240 イーヴ・ウェルゼン 前編
エヴァンニュ王国の王城からライがいなくなり、ヨシュアが命を落としてトゥレンとペルラ王女が去った後、遂にイーヴはここまで誰にも隠し続けていた行動に動き始めます。そんなイーヴの過去が明らかになりますが…
【 第二百四十話 イーヴ・ウェルゼン 前編 】
――私の名は『イーヴ・ウェルゼン』。既に廃嫡となったが、ウェルゼン家の心正しき善良なご夫婦を義両親に、約21年間実子として身に過ぎるほどの愛情を注がれて来た。
だが私の中で決して消えることのない憎しみは、義両親との幸せな思い出も血の繋がりのない妹への密かな愛も、復讐へと駆り立てる黒い炎を最後の最後まで鎮めることはできなかった。
それでもただ、今は思う。
かけがえのない大切なものを私自身が全て手放せたことで、胸に残された思いは必ずしも憎しみだけではなかったのだと――
私のことを話せる機会はこれが最後かもしれないので、僅かな同志達以外にも誰とはなしに語っておきたい。
黒百合の花が咲けば私はイーヴ・ウェルゼンではなくなり、卑劣な裏切りによって愛する家族を皆殺しにされ、祖国を戦場に変えられた無念を晴らす為に『イヴァリアス・ウル・シェラノール・ミレトスラハ』に戻るからだ。
先ずはなにから話すべきだろうか…
私はFT歴1968年のそぼ降る雨天の日に、亡きミレトスラハ王国シェラノール王家の次男として生を受けた。
当代のミレトスラハ国王であった父の名は『クラトス・ウル・シェラノール・ミレトスラハ』(享年43才)。
そして母である王妃『グラーニア』(享年39才)は、こちらも既に失われた大国ラ・カーナから嫁いで来た王族であった。
当時の主な家族構成は上記の両親に加え、一番上に長男『キアン』(享年18)、続いて長女『トゥーナ』(享年15)、次女『アウリーラ』(享年11)、の兄一人と姉二人、そして父とは年の離れた異母妹である〝第一王女〟の叔母『ベルティナ』様(享年23才)だ。
こう説明して気付く通り、父と叔母の間にある二十もの年齢差には〝とある理由〟があるのだが、そこにはシェラノール王家が『呪われし血族』と呼ばれるようになった秘匿事項が深く関わっている、とだけこの場では言っておくことにする。
とにかくそんな不吉な別称などまだ知る由もなかった末子の私は、両親と三人の兄姉に愛されて可愛がられ、国が滅ぶまではその幸せが永遠に続くものだと信じて疑いもしなかったのだった。
その私の家族に大きな転機が訪れたのは、国が滅ぼされる三年ほど前に開かれた王家主催の園遊会に参加し、エヴァンニュ王国の王太子だったロバム・コンフォボル(27才当時)が叔母を見初めたことだった。
当時既に各国で相当なやり手だと噂のあったロバムは、何年も前から度々勉学と称し花嫁探しを口実に他国を訪れていたようだが、ミレトスラハには三度目の来訪で初めて叔母に会ったのだそうだ。
私の叔母でありライ様の実母であるベルティナ様は、儚げな印象通り控え目でお優しく、あまり人前に出るのを好まれないとても美しい女性だった。
その日も叔母は園遊会への参加を渋っていたようだが、成人しても未だ婚約者のいない身を案じた父が無理を強いて会場に顔を出すことを命じたのだ。
そのせいで叔母にとっても私の家族にとっても不幸なことに、一目で叔母に惹かれたロバムはその日のうちに婚姻を申し込み、ミレトスラハとの同盟を申し出てまで強引に結婚を望んだのだった。
だが薄らと私の記憶にある限り、叔母はロバムの求婚を頑なに拒んでおり、まだ四才で物の道理などなにもわからぬ幼子の私に、本当は決して叶わぬ恋をしているのだと泣いて打ち明けていた。
そのお相手がどこのどんな男性だったのかは知らないが、のちに叔母がロバムの求婚を受け入れたことからも、やはり結ばれることは叶わなかったのだろうと思う。
私の両親を含め、国力のあるエヴァンニュと婚姻による同盟を結べたことは国と民にとって喜ばしく、北東に国境を接するゲラルド王国とは長年緊張状態にあったことからも、ミレトスラハは二人の結婚を心から祝福していた。
やがて翌年には第一子が生まれ、ベルティナ様は産後の休息を取られるために生まれたばかりのライ様を連れて一時里帰りをなされた。
その時私は、初めて目にした赤子があまりにも小さくてか弱いことに驚き、また自分の兄姉でもないのになぜだか強く運命のようなものを感じていた。
「うわあ、とっても小さいなあ…叔母上、この子の名前はなんて言うの?」
