232 瘴気の魔物 後編
予定よりかなり遅れてようやくツェツハの街へ辿り着いたルーファス達でしたが、街へ続く街道は魔物の襲撃により封鎖されていました。自分達が太陽の希望であることを伝え、ツェツハを拠点とするSランク級守護者に会ったものの、クレンドール・アバローナと名乗った彼はルーファス達をどこか侮っているような節が見えました。それなら実力を見せればいいとルーファスは動き始めますが…?
【 第二百三十二話 瘴気の魔物 後編 】
――百聞は一見にしかず、と言う言葉がある通り、俺達を舐めてかかるような相手には、行動で実力を見せるのが最も手っ取り早いだろう。
俺自身の能力をひけらかすつもりは毛頭ないが、リーダーである俺が侮られることで太陽の希望の活動に支障を来すようでは笑えない。
俺達守護者は魔物駆除協会の運営理念にある通り、『魔を討つ力を持つ者は、常に持たざる者の為にあれ』なのだ。
街が封鎖されて民間人の日常にも大きな支障が出ているのに、その街を拠点とするハンターがなにを最優先にすべきなのかを見誤るようでは困る。
俺は『クレンドール・アバローナ』と名乗ったツェツハのSランク級守護者に、そのことだけは辛辣な嫌味を付け加えて言わせて貰った。
彼はぐうの音も出ない場都の悪そうな顔をしていたが、同業者達の手前俺に「それほど言うならとっととやってみろ。」と虚勢を張るのが精一杯だったようだ。
言われなくてもさっさと済ませてやる。レインフォルスに鈍いと言われる俺にだって、Sランク級守護者としてのプライドぐらいあるんだ。
もう一つツェツハの魔法障壁が消えた原因については、瘴気の魔物の出現でそれどころじゃなかったアバローナ達地元のハンターにもまだわからないらしい。
順番的にも魔法障壁が消えた後で瘴気の流入が始まったようだが、定期的な結界石の点検ではつい最近までなんの異常も見られなかったと言っている。
そのことからも事前に俺が調べたように、機能していないいくつかの結界石は破壊されているかなにかしているのだろう。
それは現場に行って見てみればわかるはずだ。
「先ずはこの街の結界石が設置されている場所だが――」
俺に結界石の位置を説明しようとしたアバローナには、即座にその必要はないと言って断る。
俺はここへ来て顔合わせを済ませたならすぐに動くつもりでいたんだ、そんなものは疾っくに把握済みだ。
俺の仲間に指示を出すため街地図を見せて貰い、現存する結界石の場所を記してから改めて八箇所に増やすことと、魔法障壁を『結界石残存型』に変えることを提案する。
街の街道側と隣国側の両方から魔物の襲撃が多くあるこの街では、結界石が一つ破壊されただけで障壁の消える現行の『複数基型』では、一箇所の結界石に不具合が生じただけで街そのものを封鎖しなければならなくなってしまう。
その点結界石が一箇所でも残っていれば障壁を保てる残存型へ変更すれば、新たに遠くから魔法士を呼んで張り直さなくても、壊れた箇所の結界石を新しいものに変えるだけで元に戻せるからだ。
俺の説明に納得したらしいアバローナは、今度は態度を軟化させてそれで頼む、と俺に目礼をした。
とりあえずは下手な意地を張っている場合でないことは、どうやらわかってくれたらしい。
「よし、それじゃメンバーを分けるぞ。サイードとウェンリー、テルツォは俺と瘴気の魔物がいる中央から東側の四箇所を回り、イスマイルはデウテロンと組んで北西側の二箇所に、リヴとプロートンは南西側の二箇所への配置をそれぞれ頼んだ。」
各自が俺に黙って頷くと、一人役目のないゲデヒトニスが俺を見る。心配しなくてもゲデヒトニスには、もっと重要な役割があるんだ。
「僕はどうするんだい?」
俺達の中で最も幼く見えるゲデヒトニス。外見がどうであれ彼は俺の分身とも言える存在だ。
それだけになにか不測の事態が起きた時は、大半の状況で俺と同じ行動が取れるというのが強みでもある。
「ゲデヒトニスはここのハンターと一緒に他の拠点を回って障壁の再構築を伝え、必要があれば戦闘の補助と魔物討伐に取りかかってくれ。それと現在街に流れ込んでいる瘴気の規模がどの程度なのか、ざっと見ておいてくれると助かる。」
「了解。魔法障壁を張り直すのにどの位かかりそう?」
「そうだな…結界石の配置を含めて順調に行けば一時間と言う所か。」
仲間内でそう話していると、傍で聞いていたここのハンター達からどよめきと共に「一時間!?」という驚愕の声が上がった。
まあ結界魔法士を呼んでこの規模の街に障壁を張る際は、最低でも十人くらい必要な上に、時間も一週間から二週間以上かかるものらしいから無理はないだろう。
さっきイスマイル達に先を越されて出逸ったウェンリーは、それを見て彼らに鼻高々でニヤリとドヤ顔をしていた。全く…おまえは魔法自体使えないだろうに。
