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Eternity~銀髪の守護者ルーファス~  作者: カルダスレス


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268 邂逅

数ヶ月前、ヴァレッタと共にライの護衛依頼を受けたフォションは、ヴァレッタを失ったことで浴びるほどの酒を飲み、自宅へ帰ろうとしていたところをケルベロスの信徒に襲撃されました。一度は倒したものの後に現れたアクリュースの魔法で時を戻され、結局は捕らわれてしまいます。その後見知らぬ場所で目を覚ました彼は、想像するだにも恐ろしい目に遭っており…?

          【 第二百六十八話 邂逅 】



 ――なんだあれはなんだあれはなんだあれは…ッ!!!


 この場所の異常さに、もうこれ以上驚く事なんてねえと思ったのに…いったいありゃあなんなんだーッ!!!!



 ここまで数多の『死』を経験し、その状況を正確に記憶することで回避を繰り返しながら生き延びていたフォションは、ただ只管に前へ前へとこの悍ましい世界を進んできた。

 息絶えるまでの苦痛に対する恐怖とこれがいつ終わるのかも知れない絶望に、何度も狂いかけ正気を失いそうになる彼を支えていたのは、亡きリーダー〝ヴァレッタ・ハーヴェル〟の幻影が齎した『目指すべき(しるべ)』の情報と託された最後の願いだけだった。


 そうして辛うじて保たれている精神状態の中、やがてフォションは気がつく。この場所に〝二つと同じ死〟は存在しないと言うことに。

 それは生死のかかったこの状況において、取るに足らない〝どうでもいいこと〟のように思えるが、ふとそのことに疑問を抱いた彼は、その時僅かな間死への恐怖を忘れて何故だろうと考えた。


 俺に死を回避させないよう、意図的になにかが死に様を変えてるってのか?…だとしたらこの場所には、それをやる〝なにか〟が存在してなきゃならねえことになる。

 そもそも人間にせよ動物にせよ魔物にせよ、当然の如く死に方なんざ千差万別だ。同じ境遇の魔物襲撃や事故で命を落とすにしても、出血多量で命を落とす奴がいれば致命傷を受けて即死しちまう奴もいるように、二つと同じ死に方は存在しねえ。


 ここはそんな異なる命の終わりを体現して見せてるような――


 フォションがそのことに気付いた瞬間、あからさまにその世界が()()()


「な…なんだ?」


 一瞬地震かと思ったフォションだったが、その揺れは大地が揺れていると言うよりも、蠕虫が這い出てきた時のように足下そのものが波打っているような感じだった。

 直後ザワザワと毒煙で(もや)る空気がさざめき、地面を泥濘ませていた赤い液体が次々に分離して無数の球体を作ると、それらは重力に逆らいポコポコ浮かんでくる。

 それはまるで大地から空中に吸い上げられる血液のようで、やがて一箇所に寄り集まると細かく枝分かれした血脈を形作り始めたのだ。


 その異様な光景になにが起きているのかわからず、呆然とただそれを見ているフォションの前でさらなる異変は続いて行く。


 波打つ地面が噴き出す毒煙や地に潜む蠕虫、蟲塚ごと巻き上げられると、枝分かれした血脈に沿ってぺたぺたと吸い寄せられながら付着する。

 どろどろとした沼底のヘドロのように、それらはボダボダ滴り落ちながら、見る見るうちにとある巨大なものを浮かび上がらせて来た。


 ――頭だ。この赤い液体で泥濘んだ地面により顕現する…それもなにか途轍もなく巨大で、視界一面を覆い尽くすほどの…!


 それが最後まで終わる前に、本能的に脅威を察したフォションは一目散で踵を返して逃げ出した。


 なんだあれはなんだあれはなんだあれは…ッ!!!


 この場所の異常さに、もうこれ以上驚く事なんてねえと思ったのに…いったいありゃあなんなんだーッ!!!!


 『不安定に色を変える光』の位置だけを目で確かめると、そこを目指してフォションは全力疾走する。

 途中何度も後ろを見やり、少しずつできあがって行く『頭』の形に紫色のつむじ風が巻き込まれて同化して行くのを目の当たりにした。


 そのつむじ風には、眼孔と口腔の三つ穴だけがぽっかりと空く、夥しい数の白い顔面が悲鳴を上げ醜く歪みながら渦巻いていた。

 それらは人間の物なのか動物の物なのか、全てが耳を塞ぎたくなるような断末魔の声を上げ絶叫している。


 ――デカすぎる…!もっと遠くまで逃げねえと、あれが動き出したらあっという間に追いつかれちまう!!


 肺が破れそうなほど激しく息をし、もう後ろを振り返らずにフォションは全力で『(しるべ)』を目指す。

 するとここへ来てあの『光』の方が、少しずつ自分に近付いて来る気がしてきた。


 後少し…多分もうそう遠くねえ…!!頼む――!!


