239 一番目の獣 ④
ノアディティクと思われる声の警告を受け、メソタニホブの街からアラガト荒野へ間一髪で逃れたトゥレンは、黒い霧のような気体で包まれていく街影を遠くに見ながらライの身を案じていました。尽きることのない不安に居ても立っても居られずに、遂にはキャロに飛び乗って単身街へ戻る行動に移ってしまいました。街へ戻るトゥレンがそこで目にしたのは…?
【 第二百三十九話 一番目の獣 ④ 】
「一体メソタニホブの街では今、なにが起きているのだ…?」
まるで生誕祭や国際商業市の終夜祭時のように、花火のような光が絶え間なくあの暗雲の下で明滅している。
以前似たような光を見たことがあったが、あれはルクサールが原因不明の火災などにより被災した夜に遠くから見えたものと同じではなかろうか。
――だとするとノアディティクの警告通り、メソタニホブの街はルクサール同様本当に消えてなくなるのか?
メソタニホブの街から逃れ、アラガト荒野からその方角を見ていたトゥレンは、どこへ行く、と自分を引き止めたハンターと共に困惑しながらその光景から目が離せなくなった。
ノアディティクはライ様がご無事だとも言ったが、本当に?
不安だ。やはり今すぐ街へ戻り、ライ様をお捜しした方が良いような気が――
「お、おい…キャロだ!!鉱山夫の移動車両、キャロが複数台こっちへ来るぞ…!!」
『キャロ』とはメソタ鉱山への行き来専用に作られた、人員輸送用の小型駆動車両のことだ。
一度に五、六人しか乗れず、長距離移動には不向きで、本来はアラガト荒野を走るのにも向かない。
そのキャロが七台ほど連なり、街からではなくメソタ鉱山の街道門の方からやって来るのが見える。
街から逃れた避難民を守るハンター数人が、キャロから降りて来た鉱山夫達に駆け寄った。
「あんたらみんな無事だったのか!!」
そう言って声をかける彼らは、鉱山夫達の青ざめた顔色を見てすぐに異変を察したようだった。
「おい…、メソタニホブから避難したのはたったこれだけか…!?他の住人達はどうした…!!」
血相を変えて詰め寄る鉱山夫に、俺は横から口を挟んだ。
「地震の後、様子がおかしいことに気付いて街から逃げるように声をかけたが、住人の大半が動こうとせずここにいる者達以外は多くが避難を拒んだ。その様子…メソタ鉱山でなにがあった?」
「あんたは?」
「俺はBランク級ハンターのレンだ。普段はこの辺りを彷徨いている魔物の姿さえも今は消えていると聞く。なにか予想もつかない異変が起こったのではないか?」
俺がそう尋ねると鉱山夫達は皆、自分の見たものが信じられない、と言うような顔をして押し黙った。
「俺から説明しよう。」
そう言った五十代半ばくらいの男性は、メソタ鉱山の責任者だという。その鉱山長から聞いた話は、到底俄には信じられない内容だった。
「ふ…不死族、だと…!?それがメソタ鉱山の地下深くから溢れ出て来たと言うのか…!?」
「な…それはまずいぞ!!不死族に飲み込まれた街は、大地も空気も瘴気に汚染されて復興すら叶わないと聞いている…!!この国には不死族が出現したことは殆どないから民間人は知らないだろうが、他国ではそれによって二度と人の住めなくなった地域が幾つも存在していると耳にしたことがあるんだ…!!」
「それは間違いないのか!?事実なら急いで魔物駆除協会に報告しないと…!!いや、国にも伝えるべきじゃないのか!?」
一瞬にして守護者達が騒然となり、その様子から相当な一大事だと察した鉱山夫達は愕然とした。
「長距離移動には不向きだが、誰かすぐにキャロでメクレンへ向かい、急いでギルドに不死族の出現を伝えに言ってくれ!!」
「俺が行こう。俺はAランク級守護者だ。一人でもアラガト荒野の魔物にある程度は対抗できるだろう。それとできれば鉱山長、あんたが一緒に来てくれ。不死族には無闇に近付くことはできないから、姿を見た人間が証言してくれなければ上に報告を上げても信用して貰えないかもしれん。」
「いや、俺は――」
「行ってきてくれ、鉱山長。副長は出てくる様子がねえし、ハンターの言うことが正しければメソタニホブには多くの救援が必要になる。そのためにもある程度の地位がある人間でないと話を通して貰えねえだろう。」
余程信頼されているのか、その鉱山長へと鉱山夫達からは一斉に頼む、という声が口々に上がる。
そうして説得に折れた鉱山長はAランク級守護者の一人と、幼い子供を連れた母子三組のみを連れ、直ちにメクレンへと出発して行った。
