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Eternity~銀髪の守護者ルーファス~  作者: カルダスレス
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179 王都シニスフォーラへ ③

ピエールヴィのギルドで大量に張り出されていた高難易度依頼を、とりあえず四件だけ受けて来たルーファスは、その内の一件、ハス森林内の討伐対象のいる場所に辿り着きました。変異体と呼ばれる変異化した魔物は、常に同種の通常体を多く伴い、やがて人里を襲うようになります。その前に倒してしまわなければならないのですが、通常体の数の多さと、それ以外にも気をつけなければならないことがあって…?

      【 第百七十九話 王都シニスフォーラへ ③ 】



 ――ピエールヴィで受けて来た依頼の一つ、変異体討伐対象である『グランバイデス』の巣穴を見つけた。

 ハス森林の中部、湿地帯から流れ来る小川の近くに大きな岩があって、その周辺だけ枯れた木々が方々に倒れ、ぽっかりと空間ができているような場所だ。


 そこには集められた無数の通常体(一体の体長は長くても五十センチほど)が地面を埋め尽くすほどに蠢き、まだその姿の見えない変異体によって強制的に統率されているためか、空腹に共食いしそうなほど苛立っているのが見て取れた。


 俺達は予想よりも遥かに多い数の通常体に、その巣穴から少し離れて、魔物に感知されないよう遮音結界を張り対策を立てることにした。


「凄まじい数だな…広範囲魔法を使うにしても、少し骨が折れそうだぞ。」


 背の高い草叢の中で地面に身を低くし、俺達はしゃがんで話し合う。ここまで来るのに通って来た林道は、シルヴァンの位置から三十メートルほど後ろだ。

 さっき気にするなと言ったのに、そう言いながらもシルヴァンはまだ林道の方を気にしている。


「ああ。当初はここまでじゃなかったんだろうけど、何ヶ月か変異体を倒せないでいるうちに増えに増えまくったんだろうな。今結果が出た自己管理システムのカウントだと、地上に凡そ150体、巣穴内部に100体ほどがいるようだ。」

「そんなにいんの!?あれって通常体だけど全部Aランクだよな…マジか。」


 魔物の総数を聞いてギョッとし、少し尻込むようにウェンリーは身構える。


 この後指示をする俺の中で立てている作戦を知れば、ウェンリーは不安になってさらに顔を曇らせることだろう。

 だがこれは、まだBランク級のウェンリーにとって、絶好の機会なのだ。


「数だけの問題ではないぞ、予の龍眼で見るに二、三体だが変異しかけているものがおる。調べて見ぬと龍眼だけでははっきりせぬのだが、どうも巣穴のある場所になにかの供給源があるような…予には地面から魔力の筋が湧き出しているように見えるのだ。」

「…天然の魔泉(ません)か?」


 林道から気を移し、俺に向けてシルヴァンが言う。


 フェリューテラで言う『魔泉(ません)』とは大地そのものや埋まっている鉱物など、どこにでもある自然物に含まれている魔力の吹き溜まりで、地下水が湧き出る泉のように魔力が地上へ湧き出してくる現象のことを言う。

 それらはなんらかの切っ掛けで突然始まり、またなんの前触れもなく枯渇して短期間で消えてしまうのが殆どだが、それらの現象が起きる場所には良く魔物の変異体が出没するらしい。


 シルヴァンが俺に問いかけたのは、俺の方がそう言った現象にリヴよりも詳しいと知っているからだ。


「――どうかな…全ての魔物を倒してからじゃないと、ここからでは俺にもわからない。まあそれは後で調べるとして、自己管理システムの情報から作戦を立てた。役割を分担するから従ってくれ。」


 俺は三人の顔を見て頷くのを確認してから指示を告げる。


「改めて説明するが、グランバイデスの弱点は通常体、変異体共に風属性、体当たりや跳びかかりによる噛みつき攻撃を主体とし、地属性魔法も使用する非常に動きの速い魔物だが、元々の素体が冬眠する性質を持っているため、低温状態になると極端に動作が鈍くなる。凍結の状態異常は効かないが、毒吐き攻撃を武器などで弾くことで自分の吐いた毒に冒されるという弱点もある。このことを踏まえ、変異しかけているものを含め一体も逃さず駆逐するために、この後俺は氷魔法による隔離措置を施す。リヴは結界内の気温を氷魔法で下げそれを維持しつつ、巣穴内部にいる魔物を少しずつ誘き出すことに専念、シルヴァンは巣穴から出現する個体の駆除と、討伐対象の変異体が出てくるまでその場で待機。ウェンリーは魔法石を駆使して、地上にいる150体全ての通常体を一人で駆除。俺は隔離結界の維持と防護魔法による補助を担う。なにか質問はあるか?」

