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Eternity~銀髪の守護者ルーファス~  作者: カルダスレス


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19 束の間の休日 ⑤

今回、長いです。リーマがいつライを知り、ライを思うようになったのか加筆してあります。 リーマに押し切られる形で彼女の部屋に入ってしまったライですが、室内を見ただけで彼女に対し、色々と思うところがあったようです。一方ルーファスは飛ばされた先で気づくと、ウェンリーを巻き込んでいたと知り、青ざめます。そこに誰かの叫び声が聞こえて来て…?


 ――私の名前はリーマ・テレノア。年は二十歳(はたち)。この下町にある『アフローネ』という酒場で踊り子をしているの。

 元々は『ルクサール』というエヴァンニュ王国の西方にある遺跡街に住んでいたのだけれど、十才の時に戦争で両親を亡くして孤児になり、十六才になるまでは王都の児童養護施設で育ったわ。

 今のこの仕事に就くまでは生きて行くのが本当に大変で、騙されて娼館に入れられそうになったり、必死に働いて稼いだお金を盗まれたりして、何度も泣きながら死んだ両親の元へ行きたいと思った。


 でもそんなある日、私は今目の前にいる『黒髪の鬼神』と呼ばれるこの人に出会ったの。ライ・ラムサスさん…理由は知らないけれど、遠い外国から来たこの国の軍人である彼は、きっと私のことなど覚えていない…それでもいい。私は、彼がどんな人か良く知っているから――



 ――私が初めて彼の姿を見たのは、四年ほど前…施設を出たばかりの、十六才の時だったわ。季節は冬の終わりで、凍てつくような寒さの小雪舞う日暮れ時だった。

 私はその頃、日雇いの売り子や中流家庭の掃除婦をして日銭を稼ぎながらどうにか生きていた。その日もいつものように一日中働いて疲れ切った身体を抱え、同じような施設を出たての女の子達と、一緒に暮らしていた共同住宅への帰り道を急いでいた。


 完全に暗くなる前に家に帰り着こうと、近道の路地裏へ足を踏み入れた時、薄暗い細道の奧にある空き地から人の争う声と剣戟が聞こえてきたの。


 王都の下町には、住人に課せられる国で定められた法律があって、その中の一つに、なにかの犯罪や揉め事を見かけた際には、直ちに憲兵に通報しなければならないという義務がある。

 それがたとえ小さな住人同士の喧嘩であっても、音や争う声に気づいていながら無視すれば、成人前の子供と言えど王都から追い出される可能性があった。


 私は憲兵に知らせるために勇気を振り絞って、恐る恐る建物の影からその先でなにが起きているのかを覗き込んだの。

 争っていたのは短剣や片手剣を抜いた五、六人の破落戸(ならずもの)と、同じように剣を持った、腿丈ぐらいの黒い外套を着てフードで顔を隠した若い男性だった。


 下町では喧嘩が起きることはあっても、武器を抜いての争いごとはまず起きない。それも多勢に無勢で、明らかに若い男性だけが襲われているように見えたわ。

 あのままでは殺されてしまう、そう思ったのに、顔を隠した若い男性はものの数分で全員を返り討ちにしてしまった。

 激しく動いたためにフードが脱げてそこから見えたその姿は、この国では珍しい漆黒の髪に紫紺の瞳を持った、酷く冷たい表情の男性だった。

 彼は私が一部始終を見ていたことに気づくと、そばにあった木箱を足場にして塀を乗り越え、あっという間に姿を消してしまった。…それが私が彼を見た一番最初だったの。


 次に会ったのは、それから二ヶ月ほども経ってから。下町の教会近くにある夕方の公園で、冷たい小雨がしとしとと降っていた。それなのにどこからか本当に微かに、音楽のようなものが聞こえたの。

 それは私が初めて聞く鈴か鐘を音階で鳴らしたような、とても綺麗な音で…ずっと後になってそれが『自鳴琴(オルゴール)』と呼ばれる箱型の楽器が奏でる曲だと知ったわ。

 私はそれに誘われるように、その音が聞こえる方に歩いて行ったの。そうしたら…木陰のベンチに俯いて座っている彼がいた。


 彼は私に気がつくとハッとしてフードで顔を隠し、すぐに立ち上がって公園を出て行ってしまった。だけど擦れ違った瞬間、私には彼が泣いていたように見えたわ。

 後になって考えてみれば、あの日は雨が降っていたから見間違えただけだったのかもしれないけれど、襲って来た破落戸(ならずもの)を返り討ちに出来るほどの彼のような強い男の人でも、泣くほど辛いことがあるのだとその時は思い込んでしまった。


 〝辛い思いをしているのは私だけじゃない〟


 彼のその姿を見てから、私はそう思って苦しくても辛くても、負けずに頑張れるようになったわ。

 そうして滅多に姿を見かけない、黒髪の彼のことをいつも目で探すようになったの。


 極たまに姿を見かけることの出来た彼は、常にフードで顔を隠すようにしていて、ただ下町の通りを寂しそうな瞳をして歩いているだけだった。

 彼はそんな時でも、転んで動けなくなったお年寄りを背負って診療所に連れて行ってあげたり、泣いている子供に声をかけて相手をしていたりと、見かける度にとても優しい人なのだと知って、私はその人柄に惹かれていった。


 彼のことをもっと知りたい。今度会えたら勇気を出して話しかけてみよう。そう思うようになったある夜、酒場から出て来た酔った盗賊に、裏通りで羽交い締めにされて攫われそうになったところを、彼に助けられたの。


 でもあの時は怖くて怖くて震えて泣くばかりで、盗賊を撃退し憲兵を呼んで事後処理をしてくれた彼に、一言のお礼を言うことも出来なかった。


 〝もう大丈夫だ、心配は要らない。〟そう言って泣きじゃくる私に、優しい声をかけてくれた彼のことが忘れられなかった。

 彼のことが好き。そうはっきり自覚したと同時に、この事件の後からぷっつりとその姿を全く見かけなくなってしまった。


 恋心を抱えて彼のことが忘れられないまま一年以上が過ぎた頃、運良くアフローネの踊り子見習いとして雇って貰えることになって、昼の間だけ繁華街で働くようになったけれど、私はずっと彼の姿を探し続けていた。

 そしてある時、アフローネで働く同僚からその噂話を聞くことになったの。


 王国軍の将校の中に、外国から来た黒髪の素敵な男性がいる。既に戦地ミレトスラハで武勲を立て、『黒髪の鬼神』という綽名で呼ばれているそうだ。

 その噂を聞いた時、まさかと思ったわ。でも王国軍人を紹介する専門雑誌の写画を見て、彼に間違いないことを知ってしまった。

 下町に姿を見せなくなったのは、彼が戦争に行っていたからだった。


 戦地から戻ってきて暫くは国に残る。そう聞いても彼が下町を再び訪れることはなかったわ。

 会いに行きたい。会って助けて貰ったことのお礼を言いたい。お城の軍施設に行って面会を申し込めばいつでも会うことが出来るはず。…そう思うのに、会って貰えなかったらと思うと中々勇気が出なかったの。


