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Eternity~銀髪の守護者ルーファス~  作者: カルダスレス


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243 精霊殺し

自分の身体を取り戻し、トゥレンとペルラ王女、そして有翼人種のユスティーツを仲間にして新たなパーティーを組むことになったライは、ユスティーツの伝手で魔物駆除協会の運営者である『ギルドマスター』に対面すると、偽名の表記されるIDカードを手に入れることができたのでした。その後、ペルラ王女を送り届けるためにベルデオリエンスを目指し、先ずはシェナハーン王国からメル・ルークへ向かうことに決めたのですが、その前に一度パーティーとして魔物と戦うことにしたライは…

           【 第二百四十三話 精霊殺し 】



 ――シェナハーン王国バセオラ村。


 その日もこの村に、土砂降りの雨が降っていた。


 撥水加工を施したフード付きのマントを羽織り、Aランク級パーティー『豪胆者(アウダクス)』のメンバーである『ラジ・リッツマガン』は、朝の警邏を終えて仲間の待つ食堂へと駆け込んで来た。


 バタンッ


「ひゃー、もうなんなんだよ、この酷え雨!!」


 あまりの土砂降りに彼は堪らず乱暴に木扉を開け、床をびしょ濡れにしながらぼやいた。


「ちょっとちょっと、ラジさん!困るよ床がびしょ濡れじゃないか!!」

「あ、すんません!すぐ拭くから勘弁して~!」

「なにやってんだか…仕方ねえな、手伝ってやんよ。おい、モップどこだっけ?」


 食堂の従業員に怒られ、ペコペコと頭を下げるラジに、同メンバーのオルム・ビルンが手を貸そうと椅子から立ち上がる。

 一見するとそれはなんと言うことのない普段通りの平穏な日常風景に見えるが、そんな中ただ一人、浮かない顔をして窓の外をじっと見ている女性がいた。

 同じく豪胆者(アウダクス)の紅一点であり、サブリーダーの『ペイト・フォートナー』だ。


「もう二日か…()まねえな、この雨。俺らがこの村に来てから、ここまで酷え土砂降りが続くなんざ初めてじゃねえか?」


 そのペイトの様子を気にして隣にスッと並び立ったのは、リーダーの強面大男『フェルナンド・マクラン』だった。


「うん…」

「――おめえがそんな顔してるってこたあ、もしかしてこいつは水精霊が降らせてんのか。」

「…実はそうなのよね。」

「は、なんでまた?ルーファスの奴に言われてっからアレだが、この調子で何日も降らされ続けると東の森にある河とかが溢れちまわねえか心配だ。下手すっとこの村も水害を被るかもしれねえからよ。」

「うん、けど…水精霊達はみんななにかに怒ってるのよ。」

「はん?どういうこった、そりゃ…」

「良くわからない…微精霊達は強く青い光を放っているし、あちこちからずっと囁くような精霊の声がしてる…」


 ペイトは不安げな声で続ける。


「――『精霊殺し』って。」




                 ♦


 ユスティーツの手配で魔物駆除協会(ハンターズ・ギルド)のギルドマスターに会い俺達の守護者情報を保護して貰うことになり、新しく発行された偽名表示のIDカードを受け取って『ダヴァンティ』という名のパーティーを組んだ俺達は、もう一日だけこのバセオラ村に滞在し、明日にはここを発ってメル・ルーク王国を目指すことに決めた。

 だがルーファスが支援して復興されたというこの村は、まだ乗合馬車などの交通手段が整っておらず、近隣に停留所のある街はと言えばエヴァンニュ王国との国境街『リーニエ』と、パスラ山を越えた(それか迂回した)先にある『ピエールヴィ』しかない。

 となると当然、魔物の出現する街道を歩いて行くしかなく、準備を念入りに済ませておく必要がある。

 それと同時に初めてこのメンバーで共闘するのだから、互いの戦闘能力を知っておくことや、実際に魔物と戦って各々の役割を決めておくことも重要だった。

 そのためにパーティーとして低ランクの依頼を請け負って、一度仕事をしてみようと言う話になったのだが…


「――今日も酷い雨ですね…これでは視界が悪い上に魔物の足音すら聞き取れません。慣れない地での戦闘であることを考えると、初見で力を試すのに向かない天候だと思うのですが。」


 宿の部屋から滝のように窓硝子を打つ土砂降りの雨を眺める俺に、困り顔でトゥレンはそう口にする。


 確かに酷い雨だ。昨夜も一晩中バチバチと、窓や壁を打ち付ける雨音が聞こえていた。


 しかし今俺の耳に聞こえるのは、雨音だけではなかった。


「………」

「…ライ様?」


 外に意識を集中する俺を見て、トゥレンが横からちょこちょこ邪魔をする。こいつは〝俺の返事がなければ耐えられない病〟にでもかかっているのだろうか?少しぐらい一人で考える時間を与えてくれると助かるんだが…