「〝ライ〟よ。私の血統を示す名前を付けて、『ライ・ラムサス・コンフォボル』と言うの。今はまだ王家の決まりで存在を公表できないから、この子が生まれたことをエヴァンニュ王国の国民は誰も知らないの…どうか可愛がってあげてね、イヴァリアス。」
「うん…!」
――触れた指先をきゅっと握りしめる、柔らかくとても小さな手。その血統からシェラノール王家には左程珍しくはない漆黒の髪に、目を開くと特徴的な紫紺と緑のヴァリアテント・パピールが輝いて私をじっと見ていた。
それが記憶にある限り、ライ様との最初の出会いだった。
子供心に短期間だけ滞在し、すぐにエヴァンニュへ戻った叔母と従兄弟のことなど忘れてしまっても不思議はなかったが、私は幸せそうに微笑んでいた大好きな叔母と叔母に抱かれてすやすや眠るその子を、次に会う時までしっかり覚えていた。
その後も理由はわからないが、ミレトスラハまでかなりの距離があるにも関わらず叔母はなにかにつけライ様を連れて戻って来ては、七日から十日ほど滞在して帰って行く、という行動を二年近く繰り返していた。
その度に私は少しずつ大きくなる小さな従兄弟に会えるのが楽しみで、両親に弟が欲しいと強請ったこともあったほどだ。
その願いが叶うことは遂になかったが――
――そうして運命の日は突然にやって来た。
目を閉じて浮かぶ懐かしい一時に思いを馳せる。
客室の絨毯の上に座り、叔母上と小さなライ様、そして四つ年上の姉アウリーラと過ごし、ライ様に私の名前を呼んで欲しくて教えていた日のことだ。
「ほらライ、僕の名前を言ってごらん。イ・ヴァ・リ・ア・スだよ、さあ。」
「あー…いあ、いーあ?」
「違うよ、イ・ヴァ・リ・ア・ス。イー、ヴァー、ほら、僕の真似して。」
「いー、あー!」
「もう、違うってば!!」
二才になったライ様は簡単な言葉を話し始めていたが、兄や姉の名前は前半部分を短く言えるようになっているのに、なぜだか私の名はどうしても〝ヴァ〟が言えず何度教えても『イーア』になってしまう、と言う状態だった。
「ねえ叔母上…ライは少し言葉が遅くない?城下の子供達はこのくらいでもう二語を続けて話せるのに、ライはまだ赤ちゃん言葉がやっとだよ。」
「え?…そうね。…あのね、これはまだ秘密なんだけれど、ライはね…イヴァリアス、あなたと同じように私達には見えないものが見えて、聞こえない声が聞こえているみたいなの。」
「――僕と、同じ?」
「そう。〝識者〟って言うのよ。」
叔母上から聞いた識者というのは、私のように精霊など不可視の存在を視認することができ、それらの存在と会話を交わしたり意思疎通が可能な者をそう呼ぶのだと、その時教えられた。
「――だからね、その分普通の言葉をしっかり話せるようになるまでは、他の子より時間がかかるそうなの。」
「そうなんだ…じゃあいつかもっと大きくなったら、僕の見えているものについてライとなら話せるんだね。楽しみだなあ!」
「ふふ…そうね。それとイヴァリアスの名前はライにはまだ難しいから、呼びやすいように教えてあげてくれると嬉しいわ。」
「ええ…うーん、でも…できればちゃんと呼んで欲しいよ。」
「だったら、先ずは〝ヴァ〟ではなく、〝ヴ〟の発音から教えないと駄目かもしれないわね。」
「…わかったよ。じゃあライ!次はイー、ヴー、って言ってごらん?」
「ぶー?」
「違う違う、イー、ヴ、だよ、ヴ!」
「いー、ぶー!!」
「うわあん!!ライがヴ、じゃなくて、ぶ、って言うー!!」
――私が困っている顔を見るのが余程楽しかったのか、きゃっきゃと手を叩いて笑うライ様は、その後私をわざと『イーブ』と繰り返し呼ぶようになってしまい、悔しくてベソをかく私にアウリーラ姉上は呆れて窘めていた。
「もうそれで良いじゃないの、イヴァリアス!ライはまだ赤ちゃんなのよ。あなたの名前は言い難いんだから、いっその事『イーブ』にしなさい!」
――他愛のない姉弟のそんな会話が、姉との最後のやり取りになった。
いつもの朝、いつもと同じように目を覚まし、いつも通りに勉強をしてその後の時間を城に滞在していた叔母上やライ様に姉上と過ごす。
そうしてそろそろ昼食の時間に差し掛かる頃、急に城内が慌ただしくなったのだ。
多くの使用人や兵士の廊下を走り回る音が聞こえ、どこからか怒声のような、叫び声のようなものまでが届いてくる。
異変に気付いた叔母上は私とアウリーラに部屋から出ないようにとだけ告げて、ライ様を腕に抱き直ぐさま部屋を飛び出して行かれた。
最も年の近かった姉のアウリーラは、見えなくても外の様子に徒ならぬ気配を感じ、私を抱きしめてカタカタ震え出す。
「アウリーラ、いるの!?」
