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Eternity~銀髪の守護者ルーファス~  作者: カルダスレス
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133 不思議穴<ヴリームト・ルア>の屍鬼 後編

不思議穴から落ちた先で不死化した狂乱熊に遭遇したルーファスは、後を追いかけてきたウェンリー達と合流し、その全てを浄化しきりました。狂乱熊の死骸に人間の爪があったことから、この自然洞窟には『屍鬼』と呼ばれる存在がいることに気付きます。そうしてルーファスは、紫色の信号が点滅していることも含め、自然洞窟内を探索することにしましたが…?

       【 第百三十三話 不思議穴(ヴリームト・ルア)の屍鬼 後編 】



 不死化していた三十体以上もの狂乱熊(マッド・ベアー)を全て浄化し倒し切った俺達は、パスラ山に戻る不思議穴(ヴリームト・ルア)を見つけると、先ずはそこに簡易結界を張った。

 最初にこうしておかないと、俺達がこれから探すつもりでいる『屍鬼』が、これを見つけて外に逃れる可能性があるからだ。

 パスラ街道側にこの自然洞窟の出入り口があるのなら意味がないと思うかもしれないが、それに関しては既に手を打ったから問題ない。

 アンデッド・ベアーを倒した直後に俺はウルルさんと緊急連絡を取っており、黒鳥族(カーグ)にすぐパスラ街道側を調べて貰って、屍鬼が外に出ていないことは確認済みだからだ。

 その上でそちらは魔法障壁で塞いで貰い、黒鳥族(カーグ)の手練れに監視して貰っている。


 …と言うわけで、俺達はこの自然洞窟内部を、これから徹底的に調べなければならない。


「――通常死亡した生物が、なんらかの要因で『屍鬼』化するには時間がかかる。最初は不死化して自我のない状態から生物の肉(正確にはそれに含まれる霊力(マナ)だが)を食らい、徐々に進化して屍鬼になるからだ。」


 すっかり腐臭の消えたその場所で、俺達は冷気に吐く息を白くしながら、屍鬼についての詳しい説明と、見つけた場合の対処法について相談していた。


「屍鬼になると生物の身体ではなく、より霊力(マナ)の集まっている〝心臓〟だけを狙って喰らうようになり、それを放置しておくとやがては『ダスク』と呼ばれる悪鬼(ズロォーガ)に進化する。さらにそうなっても倒されなければ、最終的には『グラオザーム』という魔鬼(デモノゥグル)になるんだ。そうなることは滅多にないが、屍鬼についてはこれで大体わかったか?ウェンリー。」


 シルヴァンとリヴは千年前の経験から、俺が説明するまでもなく不死族(アンデッド)や生物の不死化、当然この『屍鬼』についても良く知っているが、それに遭遇したことのないウェンリーにはなぜ屍鬼が危険なのかを説明する必要があった。


「うん、まあ大体は。要するに進化する前に倒さなきゃならねえんだな。倒し方は普通のアンデッドと変わらねえんだろ?だったらルーファスのディフェンド・ウォールも効くんだし、楽勝なんじゃね?」

「――…はあ、おまえな…」


 未だ遭遇した経験のない敵だというのに、そう楽観視したウェンリーに俺は溜息を吐いた。


 俺がついさっき、アンデッド・ベアーに囲まれていたのを見たくせに、なんでそんな風に考えられるんだ。


「本気でそう思っているのであれば、ウェンリーの等級昇格はまだまだ先だな。」


 シルヴァンは両手を広げ、お手上げだというように呆れて首を振った。


「まあまあシル、実際に滅ぼされた集落でも見ぬ限り、不死族の真の恐ろしさはなかなかわからぬものよ。ダスクやグラオザームなどに関しては今はまだ、話に聞くこともないであろうしな。」


 俺同様にウェンリーに懸念を抱くシルヴァンと、ウェンリーを庇うリヴは捉え方に差があれど三人して苦笑した。


「…まあいい、出口は黒鳥族(カーグ)に塞いで貰っているが、とにかく俺達は屍鬼を探し出して倒さなければ、今日はここから出られないと思ってくれ。」

「心得た。」

「承知。」

「了解〜。」


 それじゃあ行くぞ、と声をかけ、俺達は四人一緒で少し小走りに、狂乱熊(マッド・ベアー)の死骸が大量にあったこの空洞を後にする。


 各々ルスパーラ・フォロウを使い適度な間隔を保ちながら、上下左右360度に注意してまずは曲がりくねった通路の先にある、最も近い空洞を目指した。


「なあルーファス、いつもの赤い信号は出ねえのかよ?」


 エアスピナーを手に俺の斜め後ろを歩くウェンリーが、なにも考えずに口にしているのが丸わかりの顔で予想通りの質問をしてくる。


「聞くと思った。出てたら疾っくに言ってるよ。出口に近い大きな空洞に紫色の信号がずっと点滅しているけど、それは動かないから屍鬼を表しているわけじゃなさそうだ。それにさっきのアンデッド・ベアーだって、動き出すまではなにも表示されていなかったんだよ。」