「あっ、レンってばまた呼び間違えてる!そうじゃないだろう?」

「はっ、そうでした…リ、『リグ』殿。」

「〝殿〟なんて付けたら他人行儀じゃない。彼はリーダーで僕らはその仲間なんだからさあ。」

「ぐうっ…し、しかし、さすがに呼び捨ては俺にはまだ敷居が高すぎて無理です…っ」

「はあ、ダメダメだね。外へ戦闘しに行く前に、互いの呼び方に慣れる方が先なんじゃないの?」

「私はもう切り替えましたわ、ユスティーツ。ね、レ…()()…」

「わ~、そこで赤くなってちゃ変だよ…」


 どうでも良いが、ごちゃごちゃと煩い…。


 ――それでもトゥレンとユスティーツ、ペルラ王女のそんな会話に交じり、雨音の中からその微かな声は()()()している。

 これはやはりメソタニホブで地竜と化した〝あれ〟のように、俺へ向けられたものなのだろうか?


 そう言えばあの地竜はどうなったのだろう…目が覚めると消えてしまう夢のように殆ど覚えていないが、メソタニホブの街は?

 トゥレン達の話だと、憲兵や守備兵が近隣から駆けつける前に姿を消す必要があり、已むなくユスティーツの転移魔法でここへ来るしかなかったらしい。


 それを知った所で今さら戻ることなどできやしないが…気にはなる。


「で、今度はなに?」


 俺の肩に手をかけ、ずいっと窓を塞ぐようにして目の前に顔を出すユスティーツに、ギョッとして我に返った。


「そういうおかしな覗き込み方をするのはやめろ、ユスティーツ。咄嗟に俺の手がおまえの顔面へ向けて飛び出ても知らんぞ。」

「えー、レンが話しかけても上の空な君が悪いんだよ。どうしてそんなに窓の外を気にしているのかなぁ…なにか見えるのかい?」


 ユスティーツに俺が〝識者〟だと言ってわかるのだろうか?精霊が見えるだの声が聞こえるだのと説明しても、普通は変人扱いされるのが落ちだ。

 ファーディアのツェツハに住んでいた頃、同年代の連中にうっかりそれを漏らして酷い目に遭ったことがある。

 ヴァリアテント・パピールと合わせると、滅んだヘズルを追われてからは碌な思い出がなかった。


「……別に。」


 ――そうだ…どうせならファーディアへ帰り、マイオス爺さんの墓参りがしたいな。

 ここからだとまだまだ遠いが、急ぐような旅でもないだろうし…ギルドで依頼を熟しながら旅費を稼げば帰ることは可能だろう。


 そうだ、そうしよう。


「へえ、そう?」


 俺の嘘を見透かしているような目を向け、それでも深くは尋ねずにユスティーツは短く息を吐く。


「ふうん…まあ、言いたくないならそれでも良いけどね…」

「もう一日滞在を延ばし、この雨が止んでから依頼を受けて試すことにしますか?」

「いや…悪天候の中での訓練を行えると思えばいいさ。どうせこの雨はすぐには止まないだろうからな。」


 恐らくだが…この雨は窓の外に見える数多くの精霊が降らせている。――そんな気がする。


「まあ、リグ…なぜそう思うのです?」

「ルラ、そこは突っ込む所じゃない。ただの〝勘〟だ。」

「勘で天気がわかりますかね…」

「煩いぞ、レン。」


 こいつ、段々と以前の調子が戻って来たな…城にいた頃のように明るい笑顔も見せるようになって来た。

 悪いことじゃないんだが…時々イラッとするのはなぜなんだ。


「ギルマスの好意で俺達は、全員他者に本当の姿がわからなくなる魔道具を頂けて身に着けている。その効果を確かめるためにも宿から出てみるぞ。」

「ルラど…いえ、ルラもですか?」

「当たり前だ。」

「リグの決定であれば、異論はございませんわ。」

「ねえねえ、あのさ~視界と環境はどうにもならないけど、ずぶ濡れにならなくて済む補助魔法なら僕が使えるよ。」

「なに?」


 おい、どうして今になってそういうことを言う?


 ユスティーツの後出し発言に、俺とトゥレン、ルラの三人は同時に突っ込んだ。


「「「そう言うことはもう少し早く」」」「「言え!」」「言ってください!」



 ――数分後俺達は、ユスティーツに雨避けの防御魔法だという『レインコート』を施して貰い、宿を出て先ずギルドへ向かった。

 そこでDランクの依頼を一件だけ受けると、この村の東にある森に生息する『アクエ・タランチュラ』という討伐対象の通常魔物を狩りに行くことにした。

 この依頼は討伐数が決められておらず、十体狩るごとに一定金額の報酬が上乗せされるという初心者向けの依頼だ。

 因みに俺達『ダヴァンティ』の初期パーティー等級は、〝C〟からのスタートとなる。

 ルーファスがリーダーの『太陽の希望(ソル・エルピス)』はAランク級から開始だったようだが、あちらが特別なのであって俺達の方が極々普通だ。

 しかもその日のうちにパーティー等級がSランク級へ昇格するなどあり得ない。


 こう説明するだけで彼らが如何に抜きん出た守護者パーティーかと言うことは、言わなくてもわかるだろう。


 太陽の希望(ソル・エルピス)は間もなくSSSランク級に到達か…一体どれほどの魔物を狩り続ければそこまでになるんだ?


