260 既視感<デジャビュ>
ライ編からスタートです。
【 第二百六十話 既視感 】
――全ての生物が生まれて死ぬまでに、それぞれ全く違う生き方をして全く異なる死に方をするように、個々の生命には各々が思い思いに歩んで行く道筋がある。
その中でも『人』と言う種族は特別であり、歴史として残されていないような創世の時代には『創世神の子』とも呼ばれていたらしい。
一言で〝人〟と言っても、フェリューテラ上の〝人族〟だけを表すわけじゃない。身近なところで言えば、獣人族や黒鳥族、有翼人種や竜人族など、人族にとっては異種族とされる種族も創世期にすれば『人』に区分される。
それら『人』の生まれた瞬間から死ぬまでの道筋は、個々の『記憶』に刻まれることで『時間』と共に一定方向へと歩むが、その際に『時間』も数多の道筋を『記憶』して行く。
『時間』の記憶は『人』のそれよりも遥かに複雑で情報量が膨大であり、個々で記憶する人のものとは異なり、有りと有らゆる物質にそれの元となる素体から相互の関係性や繋がりに至るまで、『世界』を構成している全てのものの『道筋』である『変化』を記憶している。
故に『人の記憶』は『時間の記憶』であり、また『世界の記憶』でもあると考えられた。
そして有りと有らゆるものには、〝命〟であれば個の存在として誕生した(この場合は魂を得た瞬間のことを言う)その時点から、〝物質〟であれば様々な事象により形成された時点から、〝時間を一定方向に進む〟ことで必ず消滅へと向かう『終わり』があるとされている。
これは『世界』にも言えることであり、『人』という小さな命も『世界』という完全には見渡すことの不可能な存在も同じ概念で存在しているのだ。
つまり『記憶』を持つ『世界』にも『終わり』がある。
但しこの場合の『世界』とは、『フェリューテラ』だけのことを言うわけじゃない。
真の世界とは、〝無限界インフィニティア〟をも含んだ『果てなき全て』を指しているからだ。
それにより世界の消滅が訪れる〝その時〟は、どんな存在であっても目にすることの叶わない『永遠の彼方』にあるとされているのだが、無限界インフィニティアとフェリューテラでは時間の概念が異なるように、必ずしもそれがどの世界(これは隔絶界を含む個々の世界のこと)でも『同じ』ではないと思われていた。
ところが『世界の記憶』には、実は『ステラ・ファタム』と呼ばれる構築概念が存在している。
それは特定の存在へ定められた『歯車』により、まるで時計のような動きをして独自の『時間』を進んでおり、その『歯車』の持つ『記憶』を基準に螺子を回して得るような『原動力』を得て動いている。
要するに『ステラ・ファタム』は、『歯車』の『記憶』で以て、『世界消滅までの時間』が進む速度に変化が起きると言うことだ。
『ステラ・ファタム』の『歯車』が、どこの世界の〝なに〟に定められているのかまでは流石に把握し切れていないが、一部判明しているものはある。
それらは人智の及ばぬ力を所持しており、その意思で以て『隔絶界』やこの『フェリューテラ』を滅ぼすことができるからだ。
――ならば俺は?と思うかもしれないが、俺は少なくとも『歯車』じゃない。
今の時点で言えるのは、過去を変え未来を変えることの可能な『時翔人』だと言うことだけだ。
ピロン
『――時空・次元転移特異点を特定/逆転の鍵<リヴァーサル・クレイス>をここで停止しますか?』
ああ、止めてくれ。――俺は自己管理システムへ静かに告げる。
ピロン
『停止すると再発動はできません/実行しますか?』
俺はもう一度同じ答えを返した。
♦ ♦ ♦
<シェナハーン王国・旧街道>
――どこか遠くで荷馬車の車輪がガラガラ回る音が聞こえ、俺は朦朧とする意識の中…重い瞼を開いた。
身体がグラグラ揺れている感じがする。あの天井は…薄汚れた染みだらけの、黄ばんだ布…か…?
ここは…どこだ…俺はどこにいる…?
やけに身体が重くて、そして酷く眠たかった。
なんだか随分と長い長い夢を見ていたような気がする。まだその続きを見ているようで、思うように目が開かない。
頭が痛い…気持ちが悪くて吐きそうだ。
「おい、もう少しゆっくり走れないのか?」
すぐ傍で、聞き覚えのある声がした。
この声は…
「無茶を言うな。これ以上速度を落としたら、せっかくここまで来たのに追いつかれちまう。」
返事をしたのは、粗野な印象を受ける男の声だ。だがこちらの声には聞き覚えがない。
…?
