222 魔精霊の定義
長い準備の末、ようやく魔精霊とカラマーダを異空間に閉じ込めたルーファス達は、当初の予定通りカラマーダから魔精霊を追い出すことに成功しました。リアン達アドラオンによって人間の体内から外へ出された魔精霊を見て、意外なことにルーファスは驚きますが…?
【 第二百二十二話 魔精霊の定義 】
眷属召喚に応じ俺の頭上へ出現したアドラオン五精霊は、指示に従って一斉にカラマーダの五人へ飛びかかった。
精霊の霊体である彼らは、目にも止まらぬ早さでダーマー達の体内に入り込み、その瞬間俺に向かって喚いていたリーダーは白目を剥いて宙に浮かんだまま、ガクリと魂が抜けたように気絶する。
それから僅か一分後カラマーダ五人の身体から、狙い通りアドラオンによって追い出された『魔精霊』らしき霊体が次々飛び出して来た。
全ては一瞬の出来事だったがそれらを確認した俺は、待ってましたと言わんばかりにゲデヒトニスへ叫んだ。
「出たぞ、ゲデヒトニス!!」
「抜かりはないよ!!捕らえろ、『スピリット・バインド』!!」
キュオオオオオ…キキキキキンッ
既に魔法待機状態で準備万端だったゲデヒトニスは、魔精霊がそこから動く間もなく『霊体拘束』の効果を持つ『幻属性』魔法で全ての行動を封じた。
ここまで大変だった割りに終わりが呆気ないのは、〝憑依した人間から魔精霊を外へ追い出す〟という最も困難な行程が、アドラオンの協力によって苦労せずに済んだからだ。
だがここで俺はカラマーダから出て来た魔精霊を見て、予想外のことに驚く羽目になった。
「――どういうことだ…これが深緑の魔精霊『ヴャトルクローフィ』なのか?」
ゲデヒトニスが完全拘束したことでなんの抵抗も出来ずに地面へ落下したのは、最早『精霊』として本来の霊体姿を保つことすら出来ないと思しき、色つきの靄のような状態となった魔精霊達だった。
普通は魔精霊と化して人間に憑依した場合、その精霊は宿主の生命力を吸収してより強力になるものだ。
だからこそ最大限に警戒して異空間に閉じ込めた上でさらに拘束していると言うのに、あれは今にも消えそうなほど弱っているようにしか見えない。
世界樹アミナメアディスの大精霊ツァルトハイトは、ヴャトルクローフィ達を神霊にも等しい高位精霊だと言っていたが、元々この姿だというわけじゃないだろうし…念のためリヴにも聞いておいた方がいいか。
「リヴ、本当にこれがユリアンを石化に追い込んだヴャトルクローフィに間違いないか?」
俺にその当時の記憶はなく、現時点で唯一その姿を覚えているのはリヴだけだったことから、確認のために尋ねてみる。
「ううむ、正直に申してよくわかりませぬ…予が覚えている彼奴は全身が深緑をしており、もっとこう…尖った鉱物のような印象を受ける不思議な形状の姿をしていたでする。」
「リヴにも確信が持てないか…だとすると後はもう、直接魔精霊から聞き出すしかないか。」
今度は『真眼』を使って外へ出た彼らの状態を見るに、やはり魔精霊はこのまま放っておいても消滅しそうなほど弱体化している。
これではまともな会話をすることなど到底無理だろう。つまりさっき俺の問いに返事がなかったのは、無視して答えなかったと言うよりも答えたくても答えられなかったと言うのが正解のようだ。
――カラマーダの体内にいる魔精霊を見た時は完全に同化しているのだと思っていたが、これだけ弱っている状態で人間の肉体を制御し、あの数死体の山を築くのはかなり無理があるんじゃないか…?
まさか本当にダーマーの言う通り、魔精霊に乗っ取られていたカラマーダが大量殺人を犯したわけじゃない…?
