248 亡国ラ・カーナへ
いよいよ明日、亡国ラ・カーナへ発つと言う時になって、ルーファスの元へエヴァンニュ王国にいる現地メンバーのファロから緊急連絡が届きました。それはエヴァンニュ王国の鉱山街メソタニホブが不死族の出現で滅んだという知らせであり、ファロからルーファス達への救援要請でもありました。そうと知ったルーファスはラ・カーナ王国へ向かうのを延期してでもエヴァンニュへ向かおうと考えますが…?
【 第二百四十八話 亡国ラ・カーナへ 】
「えっ…なん…う、嘘だろ!?なあ、ルーファス!!!」
「………」
愕然としてそう尋ねるウェンリーに、俺はただ黙って首を横に振る。
嘘や冗談ならどれほど良いだろう。だがあのファロが緊急連絡でそんな誤報を寄越すはずはなかった。
「ではファロからの連絡は救援要請ですね。魔法の使えないエヴァンニュ王国の守護者では、魔法石を手に現場へ駆け付けたとしても不死族を駆逐するのは困難です。」
「!」
まだ俺がなにも言っていないのに、まるで初めから知っていたかのようにそう言ったサイードに俺とウェンリーは驚いた。
「確かにファロからの緊急連絡は俺達への救援要請で、どうすることもできないから手を借りたいと言って来ている。まさかサイード、メソタニホブが滅ぶことを事前に知っていたのか…?」
サイードのあまりの落ち着きぶりに思わずそう尋ねるも、サイードは両手を広げて首を振る。
「まさか。いくらなんでもそれはありませんよ。わかりませんか?ルーファス。あなた宛てに届いていた例の手紙です。あの中の一通にあったでしょう?『争いと抗いを生む街は一夜にして消え失せる』と。私はあの手紙の内容を自分なりに精査して考え、それらしい場所の目星を付けていただけです。」
「ルーファスに届いてたあの手紙か…!確か『深き地底より累々と死の訪れし時』だったっけ。サイードはあれがメソタニホブのことだと思ってたっつうのかよ?」
「候補地はそこだけではありませんでしたけれどね。」
サイードの言っているのはこの内容の手紙だ。
〖心せよ 始まりは一番目の獣が解き放たれ 深き地底より累々と死の訪れし時 争いと抗いを生む街は一夜にして消え失せる〗
〝争いと抗いを生む街〟…それだけで良くサイードは見当を――そうか…!!
「争いと抗いを生む街…つまりあれは、武器や防具の素材となる鉱石を採掘している鉱山街のことを言っていたのか…!」
「ええ、私はそう解釈をしました。ですがそれに該当する街は世界中に幾つもあります。なのではっきりとメソタニホブかどうかはわからなかったのですよ。」
「…そうだな、一番目の獣というのもなにを表しているのかわからないし、〝深き地底より〟以降の言葉も、メソタニホブを指しているとは気づけない。」
「あっ!!!」
俺がサイードとそう話している最中、突然ウェンリーがなにか思い出したらしく声を発し、続いてすぐにサーッと血の気が引いたように青くなった。
「ウェンリー?どうした?」
直後両手で頭を抱え、ウェンリーは自分の頭をぽかぽか叩く。
「あ…ああ俺…なんてこった、どうして今の今まで忘れちまってたんだよ…!!そうだよ、メソタニホブ…俺、あそこのメソタ鉱山の地下に『異界の扉』があったの、知ってたのに…ッッ!!!」
「異界の扉?」
「…どういうことです?ウェンリー。」
顔面蒼白になって俺達に説明してくれたウェンリーの話によると、俺とウェンリーがヴァハの村を出てすぐの頃、ウェンリーが守護者の資格を得るために受けた資格試験でメソタ鉱山を訪れ、その時シルヴァンと一緒に悪意ある人間が施したという異界の扉が壁に魔法で描かれているのを見つけていたらしい。
「あの時シルヴァンが応急処置を施したって言ってたけど、あそこから不死族が溢れ出てくるって…それにあそこには『アートゥルム』が誤って死なせた何百何千って数えきれねえほどの死体があったんだ!!ファロが言ってんのって、そいつが地上に溢れて来たってことだろ!?」
――すっかり混乱しているらしいウェンリーの言うことは断片的で要領を得ないが、なにが言いたいのかは大体わかった。
「メソタ鉱山の地下にそんなものがあったなんて…」
つまりあの手紙は俺だけでなく、俺の仲間が持つ情報によっても内容が正しく理解出来るようになっているのか…?
本当にあの手紙の差出人は誰なんだ。
「その時点で異界の扉を完全に塞ぐのはかなり難しいと判断したのでしょうね。シルヴァンティスはいずれあなたに伝えて、後できちんと処置して貰うつもりでいたのでしょう。」
「ああ、そうかもしれないな。――だとすると『一番目の獣』というのもエヴァンニュ王国に関係があるのか。」
〝獣〟と聞くとユスティーツの言っていた『神獣』を思い出すな…まさかまたフォルモールに操られているリカルドが関わっているとかじゃないよな…?
