調書室
紅音達に頼んだものの、俺も調べておきたくて、陰陽寮の資料室――通称、調書室へ向かっていた。
ただ、極秘資料も多く、入室には上司への報告が必要らしい。
紫苑さんに伝えると、「君なら大丈夫だよ。自由に使ってくれ」とあっさり許可が下りた。
……信用されてる、でいいんだよな?
まさか「どうせ分からないだろ」とか思われてないよな?
まぁいいか。
教えられた通り進むと、暗い廊下の先に大きな襖があった。
……重々しいな。
とりあえず、開けるか。
────暗っ。
光は蝋燭だけ。淡い光がぼんやり広がっている。
『件の資料なら、奥の本棚だよ』
「うおっ!? 起きてたのか、闇命君」
『気配で気づきなよ。阿呆。件、調べるんでしょ?』
「いや、なんで分かるんだよ……」
『僕だから』
「それで納得できるか……? できるか。闇命君だもんな」
相変わらず意味が分からない。
奥に進むほど暗くなる。
本の背表紙すら読みにくい。
『紙が多いからね。火事防止で最小限の灯りしかないんだよ。奥に予備の蝋燭があるから使って』
「なるほど、ちゃんとしてるな」
言われた通り奥へ行くと、蝋燭とマッチが置かれていた。
壁には燭台も備え付けられている。
火を灯し、慎重に立てる。
少しだけ視界が開けた。
広さは図書室と同じくらいか。
本棚は多いが、机や椅子はない。
……立ち読み前提かよ。不親切だな。
本や巻物が整然と並び、表紙には内容が記されている。
探しやすいのはありがたい。
件についての資料も、思ったよりすぐ見つかった。
「件の資料、多いな」
『伝承や仮説がバラバラだからね。それすべてをまとめてるんでしょ』
「地方で名前違う、みたいな感じか」
『知らないけど、たぶんそんな感じ』
とりあえず一冊手に取る。
……文字、びっしり。
これはきつい、寝る。
『耳、噛むよ』
「すみませんでした」
脅されながら読み進める。
内容はやっぱり、予言と短命について。
それ以上の情報はほとんどない。
牛から生まれた奇獣だの、人と牛の雑種だの……。
いや、さすがに無理があるだろ。
……いや、この世界だとあり得るのか?
やめよう。考えたら負けだ。
結局、分かったのは「予言する」「すぐ死ぬ」くらい。
「……進展なしか」
『そりゃそうでしょ。件は予言しかできない雑魚だし』
雑魚って。
未来予知、普通に怖い能力だと思うけどな……。
まぁいい。
件単体じゃこれ以上は出ない。
ほか、なにを探せばいいんだろう……。
『なら、周囲を当たれば?』
「周囲?」
『件を見た人とか、その年に何があったかとか』
「ああ、なるほど」
『頭使って』
「すみません……」
先が長い。
「頑張れ俺、負けるな俺」
『いいから手動かして』
「はい」
……さて。
件が出た村や、その年の記録。
そこから当たっていくか。
別の本棚を見てみると、各地の村がまとめられた本を見つけた。
何冊もあるが、資料にあった村を探すか。
「あ、見つけた。奇跡」
適当に手に取った一冊に、ちょうど目当ての村が載っていた。運がいい。
中を開くと、村の見取り図や家の配置、井戸の位置などが細かく書かれている。
……普通の村紹介だな。
「…………よし。怪しいところはないな」
『阿呆なの馬鹿なの間抜けなの? 馬鹿なのは仕方がないけど、少しは自分が恥ずかしいとか思った方がいいよ。誇りを捨てたら終わりなんだから気をつけなよ』
うるせぇよ、クソガキ。
『気になるとこ、あるでしょ』
「え、どこ?」
もう一度見るが、やっぱり分からない。
『全部信じるなって言ってんの。ほら、ここ』
闇命君が半透明になり、本の一点を指す。
……井戸?
「井戸がどうした?」
『物を隠すのにちょうどいいでしょ』
「……ああ」
隠す――井戸の中に何かあるの?
でも、それが件とどう繋がるんだ。
……まさか、探し物? それを、予言で場所を特定しようとしている、とか?