 グアッ


「!!」


 額から嫌なもの混じりの大汗を流し、迫り来るなにかに焦りながらフォションがそう思った次の瞬間――背後から『真の闇』がぶわりとフォションの視界を飲み込んだ。


「あ……ああ……あ……」


 恐怖そのものが自分を追って来ていると察したフォションは、今度こそもう駄目だ、と涙目になりながらその正体を横目で確かめた。

 すると毒々しい色をしたそれの吐く息が届き、耐え難い悪臭が瞬時に彼の鼻を突く。


 ――そしてフォションは見てしまう。


「ひっ…」


 腐れ落ちる肉をボダボダと滴らせながら、巨大な片方だけの龍眼がギョロリと動いて彼を捉える。

 その悍ましい肌を覆っているのは本来の竜鱗ではなく、その一つ一つが苦悶の表情を浮かべる人間の白面であった。

 物理空間的な法則すら無視するそれは、あまりにも大きすぎて全体像をとても把握できやしないが、それでもフォションはそれが〝なんなのか〟を訳知らずして理解出来た。


 〝あれ〟は恐怖そのものであり、邪であり悪であり、死と禍と絶望と世の破滅を齎す〝終わり〟だ。

 その名は知らぬ、終焉の邪龍――


「暗黒の竜…巨大な闇の竜が…」


 来る…っ


「あ…あああ…ああああああ――ッ!!!!」


 そこでフォションの精神(こころ)は錯乱状態に陥ったのだった。



                 ♦


 ――神水で満たされた円柱容器から、クルンの力を借りてどうにかフォションを出すことには成功したが、目覚めない彼を別の場所へ運ぼうとしたところでいきなり意識が戻り、俺はフォションに突き飛ばされた。


 驚いたものの目を覚ましたのなら良かった、と喜ぶ前に、逸早くクルンが様子のおかしいフォションに気付いて待ったをかける。

 見るとフォションは酷くなにかに怯えている様子で、その精神状態が普通でないとすぐにわかった。

 直後フォションは『暗黒の竜』や『巨大な闇の竜が来る』などと口走り、錯乱して俺の前で叫び声を上げたのだ。


 どうやら彼は今なにか恐ろしいものに襲われている幻覚を見ているらしく、現実に引き戻そうといくら呼びかけても、返事をするどころか目の前にいる俺やクルンに全く気付かないままだった。

 その上今度はどういうわけか全身からエーテルと同じ青い光を発し始め、クルン曰く『レヴェリエイト』という魔法を使って空想を具現化し、戦闘服に身を包み見覚えのある大剣までもを出現させたのだ。


 今さら言うまでもないが、フォションは生粋のエヴァンニュ人であり、俺と同じく魔法は使えない。それなのにこれはどういうことなのか――


 ――わけがわからず困惑するも、今はそんなことを考えている余裕はなかった。


「あああーッ、やめろ、来るな…来るなあーッッ!!!」


 腰を抜かして失禁し立ち上がることすらできないまま、フォションは魔法で出現させた大剣を必死に片手で振り回している。

 その仕草は眼前の敵を攻撃していると言うよりも、恐慌状態で追い払おうとしているような動かし方だった。

 その上彼の後ろには円柱容器の装置が障害物となっており、それ以上はもう下がれないのに、両足を前後に動かしてはまだ後退(あとずさ)ろうとしていた。


 俺はとにかくその意識をこちらへ向けようとしてフォションへ叫んだ。


「落ち着け、フォション!あんたが見ているのは幻覚だ!!ここにはそんな竜などいない、武器を下ろせ!!…俺の声が聞こえないのか!?」

「ああーッああああ、ああああああーーーッッ!!」


 絶叫に近い叫び声を上げ死に物狂いで剣を振り回すだけでなく、見えないなにかに抗うようにして手足をバタつかせている姿に俺はたじろいだ。

 どんな魔物や化け物が相手でも、Aランク級守護者ともなれば余程のことがない限り、これほどまでの恐慌(パニック)状態にはならないからだ。


 あのフォションがここまで怯えるとは…一体どんな幻覚を見ているんだ!?


「いくらなんでも怯え方が尋常ではないぞ…クルン、なにか思い当たる原因はないのか?」

「わ、わかりません…僕は本当にここのことはなにも知らないんです…!」


 困り果てた様子で俺の顔色を窺うクルンに、その両肩を掴んで言い聞かせた。


「責めているわけじゃない、俺はフォションを助けたいだけなんだ。過去に神水の影響で似たような例は起きたことがないか?もしなにかの幻覚を見ているのなら、どうすれば現実に引き戻してやれる?教えてくれ…!!」


 こんな時医師の資格を持つイーヴかトゥレンがいてくれれば、すぐにどう対処すべきなのかを教えてくれるのに…!