「交換した元の結界石は俺のところへ持ち帰ってくれ。配置後は街の中央広場に集合、なにかあればいつも通り共鳴石で連絡を寄越すこと。以上だ。」
普段通り簡単に掻い摘まんだ説明を終えて早速取りかかろうとするも、俺達の様子を見ていたアバローナが待ったを入れてくる。
「待ってくれ、各自二人ぐらいずつじゃさすがに危ないだろう。既に街のことは把握しているようだが、ここのハンター達を何人かずつ連れて行け。」
「え?いや、それは…」
――却ってそれだと時間がかかりそうな気が…
街地図は俺の頭の中にあるし、戦闘なしに目的地へただ移動するだけなら、並の人間に比べてイスマイル達の移動速度はかなり速いはずだ。
『ふ…』
俺が内心でどう言おうか考えていると、レインフォルスは彼らを嘲るように小さく笑った。
「――いいんじゃないですか?」
「サイード。」
「私達の動きに付いて来られるようであれば、なにも問題ないでしょう。あなたのことをあれほど馬鹿にしたのですから、ご自分達の腕にも相当自信があるのでしょうしね。道案内は要りませんからこちらが合わせる必要もありません、好きにさせればいいのです。」
サイードはかなり冷ややかな物言いをして、アバローナ達を凍るような目で見やる。怒れる美人が凄むと、大半の男はその迫力に思わず尻込みしてしまうものだ。
あ…これはサイードもまだ怒りが収まっていないな。
「こうしている時間も惜しいでしょう。行きましょう、ルーファス。」
「あ、ああ…うん。――それじゃアバローナ、誰が行くのか決まっているならなるべく早く頼む。俺達は一分で散開するからな。」
俺とサイード、ウェンリーを除いて、リヴ達はもう俺が結論を出す前にさっさと外へ出て行った。
「リーダーのラムザウアーには俺が付く、ミケールだけ一緒に来い。後はバーバラ、リランドが一組、ニールとブレンダンで一組、あの金髪の坊やにはバウンス、セオドア、エマの三人がついて行ってくれ。バトラー達四人への事情説明を怠るなよ。」
「「「ヤー。」」」
大衆食堂の階段を降りながら、後ろから聞こえてくるその声に耳を傾ける。
『一分で地元のハンターを振り分けられるか…確かにあの統率力は侮れないな。』
『ああ。現地の協力者として太陽の希望へ引き入れられれば、強い味方になりそうだ。』
『ふん、ならば思う存分力を見せつけてやればいい。二度とおまえを侮ろうと思わなくなるくらいにな。』
何気にレインフォルスもサイード並みに怒ってくれているようだ。俺は心の中で嬉しさ半分に微苦笑しながら先を急いだ。
空は薄曇りだがまだ昼間であり、本来なら商店の並ぶこの大通りは行き交う人で賑わっているはずなのに、既に避難が完了していると聞いていた通りどの店も閉まっていてどこにも住人らしき人の姿は見えない。
そんなゴーストタウンにでもなったかのような表へ出て、既に準備を整えていたリヴ達に合流すると、俺は後に続くアバローナ達が走って来たところを確認しその場で作戦開始の指示を出した。
「――時間だ、太陽の希望散開!!」
仲間には探索フィールドで普段通り俺の街地図を共有し、イスマイルとデウテロン、リヴとプロートンの二組はそれぞれの方向へ瞬時に移動を開始した。
アバローナの指示を受けたここのハンター達は俺達の素早い行動に驚き、大慌てでそれを追いかけて行く。
もちろん頭の中にある街地図のことは秘密なので、少々狡い気もするがそこは勘弁して貰おう。
「俺達も行こう。ゲデヒトニス、頼んだぞ。なにかあったら共鳴石に連絡をくれ。」
「うん、また後でね。」
手を振るゲデヒトニスを横目で見ながら、俺達は俺達で先ずは北東部へ延びる大通りに続く中央分岐点へ向かって走り出した。
俺がゲデヒトニスを各拠点への連絡役と、前線に向けて送ったのには理由がある。今さらだが、俺達の中でゲデヒトニスが外見上最も幼く見えるからだ。
アバローナが初めに『子供が混じっている』と言ったように、見た目で言えばカオス第七柱よりも年下に見えるだろう。
だがその正体は俺の分身であり、全てが終わる頃にはもう俺達『太陽の希望』を、子供の混じったパーティーだと嘲笑うハンターは一人もいなくなるはずだ。
「――三百メートル先を左で、北東の結界石へ通じる最短コースの通りへ出られるな。俺が前衛、残る三人は随時交代で中から後衛を頼む。今のところすぐ近くに敵影は…」
ない、と言おうとした所で、突然俺の脳内地図にポポポポッと小型の点滅信号が現れた。
だがそれは普段敵対存在を示す『赤色』の信号ではなく、以前からその意味がわからないままの『紫色』をした点滅信号だった。
紫の点滅信号…!?これは…敵を表しているんじゃないのか…?