「質問もなにも…え…あの数の通常体を、俺一人で()んの?…冗談だよな、ルーファス…」


 ――思った通り、ウェンリーは一瞬で、自分に自信のなさそうな不安顔になった。


 少し意外だったのは、いつもなら反対してくるシルヴァンとリヴが、なにも言わずに黙ってウェンリーを見ていたことだ。

 そのことから二人はウェンリーの実力について、この程度は可能だと俺と同じ判断を下しているみたいだ。


「俺がこんな時に冗談を言うか?おまえも『太陽の希望(ソル・エルピス)』の一員なんだろう。何度も言うが、俺はおまえにできないことをやれとは言わない。危ないと判断したら迷わずディフェンド・ウォールも使うから、魔物を倒すことだけに集中しろ。リヴとシルヴァンはそれぞれの役割で手一杯になるから、おまえも自分の仕事をきちんと熟せ。」


 ウェンリーの最大の欠点は、魔物の数や等級にすぐ惑わされることだ。


 魔物駆除協会(ハンターズ・ギルド)で定められている魔物の等級はあくまでも目安に過ぎず、どんなに敵の数が多くても弱点を突ける魔法(ウェンリーの場合は魔法石だ)があれば左程問題にはならない。

 大体高ランクに指定される魔物は、純粋に強力であることも条件に含まれるが、他に状態異常を引き起こす攻撃を多用するものや、隠形能力が高く不意打ちを得意とするもの、あまり生態が知られておらず攻略し難いものなど討伐が難しい方に分類されるため等級が高くなる。

 だが実際にはBランク級でも戦い方さえ知っていれば、容易に勝てるSランク魔物は存在しているし、下位守護者でも単独でAランク魔物を複数狩った例は当たり前にあるのだ。


 その点ウェンリーはやればできるのに、自分の実力を過小評価している部分があるのは否めないだろう。

 自分が俺達と戦って来られるのは、俺の作った魔法石があるからだとか、シルヴァンやリヴに助けて貰っているからだとか、なにかにつけそう理由をつけているせいだ。


「他に質問はないな?通常体を全て倒したら、全員で変異体の討伐にかかってくれ。」

「心得た。」

「承知致した。…ほれ、ウェンリーも返事をせよ。」

「…う、うん…わかった、やるだけはやってみる。」


 俺は冴えない顔色になったウェンリーを一瞥して立ち上がった。


「――よし、それじゃ行動開始だ。」


 本音を言えば、ウェンリーにたとえ掠り傷だとしても、怪我をさせたくないという思いはある。だが守り過ぎて甘やかすだけでは、守護者としての成長がここで止まってしまうことはわかっていた。

 俺は旗色の悪い顔をしているウェンリーに構わず、静かに魔物の縄張りに近付くと、それぞれが武器を手に戦闘態勢に入った直後、自分達を含めた広範囲に水属性氷魔法による隔離結界を施した。


「――青き水は聖なる壁となりて我らと魔の物を場に閉ざす。凍てつく氷は結界となりて聳え立ち、今より何者もそれを越えること叶わん。閉ざせ氷壁!!『バラフヴァント・ジェイル』!!」


 ヒュオオオオオ…パキパキピキキ…ズズズズドオオンッ


 俺の左手に青い魔法陣が輝き、魔物の巣を含めた広範囲の地面にそれが光ると、空から氷の欠片が降りて来て弾け飛ぶ。

 直後魔法陣の縁をなぞるようにして大量の水が渦巻きながら噴き出し、一瞬で分厚い氷の壁に変化した。


「フシャアアアアーッ」


 俺達の襲撃に気づいた無数の通常体が一斉に威嚇音を発する。


「対グランバイデス広範囲戦闘フィールド展開!!一匹たりとも逃すな!!」


 その場で俺が全員にバフをかけ、リヴは敵の動きを鈍くするため、結界内の気温を一気に下げる。


「氷の息吹よ!『ヴァレンブレス・リオート』!!」


 ――リヴの水属性氷魔法『ヴァレンブレス・リオート』は、凍結耐性のない相手であればほぼ確実に状態異常を引き起こすことが可能だ。

 その反面攻撃魔法としての威力は低く、弱点とする敵でなければ損傷を与えられないが、高温の火山地帯や熱帯地で周囲の気温を一気に下げたり、今回のように低温を苦手とする魔物の動きを鈍らせたりと、汎用性が非常に高い。