――選りにも選って不死族だと…?それが真実ならメソタ鉱山はもう終わりだ。俺はハンターに成り立てだが、Sランク級守護者であるファロ・ピオネール殿から他国の魔物について話だけは聞いたことがある。
不死族を倒すには『昇華』という特別な力が必要であり、それを使用可能な魔術士自体がとても数少ないのだと言う。
しかも不死族は生きた人間を屍に変え、次々に仲間を増やして行くらしい。だとすれば街に残っていた住人は、その殆どが既に不死族へ変えられていると見做すべきだろう。
たったそれだけでも、いったいどれほどの数不死族が街を徘徊しているのか…想像するだにも恐ろしい。
ライ様の友人であるジック殿とパルド殿も、こうなっては助け出すのがかなり難しくなるだろう。
あの教会に留まり、どの程度まで生き延びられるか検討もつかん。魔物駆除協会に報せることで対抗可能な守護者が見つかり、なんとか救出されると良いのだが…
他人任せで薄情だが、現実問題として俺などではどうにもならないのだ。
「レン様…!」
「ルラ様?」
そんな風に一頻り思案に耽っていると、俺を探しておられたらしいルラ様が走って来られる。
「怪我をした鉱夫の方々に聞きました…!!メソタ鉱山から不死族が溢れ出たというのは真実でしょうか…!?」
もうこの方のお耳に入ったのか…
「わかりません…ですがなにかただならぬことが起きているのは確かでしょう。」
「教会に残されたジックさんとパルドご夫妻はどうなるのですか!?」
結婚式を目の前でご覧になり、祝福されたばかりなのだ。こう仰るのはある意味当然だろう。
「…お気持ちはわかりますが、こうなっては彼らが教会から外に出ず、魔物駆除協会によって不死族を討伐可能な守護者が手配されるまで無事を祈ることしかできません。」
「でしたら私なら――!!」
「それは無理です。」
俺は最後まで聞き終わらないうちに、ピシャリと王女のお言葉を遮った。
そう仰ると思った。――聖女であるペルラ王女なら、不死族を倒す魔法を所持しておられてもなんら不思議はない。
そしてライ様の友人である彼らを気にかけ、助けに行きたいと申し出られるだろうことも…
「一体や二体ならまだしも、溢れ出た不死族は相当数が徘徊していると思われます。貴女様はまだ『真の聖女』ではあられないでしょう。」
「え…」
「それに俺では守り切れません。」
「レン様…」
――もしも俺がペルラ王女の『聖騎士』であったのなら、恐らくはこの事態にも対処が可能となり、メソタニホブの街もメソタ鉱山も救うことができたのかもしれないが…もうそれは叶わないのだ。
「救護所にいる怪我人の治療は全て終えられたのですか?」
「あ…い、いいえ、今は少し休憩を…」
「そうですか、では戻ってテント内でもう少し休まれ、引き続き治療の方をお願い致します。これはルラ様にしかできないことですよ。」
「え、ええ…わかりましたわ。」
俺の発した『まだ真の聖女ではない』と言う言葉の意味に戸惑う王女は、なにか言いたげだったが俺の方で早々に会話を打ち切らせて貰う。
――ここでライ様を見つけ、あのライ様が本当のライ様であるのかを確かめたら…今度こそペルラ王女にノアディティクへの対価について話そう。
そうすれば王女はきっと俺に呆れ、もう共にありたいなどとは思わなくなるだろう。
そのためにも…
トゥレンは少しずつ日が傾き夕暮れ時へ向かおうとしている街影を見つめ、暫し考え込んだ後に意を決すると、傍に停めてあった一台のキャロへひらりと飛び乗った。
「あっ、おい!!どこへ行くんだ!?」
「すみません、なるべく早く戻ります!」
近くで周辺を監視していたハンターがそれに気付いて声をかけると、救護所のテントへ戻ろうとしていたペルラ王女も気付き慌ててその後を追いかけようとする。
「レン様!?待って、レン様!!街へ行かれるのなら私も――あっ!!」
「危ない、治癒魔法士様!!」
その拍子に足元の石に躓いて転倒してしまい、驚いたハンターの男性が王女に手を貸して助け起こした。
呆然とする王女は、去って行くトゥレンの乗ったキャロを見送ると悲しげに呟いた。
「レン様――」
――その頃…
一の獣ゼウス・デヌ・カヌウスによって闇の力を復活させた『ライ』を相手に、カラミティとマーシレス、梟の仮面をつけたベレトゥと有翼人種のユスティーツは死闘を繰り広げていた。
『一瞬たりとも気を抜くでないぞ!!奴の使う〝死神の紋章〟はうぬらが喰らえば死にかねん!!』
「わかっていますよ、今さらですマーシレス殿!!」