よく見るとその信号は、紫と赤色を交互に繰り返して光っているように見えた。
――いや、敵対存在に間違いはなさそうだ。今度こそ『紫色』の意味がわかるかもしれないな。
「ルーファス?」
「前言撤回だ、分岐点を左に曲がった百メートル先に敵が出現。全員、視認次第戦闘態勢!!」
「「「了解!」」」
俺は走りながら腰のクラウ・ソラスを引き抜き、みんなを先導するために走る速度をグンッと上げた。当然、俺の仲間はそれに平然と付いてくる。
おまけにサイードは走りながら詠唱し、全能力上昇のバフ『フォースフィールド・プラス』をアバローナ達を含めた全員にかけてくれた。
「なんだこの魔法…いきなり身体が物凄く軽くなったぞ…!?それにあのリーダー、なんつう足の速さだ…!!」
「それだけじゃない…奴の言うことが事実なら、かなり離れた位置に出現した魔物を瞬時に感知可能な索敵能力まで持ってるってことだ。只者じゃねえな…!!」
「ごちゃごちゃうるさいの…黙って見てればわかるよ、オジさん。」
「な…、オジ…っ!?…ははは、可愛い顔して言うじゃないか…俺はまだ三十二だぞ!!」
「そっちだって子供って言った…お互い様。」
「ああそうかよ…お嬢ちゃん、名前は?」
「…三人姉弟妹の三番目だから、テルツォ。」
「なるほど、テルツォか。」
俺が快く接した相手でもないのに、本人の断りなくいきなり呼び捨てにされたことで、テルツォはあからさまにブスっと可愛い顔を顰めた。
「むう…まだ呼び捨てにしていいって言ってない。レディに対して失礼すぎるの…オジさん、嫌い。」
「んなっ…」
「ぶはっ!!嫌われてやがんの、自業自得だなクレンドール!!」
「うっせえ、ミケーラ!!黙って走れや!!」
俺達が入って来た街門へ続く石畳の大通りを左に曲がると、斜めに走る道上に薄ら瘴気が漂っており、ぼんやりと薄紫色に光る瘴気を纏った六体の不気味な魔物が見えてきた。
『あれが瘴気の魔物か…雰囲気が暗黒種に似ているな。形は生物のそれにそっくりだが、魔核らしきものがちらちら中に見えるぞ。』
『ああ…』
ここから見えるのは小型で、人の形を模した二本脚に両手のあるタイプと、兎や鼠と言った小動物の形をしたものがいる。
そのどれもが全身真っ黒い影のような姿をしており、暗黒種と似たような魔核が心臓部に各一つずつ光って見えていた。
とりあえず初見の敵なため急ぎ瞬間詠唱で解析魔法を使うと、その弱点や特徴はすぐさま頭の中の自己管理システムへ表示される。
『瘴気の魔物/気体系防護障壁残存時物理無効』『弱点/火・風・地・水・光・幻属性』『暗黒種に酷似/全ステータスオールプラス/要魔核破壊』
『――瘴気を身に纏っている内は魔法攻撃しか効かないようだな…魔核を破壊しなければ倒せないのは確かに暗黒種と良く似ているが、こちらはあれよりも全般的に能力値が高めだ。瘴気の魔物というのはもしかして暗黒種の進化版なのか?』
『あれは瘴気の中から生まれたりはしないだろう。――敵がこちらに気付いた、来るぞ。』
自己管理システムに表示された情報を、俺は即座に仲間内へ思念伝達で流し共有する。
普段は口頭で随時伝えているのだが、部外者が傍にいる時は俺の特異能力を知られないためにこんな手段を取ることもあるのだ。
「――お喋りはそこまでだ。対『瘴気の魔物』戦闘フィールド展開!!テルツォとウェンリーは背後にも注意!!」
「了解!」
「あい!!」
「サイード、初撃は頼んだ!!」
「ええ!!真空の刃よ、切り裂きながら舞え!!『タービュランス』!!」
ゴッ
今回は俺が前衛の役割を担うため、前傾姿勢で地面を蹴って一気に敵へ突っ込んで行く。
「おい!!小型とは言え、瘴気の魔物にいきなり突っ込むのは危な――」
俺はサイードの魔法が発動している間にスキル『縮地』で間合いを詰めると、クラウ・ソラスに魔力を流し付随効果である螺旋状の光魔法を刀身に纏わせて、六体全ての魔物を核ごと一薙ぎに切り捨てた。
ズザザザザンッ
クラウ・ソラスの真一文字に走る剣の軌道が、漂っていた瘴気までもを切り裂いて光の筋となり残像を残す。
バッババババッ
「…!?」
«――死骸が…黒霧と化して消えた!?»