 その上魔法に必要な消費魔力量も少ないため、効果が薄れてきたら再度かけ直すことで一時間ぐらいは優に低温状態を維持することもできるのだ。


 そのリヴの魔法効果を最大限に発揮させるために、俺はわざと隔離結界を氷魔法で施した。

 こうすることで気温の低下速度を速め、さらに持続時間を延ばせるからだ。


 その作戦が功を奏し、俺達に気づいて威嚇していたグランバイデスの通常体は、見る間に身体を震わせて動きが緩慢になる。


「動きが鈍ったぞ、ウェンリー!今だ、攻撃を開始しろ!!」

「う…りょ、了解…っ!!」


 ウェンリーはエアスピナーと魔法石を手に緊張した面持ちで、地面を埋め尽くす通常体の中へと走って行く。

 低温に思うように動けない魔物は、目の前にウェンリーの足があっても、もぞもぞと這い寄るだけで碌に噛みつくこともできない。


「先に巣穴までの道を開けよ!!」

「えっと…よし、こいつだ!!」


 シルヴァン達の進路を確保するのなら、ここは風属性中級魔法『ラファーガ』の魔法石を使うのが正解だ。

 直線上に螺旋を描きながら敵を切り刻んで吹き飛ばすラファーガなら、魔物の死骸を左右に飛び散らせ、進路を開けることができるからだ。


 ひゅっ…ゴオオオオッ


 ウェンリーはきちんと適切な魔法石を選び、シルヴァン達の前にそれを投げつける。

 そこから発動したラファーガの魔法が、あっという間にグランバイデスの通常体を屠りながら吹き飛ばして直線通路を作った。


「いいぞ、その調子だ!」


 激励したシルヴァンとリヴはウェンリーの魔法石で開いた隙間を駆け抜け、二人並んで巣穴の前へ陣取ると、穴から噴き出す水の如く次々に飛び出してくる通常体を蹴散らし始める。


「ボサッとするな、ウェンリー!!ここの通常体はおまえの担当だぞ!!」

「わ、わかってるよっ!!」


 動きが鈍くなっているとは言え、魔物の方だって生き残るのに必死だ。上手く動かせない躯体を(よじ)り、最も近くにいるウェンリーを今、周囲にいる全ての通常体が狙っているのだ。(※俺は攻撃に参加していないため、敵対認識が低い)


 失敗を恐れているウェンリーが、気負い過ぎて緊張から固くなっているのを感じる。だが俺は隔離結界の維持と全員の安全確保に専念し、ウェンリーの魔物討伐には一切手を貸す気がない。


 今日ここでBランク級のウェンリーが、150体ものAランク魔物を単独討伐すれば、等級昇格に必要なポイントは文句なく達する。

 後はBランクの依頼をどんなものでもいいから一人で熟せば、晴れてウェンリーはAランク級守護者だ。

 そうなれば俺達といても誰にも等級のことでなにか言われることはないし、もう自分に力がないなんてことも思わなくなるだろう。


 等級昇格はもう少し先でもいいかなと思っていたところに、ピエールヴィでおあつらえ向きの依頼があって格好の対象がこんなにいる。いきなりで少し強引だがこれを利用しない手はないだろう。


 攻撃を促す俺の声に焦りながら、ウェンリーはエアスピナーでグランバイデスの毒吐きを弾き返し、次の魔法石を眼前の集団に投げつけた。


 ――魔法石の選択を間違えたな、それは違うだろう…!


 発動した風魔法を見て、俺は瞬時に防護魔法の詠唱に入った。


 落ち着いて敵との位置を把握すればわかることだが、ウェンリーの360度全方向にいる魔物との距離はもう一メートルもない。

 よってこの場合は自己保全を最優先に、自分を中心に発動する『タービュランス』の魔法石を使うのが正解だった。…が、ウェンリーが使ったのは『サイクロン』の魔法石だ。


 当然、魔法はウェンリーのすぐ目の前で発動し、それによって巻き上げられたグランバイデスの通常体は切り裂かれて、バラバラになりながらウェンリーを目掛け吹き飛ばされてくる。しまった、と気づいてももう手遅れだ。

 おまけに魔法の範囲から外れ足元にいた魔物の数体が、足に噛みつこうとして大きく口をガアッと開いた。


「守れ、『ディフェンド・ウォール』!!」


 キンキンキンッ


 俺は隔離結界を維持していない方の右手で、待機していた防護魔法を即座に放った。ウェンリーの足に噛みつこうとしていた魔物どもは、ディフェンド・ウォールに阻まれてその牙をガキンッとへし折られる。


「落ち着け、ウェンリー!!数に惑わされず普段通りに戦えばいいんだ!!焦らなければおまえならできるだろう!!」

「ルーファス…っ」


 一瞬だけ俺を振り返ったウェンリーは、悔しげに唇を真一文字に結び、ギッと歯を食いしばる。

 そしてそこからは頭も冷えて落ち着きを取り戻したのか、ようやく本領を発揮し始めてくれた。


 ――そうだ、一般守護者と違い、アテナの腕輪と俺に守られているおまえは、大きな怪我を負う心配はない。

 魔法は使えなくても俺の用意した魔法石がいくらでもあるんだから、冷静に状況を見極めさえすれば、150体の上位魔物が相手でも短時間で殲滅できる、頑張れ!!