 ――我ながら十五の子供に縋るなど情けないとわかっているが、フォションの身体は未だエーテルの青い光に包まれた状態であり、僅かでも神水について知っているクルンに頼る以外術がなかった。

 しかしクルンは分かり易く大きく首を横に振って謝った。


「す、すみません、オド様…僕にもどうすればいいのかわかりません…!普通の錯乱状態なら鎮静剤を投与して気を失わせるか、睡眠の状態異常を引き起こす魔法で眠らせるなどの措置も取れますが、エーテルの青光(せいこう)を纏っているとなるとどんな影響が出るか全く読めないんです…!」


 鎮静剤…気を失わせる?魔法で眠らせる――


「つまりせっかく目を覚ましたが、あの状態では再度意識を失わせてしまった方がいいということだな?」

「え…」

「ならばなんとか殴って気絶させられないか試してみよう。」


 薬もなく魔法も使えないとなれば、後はできるだけ傷つけないように俺がやってみるしかない…!


 クルンの言葉から次の行動を察した俺は、変わらず錯乱状態の続くフォションに危険を承知で近付いてみることを決めた。

 するとクルンは俺の腕を掴んで引き止めようとする。


「待ってください!相手は錯乱状態で武器を振り回しているんですよ!?オド様のこともわからないのに、不用意に近付くのは危険です!」

「そんなことはわかっているが、あんな状態のまま放っておくことはできん!一刻も早く正気に返すか落ち着かせるかしなければ、幻覚の恐怖に飲まれて自らをも傷つけかねないだろう!!」


 恐慌状態にある人間は、追い詰められるとまともに思考が働かなくなり、その多くは恐怖から逃れようとして自ら命を絶ってしまう。

 フォションの状態は俺から見て、正にその一歩手前と言う気がした。それほどフォションは怯えているように見えたのだ。


「それでもだめです!!あっ!!」


 俺はクルンの手を強引に振り払い、万が一攻撃された場合に備えてライトニングソードを引き抜いてから素早く行動に移した。


「いけません、オド様ッッ!!!」


 狼狽えるクルンを尻目に、俺は慎重に且つなるべく急いでフォションに近付いて行く。


 普通はこれほど長く暴れたらそろそろ疲れて来るはずなのだが…フォションの体力は無尽蔵なのか?…それともこれも神水の影響か――

 どちらでもいいが、やはり狂ったように振り回している大剣が障害だな。ほんの僅かでもその手を休められれば…


「落ちよ(いかづち)の鉄槌!!!『グラウン・トールハンマー』!!!」

「!?」


 俺がどうやって武器を避け近付こうか考え倦ねていると、背後からそのクルンの声は響いてきた。


 クルン!?…まさか俺を守る為にフォションを魔法で攻撃するつもりか!?


「やめろ、クルン!!」


 カッ…


 俺の制止は間に合わず、フォションの頭上で紫と白の魔法陣が輝くと、瞬間目の前が閃光に包まれて見えなくなった。


 ドンッ


 直後その鋭く短い衝撃音が響き、足下の地面に強い震動が伝わってくる。同時にぶわりと顔面に風圧が襲い来て、思わず目を閉じた俺を大きく蹌踉めかせた。

 そして次に目を開けると、俺とフォションの間にある地面にパリパリと電撃の残滓が迸っているのを目の当たりにする。


「な…」


 フォション…!!


 すぐさまフォションの姿を確認しようと視線を向けたその時、再びクルンの声が聞こえる。


「今です、オド様!!」

「!」


 ハッとして前を見ると、フォションの手に握られていた大剣が跡形もなく消えていた。

 どうやら今の魔法攻撃はフォション自身を狙ったものではなく、彼が魔法で出した大剣を目掛けて放たれたものだったらしい。


 武器が消えた…!!


 俺は秒の間も掛からずにそれを視認すると、一気にまだ暴れているフォションの元へ走り出した。

 そうして少し手前で地面を蹴り跳び上がると、腰を抜かして仰向け状態にあるフォションへ揃えて折った両足の膝を向ける。


 どこをどう狙うかなど悩んでいる暇はない!全体重を乗せ、フォションの鳩尾に両膝を落とす――ッッ!!!!


「頼むからこの一撃で気絶してくれよ…フォション!!」


 エーテルの青光に包まれているフォションへと、俺は重力に引かれるまま落下して行く。

 ――が、俺の突き出した両膝がフォション腹へ沈み込む前に、フォションから発せられていたあの青光がぶわりと広がり、間近に迫る俺のことまで包み込んだ。


「なっ…」


 エーテルの青光が…!


 その瞬間、俺の胸元で紫色の光が輝いた。


 フッ…


 同時に世界が暗転し突然周囲に漆黒の闇が訪れると、俺はその真っ只中でいきなり静寂に包まれていた。

 一筋の光もない真っ暗闇で慌てるも、底なしの深淵に落とされたかのように、一切なにも見えなくなっていた。


「なんだ…なにが起きた…?」


 なにも見えない…!!