いや、それなら普通に探せばいい。予言なんて言うものを使わなくても。
『中身は分からない。でも、確認する価値はある。……関わりたくないけど』
「関わりたくない? なんで? さっき、雑魚だって言ってたのに」
『関わらなければ雑魚。でも、関わったら終わり』
「どういうこと?」
『予言されたら必ず当たる。死の宣告されたとしても、逃げられない』
……っ。
それは、嫌だな。
『封印しても殺しても無駄。すぐ転生するし』
なおさら関わりたくない。
……紫苑さん、これ面倒なやつ後回しにして押し付けてないよな?
『考えるだけ無駄。イラつくだけだよ』
「……だな」
闇命君も諦め顔だし、やるしかない。
『この村に行くしかない』
「でも外に出る方法は? また紫苑さん頼るの?」
『それは避けたい。今以上のことを頼まれるのは、正直はらわたが煮えくり返る』
じゃあ、あの頑固オヤジか。
……名前なんだっけ。
ああ、貛雨燕さんだ。
無理だろ。あの人に頼むの。
というか関わりたくない。
なんで琴平、ただの陰陽師なんだよ。
あの実力と人柄なら、もっと上でもいいだろ。
「……行くしかないか」
『それしかないね』
はぁ。
本を棚に戻し、部屋を出る。
『火、消して』
「あ、はい」
蝋燭の火を消して、廊下へ出た。
「問題は説得だな」
『方法もね。どうせ話は聞かないだろう。ロバ耳だし』
辛辣すぎる。
紙に書くとか、資料に紛れ込ませるとか……。
……あ。
前から人が来る。
「……はやっ?!」
一瞬で闇命君が鼠に戻った。
早すぎるだろ。
拾って肩に乗せる。
「あ、闇命様」
「どうも……」
男は複雑そうな顔で頭を下げた。
立場が下なのは、態度で分かる。
でも、闇命君への印象は良くない……そんな顔だ。
「では、失礼します……」
「あ、うん」
猫背気味で去っていく。
いかにも気弱そうだ。
『あいつ、使えそう』
「え、使えそう? 何に? というか、人をそんな言い方……」
『一番下の雑用係、直丁だろうし。動かしやすい』
物騒なこと言うな。
『あいつ経由で手紙だね。戻るよ』
「はいはい……」
……手紙?
※
『お前。まず字を書くところから練習ってどういう所業? 今までどうやって生きてきたの。筆すら使えないってどうなの。なに、この蛇みたいな文字、なんて書いてあるの? 下手にもほどがあると思うけど、馬鹿なの? 君がこの世界に来る前でも筆ぐらいは触った事あるでしょ。なんで書けないの?』
・・・・うるせぇ!!!
なんで部屋に戻った瞬間、筆持たされてんだよ。
しかもこの罵倒ラッシュ。
闇命君が書けないから、俺が代筆してるんだけど。
筆なんて無理に決まってるだろ……。
「無理……」
『はぁ。じゃあ、体ちょっと貸して』
「え、ちょ──」
あっ、意識が遠のっ――……。
※
『起きろ』
「……ん?」
いつの間にか、俺は眠っていたらしい。
「あれ、手紙……書けてる?」
目の前には、びっしりと文字。
内容は──
『拝啓 陰陽助様
僕を外に出せ。出さなければこの陰陽寮は破滅する。出せば何も起きない。僕の直感は外れない。従わないなら責任を取ってもらう。以上。敬具 安倍闇命』
……脅迫状じゃねぇか。
「これ、渡すの?」
『当たり前でしょ』
「いやいやいや、これ手紙じゃないって!!!」
脅迫状ですよこれ!!
『さっきの直丁に渡す。届くのは四日後くらいかな』
聞けよ人の話。
『ほら、早く渡してきて。たぶん調書室にいる』
「……うん」
……ごめんな、直丁さん。
ここまで読んで下さりありがとうございます!
出来れば次回も読んでいただけると嬉しいです!
出来れば☆やブクマなどを頂けるとモチベにつながります。もし、少しでも面白いと思ってくださったらぜひ、御気軽にポチッとして頂けると嬉しいです!
よろしくお願いします(*・ω・)*_ _)ペコリ