 そんな風にモタモタしていたから…遠くから見るだけで、いつまでも悩んでグズグズしていたから、彼はどんどん昇進して、遂にはアンドゥヴァリの指揮官になってしまった。


 あれから一年半…彼は無事にミレトスラハから帰ってきてくれた。そうして信じられないことに今、目の前にいる。嬉しい…やっと会えた。やっと話せた。それだけじゃない、彼はまた私を助けてくれたわ。だから今度こそ伝えるの。神様がくれたこの幸運に心から感謝して、この気持ちを――




 ――人間の住む自宅や自室というものは、時に鏡のようにそこを使用する者の本質を映し出す。

 それは生真面目な人間が住んでいれば、常に清潔できっちりと整頓されていたり、粗暴な人間であれば、壁が傷だらけで物が散らかっているのと同じように、知らず知らずのうちに日々の暮らしの中で、自分と同じ匂いや雰囲気を求めるせいではないかと思う。


 今は頼んでもいないのに使用人が勝手に部屋を片付けているが、以前の俺の部屋がいい例だ。

 ただ寝るために帰るだけで、勝手に与えられた物のなににも執着を持てず、俺の心中を表すかのようにいつも汚く散らかったまま荒れていて、まともに掃除をしたこともなかった。


 同じように家庭が冷え切っているような家は、そこを訪れる人間も無意識にどこか "冷たい家" だと感じ取る。反対に家族仲の良い家庭では、雰囲気から温もりを感じて安心して過ごせるように、人と家というのは切っても切れないものだと俺は思っている。


 そうして俺は正に今そんな風に、招き入れられた彼女の自宅でそんな雰囲気を感じ取っていた。


 迷惑なのね、と涙ぐまれてどうしても断り切れず、リーマ嬢に腕を引っぱられるままにこの部屋へと足を踏み入れてしまった。


 薄暗く、下町のどこにでもある粗末な集合住宅(アパルトメント)。こういう建物の内部は、大体がボロボロの壁や壊れかけた窓枠にきちんと閉まらない扉など、とても人が住むような環境でないことも多い。

 だが彼女のこの部屋は違った。外観や通路側に見える扉からは想像できないほど室内が明るく、そして温かかった。

 いや、正確にはそういう錯覚を覚えるほどの雰囲気だと言うべきか。


「ごめんなさい、先に着替えてしまうからその辺りの椅子にどうぞ。すぐにお茶を入れるわね。」


 そう言って彼女は衝立で仕切られただけのクローゼットの前に行き、さっさと破かれた上に泥だらけの衣服を着替え始めた。


 しゅるり、ぱさっ、さわさわ、と衣擦れの音が俺の耳に届く。


 確かにあの格好のままは不味いと思うが、それにしても俺がここにいるのに…気にならないのか?と、思わずパッと背中を向ける。


 その後でとりあえず言われた通りに俺は、目の前のテーブルの椅子に腰を下ろさせて貰った。

 ただの木製のダイニングチェアだと思ったが、そこには手作りと思われる端布(はぎれ)を縫い合わせて作ったクッションが敷かれていた。

 テーブルにはやはり端布を縫い合わせた布地に、刺繍が施されたクロスが、ベッドには出来るだけ揃えたと思われる、同じような布地のベッドカバーと枕カバーで統一感が出されていた。


 ところどころに飾られた小瓶の草花…壁には鳩時計が掛けられていて、そこの壁紙はおそらく自分で張り替えたのだろう、僅かに細く皺が寄っている。

 棚の上にはきちんと折り畳まれたタオルが積み重ねられていて、やりかけの刺繍かごに、床には大きな紡毛敷物(ラグ)が敷かれており、塵一つ落ちていない。…掃除の行き届いた女性らしい室内だ。

 男があまりジロジロと見るものではないとわかっているが、つい珍しく、目の前のテーブルクロスにじっと見入る。


 一針一針丁寧に手縫いで仕上げてある…彼女の手作りか?素材は粗末でも、とても温かみのある色合いと図案だな。

 この部屋も…どこか落ち着けてほっとする。…そう思った。


 俺がしげしげと物珍しさに俯いてテーブルクロスを眺めていると、着替えを済ませたリーマ嬢は、パタパタ足音を立ててすぐ脇を通り、小さなキッチンに向かう。

 そうしてそのまま蛇口を捻り、慣れた手つきで薬缶に水を入れると、焜炉に置いてお湯を沸かし始めた。こんな間近で女性が調理場に立ち、なにかしているのを見るのは初めてだ。


 この国の王都のような大きな街では、各建物に水道設備が整っており、地下水路から水道管を通された清潔な飲料水が、蛇口という水栓を捻るだけで供給される仕組みになっている。

 これは水道設備の要所要所に、魔法石を設置した駆動機器が取り付けられているおかげで、水の浄化や水路からの汲み上げなど、その全てを魔法石と駆動機器の組み合わせで行っているのだそうだ。

 その他に今リーマ嬢が湯を沸かすために火をつけた焜炉もそうだ。平形の駆動台の上に五徳が設置されていて、正面手前の腰ぐらいの高さに、駆動源の小さな突出部位が並んでいる。それを押すことで内部の精炎石<イフリートストーン>が燃え上がる仕組みになっており、火力を調整するのも火を止めるのも、その釦操作できるのだ。


「えっと…紅茶はファーディア産のアールグレイが好きなのよね?お砂糖はなしで、レモンもミルクも入れなくて、香りを楽しめるストレートが好み…で大丈夫?」


 ティーポットに茶葉を入れると、彼女は食器棚から取り出した受け皿付きのティーカップを並べながら、確かめるようにチラリと俺を見た。


 突然そんな風に問われた俺は、ギョッとして目が丸くなる。


「驚いた…俺の好みをよく知っているな。」

「それは…下町でも『黒髪の鬼神』とその『双壁』のお三方は、若い女性達の支援者団体(ファンクラブ)があるほどの人気だもの。雑誌に様々な情報が載っていたり、顔写画(ブロマイド)なんかも売っているのよ。」

「雑誌に情報…ブロマイド?…なんだそれは。」


 ≪いや…待て、そう言えばかなり前にイーヴとトゥレンが、王国軍人の情報誌がどうのとか、会見取材がどうのとか言っていたような気が…≫


 なんでも〝勝手にしろ〟と話も聞かずに、あの二人に丸投げして放ったらかしてきた結果か?…自業自得か。


 俺は額に手の甲を当て、大きく溜息を吐くと自分に呆れて下を向いた。まさか顔や名前が知られているだけでなく、自分の飲食物の好みまで民間の女性に知られているとはさすがに思わなかったからだ。


 沸き立てのお湯をリーマ嬢がポットに注ぐと、俺の好きなアールグレイの香りが辺りに漂った。…不思議な感覚だ。俺が初対面の女性の部屋でテーブルに着き、呑気にお茶をごちそうになる?……自分でも信じられん。