どうやら瘴気の魔物は、不死族の死霊系などと同じように倒すと霧散して消える型らしく、ぎゃっ、とかギュッ、とか短い悲鳴のような声を上げると、俺の目の前で黒い霧となって消滅してしまう。そうして後に残ったのは…
カンッカララン、コンコン、コロロロ…と、俺が破壊した魔核の破片が地面に落ち、音を立ててバラバラに散らばった。
『やはり魔核だ。だがこれは…?』
『暗黒種の魔核とは少し違うな…そもそも核が消えずに破片となって残っている。色も赤紫じゃなくて赤黒くて…』
ん?この結晶、どこかで見たことがあるような…
俺は魔核の欠片を調べようとしてそれに手を伸ばした。すると――
ギュアッ
「っ!?」
――それに触れようとした指先から、猛烈な勢いで俺の魔力がズルルルッと吸われて行く感覚に襲われた。
「ルーファス?」
「それに触わるな、サイード!!魔吸<アブソーブ>がまだ生きている!!」
不快感にバッと手を引っ込めた俺を見て首を傾げたサイードは、自らもそれを手に取ろうと欠片に触れようとした。
俺は慌ててその手を掴んで止めると、魔核に残っている魔法効果を急いでディスペルで完全に消去した。
「なぜわざわざディスペルを…」
「この魔核には物凄く強力な魔力吸収魔法が仕込まれているんだ。魔力の少ないウェンリーのような人間なら、一瞬で体内の魔力を吸い尽くされて命を落とすぐらいに強力なものだ。いくらサイードでも触らない方がいい。」
「マジかよ…」
横で話を聞いたウェンリーはゴクリと息を呑んだ。
「いいか、ウェンリーは絶対これに触れるなよ。」
「いや、触らねえって!!」
「はっ、さすがだな…雑魚とは言え初見の瘴気の魔物を一撃で倒した上に、他所では知られていない魔力吸収のことまでたった一度の戦闘で気付くとは…SS級パーティーのリーダーってのはやはり伊達じゃねえんだな。」
戦闘直前に俺へ危険だと警告しようとしたアバローナは、湾曲した大剣を手に笑いながら近付いて来た。
場合によってはすぐにも加勢するつもりでいたらしい。
この男…やっぱり悪い奴ではないんだな。本当に俺達を心配して各自に仲間を同行させてくれたのか。
「お誉めに与り光栄だが、他所では知られていないと言うことはギルドにもまだこのことを報告していないんだな。なぜだ?」
「新種の魔物や正体不明の奴に関して魔物駆除協会へ知らせるには、戦利品か証拠品が必要だろう。あんたはそいつの魔吸効果を自分で消すこともできるようだが、そんな危険な代物俺らじゃ触ることもできない。なんせ手袋をしたって箱に入れたって、持ち上げただけであっという間に魔力を吸い尽くされるんだ。既に知らずに触れたハンターが何人も餌食になった後だしな。」
――確かにあの勢いで魔力を吸われたら並の人間じゃ一溜まりもないか…魔物の躯体は倒すと同時に消滅してしまうから、証拠品と言えばこの魔核しか残らない。
ギルドに報告出来なかったのも不可抗力と言えるか…
「それじゃ採取したこの魔核はどうしているんだ?」
「この二日は毎回スコップやらを使って集めてから土木作業用の駆動車両に積んで、ラ・カーナとの国境付近にある森の穴まで捨てに行ってる。瘴気の魔物は元々ラ・カーナとの国境近くまで行かない限り、滅多にこっちまで出て来ることはなかったんだ。」
「森の穴…一箇所に纏めて捨てているということか?」
「ああ、そうだが…それがどうかしたか?」
「いや…」
俺は無害になった魔核の欠片を集めてそれをアバローナに手渡すと、これが証拠品になるからすぐにギルドへ瘴気の魔物のことを報告しろと伝えた。
これまでの発生状況や特徴なんかは、以前から相手をしているこの街のハンターの方が詳しいため、彼らに任せるのが最善だからだ。
「ミケーラ、この先は俺だけでいいからこいつを持ってギルドへ報告に行って来い。ああ、魔吸効果を消したのは太陽の希望のリーダーだって付け加えておけよ?そうすれば信用して貰えるだろうからな。」
「おう、わかった。」
「――どうやらルーファスの腕は信用して頂けたようですね。」
「まだ雑魚を倒しただけだろう。中型から大型になるとさっきのように簡単には行かないぜ。」
俺は全く気にしていないのに、アバローナのそんな物言いにサイードはあからさまな不快感を顔に表している。
しかし俺はそれを横目で見ながらも、全く別のことを考えていた。
「………」
「ルーファス、どした?」
「ああ、いや…ちょっとな、後にするよ。今はツェツハ全体に魔法障壁を張ってしまうことが先決だからな。」
この後最初に瘴気の魔物と出会して以降は、瘴気の吹き溜まりを見つける都度頻繁にあちこちで対峙することになり、東へ進むほど瘴気が濃くなって魔物も強くなる傾向にあった。
そうして北東の機能していない結界石に辿り着く頃には、アバローナの言う『中型』の瘴気の魔物が出現するようにもなってくると、簡単には行かないと言っていたその言葉通り、倒すにも攻略法を考えて行動する必要が出てくるようになった。