サイードが過去を見て来たことから、カラマーダが守護者パーティーの死に関わっていることは疑う余地もないだろう。
ただこうして俺自身が疑問を感じる以上、あの恐ろしい所業の全てが間違いなく彼らのしたことだと決めつけるのは早計かもしれなかった。
ア・ドゥラ・ズシュガ復活の背後には、カオスの第六柱と第七柱がいたということはもうわかっているからだ。
俺はもう一度魔精霊達を見て心を決め、あることをするために進み出た。
「ルーファス?なにをするつもりなのですか…!?」
ゲデヒトニスとリヴは黙って俺を見ていたが、俺の行動を察したサイードがまた険しい表情になる。
「あの状態じゃ口も利けないだろう。ダーマーの言葉もあるし、きちんと真実を確かめたいんだ。」
「ルーファス!」
――サイードがなにを言いたいのかは聞かなくてもわかっていた。
俺に当時の記憶はないとは言え、相手はユリアンを石化に追い込んだ仇でもある…止めたくなるのは当然だろう。
だけど一度疑問を抱いた以上は確かめないわけに行かない。先入観や私情から思い込みでそうだと決めつけてしまうと、その裏にある真実を見逃してしまう恐れがあるからだ。
そうして俺は禁呪『マナクリュスタルス』を参考にしてその場で魔法を作成し、本来なら討伐すべき魔精霊を回復するために極々小さな『霊力の結晶』を生み出した。
これは親指の先程度の大きさで魔精霊五体分にして五つあり、完全回復にはほど遠いがそれでも直近の消滅を免れる程度に精霊を癒すことが出来る、言わば霊薬のようなものだ。
「あなたはなんという物を作るのです…」
それを見たサイードは呆れたようにそう言って深い溜息を吐いた。
「そう言わないでくれよ、サイード。心配しなくてもこれに俺の霊力は使っていないから。」
「そんなのは当たり前です!そうではなくて、私が言いたいのは――!」
そこまで言って俺の目を真っ直ぐに見ると、サイードは急にその後の言葉を飲み込むように押し黙り、額に手を当てて目線を落としながら二、三度首を振った。
「――いえ、もういいです…なんでもありません。」
「「「??」」」
俺とゲデヒトニス、リヴの三人は、彼女がなにを言いたかったのかわからずに首を傾げただけだった。
それから俺は魔法で作り出した『霊力の小結晶』を、弱体化している魔精霊達にそれぞれ分け与えた。
すると僅かに回復した彼らは瞬く間に本来の姿を取り戻し、拘束されたままの状態で宙に浮き上がった。
「お下がりくだされ、ルーファス!」
瞬間、警戒したリヴが俺の前へ飛び出し、直ぐさま棍を構えて戦闘態勢を取る。そのリヴの背中をポン、と叩いてゲデヒトニスはにこっと微笑んだ。
「大丈夫だよリヴ、僕の拘束を破って抵抗出来るほど力は戻ってないから。」
「そ、そうでするか…?」
「ああ、心配ない。」
ちらりと確認するように俺へ視線を向けたリヴに頷き返すと、リヴは武器をしまって俺の脇へと前を開ける。
それを待っていたかのように、全身深緑色をした魔精霊が片言の人語で話しかけて来た。
『――ナゼ、我ラヲ助ケル?』
少なくとも千年前、俺とリヴには会ったことがあるはずなのに、その魔精霊は魔精霊とは思えないほど落ち着いた様子でそんなことを聞いて来た。
――やっぱりフェリューテラの精霊族が魔精霊化するのとは随分様子が違うみたいだ。
多分この魔精霊がヴャトルクローフィだな…リヴからさっき聞いた外見とも一致している。
元の姿を取り戻したと思われる五体の魔精霊は、それぞれ深緑、朱、青紫、黄銀、紺色をしており、まるで採掘したばかりの原石のように歪で尖った不思議な形状をしていた。
彼らはグリューネレイアやアレンティノスの精霊族とは大きく異なり、物質の元素を象ったような、『ヴィールス』と呼ばれる人の目には小さすぎて見えない存在に似た霊体を持っているようだ。
「別に助けたつもりはない。カラマーダの中で俺の話は聞こえていただろう。ダーマーは俺にあの大量虐殺は自分達の仕業じゃないと言っていたが、おまえ達がやったんじゃないのか?」
『…違ウ、ト言ッテ信ジテクレルトハ思エナイガ…〝ガー〟ハ嘘ヲ言ッテナイ。死面蛾ニ捧ゲル贄トシテ、ドコカラカ攫ッテ来タ人間ヲ殺シタノハ〝混沌ノ第四柱〟ト名乗ル下衆ナ雌魔族ダッタ。』
「第六柱と第七柱だけでなく、この件の裏には第四柱までいたのか…!?」
予想外の犯人を出され、俺は思わず驚いてサイードやリヴと顔を見合わせてしまった。当然、ゲデヒトニスを含め全員同じように驚いている。
あれは俺がまだ会ったことのないカオスの仕業だった?…第四柱は魔族の女なのか、思わぬ情報が手に入ったな。
すぐ鵜呑みに出来る話じゃないかもしれないが、確かにそれならあの残虐性も納得できるような気がする。
『第四柱ハ、タダ殺セバ済ムダケノ人間ヲ、ワザト生キタママバラバラニシテ殺戮ヲ楽シンデイタ。〝ガー〟達ハ孤児院ノ子供達ヲ同ジヨウニ贄ニスルト脅サレテ、仕方ナク死体ノ後始末ヲサセラレテイタダケダ…』
「後始末?なぜ第四柱がそんなことをさせる?遺体は人目につかない地下の奥にあったんだし、基本的にカオスは不死化に使うのでもない限り殺した人間の亡骸を気にすることはないだろう。」
『死面蛾ヘノ贄トシタ人間ハ使エナイト言ッテイタ。魔族ノ考エルコトナドワカルモノカ。』
「…なるほど。」
カラマーダに遺体の後始末をさせていたのは、俺達や他の守護者の目を欺くためだとか…?