「トゥーナ姉さま!!」
間もなく城の若い近衛兵である『エルンハイゼリン』が、上の姉トゥーナを連れてアウリーラを迎えに来た。
「エルンハイゼリン!」
「イヴァリアス様、すぐに別の近衛兵がお迎えに上がります。殿下はこのままここを動かずに、鍵をかけ見知った者でない限り決して扉を開けないで下さい。よろしいですね?」
「ま、待って!!なにが起きたの!?姉上達はどこへ行くの!?」
「トゥーナ様とアウリーラ様は自分が安全な場所までお送り致します。ですが殿下は姉上様方とは別に避難なさる必要があるのです。どうかシェラノール王家の王子殿下として有事の際こそ騒がず、冷静にお努め下さい。」
「有事の際…わ、わかった、僕はここで迎えが来るのを待てばいいんだね。」
「はい。――ではトゥーナ様、アウリーラ様。」
「待って、エルンハイゼリン。――いらっしゃい、イヴァリアス。」
「トゥーナ姉上?」
八つ年上の姉トゥーナはその時、アウリーラ姉上と一緒に私を強く抱きしめ、生きていればいつか必ず会える、互いの無事を祈ろう。
それだけを告げて部屋を出て行った。
――いったい外ではなにが起きているのだろう。
傍に誰もいなくなり、たった一人室内に残された私は、そう思いながら言われた通り扉へ鍵をかけると、部屋の隅でクッションを抱きかかえ不安に小さく蹲り震えていた。
「イヴァリアス様!!!イヴァリアス第二王子殿下!!!おられましたら返事をされて下さい!!!」
この声には聞き覚えがある…!
やがてどのくらい経ったのか、廊下から私の名を呼ぶ声が聞こえて、その声には覚えがあったことから私は扉に駆け寄り返事をしてしまった。
「ぼ…僕はここだよ!!ここにいる!!」
急いで鍵を開け、廊下を走ってきた複数の兵士に助けて貰おうと身を乗り出すも――
「いたぞ!!ようやく見つけた…!!!」
「…!?」
目の前にわらわら集まって来たのは、隣国ゲラルドの兵服を着て鮮血の滴る武器を手にした見知らぬ男達だった。
「あっ!!!」
未だ曾て受けたことのない乱暴な扱いで強く腕を掴まれ、前髪を無遠慮に上げられて両目のヴァリアテント・パピールを兵士に覗き込まれた。
「青灰色の髪に薄青と金のオッドアイ…間違いないな。よし、このままクラトス王のいる玉座まで連れて行け!!!」
「はっ!!!」
«――違う…ゲラルド王国の兵士には、北部独特の訛りがあるんだ。この兵士達にはそれがない…»
「いやだ、手を放せ!!お前達は本当にゲラルド兵なのか!?」
そう尋ねた瞬間、兵士達から私に向けて強い殺気が放たれるのを感じた。
すると兵達の後ろから、野生の熊のように一際大きな身体の上級兵士が進み出てジロリと私を見下ろしてくる。
兜を被っていたために顔は良く見えなかったが、明らかにこの兵士達の上官に当たるような存在感だった。
「…さすがは〝神童〟と名高いイヴァリアス第二王子殿下だ。齢七才にして大した観察眼をお持ちであられるな。」
「――ここで殺しますか?」
「!?」
一人の兵士が短剣を取り出し、それを私の目の前に突き出してそう尋ねる。エルンハイゼリンには有事の際にこそ、と言われたが、〝殺す〟と聞かされてはとても平静ではいられない。
自分の意志に反してガタガタ震え出す手は、屈強な兵士にガッチリと掴まれており、どんなに逃げ出したくともそれが容易でないことだけは理解していた。
「ならぬ。生きたまま謁見の間までお連れせよとのご命令だ。」
この声…まさか――
「代われ、ここからはわしがお連れしよう。」
「は。」
その声の持ち主が誰なのか気付いた私は、後先などなにも考えられずに呟いた。
「貴公は…エヴァンニュ王国軍王宮近衛指揮官のカーレッジ・ジルアイデン将軍か。なぜゲラルドの兵服を…?」
「ふむ、わしめの声と名まで記憶しておいでか…お会いしたのは数えるほどだと思いましたがな。」
私の名を呼んだ声に聞き覚えがあったのは、それが叔母上に付き添って二、三度城に来たことのある、同盟国エヴァンニュの最高位軍人のものだったからだ。
そうしてその瞬間、恐ろしい考えが頭に浮かんだ。
同盟国の将軍が戦争にこそまだなっていないものの、緊張状態にある隣国の兵服を着て城内に侵入し、部下達は鮮血の滴る武器を手にしている。
その状況から見れば子供の頭でも理解出来た。――裏切りだ。なんらかの目的によって隣国ゲラルドの仕業に見せかけ、同盟国のエヴァンニュが密かに攻め込んで来たのだ。
「ち…父上と母上はどこだ…!」
震える声で尋ねると、将軍は目を細め一言だけ告げる。
「ご心配召さるな、謁見の間にて殿下をお待ちです。」