「なににせよこの件を放置しては、やがて周辺の町村も不死族に飲み込まれかねません。急いで対処しなければ。」
「そうだな。なら早速みんなを呼び戻して――」
俺が胸元の共鳴石を取り出そうとするも、すぐにサイードが俺の手に自分の手を重ねて止めた。
「待ちなさい、ルーファス…なにを言っているのです?」
「え?」
なぜサイードが止めるのかわからず、俺は首を傾げる。
「あなたまさか…ここからエヴァンニュへ戻るつもりなのですか?」
「…?ああ、当然だろう。ファロが助けを求めているんだ、太陽の希望のリーダーとしてもそれに応えるのは当たり前じゃないか。」
「……はあ。」
不死族の出現となると由々しき事態だし、ウェンリーの話からするとその数も尋常ではなさそうだ。
それなら魔法が使えて浄化可能な力を持つ俺達が、すぐにエヴァンニュへ戻るのは最善のことだと思う。
ところがサイードは俺に呆れ顔で溜息を吐いた。
「あなたがここでエヴァンニュへ戻ったら、もう目と鼻の先にあるラ・カーナへ行くのがまた遅れますよね?」
「それは…そうだな。でも仕方がないだろう?できるだけ早く片を付けて戻ってくれば――」
「…いい加減にしなさい、ルーファス。」
「サイード?」
その瞬間、サイードが俺に激しく腹を立てているのが見て取れた。
「あなたは自分でも私達に何度か口にしていますよ。いいですか、もうあまり時間的余裕はないと感じているのでしょう?あなたがそうして道を逸れれば、その分神魂の宝珠を解放するのも必然的に遅くなります。もしもその間に暗黒神の方が先に復活し、あなたの準備が間に合わなかったらどうする気なのですか…!」
「サイード、でも…!」
俺は守護者で、魔物から人間を守るのが仕事だ。もちろん最終的な目的は暗黒神を倒すことに違いないが、その為に他の有事を放置するのは最も不本意なことだった。
そう自分の意見を訴えるつもりで身を乗り出すも、サイードにピシャリと遮られる。
「あなたの反論を聞く気はありません。ルーファス、あなたは明日予定通りにラ・カーナへ向かいなさい。今あなたのすべきことは、一日も早く神魂の宝珠を解放できるように身体の問題を解決することです。」
「ちょ…待ってくれサイード、それならファロの方はどうするんだ!?まさか行けないから自分でなんとかしろと言うわけじゃないだろう!?」
「そんなことは言いませんよ。心配しなくてもエヴァンニュには私が行きます。」
「え――」
サイードが…!?
「私なら自分で転移魔法を使えますし、火属性魔法が使えますから不死族を炎で浄化することは可能です。あなたのように魂を『救済』することこそできなくとも、数日をかけて全て討伐することはできるでしょう。ですからファロの応援には私が向かいます。あなたがここで彼や不死族の対処に動く必要はありません。」
「そんな…!!」
サイード一人に行かせるなんて、なにかあったらどうするんだ…!!
「――俺もサイードの意見に賛成だぜ、ルーファス。」
「ウェンリー?」
「俺がもっと早く異界の扉のことを思い出してればメソタニホブのことは防げたかも、とかって思うけど…そんなこと言ってももう今さら手遅れだ。そんでおまえもさ、なんでもかんでも〝自分が〟って思い過ぎなんだよ。ユリアンさんの神魂の宝珠だって解放できてねえままなんだぜ?シルヴァンだってカオスに連れ去られて、風の神魂の宝珠を見つけなきゃ助けられねえ。街が一つ滅んだって聞いて居ても立ってもいられねえ気持ちはわかるけど、おまえにはなによりも優先すべきことがいくつもあんだろ。ならここはサイードに任せるべきなんじゃねえか?」
確かにそうかもしれないけど…不死族の集団は単なる魔物と同等に扱えない。ファロはもちろんのこと、サイードだって絶対に大丈夫だとは言い切れないんだ。
それなのにもし万が一のことがあったら…?アテナの時のように、結局後になって後悔するのは俺なんだ…!