なんにしても第四柱は亡骸を利用出来ないから、楽しみのためにわざと生きたままバラバラにしたのか…相当な残虐性を持つ魔族らしいな。
それが事実なら気になるのは、シルヴァンを攫った第六柱達と一緒には姿を見せていないことだけど…他にもなにか企んでいるのかまではわからないか。
おそらくこの魔精霊の言う『ガー』とはダーマーのことだろう。憑依して肉体を乗っ取り、道具や餌とするだけの人間を愛称呼びにするとは…益々魔精霊の定義から外れている。
ユリアンを石化に追い込んだ魔精霊像とも一致しないのはなぜなんだ?そのことも確かめる必要はあるけど、一応ここまでは矛盾のない筋の通った話ではあるが、まだカラマーダに全く罪がないとは言い切れないな。
先にそっちを聞き出してからだ。
「その話が事実だとして、カラマーダに関わった五つの守護者パーティーが、一人残らず亡くなっている件についてはどう説明するつもりだ?」
『ソ、ソレ、ハ…』
「まさかそれも第四柱のやったことだとは言えないだろう。死に至る経緯は違えども、こちらに関してはカラマーダがそう仕向けたことはわかっているんだ。」
だからこそ『魔精霊』の存在を知ることが出来たんだしな。
『お待ちくださいルーファス様。目を覚ましたガシェー・ダーマーが、どうしても話したいと言っています。』
魔精霊が返事をする前に、ダーマーを体内から抑え込んでいるリアンがそんなことを言ってきた。
「――また取り止めのない言い訳を延々と喚くだけなら聞く気はないぞ。」
ダーマーはさっきも追い詰められた殺人犯が悪あがきするように、ただ繰り返し〝俺達じゃない〟〝こんなはずじゃなかった〟と言った同じ言葉を喚くだけで、俺が耳を貸そうと思える内容を口に出すことはなかった。
真実濡れ衣を着せられたり本当に事実と異なるのであれば、もう少しまともな台詞が出て来てもおかしくはないだろう。
だからこそ俺はダーマーの相手はせず、嘘を吐くことのない(吐く理由がない)魔精霊から話を聞くことにしたのだ。
俺は仕方なくリアンに頷き、ダーマーが口を利けるよう精霊術を解いて貰った。
「や、やっと喋れる…」
「自分を擁護するだけならすぐに口を利けなくして貰う。――それでなにを言いたいんだ?」
俺はダーマーを要救助者としてでなく、『犯罪者』へ対する扱いに切り替え、始めに会話をした時とは異なり『弱威圧』の技能を放ちながら脅しをかけた。
だがダーマーは腐ってもSランク級守護者なのだろう、怯みながらもしっかりと俺の目を見ながら口を開く。
「フィ、フィーが言ってくれた通り、大量虐殺の方は俺達がやったんじゃないと信じてくれたんだな?」
〝フィー〟?…こっちも愛称呼びか。半年以上も操られていたのかと思いきや、結託して信頼関係まで築くとは…益々犯罪者なのが残念な男だな。
「…否定はしないがまだ確定じゃない。俺の中でダーマー、おまえは既に『犯罪者』だ。もちろん、おまえ以外のメンバーも全員だ。」
ダーマーは項垂れてガックリと肩を落とすも、すぐに顔を上げて俺に訴えるような視線を投げかけてきた。
「わかった、自分らを擁護するようなことはもう言わない。だがフィー…『リムドゥーフ』という種族で異界の精霊族だと言う彼らとの出会いから、第四柱と名乗った不気味な女の話まで全部聞いてくれないか。」
――なぜ話をする気になったのかはわからないが、ただ喚いていただけの時とは違い、真剣な目でそう言ったダーマーに俺は頷く。
「…いいだろう、偽証石を出すから少しの嘘も吐かずに最初から全てを話せ。」
こうして俺はダーマーから話を聞くことになったのだった。
――事の発端はやはり、ダーマーとメンバーのジョニー(赤味のある緑髪の男)が育った孤児院の一件から始まっていた。
老朽化した建物が原因で子供が怪我をし、それを知ったモナルカの町長と国から、街の景観にはそぐわないボロボロの孤児院を取り壊すと告げられたことで、孤児院の院長が日頃から大金を寄付してくれていたダーマー達に相談をして来た。
彼らにとってモナルカの孤児院は実家と同じであり、なんとしても助けたいとは思ったものの、建て替えるには莫大な資金が必要となる。
それは俺達『太陽の希望』のように毎日高難易度の依頼を三、四件熟し、メンバーにも単独で変異体を討伐出来るほどの力があればどうにかなるかもしれないが、そんなのは考えるまでもなく非常に困難なことだ。
そこでダーマー達は建て替え資金を用意するからと言って、町長と国に一定の期間まで待って貰うよう頼み込んだが、そうしてどうにか得た期限までの時間は短くほとほと困り果ててしまう。
