気持ちの殴り合い
『っ、待って。変なことをしようとしないで』
「変なことじゃないから、別にいいよね」
『駄目に決まってるだろ。この世界に革命を起こすなんて。不可能だ!!』
っ、やっぱりか。
「……やっぱり気づいてたんだ」
闇命君が困ったように顔をしかめる。
多分、最初からわかっていたんだろう。
俺が安倍晴明と話した時点で、思考は駄々漏れだったはずだ。
闇命君が何も言わなかっただけ。
真っすぐ闇命君を見る。
何を言われても、決意は変わらない。
この世界に革命を。
陰陽寮に自由を。
俺は、それを叶えたい。
※
日が沈み、夜になった。
頭を冷やした雨燕さんたちも戻り、今は村長の家に集まっている。
「それで、話とは何でしょうか、闇命様」
部屋にいるのは、闇命君、俺、琴平、夏楓、紅音、雨燕さん。
全員、闇命君に呼ばれた。
『もう僕の手に負えないから、琴平たちに止めてもらおうと思って』
「止める、とは?」
琴平が首を傾げる。
視線が集まる。
緊張で喉が渇く。
心臓がうるさい。
でも、ここで引く気はなかった。
「――俺、この陰陽寮を変えたいんだ」
一瞬、空気が止まった。
「何を言っておる、小僧」
「それはつまり……革命を起こすということか?」
怒りそうな雨燕さんを制しながら、琴平が聞く。
「そうだ。陰陽師たちに自由を与えたい」
琴平たちが揃って闇命君を見る。
三人とも気まずそうだった。
『そんなの、絶対に無理だ』
やっぱり、その答えか。
「なんで諦めるの? 闇命君には力も頭脳もあるのに」
『……』
「今のままだと短命の呪いで死ぬんだろ? 本当にそれでいいの?」
闇命君は俯いたまま、答えない。
「小僧」
雨燕さんが低い声を出した。
「わしらは闇命を離さん。闇命は安倍家に必要不可欠な存在だ」
「あなたは、闇命君を何だと思っているんですか」
静かに問い返す。
「道具ですか? 駒ですか?」
「違う」
「違わないでしょう」
雨燕さんを見据える。
「闇命君は一人の人間だ。意思も感情もある。自由になる権利だってある!」
「たわけが!!」
重い怒声が響く。
思わず体が震えた。
「力ある者は家のために尽くす。それが世の摂理だ」
「っ! ふざけるな!!」
全員が目を見開く。
「なんで、子供の闇命君ばかりに背負わせるんだよ!!」
言葉が止まらなかった。
「家の問題なら大人が解決しろよ!! なんで子供に押しつけるんだ!!」
「なんだと!!」
家を守る。
それが雨燕さんたちの考えなのはわかる。
でも。
だからといって、闇命君の人生を奪っていい理由にはならない。
『さっきから子供子供って、うるさいなぁ』
闇命君が顔を上げた。
『優夏。悪いけど、僕は自由なんて求めてない』
「……闇命君」
『短命の呪いも受け入れてる。だから、余計なことを考えるな』
――は?
その顔で?
全部、諦めたみたいな顔で? 受け入れているだって?
『わかったな』
「どうして、そんな嘘を言うの?」
『はぁ?』
闇命君の眉が動く。
『嘘なわけないだろ』
「嘘じゃないなら、それはただのバカの発言だ!!」
『なんだと?』
違う。
絶対に違う。
「闇命君。君は、生きたくないの?」
『運命には逆らえない』
「自由はいらないの?」
『この家に生まれた時点で、そんなものない』
違う。
本当は欲しいはずだ。
生きたいはずだ。
自由になりたいはずだ。
「闇命君は、受け入れてない」
俺は言い切った。
「諦めてるだけだ」
『君に、何がわかる』
「わからないよ!」
声が大きくなる。
「でも、何もしないで諦めてることだけはわかる!!」
紅音が立ち上がりかける。
だが、琴平が止めた。
「本当は長生きしたいくせに!! 本当は自由が欲しいくせに!!」
『そんなもの!!』
闇命君が叫んだ。
初めて感情をむき出しにする。
『君みたいな能天気な奴にはわからない!!』
肩を震わせながら叫ぶ。
『呪いも革命も、そんな簡単な話じゃないんだ!!』
苦しそうだった。
今にも泣きそうだった。
『そんなものに時間を使うくらいなら、諦めた方がいいんだよ!!』
「違う!!」
俺も叫ぶ。
「簡単じゃないのはわかってる!!」
成功する保証なんてない。
失敗するかもしれない。
それでも。
「でも、あきらめてる今よりは前に進める!!」
闇命君を指差す。
「諦めてるお前より、絶対に可能性がある!!」
喉が痛い。
それでも止まらない。
「諦めるなよ!!」
拳を握る。
「闇命君の人生だろう!!」
これは安倍家の人生じゃない。
誰かの人生でもない。
闇命君自身の人生だ。
「なぁ」
震える声で問いかける。
「生きたくないの?」
静寂。
「自由が欲しくないの?」
誰も口を開かない。
「闇命君」
ただ一人。
闇命君だけを見る。
「君の本音を聞かせてよ」
沈黙が落ちる。
一秒なのか、一分なのかもわからない。
心臓だけがうるさい。
闇命君の答えで。
この先が変わる。
お願いだ。
闇命君。
君の本音を――。
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