全身から途切れることなく漆黒の闇を噴き出し続け、三人を相手に鬼神の如き強さを発揮するライに対し、カラミティが先程までと同じように召喚武器を片っ端から破壊しても今度は一向に闇を引き剥がすことができないでいた。
「「カヌウスめ、余計なことを…!」」
カラミティは腹立たしげにそう呟くと、複数属性の追尾性小魔法弾を出現させて手数を増やしながら少しずつライの体力を削いで行く。
「くっ…先程までは通用した技も強化されたことで防がれてしまう…!!素体は人間だと言うのに、どこにあれほどの力が眠っているのか…!」
肩で荒く息をし、額から流れ来る汗を拭いながらベレトゥはぼやいた。
『それこそ今さらの愚問だぞ、ベレトゥ!』
「しかしこの者は魔法を使えないと――ぐうっ!!!」
カラミティとベレトゥを対象にしたその攻撃は、闇から溢れ出る膨大な魔力を纏う槍『ザラーム・ガラディン』の回転斬りによるもので、ベレトゥはカラミティの光の盾によって守られるも衝撃の余波を喰らってしまう。
ズガガガガガッ
ベレトゥが体勢を崩すと、そこを狙い澄ましてライが追撃に動き出す。そのタイミングを俯瞰して見計らっていたユスティーツは、透かさず上空から冥属性魔法を発動した。
「させないよ!!降り注げ、冥界の雫!!『ハザック・スティール』!!!」
漆黒の液体がザアーッと強雨のように降り注ぎ、全身にデバフ効果を浴びせたライから、ユスティーツは強化されたその力を一割ほど奪うことに成功する。
「よし、これは当たったね!!僅かずつでも弱らせないと!!」
「その調子です、ユスティーツ!」
ライの力がユスティーツの手元へ靄の塊となって移動すると、それがバフへ変換されて一時的に自分とカラミティ達三人を強化した。
「好機!!」
バフ効果のある内にカラミティとベレトゥが再びライへ猛攻を仕掛ける。
「「背後へ回れ、ベレトゥ!!先程の障壁は既に消えている、挟撃に持ち込むのだ!!」」
「御意!!」
カラミティの指示に攻撃の手を休めず、ベレトゥはジリジリと側面からライの背後へ移動して行く。
これによりライの方は闇の盾で防御するにもどちらか一方のみの上位攻撃にしか対応できず、必然的に防戦一方とならざるを得なくなった。
「いいよ、押してる押してる!!」
ユスティーツは詠唱時間の短い魔法を撃ち続け、そうして三人が代わる代わる絶え間なく連続攻撃を続けることで反撃の隙を与えず、魔法を使うことのできないライはやがて疲弊し始めた。
『やっと防御が削れ出したか、高威力の魔法に切り替えて織り交ぜよ!!弱り始めた闇の盾は、物理と魔法の両方を同時に防げぬようになる!!これで一気に決着をつけるのだ!!』
細かな傷を負い出血して衣服が血に染まり始めても、ライは終始無表情で呻き声一つ上げることはない。
それはまるで痛みを感じることもない不死族のようでいて、ギラギラと赤く残光を伴う瞳と言い、とてもまともな人間には見えなくなっている。
そのライにカラミティの放つマーシレスの剣技はどれも禍々しく、闇を纏うライ側の力とは似通っているために威力こそ減少されているものの、それでもそこは『災厄』であるが故にごり押しも可能な様子だ。
対してベレトゥの使用技は騎士然とした正統派で、正面から襲撃する光属性の大剣技が多く、こちらは威力不足を属性付加により補っている。
『あと一息だぞ、追い込め!!』
更なる追撃により闇を完全には引き剥がせずとも弱らせることはできそうだ、とマーシレスが思ったその時、防戦一方だったライの目がギラリと強く赤い光を放った。
『ハッ…待て、なにか来る身構えよ!!』
それを逸早く察知したマーシレスの警告が飛ぶ。
ゴアッ…
直後ライの纏う闇に赤々と燃える剛炎が混ざり、漆黒と赤の闘気が突然倍に膨れ上がった。
『こ、此奴…まだ抗う気か…ッ!!!』
光盾の影から唖然とするマーシレスに、カラミティは淡々と呟く。
「――加減を誤ったか…まさかこの瀬戸際で、死に瀕する窮地においてのみ発動する固有技能〝起死回生〟を得るとは…『黒髪の鬼神』と称されるも伊達ではあらぬ。欠片は未だ力を維持しているが、どうやら素体の方は生命の危機にあるらしい。」
『なんだと?…ではどうする。殺すは容易いがそれでは目的を果たせぬではないか。』
「…くくっ」
その真紅の瞳にはなにが映っているのか、カラミティはライを見て突然楽しそうに笑みを浮かべた。
「御前?」
『なにが可笑しい。』
ベレトゥはギョッとし、マーシレスは不機嫌な声を出す。カラミティがこんな風に笑う時は大抵碌なことが起きないからだ。