そんな時ダーマーは偶々討伐依頼で訪れたアルソスの森で助けを求める小さな声を聞き、気になって声の主を探して行く内にア・ドゥラ・ズシュガの休眠卵が擬態していた丘で五色に光る鉱物を見つける。
それこそが魔精霊達が閉じ込められていた『精霊の檻』であり、ヴャトルクローフィ達五精霊だったらしい。
五色に光る五つの鉱物を見つけたダーマーは、それが精霊を捕らえておくための檻であることをヴャトルクローフィから聞き、現在のフェリューテラでは精霊の生きる糧である霊力が少なく、檻から解放するついでに自分達を受け入れて貰えないかと懇願されたようだ。
つまりダーマーはヴャトルクローフィが魔精霊だとは知らずに、善意から体内に受け入れたのだ。
まあその結論に至るまでは、不審を抱いたり魔物の類いではないかと疑ったりも一応はしたらしいが、『識者』であるダーマーは子供の頃から稀に精霊を見かけたことがあったそう(土小人のクレイリアンだったそうだ)で、そこまでの警戒はしていなかったと言う。
「なるほど、それが魔精霊との出会いか。精霊の檻はどこにあったんだ?」
「岩壁の窪みに草で隠してあった。多分あんたの言う…『識者』って奴か、精霊の声が聞こえなければ見つけられないようになってたんじゃねえかな。」
「ああ、そうだろうな。」
この時点でも魔精霊は黙っていたが、偽証石の光らない真実をダーマーが話していることから、その出会いにはなにか意図的なものを感じる。
それがカラマーダを狙ったものだとは限らないが、少なくともヴャトルクローフィ達を『識者』と出会わせようとした何者かがいたとしか思えない面があった。
そこに魔精霊の意思があったのかどうかは別として、だが。
――アルソスの森で五体の精霊を助けたつもりでいたダーマー達は、それから程なくして見知らぬ人物からSランク級守護者である彼宛ての手紙を受け取る。
その内容はとある運送会社の専属護衛として、長期の契約を破格の報酬で受けないか、という打診だった。
手紙の差出人は『フェイト・シックザール』という人物であり、商業組合の支援者だという身分証明の写しが同封されていたことから、ダーマーは相手を信用して商業組合を訪れることにしたと言う。
「そこで組合長から、魔物駆除協会を通して専属契約を結んでいた守護者パーティーに欠員が出てしまい契約を解除せざるを得なくなったから、なんとか高額報酬で護衛依頼を引き受けてくれないかと頼まれたんだ。」
…おかしいな、マイル君のお父さんが依頼を出したのは魔物駆除協会の方にだったはずだ。それなのにどうしてそこで商業組合が絡んで来るんだ?
魔物駆除協会が商業組合から依頼の委託を受けることはあるけど、その逆は滅多になかったはずだけど…
やっぱりあの商業組合、なにか裏があるんだな。
「…その運送会社とはカステン物流運送か?」
「ああ、そうだ。そうか、調べたんなら知っているか…」
瞬間、ダーマーは罪悪感からか酷く顔を歪ませて、今にも泣き出しそうなほどに申し訳ない、という表情になった。
それは明らかに、マイル君のお父さんが自殺した原因に自分が関わっているということを悔やんでいる顔だった。
――期間は五年という長期に渡る護衛契約だったが、普通に依頼を熟すより遥かに高額の報酬を貰えるのと、雇い主の許可があれば休日に依頼以外で魔物を狩っても構わないということもあり、ダーマーはパーティーメンバーと相談の上二つ返事で契約を結んだ。
「その時の俺はとにかく少しでも金を稼ぐために目先の報酬にしか目が行ってなくて、商業組合の用意した契約書類の内容を全部きちんと把握していなかったんだ。だから大してまだ仕事もしていないのに、カステンさんから突然中途で契約破棄を告げられた時は、なにがなんだかさっぱりわけがわからなかった。」
突然の契約破棄に慌てたダーマーは、中途解消するのなら違約金を払って貰わなければ困ると詰め寄り、間に商業組合を通して訴えた。
すると数日後には五年契約分の違約金が魔物駆除協会の口座に振り込まれ、その内の二割を仲介斡旋してくれた商業組合長へ支払ったそうだ。
「ちょっと待ってくれ、間に商業組合を通したって?それは間違いないのか?」
「ん?ああ、間違いない。…実は凄く恥ずかしい話なんだが、俺達は全員親なし子で碌に学校も通ってなかったから、あまり難しい字なんかになると読めないんだよ。だから契約書なんかは商業組合長に読んで貰って契約した。今でこそ俺らの孤児院も大分マシになってるけど、それでも教育面では普通の家庭で育った子供には追いつけない。」
「「「!」」」
――そう言うことか…!