「――つまりルーファスの地図には、すぐに敵が表示されない場合もあるということでするか?」


 ウェンリーの斜め後ろを走っていたリヴが、足を速めて俺に近付き、確かめるように聞いた。


 リヴにも一通り俺の自己管理システムについては話したのだが、シルヴァン同様に驚き、千年前には俺がそんな力を持っていたという話は聞いたことがないと言っていた。


「ああ、そうみたいだな。多分敵の魔力や行動時の熱量、霊力や動きの感知なんかで表示されるんだとは思うんだけど、仕組みや理由ははっきりわからないから聞かないでくれよ?」

「ふむ…」


 ――そういえばアテナは、俺の自己管理システムの中で生まれたと言っていたけど、守護七聖のこともカオスのことも実際には良く知らず、自分の生まれた時期についても、七聖が眠りについた後のような気がすると言っていたっけ。


 自己管理システムについてリヴに説明していた時にふと思ったけど、俺はいったいいつ頃この複雑な超高位魔法を構築したんだろう?

 少しずつ取り戻している記憶の中に、その作業をしている自分の片鱗さえ出て来ないのは、ちょっとおかしいんだよな。


 情報のデータベース一つ構築するのだって、きっと何年もかかったはずだ。そのぐらい俺の生きて来た年数と情報量は半端なく多い。

 それなのに過去の思い出せる記憶の中に、日記を書くとかメモを取るとか、それに関する物が微塵もないのは考えられない。まあそれでも自分で作ったのは間違いないんだろうけど…


「ルーファス、一つ目の空洞だ。」


 シルヴァンは横目でチラリと目配せをする。これは俺へのある合図だ。


「ああ。」


 俺は返事をして頷くと右手にシュテルクストを出現させた。


 俺の少し前を小走りに走っていたシルヴァンは、移動しながら右手に斧槍を出現させると、それに魔力を流し、あの不死族特効の特殊技をなにもない空洞の真ん中へ向かって放った。


 光る斧槍は横に回転しながら飛んで行くと、シルヴァンが狙った場所に停止し、そこから広範囲に広がる魔法陣が展開されて、あの光柱が天井までの高さに立ち昇った。


「え…なんでなんもいねえのに、技使ったんだ?魔力の無駄じゃん。」

「静かにせよ、ウェンリー。」


 俺はシルヴァンが攻撃を放った辺りを中心に、再度広域探査をして敵の気配を探した。


「――おかしいな、動く気配がない。今の攻撃で警告は伝わったはずなんだけど。」


 警戒を強めながら俺達は、一つ目の空洞にゆっくりと足を踏み入れた。


 今シルヴァンがなにもいないこの場所に特殊技を放ったのは、俺達が屍鬼の存在に気付いていて相手を倒すつもりでいることと、隠れても無駄だということを屍鬼に伝えるための行動だった。

 こうすることで敵に自分達の居場所を知らせて行動を促し、俺に敵の位置を感知させようとシルヴァンは考えたのだ。


 人間の屍鬼は非常に知能が高く、稀に生きていた時のように生存本能に準じて行動を取ることもある。

 それは時に相手の力を見極め隠れてやり過ごそうとしたり、他の生物や魔物を不死化させておいて使役し、自分は影に身を潜めて表に出て来ないなど、戦略にも優れている。

 だからこそ逆に警告を与えることで動揺を誘い、向こうから攻撃を仕掛けさせることが可能なのだが、ここの屍鬼はその誘いにも簡単には乗って来ないようだ。


「うむ、普通の屍鬼ならあれで襲ってくるはずなのだが――」


 周囲を注意深く見ていたシルヴァンが、来たのとは反対側の通路に身体を向けて一歩足を踏み出した時だ。シルヴァンの目の前、なにもないその場所から滲み出るようにしてそれは現れた。


「ハッ…シル!!」


 逸早くその殺気に気付いたリヴが、シルヴァンの左腕を掴んで引っ張る。


 ザッ


「ぐああっ!!」

「シルヴァン!!」


 神経を張り巡らせて最大限に警戒していた俺達の目をくぐり、通路側からゆらりと現れたその屍鬼は、鋭く刃のように変形させた爪を突き立ててシルヴァンの心臓を狙い、真っ直ぐにその手を伸ばして不意打ちを仕掛けて来たのだった。