「これが〝瘴気の魔物〟の中型か…確かに厄介だな!!」
躯体のあちこちに散らばって不規則な位置に内包されている魔核。以前何度か戦ったことのある暗黒種の中型のように、それを全て同時に破壊しないと倒せない個体が現れた。
「瘴気を散らすのは私に任せて!!」
「ああ、頼んだサイード!!俺が敵のヘイトを引き付けている間に、ウェンリーとテルツォで魔核を全て同時に砕くんだ!!テルツォは双剣による物理攻撃と背面への魔法攻撃を同時に、ウェンリーはテルツォの攻撃が届かない位置の核を、スピナーと魔法石の両方で砕け!!」
「「了解!!」」
この中型の瘴気の魔物は二歩足で立つ鰐のような外見をしており、赤黒い魔核が背中側にもあるため、俺の前からの攻撃だけでは一度に核を砕くことはできない。
ただそれでも俺とウェンリーに過去似たような相手との戦闘経験が既にあったことと、俺自身が神魂の宝珠を解放したことで力を取り戻し強くなっていることもあり、魔核の位置さえ正確にわかっていればそこまで苦労するような相手でもなかった。
サイードが『サイクロン』の風魔法で瘴気を吹き飛ばし、俺が敵の攻撃を一手に引き受ける。
全身で激しく動くその打撃攻撃を押し留め、防護障壁を盾型に変形しつつ損傷を防ぎながら、魔法による身体拘束とほんの短時間だけ隙が出来るように魔物を誘導した。
瞬間、身体の小さなテルツォは俺の脇から素早くがら空きの敵の懐へ潜り込み、双剣による連続攻撃と同時に多方向から全身を貫く無数の針を放つ暗黒属性攻撃魔法『アンフェール・ニードル』で串刺しにする。
一部頭や腕に残るいくつかの魔核をウェンリーがタイミングを合わせて、エアスピナーとアイスブラストの魔法石で粉砕した。
後は小型同様に魔核の欠片を残して魔物は霧散し消えて行く。地面に転がった魔核の魔吸効果をディスペルで消去すると、赤黒いただの魔石となったそれを俺が手で拾って全て回収した。
――この結晶…やっぱり見覚えがあるな。まさかあの時の…?
「見事な連携だ。テルツォのお嬢ちゃんもA級どころかS級並みの腕前じゃないか。子供だなんて言って悪かったよ。」
テルツォの中でアバローナは『嫌い』の部類に入ったのか、彼女はイーッと歯を剥いて敵意剥き出しに睨んでいる。
「お嬢ちゃん言うな、おじじ。」
「うわ、さらに格下げかよ!?おじじって…」
「だってウェンリー…〝オジさん〟って言いにくいんだもん。こんな奴、おじじで十分。」
「あちゃ~、随分テルツォに嫌われたな…あんた。」
「そこまで嫌われるようなことしたか!?」
俺とサイードの背後でウェンリーとテルツォ、アバローナが緊張感の薄い会話をして騒いでいる。
その間に俺は機能していない結界石の状態を調べ、俺が普段から持ち歩いている自作の結界石と交換して結界柱(複数の結界石を軸に様々な作用を持つ結界領域を施す際の一点となる石をそう言う)の魔法呪文を施した。
ここの結界石は機能していなかったが、破壊されていたわけじゃない…魔力が尽きて用を成さなくなっていたみたいだな。
「――ここまでで10分か…少し急ごう。予定通り一時間ほどで街の魔法障壁を張り終えて、その後は街中に残る瘴気を消す方に取りかかりたい。障壁を復活させるよりも、恐らく瘴気の方が厄介なはずだ。」
「…なぜそう思うのです?浄化装置は実験済みです。この間の廃集落のように街の何カ所かに設置すればすぐに済むのでは――」
浄化装置のことはまだアバローナに秘密のため、サイードは小声で俺に尋ねてくる。
「いや、勘だけどそんな簡単には行かないような気がする。それとサイード、念のために他方面からの妨害があることを前提に、いつでも不測の事態に対応出来るよう心構えをしておいてくれ。」
「…わかりました、あなたがそう言うのであれば注意しておきます。」
「頼んだ。よし、次へ行くぞ!!ここからさらに東へ行った外壁の近くだ。」
既に機能しておらず、ただの石塊と化した結界石を無限収納に入れ、俺達はすぐに次の結界石へと移動を開始する。
結界柱の魔法呪文はリヴとイスマイルにそれぞれ伝えてあるため、中央から西側は二人が呪文を施してくれているはずだ。
後は予定通り計八箇所全てに柱を配置したのち、最後に俺とサイードで街の中心から結界石同士を繋ぎ街全体を覆う魔法障壁を張れば、一先ずツェツハの守護はもう問題ないだろう。
『なにか気になることがあったのか?』
サイードとの会話を聞いていたレインフォルスは、俺の言ったことを気にかけて尋ねて来る。
『ああ。なんとなくだけど、この件はどこか作為的な感じがするんだ。なにもなければそれでいいが、気をつけておくに越したことはないだろう?ウェンリーを狙っている犯人も何者なのかまだわかっていないことだしな。』