ダーマーのその言葉で、腑に落ちない点のあった一部分が一瞬で解けた。孤児院に稼ぎの殆どを寄付したりして、社会的弱者に支援をしていた人物像と一致しない理由がこれでわかった。
サイードとリヴも同じことに気付いたらしく、険しい顔をしているが既に別の考えを頭の中で巡らせているようだ。
つまりダーマー達は、カステンさんが圧倒的に不利な契約を結ばれていることは当初知らなかったんだ。
マイル君のお母さんの話では、契約書が二重になっていたとご主人から聞いていたようだし、契約内容に自分達の知らない部分があるなど微塵も思っていなかったダーマーが、孤児院の建て替え資金を集めるために必死なこともあり、正当な権利として違約金を請求したのは当たり前のことだ。
「一つ聞きたいんだが、カステンさんの生命保険金まで奪ったのは何故なんだ?」
「それは商業組合長がカステン物流運送会社設立の際に、資金調達の保証人になっていたからだ。カステンさんの借金も肩代わりして随分手助けしたと聞いているし、証拠の書類も奥さんに見せた。そのせいで組合長自身も損害を被っていて、世話になっていたからその分を取り返したかったんだ。ただ最終的にその金は、孤児院の建て替え費用として俺達に渡してくれたけど…」
証拠の書類というのはカステンさんとカラマーダの契約書のことか?またマイル君のお母さんと少し話が食い違っているな…それでも偽証石が光らないと言うことは、ダーマーは嘘を吐いていないと言うことになる。
マイル君のお母さんは夫が命と引き換えに残してくれた生命保険金をダーマーに奪われたという意識が強かっただろうし、ダーマーはダーマーで書類をよく見ず恩人の借金を返して貰うつもりだったかもしれない。
もしそれ以外に双方の意見が食い違うとするなら、後は魔精霊が〝なにかした〟ということもあり得るか。
「結局受け取ったのならそれは自分達のために奪ったのと同じことだ。そのせいで自殺した夫を失った奥さんと、まだ幼い息子が貧困に喘ぐことになるとわかっていて返すことを考えなかったんだからな。」
「貧困って…俺達と違って身元はしっかりしているんだし、普通に働けばまた家を借りられただろう?息子が幼くたって親のいない孤児はもっと貧しいんだ。母親がいるだけでも十分じゃないか。」
「「「「………」」」」
――親のいない苦労をして来た孤児だからこそ、そういう面はわからないのか…魔物駆除協会は完全な実力主義であり、極端な話、俺のように生まれも育ちもわからない人間でも身分証が手に入り、魔物を狩って依頼を熟しさえすればいくらでも金を稼ぐことが可能だ。
一般家庭の内側や親のいる生活を知らなかったとしても、ダーマーは殆ど困ることもなかっただろう。
こればかりは今責めてもどうにもならないな。
「――ここまでの事情は概ね理解した。後で詳細は教えるが、カステン家の件についておまえ達カラマーダはなにも知らずに雇い主を自殺に追い込んでいる。…ただダーマー、おまえの顔色を見るに既に気が付いていたようだけどな。」
「………」
ダーマーは俯いて押し黙り、自分のしたことに罪悪感を持っているのは明白だった。
「悔やむのはいいが、まだ話は終わっていない。――今度は俺がおまえ達を『犯罪者』だと思っている件についてだ。」
瞬間、サッとダーマーの顔色が青ざめた。
「その分だとこちらも自覚があるんだな。」
「ああ、わかってる…自分を擁護しないと言ったからには、俺達のしたことで同業者のパーティーが全滅したことは認めるよ。どんな事情があったって、その事実は変わらない…でも一言だけ言わせて欲しい。」
「なんだ?」
「――ここで止めてくれてくれて助かった。そうでなければ俺達は、次の標的も死に追いやる羽目になっていただろう。」
――結論から言えば、ダーマー達は契約を破棄した守護者パーティーに事の成り行きを不審がられており、商業組合との癒着や不正を疑われ脅されていたようだ。
それでも長期契約を結んでは契約主から破棄されて、違約金を受け取っていたのはさすがに俺も疑うしおかしいと思うが、ダーマー本人は孤児として育ち貧しかった経験から稼げればそれでいいとさえ思っていた。
そうしてその守護者パーティーへSランク級守護者に手を出すなと逆の脅しをかけるため、わざと特殊変異体の棲み処へ誘導したり、乗る予定の馬車に大事故にならない程度の細工をしたりしたという。
自分達の罪を擁護しないと言いながらも、ダーマーはその行いにわけのわからない恐怖を感じており、あれで相手が死ぬとは思わなかった、たったあれだけであんな大事故になるとは想像もしていなかったと、かなり怯えてもいた。
そのことから思うに、どうもその裏にはまだ俺達の掴んでいない〝なにか〟があるようで、亡くなった守護者パーティーに関しても契約破棄に至る要因にまで再調査を行わなければならない必要が出てきた。
だがこちらは既に当事者が全員亡くなっていることから、事情を知るのはかなり困難だろう。
まさか過去へ行ってその後亡くなるパーティーへなぜ契約を破棄するのかと尋ねるわけにも行かないし、ライ・ラムサス救出の件で大きく他者の過去を変えたばかりの俺は、当分の間インフィニティアへ行くことを含め、安易に時空転移魔法をサイードへ頼むのは自粛したかった。
結局五つの守護者パーティーの死に、カラマーダが関わっていることだけは確かだった。
事故に遭うように仕向けたと言っても余程でなければ確実性は乏しく、特殊変異体が相手だったとしても、実際に手を下したのでなければこちらも全員を確実に殺すには少し足りないような気がする。
彼らを庇うつもりはないしカラマーダが犯罪者であることはもう間違いないが、本来なら嫌がらせで済むはずだった出来事に、なにかの意思が加わって全員を死に至らしめたというように思えてならない。
そこにカオスは関わっているんだろうか…?