 直後俺のすぐ側から、その不気味な声は話しかけてくる。


『クク…ようやく会えたな、矮小なる者よ。〝鍵〟と同調する前に少々エーテルに触れたこの機を利用させて貰うぞ。――我を覚えているか?』


 その声に意識を傾けると、そこにはいつの間にかぼんやりと薄紫に光る〝俺〟が立っていた。


「おまえは…」


 この声…憲兵所の地下牢で聞いた――


『我はうぬの持つ強き生命の光に(いざな)われし者。今はただ、その輝きが失われる瞬間を待ち望んでいる。』

『ハッ、つまり俺が死ぬのを待っているのか?…なんて奴だ。』


 あの時の…?


「なぜ俺の姿をしている!?」


 俺そっくりの姿をしているそいつは、目を細めて答えた。


『――こことは別の世界にて、うぬが一度我を受け入れたからだ。』

「…?」


 こことは別の世界…?俺が一度受け入れただと…


「なにをわけのわからないことを…」

『やはり全て忘れたか…うぬの中に僅かでもその片鱗は残されていると言うに、忌々しきは()時翔人(ときかけびと)よ。』


 時翔人(ときかけびと)?…なんの話だ、いったい――


(くだん)の世界は消滅し全てはなかったことにされようとも、うぬが一度でも我を受け入れた事実は消せぬ。この姿こそがその最たる証となるであろう。

 故にその強き(アニマ)にて今一度記憶せよ。我は世の(ことわり)から外れた存在(もの)であり、世界の記憶(ステラ・ファタム)に通ずる()以外の〝唯一〟となる。

 奴が守護者であろうとするならば、我はその対となる執行者であることを強制的に定められるであろう。』

「だからさっきからなんの話をしている、ここはどこだ!?今俺はおまえなどに構っている場合ではないんだ、さっさと元の場所に戻せ!!」

『まあそう急くな。記憶があろうとなかろうと、約束したうぬの願いを叶えに来ただけだ。』

「なに…?」


 俺の願い…?


 困惑する俺を見て、そいつは不気味にニヤリと笑った。――瞬間、背筋にゾッと冷たいものが走る。

 鏡でいつも見慣れた自分の顔だというのに、そのあまりの薄気味悪さに寒気がした。


『この(のち)メル・ルークの魔物駆除協会(ハンターズ・ギルド)を訪ねるが良い。そこにうぬの望む答えがある。』

「…メル・ルーク…」


 シェナハーンの北にある国か…ここからだとかなり遠いが――


『確かに伝えたぞ…ライ・ラムサス。』


 フッ…


 一方的な話が終わると、俺の姿をしたそいつは消え失せて再び世界が暗転した。


 あいつ…俺の姿をしていたと言うだけでなく、以前と違い言葉も流暢でやけに()()()()()なっていたような――


 真っ暗闇から抜け出し、周囲が元のように明るくなったと思いきや、その絶叫が俺の耳を劈いた。


「あああああ――――ッッやめろ、来るな…来るなアアアーッ!!!」

「…フォション!?…はっ…」


 そうして俺は目に飛び込んで来た光景に、驚愕して思わず動きを止めた。


 あの暗闇を経て元の円柱容器が並ぶ場所へ戻ったのだとばかり思ったのだが、なにがどうなっているのか、周囲の光景が一変していたからだ。


「元の場所じゃない…どこだここは!?」


 赤い湿地帯のような大地と、嫌な臭いのする靄に煙る鈍色の空。


 おまけに眼前のフォションは形容しがたいほど悍ましい化け物に襲われており、今にも食われそうになっていた。


 なんだあれは…!


 ――果てなき闇で象られた、腐肉と夥しい数の白面で覆われている…暗黒の竜。それの巨大な頭だけが浮かんでいる。

 それを見たと同時に俺は、フォションが口にしていた『暗黒の竜』『巨大な闇の竜が来る』という言葉の意味がようやくわかったのだった。


 つまりは――


 あの青光…あれでフォションの幻覚の中へ、俺まで引き摺り込まれたのか!?