――妙だな、気のせいか…?この光景…前にも見たような覚えがある。確かこの後で…
「落ち着け、リーグズ。治癒魔法は効かないが、容態は安定している。この様子ならお命に別状はないだろう。」
やっぱりか…傍にいるのは〝ティトレイ・リーグズ〟と〝ユーシス・アルケー〟だ。
「だが意識が戻らないんだ。クロムバーズのせいで死神の血を飲まされ、ようやく復帰されたばかりだったと言うのに、一体どれほどの暴力を受け続けられたのか…奴の首を刎ねたぐらいでは到底腹の虫が治まらないよ。」
ティトレイの俺の身を案じる声…
「だったらアクリュース様にお願いして、冥界から奴の魂を呼び戻していただいたらいいんじゃないか?外道は外道に相応しく不死族にされて、永遠に奴隷としてお仕えさせればいいさ。」
粗野な男の他にもう一人、別の声が答えて――次はアルケーが…
「冗談ではない、俺は嫌だ。奴の顔を思い出しただけでも反吐が出る。」
「ああ、俺も御免だな。――もしかしたら奴が先輩になにかしたのかもしれない。一刻も早くシニスフォーラへ行かないと…」
〝シニスフォーラ〟
――これは…なんだ?まるで既に一度同じことを経験しているような、これと同じ光景を前にどこかで目にしたことがあるような…
「…ティトレイ…」
「「!」」
「先輩?ライ先輩、気がつきましたか!?」
心配そうに俺を覗き込む顔――確かにティトレイだ…間違いない。…どうなっている?俺は確か憲兵所の地下牢にいたはずだが――
「どこか人目に付かない場所で馬車を止めろ!!閣下の意識が戻られた!!」
――おかしい…頭が混乱しているのか?今の台詞…この少し後で大きく馬車が揺れて停まり、あちこちから聞き覚えのない男女の声がして――…それから?
それから…どうだった?
「もう大丈夫ですよ、ライ先輩…先輩のことは俺とユーシスが憲兵所から助け出しました。」
困惑しながら視線をずらすと、そこには近衛隊士のユーシス・アルケーがいて俺に目礼をする。
そうだ…この後俺が殺されたジャンのことを尋ねると、ティトレイは首を横に振り、カルバラーサへ行こうと提案をしてくる。そして不可解な話を聞かされるんだ。
「ティトレイ…ジャンは?」
やはりティトレイは黙って横に首を振る。そして――
「先輩…俺達と一緒にこのままカルバラーサへ行きましょう。アクリュース様にお願いして、ジャンのことを生き返らせて貰うんです。ここにいるユーシスも、三年前に事故で失った恋人を取り戻すために、アクリュース様の元へ俺達と一緒に行くんですよ。」
〝アクリュース様にジャンを生き返らせて貰う〟
気のせいじゃない…同じ会話だ。俺はまだ夢の中にいるのか…?
――そう思ったのだが、ズキズキと痛む身体中の傷が夢ではないと言っているようだった。
「実はアクリュース様はライ先輩にとても会いたがっていて、無事に先輩を連れて行けば俺のこの目と失った足を元通りにしてくれるそうなんです。それでずっとチャンスを窺っていたんですが…ようやくいい機会に恵まれました。」
「…いい機会?…ティトレイ、その〝アクリュース様〟とは誰のことだ。」
段々頭がはっきりしてくると、それと引き換えに、さっきまで残っていた不思議な感覚は一瞬で消えてしまった。
「俺達の願いを叶えて下さる偉大な御方です。」
「………」
願いを叶える…
殺されたジャンが生き返るなど到底信じられない話だが…でももし本当だったなら?俺のせいで命を落としたジャンが本当に生き返るなら…俺はどんなことでもするだろう。
ジャン…年の離れた弟のように思っていた。あいつはまだ十五だったんだぞ?俺が守ってやらなければならない子供だったのに…目の前で命を落とした。
俺のせいで――
ジャンの最後の笑顔を思い出し、俺はまた張り裂けそうな程に強く胸が痛んだ。
――やがて馬車は止まり、馬の嘶きと共に複数男女の声が外から聞こえて来る。ティトレイとアルケー以外は全く聞き覚えのない声だ。
「意識が戻ったんなら良かった、これで医者に見て貰う必要はなくなったな。」
「すぐカルワリア司祭に来て頂く方がいいだろう。あの方に転移杖を使って頂ければ、追っ手に見つかる前に拠点まで辿り着ける。」
「治癒魔法が効かなかったのよ?さすがに長距離転移はまだ危険だわ。本来は怪我一つなく連れて行かなければならなかったのに…!」
「それなら変化魔法を使って外見だけ変えて、一旦近くの街で休息を取った方がいいんじゃない?その後でどうすればいいか伺ってみたらどう?」
「怪我をしているとお伝えするのか?それはまずいだろう。アクリュース様のお怒りを買えばどうなるか――」
なにか悩んでいる様子の会話を聞いている内に、俺は自分でも意図せず思いも寄らない言葉が口から飛び出した。
「こんな場所で呑気に停止していると、予想外の客がやって来るぞ。――無事に逃げたければ早く移動した方がいい。」
「「!?」」
ギョッとしたティトレイとアルケーが俺を見る。
「先輩…?それはどういう――」
思わず俺はハッとしてティトレイから顔を逸らした。
俺はなにを言って…本気でティトレイ達と一緒に、このままそのアクリュースとか言う〝偉大な御方〟の元へ行くつもりなのか?