「最高級の茶葉とはいかないけれど、私の唯一の贅沢なの。…お口に合うかしら。」

「ありがとう。」


 彼女もファーディア産のアールグレイが好きなのか…気が合うな。そんなことを思いながら俺は、差し出された淹れたての紅茶を啜った。


「ああ、いい香りだ…とても美味しい。ファーディアの懐かしい香りがする。」

「良かった…!」


 俺の言葉に心から嬉しそうに微笑んで、彼女は桜色に頬を染める。


 俺が言ったのは世辞でもなんでもない、本心からの言葉だ。ファーディア産のアールグレイには、ほんの少し果物の様な微かな甘い香りが混じる。

 甘いものに目がなかったマイオス爺さんが、月に一度の贅沢だと言ってこの紅茶と俺と食べるお菓子を楽しみにしていた。


 爺さんと暮らしたあの頃の思い出が心に甦ってくるような気がして…少しだけ俺の胸が温かくなった。



 〝私が淹れた紅茶を、私の部屋で彼が飲んでくれている…本当に夢みたい。〟


 自分の鼓動が酷く大きく聞こえる中、リーマはお茶菓子を出すことも、椅子に座ることも忘れて、テーブルの脇にぽうっと立ったまま…静かにカップの紅茶を口に運ぶライをただ見つめていた。


 漆黒の髪にどこか寂しそうに見える紫紺の左瞳。右目は長く伸ばした前髪に隠れていて、写画でも見たことがない。

 傷があるとは聞いていないけれど、もしその下を見せて欲しいとお願いしたら、彼はあの前髪を掻き上げて私に見せてくれるかしら。

 …取り止めもなく次々に湧いて来るそんな思いだけが、リーマの頭の中を駆け巡る。彼女の心を一分(いちぶ)の隙間なく占めているのは、目の前にいるライへの思いだけだ。


 ――ライ・ラムサスさん…遠くから軍服姿を見ていた時はいつも怖い顔をしていたけれど、今はとても穏やかで…私が改まった言葉を使わなくても初めから全く気にもしていない。

 軍の偉い人達はみんな下町の人間をどこか冷ややかな目で見るけれど、やっぱりこの人は違う…以前と変わらず当たり前のように優しいわ。

 でも私のことは少しも覚えていないみたい。…もう三年以上も前のことだし、お礼も言えなかったから仕方がないけれど…。


 明後日には彼の休暇は終わって、ミレトスラハに戻ってしまう…。考えたくはないけれど、最悪の場合もう二度と会えないかもしれない。

 一年半前、アンドゥヴァリの指揮官に決まってあっという間に戦地へ行ってしまった時のように、思いを伝えられないまま後悔して泣き続けるのはもういや。


 私では彼に不釣り合いだから、振り向いて貰えなくても構わないの。神様がくれたこんな機会はきっともう二度とないわ。だから…


 勇気を出すのよ、リーマ。一度だけでいい、彼に触れて貰えたなら…その思い出だけでなにがあっても生きて行ける。私は…この人が好き。好きで好きで…どうしても諦められないんだもの…!



 〝座らないのだろうか。〟


 俺に紅茶を淹れてくれてから黙ったまま、彼女はずっと俺を見ている。…気まずい。なにか俺が話しかけるのを待っているのだろうか?…かと言ってなにを話せばいいんだ。俺に女性相手の気の利いた会話など、湧いて出てくるはずもない。

 なぜそんなにじっと見つめているんだろう…視線が突き刺さって穴が空きそうだ。…弱ったな。


 ――その時、壁に掛けられていた鳩時計が、正午を知らせてポッポーと鳴いた。


 ライは内心、助かった、と思いながら、顔を上げて時計を見る。


「…と、もう正午か。」


 最後にくいっと残りを飲み干し、ティーカップを受け皿に戻すと、ライはカタンと音を立てて椅子から立ち上がった。


「ごちそうさま。悪いがもう戻らなければ。お茶をありがとう、俺の上着を――」


 この後のリーマの行動を、ライは全く予想できなかった。


 ドンッ


「な…――」


 あらん限りの勇気を振り絞って、リーマはライの胸に飛び込む。


 不意打ちを喰らい、驚いたライは体勢を崩しそうになりながらも、咄嗟に身体の均衡を取ってリーマを受け止めた。

 ガタンッと大きな音を立て、背後の椅子が倒れる。


「おい、なにを…!」

「――まだ帰らないで…!好きなの…あなたが、好き。三年以上も前に助けて貰ってから…ずっと、ライ・ラムサス、さん…私はあなたがずっと、好きだったの…!!」


 震える声で、リーマは胸に温めていた思いを告げる。今はもう自分の早鐘を打つ心臓の音しか聞こえない。そしてライの衣服をぎゅっと掴み、感激が極限に達すると、顔を上げて涙を浮かべながらさらに願った。


「お願い…一度だけ…、一度だけでいいから、私を――」


 その言葉を、ライは呆然としてリーマを見て、聞いていたのだった。




                ♢ ♢


 ――気がつくと、あの激しい胸の痛みが…消えていた。


 傍らには二メートルはある巨大な岩が鎮座し、右手に触れているのは砂利と堅土だった。

 俺は今、疎らに生えた青草の上に右膝をついて、大岩と大岩の間にある三メートル四方の平坦な空き地に前屈みになってしゃがんでいる。


 なんだったんだ、あの激痛は…まだ微かに残っているような気がする。どこかに飛ばされたのは確かみたいだけど、あの強烈な眩暈も、真白な閃光もない、以前とは違う移動の仕方だったような…――


 今までとは異なる飛ばされ方に戸惑い、異常を感じた激痛に下を向いて胸を摩ろうとそこに左手を当てた時だ。


「な…なんだよ、ここどこだ!?王都の公園にいたはずなのに…っ!」


 背後から聞こえて来たその声に、俺は驚愕してカッと目を見開くと、まさか!!と思いながら即座に立ち上がって振り返った。


「ウェ…ウェンリーっ!?」


 …いつかはこういうことになるんじゃないかと危惧はしていた。だから兆候を感じたらすぐ離れられるように、あれほど気をつけるようにしていたのに…なんでこんな――嘘だろう…!?