「なにがなんだかわからないが…とにかくあれをなんとかすれば、フォションを正気に戻せるかもしれん…!!!」


 意を決して手にしたライトニングソードを構え、俺は巨大な竜頭だけのそれに後ろから突っ込んだ。


「今助ける!!しっかりしろ、フォションッッ!!!」

「…!?」


 ブシャッ


「こいつを喰らえ!!」


 その不気味な音と共に深く突き刺したライトニングソードの力を、俺はすぐさま解放する。

 幻覚の世界だとわかっているせいか、俺には悍ましい竜頭を見てもフォションほどの恐怖はない。

 購入してから初めて使用するこの剣には既に魔石へ十分な量の魔力が込められており、不意打ちで攻撃を仕掛けた初撃から運良く最大級の雷撃を放つことが出来たのだった。


 バリバリバリバリ…ズガガガガガンッ


 凄まじい閃光と轟音が響き、攻撃を仕掛けた俺も驚くほどの威力で、悍ましい竜頭の腐肉が爆発し辺り一面に弾け飛んだ。


 ビシャシャシャシャッ


 するとその腐った竜頭は咆哮も上げずに一部の白骨を顕わにして、フォションと俺から距離を取る。

 辺りにはギシギシという奇妙な骨の軋む音が聞こえ、腐肉の飛び散った地面からは見る間に緑色の煙がジュウジュウと不気味な音を立てて立ち昇った。


「ぐ…なんて臭いだ…!!」


 その凄まじい悪臭に吐き気を催し、俺は剣を握ったまま肩口で鼻と口を覆いながらフォションを振り返った。


「無事か!?」

「あ、あんたは――」


 まるであれに生気を吸われ続けていたかのように、現実とは異なりげっそりと窶れきった顔をしている彼は、今度こそ俺の目を真っ直ぐに見ていた。


「ライ・ラムサス…?まさか――本物か!?…なんであんたがこんなところにいやがんだ…!!」

「は、俺にもわからん。大分弱っているようだが、立てるか?――来るぞ!!」

「チィ…ッ!!!」



 一方、現実――


「…オド様!!」


 クルンの制止を振り払いフォションへ走って行ったライは、勢いを付けて跳び上がった直後に、フォションが身に纏っていたエーテルの青光に飲み込まれた。

 するとクルンの前でライの胸元に紫の光が強く輝き、そのままライは急に脱力してフォションの上に落下してしまう。

 それと同時にライが落ちて来た衝撃のせいなのか、喚きながら暴れていたフォションも突然動かなくなった。

 ライの身に起きた異変に驚いたクルンは慌てて駆け寄り助け起こそうとするも、ライは完全に意識を失ってしまっている状態だ。


「オド様…しっかりしてください、オド様っっ!!」


 そこへ転移魔法で目の部分にだけ穴の開く、真っ白い仮面をつけた教団服の人物がやって来る。


 シュンッ


「!…気を失っている?」

「!?――誰ですか!?」


 その気配に振り返り、ライとフォションを庇うようにして両手を広げるクルンに対し、白い仮面の人物はいきなりしゃがんで声をかけた。


「ついさっきまでは普通にしていただろう。――オドになにがあった?〝ヨアヒム・クルン〟。」

「僕のフルネームを…あなたは?」


 ブウン


 その人物は警戒するクルンに、仮面を付けたままでさっと右手を動かすと額に光る紋章を浮かび上がらせた。

 その紋章は仮面を付けたままでも透けてはっきり見えている。


「その紋章は…!」

「俺は『アロステラリィ』の(アテル)だ。」


«『アロステラリィ』!?名前だけは聞いているけど、存在するかどうかもわからないと言われている教団の極秘幹部組織…!!»


 紋章でその身分を確かめたクルンは、仮面の男に直ぐさま頭を下げた。


「し、失礼しました…!」


«額の紋章は師団長クラスの証に間違いない。オド様みたいな漆黒の髪をしているから〝(アテル)〟?…初めて見る方だけど――»


 焦るクルンに構わずアテルは続ける。


「それでなにがあった?」

「申し訳ありません…僕にも良くわからないんです。青光に包まれた途端にお二人とも意識を失われてしまって――」


«ついさっきまで、と仰るからには、既にここでオド様と僕がしていたことは御存知なのか。…と言うことは、アクリュース様も宵の間から見ておられた…?»


「〝鍵〟に同調して引き摺り込まれたな。厄介な…」

「え?」


 仮面の人物…『アテル』は口元に右手を当てて深く思案し、小さくボソリと呟いた。

 顔に被っている仮面には鼻と口元に穴が空いておらず、そのせいか彼の声は男性とわかるもののくぐもって聞こえる。


 アテルは短く息を吐くと、小さく首を振って話し始める。


「見ているか?レーヴェ。オドの意識が戻るまでその男と引き離すわけにはいかなくなった。――どうする?」


 宵の間から様子を見ているナトゥールスは、アテルの問いかけに思念伝達のような技を使って返事をするも、その声はクルンには聞こえていない様子だ。


『せっかく見つけた鍵ですが、オドの安全には代えられません。間に合うようなら二人を宵の間に運んで――』


 カッ…バリバリバリバリ…ゴゴゴゴゴゴゴゴゴオッ


 その時至近距離に落雷が起きたような凄まじい轟音が響き、地震のようにカルバラーサの大地が揺れる。


 グラグラグラ…


「「『!?』」」


«――地震!?»