馬鹿なことを…不死族となる以外の方法で、ジャンが生き返るはずもないだろう…!
「おい、閣下が早く移動した方がいいと仰っている。この方の勘は本物だ、ミレトスラハで何度も危機を救われた俺が保証する。急いで出発し予定通りとにかくシニスフォーラへ向かえ。」
「わ、わかった、急ごう…!!」
「全員早く乗れ!」
思いつきでなんとなく口から出た俺の言葉を信じるのか…
――このユーシス・アルケーという近衛隊士は、王都でも指折りの名家子息だ。それに父親の現当主は国の重鎮でもある。
近衛隊には実力がなければ入れないが、この男は次期当主でもあったんじゃなかっただろうか。
それなのに三年も前に死んだ恋人を取り戻したい一心で、二度と国へ戻れないような選択をするとは…
それほどまでに信じられる根拠がなにかあるんだろうか。
ユーシスの一言で慌ただしくなり、再び馬車はすぐに動き出した。
――なぜここに留まっていると危ないなどと感じたのだろう…どうにも妙だ。クロムバーズに殴られ過ぎて頭がいかれたのか?
俺は自分の口にした言葉が信じられずに自己嫌悪へ陥り、横になったままティトレイ達へ背を向ける。
「痛…」
馬車の揺れで身体中が痛い…どの道これでは逃げ出せそうにないな。
「先輩、大丈夫ですか?」
「――ありがとうございます、閣下。」
俺の背中に向かってアルケーが礼を言う。
「俺達の言葉を信じてくださるんですね。」
「………」
そんなのじゃない。――そう言いたかったが、俺自身わけのわからない感情が胸に渦巻いており、それを声に出すことはできなかった。
――それからも馬車は夜通し走り続け、翌日の昼過ぎになって無事シニスフォーラへ到着する。
ティトレイとアルケーは変化魔法石を使って俺の外見を変えると、まともに歩けない俺に肩を貸して両側から支える。
ここはシニスフォーラの正門ではなく裏門か…てっきり人混みに紛れるためにあの賑やかな大通りへ向かうとばかり思っていたが――
「…どこへ行く?」
「先に先輩の怪我を治して貰えるように仲間が手配しました。目的地まで少し距離があるそうです、どうかそこまで頑張ってください。」
怪我を…確かに自力で動けなければ逃げようにも逃げられないな。シェナハーンの守護騎士に助けを求める方法もあるが…ここは大人しく連れて行って貰うべきか。
ティトレイ達に支えられて向かったのは、同じような建物の並ぶ静かな住宅街にある一軒の民家だった。
「……(この家は…)」
まただ…この感覚――
〝井戸のある公園からほど近い場所〟〝同じような家屋が並び、知らなければ辿り着けない特殊な人物の住む家〟――
初めて訪れる場所なのに、どういうわけか俺は前にもこの家を見たことがあるような気がした。
俺がシニスフォーラを訪れたのは、前国王陛下夫妻の葬儀に参列した時だけだ。…やはり気のせいだな。
一緒に来た粗野な男は一定のリズムを刻んでその扉を叩く。するとすぐに中から女性の声で返事があった。
『…誰だい?』
「ゲルセミナ・ポエム。元賞金稼ぎのアイゼンシルトだ。急ぎの手紙は受け取っているだろう。」
ガチャ、という音がして扉が開くと、中から焼土色髪の中年女性が飛び出して来た。
「アイゼン!」
「はっはあ、セミナ!久しぶりだな…!!」
その『アイゼンシルト』と名乗った粗野な男とこの家の主は親しいらしく、顔を見るなり愛称で呼び合って抱き合う。
「うん?」
その時〝セミナ〟と呼ばれた女性が俺を見たことで、バチッと目が合った。
「なんだい、見慣れない連中を連れてるね…いくら昔なじみでも、厄介事は御免だよ。」
一瞬で迷惑そうな顔になった女性へ、粗野な男は頷いた。
「わかってるさ、迷惑はかけねえ。ただ急いでこいつの傷を治してやって欲しいだけだ。――今も持ってるんだろう?『セラペヴォの腕輪』。あれを使ってくれねえか。」
「いいけど…ワケありっぽいからお代は頂くし、高く付くよ。」
「構わん。この後長距離転移で移動するのに、身体へ負担をかけたくない。」