「そんなに心配しなくても大丈夫ですよ、ルーファス。私はまだ自分が死ぬわけに行かないことを常に念頭に置いて行動しています。ですから一人で行くとは言いません、プロートン達三人を連れて行く許可をくださいな。」
「プロートン達を…?それは本人達さえ良ければもちろん構わないけど…」
サイードと彼らの四人で行くなら、確かにかなり危険は減るだろう。だがプロートン達だって危ないことに変わりはないのに…
「それとファロや現地にいる他の守護者にも分けられるよう、浄化魔法の魔法石をできるだけ数多く作成して頂けると有り難いです。他にもテルツォ用にエーテル結晶を砕いて分けて下さい。」
「後はルーファスの防護魔法石もいるよな?異界属性に対処するにはレインフォルスの協力がいるけど、それがなくったってなにもないよりはずっと安全に戦えるもんな。」
「ええ、そうですね。」
「………」
――はあ…言っても聞いてくれそうにないな。
「サイードとウェンリーの言いたいことはわかった。だけどこのことは他のみんなの意見を聞いてから決めたいと思う。…ウェンリー、俺はアテナの時のような後悔を二度としたくない。元より危険なのは全ての魔物相手において共通して言えることだが、中でも特に不死族は厄介で、知っての通り普通の物理攻撃だけでは完全に倒すことが出来ない。そのことを頭ではわかっていたとしても、対不死族戦闘に不慣れな人間が一度集団に囲まれてしまうと恐慌状態になり易く、倒れた仲間が不死化して一瞬で敵側に回ってしまうことから、攻撃を躊躇って窮地に立たされることも珍しくないんだ。」
不死族の真の恐ろしさは、人の持つ〝情〟に付け込まれる所にある。それは万が一サイード達が敗北して不死化した場合、俺にも言えることだ。
ヴァシュロンの時だって辛かったのに…不死化したサイードを手にかけるなんて、想像でもしたくない…!それがプロートン達でも同じことだ。
俺は溜息を吐くサイードを無視して共鳴石で緊急招集をかけ、今し方出て行ったばかりのみんなを呼び戻した。
「――と言うわけで、せっかく解散したところを悪いが急遽戻って来て貰った。」
まだそれほど時間が経っていないこともあってリヴとゲデヒトニスはギルド内におり、イスマイルは向かいにある書店へ入った直後、プロートンとテルツォはすぐ近くの雑貨屋にいて、唯一デウテロンだけは間が悪かったらしく、気に入った女性に声をかけてせっかくナンパが成功したのにお相手は怒って帰ってしまったようだ。
「不死族でするか…それはさすがに放置するわけには参りませぬな。」
「ええ、規模はもっと小さいですけれど、千年前にも似たようなことはありましたわ。始まりは極小さな集落であっても気付くのに時間がかかってしまい、結局一国が滅ぶまでに被害が広がってしまいましたもの。」
「マジか…」
「昔は今みたく魔物駆除協会はなかったからな…僻地にある集落ほど被害の情報は俺達の元に届き難かったんだよ。」
「その所為で逆に不死族の恐ろしさは周知されていたとも言えまするが、確かにルーファスの懸念は良く理解できまする。――しかし予はサイード殿の意見に同意致しまするぞ。」
「リヴ!?」
どうしてだ?俺の懸念はわかると言ったばかりなのに…!!
「――ルー様、わたくしもです。」
「イスマイルまで?でも俺は…!」
てっきり俺の味方をしてくれるとばかり思っていた二人にサイード側へ付かれ、俺は目を丸くした。
「…リヴとイシーがサイードの意見に賛成するのは当たり前だと思うよ。」
「ゲデヒトニス。」
「二人はパーティー太陽の希望の一員である前に、守護七聖<セプテム・ガーディアン>なんだ。君はすっかり忘れているようだけど、君にとって分身である僕がここにいること自体、既に危機的状況なんだよ。――僕は君の力を分割して存在しているんだから。」
「!…それは…」
――そうだった、俺は…
ゲデヒトニスと同期できなくなって以降、彼が別の存在になっているような気がして失念していた。
確かに俺達は分かれていること自体が不自然で、俺の能力が実際よりも半減していることの証拠でもある。
「――決まりですね。プロートン達は私に協力してくれるそうですし、デウテロンに至っては振られた怒りを纏めて不死族に打つける気でいますから、聞くまでもありません。」
「サイード様…俺のその情報って言う必要あるんすか?」
「ありますよ、もちろん。」
苦虫を噛みつぶすデウテロンに、サイードはにっこりと微笑みかける。
「………」
サイード達だけを行かせることに反対なのは、俺だけと言うことか…
「…はあ、わかった。みんなの意見を聞いてからと言ったのは俺だ。ファロの救援要請に向かって貰うのは、サイードとプロートン達三姉弟妹に頼むことにする。…但し四人とも俺と約束してくれ。時間はいくらかかっても構わないから、自分達の身の安全を最優先にすること。ここにいないファロも同じだが、絶対無事に俺と再会することだ。俺は俺でこれから徹夜して魔法石の作成に入る。一緒に行けないのならせめてこれくらいは許して貰うぞ。」