 アテナがいなくなっても、ウェンリーは俺に隠れてちゃんと魔法石の訓練はしていた。インフィニティアにいた間はそれもままならなかったが、自信がつきさえすれば、おまえはもう一人前なんだ。


 ウェンリーの言葉を借りて言うなら、〝イケる!〟と思い始めた後は、見ていてもう大丈夫だなと感じて俺は安堵した。そしてその時…


 ピロン


『隔離結界に近付く不審人物数名を捕捉』『氷壁への破壊行動を予想』『直ちに転移罠の発動を推奨』


 俺の自己管理システムが警告を発した。それと同時に、頭の地図で隔離結界のすぐ外に、五つの白い点滅信号が光り出した。


「――やっぱり来たか…」


 俺の地図の白い点滅信号は俺と無関係の存在や、こちらの行動如何によって後に色が変化する場合があることを表す信号だ。

 つまりその不審人物数名は、今の時点で俺に危害を加える気はなく、なにか別の目的を持ってここへ来たのだと言うことが考えられる。


 そして俺はその目的に心当たりがあった。


 ――予定通り対策を実行する。俺達の邪魔はさせないぞ。


 俺は口元にニッと笑みを浮かべ、頭の中で自己管理システムに予め用意しておいた対策を実行に移させた。


 すると――


 一瞬で五つの白い点滅信号はそこから消え去って行く。前に黒鳥族(カーグ)の塔がある『カストラの森(魂食いの森)』で覚えた、転送用の罠を隔離結界に仕込み、それを発動させたのだ。

 一応転送先はハス森林の入口に設定しておいたので、ここまで戻るにはまた暫くかかることだろう。

 実はこれのために俺は、左手を隔離結界の維持に当てる必要があったのだ。


 ――誰だか知らないが、戻って来る前にさっさとこの依頼を済ませてしまおう。


「ルーファス、やったぜ!!ここの通常体は全部倒した!!」


 いいタイミングで汗だくのウェンリーから、達成感を表した満足げな声が聞こえてくる。その顔も晴れ晴れとしたいい笑顔だ。


「良くやった、ウェンリー!!――シルヴァン!!」


 俺はウェンリーが倒した通常体を、全て戦利品自動回収でその場から消し去ると、次に依頼対象の討伐へ移行する。


「まだ巣穴に二割ほど残っている!」

「構わない、巣穴に水魔法を流せ、リヴ!!残りの通常体と変異体を巣から外に押し出すんだ!!」

「承知致した、お任せ下され!!」


 返事をしたリヴは少し後ろに下がると、手にした棍を立ててドンッと地面に突き立てた。棍は突き刺さっているわけでもないのに、倒れずに直立している。

 俺と違って瞬間詠唱(スティグミ・リア)の魔技を持たないリヴが、時間のいる上級魔法の詠唱に入った合図だ。


「ウェンリーとシルヴァンは出て来た通常体から優先処理、変異体は一番最後に倒すぞ!!」

「了解!!」

「心得た!」


 すっかり調子の戻ったウェンリーは、凜とした顔をしてシルヴァンの元へと駆けつける。その間にリヴは、最上級水魔法『シュトゥルム・マレハーダ』をグランバイデスの巣穴に向けて放った。


「唸れ水よ、逆巻け濁流!!彼の地に潜む脅威を押し流すのだ!!『シュトゥルム・マレハーダ』!!」


 ゴオッ


 巣から出て来ようとしていた通常体を一旦押し戻し、轟音を立てて入口から大量の水が吸い込まれて行く。

 その奥がどの程度広くなっているのか知らないが、流し込んだ水が溢れ出てくるまで暫しの時間がかかっていた。


「――来るぞ!!ルーファス!!」

「ああ!!仲間を守れ、『ディフェンド・ウォール』!!」


 キンキンキンッ


 リヴは仲間だから、リヴの放った魔法で俺達が傷つくことはない。だが物凄い勢いで流され、押し出されてくる魔物は別だ。高速で飛んで来る岩のように、身体にまともに当たったらただでは済まない。

 俺はシルヴァンの掛け声に応じて、防護魔法を直ぐさま全員にかける。まだ残っている通常体を逃がさないため、依然として左手は隔離結界を維持したままだ。


 ズドドドドドド…


「好機!向かってくるものから撃破せよ!!」

「はあ!?いや、俺にゃ無理だって!!得物が違うだろっ!?」

「ふはははははは!!!」


 ――街中で子供が投げた石を棒切れで打ち返して遊ぶように、また悪い癖の出たシルヴァンは、笑い声を上げながら水と共に飛んで来る通常体を斧槍でぶった切っていく。


「完全に遊んでやがんな…お、俺は真似しねえぞ!!討ち漏らした奴から倒すかんな!!」


 こういう時は悪ふざけをせず、武器をぶん回すシルヴァンから一歩下がると、ウェンリーはエアスピナーと魔法石を駆使して、脇から漏れ出る通常体を一体ずつ仕留めて行った。だがその直後――