「ふん、入んな。」
セラペヴォの腕輪…初めて聞くが、魔道具かなにかだろうか。
「俺達は宿に部屋を借り、先に連絡をして来る。」
男女の数人は入口で別れ、この場には俺とティトレイ、アルケーとアイゼンシルトだけが残された。
「治癒魔法じゃ治らなかったのかい?」
「ああ、どういうわけか何度やっても効かねえんだよ。治癒魔法石も発動はしてるんだが一向に傷が治らねえ。元はそんな体質じゃなかったらしいんだが…」
「へえ…だとすると、余程の悪意に晒されたんだね。」
「原因がわかるのか?」
俺は黙って女性と粗野な男…アイゼンシルトの会話に耳を傾ける。どうも憲兵所から運ばれた際にティトレイ達は俺に治癒魔法をかけたらしいのだが、それが効かなかった、と言っているようだ。
「極偶にあるんだよ。あんまりにも強い憎悪に何日も晒され続けることで自然治癒力が低下しちまって、普段は効くはずの治癒魔法が突然効果を発揮しなくなる、なんてことがね。」
「ほう。」
「放っておいても体調が良くなれば元に戻るが…まあ分かり易く言えば人の念が引き起こす簡易的な呪いみたいなもんだね。そういう人間は大抵複数から常に命を狙われ続けてたり、強く恨まれてたりするんだけど――」
そこで言葉を切り、女性は俺を一瞥した。
「まあいいか。ああ、こっちに来な。そんで全部お脱ぎ。」
「…なに?」
いきなりなにを…、と思わず面食らう。
「素っ裸になれって言ってるのさ。でないと治療できないだろ。」
「全部脱ぐ必要があるのか!?」
「あるんだよ、あんたの怪我は全身に及んでいるだろ。まさかその年で見られるのが恥ずかしいとでも言うのかい?初心な十代の童貞じゃあるまいに。」
「童…ちっ、脱げばいいんだろう…!!ぐうっ…!!」
腹立ち紛れに服を脱ごうとしたものの、上半身を動かしただけで激痛が走り、思わず呻き声を上げてしまう。
「手伝います、先輩。――大きな傷はハイポーションで治せましたが、薬が足りなくてまだあちこち骨が折れたままなんですよ。」
「馬車の揺れがお身体に障りましたね。閣下、俺に掴まってください。」
「…ああ。」
アルケーに支えられティトレイの手を借りて服を脱ぎ始めるも、アルケーが俺を『閣下』と呼んだことで、鍵のかかった箱からなにかを取り出した女性は俺に意味ありげな目を向けて呟いた。
「閣下、ねえ…」
「――余計な詮索はするなよ。」
透かさずアイゼンシルトは目を光らせる。
「わかってるさ、あたしだって命は惜しいからね。その変化魔法で外見を変えた若い男が実は『黒髪』で、隣国の有名人だなんてことはこの場限りで忘れるよ。」
「「「!」」」
「相変わらずだな…」
驚く俺とティトレイ、アルケーに対し、別に驚くことではないのかアイゼンシルトだけが微苦笑している。
「〝聞こえる〟んだからしょうがないだろう。…あんたも気をつけなよ、アイゼン。その男を本気で怒らせると間違いなく殺されるよ。」
「忠告か…ああ、肝に銘じておくさ。」
「「「…?」」」
聞こえる、とはどういう意味だ…?妙な女だ。
「――俺はそこまで見境のない人間ではないつもりだが。」
「そういう意味じゃないんだよ。――脱いだね、そこへお座り。」
「ちっ、偉そうに…」
ならばどんな意味だと言うんだ。
ティトレイとアルケーの手を借りて側の椅子に腰を下ろすと、女性は徐に不思議な光を放つ腕輪を取り出した。
虹色の光…あれが『セラペヴォの腕輪』とやらか。――よく見ると虹色の光の中でなにか極小さな物がちらちら舞っているような…
「次は目を閉じな。これの光を直接見ると、恐れ多くて大半の人間は目が潰れるからね。」
「な…」
「絶対にいいと言うまで開けるんじゃないよ。わかったかい?」
「あ、ああ…わかった。」
恐れ多くて目が潰れる?どういう腕輪だ。
俺は仕方なく目を閉じた。すると――
カッ…
「!!」
次の瞬間、目を閉じていても瞼に透けて眼球を貫くほどの強い光が輝いた。
この光は…なるほど、確かに直視すれば目が潰れるかもしれないな…!