良かった…少なくともまだ二人とも生きているんだ。――そう思い、私は将軍の言葉に安堵した。
謁見の間までの通い慣れた通路を、乱暴に半ば引き摺られるようにして歩いて行く。
すると途中、城内で働いていたどれも良く見知った者達が、無残にも斬り殺されて物言わぬ屍となり、数え切れないほど横たわっているのを目にする。
「………」
泣くものか。シェラノール王家の第二王子として、裏切り者共に決して涙は見せないぞ。見せて堪るものか。
子供心にもそう思い、血が滲むほど強く唇を噛んで衝撃と悲しみに耐えながら父母の待つ謁見の間へ辿り着いた。
――そこで最初に目にしたのは、長男である兄上第一王子キアンの遺体だった。
「あ…兄上ーッ!!!」
床に大きく広がる血溜まりの中で、青白く血の気の失せたその顔に既に生気はなく、見慣れたヴァリアテント・パピールは開いたまま瞬きをしなかった。
そんな謁見の間でゲラルドの兵服を着た兵士に剣を突き付けられ、玉座に座らせている両親の姿が目に飛び込んでくる。
「イヴァリアス!!」
「ああっ…後生です、どうか末の王子だけは…っ、イヴァリアスだけは殺さないで下さい…!!!」
「父上、母上…っ」
私を見て立ち上がろうとした父上に、泣き濡れた瞳でこちらを見て両手で絶望に顔を覆う母上。
私は二人へ手を伸ばし、すぐにも駆け寄ってその腕の中へ飛び込みたい衝動に駆られたが、将軍は私の腕を掴んで放そうとはしてくれなかった。
「ご報告致します。」
その時後方から足早に駆けてきた兵士の一人が、目の前に立っていた立派なマントの甲冑男に跪き、絶望的な報告を告げる。
「追っ手をかけたトゥーナ王女、アウリーラ王女共に捕らえ、近衛兵共々死亡を確認致しました。」
«あ…姉上…っ、エルンハイゼリン――»
それを聞いた私が涙を堪えて俯くと同時に、母上からは悲鳴にも似た嘆き悲しむ声が上がり、母上は玉座から動けぬまま肘掛けへ突っ伏して泣き崩れた。
「おのれ、よくも…我が息子だけでなく娘達まで…っ!!!」
剣を突き付けられたまま怒りに震える父上は、私に背を向けている目の前の甲冑男を見たこともない怒りの表情で睨みつけた。
「これで残るはイヴァリアスのみとなった。――今一度尋ねる。〝最後の系譜〟にのみ手にする資格が与えられるというシェラノール王家の秘宝はどこだ?言わねば貴様らの眼前で今すぐ末王子の首を刎ねるぞ。」
「…!」
最後の系譜…?秘宝…なにを言っているのかわからないけれど、この声は叔母上の――!?
前年に先代が崩御されその後を継いだ、今は悪い意味で〝やり手〟だと噂されているエヴァンニュ王国の現国王。
背を向けられており顔を確かめることこそできなかったが、その甲冑男は間違いなく叔母上の夫でもある新王ロバム・コンフォボルだった。
ロバムは私の命を盾に取り、『シェラノール王家の秘宝』とやらの在処を父上から聞き出そうとしていた。
だが私はまだ子供だったせいなのか、そんなものの存在など全く聞いた覚えはなく、その私でさえ知らないことをなぜ同盟国の国王が知っているのかと疑問に思った。
父上は「あれは秘宝などではなく、決して手にしてはならぬもの、という意味で最後の系譜に言い伝わるものだ」と説明していたが、ロバムは納得せず兵士に命令すると王妃の玉座から嫌がる母上を引き摺り下ろし、父上と私の目の前で一太刀の元に母上の首を刎ね飛ばした。
その時見たあの男の、どんな魔物よりも恐ろしい冷酷で非情な目をしたその顔を…私は生涯決して忘れることはできないだろう。
――ロバムに刎ね飛ばされた母上の首は、その鮮血を浴びた私の元へ転がって来ると、まだ涙が零れ落ちているのに、瞳孔が開いてその輝きが失われるまで悲しげに私のことを見つめていた。
私が母上の死に恐慌を起こして悲鳴を上げると、将軍は私の口を押さえて叫び声を上げるな、と鬼のような形相で脅しをかけた。
このことは後になってわかったことだが、もしも将軍が脅さずに私が泣き叫び続ければ、苛立つロバムに容赦なくその場で斬り殺されていたらしかった。
そしてこの後父上は、母上の亡骸を前に膝を折り、私の命だけは助けることを条件にして秘宝の在処を教えてしまう。
ロバムは直ちに兵士へ命じてそれのある閉ざされた扉を確認に行かせると、父上が真実を教えたことに納得してこう告げた。
「――最後に言い残すことはあるか?」
「…ない。死ねばなにもかもが無意味になる。今さらなにを言ったところでどうにもなるまい。イヴァリアスを殺さずに生かしてくれればそれだけで良い。」