 ズズズズ…ゴゴゴゴゴ…ドガガガガガンッガラガラガラ…


 ――グランバイデスの巣穴が、突然内側から爆発したかのように弾け飛んだ。


「ギシャアアアアアーッ」


 巣を守るように蓋をしていた大岩と、器用に組まれていた腐った木の覆いは崩れ、地属性魔法を使って自ら足元の土を盛り上げた巨大な変異体が、巣の天井に穴を開けて飛び出して来たのだ。


「出たな、討伐対象を捕捉!!地属性攻撃魔法と広範囲に吐かれる毒液に注意!!」

「毒溜まりは予が流しまする!!」

「通常体、残り十!!ウェンリー、後は任せて良いか!?」

「了解っ、任されたっ!!!」


 今度は俺もタイミングを見て風魔法を使い、ウェンリーの補助をして一緒に通常体を倒して行く。魔物の死骸は倒した先から、俺の自動回収で跡形もなく消えて行った。

 それを完全に駆逐して変異体が残るのみになれば、後はこの程度の敵、シルヴァンとリヴの二人だけで楽勝だ。


 うん、ここまで来ればすぐに終わるな。…問題は…


 俺は頭の地図をハス森林全域が見えるように表示させ、さっき転移罠にかけた白い点滅信号の対象者達が今どの辺りにいるのかを確かめた。


 ――素直に諦めて街へ帰れば良かったのに…あのぐらいじゃ懲りないのか。


 五つの白信号は、林道を走るか急ぎ足でこちらに向かって移動している。早ければ三十分もしないうちに、ここまで追いついて来そうな勢いだ。


 …転移系の魔法は使えない、か。まあ使えたら困るし、素質がなければ無理だから当然だけど、この移動速度…身体強化系の補助魔法くらいは持っていそうだ。

 巣穴の下になにかありそうだからそれだけはきちんと調べるとして、あれだけ遠ければもう隔離結界は解除しても大丈夫かな。


 俺は念のため足止め用の罠を林道から来る辺りに設置して、隔離結界を解除した。


「ルーファス?」

「おまえが通常体を全て倒してくれたから、隔離結界は解除した。引き続き変異体を倒すまでリヴとシルヴァンの補助を頼む。」


 俺は後衛にいるウェンリーの後ろを擦り抜け、シルヴァンとリヴが戦っている戦闘領域を横目に、グランバイデスの崩れかけた巣穴へ飛び込んだ。


「はあ!?ちょ…なにしてんだよ!!」

「構うな、時間がないからちょっと調べてくる。すぐに戻るから頼んだぞ!」

「ルーファスっっ!!!」


 無理もないがウェンリーは俺の行動に慌て、戦闘中のシルヴァン達と俺を交互に見ながら右往左往した。

 俺はそれを無視して自分の居場所を確保する、箱型の強化防壁を張ると巣穴の奥へ入って行く。所々崩れている場所は、ラファーガなどの魔法を使って通路を吹き飛ばし、少しずつ前へと進んで行くのだ。すると…


「…!?」


 通路が開けた瞬間、突然ポッと、頭の地図に紫色の点滅信号が出現した。


 ――紫色の点滅信号…!?罠に嵌まりインフィニティアに飛ばされたこともあって、前回は意味がわからないままだったけれど、不思議穴(ヴリームト・ルア)の時と同じ色だ…!!


 俺は今度こそその信号の表す意味がわかると期待して、急いでそれが光る場所へ走った。

 そこは入口からそう遠くなく、ここに変異体がいたのか、大きめの空間に天井はなくなって上に空が見えている。

 地面には腐った枯れ葉などがびっしりと敷き詰められ、単に土を削っただけの穴だったが明らかに寝床のように整えられており、変色した葉っぱや重ねられた草間にはなにか赤紫の光が見えていた。


 なにかあるな…


 魔物の饐えた臭いのする草を足で退かし、地面を顕わにすると、そこには土に埋もれた三十センチほどの赤黒い結晶があった。


「――なんだこれ…大地や大気中から魔力を吸い込んでいる…?」


 俺の真眼では、自然界に存在する魔力の筋が、その結晶に向かって流れ込んでいるように見えた。

 その場ですぐに今度は解析魔法『アナライズ』を使って調べてみると、この結晶はフェリューテラの自然には存在しない、未知の物体であることがわかった。


「リヴが龍眼で見ていたのはこれか…吸い込んだ魔力だけでなく、なにか変質させたものを加えて上に向かって放出している…?もしかして、これがここに変異体を生んだ原因なのか?」


 とりあえずそれに触れてみようと思い手を伸ばすと、まるで俺がいつも張っている結界障壁に魔物が触れた時のように、パリパリと漆黒の雷撃が迸り俺の手をバチンッと弾き返した。