目を閉じているせいで見えはしないが、その光を浴びている間、俺の身体になにかが触れて行き、微かにそれの囁くような声が聞こえた。
〝腕輪の主の命令だ〟〝酷い怪我だね、治してあげる〟〝痛いの痛いの飛んでけ~!〟〝元気にな~れ〟
この声は…まさか『精霊』か…!?――ならば〝聞こえる〟と言うのは…
「――はい、いいよ。もう怪我は全て治ったはずだ。」
「もう?いくら何でも早過ぎないか。」
「動いてみればわかるだろう。」
「…服をくれ、ティトレイ。」
差し出された服を受け取り、自力で立って着替え始める。
「完全に痛みが消えた…確かに治っているな。その腕輪は…魔道具なのか?」
姿までは見えないが、複数の精霊が腕輪に宿っているように見える。
「ああ、しかも国宝級のね。こいつは何年もかけて作られた、とある御方の〝祈りの結晶〟なんだよ。この世に二つとないあたし専用の特殊装身具なのさ。」
「とある御方…」
そうか、この女性は――
「…聖女の祈りか。」
「!」
「ペルラ王女からシニスフォーラに親しい友人がいると聞いている。それが貴女だな。」
「王女から?へえ…単なる政略結婚なのかと思ったけど、彼女があたしの話をするなんて案外仲は悪くないんだね。」
「まだ結婚はしていない、婚約が内定しているだけだ。それもこの先どうなるかはわからんがな。」
「それは同感だね。」
――ペルラ王女は親しい友人にトゥレンへの思いを打ち明けて、いつも悩みを相談していたと言っていた。
それでも俺との取引についてはさすがに聞いていないようだな。
「話は済んだか?そろそろ出るぞ。助かった、セミナ。支払いは色を付けておまえの口座に振り込んでおく。」
「そうしておくれ。――ああ、あんた…一つ忠告しておくよ。」
「?」
ゲルセミナに呼び止められ、俺は彼女を振り返った。
「目に見えるものが真実とは限らない。なににも惑わされずに己の信じるものを決して疑わないようにすることだね。」
「なに?なぜそんなことを…」
「知らないよ、あたしはただ〝聞こえる〟ことをそのまま伝えただけだ。――王女によろしくね。」
「……ああ。傷を癒してくれて感謝する。」
女性は〝どういたしまして〟という代わりにひらひらと手を振り、最後にまたアイゼンシルトとハグをしていた。
――不思議な女性だ…俺のような『識者』とは少し違うようだが、彼女の言うことは信じられるような気がする。ペルラ王女の友人だからか…?
「あの一瞬で全ての怪我を癒やせる魔道具か…専用の特殊装身具でなければ売って欲しいぐらいだな。」
「国宝級だと言っていただろう。恐らく値など付けられないほどの価値がある腕輪だぞ。」
その前にもし手に入れたとしても腕輪に宿っている精霊が、正しい持ち主以外の言うことには耳を貸さないだろう。
本人の言う通りあの女性専用の特殊装身具だと言うことだ。
「そう言うこった。間違っても盗もうなんて下手な気は起こすなよ。今回のように足元を見られる時はあるが、あいつはあの腕輪で医者や治癒魔法士にかかれない裏稼業の人間や、金のない貧しい人間を秘密裏に助けている。そのあいつに危害を加えれば、それらの人間全てを敵に回すことになるからな。」
「………」
聖女の友人はやはり聖女の友人か…
「宿へ行くぞ。既にカルワリア司祭がいらしているかもしれない。」
ペルラ王女の友人でもある『ゲルセミナ』という女性に、憲兵所でクロムバーズから執拗に受けた暴行の怪我を全て治して貰うと、俺は結局言われるままティトレイ達と一緒に宿へ向かった。
彼らの話はどう考えても胡散臭いと思うのだが、なぜだか逃げ出す決心が付かないからだ。
ティトレイとアルケーのこの行動は、これまでの俺に対する裏切り行為にも等しいだろう。
それなのにどうしてか腹が立たない。裏切られたという失望感も湧いて来ない。だから不審に思ってはいても、行動に移すまでには至らないのだと感じていた。
俺は僅かでもジャンが生き返る可能性に期待しているのだろうか。
そんなことはあり得ない。あり得ないと思うのに…
心のどこかが囁いた。――アクリュース様とやらに会ってみろ、と。
「カルワリア司祭…!」
「おお、待ちかねたぞ…リーグズ信徒にアルケー信徒よ。連絡を受けアクリュース様もかつてないほどにお喜びだ。」
この男がカルワリア司祭…
連絡をすると言って別れた男女の待つ宿の部屋を訪れると、そこでは既に例の司祭とやらが待っていた。
黒いローブに身を包みフードを降ろしたその男は、五十センチほどの長さに金色の宝玉が付いたミスリル製ロッドを手にしており、年令が五十代後半から六十代前半の見るからに精神がどこか病んでいそうな人物だった。
何日も眠っていないかのような血走った異様な目をして、太ってこそいない物の全体的に『四角い』印象を受ける身体付きで、世間一般の聖職者や司祭という優しく実直なイメージとはかけ離れた雰囲気を持っている。
お世辞にも好感が持てるとは言い難いな。
「ほほう…この御方が亡家に於いて最も色濃く彼の血を受け継がれた御方か。――なるほどなるほど、今は身の内に抑え込まれておるようだが、確かにとんでもない御力を秘めておられる。」
「…?」
「お初にお目にかかる、ライ・ラムサス・オド・シェラノール・ミレトスラハ様。我は遥か古代期より密かに存在する宗教団体『ケルベロス』が司祭、カルワリア・ハーヴギリヒと申します。以後お見知りおきくだされ。」
「…!」
『ケルベロス』!?その名前はイーヴ達から聞いていた王都魔物襲撃事件の――
――いや、そのことよりも…!
