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Eternity~銀髪の守護者ルーファス~  作者: カルダスレス
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103 バスティーユ監獄 ③

地下迷宮を抜けて辿り着いた先で変装したライ・ラムサスに会い、その正体に気づかない振りをしながらルーファスは、襲って来た正体不明の敵と戦い続けます。それは想像もしていなかった死闘となり、苦闘の果てに思いがけない真実を知り…?

        【 第百三話 バスティーユ監獄 ③ 】



「クケケケケケケ!シャギャア、シャギャア!!」


 俺達の通常攻撃が届かない、高さ十五メートルほどの空中で、バサッバサッと両翼をはためかせ、そんな奇声を発しながらヘレティック・ギガントスは滞空していた。

 翼を広げるとやはり大きい。空から差し込む光がその巨大な影で遮られ、俺達の周囲に鳥のような形その物の影を落としている。


 俺とウェンリーと〝リグ〟は、俺を真ん中に三人並んで武器を構えると、天を仰いで敵を見据えた。

 結界の効果でほぼ全快している相手は、ここまで一人苦戦して来た俺をせせら笑っているように見える。


 だが俺が、ただ無意味な時間を費やしたと思うなよ。体力を削れない理由がわかった今、それならそれで攻略の仕方は他にもあるんだ。


「――随分と余裕をかましているようだが、上に逃げれば攻撃されないと思ったら大間違いだぞ!!落ちよ、『グラビティ・フォール』!!」


 俺はヘレティック・ギガントスに気付かれないよう、隠形魔技(コンシールスキル)瞬間詠唱(スティグミ・リア)を使用して敵の頭上にいきなり光・空属性の重力魔法を放った。


 ギュオオオオオオ


 白と金色に輝く魔法陣が空中に出現し、そこから敵の胴体よりも大きな真っ黒い球体が、赤黒い稲妻のような魔力枝を伸ばし膨らんで行く。辺りには膨張した空気が、狭い空間を抜け出る時のような圧縮音が響き渡った。


 刹那それは風船のように膨らみ切ると急降下する。


 頭上にそれが出現した時点で効果範囲に捕らわれていたヘレティック・ギガントスは、そのまま躯体を谷型にへし折られ、重力に押し潰されながら激突音を立て地面に落下した。


 ドオンッ


 それを合図に、ウェンリーとリグが敵の左右に散って回り込むと、俺達は予定通りヘレティック・ギガントスを三方向から包囲する。


「対ヘレティック・ギガントス戦闘フィールド展開!!」


 俺のその掛け声と同時に先陣を切ったのはリグだ。ウェンリー顔負けの早さで地面を蹴って攻撃を開始、敵が体勢を立て直す前に前傾姿勢で襲いかかった。


 距離を詰めるために、突進と同時の突き攻撃から入り、右翼の皮膜を真横一文字に切り裂く。そのまま勢いを付けて切り上げ、人で言うところの尺骨部分を両断した。

 堪らず悲鳴を上げる敵に容赦なく刃を振り下ろし、翼を中心にした小刻みな連撃を加える。これは結界効果で回復するまでの時間を稼ぎ、容易に上空へは逃げられないようにするためだ。


 両足で均衡を保ちつつ中剣を両手持ちに変え、威力を高めながら次々と繰り出される剣技は、さながら荒々しく猛る獅子が敵を仕留めんと全力で襲いかかるように、情け容赦なくその翼を斬り裂いて行く。


「間違いなく装甲は弱化しているぞ!!左の翼を狙え、ウェンリー!!」

「よし来た、任せろっ!!行けえっ『炎空呀』!!」


 リグが叫び、ウェンリーが魔法石を投げて、魔法が発動したその直後に合わせエアスピナーを放った。

 その魔法石は初級火魔法『ファイアーボール』の一段階上位の魔法で、『イグニスアルク』という炎が円弧状に広がる範囲系火魔法のものだった。

 魔法自体の威力は低く、範囲が薄く広いというだけの、一見あまり役立ちそうにない魔法に見えるが、この火魔法は外的要因によって炎の走る方向を自在に変えられるという特徴を持っていた。

 どうやらウェンリーはその特性を理解した上で、エアスピナーに自分の魔力を乗せ、魔法石と自分の攻撃威力を同時に高める技を考え出したようだった。


 ウェンリーが放ったエアスピナーは、回転しながら込められた魔力を伴って、その刃が届く範囲を広げて行く。その見た目は、ウェンリーの魔力が青白い光を発していて、得物の刃の外側に重なるよう、さらにもう一枚鋭利な刃を生じさせているような感じだ。