 驚いて立ち上がった俺の目の前に、きょろきょろと辺りを見回すウェンリーがいた。


「あ、おいルーファス、おまえ大丈夫なのか!?胸押さえて苦しんでただろ!?」


 突然周囲の景色が変わって混乱しているはずなのに、ウェンリーは駆け寄って来ると、手を伸ばして腕に触れ真っ先に俺の身体を心配する。でも俺はそれに返事をするだけの余裕が全くなかった。


 ――ウェンリーを転移に巻き込んだ…


 事の重大さに気づき、俺は全身からサーッと血の気が引いて行った。言うまでもないが、俺のこれは単なる場所を移動する転移現象じゃない、時間と空間を飛び越える、俺自身にも制御不可能な突発的転移現象だ。


 もしここが遙か過去の時代だったり、どこか遠くにある見知らぬ他国だったりした場合、ウェンリーを万が一なにかで置き去りにしてしまったら…ウェンリーはもう二度と元の場所に帰れなくなる。


「なんてことだ、まさかおまえを巻き込むなんて…!!」

「?」


 ウェンリーは自分の状況を全くわかっていないようで、キョトンとした顔をして首を傾げていた。


 動揺して狼狽える俺の頭に、Athena(アテナ)が警告文を流し始める。


 ――『警告』『要救助対象者捕捉/敵対象接触戦闘突入』『シード魔核暗黒種確認』『緊急討伐推奨』


 続いてこの場所の周辺を表した簡易地図と、大きく赤く点滅した信号が浮かび上がった。


 な…要救助対象者、だって…?…どういうことだ、まさか――


 俺の思考が答えを出す前に、どこからかその木霊するような男性の悲鳴が耳に飛び込んで来た。


 うわあああああーっ


 ザワッ…


 ――全身が総毛立った。


「今のって、悲鳴かよ…!?」


 ウェンリーは無意識にバッとその声がした方向に顔を向ける。


 要救助対象者…理由はわからないが、俺の勘が言っていた。最優先ですぐに助けに向かえ、と。


「ウェンリー、俺について来い。危険かもしれないが、ここに絶対おまえを置いて行くわけにはいかなくなった。今から悲鳴が聞こえた場所へ人命救助に向かうが、俺の指示に従って、なるべくそばから離れるな!!」

「よ、よくわかんねえけど、わかった…!!」

「…行くぞ!」


 ここがいったいどこなのかを確かめる間もなく、大きく頷いたウェンリーにそう言うと、俺は地面を蹴って走り出した。


 ザザザザザッ


 獣道を通り、足下の草や枝葉を蹴散らしながら、背中にウェンリーの気配をしっかり捉えて全速力でその場所を目指す。頭の中の広域簡易地図を見る限り、赤く点滅する信号はそう遠くはなかった。


 ――魔物…かどうかはわからないが、敵対存在は『赤色』の点滅信号で表されるのか。


 大岩の空き地から離れると、すぐそこは見通しの悪い雑木林の中で、深い森の中のように鬱蒼としてはいないものの、少し薄暗い。


 辺りの木々はヴァハ周辺でもよく見る、"バリュスナラ" や "カーナスギ" か…確かめている余裕はないが、近くに水の流れる音もする…小川がある?


 自己管理システムを得たことで、頭の中に表示されるようになった地図は、道や各信号が表示されていても、地形や川などの情報は表示されない。

 歩いて行ける道のその先に障害物があったり、一時的に通れない場所は赤い線で表され、そもそも通行不可能な場所は初めから灰色に暗転している。


 初めて訪れる場所なのに、俺の簡易地図はどうやって正確な道を示すことが出来るのだろう?…自分のことなのに、まったくわからないな。


 走りながら周辺の情報を得て行く。気候や草木の印象からこの場所はエヴァンニュとあまり環境が変わりないように思った。

 それからさほど行かないうちに、前方の広範囲が明るくなっていることに気付くと、目先で林が途切れているとわかった。

 その先では、太陽の光がチラチラとなにかに反射している。木の幹と背の高い草に阻まれていたために気づくのが遅くなったが、それは結構な広さの水面(みなも)だったのだ。


「――湖か…!!」


 雑木林が途切れたそこは、深い緑色の水を湛える、森林にぐるっと囲まれたかなり大きな湖だった。


 中程度の大きさの岩や倒木が転がる湖畔に出ると、横に並んだウェンリーが北西の方向にある小さな掘っ立て小屋と、朽ちかけた小舟が縄で繋がれた釣り桟橋のある(ほとり)を指差した。


「ルーファスあそこ!!なんか真っ黒いデカブツと誰か戦闘中だ!!」

「!!」


 ――それは遠目からでもはっきりとわかる、異様な外見の巨大な『なにか』と男女複数人のパーティーだった。


 あれが要救助対象者か!?一人じゃない…!!


「冒険者か守護者のパーティーか…ウェンリー、俺は辿り着いたら即このまま加勢に入る、おまえは後方から救護と援護に回ってくれ!」

「了解!!って、俺武器ねえじゃん!!やべえ、軍施設に預けたまんまだ…!!」


 俺と並んで走りながら、ウェンリーは空の掌を前に出して青ざめる。


「丸腰か…!!」


 そう言えばそうだった。国際商業市(ワールド・バザール)へ行くために軍施設を出る際、装備品預かり所で手続きをするのが面倒臭いと、ウェンリーはエアスピナーを持って出なかったのだ。

 まさかこんなことになるとは俺自身も思っておらず、俺が一緒にいるし、王都から出ることもないから、まあいいかと聞き流したのがいけなかった。今さら慌てたところで後の祭りだ。


「わかった、おまえは絶対に前に出るな。救護に徹して怪我人の手当てを頼む…!」

「うう…了解!わりい、ルーファス…俺ってば役に立たねえ。」


 いや、おまえは守護者じゃないんだ、謝る必要なんかない。そう言ってやりたかったが、近付くにつれはっきりした予想以上の悪い戦況に、それどころではなくなった。


 ――俺達が戦闘域に近付くまでの僅か一、二分で、先ず後衛の女性弓使いが、敵の放った見えないなにかの攻撃を受けてバタッと倒れた。

 続けざまに倒れた女性弓使いを狙う追い討ちから、治療士らしき男性が身を挺して庇ったためにそこで倒れる。

 その時点で薬や道具を使用していた回復担当はいなくなったと見え、残る男女三人が防戦一方の対応に切り替わった。


 人数は五人…既に男女一人ずつが倒れて戦闘不能になっており、その二人の守りに双剣の剣士がつき、片手剣のオレンジ髪に紫メッシュの女性剣士と、大剣使いの屈強な男性剣士が辛うじて攻撃を凌いではいるものの、逃げ場はなく、進退両難状態だ。


 まずい…あれではあと数十秒も持たないかもしれない…!なにか…なにか彼らを助ける方法はないのか…!?


最適解検索(アンサーサーチ)』『推奨魔法ディフェンド・ウォール/属性自動付与/暗黒種属攻無効化/低レベル回復』『自動技能(オートスキル)/魔技詠唱短縮(ハイスピード・スペル)発動』


「それだ…!!」


 Athena(アテナ)が出してくれた最適解に、走りながら頭に流れて来る呪文を唱え、もう目前のパーティーに向かって俺は右手を伸ばすと、初めて使う防御魔法を放った。


「――頼む、間に合えっ!…『ディフェンド・ウォール』っっ!!!」


 俺の手元に浮かんで白く光る、小さな球状の魔法陣と同じものが、ズオン、という地底から響くような鈍重な音と共にパーティーの足元に輝いた。と、残っていた三人の男女が致命傷にもなりかねない敵の攻撃を受ける直前に、輝く防護障壁が出現して彼らを包み込んだ。

 既に放たれていた敵の攻撃はそれに触れた瞬間、バリバリバリバチンッ、という激しい反発音を響かせて無効化され、その反動で強烈な閃光が辺りに迸った。


 …間に合った!!