「貴様、なぜ俺のその名を知っている?これまで誰にも名乗ったことのない名前だぞ…!」
『ライ・ラムサス・オド・シェラノール・ミレトスラハ』と言うのは、俺の養父…レインから一度だけ聞かされたことのある、母方の実家ミレトスラハ王国での正式名だ。
だが七才まではレインの元で、その後は孤児院で身寄りのない子供達と一緒に育った俺に、そんな長ったらしい名は必要なかった上、既に滅んでいる国の王家の名を持っていても意味を成さないと思いこれまで一度も自ら名乗ったことはない。
それなのに、なぜこの男が知っているんだ!?
驚愕する俺に男はあっさりと答えた。
「アクリュース様に伺いました。」
「なに…?」
「アクリュース様は我らケルベロスの教祖様にあられますが、あの御方は人智の及ばぬ多くのことを御存知です。無論、貴男様のことも――」
ケルベロスの教祖…
「ティトレイから既に聞いたが、その〝アクリュース様〟はなぜ俺に会いたがっているんだ?」
「それは直接教祖様にお会いになってお確かめください。」
「――…」
どうする…
「先輩?」
「――気が変わった、やはり行くのはやめる。――と言ったら、どうなる?」
「「「!」」」
「ライ先輩、今さらそんな…!!」
「閣下…!!」
カルワリアと言う男は、その気色の悪い張り付いた笑顔を俺に向け、徐に手に持っているロッドを縦にスッと構えて見せた。
あれが『転移杖』か…つまり問答無用で転移魔法を発動する、そう無言で脅しているんだな。
「…冗談だ、言ってみただけだ。」
そう誤魔化しはしたものの、ティトレイとアルケーは疑うような眼で緊張した表情を浮かべている。
アイゼンシルトや他の男女も同じだった。
俺が少しでも逃げる素振りを見せれば、力ずくで押さえ込み、すぐにあの転移杖で移動するつもりなんだろう。
初めから逃げられることを想定していないわけはない…下手な魔法で動きを封じられるくらいなら、大人しくついていった方がマシかもしれんな。
「行くなら行くでさっさと連れて行け。ティトレイとアルケーの願い、そして俺の願いが本当に叶うと言うのなら…話を聞くだけの価値はあるだろう。」
俺がそう告げると、ようやく周囲は安堵の表情を浮かべてホッとしたように息を吐いた。
「実に賢明なご判断ですな。なに、ここから幾国も越えねばならぬ地であれど、このテレポートロッドがあれば瞬きする間にお連れ致します。――では参りましょう。」
――そうして俺はシェナハーン王国から遥か北西に位置する遠国であり、『魔法国』とその名に冠する『カルバラーサ』という見知らぬ国へ移動したのだった。
<魔法国カルバラーサ・ケルベロス教団本拠地>
「お帰りなさいませ、カルワリア司祭。」
司祭の転移杖により本当に瞬きする間に移動すると、そこへ着くなり多くの信者らしき人々の出迎えを受ける。
どうやらこのカルワリアという男は、随分高い位に就いているらしい。
「うむ。既に連絡は届いておるな?無事に怪我一つなく『最後の系譜』をお連れしたとアクリュース様に急ぎ取り次ぐのだ。」
「畏まりました、直ちに。」
「…?」
最後の系譜?勘違いでなければ、今のは俺のことを言ったのか?
〝系譜〟とは血縁関係の繋がりを表す言葉だ。それの最後、とは…
『ライ・ラムサス・オド・シェラノール・ミレトスラハ』
――まさか…エヴァンニュの王家〝コンフォボル〟ではなく、ミレトスラハの亡き王家〝シェラノール〟の、という意味か?
二十一年前に滅んだミレトスラハで俺の後に生まれた王族がいなければ(若しくは生存者が一人もいなければ)、確かに俺がシェラノール王家最後の血族なのかもしれないが…
教祖の目的は俺自身と言うよりも、シェラノール王家の末裔にある…?