 メンバー構成を見るにルーファスのパーティーは八人がSランク級だ。その他もAランク級が三人にBランク級が一人とその殆どが高位守護者で、加入申請をするには副リーダーと十五分間の模擬戦闘を行い、最後まで立っていなければならないという条件がある。

 いつかはルーファスのパーティーに、と思っていたが、これでは俺など足手纏いにしかならないだろう。


 ここからやり直してどこまでルーファスに近づけるか…それでも今の俺には自由がある。

 バスティーユ監獄で告げた通り、俺は守護者としてもう一度やり直すんだ。


 そんなことを思いながらギルドを出て、土砂降りの雨中バセオラ村の入口へ向かって歩き出した。すると――


「うん?待って、リグ…誰か僕らを追いかけてくるよ。」

「?」


 バシャバシャと追いかけて来る足音に、俺達は一斉に後ろを振り返った。見ると確かにこの雨の中を、ハンターらしき女性がこちらへ走ってくる。

 緑がかった茶髪に橙色の瞳をして、腰には二本の短剣を装備していた。


「人違いではないか?俺達に用があるわけじゃないだろう。この先は村の入口なんだし――」


 そう思った俺だったが、ユスティーツの言葉は正しかった。


「見つけた…!あんただ。その格好、同業者だよね?どこのパーティー?どこからこの村に来て、なにが目的でここにいるの?」


 その女性は真っ直ぐに俺を見ていきなりそう言ったのだ。


「なんだ、女…いきなり無礼だぞ!」

「待て、レン。下がっていろ。」


 今の俺はライ・ラムサスではない。少なくともこの女性は『ライ・ラムサス』である俺に用があるというわけではなさそうだ。

 俺は出過ぎた真似をして庇うように前へ進み出たトゥレンを窘めて押し退けると、その女性に尋ねた。


「同業者と言うことはそちらもハンターに間違いないな。――俺達はCランク級パーティーの『ダヴァンティ』だ。この村へは一昨日の夜エヴァンニュから来て、一時的に滞在しているだけだ。特に目的などはないが…なぜそんなことを聞く?」

「そう…だったら悪いけど、今すぐこの村から出て行ってくれないかな。理由はあんたが一番良く知ってるでしょ?この土砂降りは自分が原因だって、わかってるはずだよね。」

「………」


 この女…まさか――


 殺気はない。だが明らかに〝()()()()()〟警戒している。思い当たる節はと言えば、一つしかなかった。


「なんだと!?初対面でなにをわけのわからないことを…!」

「やめろ、レン。」

「リーダー?しかし…!」

「――悪いがユスティーツ、俺はこの女性と二人で話がしたい。すぐに行くからレンとルラを連れて門の前で待っていてくれないか?」

「…一人で平気なのかい?」

「ああ。」

「そ、わかった。行くよ、レン、ルラ。」

「ユスティーツ!?いや、俺はリーダーと…」

「問答無用だよ。ほら、行った行った。」


 ユスティーツにグイグイ背中を押され、トゥレンは無理やり俺から離されて行った。


「場所を変えよう、こんな道の真ん中で出来る話ではない。」

「問題ないよ、良く見てみなよ。――うちらの周りは今、水精霊達が取り囲んだ。ここでどんな話をしても土砂降りの雨が掻き消してくれるから。」

「水精霊…俺は初めて見るのだが、この青く強い光を放っている浮遊体がそうなのか?」


 やはりこの女も〝識者〟か…


 俺の目に映るこの光景を説明するのなら、氷のように冷ややかな青い光を放つ無数の浮遊体が俺と女性の周囲を取り囲み、まるで特殊な領域を作り出してでもいるかのような状態になっている。


 しかも辺りからひしひしと感じるのは、俺への明確な『敵意』だ。


「〝識者〟の自覚はあるんだね…この村のことを知らないの?ここ『バセオラ』は水精霊の領域で、精霊によって守られている集落なんだ。だから『精霊殺し』のあんたをこのまま滞在させておくわけには行かない…あたしには識者として、この村の精霊の言葉をみんなに伝える義務がある。できればその前に大人しく去ってくれると有り難いんだよね。」


 ――『精霊殺し』。ユスティーツやトゥレン達には言えなかったが、その言葉こそ、雨音に混じり常に聞こえていた『声』だった。


「どうして精霊を殺したの?」


 …そんなの知るか、俺には身に覚えのないことだ。――そう説明してこの女は信じてくれるだろうか?