「うわっ痛っ!!…防護雷!?…ということは、これは誰かがここにわざと仕掛けたんだ。どこの誰がこんなものを、どこから…?いや、その前になんの目的があるのか知らないが、破壊して始末しておかないと、またこの場所に強力な変異体が生まれてしまうかもしれない。」


 俺はこの結晶を砕いて破片だけ隔離処理して持ち帰ることにし、詳しくは後でゆっくり調べようと、取り急ぎその場で衝撃系魔法を放って粉々に砕いた。


 フオン…パアアンッ


「ああっ!?」


 だが俺の予想に反し、砕かれた結晶は見る間に、シュウシュウと音を立てて溶けるように消えて行く。

 おかげで俺はそれを持ち帰ることができなくなってしまった。


 ――やられた…破壊されると消滅するようになっていたんだな。あの結晶は俺のような者に、詳しく調べられるとマズいものだったということか…


 結晶が消えると同時に、頭の地図から紫色の点滅信号も消えていた。つまりあの信号はこの結晶のことを指していたということだ。


「なんだかなあ…これだけじゃまた意味がわからないじゃないか。あの紫色の点滅信号は、いったいなにを表しているんだろう。」


 はあ、と大きく溜息を吐いたところで、変異体を倒し終わったのか、頭上のぽっかり空いた巣穴の天井から、ウェンリーが下を覗き込んで手を振り俺を呼ぶ。


「おーい、なにしてんだよルーファス〜!無事終わったぜ〜!!」

「ウェンリー…ああ、わかった今行く!」


 その近くからは同じようにして、見上げる俺をシルヴァンとリヴも覗き込んでいたのだった。



「――紫色の点滅信号?…それはまさか、不思議穴(ヴリームト・ルア)を見つけた時に言っていた、例の地図上に現れるというあれか?」


 無事に一件目の依頼を終えた俺達は、今度はその足で真っ直ぐ『ボスケ湿地帯』を目指している。

 もう暫く歩くとハス森林は途切れ、足元が水に強い水生樹や水草ばかりが生えた泥濘んだ地面に変わるはずだ。

 残る三件の依頼は全てこの場所にあり、広大な湿地帯のバラバラな箇所に討伐対象はいるらしい。


「ああ、そうだ。それがリヴの気にしていた巣穴の中に現れたんだ。…で、そこにあったのは『魔泉(ません)』じゃなくって、俺も見たことのない結晶のような未知の物体だった。赤紫の光を発し、大地と大気中から魔力を取り込んで、なにか変質させたものと一緒に上へ向かって放っていた。欠片だけ持って来ようと思ったのに、壊したら溶けて全部消えてしまったんだよ。どこの誰かは知らないが、あの場所にあれをしかけた者がいるみたいだ。」

「「「………」」」


 三人は一斉に黙り込む。


「…?なんでみんな黙るんだ??」


 疑問に思い、俺は首を傾げた。


「だって…なあ。」

「…うむ。」

「この国の王に呼び出され、これからイスマイルを解放せんとしている時に、予らは再び厄介ごとの予感しか致しませぬ。…なにやら林道を遠く離れて気づかれぬように後をつけてきた輩もおったようですし。」


 シルヴァンとリヴは少しゲンナリ顔で長ーい溜息を吐く。


「ああ…なんだ、リヴも気づいていたのか。」

「えっ、なにそれ…そんな奴らいたの?」

「いたな。」


 全く気づいていなかったウェンリーに、シルヴァンはこくりと頷く。


「当然でするぞ。ルーファスとシルの態度から、知らぬ振りをしていた方が良さそうだと判断致しただけでする。」

「そうか…うん、だったらそのまま俺がいいと言うまで、この後もなにも気づいていない、知らない振りを続けていてくれ。」


 俺がそう言った途端、また三人は黙り込んだ。しかもシルヴァンとリヴは、唇を突き出すようにして口を山型に結んでいる。


「「「………」」」

「なんだよ、返事は?」

「…やはり相当面倒臭い厄介ごとのような気がしてなりませぬ。」

「同感だ。」

「てかさ、振りもなにも俺なんもわからねえんだけど。」

「よしよし、ウェンリーはそれで良いんだよ。」


 不満げに顔を顰めたウェンリーの頭を、久々にぽんぽん、と撫でてやる。するとウェンリーはむうっと顔を赤くして俺の手を払った。


「なんっ…撫でんな!!」

「ごめんごめん。ああ…そうだウェンリー、さっきのグランバイデス通常体の討伐数で、Aランク級への昇格条件を一つ満たしたはずだから、明日明後日の二日間の内にBランク以上の依頼を単独で済ませて昇格しておけよ。」