 そうして先に発動した『イグニスアルク』の炎を、回転する刃が渦を巻くような流れに変化させ、ヘレティック・ギガントスの左翼の皮膜を切断しながら炎上させた。

 この先制攻撃に似た状況で、ヘレティック・ギガントスは起き上がる前に翼が使えなくなった。


 ――二人ともやるな、俺も負けてはいられない。敵が完全に体勢を立て直す前に、継続損傷系間接魔法を使用してやる。


「時間が経てば結界の効果で回復すると言うのなら、それを上回る継続損傷を与え続ければいい。腐して蝕め!!『ベネノカロード・アジ・スクラフト』!!」


 俺の左手に薄紫と金色の魔法陣が輝き、それと同じものがヘレティック・ギガントスの周辺に出現すると、そこから深緑と黄土色の気体を内包した薄い膜を張って、その躯体を丸々包み込んで行く。

 この魔法は、ついこの間ルフィルディルの地下迷宮で、暗黒種(ダークネス)と戦った時に作り出した合成魔法だ。

 但し今日のはあの時よりも、腐食速度と侵蝕威力を倍以上に上げている。その分効果継続時間は多少短くなるが、これなら回復も間に合わなくなるはずだ。


 ヘレティック・ギガントスは、俺の放った間接攻撃魔法を振り払おうと鳴き声を上げながらバタバタと暴れる。

 さっきまで上空で高笑いしていたとは思えない()()()()だ。


 だがこんな簡単に行くはずもない。俺はこの敵の狡猾さを既に知っている。


「よっしゃ、効いてる効いてる!!今の内に――」


 ウェンリーには俺が広範囲魔法で敵の目を誤魔化している間か、リグの魔法剣『ライトニング』の麻痺効果で敵が止まっている隙に、結界石を破壊するように言っておいた。それは敵の目が絶対にウェンリーに向かない状況を作り出し、安全確実に壊すためだ。

 そのどちらの状況でもないが、動きが止まっていると判断したウェンリーは、この間に結界石を破壊してしまおうと考え、敵の背後にあるそれに向かって動いた。

 それはある意味俺が想定していた範囲内の、ウェンリーによる独断行動でもあったのだが、次の瞬間――


「動くなウェンリー!!」


 ――俺の読み通り、ウェンリーへの痛烈な攻撃が襲いかかる。


 ヒュッ


 リグの攻撃を受け続けていながら、一瞬で姿を消したヘレティック・ギガントスは、一歩足を踏み出したウェンリーの眼前に移動し、あの異様に長い腕を使って、目にも止まらぬ速さで連続突きを繰り出した。


 キンキンキンッ…ガガガガガッ


「うわわわわっ!!?」


 当然その狡猾さを知り油断せずにいた俺は、隠形魔技(コンシールスキル)瞬間詠唱(スティグミ・リア)を使ってディフェンド・ウォールを発動し、敵の攻撃が届く前にウェンリーを守る。

 それは一秒にも満たない、俺とヘレティック・ギガントスの刹那的攻防だ。これが人間的な表現をする相手であれば、恐らく俺に舌打ちをしてから後退するところだろう。

 ヘレティック・ギガントスは、防護障壁(ディフェンド・ウォール)の反動を受けながらも素早く飛び退いて、ウェンリーから距離を取った。と同時に俺の方へと顔だけを向ける。あれで睨んでいるつもりらしい。

 瞳のない木の葉型のその目には、相変わらず何の感情も表れていないように見えるが、俺にはわかる。少なくともこの瞬間だけは激しく苛立ったことだろう。


 だからこれは、さっき俺を空から嘲笑ってくれたお返しだ。


「ウェンリーが俺の弱点だと理解し、また動揺させるために狙ったつもりなんだろうが、もう二度とウェンリー達への攻撃が通ると思うなよ。おまえが()()()()()するべきなのか、先に教えておいてやる。」


 ゴッ…


 俺は全身に守護七聖主(マスタリオン)としての本気の闘気を纏った。


 視界の隅に見える自分の身体から、いつもの白銀と黄金の段階色ではなく、完全な黄金色の闘気が放たれていた。


 さっき一人で戦っていた時とは違う、守るべき仲間と共に敵に対峙しているこの状況は、俺の力をさらに高めて行く。

 そうして俺は、『守護七聖主(マスタリオン)』と称されるその名の真の意味を知る。


「この俺を倒さない限り、二人には指一本触れることは叶わないと思え!!」


 ――信じられないことに、俺の中で自己管理システムが次々と『守護七聖主(マスタリオン)』としての新規特殊スキルを表示して行く。

 今はまだ神魂の宝珠からシルヴァンしか解放できていない所為なのか、その殆どが光属性に関する物ばかりだ。

 だがおかげで、防御・回復関連の魔法に特化した魔技や技能が、膨大な数増えていた。


 その中に常時発動で味方にディフェンド・ウォールを裏でかけつつ、自由に攻撃行動や闇属性以外の魔法を使用可能になるというものがあった。

 つまりは光属性魔法所持者の特徴でもある、守護を主体とした戦闘態勢を取れるようになるのだ。

 これがあれば俺は、今までのように状況を判断しつつ左手で防護魔法を使い、右手で攻撃をするという戦闘型ではなく、事実上俺と戦闘に参加している味方や要救助対象者を、完全に守りながら自由に戦えることになる。