「オド様!!」


 咄嗟に大きな揺れからライを守ろうとしたクルンに警告を発し、アテルがその腕を掴んで引き止めた。


「待て、近付くな!!」

「え…あっ!!」


 同時にアテルは瞬間移動でクルンごとライ達から離れ、かなりの距離を取る。するとそこに空間を切り裂きながら複数の人物が現れたのだった。


 ビシビシビシビシ…ガガガガッドオンッ


「「!!」」


 サラッ…


 ライ達から離れたアテルとクルンの前に、鮮血のような真紅の髪を靡かせて闇の(カオス・)守護神剣(ガーディアンソード)『マーシレス』を手にした災厄(カラミティ)が降り立つ。

 その右側には梟の仮面を付け大剣を背負うガタイの良い男が、左側には漆黒の翼を背に生やした有翼人種(フェザーフォルク)のユスティーツが並んでいた。


『チッ、つまらん…この程度の貧弱な結界で我を防げるとでも思ったのか。』


 マーシレスの悪態の通り、今の轟音と地震のような揺れは、カラミティ達がマーシレスの力でマギアピリエに張られていた強力な結界障壁を破壊し、強引にライの居場所へ乗り込んできたせいだったのだ。


「やっと見つけた…ライ様!」


 無表情にアテルとクルンを見るカラミティの横で、すぐさまそう叫んだユスティーツと梟仮面の男『ベレトゥ』が倒れたライに駆け寄った。


「怪我はしてないみたいだ、でも意識がないよ…!」

「ふむ…どうやら一時的に精神が肉体から乖離しているようですね。…隣の男性も同じ症状だ。如何なさいますか?御前。」


 ベレトゥは顔を上げ無言でアテル達を監視しているカラミティに尋ねた。それに返事をしたのは、いつも通りカラミティではなくマーシレスの方だ。


『そこの()()()も一緒に連れて行け。詳しく見てみねば断言はできぬが、其奴は〝鍵〟である可能性が高い。――だろう?カラミティ。』

「………」


 カラミティの代わりにそう言ったマーシレスへ同意するように、カラミティはベレトゥを一瞥して目配せをした。


「御意。――ユスティーツ。」

「うん、僕がライ様を抱えるね。ベレトゥはそっちの人をお願い。」


 ユスティーツはライの手にあったライトニングソードを空間魔法で収納し、意識のないライを大切なものを持ち上げるようにそっと両手で抱え上げ、ベレトゥはフォションを軽々持ち上げると肩に担いで立ち上がる。

 それを見たクルンは見る間に表情を変えて怒りを露わにし、今にも立ち去りそうなユスティーツに怒鳴りながら攻撃魔法を放った。


「待て!!その御方をどこへ連れて行くつもりだ!?…行かせないッッ!!地よ敵を()め!!『カース・グラウンドバイト』!!!」


 紫と黄の魔法陣がクルンの手元に輝き、地面の下を八方向からなにかが物凄い速さでユスティーツへ向かってくる。

 それらが一斉に地上へ飛び出すと、並んだ鮫の歯だけのような口が一斉に襲いかかって来た。


『ハッ、小賢しいわ。失せよ〝デヴァーヴィサス〟!!』


 ブウン


 マーシレスの刀身が紫色に輝き、クルンの放った魔法攻撃を全て黒い闇で飲み込んだ。


「なっ…僕の魔法が――!」


 普段殆ど口を開くことのないカラミティが、その直後真紅の瞳でクルンを捉えて呟いた。


「――その力…魔族か。」

「!」


 クルンの顔色が一瞬でサッと青ざめる。


『なに?馬鹿な、魔族にしては弱すぎるぞ。…いや、待てよ…――そうか、見た目は子供だが、魔族の血を引く人間の子孫…しかも()()()()だな。』

「くっ…!!」


 マーシレスの言葉は事実だったのか、クルンはギリリと唇を噛んでカラミティを睨んだ。


『なるほどな…くくく、それで小僧に執着するか…面白い。』

「うるさい、黙れ!!オド様は僕らケルベロスの『導きの星(レシュターン)』となる御方だ!!返せッッ!!!」

「ふん…誰に物を言っている?これは既に()()()()()だ。――ベレトゥ。」

「…は。行くぞ、ユスティーツ。」

「うん。」


 ベレトゥとユスティーツはそれ以上構わずに、ライとフォションを連れ転移魔法でどこかに消えて行った。


「オド様ーッッ!!!!」


 目の前で消えて行ったライの姿に、クルンは激怒してその本性を現す。耳が尖り髪が伸び、その色も青灰色に変化して、口元には鋭く小さな牙まで生えた。


「よくも…よくも…ッッ!!!」


 錯乱状態だったフォションと同じように、クルンは全身からエーテルのものと思われる青光を発し、髪を振り乱して両手に『ソードロッド』と呼ばれる剣とロッドのとある特徴を持ち合わせた特殊な武器を出現させた。


『ほほう…こそこそなにをしているかと思えば、フェリューテラの存在にエーテルを与えたか。くくく…これはカルト教団風情が誰の所有物に手を出したのか、精々わからせねばなるまいよ。此奴は殺しても良いか?カラミティ。』