 難しいだろうが、とにかく事情を話してみるしかない。


「信じて貰えないかもしれないが、俺は知らない。識者としての自覚はあったし精霊に顔見知りもいたが、俺に彼らへの害意は微塵もなかった。」


 俺はエヴァンニュでなにかに身体を乗っ取られ、そのせいで記憶の曖昧な時期があり、気が付いた時には精霊から『精霊殺し』と罵られるようになっていたことを打ち明けてみた。


「その話を信じろって言うの?精霊は同族を殺した存在を嗅ぎ分けることができるそうだよ。だからあんたがなんらかの形で命を奪ったことは疑う余地もない。もしそれが本当だったとしても、あんたは『精霊殺し』だ。」

「それが俺の意思ではなかったとしてもか。」


 本当に俺には身に覚えがないんだ。トゥレンを救ってくれたネビュラ・ルターシュや、クレイリアンのパキュタ達に感謝はあれど危害を加えるはずがないだろう。


 俺は初対面の相手にも関わらず、そう怒鳴りたくなった。


「それはあくまでも〝人間側の都合〟で、精霊達は納得しない…そう言うことだよ。このままだとこの雨は益々酷くなって、近隣の河川が洪水を起こすかもしれない。水精霊達はとても怒っていてこれ以上長引くとこの村が危ないんだ。あんたに少しでも良心があるなら、黙って今すぐ出て行って欲しい。でないとあたしが力尽くで追い出すしかなくなる。」


 言っても詮無いことだが、俺はその言葉に酷く傷ついた。


「は、理不尽だな…」

「そうよ。精霊は自然の守護者であり、フェリューテラの生き物からそれらを守る役目を担ってる。自然はいつだって理不尽で、災害は人間のことなどお構いなしに起こるものでしょ?一度怒らせればもう誰の手にも負えない…精霊を甘く見れば命取りになるのはこっちだ。」


 ――話し合いの余地はないと言うことか…


「…わかった、仲間と話し合って今日中に出て行こう。」

「できるだけ急いで。水の大精霊『ウンディーネ』様はまだ沈黙なさっているけど、微精霊と下級精霊達は今にもあんた達に危害を加えそうだ。一応忠告しておくけど、この辺りではくれぐれも〝水〟に気をつけた方がいいよ。」


 俺は苦笑した。これほどの土砂降りなのに、どうやって水に気をつけろと言うのか。

 空からは絶え間なく降り注ぎ、足下はどこもかしこも溜まりだらけだ。


 俺は女性との会話を終え複雑な心境のまま別れると、足早にユスティーツ達の待つ村門へ急いだ。


「来たね、リグ。」

「大丈夫でしたか?」

「…ああ。」


 ユスティーツ達にどう説明する?…とにかく依頼だけは済ませて、その後にでも出ようと提案するしかないか。


 まさか自分の身に覚えのないことで、ユスティーツが『安全』だと言ったこの村を早々に追い出される羽目になるとは思いもしなかった。


 合流後あの女性は俺になんの難癖を付けて来たのかとしつこく尋ねるトゥレンの顔を〝うるさい〟と手で押し退け、俺達はバセオラ村からほど近い場所にある林へと討伐対象を狩りに向かったのだった。



「討伐対象の棲み処となっている林はこの辺りです。」


 ここには初めて来るのにこの酷い雨の中、やけに確信を持ってそう言い切るなと思えば、トゥレンは左の二の腕辺りに服の上から変わった魔道具の腕輪を嵌めていた。

 それが光を放っていたことから、恐らく目的地を特定するか進む方角を示してくれるような効果のあるものなのだろう。

 俺はそれを見て中々に便利そうだなと興味津々に尋ねてみた。


「おまえ、その魔道具はどうした?」


 するとトゥレンは少し複雑そうな顔をして答える。


「ああ、これですか…これはルラ殿が城を出た日の朝、イーヴと最後に会った際にあいつが渡してくれた物です。――これがあれば地図が当てにならなくなったり、視界の利かない夜間でも目的地の方角を見失わずに済むからと…」

「イーヴが…では軍の研究棟で開発された物かなにかか。」

「いえ、違うと思います。ラ…リグは御存知ないでしょうが、イーヴは昔からこう言った珍しい道具を集めたり、その仕組みを調べたりするのが趣味なんですよ。ですからこれは私物でしょう。」


 トゥレンから出たその言葉に、俺は思わず驚いて目を丸くした。


()()イーヴに趣味などあったのか!?」

「わあ、何気に軽く貶してるよ…」


 透かさず揚げ足を取るユスティーツに、ペルラ王女は傍でぷっと吹き出して微苦笑すると、俺は彼を睨んで文句を言う。


「煩いぞ、ユスティーツ。別に貶してなどいない、少し驚いただけだろう。」


 言い訳させて貰うのなら、あの仕事人間なイーヴに趣味を持つ時間のあったことが驚きなのだ。

 だが言われてみれば確かに、以前守護者から借りて来たという『属性検知機』なる物を俺に試そうと持って来た際は、心なしか声を弾ませていたように感じた。

 あれはあいつがこう言った物に興味があり、好んで弄るのが趣味だったからなのか…


 俺は熟々、イーヴとトゥレンのことをなにも知らなかったなと思う。


「――レン、最後に会った時…イーヴは俺のことをなにか言っていたか?」


 トゥレンが城に残ったイーヴについてあまり詳しく話さないことに、なぜだかふと気になった俺は唐突に聞いてみる。


「…ええ。あいつは俺があなたを必ず見つけ出すと疑いもせず信じていたようで、常にラ…リグのことは合流した後の話ばかりでした。イーヴは城に残りましたが、今も誰よりあなたの身を案じていると思います。」

