暴力は良くない
俺達がここにいる理由を、重要な部分だけ簡単に話した。
男は終始無言、相槌もない。普通に怖い。
「事情は理解した。だが残念だったな。見れば分かる通り、それどころじゃなくなったのは理解できるな?」
「……はい」
男は俺を見ず、崩れた村を見つめたまま。無表情なのに、どこか悲しそうに見える。
「つーか、聞いてた話と全然違ぇな」
「え?」
急にこっち向くな、びっくりする。
「安倍家の天才少年は、自由奔放でわがまま、人を見下して礼儀もない――そう聞いてたが、噂が一人歩きしてただけか?」
「紅音、琴平、夏楓。拳戻して」
「「「はい」」」
やっぱり怒るよな。
「それには理由があるんです。今は詳しく話せないので、勘弁してください」
「そうか。俺には関係ねぇしな」
「は、はぁ」
……意外とあっさりしてる。
「あの、自己紹介お願いできますか? 名前が分からないと呼べなくて」
「それもそうだな。詳しい話は陰陽寮でだ。名前だけ言うぞ」
男は軽く息を吐いた。
「水仙家、陰陽頭。水仙水分だ。よろしくな、安倍闇命」
※
水仙家の陰陽寮へ向かう。
薄暗い道に人影はない。……死体もない。全員、屍人にされたのか。
「あの」
「なんだ」
「この村は、もう駄目ですか?」
「駄目とは?」
「復興は……」
「やろうと思えば出来る」
「え?」
できる、のか?
こんな、もう誰も残っていないような、村を。
「全員が逃げ遅れたわけじゃねぇ。生きてる奴もいる。むしろ――もっと大きくしてもいい」
水分さんは淡々と続ける。
「他の村から人を呼ぶのもありだな。技術者増やして、建物も拡張して……陰陽寮ももっと面白くできる。仕掛けも増やしたいしな」
なんか、悪い顔を浮かべてない? 大丈夫?
………………深くは考えないようにしよう。
周りはどんどん寂しくなっていく。村の裏手、田んぼだった場所だろうか。
ぶつぶつ呟く水分さんを横目に、魔魅ちゃんの手を握る。
少し、震えている。
「魔魅ちゃん、大丈夫?」
「大丈夫……慣れてるから」
慣れてるのも、それはそれで問題だ。
「……闇命く――」
『問題ないけど、何心配してるの?』
「ですよね」
こっちは本当に平気そうだな。
「あの、水分さん」
「なんだ」
「さっきの少女、心当たりは?」
「それも含めて着いてから話す。その代わり、お前もさっきの話を全部しろ」
「え? だから詳しくは――」
「時間はある。……等価交換って知ってるか?」
あぁ、そういう事か。
「ほ、他の情報とか……」
「帰りたきゃ勝手に戻れ。俺はどっちでもいい。決めるのはお前だ、餓鬼」
「こんの……」
口悪いくせに、やたら頭が回る。
『別に話しても問題ないよ』
「え、いいの?」
『進まないよりマシでしょ』
「そっか」
肩に乗っている闇命君が言うなら、いいかぁ。
「何一人で喋ってんだ。気持ちわりぃ」
「そのうち分かります」
「分かるならいい。はぐらかしたら殴る」
「暴力で解決するのやめて!」
本当にやりかねないから怖い。
後ろの三人もいるし、最悪血の海だ。
「……話だけで終わりますように」
※
無事に陰陽寮に到着。今まで見た中では小さい方だが、それでも十分大きい。
木製の建物で、見た目は神社の本殿のようだ。
中は意外と明るい。廊下の壁には蝋燭が三本ずつ設置され、道を照らしている。
幅は二人並ぶのがやっとで、今は縦に進んでいる。
巫女や陰陽師たちが行き交い、水分さんが通るたびに一礼している。
それだけ慕われているのか、それとも無理やりか……。
「陰陽頭様」
「どうした」
一人の陰陽師が声をかける。手には資料のようなもの。
「ここは比較的、腐ってはいないみたいだな」
「そうだね。陰陽頭が話の通じる人だからか、空気も悪くない」
琴平も同じ印象らしい。
周りの人達も俺達を避ける様子はない。むしろ歓迎しているようで、目が合えば笑顔が返ってくる。手を振ってくる巫女までいる。……居心地がいい。
「待たせたな。報告を受けていた」
「あ、いや。大丈夫」
「んじゃ、行くぞ」
再び歩き出す水分さん。周囲の視線は一切気にしていない。
……もし闇命君がこんな環境にいられたら、何か違ったのだろうか。
「はぁ……」
「どうした?」
「いや、何でもない」
「……やっぱり噂と違うな。話を聞くのが楽しみだ」
悪い顔だ。これは覚悟がいる。
しばらく進み、水分さんが一つの襖の前で止まる。
「ここなら問題ないだろ」
中は六人でも余裕の広さ。整っていて、畳の匂いが落ち着く。
「スイ、出てこい」
三枚の札が水に包まれ、弾ける。
現れたのは、小さな子供が三人。
『ごしゅじんさまぁぁ』
『しゃまぁぁ』
『まぁぁ』
「座布団、頼む」
『『『はーい』』』
……座布団のために式神?
てきぱきと動く三人。水色の着物がよく似合う。
「これ、何の妖?」
『人型の式神だね。あいつの創作だよ。戦闘力はないはず』
「そんな事できるの?」
『君もやったでしょ。猫刃の時に』
「あ……闇命君の姿を作ったやつか」
『多分それ』
なるほど、便利だな。
「飲み物は?」
「大丈夫です」
「俺が飲む。スイ、茶」
『はーい』
三人が出ていく。
自由だけど、不思議と嫌な感じはしない。
「茶が来るまでに話せ」
いや、時間短くありませんか?
って、あれ?
「え、暑いんですか?」
「この方が楽だ」
「まぁ……確かに」
上着を脱いだ水分さん。鍛えられた体が見える。
座布団に座り、俺達も続く。水分さんは胡坐。
「で、まずはお前だ。噂と違いすぎる」
……説明が難しい。
「――その鼠、ただのじゃないな」
「えっ」
「気配が違う。憑いてるだろ」
見抜かれた。
闇命君が姿を現す。
『正解。僕が本物の安倍闇命』
「やっぱりな。噂通りの糞餓鬼だ」
「貴様——」
紅音を琴平が止める。
「じゃあ中身は誰だ?」
『長くなるけど、聞く?』
「聞かない理由がねぇ」
『予防線だよ。信じるかは任せる』
「いいから話せ」
『……楽でいいね、君』
「頭使うな。餓鬼らしくしてろ」
『それが出来たら良かったんだけどね』
襖が開き、お茶が運ばれる。
全員が揃い、静まる空気。
『これから話すのは全部事実だ。よく聞いて』
水分さんが頷く。
そして、闇命君が語り始めた。
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