 リヴがシルヴァンを引っ張ったおかげで、なんとかその手はシルヴァンの心臓を掴むには至らず、代わりに胸元に浅く突き刺さってその皮膚を切り裂いた。


 負傷したシルヴァンは苦痛の声を上げ、一度大きく仰け反るとすぐに胸を押さえて前屈みになる。


「シル!!」


 リヴはすぐに治癒魔法を詠唱し、ウェンリーはディフェンド・ウォールの魔法石を使って防護障壁を張った。

 俺はシルヴァンの前から急いで負傷した傷口を覗き込む。


「傷を見せろシルヴァン!!」


 ズアッ…


 シルヴァンが押さえた傷口からは幾筋もの血が流れ、それと同時にその傷の周囲がじわじわと黒く変色して行く。


「まずい、アンデッドの猛毒だ!不浄なる毒を浄化せよ、『モルス・ペインキュラ』!!」


 俺は即座に不死族の猛毒を消す特殊魔法を唱えて解毒すると、傷の治療はリヴのヒールに任せて立ち上がった。


「ルーファス、屍鬼が消えた!!」


 エアスピナーを手にしたウェンリーは、敵を見失い焦りながら、きょろきょろと険しい顔で周囲を探す。


 ――いない…どこへ行った!?


 シルヴァンを襲った屍鬼は、屍鬼特有の灰色に青黒い屍斑の浮き上がった肌をして、飢えからギラついた赤目をしていた。

 細い体つきや一瞬だけ見えた顔立ちから元は女性だったようだが、生前は綺麗にしていたであろう髪は、その半分が腐った頭皮ごと抜け落ちて()くなっていた。


 不死化した人間の女性を見ると、そのあまりにも変わり果てた姿に胸が痛む。どんな亡くなり方をしたのかはわからないが、安らかに眠ることも出来ずにどうしてこんな暗い洞窟を彷徨っているのだろう。


 ――同情している場合じゃないな、一度視認したのに地図上に赤い信号が現れない。…ということは――


「そうか、わかった…今の屍鬼はステルスハイド並みの隠形手段を持っているんだ…!」

「えっマジかよ!?」

「ああ、間違いない。」


 シルヴァンの警告はきちんと敵に届いていた。ただ相手が予想外の能力を所持しており、それによって俺の方が敵をすぐに見つけられなかっただけなのだ。


 ステルスハイドのようなものを使用されたら、どこから不意打ちを受けるかわからない…どうする?


「ルーファス。」


 リヴの治療が終わって傷が癒えたシルヴァンは、リヴに礼を言いながら立ち上がると、まだ残る痛みに顔を歪ませて俺の肩に手をかけた。


「一瞬しか見えなかったが、あの屍鬼…五指の爪は()()()()()()()()。」

「な…」


 シルヴァンのその言葉に、俺は驚いて目を見開いた。


 五指の爪が揃っていた…と言うことは、あの爪は屍鬼となった人間のものじゃなかったか、今襲って来た屍鬼以外にも他の屍鬼が存在しているかのどちらかだ。


 俺が狂乱熊の死骸から見つけた爪が、屍鬼のものでない可能性は限りなく低い。


「――屍鬼は一体だけじゃないかもしれない。とにかく敵のステルスを妨害しないとそれもはっきりしないだろう。…どうするか…」

「我が囮になって誘き出すか?」

「馬鹿を言うなシル、たった今負傷したばかりであろう!」

「次は油断せぬ。」

「却下だ。少し考えるから、周囲に警戒していてくれ。ウェンリーはディフェンド・ウォールを切らさないように頼む。」

「了解。」


 ウェンリー達に周囲を警戒して貰いながら、俺はその場でどうしたら良いかを考えた。


 ステルスハイドのような隠形術を解除する方法か…一定範囲に入られた時にディスペルを使えば解除自体は簡単だけど、すぐに再発動されたら意味がない。

 それに逃げられて見失えばまた一から探さなければならなくなる。それも時間の無駄だ。

 さっき使用した『リペルトゥス』をかけて痕跡を辿るようにするか?…いや、それも結局は常に発動し続けなければならないから意味がない。


 ディスペル以外で隠形手段を強制的に解除する方法…――


「そうか、あの手があった…!!」

「なにか思いついたのかよ?」


 俺が声を出すとウェンリーは横で魔法石を手に俺を見た。シルヴァンとリヴは俺とウェンリーを守るように警戒しながら、すぐ近くで顔だけをこちらに向ける。


「ああ。以前光神の神殿に飛ばされた時、光神レクシュティエルが放った『フォーカス』でマーキングされて、強制的にステルスハイドを解除せざる得なくなったんだ。あれと同じことを試してみる。」

「だがこの時点で敵の位置がわからぬとなると、洞窟全体に魔法を使わねばならぬぞ?」

「そうですぞ、魔力の方は問題ないのでありましょうが、お身体に負担がかかりまする。」


 攻撃魔法に関して言えばリヴの言う通り、普通はその効果範囲を戦闘領域外に広げるにつれ、使用する魔力に比例した体力と精神力をも消耗する。だが『フォーカス』は補助魔法でも探索魔法の類いに入り、そこまでの負担はないだろうと俺は思った。