 攻撃を無効化されて強烈な光を反射された〝なにか〟は、光に弱いのか強い衝撃を受けて後方に押しやられると、地面に抉るような数本の爪痕を一直線に残しながらパーティーから引き離された。


「ウェンリー、彼らを頼む!!」


 俺が突然魔法を使ったことに吃驚しているウェンリーに指示を出し、さらにAthena(アテナ)が推奨してきた『フォース・フィールド』という名の全能力強化魔法を自分に施してから、俺は敵前に突っ込んだ。


『要救助者保護障壁継続自動展開』


 そんな文字が勝手に頭の中に流れて行く。


 継続自動展開?…つまりAthena(アテナ)が彼らを守るあの防護障壁を維持してくれると言うことか。それなら安心して俺は敵に集中出来る。


 俺の目の前で傷付いたパーティーに、尚も強烈な攻撃を仕掛けようとする巨大な〝なにか〟。


「させるかあっ!!!『ディフェンド・ウォール・リフレクト』っ!!」


 その正面に立ち開かって両手を交差させて組み、新たに発動した『ディフェンド・ウォール』を盾型に展開して全てを弾き返した。

 この時点で俺は、Athena(アテナ)が維持する防護障壁と、自分で唱えた分とで二つ同時に魔法を発動したことになる。


 ズガガガガガッ


 再び押し返されたそれが、今度は四肢で踏ん張るように爪を突き立て、地面に痕跡を残しながら後退する。

 その隙に俺は鉄剣(アイアンソード)を抜き、背後の防護障壁内の状況を振り返らずに確認した。


 シャッ


「ウェンリー!!彼らは無事か!?」


 その問いにすぐに答えが返ってくる。


「なんとか!!けど早く治療しねえと二人危ねえ!!」


 俺は正面を向いたまま目だけを動かし、ウェンリーが倒れて意識のない二人の止血を始めたのを確かめた。


 ――あの出血…傷が深ければ液体傷薬(ポーション)では間に合わない。でも俺の治癒魔法なら多分…


「応急処置はウェンリーに任せて、先にあの正体不明のなにかをどうにかしないとな…!!」


 手を貸して貰うぞ、俺の自己管理システム…Athena(アテナ)!!



 ――直前まで前衛で戦っていた女剣士と男剣士達が、防護障壁の付加効果で見る間に癒やされる傷に驚嘆の声を出す。


「ヴァ、ヴァリー、見てくれ俺の腕の傷が…!!」

「俺のもだ…!!深手だったのに見る間に治って消えて行くぜ!?どうなってんだ…!!」

「あ、あたしのもさ…あっという間に治って…まさか、このあたしらを守ってくれた光の壁は、防御魔法に治癒魔法って奴かい!?ちょいと赤毛の若いの、あんたたち何者(なにもん)だい!?」


 絶体絶命の危機に現れたルーファス達に、興奮した女剣士がウェンリーに問いかける。

 彼女達はこの直前、自分達はここで死ぬんだと確信していた。なぜなら――


「俺はただの民間人だよっ守護者を目指して訓練中の、な!!すげえのはあっち!!俺の親友で守護者のルーファスだ!!」

「ルーファス…?なんだか聞き覚えがあるような…銀髪…え?あの後ろ姿、ひょっとしてあの時の――」


 オレンジ髪の女剣士はルーファスを見て、なにか思い出したように呟く。


「んなことより、この二人死にかかってんだよ!!動けんならとっとと手伝え!!仲間なんだろ!?」


 ウェンリーの怒声に我に返った三人は、慌てて応急手当の手伝いに駆け寄る。そこで女剣士はハッとあることを思い出して顔を上げた。


「そ、そうだあの魔物…っ!剣での攻撃が通用しないんだ!!それであたしらは歯が立たなくて…あんたの親友に教えてやらないと…!!」

「なんだって!?そう言うことはもっと早く言えってんだよ!!」


 ≪ルーファス!!≫


 ウェンリーは慌てて立ち上がった。


 ――剣での攻撃が通用しない。この男女五人のパーティーはそれが原因でまともに戦うことが出来ず、最悪の状況に追い込まれる羽目になったのだった。

 女剣士は普通の敵ではないことに気づき、すぐに撤退しようとしたのだが、敵の方が逃すまいと執拗に攻撃を仕掛けて来て逃げることが出来ず、仲間を逃がそうとしても目に見えない攻撃で足止めされてしまい、今に至っていた。



「こいつ…ヴァンヌ山に現れた、あの暗黒疑似生命体『ダークネス』みたいな靄を纏っている…?」


 目の前にゲフっゲフっと、興奮した荒々しい息を吐きながら、巨体を揺らし続けるこの真っ黒ななにかは、よく見ると『狂乱熊(マッド・ベアー)』と良く似た姿をしていた。

 ただ、その躯体が普通の三から四倍はあるため、元々は通常体ではなく変異体だった可能性がある。おまけに腕や背中になにか菌類の菌根のようなものが上方へと伸びており、それらがまるで生きた触手のように蠢いていた。


 赤くゆらゆらと、残光を帯びた光を放つ特徴的な眼と、全身を陽炎のように包み込んでいる瘴気状のあの靄…これがリカルドの図鑑で見たあれと同じ種類の類いであれば、躯体には物理的な攻撃が通じないかもしれないな。

 でもどうしてこんなものがここに?…いや、それよりも彼らが俺の考えている通り、もしあのパーティーなら、請け負った依頼の討伐対象は〝変異体〟だったはずだ。まさかギルドの情報が間違っていたのか?


 グウガアオオウウウウゥォォォッ


 俺があれこれ考えを巡らせていると、こいつは数キロ先まで聞こえそうなほどの殺気を含んだ咆哮を上げた。

 その雄叫びに、空震が起きてビリビリと近くの小屋が震えたほどだ。


「ルーファスっ!!そいつ剣での攻撃が通用しねえって!!やべえぞ、どうすんだ!?」

「!!」


 ウェンリーの声…やっぱりか!!


「わかった!!なんとかしてみるから、心配するな!!その障壁から出るなよ!!」


 そうとわかれば――


「――先ずは様子見だ!攻撃は効かなくても、もし『暗黒種(ダークネス)』なら、(コア)の位置を探さないと…な!!」


 コオオォォォ…ズガガガガガガッ


 初めは今まで通り、剣に闘気を込めて暗黒種(ダークネス)の躯体に、複数回の多段切りを叩き込む。するとそこにあるはずの肉体が瞬時に霧散し、散ってはまたすぐに集まって元の形状に戻る、という回帰を繰り返す。


