旅路
「それじゃ、行ってきます」
「気をつけてくださいね」
「はい。紫苑さんも、いろいろありがとうございます。あの、すべての資料を解決できずすみません……」
「いえ、そもそも期待していませんでしたので」
「…………え?」
昨日もらった服を着て、陰陽寮の出入口で別れを惜しんでいると、引っかかる言葉があった。
……期待されてなかったの?
「元々、貴方達には旅に出てもらう予定でしたので、あの資料は時間稼ぎです。ですが、まさかあそこまで大きくなるとは思っていなかったので、驚きましたよ」
「あ、そうなんですね……なんか複雑です」
「そう言わないでほしい。さぁ、皆が待っているよ。行きなさい」
「あ、はい」
振り返ると、馬車の中で紅音と夏楓が待っている。御者席には琴平。
……なんでもできるな、琴平よ。うらやましいぞ。
「それじゃ、行ってきます。本当に、ありがとうございました!」
「気をつけるんだよ」
手を振り、馬車に乗り込む。
同時に、ゆっくりと動き出した。
窓の外を見ると、紫苑さんの隣に陰陽頭と陰陽助の姿。
……今来る?
まあいいか。見えてないだろうけど、手を振っておこう。
「とうとう、やってしまいましたね」
「不安?」
夏楓が荷物を撫でながら呟く。
「少しだけ。でも、今回は優夏さんがいますから」
「え、俺? 闇命君じゃなくて?」
「闇命様がいる安心感はもちろんあります。ですが……私達は一度、挫折していますから」
……ああ、なるほど。
過去がよぎるのは仕方ない。
「問題ない」
「紅音さん?」
「今回は違う。自由に動ける。それに他の陰陽寮とも繋がった。前進している」
短いけど、力強い。
「……そうですね。ありがとうございます」
「弱音を聞きたくないだけだ」
「そうですか」
……素直じゃないな。
「しばらくは長旅だ。ゆっくり行こう」
『その前に漆家へ手紙だ。体を返して』
「あ、はいはい……」
筆に慣れていない俺は、この世界では文字すらかけない。
任せるしかないんだよなぁ、悲しい。
「よろしくお願いします」
『早く』
「はいはい」
意識が落ちる。
※
「……ん、終わった?」
……終わってる。
早すぎない?
――って、何これ!?
闇命君はぐったり。
紅音は椅子に突っ伏してる。
夏楓は顔を押さえてぶつぶつ。
「あぁ、闇命様……今日も美しい……ありがとうございます……」
……は?
ただ手紙書いただけだよな?
なんでこうなった?
というか、なんで馬車止まってるの?
恐る恐る御者席を見ると――
「……もう、俺がやる。あいつに任せるのは危険だ……」
琴平、撃沈。
顔覆ってる。
……いやほんと、どんだけ闇命君のこと好きなんだよ。
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