「いや、今までやったことはないけど多分大丈夫だ。広域探査の要領でやってみるから。」


 俺が普段使用している広域探査も、自分の魔力を広範囲に薄く放って情報を得ている。だからそれと同じようにして『フォーカス』の効果範囲を広げれば、周囲の環境と存在する自然物以外の条件を指定した異物に、魔法による印を付けられるはずだ。


 そして敵は、フォーカスの効果を知らなくても、魔法によってつけられた印は光を放つため、すぐに魔法をかけられたことに気が付く。

 そうなればあの時の俺のように、隠形術をかけていても無駄だとわかるだろう。


 敵の特殊能力への対抗手段が見つかったのなら、後はもう試してみるだけだ。


「――我が(くだり)に適合せしものを知らしめよ『フォーカス』!!」


 先ずは始めに隠形物探知魔法『フォーカス』を通常範囲に唱え、それを維持しながら少しずつ広域探査の要領で範囲を広げて行く。

 この場に居ながらにしてどの程度まで効果範囲が広がったかは、半透明の波のような波形で表され詳細地図を見ていれば一目瞭然だ。


 そうして早速反応があり、恐らくはさっきシルヴァンを襲った個体だろう、すぐ近くに赤い点滅信号が光った。


「来るぞ!!一体はすぐ目の前だ!!」


 その信号は魔法をかけられたことに気付いたのか、凄い早さでこちらに向かって来る。

 俺は右手にフォーカスを維持しながらウェンリー達に警告を促し、俺の魔法が終わるまでの間は三人での戦闘を任せた。


 俺達がいるこの場所は、三方向に通路がある空洞だ。一本は俺達がやって来た不思議穴(ヴリームト・ルア)に続く道だが、残りの二本はそれぞれが別の方向に曲がりくねって伸び、広くなったり別の空洞に繋がったりしながら、最終的には紫色の信号が点滅する大きな空洞とパスラ街道方面への出入り口に続いていた。

 その片方の通路から、俺の狙い通り隠形術を解いた状態でそれは現れた。


 灰色に屍斑の浮き上がった肌を持つ、あの女性の屍鬼だ。


「対屍鬼戦闘フィールド展開!!気をつけろ!!」


 俺はいつものように敵と仲間の状態や、戦闘領域の俯瞰図がみんなの頭に表示されるよう戦闘フィールドを展開し、戦闘は三人に任せて探知魔法に意識を戻した。

 するとここで予想外の事実が判明する。俺の詳細地図上にぽつん、ぽつん、ぽつん、と離れた位置に合計四つの赤い点滅信号が現れたのだ。


 俺は目的の屍鬼だけを探すために、他にも不死化した動物や魔物がいることを想定して、フォーカスの探知条件を屍鬼だけに設定していた。

 その印を付けた信号が、ここにいる屍鬼を含めて五つ光っていると言うことは、この洞窟内には全部で五体もの屍鬼がいると言うことだった。


 俺はそのあり得ない事実に驚愕した。


 ――冗談じゃない、どうしてこんなところにこんなに屍鬼がいるんだ!?誰かが意図的に生み出したか、『異界の門』が開きでもしない限りはあり得ない…!!


 探知魔法を洞窟全体にかけ終わると、俺はすぐに屍鬼と戦っている三人に合流した。


「フォースフィールド、バスターウェポン、エンチャント光属性付加!!」


 強化魔法を全員にかけ、シュテルクストを手にウェンリーの横に並ぶと、ぜえはあと息を切らせたウェンリーが、俺を見て開口一番に泣き言を言ってきた。


「ルーファス!あいつ素早くて攻撃が当たらねえ!!蜥蜴みてえに壁とか天井とかまで這い上がるんだよ、魔法じゃねえと無理だ!!」


 それも鋭い爪を持つ屍鬼には良くある行動だった。こういった洞窟のような場所では天井に張り付き、潜んで頭上から生物を狙うこともあるからだ。

 ウェンリーの泣き言を聞いて、中距離に陣取っていたリヴが振り返り訴える。


「その魔法も、水属性には耐性があるらしく凍結が効かぬ。なぜかシルを執拗に狙っておるが、あの屍鬼、予とは相性が悪い…!」


 相性が悪いって…どういう意味で言っているんだ?


 焦っているのか妙な言い方をすると思い、俺はリヴを見た。


「落ち着け二人とも、特にリヴは屍鬼との戦闘が初めてなわけじゃないだろう。凍結が駄目なら武器に光属性を付加したから、敵が絶対に避けられないタイミングを狙って攻撃すれば動きを止められるはずだ。」

「予の君そうではありませぬ、あの屍鬼()()()()()()()のだ。予の勘ですが、あれは並みの屍鬼とは異なりまするぞ!」


 普通の屍鬼とは違う…?