「まあ見ていよ…すぐに始まる。」
「始まるって…なにが??」
カッ…
警戒しながらユスティーツがそう尋ねた直後、ライが自身を中心に闇を操って爆発を引き起こし、天を焦がす巨大な火柱を発生させる。
ドオオンッ
それはヴァハの村でトゥレンと村人達が目撃し、ヴァンヌミストの森に火災を起こした炎と同じものだった。
その爆煙と火柱は、救護所のテントからキャロでメソタニホブへ向かっていたトゥレンの目にもはっきり見える。
「あ、あの黒煙と火柱は…っ」
ヴァンヌミストの森に火災を引き起こした――
トゥレンは直感でその火柱の下にライがいるに違いないと感じ、キャロの走る速度を上げて先を急いだ。
ゴオオオオ…
ただでさえ破壊されていたメソタニホブの街が、さらに広範囲に渡って燃え上がるとその炎に飲まれた不死族達が次々消滅して行く。
「なんという禍々しき炎だ…!」
黒色の混ざる禍々しい炎を見て呆然とするベレトゥに、カラミティは笑いながら答えた。
「くくく…この火は吸魂の焔『ブレイズ・ソウルイーター』だ。不死族の僅かな霊力すらも吸い尽くす、究極の殲滅死炎よ。半径一キロ圏内に徘徊していた不死族ごと、僅かに建物内で生き残っていた人間も今ので死んだことだろう。」
「怖…っ笑い事じゃないよ、ルーファス様の防護魔法石がなかったら僕らもヤバかったんだけど…!?」
あまりにも凄まじい攻撃に、隠し持っていた防護魔法石で身を守ったユスティーツとベレトゥはゾッとして身震いをした。
「まさかその魔法石も魔物駆除協会の運営者に売って頂いたものですか?」
「そうだよ。貴重だからって足元見られて超高かったけど、おかげで役に立ったでしょ?」
「ユスティーツ…」
平然とそう言ったユスティーツに、ベレトゥは口元を引き攣らせた苦笑いを浮かべる。
『無駄話はそこまでだ。』
――僅かな生存者達と周囲を徘徊していた不死族から霊力を得たことで戦況は再び振り出しに戻り、ライが纏う闇はさらに深く濃くなって、死炎の燃えさかる範囲と同等にまで広がってしまう。
それを見たマーシレスは、うんざりしたように暴言を吐いた。
『また振り出しに戻ったぞ…いい加減面倒だ、もう殺すか?』
「マーシレス殿!!」
「は?今なんて言ったの…僕には良く聞こえなかったなあ。」
ベレトゥが続けてマーシレスになにか言う前に、透かさず反応したのはユスティーツだ。
普段ののほほんとした雰囲気がガラリと一変して凄味を増し、マーシレスの生体核を恐ろしい形相で睨みつけている。
「彼にはフォルモールの呪縛から解放して貰った恩があるって言ったよね?もしここで諦めるつもりなら、僕が手を組むのはこれまでだよ…全力で阻止して敵に回るからね。」
『なんだと?黒羽虫風情が生意気な…!!』
「カッチーン。それって僕のことだよね…なに、自分じゃ復讐もできない剣のくせに、この僕とやる気なんだ?いいよ、来なよ…僕の右手に食わず嫌いはないからね。ああ、丁度いいか…前から疑問に思ってたんだけど、生体核が失くなっても守護神剣って役に立つのかなあ?試してみようか。」
『この…!!』
信頼関係にある仲間同志なのかと思いきや、マーシレスの言葉でユスティーツが怒り一触即発状態になる。
するとカラミティは強烈な威圧を放って両者をピシャリと諫めた。
「――囂しいぞ。」
マーシレスを含めユスティーツとなにもしていないベレトゥまでもが、背筋の凍るようなカラミティの気に押し黙る。
「ここから五分だけ戦闘を継続させよ。さすれば我らが手を下さずとも決着が付く。」
『なに…?どういう意味だ。』
カラミティはマーシレスの問いに返事をせず、最早闇に包み込まれてその姿すらまともには見え辛くなったライに三度向かって行く。
「ちょ、ちょっと待ってよ、カラミティ!!」
「命を奪うのであらば御前はそう仰るだろう。――とにかくここはお言葉に従え、ユスティーツ。」
「くっ…仕方ないな、わかったよ!!」
ユスティーツは渋々承諾してベレトゥと共に戦闘へ戻った。
闇がさらに広がって濃くなったことで、追い詰められているらしきライの攻撃は苛烈さを増す。
マーシレスと同調するカラミティでさえ光盾なくしては容易に近づけず、必然的にカラミティ達は手段を切り替え、魔法による攻撃が主軸となって来た。
こうなると魔法を使うことのできないライにとっては圧倒的に不利となり、再び防御主体の戦闘状態へ専念するしかなくなる。