『…わかった、俺の方でも周囲に気を配っておく。』
『助かるよ。ああ…レインフォルス。』
『なんだ。』
『できればウェンリーのことも少し気にかけてやってくれないか?』
『…なに?』
『あなたはあいつのことがあまり好きではないだろう?』
『………』
俺がそう言った瞬間に、彼が酷く緊張して押し黙る気配を感じた。問い詰めたり責めたりするつもりは全くないが、できることならレインフォルスにも俺がウェンリーを守ることに進んで力を貸して欲しかった。
『隠さなくてもいい。あなたと話ができるようになってから、時々感じるからわかるんだ。もちろん理由まではわからないけれど、好きになってくれとは言わない。でも俺にとってウェンリーは他のなににも変えがたいほど大切な存在なんだ。…頼むよ。』
俺はレインフォルスが俺の頼みを断らないであろうと見越した上で、そう言って無理にも彼に頼み込んだ。
なぜならア・ドゥラ・ズシュガ戦の時のように、この先レインフォルスと交代している最中を狙ってウェンリーを攻撃されたなら、シルヴァンを助けられなかったとの同じことにならないと言い切れないからだ。
レインフォルスは暫くの間沈黙した後、ポツリと諦めたように口を開く。
『…おまえは狡いな。』
この時初めて、レインフォルスから俺を非難するような台詞を聞いた。
『そう言わないでくれよ。』
『俺が強く断れないと気付いていてそう言うんだろう。だが否とは言えないが、是とも言わん…俺にも譲れない感情がある。』
『――わかった、これ以上無理強いはしないよ。』
はっきりした了承は得られなくても、恐らく彼はウェンリーに危険の迫るその時になれば、文句を言いながらも結局俺に力を貸してくれるだろう。
なんとなくだがこれまでの彼の言動を見ていてそんな確信がある。
もしかしたらこの機に、彼がウェンリーをなぜ嫌いなのか俺に教えてくれるかとも思ったが、レインフォルスは俺がウェンリーへの彼の感情について口にしただけでなぜか動揺していた。さすがにあの様子ではとても聞けない。
単に俺に気を使っているだけのようにも思えないが、そのことからも俺はこれ以上深く尋ねない方がいいみたいだ。
その後も頻繁に出現する瘴気の魔物を倒しながら、敵が落とす魔核の魔吸効果をディスペルで無効化しつつ、残る三つの結界石を無事に再配置し終えた。
ツェツハの街に漂う瘴気は、どこかで火事が起きた際に流れて来る黒煙のようでいて、寒暖差と湿気により生じる動きの少ない霧のようにも見える。
通常の気体なら広い場所では風に流されて薄くなり、建物と建物間には溜まりを作るように濃くなるものだが、俺達が中央広場に辿り着いた時、周辺は同じくらいの濃度で回りの建物がくすんで見えるような感じだった。
『見えるか?各家の窓からこの街の住人達が、不安げな顔をして心配そうに外を見ている。』
『丸二日以上この状態なんだ、無理もないさ。瘴気が入らないように窓や扉をキッチリ閉めていれば建物内は安全とは言え、このままじゃ食糧が尽きても買いに出ることさえままならない。』
『そう考えるとこのタイミングで来たのは不幸中の幸いか…おまえ達がここへ早く着いてももっと遅く着いても、どちらにせよ住人に多数の死者が出ていたかもしれないんだからな。』
正直に言って俺は、レインフォルスの言うようには思えなかった。もう一つ〝別の可能性〟が抜けていたからだ。
『…とにかく俺は俺達にできることを全てやるつもりだ。』
後はイスマイルとリヴが合流するまで、暫しの間待機する。俺とサイードが二人がかりで魔法障壁を施している間は無防備になってしまうため、魔物の襲撃に備えてゲデヒトニスを除いた全員が揃うのを待つ必要があったからだ。
程なくしてそれぞれが、異なる方向からこちらへ小走りに駆けてくる。
「ルー様、戻りましたわ。」
「ああ、ありがとうイスマイル、デウテロン。」
「予も戻りましたぞ!」
「お帰りリヴ、プロートン。みんなお疲れ様だ。」
イスマイル達には魔物との戦闘がない代わりにかなり離れた箇所の結界石を担当して貰ったため、結構な距離を短時間で回らなければならなかったのだが、俺の仲間が四人ともケロッとしていたのに対し、彼らに同行していたここのハンター達は休みなくついて行くので精一杯だったのか、遅れて辿り着くと即座に地面へ倒れ込むようにしてへたり込んでいた。
「や、やっと追いついた…はあはあ」
「ぜえぜえ、全員息一つ乱れてねえとか、どんだけの体力だよ…」
「あたしもうだめ…ちょっと休ませて…ゲホゲホッ」
「……(喋る元気もない)……」
「なんだなんだ?だらしないぞお前ら、それでもこのツェツハのA級か!!」
地元のハンター達へ向けて、踏ん反り返りながらそう言ったアバローナの後ろで、テルツォとウェンリーはコソコソと聞こえるように話し出す。