 リヴの言葉に俺は、俺達には目もくれず、シルヴァンだけに狙いを絞って攻撃を繰り返す屍鬼を一瞥した。


 リヴは守護七聖の青であり、当然だが戦闘経験も豊富だ。それがはっきりと異常な部分を説明出来ずに、こんな曖昧な言い方をするのは珍しいことだった。


「わかった、頭に入れておく。二人とも攻撃する時はリヴがリードして、しっかり連携しろ。ウェンリーはスピナーが当たらないからと言って苛立つな。」


 俺はウェンリーとリヴにそう言って、すぐさま一人で屍鬼を相手に奮闘しているシルヴァンの加勢に入った。


「光の矢よ、敵を射貫き地に繋ぐ楔となりて束縛せよ!!『ルスヴェロス・ウェッジ』!!」


 俺が敵へ向けて翳した左手に白い魔法陣が輝き、そこから出現した光の矢が一斉に屍鬼目掛けて飛んで行く。


 この攻撃魔法は、金色に輝く十本の矢が動き回る敵を追尾し、その躯体を貫くと同時に矢羽根が変化して、地面に突き刺さる楔となり拘束する光属性魔法だ。

 攻撃威力は高めだが単体魔法なので集団戦にはあまり向かない上に、拘束は光属性が弱点の敵にのみ有効だ。


 俺の魔法に気付いた屍鬼は、シルヴァンに背を向けて素早く逃げ出した。その屍鬼を光の矢が猛烈な速度で追いかける。


「待て!!逃がさぬぞ!!」

「シルヴァン、矢が捕らえる位置に滅槍輪(めっそうりん)を放て!!」


 技名が長いので省略したが、俺が言ったのはあの不死族特効を持つシルヴァンの特殊技のことだ。


「心得た!!喰らえ、憐れなるものよ『聖光昇華(せいこうしょうか)滅槍輪(めっそうりん)』!!」


 光の矢を追い抜くように、シルヴァンの斧槍が横回転しながら飛んで行く。屍鬼がそれを振り返った瞬間に俺の魔法が屍鬼を捕らえ、その足元にシルヴァンの昇華魔法陣が光柱を立ち昇らせた。


「よし!!」


 これで一体目は確実に倒した。…そう思って左手に拳を握った俺だったが、次の瞬間目を疑う。


 シルヴァンの特殊技は不死化した生物を浄化する、昇華魔法と槍術を組み合わせたものだ。

 普通ならこれに捕らわれたアンデッドは、強制的に魂を浄化されて、死んだ肉体は瞬時に灰と化し消散する。


 ところがこの屍鬼は、光属性の攻撃による損傷を受けて悲鳴を上げたものの、浄化されずに耐え切ったのだった。


「馬鹿な、あり得ぬ!!」


 シルヴァンが驚愕してそう叫んだ直後に、俺の魔法による拘束を光の矢を引き抜くことで無理やり解き、女性の屍鬼は耳を塞ぎたくなるような声で絶叫した。


「きいぃえええええええぇぇ――ッッ!!!!」


 その奇声は細かな空振となって鼓膜を激しく揺さぶる。


「うわああっ!!」

「くっ…!!」

「ぐうっ!!」

「ぬうっ!!」


 俺達は堪らず耳を押さえて身を捩った。


 ――昇華魔法が効かなかった…?あり得ない。不死族の中でも吸血鬼(ヴァンパイア)悪鬼(ズロォーガ)ならともかく、屍鬼はゾンビやリビングデッド同様に死者の魂が核となる『動く死体』だ。

 聖職者の祈りに当たる『昇華』は鎮魂の意味合いを強く持ち、強制的に執着を振り払って邪念に取り憑かれた魂を浄化する。

 既に死んでいるのになんらかの理由で不死化した魂は、例外なくそれに抗うことは出来ないはずなのだ。


 もし本当に浄化出来ない屍鬼がこの世に存在したら、フェリューテラはあっという間に死者の世界となって冥界化してしまう。


 リヴの言った通りあれは普通の屍鬼ではないらしい。だけど光属性の攻撃は効くのだから、なにか絡繰りがあるのかもしれない…!


 屍鬼が発した絶叫はこの自然洞窟中に反響して遠くまで響き渡り、それを聞いたらしい他の屍鬼を示す点滅信号が、地図上で一斉に移動を開始した。


 耳を塞いで絶叫に耐えていた俺達の隙を突き、女性の屍鬼は叫ぶのを止めると俺達に構わず逃げて行く。


「待て!!」

「追うなシルヴァン!!」


 俺は咄嗟に、すぐに後を追おうとしたシルヴァンの腕を掴んで引き止めた。


「この先にはあれの他に四体もの屍鬼が集まっている。このまま行っても無駄に手子摺らされるだけだ…!」


 俺達は一旦集まって今の屍鬼について話し合うことにした。もし本当に昇華魔法が効かないのなら、大変なことになるからだ。


「あの屍鬼はなんだ、我の昇華が効かなかったぞ?」

「ああ、俺も見たからわかる。リヴが言った通り普通の屍鬼ではなさそうだな。」

「普通の屍鬼じゃねえって?だから俺の攻撃が当たんなかったのか…!!」

「ウェンリー、それは違うぞ。スピナーが当たらなかったのは、単にそなたの腕の問題だ。」


 俺とシルヴァンは予想外の事態に真剣に話しているのに、その横でウェンリーが真顔で見当違いのことを言い、リヴがウェンリーの肩を掴んで首を振り振りそれに突っ込んだ。…ふざけている場合じゃないんだけど。