特にカラミティの使う攻撃魔法はマーシレスが闇の守護神剣であるにも関わらず、闇を纏うライは元より、暗黒、冥属性に対して有効な『光』属性が主であり、その上ライは全員を倒さなければならないのに対し、カラミティの方は無理をしてまでライを倒す必要がなかった。
そんなカラミティとライを見て、ベレトゥは思う。
«御前はなにを考えておられるのだ…?もうそろそろ時間だが、〝五分だけ〟戦い続ければ決着が付く、とはどういう意味で仰ったのか――»
――その答えを握っていたのは、ベレトゥとユスティーツ、マーシレスにとって予想外の存在だった。
「ライ様ーーーーッ!!!」
ブアッ
「「『!!?」」』
その叫びにも似た呼び声と共に、今のライが身に纏う闘気と同じような気を纏う人間の男が、無謀にもこの戦闘領域へ乱入して来たのだ。
赤毛の短髪に屈強な身体つき。茶色の瞳にその男が手にしているのは、ありふれた大剣クレイモアだ。
ただの人間がなにしに来たと驚いたベレトゥにユスティーツは、直ちにその招かれざる乱入者へ対応しようとするが、男は問答無用で二人に凄まじい怒気となにかを守ろうとする意志『守護の気』を乗せた衝撃波を放った。
「危ない、ベレトゥ!!!」
ユスティーツは咄嗟にルーファスの防護魔法石を使って、その攻撃から自分達の身を守る。
ドガガガガガッ
「なぜ人間が…不死族の徘徊する中を、ここまでどうやって辿り着いたのだ!?」
すぐに体勢を立て直すベレトゥと上空へ逃れたユスティーツを尻目に、その男…トゥレンはライの最も近くにいるカラミティへ突っ込んで行った。
「うおおおおおおおおおーーーーーーッ!!!」
「御前!!」
己目掛けて敵意を剥き出しに向かってくるトゥレンへ、カラミティは不敵な笑みを浮かべ素早く間合いを取る。
そして予めその攻撃が来ることを読んでいたような動きをし、カラミティはあっさりとライから引き下がった。
『な…おい、カラミティ!!』
「――そうか彼奴、最初からこれを狙って殲滅死炎を…!?」
「うん、多分そうだね…さっきのは不死族を減らして、ここにこの人族を呼び寄せるのが目的だったんだ。」
カラミティとユスティーツ達は乱入者の出現に攻撃の手を止めると、どう見ても異様な状態であるライの前に立ち、それでも主君を守ろうとするトゥレンを無表情に眺めた。
「貴様らは何者だ!!なぜライ様を…ッ」
膨大な闇を纏うライの方も今は攻撃を止めて鎮まっている。
「俺が来た以上、もうこの御方には手出しさせんぞ!!」
なんとしても主君を守る…その強い意志を示すトゥレンに、カラミティはほくそ笑んだ。
「そうか…うぬの目にはまだ、其奴は己が主に見えるのだな。」
「なに…?…ハッ!!」
――瞬間、トゥレンの背後にいるライが闇を操り、殺気を感じて振り返ったトゥレンに襲いかかった。
「ぐうっ!?…カハッ…」
「「!?」」
まるで鞭のように細く伸びたそれが、トゥレンの首に巻き付いてその息の根を止めようと容赦なく締め上げる。
「どうなっている、味方となる者を呼び寄せたのではなかったのか…!?」
「ちょ…カラミティ!!」
てっきり自分の盾となる人間を呼び寄せたのだと思っていたベレトゥとユスティーツは、トゥレンに襲いかかったライを見て再び驚愕した。
ギリリと強くその首を締め上げるライの闇は、息が出来ずに大剣を手放し両手で闇を掴んで踠くトゥレンを宙に浮かせると、抗う力すらも奪って行く。
«ハッ…そうか、もしかしたら…ッ!!»
ライの真の狙いに気付き、その行動を止めようと慌てて動いたユスティーツだが、カラミティはサッと手を伸ばしてそれを止めた。
「手を出すでないぞ、ユスティーツ。」
「うっ…」
気迫に押されたユスティーツは魔法を唱えかけたその手を、仕方なく引っ込める。
『おい、カラミティ。なぜあの人間を殺させようとする?』
マーシレスのそんな問いかけも無視して、カラミティは一切答えようとしなかった。
どうして…ライ様、なぜ俺を殺そうとなさるのですか…?
躊躇うことなく俺の首を絞め続けるライ様の赤い瞳を見て、俺は絶望に打ちひしがれた。
やはりこのライ様は俺の知るライ様ではなかったのか。それともライ様は、俺がライ様の危機になんのお役にも立てず、暫くお側を離れていたことをお怒りなのだろうか。
今未知の力で俺の首を絞めているのが本当のライ様であるのなら、俺の命はライ様に救って頂いたのだからそれも御意思なのだと諦めがつく。
だが本当は…?御自身の生命力を分けてまで俺を救って下さったライ様が…同じその手で俺を殺そうとなどなさるだろうか…?