「そうか…おまえがそう思うのなら、俺もそうだと思っておくことにしよう。」


 案外俺はイーヴのことを好ましく思っていたのだな。――あいつが今トゥレンと共にここにはいないことを、こうまで寂しく感じるとは…


「すまない、ユスティーツ、ルラ。魔法で雨から守られているとは言え、こんな場所で雑談をしている場合ではなかったな。早速索敵を始めて討伐対象を捜そう。」

「うん、了解。」

「でしたら私の知識が御役に立てると存じますわ。」

「ルラ?」


 林の入口でそう言い出したペルラ王女の話を聞くに、彼女はシェナハーン王国内に生息している魔物に限り、大まかな分布域を全て覚えているのだという。


「あ、そうか…ルラはここが母国なんだもんね。」

「はい。あまり口を挟んではと思い控えていましたが、あのバセオラ村も以前とは見違えるほどの復興を遂げており、正直に申しまして内心とても驚いておりましたの。ユスティーツがお知り合いだという守護者パーティーのリーダーさんは、単にSランク級守護者だと言うだけでなく大層な実力者であられますのね。」

「うん?まあそれは否定しないけど…どうして?」


 ユスティーツと王女の会話に俺も興味をそそられ、黙って耳を傾ける。ルーファスに関する話ならば、俺もどんなことであれ聞いておきたいからだ。


 すると王女は国王殿にいた頃、何度も魔物に滅ぼされたこの地域へ守護騎士(ガルドナ・エクウェス)を派遣して被害の調査を行おうとしたそうなのだが、その当時は強力な魔物が多く近付くことも容易ではなかったそうだ。


「報告では複数の変異体が縄張り争いをしている形跡があり、それを守護者に依頼して討伐してからでないと手がつけられないとの話でした。――少なくともその方々はそれらの魔物を難なく討伐したと言うことでしょう?」

「あー…、そこからそうなるのね。僕はまたてっきり…」

「「「てっきり?」」」


 俺とトゥレン、王女の三人がその続きを期待して一斉にユスティーツを見るも、彼はハッとして我に返り慌てた。


「…と、ごめん!なんでもない。危ない危ない、余計なことを言うとギルマスにめちゃくちゃ怒られるんだよ。君らも対面したからわかるだろうけど、あの人〝特定のこと〟に関してはほんとにおっかないからさぁ…あははは。」

「それはなんとなくわかる。」


 俺達三人は顔を見合わせて納得した。


 そうして先を急ぐために魔物除けを用い、ペルラ王女の案内を元にして二十分ほどで討伐対象『アクエ・タランチュラ』の勢力域へと辿り着いた。


 そこはこの豪雨によって水かさの増している小川近くの丘周辺であり、辺りから聞こえて来るのは木々や岩肌を叩き付けるような激しい雨音と、今にも溢れんばかりに川岸へぶつかる水流の破音だった。

 これでは会話すらままならないと思ったが、すぐにユスティーツが互いの声を聞き取りやすくする魔法を使ってくれる。


「やはり視界が悪いな…全員索敵を切らすなよ。魔物駆除協会(ハンターズ・ギルド)の情報紙によると、アクエ・タランチュラは水属性の攻撃に弱いが、水を利用した攻撃に長けているようだ。」


 俺は事前にギルドで配布されている、『魔物図鑑』なる物から調べておいた情報をみんなに伝える。

 これは世界中のハンターにより持ち寄られた魔物の情報から作成された物で、弱点や攻撃行動・固有習性など最新の情報が記されていることから俺達には必須だった。


「だとするとこの環境は我々に少し不利ですね。」

「ああ。でもだからこそ俺達の実力を測るのと訓練には打ってつけなんだ。考えてもみろ、場合によって今後俺達は、すんなり街道を進んで行けるかどうかさえわからない。そうなれば人のあまり立ち入らないような魔物の生息域を通る必要も出てくるだろう?無事にメル・ルークへ抜けられれば余裕も出てくるだろうが、ルラは国内でもし守護騎士(ガルドナ・エクウェス)に見つかるとエヴァンニュへ連れ戻されてしまう可能性が高い。彼女のためにもシェナハーンにいる内は、外見を変えているいないに関わらず細心の注意を払うに越したことはないだろう。」