「ふ…愚かな。誰が必ず約束を守ると言った?」
「な…なに?」
「貴様の家族はなぜ屍と化している?この私が裏切って手を下したからであろう。にも関わらずなぜ裏切り者の言葉を安易に信用できるのか…だから貴様の国は滅ぼすしかなかったのだ。」
「ロバムーーーーーーーッ!!!!ぐああっ!!!」
「冥界にて好きなだけ私を恨むが良い。不死族と成り果て恨みつらみを言いに現れても構わぬぞ。その時はまた、私が貴様に手を下すまでだ。」
「お…のれ……イ、イヴァ…リア…ス…、逃げ……」
「ち…父、上…?父上ーーーーーーーッ!!!!!」
――そうして最後には父上も、私の目の前でロバムの剣に貫かれ息を引き取ったのだった。
兄上の遺体を見、姉上達が殺されたことを聞き、母上が目の前で首を刎ね飛ばされ、父上が刺し殺されたのを目の当たりにした私は、その時点で精神の方が耐えられずにぷつりとなにかの糸が切れてしまった。
その後はどこか遠くに、ロバムと将軍の会話を聞いていたように思う。
「陛下、イヴァリアス殿下を如何なさるおつもりですか?」
「――無論、殺せ。」
「…っ陛下!!」
私を殺せと命じるロバムに、将軍は諫めるような声を上げる。
「しかしそれでは〝最後の系譜〟が手にすべき秘宝も手に入らなくなるのでは…!?」
「愚か者が、私がなんのためにベルティナを娶ったと思う?ライがいるであろう。」
«…ライ?…叔母上…»
ぼんやりと聞いていたその会話から、その時私は漠然とあることを思い出していた。
ロバムが口にしていた『最後の系譜』という言葉…あの男は知らなかったようだが、シェラノール王家のその言葉は世間一般の常識とは少し意味合いが異なっているのだ。
シェラノール王家にとっての『最後の系譜』とは、単なる血族の末裔を表す言葉ではなく、第一に一度でも王位に就いたことのある直系男児と、とある儀式によって認められた正妻の間に産まれた子孫であることがそう呼ばれる必須条件なのだ。
その点で言えば、ライ様の母御であるベルティナ様は実は祖父の後妻との間に産まれた第一王女であり、後妻は儀式を通過していなかったことから、シェラノール王家の血を引いていることに変わりはなくとも、その息子であるライは最後の系譜となり得ない子孫だった。
どうやら叔母上はそのことをロバムに教えていなかったようで、この状況で言えばそれは間違いなく私のことを表す言葉だったのだ。
――そうか、ロバムはこのことを知らないんだ。ならば僕が殺されたら、この裏切り者の目的は絶対に果たされない。
…悲しみの中にあってそう安堵したことを覚えている。
「シェラノール王家の秘宝はあれが受け継ぐべき物だ。即ちそれは我がエヴァンニュ王国の物となる。――理解したらさっさと殺せ。」
「陛下、どうか今一度お考え直し頂きたい…!イヴァリアス殿下はわしの息子よりも遥かに幼い子供ですぞ!!陛下にはわしなどの思いも及ばぬ深きお考えがあるのでしょうが、救命を条件に秘宝の在処を聞き出しておきながら、今際の際の願いすら無碍にするのはさすがに居た堪れませぬ…!!」
「もう良い、ならば私が手を下す。…そこを退け、ジルアイデン。」
「へ、陛下――」
その将軍『カーレッジ・ジルアイデン』王宮近衛指揮官は、ロバムに私の命乞いをしてくれたが聞き入れられず、結局はその命令に従う旨の選択をして、私を兄と両親の元から引き離し城の外へと連れ出した。
「――このような鬼畜の所業を国のためとは言えど、身命を賭してお仕えすべき我が国の国王陛下がなさるとは…わしはお仕えすべき主君を見誤ったのか…っ」
為す術もなく将軍に抱えられ、城の裏手にある川沿いの土手まで連れて来られると、将軍は私を地面に降ろし、腰の剣を引き抜いて振り上げた。
既に精神的な衝撃で泣くこともできず、まるで感情の全てが麻痺してしまったかのように、恐怖すら感じられなくなりつつあった私は、なんの抵抗もせずにただそれが家族達の向かった死へと誘なってくれる瞬間を待っていた。
ところが――
「…やはりできぬ…っエルガーよりも幼い子を、なぜこの手で殺せると言うのか…ッ!!」
将軍はガシャリと地面に剣を落とし、私の前でガックリと膝を着いて項垂れた。
「国と陛下のために戦場を駆るは幾らでもできようが…これはわしの信念に反し、妻や息子に二度と顔向けならぬような行いであるぞ…!!やがてこの子が復讐のために陛下のお命を狙う日が来るとするのなら、その時こそわしが手を下せば良いではないか…!!」
一人ブツブツと呟く将軍は、暫くすると近くを通りかかった兎を殺し、その血を自分の顔や鎧に擦り付けて私の衣服を引き裂きながら剥ぎ取った。