 当然俺はこれを即座自動に設定し、自分もヘレティック・ギガントスへの攻撃に参加することにした。


 この力が新たに覚醒したのは、俺がキー・メダリオンの力を解放し、『守護七聖主(マスタリオン)』として行動していることと、単独ではなく、複数の味方が一緒に戦っていることが条件になっていたようだ。


 他に光属性魔法に分類される補助魔法の効果も、飛躍的に跳ね上がっていた。その恩恵はウェンリーやリグにも影響している。


「な、なんだこれ…俺の身体が光ってる!?」

「俺もだ…それにさらに力が湧いてくるような…?」


 ウェンリーが自分の手を見て吃驚し、リグは剣を握る手を掲げて呟いた。


「来るぞ!!ウェンリー、リグ、身構えろ!!」


 俺の挑発に刺激されたのか、どうやらこいつはこちらを侮るのをやめた様子だ。俺達三人の意識がそちらへ向いた瞬間、攻撃態勢に入った。


「キエエエエエエエーッ!!!!!」


 躯体を仰け反らせて天を仰ぎ、両腕を引き絞るようにして開きながら、その耳を劈くような奇声と共に引き起こされた、空震による衝撃波が俺達を襲う。


 それは風に舞う草葉を真横に散らし、ディフェンド・ウォールに包まれていたウェンリーとリグを後方へ障壁ごと吹き飛ばした。

 ウェンリーは後方宙返りをするようにくるりと回転して着地し、咄嗟に両腕で顔を庇ったリグは、そのまま三メートルほど押されるようにして飛ばされてから、身を屈めて地面に着地した。


 俺はと言えば、防護障壁で守られているわけでもないのに、その衝撃の全てを目の前で無効化する。まるで見えないなにかに包まれてでもいるように、だ。


 どうやらヘレティック・ギガントスは、俺達から離れて間合いを取りたかったようだが、俺はその隙にスキル『縮地』で近付き、左手を翳して地属性魔法『ソルグランドスピア』を連発した。


「魔技連続魔法(アハトマス)発動!!岩塊よ鋭き槍を突き立て!!『ソルグランドスピア』!!」


 ソルグランドスピアは、通常だと地面から尖った岩の塊を突き上げるようにして下から攻撃する地魔法だが、連続して使うと全方位からの集中攻撃型魔法に変化する。

 反面岩塊の大きさは小さくなるが、『スピア』と名が付いている通り、槍の先端のように鋭さが増すのだ。

 そしてこの魔法は、現時点でヘレティック・ギガントスの装甲よりも()()()()


「中まで届かなくても、おまえの装甲に複数の穴が開けば良い!!その先は俺の剣が砕いて引き剥がす!!切り裂け『エアスラスト』!!食らえ、『百烈斬り』!!」


 敵の装甲に無数の穴が開き、そこへ風属性魔法エアスラストと、多段斬りの上位技百烈斬りを同時に放ってその装甲に衝撃を与え続ける。

 するとようやく表面に亀裂が入り始め、それが徐々に広がると、俺の攻撃に耐えられなくなったそれは、弾け飛ぶようにして砕け散った。


 バアンッ…ズザザッ


 弾丸のように弾け飛んだそれは、ヘレティック・ギガントスから離れた瞬間に、砂鉄のような粉状になって俺の目に入った。


「うわっ!!」


 目が――!!


「ルーファス!!」


 視力を奪われて異物が入った目の痛みに、俺が前屈みになったのと同時にウェンリーの呼ぶ声が聞こえて、間を空けずすぐに目が開くようになった。

 俺の目が潰されたと察知したウェンリーが、すぐさま状態異常治療薬『リカバーピュリル』を投げつけてくれたからだ。


「ありがとうウェンリー、助かった!!」

「なんの、それよかルーファス、こいつの身体…見てみろよ!!」


 装甲が剥がれて剥き出しになったその下は、浅黒く鱗状の肌をしており、全身に無数の呪文字が青白く光る不気味な身体をしていた。

 俺はそれらの文字に見覚えがあった。つい先日、あの召喚魔法陣で過去と未来を繋ぐウルルさんとの合図に使用した『創世文字』だったからだ。


「なんなんだ…全身に光る創世文字!?おまえはいったい――」


 やはりこの化け物は、ただの怪物じゃない…!!