「まあ…ありがとうございます、リグ。とても頼もしいですわ。」

「良かったね、ルラは感激してるよリグ。」

「おまえはいちいち突っ込むな。」


 そんな風に簡単な説明と注意点を話すと、俺は自分の無限収納から『ライトニングソード』とずっと預かりっ放しだった、トゥレンの『デスブリンガー』を取り出した。


「レン、ここでこれを返しておく。」

「あ…」


 俺は背面装備用の剣帯付きで、鞘に収まったままのそれをトゥレンに直接手渡す。


「以前は俺もおまえも軍人であり、守護者の資格(ハンターライセンス)を所持しているのは俺だけだったから預かっていたが、もうこれは自分で持つんだ。」

「――そうですね…わかりました。」


 軍でトゥレン用に開発されたこのデスブリンガーは、非常に殺傷能力の高い大剣だ。

 それだけにここぞと言う時以外進んで使うことはなく、主に複数の対人戦闘用として奮って来たのだが、この先は魔物相手にも威力を発揮してくれることだろう。


 実は俺は憲兵所へ拘束された際に所持品を全て没収されていたのだが、魔物駆除協会でハンターに支給される無限収納は、登録されている本人でなければ絶対に中のものを取り出すことができないようになっている。

 よって媒体であるカードさえギルドに再発行して貰えれば、再びこうして中の物を取り戻すことは可能なのだ。

 そして有り難いことに、俺の個人資産(主に使い道のなかった給料が殆どだが)もギルドの口座に入れており、たとえ軍籍を抜けても財産までシャールに取り上げられることはない。

 元々はいつかエヴァンニュから逃げ出すための資金にしようと移しておいたのだが、当面はこの金が俺達の生活費になる。

 なにせトゥレンもペルラ王女も稼がなければ、殆ど所持金を持っていないからだ。


「久しぶりだな…相棒。また俺のために働いて貰うが、これからは敵兵ではなく魔物相手におまえを奮わせて貰うぞ。」


 俺が数ヶ月ぶりに手にしたライトニングソードへそんな声をかけると、横からユスティーツがまたひょいっと覗き込んだ。


「なっ、あぶ…っ馬鹿、剣を掲げている時にいきなり顔を出すな!!」

「へーきへーき。ねえ、それってエヴァンニュで開発された魔法剣?多分『対人戦闘用』だよね?」

「…?――ああ、そうだが…」

「ふむふむ…?ははあ、装飾部に嵌め込まれている魔石に、対象物から魔力を取り込んで雷魔法を放つ仕組みなのか…これは『ライトニングウェーブ』と『アブソーブ』が使われてる…?レンの大剣も同じような感じかな。」

「は?さあ…俺はこういうのに疎いので、よくわかりません。」

「どれどれ…」

「わっ!!」


 次にユスティーツはトゥレンが持っているデスブリンガーを覗き込み、具に仕組みを観察し始めた。


「おい、魔物除けの効果が残っているとは言え、既に勢力域には入っているんだ。今はそんなことをしている場合では――」

「あ、こっちはちょっと違うなぁ…まあでも、なんとかなるかな。」

「「なにが?」」


 一人勝手に呟いて完結する彼へ、俺とトゥレンは顔を見合わせて同時に問いかけた。


「この武器さぁ、ギルマスに頼んで改良して貰った方が良いと思うよ。エヴァンニュ国内と他国では魔物の強さが()()()だから。」

「なに?」

「いやいやいやいや、ただでさえ便宜を図って頂いているのに、これ以上〝あの〟ギルマスへご迷惑をかけるのは――(申し訳ないと言うよりも俺は怖ろしいのですが。)」


 その心の声が聞こえて来たトゥレンに、俺も同意だ。ユスティーツにはあのギルマスのおまえに対する青筋が見えなかったのか?


「あははは、このぐらいは大丈夫だって~!ま、今日の所はそのまま戦うしかないけどね!」

「「「(絶対大丈夫じゃないだろう)……」」」


 あっけらかんと笑うユスティーツに、俺とトゥレン、ペルラ王女の三人はただ苦笑するのだった。



 ――そんなやり取りをした後、俺達はようやく仕事に取りかかった。


 ギルドで安価に購入できる『魔物除け』(※初心者ハンターやギルドの協会員、そして緊急討伐発生時に目的地へ急ぐためなどに利用できる忌避剤/専用の解除薬がある)を解除すると、俺達の存在を感知した魔物がすぐに動き始める。


「早速お出ましだ!躯体に細かな短毛の生えているのは『フォレスト・タランチュラ』だ!!討伐対象より弱く、大剣で簡単にひっくり返せるはずだ、頼むぞレン!!」

「了解です!」

「僕はリグを主に魔法で支援するから、ルラはレンを中心にお願い!!」

「はい!!」


 戦闘形態はトゥレンが前衛、俺が中衛を担い、ユスティーツとペルラ王女が後衛につく。

 随時俺とユスティーツ、トゥレンとペルラ王女が組む形で二対一の状況を作り出し、できるだけこちらが優位に立てる形へと戦況を持って行くように心がける。


 因みに最初に現れた敵陣はアクエ・タランチュラが三体とフォレスト・タランチュラが二体の計五体で、フォレスト・タランチュラが前衛、アクエ・タランチュラが後衛という戦闘隊形だ。


「リグ、先ずは様子見だよ!!自分へ向かってくる個体から捌くんだ!!」

「ああ、わかってる!!」


 前衛のトゥレンが真っ先に仕掛け、最も近い位置にいる魔物へ斬り込むと、敵愾心を煽られた個体が早々に捕獲糸を吐く。

 それをペルラ王女の聖魔法による盾で防ぎ、トゥレンがフォレスト・タランチュラの一体を、下から豪快に斬り上げる大剣の攻撃で引っくり返した。


「よし、引っくり返った!!」


 俺は直ぐさま踏み込み、フォレスト・タランチュラの腹へ跳び上がって剣を突き立てようと考えた。だが――


「…!?」


 ――なんだ…身体が異常に重い!?