「それじゃ最後にカオス第四柱の話を聞かせてくれ。」
「あ、ああ…それはもちろんだが、あんたはあの恐ろしい女を知っているのか?」「いや、面識はないしどんな奴なのかも全く知らない。」
「な、なんだ…てっきり知ってて聞いてるのかと思った。」
「俺が知っていようといまいと関係ないだろう。」
ダーマーの態度にイラッとした俺は、冷たく突き放すような言い方をする。少なくとも故意に守護者を害そうとした男に、甘い顔をする気はないからだ。
だが第四柱について話そうとしたダーマーが、その所業を思い出しているらしい直後からガタガタと震え出したことで少し態度を緩めた。
「おい…大丈夫か?」
「す、すまない…だ、大丈夫だ…あ、あの女…外見だけは豊満な体つきに妖艶な美女だったが、魔物なんかより遥かに恐ろしい化け物だった…」
恐怖に怯え青ざめた顔で話し始めたダーマーに、改めて第四柱はかなり凶悪なのだと聞き入る。
カラマーダがカオスに会ったのは、今から四ヶ月ほど前のことだそうだ。
その時もSランク級守護者であるダーマー宛てに自宅へ手紙が届き、〝おまえの罪を知っている〟と言う内容の文と指定した場所へ来い、という命令に、来なければ孤児院の子供達と院長を全員殺すという脅しがあって従わざるを得なかったようだ。
「俺達が指定された場所へ行くと、いつの間にか遺跡にあるような転送陣が地面にあって、恐る恐る中へ入ると噎せ返るような血の匂いと腐臭の漂う地下へ送られたんだ。」
そこであの自然洞のような地下を調べて行くと、あちこちに置かれていた檻の中に老若男女を問わずかなりの人数、人間が閉じ込められていたのを見てしまう。
当然、彼らは助けを求められるも、自分達も何者かに脅されていることもあり、それに応じることは出来なかった。
そうして俺達が遺体を見つけた最奥のあの部屋で、カラマーダはカオス第四柱と名乗る女に会ったのだそうだ。
「あの女…俺達の目の前で生きたまま人間をバラバラにしただけじゃなく、殺した子供の肉にかぶりつくわ、美味しそうに血を飲んで見せるわで…見た目が人間のように見えても絶対別物だと一瞬でわかった。他にも若い男の喉を長く伸びた爪で切り裂いた挙げ句、苦しむ男の上に跨がって性――」
「その言葉は言わなくてよろしい!!」
ダーマーの話を遮り、なんの前触れもなくサイードが声を荒げた。
「サ…、サイード?」
「聞けば必ず想像してしまうでしょう。そのような汚らわしい行いをルーファスの耳に入れることは私が絶対許しませんよ…!!」
もう十分です、と言ってサイードは、俺でも凍り付きそうなほど恐ろしい形相でダーマーをギッと睨んだ。
「と、とにかく俺達はただただ恐ろしくて、あの女の言いなりになるしかなかったんだ。檻に入れられていた人達がみんな殺されるとわかっていたが、どうすることもできなかった。あれに逆らうくらいなら、魔物に殺された方が余っ程マシだと思ったんだ…っ」
守護者でありながら同業者を死に至らしめ、助けを求められながら囚われていた人々を見殺しにしたダーマーは、青ざめた顔色に震えながら涙を流し、後悔の念を滲ませる。
――ダーマーがもし命を賭けて行動を起こせば、誰か一人ぐらいは助けられたかもしれないが…暗黒神の眷属であるカオスに守護者とは言えごく普通の人間が立ち向かうのは不可能だっただろう。
そう思うと俺は、とてもじゃないがダーマーを責める気にはなれなかった。
「おまえが会ったのはその第四柱だけか?」
「?」
「…いや、いい。」
ダーマー達は第六柱と第七柱を見ていないのか…妙だな。
その後もその時の心情を泣きながら吐露したダーマーは、罪の意識から出来るだけモナルカの住人達とは関わらないように決め、下手をして第四柱に街が襲われたりしないよう、殺された人々の遺体を日々片付けながら死人のように暗い日々を過ごしていたらしい。
つまりは魔精霊のせいで自我を失っていたというわけでなく、あの状態は意識があるのに自らそうしていたのだと言うこともわかった。
その誰にも言えなかったであろう恐怖を思うと同情を禁じ得ないが、どこからどこまでが彼ら自身の行いが招いたと言えるのかはまた別の話だ。
最悪の場合、魔精霊を見つけた時点で運命が決まったとも言えるかもしれない。
何故なら俺の推測では、カオスかそれ以外の存在かはまだはっきりしないが、少なくとも初めから『識者』で『守護者』である人間をこの件に巻き込むことが目的だったのだろうと思うからだ。
――カラマーダはある意味別の目的で『生贄』だったんだ。いったい誰の仕業かはまだわからないが、随分と舐めた真似をしてくれる…!