 胴体と二の腕の装甲が剥がれたと見るや、ヘレティック・ギガントスは俺に対して猛攻を開始した。

 力も体力も既に結界石を破壊したことで弱化しているはずなのに、これまでは遊びと言わんばかりの強力な攻撃だ。


 振り下ろされる拳を避ければ、その衝撃で地面に大きな穴が開く。蹴り上げられる鳥脚が目の前を掠めれば、俺の前髪が僅かに切られて辺りに飛び散った。

 俺はその攻撃に一切の反撃をせず、前傾姿勢で腕を使った打撃や斬撃を繰り出す敵を、必死に避ける()()をしながら、徐々に後退りつつ引き付けて行った。


 こうすることで残り一つの結界石までの距離が開くからだ。


 さっき一度失敗したウェンリーは、今度は慎重に少しずつヘレティック・ギガントスの脇から後ろへと位置取りを変えて行く。

 怪しまれないように攻撃を混ぜつつ、リグの魔法剣に魔力が溜まるのを待っている状態だ。


 そうして十分な距離が開いた時、今度は俺がリグと示し合わせての反撃に出る。


 ウェンリーの動きに気づかれないように、目眩ましとなる広範囲攻撃魔法『ヴィルジナル・ミスクァネバ』を使用し、その発動中にさらに剣技による攻撃を仕掛ける。

 それを合図にリグの魔法剣が『ライトニング』を放った。


 『ヴィルジナル・ミスクァネバ』は、水属性の水魔法と氷魔法の合成魔法だ。四方向に出現した青い魔法陣から大量の水が噴き出し、それを凍らせて敵を貫く。

 これは以前、炎竜アリファーン・ドラグニスの止めを刺すのに使ったことがある。効果範囲が広く、長い時間四方八方の視界を凍った水が遮り、同時にかなりの損傷を敵に与えることも可能だ。

 そしてそこにリグの『ライトニング』が加わると――


 敵の躯体が核となる、超巨大な雷球が完成する。


 青い水とそれが凍りついた青白い氷塊の棘が襲いかかる。そこに伝わる雷撃が凄まじい轟音を立てて響き渡り、まるで雷雲の中にいるかのように薄青い閃光が絶え間なく光り続け、至近距離にいた俺からでさえヘレティック・ギガントスが見えなくなる。


「今だウェンリー!!今度こそ結界石を砕け!!」

「了解!!」


 俺の声でウェンリーは走り出し、壊し損ねた最後の結界石を力任せに叩き割った。


 瞬間、周囲の景色が水の中にでもいるような透き通った青色に変化し、それが硝子のようにパーンッと砕け散った。結界が消え去ったことによる消滅現象だ。


「やったぜルーファス!!結界は壊れた!!」

「よくやったウェンリー、リグ!戦闘隊形を変更する、合流してくれ!!」

「わかった、すぐに――」


 ウェンリーが俺の元へと駆け出し、俺がリグを呼び寄せて、三方向の包囲隊形から通常の対面隊形に変更しようとした時だ。


「――待てルーファス!!敵の様子がおかしい!!」

「な…?」


 リグが最初にその異変に気づき、俺に注意を促した。


 合成魔法で氷塊に貫かれ、リグのライトニングで雷球と化していたヘレティック・ギガントスが、見る間に膨れ上がって行く。


 ――リグの情報通りなら、最後の結界石が壊されて結界がなくなり、ようやく倒すことが可能になったはずで、このまま行けば後は止めを刺すだけだった。

 ところが引き続き魔法効果が継続しているにも関わらず、敵に向かって異常なまでの魔力が周囲の自然環境から集束して行く。

 そして薄らと見えていた雷球内の影が、物凄い速さで形を変えて行くことに気が付いた。


 ≪ヘレティック・ギガントスの形態が…変化して行く!?≫


「急いで合流するんだ、こっちへ来いリグ!!…早く!!」


 猛烈に嫌な予感がした俺がそう叫ぶと、離れた位置にいたリグは俺に向かって全速力で走り出した。

 だがそのすぐ横で、今にも破裂しそうなほどに、それを包んでいた雷球が膨張する。


 リグの瞳が身の危険を察して慄然とした。


 ――間に合わない…!?


 その時、俺の中で選択肢が生まれる。


 俺が見た感じでは、ヘレティック・ギガントスの雷球に集まって行く膨大な魔力は、俺の防護障壁(ディフェンド・ウォール)で完全に防ぎ切れそうにないほどの衝撃を与えるものだと思った。

 それと同時に、俺の左からはウェンリーが、右からは駆けて来るリグ――ライ・ラムサスがいて、二人共がその攻撃範囲内にいる。


 ディフェンド・ウォールで相殺しきれないほどの衝撃に晒されるのは、位置的にどちらも同じだ。

 ならば俺は、ウェンリーとライ・ラムサスのどちらを、身を挺して庇うつもりなのか。


 ――今さら言うまでもないが、俺はこの世界で、ウェンリーが一番大事だ。


 怪我をして倒れていた俺を見つけて助け、記憶のない化け物と呼ばれるような俺の傍にいて、ずっと支えてくれていた。

 ウェンリーがいなければきっと今の俺はいない。守護七聖主(マスタリオン)として暗黒神と対峙する道を選ぶこともなく、神魂の宝珠のことも、自分のことも何一つ知ることもないまま、いずれエヴァンニュを出て一人どこかで、人を遠ざけながら誰とも関わることもなく生きていたことだろう。