「ラ…イ、さ……」
駄目だ…、もう息が――
カッ…
――遠のく意識にそれでも最後までライ様を信じたいという気持ちを棄て切れず、俺がライ様の名前を呟いた瞬間、ライ様の身体から眩い紫の光が放たれて急に俺は自由になった。
ドサンッ
「ゲホゲホゲホッゴホッ…ゲホッ…はあはあ…」
闇から逃れて地面に落下した俺は、喉を押さえて酷く咳き込みながらも直ぐさま落としたクレイモアを掴むと、ライ様へその切っ先を向けてどうにか立ち上がる。
そうして顔を上げてみると、闇に包まれているライ様の左瞳が赤から紫紺に、右瞳が赤から緑色へと交互に瞬いて、僅かな時間、元のライ様の瞳へとヴァリアテント・パピールが輝いた。
「ライ、様…!?」
苦痛に喘ぎそのお顔を歪ませて、直後ライ様は俺に叫んだ。
「トゥレン!!俺がこの身体を押さえている内に、その剣で俺の心臓を貫け!!!」
「な…」
«心臓を!?»
「で…できません!!そのようなことをすればライ様のお命が――」
二ヶ月以上ぶりに俺の名を呼ぶライ様のお声を聞いた歓喜に震える間もなく、恐ろしい言葉を口にされ耳を疑う。
「おまえにしかできないんだ!!頼む、トゥレ――」
短くそれだけを仰ると、ライ様の瞳は再び両目とも赤い光を放っていた。
そんな…どうなっている?このライ様は、やはり本当のライ様なのか?俺はどうすれば…
困惑して狼狽える俺に、空からその声は叫んだ。
「迷っている場合じゃない、聞こえただろう!?彼の言う通り『欠片』の支配が弱まっている内に、その剣で心臓を貫くんだよ!!!」
「!?」
「この機会を逃せば、もう二度と彼は戻れないかもしれない!!それでもいいのかい!?」
背に黒い二枚羽根を生やした長髪の男が、俺を見下ろして言い放った。
なにがなんだかわからん…俺がライ様を剣で貫く?そんなことをしてライ様がお命を落としたらどうするんだ…!?
「「――即決もできぬとは愚鈍な奴め…うぬがやらぬのなら我がやるぞ。但し、うぬであれば其奴は助かるかもしれぬが、我がやれば確実に死ぬがな。くくく…さあ、どうする?」」
ゾッ…
ライ様と戦っていた三人の内、全身に鮮血を浴びたような真紅の男がそう言って急かしつつ容赦なく脅してくる。
ふざけているのでも冗談を言っているのでもない…本気だ。この男は俺がこのまま躊躇っていると痺れを切らし、確実にライ様のお命を奪おうとするだろう。
その恐ろしい言葉と笑いながら放たれる殺気に、元より俺に選択肢はないのだと悟った。
闇に包まれたまま微動だにしないライ様を見て覚悟を決めると、俺は最後にもう一度ライ様へ語りかける。
「もしも俺のこの手がお命を奪ったのなら、すぐに後を追い、死して尚お仕え致します。――ライ様…」
真っ直ぐに大剣を構えて突っ込む俺にライ様の赤い瞳は大きく見開かれ、なぜだか少し怯えているようにさえ見えた。
«どうか…神よ…!!»
ズンッ
…生涯お仕えすると心に決めた主君へ、あろうことか刃を向けることになり、俺の手はカタカタと震え目は固く閉じ、どの神にも信仰など持ったこともないのに心からの祈りを捧げる。
従者の身でありながら凡そ正気の沙汰とは思えない行いをし、俺のクレイモアはライ様の心臓を正面から貫いた。
刹那、ライ様が身に纏っていた闇が霧散して吹き飛び、その衝撃によって遠くまで弾き飛ばされた俺は、焼け落ちた建物の瓦礫に落下して背中を打ち、その場で気を失ってしまったのだった。
「まだ街を包む気体の正体もわからないのに、それ以上近付くと危険です、治癒魔法士様!!」
「構いません、私のことはもう放っておいて下さい!!寧ろ危険なのはあなたがたの方ですわ!!不死族なら過去に一度、国で対峙したこともありますから大丈夫です!!」
「しかしあなたになにかあれば、まだ治療を受け終えていない者が困ってしまいます!どうか救護所のテントへ戻り、彼らの治療を続けて下さい…!!」
「いやです!!私は治癒魔法士の前に一人の人間です!!愛するレン様が私を置いて行かれてしまったのに、とても平静ではいられません…あの方に万が一のことがあれば、私も生きてはおれませんわ…っ」
「そんな…!」
キャロに乗って一人メソタニホブの街へ向かったトゥレンの後を追い、ペルラ王女はハンターが止めるのも聞かずに歩いて街へ戻ろうとしていた。
それを立ち塞がって止めようとするも、王女の意志は固く、そのハンターはほとほと困り果てている。
だが程なくしてそこへ、街の方からトゥレンの乗って行ったキャロが複数の人影を乗せてこちらへ戻って来ていた。
「治癒魔法士様、あれを見てください!あのキャロはBランクのお連れさんが乗って行った車両じゃないですか…!?」
「!」
ハンターの言葉に振り返ると、ペルラ王女はぱあっと表情を明るくして直ぐさま近付いて来るそれに駆け寄った。