「…なるほどな、剣撃で散らしても元に戻るのか…一気に広範囲を狙うしかないか…!!」


 俺が一歩下がって間合いを開けると、暗黒種(ダークネス)は躯体をブルルっと大きく震わせて、自身が纏っている靄に毒気を含ませてからこちらを目掛けて解き放った。


 ゴオッ


「!」


 それは一瞬で素早く俺の全身を包み込む。


「ルーファス!!」



 障壁内から戦闘を見守っていたウェンリーが、顔色を変えて叫んだ。…が、すぐにそれは、ブワッと中心にいたルーファスの周囲に吹き飛んで、一瞬で消滅する。


「――なるほど、ディフェンド・ウォールにはこういう使い方もあるのか。解除の際に衝撃波を発生させるんだな。教えてくれてありがとう、Athena(アテナ)。」


 ルーファスは敵との戦闘を楽しむように、ほんの一瞬、口の端を上げた。


 それはまるで記憶を失い、これまで魔法を使えずにいて、すっかり忘れていた己の戦い方を少しずつ思い出してきたかのように、ワクワクしていたからだった。


「俺の防護障壁に、おまえの攻撃は全て通用しないみたいだぞ。深手を負っている人がいる、ここからは本気で行かせて貰う!!」


 ドンッ


 暗黒種(ダークネス)を挑発するようにそう口にすると、ルーファスは再び全身に闘気を纏い直して敵に突っ込んだ。


 ルーファスが無傷だったことを知り、ほっと安堵したのも束の間、ウェンリーは人が変わったかのように強敵に相対する、ルーファスの戦いぶりに息を呑む。


 ――ルーファス…なんかさらに強くなってねえか…?あんな技、今まで見たことねえぞ。

 それに二、三日前までは魔法なんか使ってなかったよな…いつから使えるようになったんだ?…わっかんねえ、あれは昨日今日覚えたって感じじゃねえ、当たり前に使い熟してるし…なんでだよ。

 なんか隠してるっぽいから問い詰めたのに、あとでな、とか言って誤魔化しやがって…いったいどうなってんだ…?


 ウェンリーはついさっきルーファスが、胸を押さえながら青い顔をして苦しんでいた姿を思い出す。それなのに今はもう何事もなかったかのように戦っている。

 それに関係して昨夜見た、ルーファスが気づかないうちにいつ浮き出たのかもわからない、あの胸元の痣が脳裏に浮かんで不安になっていた。

 もしかしたらルーファスの変化と胸を押さえていたこと、そしてあの痣はなにか関係があるんじゃないか、そんな気がしたからだ。


 ルーファスの方はダークネスの攻撃がどんどん苛烈さを増して行く。両腕を交互に振り回す攻撃と隙を突いて羽交い締めにし、絞め殺そうとする攻撃、噛み付き攻撃に体当たりなど、どれもルーファスは見切って躱しているが、元の狂乱熊(マッド・ベアー)の特徴的な攻撃手段が繰り返されている。

 その上に腕と背中の触手のような菌根が伸びて来て、鞭のようにルーファスの前と左右から、間髪を入れずに攻撃を繰り返すのだ。

 その度に空を斬るビュン、ビュンという音がルーファスの耳元を掠めた。



 ――ディフェンド・ウォールがあるおかげで、攻撃を避け損なっても損傷は一切受けない。それはいいんだけど、敵の手数が増えたことで押し返されるから、中々間合いに近寄れなくなったな。…どうするか。


 以前リカルドに、参考までに教えて貰った暗黒種(ダークネス)の正確な倒し方だが、最終的に(コア)を砕けばいいと言うのは確かなのだが、敵によってはその(コア)に内包数の違いがあるということと、(コア)には躯体から露出している間に攻撃をする必要があるということ、その上物理攻撃か、一定以上の強力な魔法でなければ砕くことが出来ないという追加情報があった。

 もちろん形成されている躯体や外殻に武器による物理攻撃は効かない。そして(コア)は物理攻撃か強力な魔法でなければ砕けない。纏めるとこれが暗黒種(ダークネス)の正確な情報だった。


『魔法による攻撃手段に変更を推奨』


 俺がどう攻めるか考えていると、Athena(アテナ)が提案してくる。頭で考えるだけで答えをくれるのは助かるな。

 返事を声に出す必要はないのだが、つい人に話しかけるように口をついて出がちになる。これは今後気をつけないと、一人で喋っている危ない奴だと思われかねない。


「それは(コア)の位置が特定できてからだ。俺は魔法が使えるようになったばかりで、まだ制御に慣れていない。それより――」


 その位置を特定するために、一瞬でも躯体の前方だけ霧散させる方法がないか?損傷は与えられなくてもいい、新しく使えそうな剣技でも、剣技に付加できる強化スキルでもいい、核の数と正確な位置が知りたいんだ、Athena(アテナ)


『推奨:剣技多段斬りと風属性魔法ウインド・スラストの同時使用による魔法剣技/成功確率97.5%』『集束待機時間微増効果有り』


 ウインド・スラスト?確かサイードが使っていた風属性魔法か。呪文は一度聞いたけど…俺にも使えるのか?


『下級魔法に分類/取得済み使用可能』


「わかった、よしそれで行ってみるか。」


 攻撃方針が決まると俺は再び闘気を込め、多段斬りの構えに入る。と同時に頭に流れる呪文を魔技『詠唱短縮(ハイスピード・スペル)』のスキルを使って唱え、剣を握っていない左手に魔力塊を練ってから魔法を放った。

 因みに『魔技(マギ)』とは魔法関連の技能のことで、『魔力塊(まりょくかい)』を練るとは、力を溜めるのと同様に、魔力をすぐに放たず、球形を保ってそこに溜め込むことを言う。


 ブウンッ


 緑色の魔法陣が伸ばした俺の左手に輝く。


「切り裂け!!『ウインド・スラスト』!!」


 ヒュオオオォ…


 ダッ


 暗黒種(ダークネス)の周囲に複数の真空の刃が出現する。それを確認すると、俺は地面を蹴ってスキル『縮地』(相手との距離を一瞬で縮める移動系スキル)を使い、一気に間合いを詰めた。

 自分の周囲にディフェンド・ウォールを展開したまま、ウインド・スラストの刃を多段斬りに纏わせ、暗黒種(ダークネス)の前面を頭から腰の辺りまで素早く切り裂いて行く。


 ズカカカカカッ



「ちょ…なんだいあの技…!?風が剣の動きに追随して、あの巨体前面殆どを吹き飛ばしてる…!!」


 オレンジ髪の女剣士は食い入るようにルーファスの戦い方を見ていて、吃驚し身を乗り出すと大きく目を見開いた。


「えげつねえ…奴に効き目はねえが、普通の魔物なら微塵斬りだぞ、ありゃあ…」


 大剣使いの剣士が魂消て額に冷や汗を浮かべると、ゴクリと固唾を呑んだ。


「お、俺…早すぎて剣の動きが見えねえんだけど、あの攻撃…。」


 双剣使いの男剣士は、顎が外れんばかりに大きく口を開けている。



 〝よし、上手く行った!!〟


 俺の狙い通り一気に敵の前面、躯体構成部位を吹き飛ばすことに成功して、ほんの一瞬血のように紅く輝く、弱点の(コア)が露出した。


 ようやく見えた、胸部左側に大核と眉間に小核の二つか…!!同時に破壊しないと恐らく倒せないな、なにかあれを破壊出来るほどの威力を持つ、使える攻撃魔法が俺にあるのか…?