 俺は相手をせずにスルーして、シルヴァンと対応について相談する。


「屍鬼が死者である限り、昇華魔法に抗えるはずがない。なぜか執拗におまえだけが狙われていたようだけど、戦っていてなにか気付いたことはなかったか?」

「いや、特になにも変わったところはなかった。障壁のようなもので保護されているようには感じなかったし、屍鬼が痛みを感じず怯まぬのは当たり前だしな。」

「そうか…」

「それよりルーファス、この自然洞窟に屍鬼が五体もいるというのは真か?」


 シルヴァンが険しい顔をしてそう尋ねてくると、ウェンリーとリヴも真剣な顔で俺を見た。


「本当だ。地図にこの先にも大きな空洞があるだろう?今はそこに五つの赤い点滅信号が光っている。多分俺達が追いかけて来るのを見越して、そこで迎え撃つつもりなんだろうな。」

「マジか…あれを入れて、あんなのがそんなにいんのかよ…!」

「予の氷魔法は効かず、シルの特殊技にも耐え切るのでは、一筋縄では行きませぬぞ。」

「わかっている。シルヴァン、リヴ、あの屍鬼に昇華魔法が効かなかった理由について、なにか思い当たることはあるか?」


 記憶が曖昧な俺ではその理由について思い当たらなくとも、過去一緒に散々不死族などとも戦って来たシルヴァンとリヴなら、思い出せることがあるかもしれないと思った。

 二人は各々うーん、と悩むように考え込んだ。


「そう言えば予とデューンで千年前のカオスの一人、『モロス・アディ』と戦った時に〝死せる肉体〟ではなく、他の自媒体を通して不死化させたために、昇華魔法が効かないと言うことがあった。もしやここの屍鬼も同じなのではなかろうか。」

「他の自媒体?詳しく教えてくれ、リヴ。」


 リヴから話を聞くに、千年前に俺達が倒して消滅させたカオスの中に、意図的にアンデッドを生み出して、それを使役する『モロス・アディ』という名の魔族がいたらしい。

 その魔族が生み出したアンデッドの中には、死んだ当時の肉体を不死化させたのではなく、髪の毛や血液、指の一本等から死者の魂を呼び出してそれに邪術を施し、強制的に従わせて別に作った躯体に閉じ込め使役するという、特殊なものがいたようだ。


「――つまりあの屍鬼もその類いと同じで、躯体が本人の遺体ではなく、なにかで作られた器に入れられた死者の魂かもしれないと言うことか。」

「あくまでも推測に過ぎませぬし、過去にそういう事例があったと言うだけのことですぞ。」


 器が本人の身体ではないのなら、昇華魔法を使っても魂が浄化されないのは納得だ。アンデッドとなったその原因は別にあるのだから、いくら入れ物を浄化しても元が清められない内は、なにをしても無駄だということなのだろう。


「いや、その可能性は高そうだ。ここは元々狂乱熊(マッド・ベアー)の巣だったんだし、死体は魔物に喰われてしまっていてもおかしくない。ただここで死んだからと言って普通は不死化したりしないはずだから、なにかその要因となったものがあるんだろうな。」


 そもそも不死化というのは、なにもなくては起こりえない。死んでも恨みを晴らそうとするほど、強い恨みを抱いて死んだとか、その地が元々呪われていた場所だったとか、呪術によって永遠に安らぎを得られない呪いをかけられたなどの理由が必要だ。


「ただリヴの言う通りだったとしても、先に浄化すべきその媒体となったものを探すのはかなり大変だな、手がかりがなさ過ぎる。」

「連中を足止めする方法があれば良いが、リヴの氷魔法は効かず、一体ずつ浄化することも出来ぬ。手分けして探すのは無理だな。」

「ああ、どうするか…」


 各々考え込んでいると、ウェンリーがなにか思いついたように顔を上げた。


「そう言やルーファス、五体いる屍鬼の居場所がフォーカスでわかったんなら、なにを示してんのかわからなかった『紫色の点滅信号』は消えたのかよ?」

「え?…ああ、いや消えてないな、まだ出入り口に近い空洞で光ったままだ。」


 俺の地図には今、この先の空洞で点滅する五体の屍鬼の『赤い点滅信号』と、出入り口に最も近い空洞で点滅している、紫色の信号が光っていた。


「なあ、ひょっとしてそれ、さっき言ってた屍鬼の〝自媒体〟って奴を指してるってことはねえかな?」

「…!?」


 ――俺は驚いた。


 ウェンリーに言われるまでその可能性は思いつかなかったからだ。


「そう、かもしれない…この紫の信号は、俺になにかを調べろと言っているのは確かなんだ。自然には不死化しないはずなのに、こんな場所に五体もの屍鬼がいることに、昇華魔法で単純には倒せないことを考えると、多分そこには()()()()あるんだ。」