「レン様!!」
キャロを停止させ、運転席からひらりと飛び降りたトゥレンは、後部座席の扉を開けるとなにか大きなものを抱え上げて叫んだ。
「ルラ様!!今すぐこの方に治癒魔法による治療をお願いします!!」
「え…あっ!!」
トゥレンが抱き上げる前、後部座席にぐったりとして横たわっていたのは、身体中傷だらけであちこちから出血しているライだったのだ。
驚いたペルラ王女は〝ライ様〟と名前を呼びそうになり、慌てて口元を押さえると、その王女の前でトゥレンと灰緑色の長髪男性、そしてカームブルーの短髪をした仮面の男性三人は、運び出したライを慎重に地面へ横たわらせた。
「酷い怪我だ…なにもこんな場所でなくとも、救護所のテントまで運んでからにすればいいじゃないか…!!」
「この方には今すぐ治療が必要なのだ!!ルラ様、お願いします…!!」
「はい、もちろんですわ!!」
沈痛な面持ちで必死に願うトゥレンに大きく頷くと、ペルラ王女は直ぐさま地面に膝を着き、ライに治癒魔法をかけ始めた。
「――では後は任せます。」
「うん。」
短いそんな会話を交わし、仮面にカームブルーの短髪男性――〝ベレトゥ〟は、翼を畳んで人族の振りをするユスティーツを残し、ハンターの男が余所見をしている間に転移魔法で消えて行った。
「?…あれ、もう一人いなかったか?」
「そうだね、いたかもしれないね。」
次に顔を上げた時には既に一人減っていたことに気付いて首を傾げるハンターへ、ユスティーツはにっこり微笑むと適当に返す。
「??」
「ねえ、救護所のテントってあそこがそうなの?」
ユスティーツがのほほんとした雰囲気を放ちながら、マイペースに抱き込むようにしてハンターへ尋ねると、それに気を抜いたハンターはすぐにベレトゥのことを忘れて頷いた。
「ああ、そうだ。しかしあんたら良く無事だったな?不死族が押し寄せてるって聞いたんだが…その様子だと案外街は平気なのか?」
「ううん、残念…言いたくはないけど、メソタニホブの街はもう不死族に飲み込まれて消えてしまったんだ。あの場にいる助かった人達は、できるだけ早く近くの街へ避難した方がいいと思うよ。――余程の奇跡でも起こらないとすぐには戻れないし、下手すればもう二度と元の家には帰れないかもしれないから。」
「…!!…そ、そうか…」
ユスティーツの話にハンターはショックを受けた様子で、狼狽して俯いた。
「ねえ…君は先に戻ってみんなにそう上手く説明してあげてくれる?レンさんに聞いたけど、魔物駆除協会へは既に知らせをやったんだよね?救援が来るまでもう少し時間がかかるかもしれないから、あそこにある車両に乗れるだけ乗って、魔物が戻る前に移動を始めた方がいいんじゃない。少数のハンターじゃここで魔物に囲まれるとあの人数を守り切れないでしょ?」
「あ、ああ…そうだな、すぐに他の守護者達とも相談してみるよ!」
「うん、よろしくね~。」
急いで救護所のテントへ走って行くハンターに、ユスティーツはヒラヒラと手を振って見送った。
「――どう?彼の傷はもう癒えたかい?」
ガラリとその表情を変え、パッとその視線を横たわるライへ移すと、ユスティーツは真剣な表情でトゥレンとペルラ王女に尋ねた。
「ルラ様、ライ様のご容態はどうですか?」
「ええ…大丈夫です。目に見える怪我は全て治せましたわ。」
「そう、それは良かった。あの傷で移動するのはちょっと心配だったからね。それじゃあさっさと行こうか。」
「え?」
ユスティーツの言葉にペルラ王女は困惑して目を丸くする。
「あの…行くってどちらにですか?それに貴方は…?」
「うん、僕?僕は冒険者のユスティーツだ。後で詳しく自己紹介はするけど、とりあえずよろしくね…治癒魔法士のお姫さん。」
「はい…??」
戸惑う王女の横でトゥレンは治療を終えたライをそっと抱きかかえると、ユスティーツに「準備はできました。」と一言だけ告げた。
「オッケー、ならこのままバセオラ村に飛ぶよ。あそこには今、守護騎士はいないから。」
「よろしくお願いします。」
トゥレンは王女になにも説明せず、ライをしっかり腕に抱えると即座に頷いた。
「え…ちょ、ちょっと待ってください!飛ぶって、避難している住人の方達はどう――」
シュシュシュシュンッ
――なにを話しているのかさえわからずにいたペルラ王女を他所に、ユスティーツはさっさと転移魔法を使って、一瞬でライを抱えたトゥレンと王女を連れシェナハーン王国のバセオラ村へと移動してしまった。
「うおっ!?な、なんだあ、あんたら…!!」
「きゃあっ!!」
移動先は魔物駆除協会内のハンターフロアにある一角で、偶々目の前に立っていたのが強面の大男だったために、驚いた王女は思わず悲鳴を上げてしまう。