俺は母方の実家についてなにも知らない。僅かながらに残っている記憶は、ミレトスラハが滅びた際に目の前で母をあの男に殺されたということだけだ。
その後どうやってレインの手で助け出されたのかまでは全く覚えていないし、当のレインからも母に俺を頼むと託された、としか聞いていない。
もしそうなら、なぜこれほどの年月が経った今になって、母方の実家が関わってくる…
一人であれこれ考えていると、目の前で司祭の着ていた黒ローブが鮮やかな青色へ変わるのを目にする。
どうやらあの黒ローブは、他国で隠密行動を行う際に身に着ける衣装らしい。
――周りを歩く信者の服装も胡散臭い黒ローブではないな…ここではこの青色の衣装が普段の服装と決められてでもいるのか。
さすがに内側は各々異なるようだが、誰も彼もが同じような外衣を着ており、服装で個人を特定することは難しくされているらしい。
これにもなにか意味はありそうだが、想像も付かない。随分と異質な場所のようだ。
それにしても…
「明るいな…」
俺にとって最も予想外だったのは、カルト教団ケルベロスの本拠地が想像していたのとは全く異なる場所だったことだ。
天井から燦々と差し込む陽光に照らされて、エヴァンニュの王城よりも広いそのエントランスは反射する眩い光で輝いていた。
清浄な空気に包まれた厳かな雰囲気を持つ立派な本殿に、乳白色を基調とした派手さを感じない青と薄い金色の装飾が各所に施された外壁。
徹底して隅々まで手入れの行き届いた美しい庭は、一国の王城にも匹敵するほどだ。
さもするとこの場所は世の終わりを望むような集団の集う場所ではなく、それとは真逆の善神を祀る巨大な神殿のようにも見える。
――王都に魔物を召喚し、あれほどの騒ぎを起こしたカルト教団だと聞いていたが…ここが本当に終末思想を持つ教祖のいる教団本拠地なのか?
もっと暗くて陰鬱な、おどろおどろしい場所を想像していたのに意外だ。
「…カルワリア司祭、ここが教団の本拠地で間違いないのか?」
「はい。――ここは法都『マギアピリエ』…正確に申し上げれば、『魔法国カルバラーサ』の中枢区域でもあります。」
「!?」
「『法都』とはエヴァンニュ王国で言う所の『王都』に当たりますな。そして我らが教祖様はその『王宮』におられます。」
「な…」
なんだと…?
つまり『ケルベロス』は『魔法国カルバラーサ』そのものだということか…!?
『魔法国カルバラーサ』は、その名の通り魔法に関する技術や人材、道具などをフェリューテラ全土へ輸出し提供している魔法国家だ。
雷神トールを崇拝しているとか、フィアフを大量に隠し持っているなどの噂だけは俺も聞いたことはあるが、正確な実態が殆ど知られておらず、政治的に強固な保守的国家だと言われている。
それでもこの国の名が民間にまで広く知れ渡っている第一の理由は、ここで産出されている『魔法石』が、一般市民から各国の中枢にまでほぼ全てで利用されている生活必需品だからだ。
この国で作られる魔法石は、エヴァンニュ王国だと魔石駆動機器に組み込まれる形で一般家庭にまで浸透しているが、魔物駆除協会に各種協会、そして軍事にも当たり前に使われているし、エヴァンニュ王国以外の他国では魔物から街を守る魔法障壁を張るのもこの国から派遣される優秀な魔法士に依存している。
その魔法国カルバラーサがカルト教団そのもの…?だとすれば、既にフェリューテラは終末思想を持つ集団に完全掌握されているも同然ではないか。
ケルベロスは提供している魔法石の輸出を止め魔法障壁を解除するだけで、いつでも各国に混乱を引き起こすことが可能だ。
そうなったらどの国も民衆が恐慌状態に陥って、想像するだけでも恐ろしいことになるのは目に見えている。
思いもよらず予想外の真実を知り、俺は緊張からゴクリと喉を鳴らした。
「要するに魔法国カルバラーサの国家元首…確かこの国では国王に当たる位を『スプレムス』と呼ぶのだったか?…とにかくその国家元首は教祖様が担っている――そう言うことか。」
「理解が早くて助かりますな…その通りでございます。」
「………」
ニヤリと不気味な笑みを浮かべた司祭に、ゾッとして背筋が寒くなる。
平然と認めた…一切隠そうともしないと言うことは、俺に知られたくらいではなにも困ることはないと言う自信の表れか…これは愈々以てやばそうだ。
「お待たせ致しました、司祭。アクリュース様が宵の間でお会いになります。」
「うむ。――ではお客人、ご案内致しましょう。」
「あ、ああ…」
「それじゃ、先輩。また後で。」
「ティトレイ…おまえ達は一緒に来ないのか?」
「俺達は呼ばれていませんからね。別室で待機しているように言われています。」
詳しく話を聞きたいと思ったが、ティトレイ達からも引き離されるか…
「アクリュース様は先ず、貴男様と二人きりでの面会を希望されておられます。今後はリーグズ信徒とアルケー信徒にもマギアピリエに住まいが与えられますので、すぐにまた会えるでしょう。」