「…自分だって最後の方はヒイヒイ言ってたくせに。ね、ウェンリー。」
「しっ!だめだってテルツォ、実はアバローナが俺らより体力ねえなんて言っちゃ、Sランク級の面目丸潰れだろ?」
「ま、おじじだもんね。」
「そ、おじじだから。」
「おいウェンリーにテルツォ…聞こえてんだよ。」
地べたに座り込んでいる地元のハンター達を含め、アバローナと一緒にウェンリー達からも現状にそぐわない明るい笑い声が上がる。
『あいつは…こんな時にふざけている場合か。』
『まあまあ、あれがウェンリーとテルツォの良い所なんだよ。ここのハンター達と少しでも打ち解けておくのも大事なことだろう。』
『…ふん。』
ウェンリー達が場を和ませている間に、俺はイスマイル達四人からそれぞれ四箇所の結界石を受け取る。
これはなぜここの魔法障壁が消えたのかの原因を調べた後、改めて俺の魔力を流し込み、再利用するために持ち帰って貰ったものだ。
「ルーファス、機能していなかった結界石は、内包する魔力が枯渇しておっただけで壊されてはおらなんだぞ。」
「わたくしの方も同じでしたわ。」
「そうか…俺の方もそうだった。だとすると魔法障壁が消えた原因はただの魔力放出だったのかな。」
魔石や魔法石、結界石には時々内包していた魔力を勝手に放出してしまうことがある。言うなればそれは『不良品』のようなものだが、天然の魔石を多く利用している結界石には、割りと良くある現象なのだ。
もちろん俺が選んで魔力を込めた結界石に、そんな現象が起こることはない。
『まだ早い、そうとも限らないだろう。瘴気の魔物から採取した魔核があれだぞ。』
『…結界石の魔力を誰かがなにかで吸収したということも考えられる?』
『ああ。俺ならその可能性をまだ視野に入れておくな。』
――それならこれから張る魔法障壁には、魔吸効果そのものを無効化するものも付け加えておくか。
そうすれば瘴気の魔物が落とす魔核の効果も瞬時に無効化されて、知らずに触れた人が命を落とすこともなくなるだろう。
まあその前に俺とサイードが魔法障壁を張る以上、街中に瘴気が入り込むこと自体二度となくなるだろうが。
魔法障壁の詠唱に入る前に、一応なんの連絡もないからゲデヒトニスに一声かけておくか。
『ゲデヒトニス、これから俺とサイードは魔法障壁の詠唱に入るが、そっちは大丈夫なのか?』
思念伝達で声をかけると、すぐに戦闘中らしきゲデヒトニスから返事があった。
『ああ、連絡しなくてごめん、今のところ問題ないよ!ただこっちは敵が中型ばかりで結構忙しいんだ。一緒に戦っているSランク級守護者達四人はかなり強いから、頃合いを見て抜けて僕もそっちへ合流するね。これならここは彼らに任せても大丈夫そうなんだ。』
『了解だ、戻れるならそうしてくれ。』
ゲデヒトニスがああ言うくらいだ、まだ会っていない残りの四人は相当な腕前らしい。
「サイード、準備はいいか?」
「ええ、いつでも良いですよ。」
「よし、それじゃツェツハの街に魔法障壁を張り直すぞ。瘴気の魔物が出現して魔法詠唱を妨害してくるかもしれない。念のため全員周囲には気をつけておいてくれ。」
「「「「了解!!」」」」
「お、いよいよか…お前達も配置に付け。魔物にラムザウアー達の邪魔をさせるなよ!!」
「「「「ヤー!!」」」」
ツェツハのハンターもアバローナの指示で護衛に回ってくれるらしく、能力のバランスを取るために太陽の希望のメンバーの間に各自が入り込む形で位置に付いた。
『…良く考えているな。自分達とおまえ達との実力差を認めたか…この配置ならここのハンター達が太陽の希望の補助を安全な場所で担える。つまりは自分達が直接斬り込むよりも、おまえの仲間に任せた方が効率が良いと気付いたんだろう。』
感心した様子でいるレインフォルスの声を聞きながら、俺とサイードは魔法障壁の詠唱に入った。
このツェツハの街は凡そ半径が五キロメートルほどに渡って広がっている。その全域を覆う魔法障壁となると、早くても張り終わるまでには二十分ほどかかる計算だ。
ブンッ…ブオンブオンオン…
俺とサイードが同時に魔法詠唱へ入ると、俺達の足元から外へ向かって呪文字の魔法陣が描かれ始めた。
それは高速で次々と外側へ外側へ円環を広げて行き、ある程度のところまでくると配置した八箇所の結界石方向へ、中心から真っ直ぐに伸びる呪文帯を発生させた。
次に円環を八つに分けるような魔法陣が描かれ、さらにそれは大きく広くどこまでも延びて行く。
「すげえ…なんて魔法詠唱の早さだ…!!あっという間に外円線が見えなくなっちまった…!!」
「ここまでの魔法詠唱は見たことがないぞ…!!」
ハンター達の感嘆の声が聞こえる中、意識を集中して詠唱し魔法陣を描いて行くと、途中ある一角にチリリと俺の魔力へ反応を示す場所があるようだった。
――なんだ?街の南になにかある…?