狙いは幾つも重なって縺れており、どれがそうだとは一概に言えないけれど、今回の件には守護七聖の誰かを攫うこと、ア・ドゥラ・ズシュガを復活させ多くの人間を死に追いやること、魔物を駆除する職にある『守護者』の権威を失墜させること、そして…
俺に『魔精霊』を殺させることなどが最終的な目的だったと言わざる得ない。
――となるとやっぱり、俺の感じる違和感は正しい可能性が高いな。
大体のことがわかったことで、残るは討伐するはずだった魔精霊と救出するはずだったカラマーダの処遇を決めるだけとなった。
「なにを悩む必要があるのです?魔精霊は討伐するのが当たり前でしょう。まさかルーファス、ツァルトハイトに言われたことを真に受けているのではないでしょうね?」
サイードの言う〝ツァルトハイトに言われたこと〟とは、ヴャトルクローフィ達を赦し、できることなら救って貰えないかと求められたことだ。
そうするとついでに後々俺の役に立つかもしれないと囁かれたことを、〝真に受けているのか〟とサイードは尋ねているのだ。
「いくらなんでもそこは見縊らないで欲しいな…俺が考えているのはそんなことじゃない。」
不満を顔に出して訴えると、サイードは短く溜息を吐いて「わかっていますけれどね。」と、付け加えたようなことを言う。
「ではなにを考えておられるのでするか?――予とて言いたくはありませぬが、あの深緑の異形…あれは間違いなくユリアンを石化に追い込んだヴャトルクローフィでするぞ。」
「うん…でも本当にそうなのかな?――少し違和感があるんだ。」
「「ルーファス!」」
俺が感じている疑問を口に出した瞬間、サイードとリヴが同時に諫めるような声で俺の名を呼んだ。
即ちそれは二人が、俺の意見に賛同出来ないことを表している。きっとなにを馬鹿なことを、と言いたい所なんだろう。
だがこう言う時に俺の考えを理解してくれる『分身』が傍にいてくれるのはとても有り難い。
「異空間に捕らえて既に拘束してあるんだから、ただ倒すのならもう簡単だよ。でも本当はサイードだって『魔精霊』にしては行動がおかしいことに気がついているんじゃない?」
俺の言葉を代弁してくれて助かった、ゲデヒトニス。――そう心で呟くと、ゲデヒトニスからすぐに〝どういたしまして〟と思念伝達が返って来た。
「ゲデの言う通りだ。あれがヴャトルクローフィであることを考えたとしても、フェリューテラで精霊族に対し定義されている『魔精霊』の区分からはあまりにもかけ離れている。――もしダーマーの言う『リムドゥーフ』というあの精霊種族が魔精霊としてそれに当てはまらないのなら、精霊族との盟約を結んでいる俺に手を下すことはできない。」
「なんと!でするがルーファス、ヴャトルクローフィはユリアンの仇でするぞッ!!御方が手を下せぬと仰せなら、予がこの手で――ッ」
「駄目だよリヴ!!」
怒りを顕わにして手元へ青く光る水の魔法陣を描きかけたリヴを、ゲデヒトニスがその手を掴んで思い止まらせる。
「そんなことをしたら精霊族とルーファスの絆に、取り返しのつかない大きな亀裂が入ってしまう。それが原因でフェリューテラが滅ぶこともあり得るんだ…!!君にその責任が取れるのかい?」
「ゲ、ゲデ殿…」
リヴは納得がいかない様子で歯噛むも、魔精霊とカラマーダ達にくるりと背を向けて俺から少し距離を取った。
「――ではあなたは一体、どうするつもりなのですか。」
険しい顔をして珍しく責めるような目でサイードは俺を見ている。
「先ずはヴャトルクローフィが、ユリアンに憑依した過去を覚えているのかどうかを確かめさせて欲しい。」
「……まったく。」
はあ、と深い溜息を吐き、サイードは怒って苛立っているかのように前髪を掻き上げる。それは俺が初めて見る彼女の仕草だった。
さすがに怒らせてしまったかな…?でも最悪の事態を避けるにはこれしかないんだ。
俺がそう思った瞬間、頭の中で呟くようなその声が聞こえる。
『…甘いな。』
――今の声は…レインフォルス?…起きたのか?