 まるでなにかが手足に絡みついているかのように、異様に重く感じる。


 仕方なく俺は暴れるフォレスト・タランチュラの頭を足場にして、正面から斜めに心臓部へと剣を突き立てた。

 しかしそれは致命傷に届かず、力を込めて突き刺したはずがその刺さり方が浅かった。


「だめだ、まだ死んでない!!リグ、すぐに下がって!!」


 ハッとした俺の足に、フォレスト・タランチュラが噛みつこうとして牙を剥く。


「ライ様ッ!!」


 ドンッ


「!」


 回避の遅れた俺に脇からトゥレンが体当たりで突き飛ばし、すぐにデスブリンガーで魔物へ止めを刺した。

 直後突き飛ばされた俺は踏ん張ることすらできずに蹌踉めき、そこへ後衛のアクエ・タランチュラから水泡による攻撃が飛んで来る。


「させないよ!!突き上げろ、『グラウンドソーン』!!」


 キンッ…ドンドンドンッ


 すると今度はユスティーツが、地面から魔物を突き上げる棘状の土塊を出現させる攻撃魔法を使い、無様な俺を守ってくれた。


 あまりのことに呆然としながらも、俺はなんとか立ち上がる。


「大丈夫かい!?リグ!!」

「あ、ああ…すまない!」

「ライ様、ここは俺が!!」


 俺以上にトゥレンの方が慌てたのか、すっかり本名呼びに戻っていた。


「レン、また名前!!」


 それをユスティーツに突っ込まれると、トゥレンは〝あ、そうだった〟と言うような顔をしつつもう一体のフォレスト・タランチュラへ向かう。


 ――彼此三ヶ月以上は剣を握っていなかった所為なのか…?ここまで動きが鈍るなど、予想外だ。

 だが俺の身体がそんなにも鈍っているのなら、メソタニホブでのあの動きはなんだったんだ?…いや、その前に、うろ覚えだがパキュタに頼まれ、クレイリアンの集落を襲う魔物を退治した時はもっと普通に動けていたような――


 〝なにかおかしい。〟


 直後から俺は以前と異なる自分の身体に、思いもよらず戦闘で苦戦を強いられる羽目になったのだった。


 ――愛用のライトニングソードは決して重く感じないのに、初めて手に取った時のようにまともには剣を振ることさえできない。

 自分が思い描く通りに戦闘領域を走ることも跳び上がることもできずに、魔物の攻撃が来ると頭ではわかっているのに、回避行動が間に合わない。

 前衛のトゥレンが俺の前で敵の攻撃を引き受けてくれなければすぐに取り囲まれてしまい、そこから後退するにも、もたついてユスティーツの補助なしではまるで素人同然の戦い方になってしまう。