裸にされ寒さに震えていると将軍は鬼のような形相から、どこにでもいる中年過ぎの男性へその表情を変え、哀れむような目をして私に言った。
「――良くお聞きなさい、イヴァリアス殿下。これからわしは殿下をこの荒ぶるウラガン河に投げ入れます。さすれば殿下が生き残れるかどうかは神のみぞ知ることでしょう。だがもしも命あらば御自身がシェラノール王家の第二王子であったことも、ご両親とご兄姉がロバム陛下によって殺されたことも全てお忘れになり、身を隠して天命を全うされるようにご忠告申し上げておきます。それでもどうか…殿下が生き残れますよう、わしだけでもお祈り致しましょう。」
――シェラノール城の裏手にあったウラガン河は、将軍の言葉通り非常に流れが速く、毎年河に落ちた者が何人も溺れて亡くなるほど深く幅の広い大河だった。
将軍は私を隠して遠くへ逃がすこともできず、殺したという証をなにかしら持ち帰らなければならなかったこともあり、命運を天に託す選択をしたのだろう。
いや、それしか他に私を殺さずに済む手段がなかったのだ。
そうして私は裸のまま問答無用で河へと投げ込まれた。
泳ぎも知らず身を千切られそうな水の冷たさが肌を刺し、抗うことのできない激しい流れに飲まれて私はそのまま溺れ死んでしまうはずだった。
――その後どのくらい日が過ぎてからだったのだろう。
普通であればまともに生きていられるはずはなかったのに、私は遥か遠く隣国まで急流により流され、運良く旅行に来ていた義両親のウェルゼン夫妻に河から救い出されたらしかった。
その辺りの記憶が曖昧なのは、ジルアイデン将軍に全てを忘れて生きるよう忠告されたせいなのか、私は自分の身に起きた悲惨な出来事の殆どを忘れてしまっていたからだ。
それにも拘わらず、どこかに直前の幸せだった最後の思い出が微かに残っていたのか、義両親の優しい問いかけに自分の名前を『イーヴ』とだけぽつり答えたのだそうだ。
元の身分が王族であったことを示すような衣服は着ておらず、ショック状態で長期間茫然自失だったらしい私だが、河から救い出された当時の姿は青灰色の髪色に瞳は薄青と金のヴァリアテント・パピールだったはずだ。
普通ではまず見られない特徴的な外見に、義両親がなんの疑いも持たなかったとは思えないが、ウェルゼン夫妻は私の具合がある程度まで回復すると、すぐに旅行を取りやめて遠い自国へと一緒に連れ帰ってくれたのだ。
その帰国先が仇であるロバムの治めるエヴァンニュ王国であったのは、運命だったとしか言いようがないだろう。
――帰国したばかりの当初半年ほどは、義両親の本宅があるプロバビリテではなく、メクレンの街外れにある別宅で過ごした。
ウェルゼン夫妻は記憶を失いどこの誰とも素性の知れぬ私を親身になって世話して下さり、一月ほどの後にはただ子供がいないという理由だけで引き取ることを決め、貴族院に『実子』とまで届け出て我が子として迎え入れることにしてくれたようだった。
そうして私はその日から『イーヴ・ウェルゼン』となり、このエヴァンニュ王国で生きて行くことになったのだ。
記憶がなくても悲惨な経験は私から子供らしい感情を奪い、声を上げて笑うことも悲しみに涙することも失わせていたが、それでも実の子に接するのと同じように惜しみなく注がれる義両親からの愛情を受け、私は少しずつ心を開いて行った。
やがてエヴァンニュ王国へ来てから一年が経ち、淀みなく義両親を父上、母上、と呼べるようになった頃、私はプロバビリテのウェルゼン家本宅に両親と帰ることになった。
この頃には既に私の髪は義両親と同じ『薄茶色』に瞳も同色となっていたが、これは義両親に心を開き始めたばかりの頃、無意識に両親と異なる姿をしている自分が嫌で自ら魔法をかけてしまったことによる変化だった。
シェラノール王家では三才から魔力操作を学び始め、その過程を終えるとすぐに初級魔法から全般を広く教わり始める。
もちろん生まれ持った素質から使用可能な属性に制限はあれど、その中に身を守る術の一つとして教えられていた、初級の外見変化魔法を知らない内に発動していたのだろうと予想は付く。
エヴァンニュ王国の国民は皆魔法を使うことはできないが、義両親はある日突然私の髪色が変わっても、まるで本当の息子を得たようだ、そう言って驚きながらも微笑んで抱きしめてくれたのだ。
そんな両親には今も心からの感謝しかない。
――プロバビリテに引っ越すと、古くから親しい付き合いがあると言う隣宅パスカム家の一家に初めて紹介されることになった。