ズッ…ズズズズズ…
「「「!!」」」
その時警戒していた通り、周囲に漂う瘴気の中から中央広場全体へ無数の魔物が出現した。
それらはまるで瘴気が寄り集まって躯体を形作るかのように、次々に湧いて出てくる。
そうしてあっという間に俺達は瘴気の魔物に取り囲まれてしまった。
「やっぱり出やがったか!!」
「なんでこんなに…!!」
「怖じ気づくな、俺達はこの二日自分達でこの街を守ってきたんだ!!」
『なんて数だ…小型ばかりだがおまえとサイードが戦えないのに、この数を捌ききれるのか!?』
『大丈夫だ、ゲデヒトニスもこちらへ向かっているから、俺達が障壁を張り終えるまで持ち堪えられればいい。』
「リヴ!!ゲデちゃんもいませんから、戦闘指揮はあなたに任せますわ!!」
「心得たわ、任せい!!先ずは予の広範囲水魔法で瘴気なぞ押し流してやるわ!!喰らうが良いぞ、全てを飲み込め!!『シュトゥルム・マレハーダ』!!!」
ズンッ
リヴが繋げた三節棍を頭上でくるくる回転させ、それを強く地面にドンッと突き立てると、石畳の地面が大きく震動して一瞬で青色の魔法陣が光り輝く。
そこから湧き出た水の壁が、高速で周囲の魔物へ津波となって襲いかかった。
「瘴気が消えたら全員で魔核を狙えい!!!予らが主の邪魔はさせぬぞ!!!」
「よし来た了解!!!てめえら雑魚はこのデウテロン様が相手だ!!!ひゃっほう!!」
ようやく暴れられる、と言わんばかりのデウテロンは、最近になって大剣の二刀流とやらに嵌まっており、刀身の形状が異なる二振りの得物を両手に持ち、歓喜の雄叫びを上げながら魔物の直中へ突っ込んで行く。
「調子に乗らないのよ、テロン!!!もうっ仕方がないわね、テルツォ、あの馬鹿を援護するわよ!!」
「あい、プロ姉。」
テルツォが魔物全体の動きを遅くする時属性魔法『スロウ・スラッガー』を唱え、いつものように状態異常効果を内包した巨大な泡をデウテロンの遥か頭上へ出現させる。
続いてプロートンが魔力矢をセットした長弓を引き絞り、テルツォの魔法泡を潜るようにそれを放った。
ヒュンッ…バアンッ
プロートンの放った魔法矢がテルツォの泡を貫くと、灰色の光が辺り一面に飛び散り、それを頭から被った全魔物の動きを遅くする。
そこへまるで空から降る豪雨のように、弾け飛んだ無数の魔法矢が轟音を立てて降り注ぎ、広範囲の魔物を次々地面へ縫い止めた。
ズガガガガガガンッ
「さっすがプロ姉とテルツォだ、わかってんじゃん!!おらおらおらーッ!!!これが初披露だ!!大剣二刀我流『嵐・無双斬風撃、テロンの舞』!!!」
デウテロンは二振りの大剣を右側に掲げて構え、全身に天属性の魔力を纏うと、両足を摺り合わせるようにして高速回転し、遠心力を利用して剣撃の真空刃を周囲に放った。
ズドドドドドドドッ
「ふっ…決まった。」
ドヤ顔をして前髪をパサリと靡かせるデウテロン。だがその直後、ウェンリーから怒鳴り声が上がる。
「バッキャローッ、デウテロン!!!てめえ何体魔核を討ち漏らしてやがんだ!!!」
「えっ…あれ?」
デウテロンの大技で密集していた数多くの雑魚は倒れたが、疎らに魔核を討ち漏らし、無傷で蠢いている個体がまだ多く残っていた。
「折角プロートンとテルツォが動きを止めたのに、なにが『テロンの舞』だ!!きちんと仕留められなきゃ大技も不発なんだよ!!てめえは後でマイルからお仕置きだ!!!」
「ええ…」
ウェンリーはデウテロンへお説教をしながら、デウテロンが討ち漏らした魔物の魔核をエアスピナーと魔法石の攻撃で砕き一体一体倒して行く。
「馬鹿者、さっさと後退せぬか!!魔核に触れれば魔力を吸われると教えられたであろう!!」
「大丈夫ですわ、リヴ!!わたくしが魔核の魔吸効果をディスペルで消去致します!!デウテロン、気にせず思う存分、大剣二刀我流とやらを奮いなさい!!」
「イ、イスマイル様…!(ってことはお仕置きはなし…?)」
「お仕置きは後で纏めて致します!!ですから好きなようにやっておしまい!!!」
「うわーん!!!」
結局お仕置きは免れないと知ったデウテロンは、二本の大剣を軽々と振り回し、八つ当たりでもするかのように今度は真面目に魔核を破壊して行った。
『なにをやっているんだ、あいつは。』
そうして最初に出現した瘴気の魔物を全て倒し終わる頃、再び瘴気の中から新たな魔物が湧いて出てくる。
ズ…ズズズズズズ…
『おい…ルーファス、いくらなんでもこの魔物の出方はおかしいぞ。なにかに操作されているか、意思があるかのような――』
――思った通りか…!
レインフォルスの警告を聞きながら俺は内心で〝やっぱり〟と思っていた。
それでもここはみんなとアバローナ達でなんとかして貰うしかない。
そうしてここから俺とサイードの動けない状態で、俺の仲間達とアバローナ達地元ハンターにとって瘴気の魔物との耐久戦が始まったのだった。
次回、仕上がり次第アップします。