 そう確信はしたものの、実際にはなにがあるのかはわからない。地図を見ると屍鬼が集まっている空洞は、もう一つの道を通り迂回して回り込めば、気付かれずに先へ進めそうだった。


「よし、決めた。全員でそこへ行って調べてみよう。屍鬼を討伐するのはそれからだ。」


 俺の提案に三人は大きく頷く。


 そうして俺達は、屍鬼が待ち受けている空洞には行かない方の道に入り、足早に移動を開始した。だが――


 俺達が動いたことを察知したのか、俺の地図上の屍鬼を示す赤い信号が、二手に分かれて動き始めた。


 それに気付いた俺は慌てて立ち止まると、みんなに声をかける。


「待った!!」


 瞬時に三人は足を止めて俺の側に集まった。


「どうした?」

「屍鬼が二手に分かれて動いた。このまま進むと、逆に俺達が回り込まれて挟み撃ちにされる。」


 こちら側の道は、十分な間合いを取って戦えるだけの空間がない。もしあの素早い屍鬼にこんなところで挟まれたら、逃げ場を失っての苦戦は免れないだろう。


「…どういうことだ、連中にこちらの動きが知られているということか?」

「わからないがそうとしか思えないな、俺達が足を止めた途端に屍鬼も動きを止めた。」

「はあ!?どうやって俺らの動きがわかるんだよ!?そもそも回り込むとか、いくら元が人間で知能が高いっつったって、死んだ奴にそんだけの思考能力が残ってんのか!?」


 ウェンリーの疑問に俺とシルヴァンとリヴは黙り込んだ。その異様さには疾うに気が付いていたからだ。


「――どこまでも異質な屍鬼のようですな。シル、予らは屍鬼を引き付けて時間を稼ぐしかあるまい、場を調べるのはルーファスにお任せしよう。」

「リヴ!」

「待てよシルヴァン、リヴ。二人が行くなら俺も行くぜ。ルーファスの代わりに魔法石で補助する役目が必要だろ?ディフェンド・ウォール無しじゃアンデッドはヤバいって。」


 だよな?、と俺に確かめるようにして、ウェンリーはニッと歯を見せて笑う。


「俺に単独行動はさせないんじゃなかったのか?」

「仕方がなかろう。だがウェンリーは…いいのか?」

「なにがだよ。ルーファス一人で行かせるったって、少し離れた同じ洞窟内じゃんか。何時間もかかるわけじゃねえし、平気だよ。」

「…そうか。」


 そんな調子で俺を除いて、三人は勝手に話を決めてしまった。


「わかった、それならモルス・ペインキュラの魔法石をいくつか作るから二、三分時間をくれ。」


 俺は無限収納から手頃な魔石を取り出すと、その場で急いで不死毒の解毒用に魔法石を作成した。


「これは各自で分けて持て。不死毒を喰らうと場所によっては動けなくなるから、くれぐれも注意するんだぞ。」

「了解。」


 ウェンリーはいつものように返事をし、シルヴァンとリヴは黙って頷いた。


 そうして俺達はこの場で別れ、ウェンリー達三人はすぐに踵を返して元いた空洞に戻ってから、改めて屍鬼がいる空洞を目指してもう一方の道を進んで行った。

 三人が戻るとその動きに従って、地図上の五つの赤い信号はまた合流しその場から動かなくなった。


 俺が一人ここにいてもあの屍鬼達には関係がないのか。…どうしてだ?