「わたくしもお手伝い致しますわ。」
「俺も俺も!」
「ふむ、予もでする。」
「そうだね。」
こうして結局俺の意見は通らず、サイード達四人だけがエヴァンニュへ戻ることになったのだった。
その後俺はゲデヒトニスやリヴ達に手伝って貰い、徹夜をしてありったけの魔石を消費し相当数の魔法石を作った。
それでもまだ足りないのではと心配だが、魔石とそれに込める魔法には属性相性があり、光属性の魔石は埋没箇所を特定できない限り、光属性の魔物からでしか獲れないのだ。
ラ・カーナへ行くために用意しておいた分では足りず、リヴとゲデヒトニス、イスマイルの三人に対象魔物を狩りにも行って貰ったが、それでも俺が〝これで十分だ〟と思う数にはほど遠かった。
後はサイードの火属性魔法と時魔法、デウテロンの火魔法、プロートンの光属性魔法にテルツォの魔力譲渡の力を合わせて対処、無事に戻ってくれることを祈るしかない。
――そして翌朝五時…
全員で一緒にツェツハの宿を引き払った俺達は、早朝見送りに来てくれたアバローナ達に挨拶をしてラ・カーナ王国側の街門から外へ出ると、少し歩いた所で立ち止まり、二グループに分かれてそれぞれの行く先へとそこから発つことにした。
「それじゃあ、サイード…」
「ええ。」
「何度も言うが、本当に気をつけてくれよ。」
「はいはい、言ったでしょう?私はまだ死ぬわけには行きません。もちろん、プロートン達もファロもです。特にプロートン達はようやく『馴染んだ』ようですからね。」
「え…それは本当か?」
サイードの言う『馴染んだ』とは、俺の魔力で作り彼らに与えた『肉体』が彼ら異霊体の魂と融合し、普通の人間と同じように生きて行けるようになった、という意味だ。
「思ったよりも早かったな。」
「なんすかね…今朝急に自覚しました。もしかしたらルーファス様があんまりにも心配するからじゃないすか?」
「うん、それはあるかも。ルー様から頂いた体だから、テルツォもそれ気にしてたし。」
「…そう言われると私もです。この体は既に〝自分のもの〟として大切に思いますし、ルーファス様にご心配はおかけしたくないと…昨夜はそんなことを考えながら休みました。」
「そうだったのか…」
――俺とプロートン達双方の心の在り方で絆が深まり、器の方が魂との融合を少し速めてくれたのかもしれないな…彼ら三人もある意味『守護七聖』と似たような存在に当たるのかもしれない。
「ルーファス。」
「うん?」
そんなことを考えていたら、突然サイードが両手を伸ばして俺の腕の中へとその身体を預けてくる。
「サ、サイード…?」
俺はそんなに背が高くなく、サイードは俺と殆ど変わらないので彼女の顔は肩口に当たる感じだ。
その青銀の髪からはふわりと良い匂いがして、無意識に背中へ手を回し俺もサイードを抱きしめる。
「どうしたんだ?」
「――いえ…暫く会えませんからね。…あなたの温もりと匂いをしっかり覚えさせてください。」
「ええ?温もりはともかく、匂いって…」
昨夜は徹夜したから、朝軽く水を浴びただけなのに…男臭くないかな?
「あー!!サイード様ずるい!テルツォもルー様に抱きしめて貰う!!!」
「いや、俺昨夜風呂入ってないから…!」
「気にしないもん!!」
そんな俺の言葉も気にせず、サイードは暫くの間俺のことをぎゅっと抱きしめていた。
どうしたんだろう…?寧ろ不安だったのは俺の方なのに、なんだかこれきり別れの挨拶みたいで嫌だな…
「ありがとう、ルーファス。」
「え?あ、ああ…」
なにがありがとうなんだか、良くわからない。
サイードが俺から離れると次は透かさずテルツォが体当たりしてきて、俺よりも身長の低い彼女の頭をよしよしと撫でてあげる。
テルツォは外見もそうだが俺にガンガン甘えてくるので、近頃はなんだか年の離れた妹みたいな感じでいる。
「テルツォも無理するなよ。」
「うん。ルー様も…必ずまた会おうね。」
「ああ。」
不死族を完全に駆逐するのにどのくらい日数がかかるかはわからない。それまで離ればなれになるのは正直に言って寂しいし、名残惜しいがみんなの意見を聞いて決めたことだ。
「――では行ってきます。小まめに連絡はしますから、あまり心配しないでくださいね。」
「わかってる。ファロによろしくな。」
「そんじゃ、ルーファス様。さっさと済ませてちゃんと戻りますから!そうそう、ウェンリーはドジって間違っても殺られんじゃねえぞ!」
「抜かせ、そっちこそ!」
「行って参ります、皆様。」
「気をつけてね、プロートン。」
「デウテロンとテルツォを頼むぞ。」
「はい、イスマイル様、リヴグスト様。」
そしてサイード達はそれぞれが俺に笑顔を見せて手を振り、いつものように転移魔法でエヴァンニュ王国へと消えて行った。
俺は少しの間だけサイード達が発ったその場所を見つめながら彼女らの無事を祈ると、後ろで同じように見送っていた残るメンバーを振り返る。
俺と共に瘴気で汚染された大地『亡国ラ・カーナ』へ向かうのは、俺の中にいるレインフォルスを除いて、ウェンリー、リヴ、イスマイルにゲデヒトニスの四人だ。