 俺は自己管理システムの情報を物凄い速さで知識として吸収し、それをこの戦闘に生かして行くことで、多分忘れていた戦闘感覚を記憶を取り戻すことなく蘇らせているんだと思う。



「やっぱりあった、(コア)だ!!あれを破壊しねえと、あいつは倒せねえんだよ…!!」


 ウェンリーが女剣士達に指を差して教える。


「あの真紅の光ってた奴かい?なるほど、核を壊せばいいのかい…!!」

「だがまた魔物の身体は元に戻ったぞ!?どうやってあれを壊すつもりなんだ…!!」

「わからねえ。けどあいつが心配すんなって言ったってことは、倒す方法がなんかあるんだ。それだけは間違いねえ。」


 ウェンリーの言葉を聞いて、女剣士、双剣使いの剣士、大剣使いの剣士の三人は、ルーファスが自分達とは次元の違う守護者なのだと認識したかのように、一瞬声を失う。


「――凄まじいな…俺達はこれでも全員Aランク級守護者なんだが、俺達五人が束になっても倒せない相手を、あの男は一人で…しかも無傷で倒しちまうのか…?」


 大剣使いの男は、自分達が魔法を使えないことを差し引いても、ルーファスのような戦い方は真似出来ないと口にする。


「ねえ赤毛の若いの…あんた、あの銀髪の守護者ってリカルド・トライツィの知り合いなんじゃないかい?」

「げげっ、こんなとこで野郎の名前出すんじゃねえよ…!」


 女剣士の問いかけに、ウェンリーはあからさまに嫌そうな顔をするのだった。



 ―― Athena(アテナ)、俺が使用可能な魔法の中に、核を砕けるような強力なものがないか探してくれないか。


最適解検索(アンサーサーチ)』『転移帰還地点半径20キロ圏内に守護七聖<セプテム・ガーディアン> "ネビュラ・ルターシュ" の存在を確認』『神魂の宝珠による魔法共有(マギィカ・シェア)が使用可能』『推奨闇属性魔法アストラル・イーター及びザラーム・クラディス/共にシード魔核構成躯体同時破壊可能』


 セプテム・ガーディアン?ネビュラ・ルターシュ…神魂の宝珠ってなんだ?…よくわからないが、今はいいか。

 『アストラル・イーター』に『ザラーム・クラディス』…これが使用魔法の名前だな。


 魔法一覧に記された効果内容を一応確かめる。


 広範囲超高威力闇属性魔法、範囲指定可、威力指定可、対象個別指定可…他にもなんだか色々と細かく調整出来るみたいだな。

 まあいい、とりあえずこの『ザラーム・クラディス』にしよう。


 Athena(アテナ)、初めて使う魔法だし、殲滅可能な範囲で最低限の威力に絞って調整して貰うことは出来るか?


『暗黒種殲滅最小範囲・最小威力調整/準備完了』


「それじゃあ、さっさと終わりにしようか。」


 チャッ


 俺は剣の刃先を暗黒種(ダークネス)に向けると、左手に魔力塊を練り上げながら、頭に表示される呪文を読み上げた。


「――親なる闇の守護七聖『ネビュラ・ルターシュ』 に告ぐ。我が命に従いて敵を滅せよ!!『ザラーム・クラディス!!』」


 ――『仰せのままに(イエス・マスター)!!』


「…!?」


 俺の頭に、どこからかその返事が響いた。



 ポウッ…パアアァッ


 ――この瞬間、そこはどこかの書斎らしき一室だったのだが、誰もいない部屋のその卓上には伏せられた写画立てがあり、その横に置かれていたラカルティナン細工の仕掛け箱が紫色の強い光を放っていた。



 …イイィィ…ドヒュウウウゥッッボボボボボンッ


 ――どこからか誰かの声が聞こえた、と思ったら、暗黒種(ダークネス)の頭上上空に、突然紫紺の魔法陣が出現した。次にそこにぽっかりと真っ黒な穴のような空間が現れ、なにか聞こえる、と思った次の瞬間、無数の紫紺の光線のような衝撃波が降り注いだ。


 その熱量は凄まじく、最小範囲、最小威力に調節したはずなのに、敵の背後に見えていた湖の一部分を暗黒種(ダークネス)ごと蒸発させてしまった。


 結果、それは影も形も残さずに消え去った。


「――………」


 魔法を放った手をそのままに、ルーファスはその場で呆然とした。


 そしてもちろん、それを目の当たりにしたウェンリーと、他の三人も驚愕の表情で固まっていたのだった。



 数秒後――


『暗黒種完全消滅確認/シード魔核破壊成功』


 その文字が頭に流れ、俺はハッと我に返った。


 ――嘘だろう…なんて威力だ。最小に設定したのに、サイードの火魔法『ドラゴニック・フレイム』よりも遙かに危険じゃないか…!!あ、危なくて…こんな魔法とてもじゃないが、気軽には使えない…!!


 これが通常威力だったならどれほどだろうと思い、自分の力だというのにゾッとして恐ろしくなった。


 ≪…帰ったら自己管理システムの内容をもっと詳しく見てみよう。きちんと自分の力を把握する必要がありそうだ。≫


 暗黒種(ダークネス)を倒した俺は、気を取り直して踵を返すとウェンリー達の元へ走った。防護魔法を解除し、瀕死状態の二人を急いで治療するためだ。


「ウェンリー!重傷の二人は!?」

「えっあ、ああ、止血はしたけど…かなり酷い怪我だぜ。ルーファスが張った障壁に治癒魔法の効果があったんだろ?そのおかげでなんとか生きてるけど――」

「え?ああ、そうなのか…」


 Athena(アテナ)が推奨したディフェンド・ウォールには負傷者の生命維持効果もあったのか。あの窮状を見て最適解でそれを導き出してくれたとは…Athena(アテナ)はかなり優秀なんだな。


 俺はすぐさま片膝を付いてしゃがむと、地面に横たわる瀕死の男女がどんな状態なのかを確かめる。


 ――まずいな、かなりの重傷だ。特に女性の方は刺突創が肺に達しているみたいだ。男性の方は背中に瘴気を浴びたせいで腐食性の毒に侵されているし、しかもあの菌根の触手に脇腹を貫かれたんだな。…どちらもこのまま動かすのは危険だ。


「ど、どうだい?ライラとミハイルは…助かりそうかい?」


 心配そうに身を屈めて二人を覗き込み、俺に尋ねた女剣士の言葉で、俺は確信した。


 『ライラ』に『ミハイル』…ギルドで耳にした名前だ。やっぱりこの五人はパーティー『根無し草(ダックウィード)』の人達か。…そんな気はしていた。


「――大丈夫だ、これから治癒魔法をかける。集中したいから下がっていてくれ。」


 俺はまず負傷部位が悪く、今にも息を引き取りそうな女性の方から先に治癒魔法を施すことにした。


「深き傷を癒やせ、『ヒール』。」


 パアアアッ


 翳した両手の先に白い魔法陣が出現し、淡い緑色の光が女性を包み込んだ。サイードにこの魔法をかけた時は無意識だったけど、今はしっかりと意識して傷を治して行く。


 ――ああ、なるほど…負傷部位はこんな感じでわかるのか。


 治癒魔法を発動した瞬間、この女性の怪我をしている場所が俺には大きな黒い塊のように見えた。いや正確には目で見たのではなく、そんな感じに知覚したと言えばいいだろうか。