「ちょっとフェルナンド!!なんだあ、じゃないでしょ!?あんたが立ってるのはここ専用に設けられた転移魔法の着地点じゃないの!!移動魔法やその魔法石を使う人は極稀だけれど、危ないから近くに立つなって何度叱ればわかるわけ!?」
忽ちギルドの制服を着て気の強そうな女性がすっ飛んで来ると、ボサッと突っ立っていた大男を怒鳴りつけ頭から湯気を立てる。
「な、なんだよ、俺だって今戻って来たばかりなんだから仕方ねえだろうが。」
「うるさい文句を言うな、さっさとお退き!!」
それに対し場都の悪そうに小さくなって言い訳をする大男は、王女に驚かせてすまんな、と言って頭を下げるとすごすご去って行く。
そのことからごつい見た目と違って、ギルド職員の女性よりも恐ろしくはないようだ。
「そこのあなた方も速やかに移動願います。最低でも二メートルぐらいは離れてくださいね!」
「はいは~い。あ、連絡済みだけど上のミーティングルームは借りてもいいの~?」
〝転移魔法〟に〝連絡済み〟と聞いて事情を察したらしいその女性職員は、ライを抱えたトゥレンを見ても訝しむことはなく、あっさりとユスティーツに返した。
「空いていますから、どうぞ。右端の部屋なら長椅子がありますので、お連れ様を寝かせて頂いても構いませんよ。」
「ありがとう~!それじゃレンさんと姫さんは先に行っててよね。規則上同行者手続きだけはして来ないとだから。」
ユスティーツが一人窓口へ向かって離れると、トゥレンはペルラ王女を促し、奥の階段からライを抱えたまま上って行く。
「レ、レン様…私非常に混乱しているのですけれど、一体どうなっているのですか…??」
「申し訳ありません…そのお気持ちは当然ですが、この後ご説明致しますので先ずは他者に会話の漏れないミーティングルームへ向かいましょう。」
王女は戸惑いながらもトゥレンに従い、トゥレンは上階のいくつかあるミーティングルームの内、職員女性に言われた右端の部屋に入ると、そこに置かれていた長椅子へライを降ろしてそっと横たわらせた。
「レン様、その…ライ様は…?」
「――ご心配なく、この方は間違いなく我々の知るライ様です。…尤も、ヴァハの村でご様子のおかしかったライ様は、お身体がライ様であってもやはり別者でしたが。」
「別者…!?で、では上位魔物か魔族ではないかと思った私の推測は合っていたのですか?」
「いえ…その正体は俺にもわかりません。ただユスティーツ殿はあれを『欠片』と呼んでいたようですが…」
「欠片…?」
そこまで話をした所で、ユスティーツがガチャリと扉を開け室内に入ってくる。
「お待たせ。今後については彼が目を覚ましてから相談したいけど、とりあえずレンさんも姫さんも僕に聞きたいことがあるでしょう?できるだけ答えるつもりだから、座って話そうか。」
眠たげな目元にのほほんとした雰囲気を出し、ペルラ王女の警戒を解くようにしてユスティーツは促す。
そうしてトゥレンと王女が長机の椅子に腰を下ろすと、自分は立ったまま最初に自己紹介を始めた。
「レンさんには既に真の姿を見られているから隠さないけど、僕は有翼人種のユスティーツ・フィル・フィネンと言います。」
「有翼人種…!?」
驚いて目を見開いたペルラ王女に、にこっとユスティーツは笑いかけた。
「姫さんは僕の種族について知っているのかい?」
「い、いえ…知っていると言うほどではありませんが、遥か昔フェリューテラには背に大きな翼を持ち、自由に空を駆ける半鳥半人の種族がいたという話を古文書で読んだことがあります。」
「そうそう、それだね。信じられなければ翼を見せるけど…見てみるかい?」
「ええ、是非…!」
瞳を輝かせてそう言った王女に、ユスティーツは背中の二枚羽根を出してバサリと広げて見せた。
「漆黒の翼…?」
「――本当は純白だったんだけどね…色々あって黒くなっちゃったんだ。その理由はレンさんに話してあるから、後で聞いてね。」
「は、はい…」
〝それで、なにから聞きたい?〟
二人の信頼を得るため、自らその正体を明かし警戒を解いてから本題に入ったユスティーツに、トゥレンとペルラ王女は真っ先に、ライになにが起きたのかを尋ねるのだった。
独居の叔母と連絡が付かなくなり、おまわりさんと叔母の家を訪ねたら倒れて意識不明の状態でした。原因は細菌感染症で、現在ICUでの治療中です。叔母は独身で一人なので、この先が心配です。細菌が体内に入るのって本当に怖いですね。小さな傷でも痛みが続いたり腫れてきたりしたら、即、病院に行って下さい。手遅れになると内臓が損傷を受けてしまい、叔母のように倒れてしまうかもしれないので皆様も気をつけて下さいね。次回、仕上がり次第アップします。いつも読んで頂き、ありがとうございます。