暫くはなにがあっても俺を含めたこの五人で対処し、十年間外界と隔たれている既に滅んだ広大な国を渡り歩くことになるのだ。
「――それじゃあ俺達も行こうか。」
俺の掛け声に四人は黙ってこくりと頷いた。
ここからは先ず国境のある東へ向かい、ひたすら道なりに歩いて行くことになる。
「えっと?国境までどんぐらいだっけ?」
俺の右横を並んで歩くウェンリーに、そのさらに外側をゲデヒトニスが歩き、後ろにリヴとイスマイルが続く形で旧街道を進んで行く。
この道はもう長年使われていないため、整備されていた石の舗装は所々が割れてしまい、風で運ばれる細土に埋もれていたりで凸凹して石畳も捲れ上がったりしている。
足下には良く注意して歩かないと、ウェンリーなんかはうっかり躓いて転んでしまいそうだ。
「徒歩で大体6時間ってところだな。順調に行けば昼前後には国境壁へ辿り着けるはずだ。」
「現在も壁が残っていればの話だよね。」
ウェンリーの向こうからひょいと顔を覗かせて、ゲデヒトニスが付け加える。
「ああ、魔法弾の衝撃波で破壊されている可能性もあるな。ただ当時のファーディア王国に人的被害はなかったそうだから、俺は国境壁は未だ残っているんじゃないかと思っているんだ。」
「わたくしもそう思いますわ。ラ・カーナからの瘴気は日の風向きによって流れて来るそうですけれど、国境壁が残っているからこそ大陸中央を縦に分断するアンフアング・シリディナ山脈と合わせて防壁の役目を果たし、そこまでの瘴気は西側に広がらなかったのではないかと推測できますもの。」
「ふむ…だがそうなると、亡国の内側は想像以上に瘴気が濃いやもしれませぬな。」
「そうだな。だからこそ各自に小型の携帯用浄化装置を作って渡したんだ。駆動源に用いたエーテル結晶は半永久的に枯渇しない魔力源だし、俺が何重にも施した保存魔法や占有魔法で盗難や紛失、破壊を気にする必要もない。それがあれば少なくともツェツハに漂っていた瘴気の百倍くらいまでは浄化可能だから、目の前が全く見えないくらいの濃さでも身体に影響は出ないさ。」
俺がサイード達を含めた人数分のそれを用意したのは、一昨日の話だ。携帯用の浄化装置は手の平大の円形をしており、首からペンダントのように掛けて使用する形状にした。
これは身体に沿って浄化魔法の薄い層を作成する魔道具であり、その層を瘴気が通過する時に浄化される仕組みとなっている。
まあ大変なのは一つ目を作るまでで、二つ目以降は幾らでも複製可能だから浄化装置の仕組みさえわかっていればそれほど難しくなかった。
「はあ~、この短期間で良く作れるよな…ほんと。ルーファスの頭の中ってどうなってんだよ?」
ウェンリーは防護魔法石と共に浄化装置も首から提げている(ネックチェーンは一本でペンダントトップを増やす形にした)ため、みんなより若干重そうだ。
「俺の頭の中か…うーん、多分自己管理システムで端から端まで埋まっているような気がする。」
「それって魔法紋と呪文字だらけってことか!?…怖いこと言うなよ!!」
「あははは、冗談だよ。」
「…真実あり得そうで全く笑えませぬな。」
「ルー様に失礼ですわよ、リヴ。」
――つい五日前までツェツハ周辺に漂っていた濃い瘴気は、街の外壁から一定の距離まで浄化装置により消えていたが、それでも進むにつれ徐々に瘴気が漂い出し、やがて立ち枯れた太い木の幹だけが黒く焼け焦げた墓標のように残っている、不気味な森が延々と続き始めた。
ここも十年前のラ・カーナ王国滅亡までは青々とした森が広がり、魔物による命の危険こそ多かったものの林業を生業とする極小さな集落も存在していたらしい。もちろん今はこの森と同じく、そんな集落も消えてしまっている。
「この地面に突き刺さってるみたいな黒いのって、全部元は大木だったんだろ?見てるだけで薄ら寒くなって来るような酷え景色だよな…これも魔法弾のせいなのかよ。」
ウェンリーの素直な感想には俺も同意だ。ここまでの悲惨な光景は(記憶にある限り)俺も初めて目にするからだ。
「うん、元を辿れば…多分そうなんだろうね。」
「それでもわたくしが思いますに、動植物が死に絶えている直接の原因は、やはり後に発生した瘴気のせいだと思いますわ。」
「ああ。瘴気も発生原因とその種類や性質によるが、生物がまともに生きられないほど有害で濃くなると、ここまで自然を完全に殺してしまうんだな。」
瘴気に煙って遠くまでは良く見えないが、延々と遥か彼方までこの光景が続いている…まるで話に聞く焦土と化した死の大地みたいだ。
まだファーディア国内のこの場所でさえこうなら、ラ・カーナ国内は一体どうなっているのか…想像するのも恐ろしいような状態なのかもしれない。
そんなところに本当に生存者がいるんだろうか?レインフォルスの言う『クラーウィス・カーテルノ』という名の人物は、一体どんな人なんだろう。
その人に会えば俺の身体の問題は解決すると言うが、どうやってこの問題がなくなると言うんだ…?