「…へ?」

「なにが、へ?だ。あれだけのAランク魔物を狩ったんだから当然だろう。そのためにおまえ一人にやらせたんだからな。」

「…まさか、(あるじ)の意図に気づいていなかったのか?」

「あ、はは…全っ然。いきなりなんのスパルタかと思ってた…。」


 俺とリヴとシルヴァンは、はあ、と大きな溜息を吐いて首を振った。


 そんな雑談をしながら進んで行くと、やがて湿地帯らしい湿気た地面と腐りかけた水の匂い、そして動物の死骸に集る虫の群れや、湿地に生息する魔物じゃない普通の動物たちをちらほらと見かけるようになった。


「――そろそろ本格的な湿地に入るな。それじゃあ、全員に俺からプレゼントだ。」

「プレゼント?」

「おお、それは真ですかな、ルーファスからの贈り物とは早速予の家宝に致しまする。」

「するな!全く…なにを言っているんだ、いいから手を出せ。」

「手?」


 俺の言うままに各々俺の前に腕を伸ばしたそこに、俺は俺の作った魔法石を埋め込んだ腕輪をそれぞれに嵌めて行く。


「――よし。慣れるまで少しかかるだろうから、慌てるなよ。浮遊せよ、『エアフロート・ウォーカー』。」

「「「!?」」」


 俺が各自の腕輪に向かって魔法を発動させると、ウェンリー、シルヴァン、リヴの三人は、地面から二十センチほどの高さに浮き上がった。


「うわわっわわっ!!やべえっ!!コケる、コケるっっ!!!」

「なんとっ!!」

「ほほう、浮遊魔法でするか…なるほど!!」


 バランスを取れずに前後に大きく身体を揺らすウェンリーと、なんだか不格好に腰を突き出して立つシルヴァンに対し、さすが空中と同じような海中で暮らしていたリヴは慣れたものだった。


「泥濘んだ湿地じゃ、足を取られたりしてまともに戦えないからな。その腕輪を外さない限り、今俺がかけた浮遊魔法は持続する。地面に着地するには湿地から出る時に外せばいいぞ。浮いている足元に風が流れていて、通常と同じように走ることもできるが、接地面の抵抗がない分、急には止まれないから障害物には気をつけろよ。」


 そう説明をしながら、俺は三人と違って、首にかけたペンダントから浮遊魔法を発動した。


「こんなんいつ作ったんだよ…てかなんでルーファスだけペンダント?」


 ウェンリーはまだ前屈みになったり、仰け反ったりして中々真っ直ぐに立つことができない。


「腕輪とどっちがいいか試作品を作ったからだ。それより、残りの討伐対象について歩きながら(飛びながらだな)説明しておく。ここからはあまり時間をかけず一気に三箇所を回るつもりだから、魔物の情報を先に頭に入れておいてくれ。」

「――それは我らの後ろをしつこくついて来る輩のせいか?」


 シルヴァンは仁王立ちの格好だと安定するのか、腕を組んだまま器用に進んで行く。因みに足元の風魔法を強くしているから、俺達は今、風を切り結構な速度も出ている。


「そうだ。多分ずっと後をついて来て、隙を見て俺達の仕事を邪魔しようとするか、若しくは戦闘中に乱入して、討伐対象の止めだけ刺そうと狙うかのどちらかだが、俺が隔離結界を張り全て阻止するから気にしなくていい。」

「なんだそれ…どういうことだよ。」

「それについては今日の依頼を全て終え、無事フスクスに着いたら宿で話すよ。今は仕事に集中して欲しい。それじゃ、討伐対象について話すぞ。」


 ――ボスケ湿地帯に散らばる残り三件の依頼は、『バタルクルクシュカ』という(ワニ)型魔物の特殊変異体(ユニーク)討伐と、『ラフィドフォリティー』という蟋蟀(こおろぎ)に似た別名〝カマドウマ〟の変異体討伐、そして大型の蜻蛉(とんぼ)型魔物『アントガスター・シーボリティ』の変異体討伐だ。


 ここから最も近い位置にいるのは『アントガスター・シーボリティ』で、(もや)に煙る湿地帯を南南東方向へ進むと、その耳障りなブンブンいう羽音が聞こえてくるそうだ。


 俺達は浮遊魔法を使ってるため、全く足音を立てずに高速で目的地へ向かう。少なくとも歩いて後を付けてくる連中は、この速さについて来ることはできないだろう。


 まあ、それでも油断しないけどな。


「アントガスター・シーボリティは二メートル強の大きさだ。火属性に弱いが、グランバイデスよりも素早くて高い位置を飛び回るから、単体魔法は当てにくいんだ。普段なら俺のフレイムピラーなんかを使えばいいんだけど…」