 どうやって俺達の行動を知っているのか、いくらなんでも知能の高すぎる屍鬼達にそんな疑問を抱いたが、俺は考えるのは後にしてとにかく先を急ぐことにした。


 くねくねと曲がりくねった道を足早に駆け抜けようとすると、地面に落ちていた無数の塊が急に動き出した。

 よく見ればそれは、洞窟によく見られるケイブバットや、ワームなどの大量のアンデッドだった。


 ――こんな小さな生物まで喰らって不死化したのか?いくら何でも異常だろう。


 驚いて足を止めた俺に気付き、それらは風の流れが生じるほど一斉に、同じ方向に動いて襲いかかって来た。


 地図上では道がわからなくなるほど赤い信号で埋め尽くされていて、どれほどの数のアンデッドがここにいるのか全くわからなかった。

 だが不死化した狂乱熊に比べれば、これらは数が多いだけで大したことはない。


 昇華魔法一回で全て排除出来そうだな。


「安寧なる眠りを妨げられし者達よ、冥府にて真なる浄化の時を待て『ルス・レクイエム』!!」


 俺が放った昇華魔法が手前から奥へ向かって、白く輝きながら無数のアンデッド達を消散して行く。

 まるで降灰のようにも見える、生き物だった者達の消えゆく様は俺の心を沈ませた。


 ――なんだか嫌な感じだ。あの狂乱熊(マッド・ベアー)の死骸も纏めて置いてあったし、ただ単に食しただけじゃなくて、まさか別の目的があるんじゃ…


 もし俺が紫色の信号に気付かずに、不思議穴(ヴリームト・ルア)を通り過ぎていたらどうなっていたのか。

 あの不死化した三十体以上もの狂乱熊が、もしもここから外に出ていたら?


 俺はそれを考えただけでゾッとした。


 俺の頭の地図上では、ウェンリー達を示す三つの黄緑色の信号が、五つの屍鬼の赤い信号と接触し、戦闘に入ったことを告げていた。

 俺は急いで紫色の信号が光る場所に向かうと、ようやくそのだだっ広い空洞に辿り着いた。

 そこはどこかに日の光が差し込む裂け目でもあるのか、ルスパーラ・フォロウがなくても隅々まで見えるほど明るかった。と言っても外は雨が降っているため、天気が良い日ほどの明るさはないようだが。


 俺は辺りを見回して変わったものがないか調べる。すると土の地面のあちこちに、黒く変色した大きな染みを幾つも見つけた。

 特に大きかったのは、この空洞の中央辺りにあった直径にして三メートルもあるドス黒い染みだ。


「これはなんの染みだ?」


 俺はその土を一握り手に取って、スキル『真眼』を使い、なにが含まれていて黒く見えるのか調べてみた。


 驚くべきその答えはすぐに出た。


「人の血液だって!?…まさか、ここの辺り一面にある染み全てか!?」


 俺は愕然として立ち上がり、その場で周囲をぐるりと見回した。


 いったい、この場所でなにがあったのだろう。これが全てそうであるというのなら、尋常ではない量の血痕だ。


 ――魔物にでも食い散らされたのか?…これだけ地面に染み込んでいるとなると、殺されて暫くの間遺体はそのまま放置されていたんだろうか。


 俺は再度しゃがんで、地面に残ったその黒い染みを全て解析魔法『アナライズ』で詳しく調べてみた。だがどこにも呪術や暗黒魔法などの痕跡は見られない。


 これが屍鬼の媒体だとは限らないけど、これだけの血痕は放置しておくだけで危険だ。邪なものを寄せ付けかねないし、どちらにしても浄化して消しておくに越したことはないな。


 俺はこの空洞全体が見渡せる場所まで下がり、そこに立ってこの場所全体に昇華魔法をかけようとした。


「不浄なる紅き雫にて穢されし地よ、清き光にて浄化せん。ルス・レ――」


 その直後、突然どこからか低い男の声が聞こえて来る。


「それはご遠慮いただきたいものだな。暗黒の檻よ、彼の者を捕らえよ。『ノワール・カヴェンガ』。」

「な…!?」


 俺の魔法詠唱を邪魔したその声は、見たことのない邪悪な捕縛魔法を俺に向けて放ったようで、俺の頭上に漆黒の魔法陣が展開されて行く。


 この漆黒の魔法陣は…まさか暗黒魔法!?


 それに気付いた俺は、魔法が発動する前にディスペルを唱えて消去する。


「打ち消せ、ディスペル!!」


 瞬間詠唱の魔技を使ったおかげで、どうにか間に合い、暗黒魔法は発動されずに済んだ。


「ふ…なるほど、さすがだ。」


 ブワッ…ストッ


 その声の主は、灰色の霧を纏い、最も大きな中央の黒い血痕から、湧き上がるようにして姿を現した。


「誰だ!?」


 首から下の全身を鈍い光沢の黒鎧に包み、裾がボロボロになったこれも黒い外衣を身に着け、一目見た第一印象は立ち上がった巨大な黒熊だ。


 その男から殺気は感じなかったが、俺はすぐさま手元にシュテルクストを召喚して構えた。

 なぜなら、その男からは何度か感じたことのある、()()禍々しい邪気が放たれていたからだ。


 この男は――


「お初にお目にかかる、守護七聖主(マスタリオン)。先だってはカイロス遺跡にて第七柱(ヘプタゾイレ)が世話になったようだ。我はカオス第六柱(ヘキサゾイレ)愚者(ヴラカス)』のザインと申す。以後見知りおき願おう。」


 なんの前触れもなく俺の目の前に現れた男は、禍々しい気を放ちながら、低く静かな声でそう言って口の端を僅かに上げたのだった。



 

遅くなりました。次回、また仕上がり次第アップします。いつも読んでいただき、ありがとうございます!

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