目的の人物にはレインフォルスも会ったことはないと言っていたけど…
『…レインフォルス、起きているか?少し話がしたいんだ、聞こえたら返事をしてくれ。』
――俺は心の中で何度かそう繰り返し彼に話しかけてみたが、暫く待ってみてもレインフォルスからの返事はなかった。
まだ眠っているのか…なんだか日を追うごとに、レインフォルスの起きている時間が短くなっているような気がする。
彼は心配するなと言うけれど、やっぱり俺には隠しているだけで、本当は異変が起きているんじゃないのか…?
「どした?ルーファス。なんか顔色悪いぞ。」
レインフォルスのことを深刻に考えていると、ウェンリーが心配して俺の顔を覗き込む。
「え?ああ、いや…なんでもない。悲惨な景色をずっと見ているせいか、良くないことを考えてしまうだけなんだ。」
「なんだよ、らしくねえな…まあまた瘴気が少しずつ濃くなってるし、魔物すらいねえんだから気も滅入るよな。なんかこの辺見てると、魔物も生き物なんだなって変に思っちまう。それでも結局狩るしかねえんだけどさ。」
「…そうだな。」
ウェンリーの言うとおり、今のところは魔物どころか瘴気の魔物さえまだ姿を見せていない。なんだか不気味なほど静かすぎるくらいだった。
魔物も生き物、か…元はフェリューテラ上の生物がなんらかの要因で変異した物が魔物だと言う説があるくらいだから、確かにそうなんだろう。
普通の動物だって猛獣なんかになれば、魔物じゃなくても人を襲うことはいくらでもある。
それなのに魔物と普通の生物の境界線ってどこにあるんだろうな…
そんなことを考えて溜息を吐き、俺は頭を振って次々浮かんでくる暗い思考を振り払った。
「はあ、確かに気が滅入るな…さっきから俺の頭も碌なことを考えない。ツェツハを出て四時間か…もう半分は越えたけど、少し休憩しようか。」
「そうだね、みんな明らかに口数が減っているし。」
そう言ってゲデヒトニスはイスマイルとリヴを一瞥した。守護七聖<セプテム・ガーディアン>である二人が、この光景を見てなにを思っているのかはなんとなく想像が付く。
もしかしたら暗黒神によって滅ぼされたフェリューテラの未来は、こんな光景ばかりで埋め尽くされているかもしれないからだ。
「そうでするな、ウェンリーでさえ静かでする。…と申しても休めるような東屋さえありませぬ故、この憂鬱な景色の中で直接地べたに座るしかありませぬが。」
リヴも余程滅入っているのか、余計な一言を付け加えてウェンリーの怒りをわざと誘う。
俺達太陽の希望の中で、ウェンリーはいつも自然に場の盛り上げ役を担っており、こう言う時は俺の親友の出番だったりするのだ。
「ふざけんなよ、リヴ!一言多いんだよ!!それにさらに気が滅入るようなこと言いやがって…だったらせめて氷の壁で囲って、周りの景色が見えねえようにくらいしてくれっての!」
ああ、ほらな…ウェンリーは俺達が思いも付かないような、突拍子もないことを言い出してくれる。早速それにイスマイルが反応したくらいだ。
「あら…それは良い案ですわねウェンリー、さすがですわ。でしたらリヴの氷壁にわたくしの魔法で緑豊かな景色を映し込んでみましょうか。気休め程度にしかなりませんけれど、少しは気分転換になるかもですわ。」
「いいね!そうしようよ。ほらリヴ、さっさと魔法で氷壁を作って僕らの周りを囲ってよ。」
そうして最終的にウェンリーへ放ったちょっかいが、全て自分に返って来るのはリヴのお決まりだ。
「んなっ!?なんで予が…氷壁『アイスウォール』はゲデヒトニスも使えるであろう!」
「うん?なんだ、リヴは魔法を使うのが面倒臭いのか?なら代わりに俺が――」
…と横から俺が口を挟んだ途端に、イスマイルが眼鏡をくいっと指先で上げてリヴグストをキッと睨んだ。
「リヴグスト?まさかあなたは、わたくし達の主であるルー様に氷壁を張らせるつもりなのかしら?…瞬殺しますわよ。」
そう言うと同時に彼女は手元へ武器を出現させて構える。