 そうして元の戦い方など知らないはずのユスティーツを含め、トゥレンとペルラ王女も、すぐさま俺の異変に気がついた。


「レン、とにかくこの戦闘を早く終わらせて!!君のその武器ならなんとかなるよね!?」

「え、ええ、お任せを!!」

「リグ、君は後衛に下がるんだ!!そのままじゃ怪我をしてもおかしくないよ!!」

「くっ…わかった、すまない…!!」

「私がリグの守りにつきますわ!!」

「お願い致します、ルラ!!」


 情けのないことに俺は早々に戦線を離脱して、三人が目の前で戦っているのをなにも出来ずに見ていることしか出来なかった。


 ――どういうことだ…?一体、俺の身体はどうしてしまったんだ…


 結局この戦闘はトゥレンのデスブリンガーによる攻撃と、ユスティーツの攻撃魔法でどうにか事無きを得たのだった。


「とりあえず魔物除けを使って入口に戻るよ。今日はもうこれ以上戦うのはやめた方がいいと思う。」

「そうですね、俺も賛成です。」

「………」


 自分の手を見つめながら言葉を失う俺に、ペルラ王女は声をかけることさえ躊躇い、ただこちらを心配そうに見ていた。


「それでいいよね、リグ。」


 ユスティーツに同意を求められたが、俺にそれを否定することはできなかった。


「……ああ、すまん。」



 今日中に村を出るとあの女ハンターに告げた俺だったが、そのことをみんなに話すどころではなく、結局再びバセオラ村の宿へと戻ることになった。

 俺はユスティーツにだけ部屋に残って貰い、トゥレンとペルラ王女にギルドへの依頼完了報告を頼むと、困惑しながら今の状態を相談してみることにした。


 するとユスティーツから意外な言葉が返って来る。


「――やっぱりそうなんだ…」

「やっぱり?…ユスティーツ、なにか心当たりがあるのか?」

「うん、まあね。――僕は君に恩返しがしたいとは前に言ったけれど、なぜ今パーティーを組んでまで同行するのか、まだその理由を言っていないだろう?」

「…ああ、それは聞きたいと思っていた。カラミティに言われて側にいるのではないと言っていたな。まさか俺がこうなるとわかっていたのか?」

「誤解しないで欲しいんだけど、必ずそうなると思っていたわけじゃない。あの欠片(かけら)は君の身体を乗っ取ったりしたけれど、元々は凡ゆる危険から君を守る役目をしていたはずなんだ。だからその力を削いだ分、なにかしらの影響が出る可能性もあると心配していた。それで僕は君について行くことを決めたんだけど…ここまでの弱体化を招くとはさすがにちょっと予想外だよ。」

「弱体化…それでは俺はもう、ずっとこのままなのか?以前のようには戦えないと…?」


 俺の身体を好きなように使ったあの欠片(かけら)が、俺を守っていた?…それだけでも驚きだが、あれの所為でこんなに弱くなったと言うのはもっと信じられない。


 ユスティーツは自分の中で頻りに何事かを考えているのか、暫くの間「うーん…」と言ったきり黙り込んだ。

 そうして数分後、首を捻りながら口を開く。


「…色々と考えてはみたけど、正直に言ってどうしてここまでになったのかがわからない。僕は君自身の素体がどの程度の力を持っていたのか、全く知らないしね。大体あれがいつから君の中にあったのか、そのことも君にはわからないんだよね?」

「…ああ。」


 その欠片(かけら)の正体がわからないのに、いつからもなにもあるものか。寧ろなにか知っているのなら、それを聞きたいのは俺の方だ。


「そっか…だとすると、子供の頃がどうだったとか聞いても判断基準にならないものなぁ…一応聞くけど、自分の身体がおかしいと感じる原因について、全くわからないんだね?関係ないかもしれないけど、村を出る直前にあの女性が声をかけて来たこととか、そのことも考えた上でそう言ってるんだよね?」

「え…」


 ――なんだって…?


「………」

「ねえねえ、なんで黙り込むんだい?」

「いや…」


 あのハンターは『水に気をつけろ』とは言っていたが…


 まさか、水精霊の俺に対する〝敵意〟がなにか関係していた、とか…?その考えには至らなかったな。


 俺は思い切ってユスティーツに俺が〝識者〟であることと、身に覚えがないのに精霊に『精霊殺し』と言われ、敵意を向けられていると打ち明けた。

 本来の俺はこんな悩みがあったとしても、そう安易に他者へ話すことなどないのだが、なぜかユスティーツには素直に打ち明けることができたのだ。


 すると彼は顔色を変えて瞬く間に深刻な表情になった。


「――精霊が敵に回ったのか…」


 そう言った切り、ユスティーツは息を呑んで一瞬言葉を失う。その表情を見るに精霊が敵に回ると言うことは、俺が思う以上の不利益がなにかあるらしい。


「…君は精霊について、どの程度知識がある?」

「あるもなにも…殆ど知らないな。あのハンターは自然を守る役目を担っているとは言っていたが、この村で俺に見える『水精霊』はどれも形のない青い光にしか見えない。それに俺は精霊が見えると言っても、これまでクレイリアンと闇の大精霊にしか会ったことがないんだ。」

「あのね、普通の人は今のフェリューテラで精霊に会うことすらできないんだよ。でもそうか…うん、わかった、僕らは一刻も早くバセオラ村を出るべきだ。君の弱体化には恐らく、欠片(かけら)だけじゃなくて精霊も関わっている。この村から離れて、もう一度魔物と戦ってみればきっとわかるよ。」


 そう告げるとユスティーツは、追々俺に〝精霊が敵に回ること〟の恐ろしさについて説明すると言って、トゥレン達が戻るのを待たずにすぐに宿を出ようと急かすのだった。

 そうしてギルドへ行っていたトゥレン達に相談する間もなく支払いを済ませると、宿を出た所でちょうど帰って来た二人と合流する。

 驚くトゥレン達に事情は後で話すからと俺の代わりにユスティーツが言ってくれ、俺は戸惑いながらも困惑するトゥレンと王女を宥め、バセオラ村を足早に発つことになったのだった。


 結果としてあの女ハンターに言われた通り、なにか事が起こる前に出ることになったのは幸いだったのかもしれない。


 なぜなら俺は、この後も精霊のいる場所へうっかり足を踏み入れる度に弱体化してしまい、何度も命の危険に晒される羽目になったからだ。





 

この所投稿が遅くなってすみません。次回、仕上がり次第アップします。いつも読んで頂きありがとうございます!

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