 そして多分、フェリューテラがゆっくり滅びて行くのを、なにもせず傍観者のようにただ見ていたに違いなかった。


 俺にとってウェンリーはそれほど唯一無二のなくてはならない存在で、もしウェンリーになにかあれば、さっきのように動揺するだけでなく、失いでもすれば果てにはおかしくなってしまうかもしれない。そう思ってしまうほどに大切だ。

 だから俺の心は迷うまでもなく決まっていて、ウェンリーを庇おうと振り返り、すぐに踵を返す()()()()()


 ところが――


 地面を蹴った俺の真横で、ヘレティック・ギガントスの雷球が弾け飛び、視界が真っ白になってなにも見えなくなる。

 火山が直近で噴火したのではないかと言うほどの轟音が炸裂し、鼓膜が破れたのかと思うほど強烈な耳鳴りに襲われ、周囲の音がなにも聞こえなくなった。


 そうして次に目を開けた時、俺が身を挺して全身で包み込み、抱きしめるように守っていたのは、俺が最も大切に思っている親友のウェンリーではなく、真眼で真実の姿に見える漆黒の髪と、左右色違いの瞳を驚愕して見開く、ライ・ラムサスだった。


 ――次の瞬間発した言葉に、俺は、その声がどこから出ているのか、一瞬理解できなかった。


「「大丈夫か!?()()…!!」」


 …意識を失っていたわけじゃない。今だって俺の意思で腕も足も、この身体全てを動かすことも出来る。

 それなのに、その言葉は()()()()()()()()発せられたとしか思えなかった。


「――今、なんて…言ったんだ…?ルーファス…」


 リグ――ライ・ラムサスが顔色を変えてそう聞き返したのと同時に、俺はハッと我に返りすぐさま立ち上がると、その場にリグを放って、今度は離れた場所に倒れている逆方向のウェンリーに走った。


「ウェンリーッ!!!」


 俺は、たった今自分の取った行動が信じられなかった。


 手を伸ばし、駆け寄り、ウェンリーを助け起こしながら、頭の中がぐちゃぐちゃに混乱しておかしくなりそうだった。


 ――信じられない…どうして俺はウェンリーじゃなく、ライ・ラムサスを助けに動いた!?

 同じ条件、同じ状況にいて俺の身体は一つ。それなら俺は、自分の心に従ってウェンリーを選んだはずだった…!!


 それなのに、なぜ…!!!


 ライ・ラムサスを助けるべきじゃなかった、と言う意味じゃない。後ほんの数秒でも考える時間があれば、ウェンリーにはアテナの特殊装身具(ユニーク・アクセサリー)があることを思い出し、結局は無防備な彼の方を助けた可能性が高かったからだ。

 選択としては間違っていない判断だ。だが感情がそれについて行けない。どんなに考えてみても、無意識下で咄嗟に取った行動が、俺の意思に反していたとしか思えなかったからだ。


 それはまるで、俺の精神と肉体が()()()()()()()()()()()


「あ(いて)ててて、いってえなぁ…もう、今日これで吹っ飛ばされたの二度目かよ?…あれ?三度目、だっけ??」


 俺の困惑を他所に、ウェンリーは無傷ですぐに立ち上がってぼやいた。これもやはり、アテナのブレスレットがウェンリーを守ってくれたに違いなかった。


 選択としては間違いじゃない。間違いじゃないが…――


「ごめんウェンリー、俺はどうして…」


 怪我こそないものの、服の汚れをはたくウェンリーの顔を、俺はまともに見ることが出来ずに目を逸らして俯いた。


「へ?…なに謝ってんの?――てか、後ろ!!嘘だろ、あれ…ルーファスっっ!!!」


 真っ青になって俺の背後を指差したウェンリーに振り返ると、そこにはとんでもないものが顕現していた。


 頭部はさっきよりも二回りほど大きくなり、やはり瞳のない木の葉型の目と丸みのある嘴が付いた鳥のような形だが、目元と頬に外側に向かう角のようなものが生えていた。

 額から後頭部、そして背中を覆っていた剛毛は金属製の鋭利な棘と魚鰭のような形状に変化し、青黒い光沢を放っている。

 頭部同様に唯でさえ頑丈だった躯体も装甲こそないが、大きく筋骨隆々となり、青白く光っていた全身の創世文字が色を変え金色の光を発していた。


 腕の長さはそのままだが、身体が大きくなった分、人型ぐらいに均衡が取れたようにも見える。が、その手にはさらに鋭さを増した鉤爪が伸び、太ももにあった楕円形の鱗のようなものも数が増え、二脚の鳥脚は(ニワトリ)と言うよりも最早伝説の巨鷲グリフォンのようだった。


 そしてなにより驚愕したのは、この直径が百メートル以上はある中庭の様な場所が狭いと感じるほどに巨大になった両翼だ。

 その数も二枚から四枚に増え、形状は蝙蝠のようだが離れて見るとまるで蛾のようにも見える。


「な…なんだ、あれは…」


 ――俺の自己管理システムが物凄い速さで情報を検索して表示し、形態が変化するごとにより凶悪、強力になって行くこれと似たような存在、無限界生物<インフィニティア・クリアトラエ>が過去に存在していたことを教えてくれた。


「ヘレティック・ギガントスが…第二形態、に変化した…のか…!?」


 無限界生物<インフィニティア・クリアトラエ>…ヴァハの村に突然現れた伝説の八岐大蛇、ペルグランテ・アングィスと同じ化け物か…!!