無論私のことをパスカム家のゼライン叔父さんはなにかしら聞いておられたと思うが、私は長い間事情があってメクレンの別宅にいたと言うことになり、ここでも実子として会うことになったのだ。
そこで出会ったトゥレンは私が無表情で感情を失っていてもまるで意に介さず、初対面でも数年来の友人のようにこの時から私を様々な出来事に巻き込んでくれた。
私は今でも感情を表に出すのは苦手だが、それでも失っていた心を取り戻し、泣いたり笑ったり時に怒りをぶつけたりすることが出来るようになったのは、全てトゥレンとの友人付き合いのおかげだった。
そうしていつしか隣にいるのが当たり前となった身体の大きな親友は、私が望みもしないのに同じ道を歩むのが当然とばかりに自分の夢にまで付き合わせ、その屈託のない笑顔を向けながら、将来は父のように軍人となり、父が叶えられなかった王宮の近衛隊に所属するのが目標だと明るく語ってくれる。
私の方もトゥレンが気の置けない親友となってからは、特にやりたいこともなかったためトゥレンと共に王都の士官学校へ入ることを、なんの抵抗もなく決めてしまう。
だがその決断が、私の中で眠っていたあの日の記憶を蘇らせてしまった。
――プロバビリテの貴族が通う幼年学校を卒業して十二才になり、王都にある全寮制の士官学校へ入学した当日、初めて式で祝辞を述べる国王陛下の姿を見、私はあの恐ろしい記憶を一瞬で全て思い出したのだ。
そのまま入学式で倒れ、寮に入る早々三日三晩高熱に魘され続けたが、ロバムに殺された愛する家族の記憶は二度と失われることはなかった。
落ち着きを取り戻し、自分が何者であったのかを思い出した私は、ここまで愛し育ててくれた義両親への感謝と実の両親や兄姉への思いに板挟みとなり、そこから暫くはどう生きて行けばいいのかと悩む日々を送っていた。
もしも義両親に実の娘である妹のアリアンナティアが生まれていなければ、私は嫡子としてウェルゼン家を継ぐことを優先し、ジルアイデン将軍に言われた通り天命を全うすることを望んだかもしれない。
だが私は自ら身の内に湧き上がる黒い炎に心を委ね、事実を捻じ曲げられて滅ぼされた祖国と殺された家族の無念を晴らす道を選んだ。
そうと決めれば、トゥレンと共に士官学校へ入ったのは幸か不幸か正解だった。
ウェルゼン家はパスカム家と並ぶ貴族であり、実子として籍がある以上は身元が保証されている。
これなら努力次第で近衛どころか、憎きロバムの側近に取り立てて貰うことも不可能ではないだろう。…そう思った。
その日から私はそれまで以上に徹底して感情を隠し、魔法で自分は『イーヴ・ウェルゼン』であるとの暗示をかけ、どこで誰と会おうとも無表情の仮面を被り続けた。
ただ唯一親友であるトゥレンにだけは、思い詰めると張り詰めた感情を見抜かれてしまうため、その演技を続けるのはかなり難しかった。
逆にその分トゥレンの前でだけは素の自分を見せられる時があり、そのおかげで長い間自分自身を偽ることが可能だったとも言えるだろう。
士官学校に入学して一年も経つと、私とトゥレンは常にその成績を主席、次席で維持するようになる。
トゥレンは体力お化けで、見事なまでにゼライン叔父さんの剣才を受け継いでいたが、私の方は元々王家による英才教育を受けていたのだから、並の者よりかは武器を扱えて当然だった。
日々の時間を学生生活で消費して行く中、私は影でひたすら祖国に関する情報を集め、素性を隠しつつ国では禁止されている闇組織『賞金稼ぎ連盟』に依頼しながら、復讐への糸口を探し続けた。
どれほどロバムが憎くとも、なにも知らないトゥレンを巻き込むつもりは毛頭なく、かと言って一人ではなにも出来ない。
だから私は少しずつ信用出来る伝手を増やしながら、シェラノール王家に仕えていた忠臣に一人でも生存者がいないかと同志を探していたのだ。
――そんな折、情報のみを扱うという特殊組織『ピロフォリエス』の存在を知った。
私はこの頃から士官学校の訓練では到底足りぬ〝対人戦闘技術〟を学ぶために、十三にして賞金稼ぎの仕事を始めており、そこで得た報酬の全てを注ぎ込んで有りと有らゆる情報を手にする手段を得ることにした。
そうして最初に『イヴァリアス』である私に接触して来たのは、あの日姉のトゥーラとアウリーラを迎えに来て城から逃げた後、ロバムの追っ手によって殺されたのだとばかり思っていた近衛兵『エルンハイゼリン』だった。
当時エルンハイゼリンはまだ十代の若さだったが、その実力は剣聖に匹敵するほどの才を持っていた。