「隔離結界を張るために片手は埋まるか…まあいい、なんとかなるであろう。」

「ああ、頼むよ。」




 ――その頃、ルーファスによって森の入口まで飛ばされた、白い点滅信号の対象である者達は…


 全てが終わり、グランバイデスの死骸一つ残らず、空の巣穴だけになったその場所に、息を切らせ急いで駆けつけた五人の男達がいた。

 彼らは冒険者らしき衣服を身に着け、それぞれが剣や弓、ロッドなどの武器や盾を手にしており、その中の一人が慌てた様子で周囲を見回すと、怒り心頭で巣の残骸を蹴飛ばしていた。


「ふっざけんじゃねえぞ!!長い時間かけてあんだけ集めたのに、魔物一匹皮一枚残ってねえじゃねえか!!!」


 手斧に小型盾、片目に眼帯をした濃い灰色髪の男は、憎々しげに唾を吐き捨てる。


「…この前見に来た時は、最低でも二百体はいたはずだ。なのに…これは逃げたわけじゃねえ、一匹残らず狩られたんだ。今までこの辺りにあんな連中いたか?さすがにちょっと驚きなんだが。」

「いねえだろ。どっかから来たんだ…おい、あいつらなんて名前のパーティーだ?」


 薄い栗色髪の男に尋ねられ、現場を見ていた薄茶色の短髪に緑色のバンダナをした男は、すっくと立ち上がる。


「さあな…掲示板を見てた奴に、ずっと魅了をかけ続けて付き纏っちゃみたが、嫌っそうな顔して取り付く島もねえ。パーティー名どころか名前すら教えてくれなかったぜ?二度と声をかけるなとよ。」

「…つまりサイファー、てめえのいつもの魅了が効かなかったってことか。」

「ああ。」


 緑バンダナの男はジェスチャーでお手上げ、と表して見せた。


「――で、どうすんだ?この調子で残り三件もやられちまったら、雇い主の計画がおじゃんだぞ。」

「上手く行ったら、っつう名目の報酬も貰えなくなるよな。」


 焦げ茶髪に赤メッシュを入れた男の言葉に、五人はシンと静まり返った。


「それだけは避けてえな…どうせ行き先はわかってんだ、俺は後を追うぜ。」

「フリストが行くなら俺も行く。」

「カウザーとフリストは継続か…俺はどうすっかな。」

「アゴニーも付き合えよ。一攫千金のチャンスだ、ここまで来てまさか諦めやしねえだろ?」

「ベルルム…いや、俺はサイファー次第っつうか――」


 瞬間、緑バンダナの男――『サイファー・カレーガ』は声を上げた。


「いーち抜ーけたっ!!」

「「「はあ!?」」」


 一人を除く男三人が呆れた声を出す。


 サイファーは口元に手を当てて、自己主張するように御託を並べ始めた。


(わり)いな、なんか予想外にやべえ連中のような気がしてきた。魅了が効かねえってだけじゃねえ、やわっ子そうな顔してあんだけいた魔物の死骸一つ残さねえとかとんでもねえし、見た目に反して並みの守護者じゃねえわ。少なくとも今日は止めとく。なんなら俺はここで完全に抜けても構わねえし?」

「ざっけんな、てめえ…!!」

「あ?文句あんのか、フリスト。俺らはパーティーでもなければ仲間でもねえ。怪しい奴に持ちかけられた話に偶々乗ったってだけの間柄だろうが。協力すんのも抜けるのも勝手だったはずだよな。ああ、逆らえねえように俺の強烈な魅了を喰らいてえか?貞淑な人妻だって人前で服脱いで〝サイファー様、抱いて〜〟って寄ってくるんだぜ?なんなら奴隷扱いにしてこき使ってやってもいいけど。くくくっ」

「止せや、サイファー。おまえが言うと洒落にならねえんだよ。」


 切れ長で細目の男が、少し困り顔でサイファーの肩に手をかける。


「ちっ…アゴニーは好きにしろよ、幼馴染(おさななじみ)だからっていつまでも俺に構うんじゃねえ、うぜえな。――そんじゃあな!」

「サイファー!」


 緑バンダナの男…サイファーは等閑(なおざり)に手を振り振り、四人をその場に残して一人林道へさっさと歩き出した。


「ちっあの野郎…もういい、俺らは後を追うぞ!急がねえと間に合わねえ!!」


 サイファーにアゴニーと呼ばれた細目の男は、どうしようかとその場で悩んでいたが、やがてサイファーではなく三人の男達を追って走り出した。


 離れて行く気配に足を止め後ろを振り返ると、サイファーは貶むように冷ややかな目をして去って行く四人の男を見送った。


「馬鹿な奴…どうせ間に合わねえし、日を改めた方がいいに決まってんだろうが。まあいいさ…裏稼業の方で俺個人にくれた依頼はもう一つあるんだ。最悪俺はそっちに回って大金を頂くことにするかねえ。」


 彼はそんな独り言を呟き頭の後ろで両手を組むと、ギルドでもそうしていたように、また口笛を吹きながら森の出口に向かって歩いて行くのだった。





次回、仕上がり次第アップします。

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