 ――俺はここに、理不尽な理由で処刑されようとしているアインツ博士達や、罪のない民間人を助けたくて来ただけだ。

 それなのにイゼスとレイーノが目の前で攫われ、その背後には『カオス』のあの少年がいることを感じ、行かせたくないのにアテナとシルヴァンを向かわせることになった。

 それでも一刻も早く博士達を助け出そうと決めて地下迷宮を抜けたら、なぜかこんなところに倒れていたライ・ラムサスをまた救うことになって、襲いかかって来た正体不明の敵は、結界石に守られ檻のように閉ざされたこの場所にいて、未だ倒せないどころか形態が変化してより強力になった。


 自分の意思に反して動いた身体に、いつまで経っても倒せない異様な怪物――


 俺は混乱した頭を何度か振りながら、必死に冷静さを取り戻そうと足掻いた。だが想定外の困難に怒りにも似た苛立ちの方が上回った。


「いったいおまえはなんなんだーッ!!!」


 ようやく終わる、これで勝てる、そう思ったのに、なぜまだ倒れない!?守護壁が消滅する前は魔物がいても平穏な国だったエヴァンニュの隅に、こんな化け物が存在していたなんて…想像もしていなかった…!!

 それでもわかる、第一形態の時と同じく、どうあってもこの敵からは逃げられない…背を向けようものなら一瞬で殺られてしまい、俺は死ななくてもウェンリーとリグはやはり即死だ…!!


 戦うしかない。戦って絶対に勝つしかもう道は残されていなかった。


 俺は覚悟を決めてエラディウムソードを握る右手に力を込め、第二形態に変化したヘレティック・ギガントスに突っ込んで行った。


 どんなに異様な相手であっても、この敵でさえ倒せないようでは、フェリューテラを守るために暗黒神を倒すなど土台無理だ。

 それでも俺はこの世界を守ると決めた。ウェンリーが生きているこの世界を、もう会えなくても、優しくしてくれたゼルタ叔母さんや長を、シルヴァンもマリーウェザーも獣人族もリヴもみんなみんな、全てこの手で守りたいんだ…!!


 そう自分に言い聞かせ、守護七聖主(マスタリオン)としての力は解放したまま、死に物狂いで攻撃を叩き込む。敵の反撃をギリギリで躱し、避けきれない時はディフェンド・ウォールか負傷覚悟で腕や剣を盾代わりにして甘んじて受けた。


 どうせ怪我をしても、致命傷以外なら治癒魔法を使えばすぐに治せる!!


 ――やがて気づくと俺の左後ろにウェンリーが立ち、すぐ右隣にリグが並んでいた。


 俺と同じように身体から光を発し、もうなんの作戦もないのに、互いの呼吸を読んで協力しつつ、俺達は全力で敵に抗って行く。


 リグの剣技に合わせて俺が合成魔法や高位魔法を連続して放ち、リグの攻撃が途切れる前に俺が進み出て剣による攻撃を続ける。

 振り続ける剣の重みに息が切れ、腕に疲労が溜まり、足が縺れそうになるほど動いても、立ち止まることは出来ない。

 真横にリグの飛び散る汗とその懸命な顔を見ながら、目を合わせて俺達は意思の疎通を図る。


 そうしてこれまでと同じようにヘレティック・ギガントスは、次々に生じる苦痛に鳥のような悲鳴を上げて怒り狂った。

 両腕を目にも止まらぬ速さで振り回し、体術に似た連続蹴りを繰り出すが、その手や足には複数の刃物が付いているのと同じだ。まともに食らえば、たとえフォースフィールドの効果があっても腕を切断されかねない威力があった。


 前衛で戦う俺とリグが敵の反撃を防御し、小さな傷を幾つも負いながら大きな損傷だけは食らわぬように避けている間、後方からウェンリーが魔法石とエアスピナーで遠距離攻撃を仕掛け、目まぐるしく変わる敵の攻勢に声を掛け合いながら応戦した。

 額から絶え間なく汗が流れ、襲い来る敵の攻撃で傷付き、血が流れても構わずに俺はひたすら剣を振り、魔法を放ち続ける。

 四枚の翼による全体攻撃が来ると、間合いを開けて後退し、常時発動のディフェンド・ウォールと二重の防護障壁で(そうしないと常時発動の防護障壁が砕け散るからだ)二人を守りつつ、俺が引き起こされる真空波で負傷すれば、ウェンリーやリグがそれを見て液体傷薬(ポーション)を投げかけてくれた。