「ひいっ!!!とんでもないわ、ルーファス、予が致す!!いや、致しまする…!!」
「いや、別に俺がしても構わないけど。」
悪乗りして意地悪を言うも、リヴは物凄い勢いで氷魔法を唱え、あっという間に俺達を氷壁で囲んでくれた。
「はは、リヴの方が早かったな。やるじゃないか。」
「嫌味でするか…」
「ゲデちゃんの言葉に素直に従わないからですわよ。」
「ひひ、シルヴァンと同じくリヴもマイルには頭が上がらねえってか。カイゼリンがパーティーに参加したら、こっそり教えてやろーっと。」
「ぐぬぬ…ウェンリー!!!」
ここでそれを言っている時点でもう既に〝こっそり〟じゃないと思うんだが。
その後二十分ほどの休憩を取り、イスマイルの魔法で氷壁に映し出された緑の森と、木の幹を駆け上るリスや小鳥などの小動物を見ながら癒されて気分転換をした俺達は、再度国境を目指して歩き出したのだった。
ところが――
そこから一時間ほど歩くと、僅か数十メートル先すら見えないほどに瘴気の濃度が増して行く。
魔物の姿は相変わらずないものの、瘴気の中に異様な気配を感じるようになった。
「…凄い瘴気だね、先が全く見えない。――それに…みんな気づいてる?もうそろそろ国境壁が見えてくるはずの辺りだけど、瘴気の中に動く無数の気配がある。」
「ええ、索敵に存在は確認できますわ。…非常にゆっくりと移動しているようですけれど…?」
「ああ。恐らく魔物ではないな…ツェツハで戦った瘴気の魔物とも違うような気がする。なんだろう…?」
それは俺の脳内地図に白い信号で表され、秩序なくただ辺りを非常にゆっくりと動いているみたいだ。
街道を歩く俺達には気づいていながら気に止めていないのか、それとも全く気がついていないのか…どちらにせよ特に襲ってくるような感じはない。
「念のため警戒するに越したことはないな。敵対存在である可能性も視野に入れて、できるだけ刺激しないように大きな音には気をつけよう。いいな?」
俺の警告にみんなは黙って頷いた。
そうしてさらに三十分ほど歩くと、今度は逆に瘴気の濃度が薄まってくる。どうやら俺の予想通り未だ健在で、防壁の役目を果たしてくれているらしき国境壁に大分近付いたことで、その付近は瘴気の流れが上手く上へと避けられているみたいだった。
「ルー様、あれを…瘴気の中に黒い影のような大きな建造物が見えますわ…!」
ヒソヒソと小声でそう言ったイスマイルの言葉に、全員が一斉に目線を移すと、確かになにかの巨大な黒い影が旧街道の正面に鎮座しているように見えた。
「…もしやラ・カーナとファーディアの国境にある検問所ではありませぬか?」
「そうかもしれないな。」
「随分デケえな…レカンの国境兵がいる軍施設くらいはあるんじゃね?」
「元は屈指の大国との国境だったんですもの。同盟を結んでいたわけではなかったそうですし、関係は左程悪くなくても民の国交を管理するのにあのぐらいの施設は必要ですわ。」
「うん、そうだよね…でもなんにせよ、ラ・カーナはもうすぐだ。徘徊存在は瘴気の濃い所を好んで動いているみたいだけど、気を緩めないようにしよう。ね、ウェンリー。」
「ゲデ…なんで俺?」
「おまえは特に足下に注意しろよ。いきなり転んで大きな音を立てたりしないように――」
「うわっ!!」
ドサンッ
――遅かった…
「言ってる側からなんで転ぶんだ…?」
「遅えよ、ルーファス!!」
「ちょっと、声が大きいよウェンリー…!」
ザワッ…
その瞬間、俺の脳内地図に表示されていた白い信号が、一斉に赤い点滅信号へと変化した。
「まずい、やっぱりあれは敵対存在だ!!今の音で一斉に気配が変わったぞ!!全員国境に見えるあの建物まで全速力で走れ!!」
「早く立って、ウェンリー!」
「あわわわ…また俺かよ!!」
「早うせい!!」
イスマイルとリヴに引っ張り上げられて立たされると、そのウェンリーを含めた全員で俺達は駆け出した。
まだあの建物までは距離がある…!囲まれる前に辿り着けるか…!?
