気まずい空気
「優夏さん!? どうしたんですか!?」
「あぁ、何でもないよ楓夏。ただ、強い静電気みたいなのに弾かれて、吹っ飛ばされただけ」
「なんでもなくないですよ!? 怪我はありませんか? 起き上がれますか?」
「だ、大丈夫。ありがとう」
び、びっくりした……。何が起きたのか、自分でもよくわからない。
手を伸ばした瞬間、何もない空間から火花みたいなものが弾けて、体を後ろに吹っ飛ばされた。
……光った何かを見た気もする。
『何やってるの、馬鹿なの』
「いや、やりたくてやったわけじゃないんだけど……」
『ねぇ、それ何?』
闇命君が指さしたのは、隣に落ちているぼろぼろの本。
「魔魅ちゃんが奥の本棚から持ってきたみたいなんだけど、俺には読めなくて」
『ふーん。中、見せて』
隣に来て、腕を組みながら覗き込む。偉そうだな……まぁいいけど。
本をぺらぺらとめくって見せると、闇命君のオレンジの目が見開かれた。
ここまで露骨に驚くのは初めてかもしれない。
『これ……蘆屋道満が書いたものなんじゃ――』
「何をしているのです――」
あ、さっきの人に見つかった。
……顔、真っ青じゃない? これ、やらかしてるやつだ。
「あ、あの。ごめんなさ――――」
「どうやってその本を持ったのですか!?」
「うぇ!? え、えっと!? なんでなんでしょうね!?」
いや、本当にわからない。魔魅ちゃんが持ってきただけで……。
というか、なんで取れたんだあれ。
今は魔魅ちゃんも怯えてるし、聞けないな……。
――ガラッ
襖が開く。
「おい、何の騒ぎだ」
「っ、陰陽頭様。申し訳ございません」
あれ、水分さん? 村を見に行ったんじゃ……。
しかも、なんか濡れてる。
「闇命様! どうなされたのですか?! 先ほど大きな音が廊下まで――」
「あぁ、琴平か。紅音もお疲れ。何かに弾かれただけだよ」
こんな大事になるとは思わなかった。
……ていうか、やっぱり二人も濡れてる。
「外、雨でも降ってきた?」
「あぁ。一旦引き上げてきた」
なるほど。
「で、何のさわ――……この本」
水分さんが床の本を拾い上げる。濡れた髪から雫が落ちてるけど、お構いなしだ。
……これ、怒ってるよな。
「おい」
「はい……」
やばい、怒られる。
せめて魔魅ちゃんに被害がいかないようにしないと。
「この本、お前が取ったのか?」
「…………い、いえ。俺じゃないです」
「そこの女でもねぇ。なら、その餓鬼か。強い力は感じていたが、呪壁を抜けるとはな。予想外だ」
「え、呪壁?」
なにそれ、聞いたことがない。
「呪いの壁だ。普通の結界より強度は高いが、欠点がある」
「欠点ですか?」
「呪いへの耐性がある奴には効かない」
そんな結界あるのか……。
『そんなの今はどうでもいい。それより――これ、蘆屋道満の書いたものじゃないの?』
闇命君の言葉に、水分さんが黙る。
今まで即答してたのに、この沈黙は嫌な感じだ。
「…………それについては何も言えない」
『なんで?』
「等価交換だ。それを保管する代わりに、森に結界を張ってもらっている」
『なら、話してもいいでしょ』
「規定違反だ。悪いが無理だ」
ここまで言われると、もう踏み込めない。
「その本は返してもらう。それと、奥の本棚には近づくな。機密資料だ。次に近づいたらここから出て行ってもらう」
本を取り上げ、そのまま出ていった。
……やらかしたな。
「お兄ちゃん、私ダメなことしちゃったの?」
「ん? 知らなかったんだから仕方ないよ。でも、次からは勝手に動いちゃダメだ。危ないからな」
「わかった」
素直に頷く魔魅ちゃん。
ひとまず、これでいいか。
闇命君はまだ納得してなさそうだけど、何も言わない。
『色々気になるけど、今はいい。目的は七人ミサキだし。残りは部屋で読もう』
「う、うん」
あっさり切り替えると、闇命君は鼠の姿に戻る。
琴平たちと目を合わせるが、結局何も言えず――
そのまま本を持って、部屋へ戻った。
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