 俺達はまるで長年パーティーを組んで来た仲間であるかのように、互いに互いを助け合いながら、少しずつでも確実に敵の体力を削っていった。


 不思議なことに、ウェンリーもリグも特別な力など持たない、ごく普通の人間であるはずなのに、こんな凶悪な敵とほぼ互角に渡り合えていた。

 第一形態の時は、攻撃を受ければ致命傷になりかねないほどの能力差があったのに、それよりも強力になった第二形態の攻撃を受けても耐えられている。

 おまけにウェンリーやリグの固有スキルの効果が、全員に影響を及ぼし、まるで共鳴現象を起こしているような状態になっていた。


 これが『魂の絆』同様の守護七聖主(マスタリオン)である俺が所持する、特殊現象によるものだと知るのは、もっとずっと後のことになる。


 そうして長時間の死闘を戦い抜いた俺達の力が勝り、今度こそ最後だと、ふらつきながら俺が止めを刺そうと剣を構えた時だった。


 キインッ…


 金属同士を当てて搗ち鳴らした時のような、澄んだ高音がどこからか俺の耳に聞こえた。

 瀕死状態のヘレティック・ギガントスを目前に、周囲の状況が一変し、なんの音もしない、なにもない薄闇の世界に、俺だけが引き摺り込まれていた。


「まだなにかあるのか!?…こんなところに引き摺り込んでも無駄だ、ヘレティック・ギガントス!!俺は力尽きるまでおまえに抗い戦うぞ!!もうこれ以上はなにがあってもウェンリーとリグに手出しをさせないからな…!!」


 そう叫ぶ俺の耳に、その声が届く。


『――案ずるが良い、もう我にその余力はない。』


 ポウッ


 薄闇の中にその弱々しく輝く青黎い光が灯った。


 ――なんだ?…命の(ともしび)?今にも消えそうなほどに弱い。まさか…


 俺はなにが起きてもいいようにエラディウムソードを握りしめ、その青黎い光を睨んだ。


徒人(ただびと)ならざる金色(こんじき)の光纏いし強者(つわもの)よ、なにゆえ我を屠る?』


 …やっぱり…この光は――


「…おまえはヘレティック・ギガントスの(ソウル)か。なぜ、だと?それはおまえがリグを傷付け、ウェンリーを殺そうとしたからだろう…!」


『――つまり〝人〟を守るためか。』


「そうだ、当たり前だろう!!」


 その言葉に馬鹿にしているのかと思い、俺は腹を立てた。


 こいつ…狡猾で頭が良いとは思っていたが、まさか会話が可能な存在だったとは…死にたくないから俺との会話に転じた、という風にも見えない。どうしてこの状況でわざわざ俺に話しかける?


『では問うが、汝にとって〝人〟とはなにか?』


「俺は守護者であり、人とは種族に関係なくその守るべき最たる命だ。儚くも強く魔物に抗い、必死に生きる彼らを守るために、俺はこの世界に存在しているのだと思っている。…なぜそんなことを聞くんだ?」


『我はこの地に千余年程前に降臨し、偽神(ぎしん)アクリュースを崇める人間によって生け贄を捧げられて来た。』


 偽神(ぎしん)アクリュース?生け贄…マリーウェザーから聞いた、旧アガメム王国の先代王がこの場所にあったという粛清した街の住人の話か。

 例の邪神は異界神だと聞いたけど、神ではなかったと言うことか?


 俺は相手がなにを言いたいのかわからないまま、尚も警戒しながら話に耳を傾けた。


『だがその者達が王の手で粛清に遭い、街ごと消え去った数年後、新たに興った国の王がここへやって来て結界を施し、我と取引をした。』


「待て。新たに興った国とは、現在のエヴァンニュ王国のことで、当時の王とは初代国王『エルリディン』のことか?…第一形態のおまえの能力を高め、傷を治す結界を施したのが…エルリディン?そう言うことか?」


 確かめるようにそう問い返すと、ヘレティック・ギガントスは一言、そうだ、と返した。


 その後も続いた話の内容から、俺はこのエヴァンニュ王国について、驚愕の真実を知ることになった。


「――つまりエルリディンはこの地におまえがいることを知っていて、かつてここにあった街の住人が差し出していた生け贄と同様に、罪人をおまえの餌として差し出すために、この場所に監獄を建てた…そう言うことなのか…!」


『左様。』


「なんてことだ…なぜそんなことを…!!」


 あまりのことに衝撃を受け、俺は手で目元を覆い、下を向かずにはいられなかった。


『簡単なことだ、我が人を喰らう存在だと知りながら、当時の世の誰にも我を屠ることが出来なかったからだ。故に苦肉の策として人の王は少数の犠牲により自国の民を守ろうと考えた。そのための取引だ。だが国のためとは言え無辜の民を差し出すのはさすがに気が咎めたのであろう。犯罪者をただ処刑するより、その贖罪として国の犠牲にする方法を選んだというだけのことだ。』


「だからと言ってそんなことが認められるか!!」


 ウルルさんやシルヴァン、マリーウェザーが信頼していた初代国王エルリディンまでもが、影でそんなことをしていたなんて…今のロバム王と同じか…!


