせないだろう。…押せば開くのか?」
そう思い、ライは両手を付いて押してみるが扉が動く様子はない。
「駄目だな…押し開けるというわけでもないらしい。」
ライとフォションは互いに顔を見合わせた。
「一難去ってまた一難か…つまり俺らはまた閉じ込められてるって?こいつも幻覚なんじゃねえだろうな。」
「俺に聞くな。」
はあ、と溜息を吐き、諦めたようにライは寝台へ戻って腰を下ろした。
「仕方がない…誰か来るまで様子を見るついでに、俺達の状況について話し合っておくか。」
「…おう。」
「先ずは俺から、あんたを〝見つけた〟経緯について話そう。」
そうしてライはフォションに、これまでの出来事を掻い摘まんで話し始めた。
「――魔法国カルバラーサだと?なんの冗談だそりゃ…」
「この状況で俺に巫山戯たことを言う理由があると思うのか?」
「いや…ねえな、すまん。」
困惑した表情で頭をガリガリと両手で掻くフォションは、自分の記憶を辿るようにしてあらぬ方へと視線を向ける。
「完全に意識は飛んじまってたが、つまり俺を襲った連中はカルバラーサの人間だったってことか。まあそう言われりゃ、見たこともねえ魔法を使う女がいたことからも、納得できるっちゃできるが…」
「まだ確かめたわけではないから断定はできんが、あんたを襲ったのは恐らくカルトと言われる宗教団体『ケルベロス』の信者だろう。」
「宗教…はっ、それこそわけがわからねえ。なんで俺がそんな連中に?」
「理由まではわからん。だが俺がそう思う根拠はある。口止めされてはいないから言うが、魔法国カルバラーサはその宗教団体ケルベロスそのものの国だからだ。」
「…!?」
驚いてあんぐりと口を開けるフォションに、ライは苦笑いを浮かべる。
「――まあ、そういう反応になるだろうな…だがこれは事実だ。」
あの竜頭によって支配されていた幻覚の世界で、フォションは数ヶ月もの間を生き延びていた。
その間にエヴァンニュでは様々な事件が起きており、俺は自分の事を含めその全てをフォションに話して行く。
驚いたことにフォションは、あの世界で数え切れないほどの『死』を経験していたらしく、その度に悪夢の開始地点へ戻されることを繰り返していたそうだ。
俺達は互いの情報を摺り合わせ、ケルベロスに関する正確な情報を纏めてはみたが、結局のところナトゥールス達の目的などははっきりしないままだ。
そして俺はフォションにこれまでのことを話しながら、最後に見たレインの姿と養父に言われた言葉を思い出している。
「レイン…本当にレインなのか…?」
響き渡る地鳴りと少しずつ激しくなる地震の揺れに、この世界を支配していた竜頭が消えたことで、本当にもうすぐここも消えるのだということはすぐにわかった。
だが目の前に佇むレインはその紫紺の瞳に静かな光を湛えているだけで、驚いている様子も慌てる様子も見られない。
「――今回はこれで諦めるが…もしもおまえがこの世界の理不尽さに嘆き、変えられない運命を心から変えたいと願うのなら、その時はまた俺達の元へ戻って来るといい。」
「え…」
「俺はいつでもこのカルバラーサで待っている。」
「なにを言っているんだ…レイン!!!」
〝俺はいつでもこのカルバラーサで待っている〟
そう言い残してレインは俺の前から姿を消し、俺はそのあと幻覚世界が消滅したことで目を覚ました。
――俺がカエルレウム宮に滞在していた間、ナトゥールスは一言もレインのことは口にせずにいて、レインの方も初日に俺の姿を見ていながら会おうとはしなかったのだろう。
それはなぜなんだ…
俺の実母にそっくりなナトゥールスと、十年前ヘズルで炎の中に消えたまま戻らなかったレイン…俺に関わりのある二人が、ケルベロスの本拠地であるカルバラーサにいる。
変化魔法で外見だけを変えている可能性は拭えないが、それでもこれが偶然などであるはずはなかった。
これからどうする――
俺はフォションと話しながら、まだエヴァンニュへ戻るかどうかさえも決めていないのに、と途方に暮れる。
その時、コンコン、と二度扉をノックする音が聞こえ、ガチャリと普通に部屋の扉が開いた。
「あ、やっぱり~。二人とも目が覚めたんだねぇ、話し声が聞こえたからそうだと思った~!」
「「!」」
「普通に開いたぞ、おい。」
「あ、ああ…」
別に閉じ込められているわけではなかったのか…?
「――で、どなたさんだ?」
室内に入って来たのは、灰緑色の長い髪に赤味のある栗色の瞳をした、やけにのほほんとした雰囲気を持つ、語尾をわざと伸ばしているような変わった口調の男だった。
俺の隣でフォションはそう相手に尋ねたが、その男がなにか口を開く前に、思いがけず俺の口を突いてその名が飛び出して来た。
「ユスティーツ――?」
えっ、と言う顔をして、その男とフォションが同時に俺を見る。
「なんだ、知り合いか?」
無意識に口から飛び出たその名に俺自身が驚き、思わず右手の指先で口元に触れる。
自分でもどうしてそう言ったのか、全く理解出来なかったからだ。
「前に会った時はまだ目が良く見えていなかったと思ったけど…殆ど初対面みたいなものなのに、良く僕だとわかったねぇ?びっくりしたよ~、あはは。」
右手で頭の後ろを掻き掻きへにゃりと笑った彼は、改めて俺達に名乗った。
「改めて…僕の名はユスティーツ・フィル・フィネンだ。今はきちんと資格を取ったから、一応Bランク級に昇格したばかりの冒険者だよ。」
「同業者か…俺はAランク級守護者のフォション・ボルドーだ。Aランク級パーティー根無し草の副リーダーをやってる。」
「よろしくね。そうそう、色々と聞きたいことはあると思うけど…とりあえず、あんまり時間がないから説明は追々にして、早速ここから『脱出』しようか~。」
「「!?」」
自己紹介が終わったところで、唐突にそんな不穏な台詞を口にしたユスティーツに、俺とフォションは目を丸くする。
「…聞き間違いか?のほほ~んとした声で今、『脱出』っつう偉い不似合いな言葉を聞いたような気がするんだが…」
「いや、俺も確かに聞いた。…どういうことだ?」
「うんうん、疑問だよね~びっくりだよね~?でも急いでここを出ないとね~、今がチャンスなんだよ~。」
そう告げるユスティーツの言葉は急ぐ必要があるらしいのに、一向に切羽詰まった事態のようには感じられない、酷くちぐはぐな印象のものだった――
次回、仕上がり次第アップします。