そう思った俺だったが、直後まるで転移して来たかのように目の前へ現れた赤い点滅信号に驚き、腰のクラウ・ソラスを引き抜いた。
「瞬間移動か!?目の前にいるぞ!!戦闘態勢!!」
「「「「!?」」」」
――それはゆらりと陽炎のように現れ、全体が青く透けた無形の蜃気楼のようでいて、地面にはしっかり影を落としているという、不可思議な敵対存在だった。
「え…どこですの、ルー様!わたくしには見えませんわ…!!」
「地面を見ろ、イスマイル!!敵影なら位置がわかるだろう!!」
「地面…!?あっ…!!」
「まずいでするぞ、既に囲まれておりまする!!」
「なんて移動の早さなんだ…!!みんなを守れ、ディフェンド・ウォール!!!」
「ゲデヒトニス、防護障壁は頼んだぞ!!」
「うん、任せて!!」
ザザッ
そうしてあっという間に数え切れないほどの〝それ〟に取り囲まれた俺達は、ウェンリーとイスマイルを内側にして円陣を組み、その敵対存在からの攻撃に備えた。
ヒソ…ボソボソボソ…
「…?」
攻撃…して来ない?
ヒソヒソヒソ…ボソボソボソ…
「な、なんでするか…?此奴ら…どこからこの音を発しておる…!」
――その声のような『微かな音』は、その不気味な存在達から聞こえているようで、その響きからなにかの魔法呪文のようにも思えた。
「気をつけろ、未知の魔法呪文かもしれない…!」
自己管理システム、この敵の正体はなんだ!?過去に俺が遭遇したことのある敵か!?
ピロン
『データベース検索結果/エーテル・ファントム』『魔法弾に使用された神力により自然発生した瘴気適性生物の新種と推測』『解析結果/無限界生物<インフィニティア・クリアトラエ>に酷似/フェリューテラ固有種と認定』
「!?」
瘴気適性生物…新種!?無限界生物に似ているが、フェリューテラの固有種だって…!?
『対応策/非武装・攻撃態勢解除』『敵対存在未認知/非加攻撃により敵意消失の可能性大』
「前言撤回だ!全員、静かに武器をしまえ…!!」
「ルー様!?」
「しっ!大きな声も大きな音も出すな!相手はそれだけで敏感に反応する、新種の生物らしい…!みんな、俺の指示に従ってくれ、頼む…!」
「り、了解…!」
「予も承知致した…!」
「わかったぜ…!」
「わたくしも…!」
みんなは俺の助言に従い、静かに各々の武器を収めた。
「こちらが攻撃しなければ、相手はなにもして来ないはずだ。そのまま音を立てず、全員動くなよ…!」
――それから一分、二分、と経過したものの、まるで俺達を珍しがってでもいるかのように、その新種生物は暫くの間その場から全く動かなかった。
「ル、ルーファス…いつまでこうしてりゃいいんだ?確かに攻撃はして来ねえけど、これじゃ俺らも動けないぜ…!?」
「辛抱強く相手が飽きるのを待つしかない。ウェンリーは絶対に動くなよ…!」
「わ、わかってるよ…」
そこからさらに五分経ち、十分が過ぎた頃、ようやくそれらは俺達への興味を失ったのか、一体、二体、と徐々に消えて行き、やがてあっという間にいなくなった。
包囲網が解かれ、ほっと安堵した俺達はその場にへなへなとしゃがみ込む。
「よ、良かった…どうにか敵とは思われずに済んだみたいだ。」
「十体二十体どこじゃねえ、物凄い数がいたぜ?どんな力を持ってるのかわからねえけど、さすがにあの数はやべえって。新種だって言ったよな…どういうことだよ?」
各々がどっと疲れたように脱力して地面にへたり込むと、トラブルを引き起こした張本人が真っ先に尋ねて来る。
「俺の自己管理システムによると、あれの名前は『エーテル・ファントム』。魔法弾に使われていた〝神力〟から自然発生した、瘴気適性生物らしい。」
「瘴気適性生物…!?あれで生き物なのでするか…!?」
「ああ。無限界生物に良く似ているけど、新種でフェリューテラの固有種になっている。恐らくだけど…十年前に滅び、人も動物も魔物すらいなくなったラ・カーナ国内で、濃い瘴気の中から生まれたんだろうな。」
瘴気に汚染されて他所から人が入り込めなかったことで、偶然あの生物が生まれたのか?…参ったな、これは予想外だ。
「生命誕生の神秘ですわね、驚きましたわ…つまり彼らには知性があり、これまで外部の生物と接触したことはないために、私達が危害を加える相手だと認識しなかったということですわね。」
「そうだ。最初に赤い点滅信号へ変わったのは、聞いたことのない大きな音と初めて聞く俺達の声に驚いたせいなんだろう。」
「だから武器をしまって動くなって言ったのか…」
「――瘴気の中で生きていられる新種だなんて…僕らがこの瘴気を消したら、敵だと思われるんじゃないかい?」
「はあ…そうかもしれないな。それは後でまた考えることにしよう。――とにかく国境を越えるぞ。あの壁の向こうが、俺達の目指す亡国ラ・カーナだ。」
こうして俺達は思いも寄らない新たな生物に出会し、亡国ラ・カーナとの国境にようやく辿りついたのだった。
次回、仕上がり次第アップします。いつも読んで頂きありがとうございます。