 とにかくその黒い塊が、俺が放つ治癒魔法の光で、完全に消えるまで魔力を注ぎ続ければ、この女性は助けられると思った。


 …うん、これで大丈夫そうだ。


 次に同じ要領で男性の方も治療して行く。男性の方は毒に侵されていたため、先に状態異常を治す魔法『リカバー』をかけてから『ヒール』を使用する。

 状態異常の方は、全身が薄く色を帯びているように見える(感じる)らしい。リカバーを使った瞬間、その色は一瞬で消えた。

 因みにAthena(アテナ)の説明では毒は紫、麻痺は白色、とどうやら魔法石の属性色と共通の関わりがあるようだ。これも後でよく勉強しておくことにする。


「――よし、終わったよ。二人ともこれで大丈夫だと思う。少し経てば目を覚ますと思うから…」

「あ…ありがとう!ありがとうよ、あんたたち…!!」


 ほっと息を吐いて立ち上がった俺に、女剣士は涙ぐんで頭を下げた。


「特に銀髪の…ルーファスだよね?あんたが来てくれなけりゃ、あたしらは多分全滅してた。あいつのパートナーになったって聞いてたけど、リカルド・トライツィと違ってあんたは優しいんだね…!!」

「え…?いや、リカルドと違ってって…あいつは厳しいところがあるかもしれないけど、そこまで酷い奴じゃ…」

「――そうか、あんた…リカルド・トライツィのパートナーか…!道理で桁違いに強えわけだ。」


 ――俺に〝リカルドと違って優しい〟と言った女剣士はリカルドは自分の心的外傷(トラウマ)なんだと言って、自分を覚えていないか、と聞いてきた。

 顔に見覚えはなかったし、一緒に仕事をした覚えもない。思い出せず首を傾げていたら、会うのは二度目なんだと言われた。

 どうも二年以上前、まだ俺が守護者になる前にメク・ヴァレーアの森で会ったことがあったらしい。シルフ・バードの討伐、と言われてなんとなく思い出した。

 因みに向こうは俺の銀髪と、リカルド、その後リカルドのパートナーになった噂で俺のことを覚えていたみたいだ。


 彼女の名はヴァレッタ・ハーヴェル。昨日変異体の緊急討伐に失敗して、全滅したはずのパーティー『根無し草(ダックウィード)』のリーダーだそうだ。


「俺はヴァリーの補助をしてる副リーダーのフォション・ボルドーだ。このパーティーではフォー、他所(よそ)では大剣使いのボルドーって呼ばれてる。んでこいつが…」


 大剣使いのボルドーは、左手を握って立てた親指で隣に立っていた双剣使いの男性を差した。


「スコット・ガロスだ。あんたらのおかげで本当に助かった。俺はまだ死ぬわけには行かないんでな、感謝してる。」


 この人がユーナちゃんのお兄さんか…随分年の離れた兄妹だったんだな。


 俺の横でウェンリーが彼の名前を聞いた瞬間に、えっ!?という顔をしていた。


 左頬に十字傷のある双剣使いの男性〝スコット〟は、焦げ茶色の髪にホワイトメッシュを入れた、目つきは悪いが人柄は良さそうな、ウェンリーより少し上くらいの雄々しい男だった。


「で、そっちはルーファス…さん、だろ?赤毛のあんたは?」

「え…と俺は――」


 ウェンリーが名前を尋ねられたその後ろで、意識を失っていた二人がほぼ同時に目を覚ました。


「ライラ!ミハイル!!良かった…!!」


 二人はむくりと起き上がって、自分の身体をペタペタ触りながら、怪我が治っていることに驚いていたが、仲間からなにがあったのか説明を聞くと、すぐに立ち上がって揃って俺に礼を言ってくれた。


 弓使いの女性の名はライラ・サーシェ。そして男性はミハイル・トルクという道具で味方を補助する支援役だった。


 その後、軽く雑談をした後で、王都に戻ると言う話になったのだが――


「え…なんでだい?一緒に帰りゃいいじゃないか。あんたたちも王都に戻るんだろ?」

「そうだぜ、なにか礼をさせてくれよ。なあ?」


 ヴァレッタとフォションの二人が不思議そうに問いかけてくる。


 ――確かに俺とウェンリーは王都に戻る。だが俺達が戻るべき王都は、ヴァレッタ達にとっての()()の王都なのだ。一緒に戻るわけには行かなかった。


「いや…俺達の用事はまだ済んでいないし、ここでちょっとやらなければならないことがあるんだ。そっちは俺が治療したとは言っても死にかけたんだ、貧血のはずだからきちんと休息を取った方がいい。ここで別れよう。」


 俺はキッパリとそう言って彼らを説得した。


「そうそう、ルーファスの言う通りだぜ。まあ変異体は消えちまったから証拠も持って帰れねえし、依頼達成とはなんねえかもしれねえけど…特にあんた!双剣のスコット、さんだ!!たった一人の妹がいるだろ?ユーナちゃん、待ってるぜ。早く帰ってやれよ。」

「え…」


 ウェンリーの言葉に、スコットが〝ユーナを知っているのか?〟と驚いた顔をした。


 ――ウェンリーも気がついたか。…さすが俺の親友だよな、頭が本当に柔らかい。


 そうして俺達は、無事に生きて帰ることになったAランク級パーティー『根無し草(ダックウィード)』と王都でまた会う約束だけをして、この場で別れたのだった。


 彼らがいなくなった後、俺はAthena(アテナ)の検索機能を使い、どうしたら元の王都に帰れるかを調べた。

 過去何度も飛ばされた時と今回の状況はかなり違っていて、条件を満たせば自動で戻れるというものではなさそうだったからだ。


 なんとしてもウェンリーを無事に帰さなくてはならないし、前日とは言え過去に来て、死んでいたはずの人間を助けたという俺の取った行動が、今後どんな影響を及ぼすのか調べなければならなかった。


 程なくしてAthena(アテナ)の答えが出る。


 ここへ飛ばされて来た最初の場所へ戻り、そこにあるはずの『時空点』で一時的に使用が可能になると言う『時空転移魔法』を発動すれば、元の時間と場所に帰れるのだそうだ。


 時空転移魔法だって…?転移魔法でさえまだ使えないのに、どこからそんなのが出て来たんだ。…もう俺の頭はめちゃくちゃだ。

 自分で自分に突っ込みを入れたいところだったが、どうせ考えるだけ無駄だ。


 未だウェンリーに魔法を使えるようになった理由も、自己管理システムについても話していない俺は、なにも言わずに俺が打ち明けるのを待ってくれているウェンリーに、王都へ戻ったら全て話すとだけ約束をして、あの大岩に挟まれた空き地を目指すのだった。  

差し替え投稿中です。※2023/03/13現在。

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