「………」
ふと気づくと、後ろにいたはずのアイゼンシルト達はいつの間にか姿を消していた。
俺は仕方なくティトレイ達とはこの場で別れ、促されるままに黙ってカルワリア司祭の後に続いて歩き出した。
「――ここからアクリュース様のおられる『カエルレウム宮』までは、直接外部との行き来が可能にはなっておりませんので、いくつかの転送陣を介して向かいます。」
「転送陣…」
「少なくとも今晩は、貴男様にもそちらへご滞在頂くことになりましょうな。なに、警備は万全ですのでご安心を。」
なんの警備が万全なんだかな。――俺は苦笑した。
――法都マギアピリエはエヴァンニュ王国の王都よりも小さいが、数階層にわたるこの超巨大な建物全てが都市になっていた。
その中心から天に聳える四角錐の塔を中心にして魔法障壁が張られているそうで、他国からの旅行者や冒険者などは極限られた地域にしか入れないようだ。
その他カルワリア司祭の言うように、各地域とはあちこちに設置されている『転送陣』で移動するらしく、そのすぐ傍にある制御装置によって行き先を選択できる仕組みになっているらしい。
一応都市図はあるが、初めてこの国を訪れる俺に見てわかるものでなく、教祖がいるというカエルレウム宮に着いた時には、もうそこが法都のどの辺りにあるのかすら把握できなかった。
「お待ちしておりました、カルワリア司祭。そちらの方が…?」
「うむ。」
「畏まりました、では宮内に入られる前に全ての魔法を解除させて頂きます。」
ああそうか、俺はまだ変化魔法をかけたままだったな。
「我が国では各国の軍隊に当たる〝魔法兵士〟のことを総じて『ストレーガ』と呼んでおります。彼らは魔法だけでなく武力にも長けているため、お困りの際はなにごとも彼らへ気軽に申しつけください。」
その『ストレーガ』により俺の変化魔法が解かれると、黒髪とヴァリアテント・パピールをしっかり確認した上で、入口の扉が開かれる。
「どうぞお通りください、ライ・ラムサス様。」
「――では我はここで。これより先はアクリュース様の居城となります故、極限られた者しか入ることを許されておりません。また明日にでも改めてお会いしましょう。」
「…カルワリア司祭は入ることを許されていないのか?」
「はい。この扉を潜ることのできる者は、本当に極僅かな者達だけなのですよ。その理由も程なくおわかりになるでしょう。――それでは失礼致します。」
「………」
踵を返して去って行く司祭の後ろ姿を見送ると、俺は開かれた扉の先に続く紺色の絨毯が敷かれた廊下の奥を見据えた。
「そのまま正面最奥の扉へお進みください。そちらが宵の間となっております。」
ストレーガに促されるまま、俺は扉の先へと歩き出した。すると――
「!」
ぞわっ
――その区域に一歩足を踏み入れた瞬間、身体の中をなにかが通り抜けたような酷い不快感に鳥肌が立った。
なんだ今のは…!
その感覚がなんなのか尋ねようと振り返るも、ストレーガは俺が内側へ入るとさっさと扉を閉ざしてしまう。
しかもその直後、入口は扉ごとブウンッと不気味な音を立てて消え失せてしまったのだ。
「なにっ!?入口が…」
消えた…!!
『――どうぞこちらへおいでください。ライ・ラムサス・オド・シェラノール・ミレトスラハ様。』
頭上から降ってくるように聞こえたその声は女性の物で、まるで軍施設の館内放送のように耳へ届いた。
どうやらこれもなにかの魔法らしい。
俺は諦めて歩を進め、『宵の間』とか言う最奥の部屋の前に立って両手で静かに扉を押し開けた。
「!」
目の前のやけにだだっ広い室内を見て、俺は驚いた。
なにもない。ただ床、壁、天井の全てが宵闇のような紺色をしており、天井に埋め込み式の灯りはある物の、椅子やサイドテーブルと言った家具などは一切見当たらなかった。
そしてその部屋の中央に、一人の女性が立っていた。
「ようこそ、宗教団体ケルベロス、そして魔法国カルバラーサへ。あなたに会える日を心待ちにしていました。」
そう言いながらゆっくりと俺に近付いて来るその女性の顔を見て、俺は声を失った。
――ティールグリーンの髪にエメラルドのような緑の瞳。その瞳が僅かに光の加減によって赤く揺らめく。
優しげに微笑むその顔は控え目で大人しそうな印象を受け、どこか人離れした美しさを持っている。
しかし俺が驚いて声を失ったのは、そのせいではない。
この女性は…この女性の顔は、俺のほんの僅かな記憶にだけ残され、あの男の自室に今も飾られている肖像画の――
俺は二十三年間生きて来て、初めてその言葉を人へ向けて口にする。
「…は…、母、上……?」
――こちらを見て微笑んでいたのは、『ベルティナ・ラムサス・ネル・シェラノール・ミレトスラハ』…二十一年前、ロバム王に目の前で殺されたはずの俺の実母だった。
遅くなりました。次回、仕上がり次第アップします。いつも読んで頂きありがとうございます!