『それは汝が、我を屠ることが可能な強者であるが故の考えだ。だからこそ真実を知った上で今一度問う。力無き弱者であるからこそ他を犠牲にしてまで生き残ろうとする、そのような醜くさもしい存在をなぜ守ろうとする?』


「――確かにエルリディンのしたことを()()認められない。だがその反面、そうせざるを得なかった事情も酌量の余地がある。それになにより、全ての人が同じ考えに至り、同じ答えを出すとは限らない。人は時に過ちを犯すが、決して諦めずに正しい道を歩もうと努力し続ける者もいるからだ。俺はそのことを知っている。知っているからこそ俺は、俺に出来ることで人を守り、守護者であり続けたいんだ…!!」


『…なるほど、その決意は変わらぬか。よかろう、ならば我は大人しく敗者となり、この地より消え去ろう。』


 その弱々しい青黎い光の中から、抜けるような青空の色をした美しい尾長鳥が姿を現した。


『我が真名は〝ペシャクリム・イ・ガルラ〟と言う。〝人〟を喰らい、いずれ解き放たれれば、他の御使いと共に、この世界の全てを喰らえと使わされた。』


「使わされた?どこから、誰にだ…?」


『――その名を口にする資格は我にない。我は滅び行く者…汝に我が魂の欠片を残す。その心変わらず、守護者でありたいと望むのであれば、いつか必要となるであろう。…さらばだ、金色の光纏いし強者よ。』


 一方的にそう別れを告げられた後、夢でも見ていたかのように現実に戻ると、目の前にはまだヘレティック・ギガントスの第二形態が動いていた。

 リグは俺の横で敵の攻撃を受け止めながら、汗と血にまみれて必死に戦い続けている。


「貴様が倒れるまで、何度でも喰らわせてやる、俺は負けん!!放て雷撃!!」


 バリバリバリ…ズガガガガガッ


 敵の鉤爪に腕を引き裂かれながら、リグは血まみれの手で渾身の力を込め『ライトニング』を放った。

 そこへ遠距離からウェンリーのエアスピナーが繰り返し追撃を加え、全身を痙攣させ始めたヘレティック・ギガントスは一気に弱まった。


「止めを刺せ、ルーファス!!」


 『ペシャクリム・イ・ガルラ』と名乗ったこのヘレティック・ギガントスとのあの時間が、本当にあったことなのかはわからないが、リグのその声が惑う俺を瞬時に突き動かしてくれた。


 ――俺は守護者であり、どんなことがあってもウェンリーを…大切な人達を、守り続ける…!!


 そう心に誓いながら俺は、エラディウムソードをその胸に深く突き立てるとぐるりとひねり、完全に息の根が止まるまで、渾身の力を込めて押し続けた。


 ヒイィヒャアアアアァァァァ……


 断末魔の絶叫が木霊し、遂にヘレティック・ギガントスは倒れ伏した。


「はあ、はあ、はあ…た、おした…今度こそ、本当に…」


 俺は引き抜いた剣を支えに、どうにかその場に立ち続けていた。息が詰まりそうなほどに呼吸が苦しく、このままもう倒れて眠ってしまいたいぐらいへとへとだった。


「ルーファス、リグ…怪我は?」


 ウェンリーがふらふらと歩いて来て液体傷薬(ポーション)を差し出した。アテナのブレスレットのおかげで無傷だが、同じように疲れ切っているのは変わりがない様子だ。


「リグが右腕を負傷している。急いで診てやってくれるか?ウェンリー。薬でだめそうなら俺が治癒魔法を使うから。」

「了解。」


 ぐったりとして声を出す気力さえなく、地面に座り込むリグの腕から滴る血に、俺はウェンリーを急かした。


「おう、リグ手え見せろ。うわっ、また酷え傷!!手当て手当て!!早く!!」


 最後魔法剣の力を解放する前に負った傷は深く、ウェンリーは慌ててその手当てを始める。

 俺はそんなウェンリーを複雑な思いを抱きながら見ていた。


 ――そう言えば俺に『魂の欠片』を残すとか言っていたが、あれはどういう意味だったんだろう…?


 ふと気になり、ヘレティック・ギガントスの死骸に近付くと、俺の戦利品自動回収スキルが発動してその全てが消え失せた。


「あ…」


 スキルで回収したか。…ん?


 無限収納に入れられたその新規獲得品目の中に、貴重品として分類された『ペシャクリム・イ・ガルラの欠片』と表示されたものを見つける。どうやらこれが言っていた例の物のようだった。


 色々と知りたくないような真実まで聞く羽目になったが、とにかくこれでようやくアインツ博士達を探しに動ける。


 俺は少しずつ日が傾き始めた天を仰いで、長く深い溜息を吐くのだった。


遅くなりました。次回、また仕上がり次第アップします。いつも読んでいただき、本当にありがとうございます!!感想、ブックマーク励みになっています!!今後ともよろしくお願い致します!!

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