それなのにエヴァンニュ兵如きに殺されたとは俄に信じられなかったが、彼は別の近衛兵に姉上達を託し、私を助け出すために城へ戻ってくれたらしかった。
しかし残念なことに入れ違いとなり、彼が辿り着いた時には全てが終わり、シェラノール城は業火に包まれていたという。
両親と兄、そして姉が殺されたことは城から逃げた兵士の証言で知ったそうだが、唯一人私の遺体を誰も見ていなかったことから希望を捨てたことはなかったと言ってくれたのだ。
エルンハイゼリンによるとロバムに復讐を誓う同志は少数だが他にもおり、私の存在を発見できたことで今後は更なる仲間を集められるだろうと、彼はその忠誠を私に捧げてくれる。
しかしこの時の私はまだ十三の子供に過ぎず、本懐を遂げるには如何せん幼な過ぎた。
そこで私は人知れずエルンハイゼリン達から魔法や剣技を学び、時が来るまで自らを偽って力を蓄えることを決めた。
遠い祖国の情報を集めるのはエルンハイゼリンや情報ギルドであるピロフォリエスを利用し、どれほど憎しみが募ろうとも耐えて耐えて耐え抜くことを誓ったのだ。
やがてトゥレンと共に士官学校を主席、次席で卒業した私は、願い通りロバムの目に留まり、側近候補としての教育を受けられることになった。
これで復讐への足がかりができた、そう思ったのだが、私とトゥレンが仕えるのはロバムではなく王太子にだと聞かされる。
それでは目論見が外れ、ロバムへの復讐が遠のいてしまうだろう。
なんとか国王付きになれないかと日々城勤めをしながら手立てを考えたが、今から五年前、再び私に大きな転機が訪れた。
「――は…?今なんと仰ったのですか、国王陛下。」
それはトゥレンと私が側近教育の殆どを終えた頃のことだった。
「公式に発表はされておらぬが、我が国にはシャールの上にもう一人真の第一王子がいる、と言ったのだ。」
なにやら重大な話があるとの呼び出しを受け、トゥレンと共にロバムの自室にまで足を踏み入れる機会を得た私は、その時国王の私室を見る好機の方に気を取られていたのだが、その話を聞いた瞬間に動揺してしまい平静を装うことに必死となる羽目になった。
――真の第一王子だと…聞くまでもない、ライのことだ。
すぐにそう思ったからだ。
士官学校へ入り記憶を取り戻してすぐに、あの日同じく城にいたはずのベルティナ叔母上とライがどうなったのかを、私は真っ先に調べた。
国からの公式発表では、前王妃ベルティナ様はミレトスラハへの里帰り中にゲラルド兵の手で殺されたことになっている。
だがそんなはずはない。あの襲撃はゲラルドの仕業に見せかけたロバムの裏切りにより行われた謀略だからだ。
ではベルティナ叔母上は…叔母上も一緒に…?あれほどしつこく望んで婚姻を結んだ叔母上のことまでも、あの日ロバムはその手にかけたと言うのだろうか?…信じられない。
『私がなんのためにベルティナを娶ったと思う?』
私が謁見の間で聞いたあの言葉から推測するなら、叔母上に一目で心を奪われたと求婚しておきながら、その実はあくまでもシェラノール王家の秘宝が目当てだっただけで、あの優しく美しい叔母には欠片の愛情も抱いていなかったと言うのが真実なのか…
…許せない。
叔母上の死についてはロバムの仕業であろうことは想像に難くなかったが、では叔母上の腕に抱かれて部屋を出て行った、私の可愛い従兄弟――ライは一体どうなったのだろう?
シェラノール王家の秘宝を手にするのが『最後の系譜』であると知っているのなら、ライがいれば手に入ると思っていたロバムがあの子を殺すはずはない。
それなのに国民に知らされているこの国の王子は、救いようのない我が儘で周囲を悩ませている馬鹿王子の『シャール』だけだ。
ならばライは王城のどこかに監禁されてでもいるのだろうか?今の私が十二になっているのだから、五つ年下のライは七つにもなっているはずだ。
もしどこかに隠しているのだとしても、この国にいるのであれば幾ら王家と言えど情報ギルドが調べて一切なにも掴めないはずはない――
だとしたら、ライはロバムの手には落ちなかったのだ。
――そう結論づけた私は、異変に気付いた叔母上が咄嗟の機転でライを誰かに預け、あの城からどこかに逃がしたのではないかと推測していた。
しかしこの日、どこか遠くで安全に暮らしていると思っていたライが、その執念で遂に探し出したと言わんばかりのロバムよって、ファーディア王国のツェツハと言う街で暮らしていることを知らされたのだった。
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