「――好きにせよ。」

「うわあああーっ!!!」


 怒りに血走った目をして叫びながら、クルンはエーテルを用いた魔法攻撃を開始する。

 特級ストレーガに相応しく、連続して次々に高位魔法を唱えると十もの異なる魔法陣を空に描き、それぞれから強力な魔法を放った。


 紫と赤の魔法陣からは闇の炎を纏った巨大な球体を降り注ぎ、同じく紫と青の魔法陣からは闇色の冷気で凍らせた無数の氷柱を突き出し…と言った具合に、全ての攻撃魔法が闇属性を絡めた高位魔法となっていた。


 しかしどれほど強力な魔法を放っても、その全てをマーシレスが『デヴァーヴィサス』という相手の魔法を喰らって吸収する防御魔法で無効化してしまう。


「そんな…っエーテルで強化しても通用しないなんて――!」


 肩で激しく息をし、額から汗を流すクルンは愕然として後退る。


『なんだもう終わりか?せっかくのエーテルもまだ碌に使い熟せておらぬではないか。所詮身の内に取り込んだだけでは過ぎた力よ。一丁前に武器なぞ持っているが、魔法でそれでは尚更物理は届かぬわ。どれ面倒だ、さっさと終わらせるべく我が正しいそれの使い方を見せてやろう。』


 ぶわっ…


 ――普段と異なり、紫色の刀身から青黎い光を発したマーシレスは一瞬で漆黒の魔法陣を描くと、マーシレスにそっくりな禍々しい剣をもう一本空中に出現させる。


『我が分身に心の臓を貫かれ息絶えるがいい。〝サナトゥイック・モルスヴェノム〟。』

「はっ…うわあああ!!!」


 マーシレスのその声が響くと、一本の剣は瞬く間に無数の剣に分かれ、目にも止まらぬ速さで瞬間移動してくると次々にクルンの心臓を貫いて行く。

 その度にクルンは小さな身体を捩って悲鳴を上げるも、やがて口から血を吐いて地面に倒れ伏した。


 ドッ


「う…、い…痛い…よ、オド…さま…」


 徐々に暗くなって行く視界に、クルンの頭を撫でるライの優しい笑顔が浮かんでいた。


「ご、めんなさ…い…アク、リュー…ス、さ…ま…」


 宵の間でそれを見ていたナトゥールスは、今にも命の灯火が消えようとしているクルンへ静かに微笑んでいた。


「良いのですよ、クルン…これは初めからわかっていたことです。…ようやくあなたの願いも叶えられますね。」


 〝ゆっくりおやすみなさい。〟


 伝達手段でそう告げたナトゥールスの声を遠くに聞きながら、そうしてクルンは静かに息を引き取ったのだった。


『弱いわ。これでは蟻を踏み潰すようなものではないか。――魔族の血を引く先祖返りと言えど、目の前で我に殺されるのを黙って見ているとは…そこの白面は臆病者か?それとも――』


 ブウン…ブウンブンブンブンッ


 マーシレスはアテルの周囲に五つの魔法陣を展開すると、そこから漆黒の電撃を帯びた魔球を次々に出現させる。


『どうでも良いと見物していただけか――!!』


 それらがこの場所に漂う気化したエーテルを吸い込んで膨張し、一気にアテルへ襲いかかった。


 ギュンッ…ゴオオッ


 アテルは手元へ二本の剣を出現させると、それを両手で交差するように構えて襲い来るマーシレスの魔法をあっという間に全て切り裂いた。


 ヒュヒュヒュヒュンッ…ズカカカカカッ


『なに…っ!?』


 それを見たマーシレスは驚きの声を上げ、カラミティは真紅の眉をピクリと動かす。


「あの剣は…」


 アテルの両手には見覚えのある剣が二振り、一本ずつ握られていた。


 片方は薄らと青白い光を放つ刀身に、創世文字の刻まれた独自の輝きを放つ(つるぎ)