確かにレインフォルスの声がしたと思いすぐに問いかけるも、答えてくれる気がないのか彼から返事はなかった。
俺は気を取り直し、ヴャトルクローフィに問いかける。
「最初にも尋ねたが、ヴャトルクローフィ…おまえは俺と後ろの男性の顔に見覚えはないか?」
ヴャトルクローフィは少しの沈黙の後で答えた。
『…ナイ。――オマエノ言ウ〝ヴャトルクローフィ〟トハ、何代目ヲ指シテイル?私ハ代替ワリニヨッテ眷属契約ヲ強制的ニ受ケ継ガサレタガ、記憶ハ継承シテイナイノダ。ヨッテオマエ達ガ誰ナノカモ知ラナイシ、先代ガナニヲシタノカモ知ラナイ。』
«――代替わり…!!»
「それじゃ千年前のヴャトルクローフィは、既に死んでこの世にいないのか!?」
『千年?当タリ前ダ。コノ地デソレホド長ク生キラレルノハ、世界樹ノ精霊グライダロウ。』
「いや、そのくらいは知っているが…」
そうか…ユリアンの石体が破壊されたからと言って、必ずしも中にいたヴャトルクローフィが生きていたとは限らなかったのか。
段々とこの五精霊についてわかって来たぞ…つまり彼らはグリューネレイアやアレンティノスの『精霊族』とは若干異なる存在にして、総称を『リムドゥーフ』と呼び、ヴャトルクローフィは叡智を司る精霊『インディリス』という精霊の中でも、大精霊に当たる存在だったと言うことだ。
そうと仮定した上で先代が封印されたまま死んだのなら、次代に記憶を受け継げなかったのは当然だ。
要するにここにいるヴャトルクローフィは、同じヴャトルクローフィでもユリアンの仇とは全く別の存在だと言うことになる…話が噛み合わないわけだ。
『ソレト私カラモ聞キタイ。オマエハ我ラヲ〝魔精霊〟ト言ウガ、〝神の箱庭〟デハ狂化ニ錯乱、正気ヲ失クシ暴走ニ殺戮、破壊行動ヘト至ル者ヲ、ソウ呼ブノデハナイノカ?』
「!」
『ソレニ当テ嵌メルノナラ、我ラハ〝魔精霊〟デハナイ。オマエ達ノ知ル精霊族トハ少シ異ナルガ、〝魔〟デハナイゾ。ソレデモ殺スカ?』
ヴャトルクローフィのこの言葉に驚愕したのはサイードとリヴだ。俺はと言えば――
「…やっぱりそうか、そうなんじゃないかと思った。その問いに対する俺の答えは〝否〟だ。俺は精霊族と盟約を結んでいて、魔と化していない精霊を殺すことは出来ない。もしも約束を破りおまえを手にかけたなら、精霊族の信頼を失って二度と彼らが俺に力を貸してくれることはなくなるだろう。」
――ヴャトルクローフィは『魔精霊』ではなかった。そのことからも、こんなことを企んだ黒幕の狙いの一つは、間違いなく俺と精霊族の絆を断ち切ることだったんだろうな。
わざわざ仲間の仇である精霊を用意してまで俺達の感情を怒りに向け、霊力の少ないフェリューテラで生きるために人間の体内へ入った『リムドゥーフ』を魔精霊のように見せかけて殺させる気だった、と言う所か。
危うく俺達はその罠に嵌められるところだったな…
「ルーファス、あなたはこのわけのわからない状況を理解しているようですが、一体どういうことなのか私達にもわかるように説明してくれませんか?」
すっかり混乱している様子でサイードとリヴはかなり動揺している。
「そうだな…でもそれはモナルカへ帰ってから、ウェンリー達も交えた上で話そう。」
「しかしそれでは…!」
「言いたいことはあるだろうけど俺はヴャトルクローフィ達を含め、カラマーダの処遇についてもう決めた。」
「…ではその決定を教えてください。」
「ああ、俺は――」
――フェリューテラ、某所。
薄暗い室内の一角で、何者かが呟く。
「リムドゥーフ共の気配が消えたな。――ククク、俺様が入念に仕掛けた罠に嵌まり守護七聖主はヴャトルクローフィを殺したか?それとも…」
豪奢な椅子に背を預け、その人物は足を組みテーブルか机の天板に両手を組んで肘を着く。
「『ルーファス・ラムザウアー』――天帝の御子たる救世主よ…既にこちらの準備は整っている。俺様が命令に飽きて待ち草臥れる前に早く来い…貴様の真の敵はディースなどとは比べものにならぬほど厄介だぞ。ククククク…」
新月にして星のない夜、暗闇の中でその人物の細めた目だけがギラギラと輝いているのだった――
メル・ルーク編、終了です。次回ルーファス達はこの件の後始末を終え、亡国ラ・カーナのお隣『ファーディア王国』へ移動します。一方、マリーウェザーの決断で生きては出られないと言われる『ラビリンス・フォレスト』へ追い込まれたトゥレンとペルラ王女は…?出来るだけ早くアップしたいと思いますので、お楽しみに!!