もう片方は柄から刀身の切っ先まで全てが赤黒く、マーシレスの生体核がある鍔飾りの位置に見覚えのある邪眼のような球体が付いていた。


 そのことに気づいた時、カラミティは眉間に深い縦皺を寄せてその美しい顔を歪ませると、マーシレスを握る手にぎゅっと力を込めた。


『…?』


 その僅かなカラミティの変化に、マーシレスはすぐに気が付いた。


『なんだ?』

「………」


 そうして問うもカラミティは無言のまま返事をせず、代わりにいきなり真紅の闘気を放って自身の力をその辺り一帯に打ち撒けたのだ。


 ゴッ


 真紅の闘気が混ざり合うその力の放出は、周囲の円柱容器を薙ぎ倒して吹き飛ばし、中で神水に浸されていた人間ごとあのだだっ広い空間を一瞬で破壊してしまう。

 当然一部の柱は崩れ、かなりの高さがある天井は崩落し、割れた容器からは大量の神水が石の地面へ流れ出る。

 普通の人間はその崩落に巻き込まれてただでは済まず、容器内の人々は眠ったまま潰されたり破片が身体を貫いたりして次々に命を落としていた。

 先に息絶えたクルンの亡骸も、崩れた円柱容器の下敷きになって見えなくなる。


 ――が、そんな中、真紅の闘気を纏ったカラミティとマーシレス、そして二本の剣を手にするアテルだけが、防護障壁に包まれて無事であり宙に浮かんでいた。


『いきなりなにをする、カラミティ!貴様血迷ったか!?』


 驚愕して正気を疑うマーシレスを無視し、カラミティは無言でアテルに攻撃を仕掛けた。

 それは以前エヴァンニュでリカルドを相手にしていた時とは比べものにならないほど苛烈であり、已むなくマーシレスは剣の主導権をカラミティに渡さざるを得なくなった。


 凄まじい速さでカラミティの本気の攻撃が繰り出され、次々とアテルに叩き込まれる。…が、アテルはカラミティの攻撃の大半を見切り、間に合わなければ盾状にした防護障壁で難なく防いでいた。


 そんなアテルの行動を見てマーシレスは吃驚する。


«――なんだ此奴…カラミティの攻撃を防護障壁で防いでいる?…遊んでいるわけではない…珍しくカラミティが〝まともに〟攻撃していると言うのに、か?»


 様子を窺っていたマーシレスもアテルを訝しみ始め、これは少しまずそうだ、と自ら進んで協力することにした。

 カラミティの力にマーシレスが加わると、均衡を保っていたアテルの防御が綻び始める。

 回避や武器で攻撃を往なすよりも、圧倒的に盾状の防護障壁で防ぐ回数が増えて来たのだ。


 頃合いを見てカラミティは、ただでさえ崩落している一帯をも巻き込んでマギアピリエ全体まで破壊しかねない、強力な魔法を詠唱し始めた。


『待て、カラミティ!!貴様この地下ごと地上まで消すつもりか!?そんなことをすれば()がなんというか――!!』


 慌てて止めようとするマーシレスを無視して、カラミティはその破壊魔法を発動しようとした。


 その時――


「なにやら騒がしいと思えば…招かれざる客人のご登場ですか。異空間に閉ざされたセプテンティリオネスが貴方様の領域であるように、ここは気の遠くなるような時間をかけて()()()私の領域です。神界から堕とされた災禍の化身にはご遠慮頂きたいものですね。」


 濃紺の髪色に雪のような純白の肌を持つ、偽神アクリュースが転移魔法で空中に姿を現した。

 以前ルーファスが会った時と同じく、カトレアのような赤紫の瞳に紫色の唇をして、長く伸びた爪を紫色に染め水晶玉の付いた長杖を持っている。


『――なんだあの女…上手く隠しているが、あの魔力量は人間ではないぞ…!』

「………」


 カラミティは現れたアクリュースを一瞥すると、無視して唱えた極大破壊魔法を発動する。


 カッ…


 赤黒い魔法陣が円柱容器の転がる地面一杯と、ここからでは見えないが地上の上空一杯に描かれて行く。

 …が、次の瞬間、アクリュースが手元に灰色の魔法陣を光らせた。


「全てを戻せ、『ティム・レヴェルスマン』。」

「『!?』」


 ギュアアアアア…


 その一言で広範囲の空間が渦を巻いて歪み出し、周囲の光景がカラミティに破壊される前の状態まで巻き戻って行く。

 だがなぜかアクリュースは、命を落としたクルンが生き返るところまでは時を戻さなかったのだった。


 カラミティがアクリュースを冷ややかに見やる。


「――(ゼロ)の時空間湾曲魔法…究極の神術であるそれは時空神クロノツァイトスのもの。どこでそれを手に入れた?」


 アクリュースはニヤリと口の端で笑みを浮かべ、揶揄うように返した。


「さあ…どこでしょう。姿を消した〝時の神〟をお探しになってみれば良いのでは?無論、会えるかどうかはわかりませんが。」

『なに…?女!!まさか時空神を――』

「…〝(さい)〟。」


 ピシッ…


 アクリュースに問いかけるマーシレスを他所に、カラミティは『破砕』の技能(スキル)を使って一瞬の隙を突き、アテルの白面を真っ二つに割った。


 パアンッ


「!」


 瞬間、驚いたアテルは右手の剣を消し、片方の白面を押さえるも左半分の面は剥がれ落ちてしまい、隠していた顔がカラミティに見えてしまう。


『…な――』


 アテルの顔を見て絶句するマーシレスと、既に予想は付いていたのか、尚も全身から真紅の闘気を燃え上がらせて、カラミティは問う。


「――なぜここにいる…」


 長く伸びたアテルの漆黒髪が風に靡き、開いた紫紺の左瞳が憎しみの光を宿してカラミティを冷ややかに睨んだ。


「…レインフォルス。」





   

風邪をこじらせて長引き、遅くなってしまいました。涼しくなったら涼しくなったで…と言う感じですね。次回、仕上がり次第アップします。いつも読んで頂きありがとうございます!次は早めに投稿できるよう頑張りますね!

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