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三章その3 手土産

 ファミレスを出て、陽二と別れた。

 腕時計を見ると、想像していたよりも時間は経っていなかった。

 まだ吹雪との待ち合わせまで余裕がある。

 どうやって余った時間を潰すか考えつつ、何気なく周囲を見回した。ふとレトロな雰囲気のおもちゃ屋が目に留まった。


 今もまだこんな店が残っているのかと思い、興味本位で中に入ってみる。

 しかし店内にあるおもちゃは古いものが多く、俺が生まれる前の戦隊ものの変身グッズさえ新しく見えた。

 何かまほろに手土産でも買おうかと思ったがこれじゃあ無理そうだなと諦めかけた時、ふとカウンターにある花火セットが目に入った。

 店番に聞いたところ、毎年買い替えているから使用期限は大丈夫だというので、それを購入した。


 待ち合わせ場所に向かう途中、道行く人に何かを手渡している女性を見かけた。

 ティッシュだろうと思って受け取ると、それは意外にもマッチ箱だった。

 確かにこういった実用品広告の元祖はマッチ箱だと聞くか、まさか現代でもやっているとは驚きだった。

 せっかくもらったが、煙草を吸うわけでもないので持て余すことになりそうだ。しかし捨てるのも勿体ないのでポケットに入れておく。それに使う機会が思い浮かばないわけでもない。

 駅のロータリーに着くと、ちょうど見覚えのある高級車が目の前で止まった。

 運転席の窓が開くと鉄面皮のメイド、吹雪の顔が見える。


「お待たせしました」

「俺もちょうど今来たところだ」

 俺が手に持っているおもちゃ屋の袋を見て、吹雪はふと眉をひそめた。

「それは?」

「まほろへの手土産だ」

「……手土産ですか」

「別に危険なものが入っているわけじゃない。吹雪が見ている前で渡すから、不安だったら取り上げればいい」

 吹雪は頷き、右手で何か操作した。すぐに後部座席のドアが自動で開いた。

 俺はそこから車に乗り込む。涼しい空調が、猛暑の中にいた体に心地いい。


 中は広々としており、椅子に座って手足を思い切り伸ばせるぐらいのスペースがあった。座席は程よい柔らかさで、座り心地がよさそうだ。それに何だかいい香りがした。

 車に乗ってすぐ、吹雪は振り返って俺に何かつきつけてきた。

 反射的に思わず両手を上げた。

「……何してるんですか?」

「いや、撃たれるかと思って……」

「これが拳銃に見えますか?」

 吹雪が手に持っていたのは桃色のパッケージの袋と丸みを帯びたスプレー缶だった。

「……見えない」

「とりあえずこれを使ってください」


 押し付けられる形で俺はそれを受け取った。

 パッケージにはそれぞれ横文字の商品名、加えて汗拭きシートと制汗デオドラントと書かれていた。つまり臭いと言いたいのだろう。

「……分かった。使うから見るなよ」

「心得ています」

 車が動き始めたが、振動がまったくない。さすが高級車だ。


 俺は服をたくし上げて、汗拭きシートで体を拭いた後にスプレーを吹き付けた。かなり冷たかったが、さっきまで猛暑の中にいたからか特に気にならなかった。

「使い終わったが、どうすればいい?」

「差し上げますので、体臭には常に気を遣うようにしてください」

「……お前は俺の彼女か」

「ジー様には彼女はいらっしゃらないのですか?」


 予想していなかった切り返しに、俺はちょっと面食らった。

「……いや、今は特にいないけど」

「以前はいらっしゃったんですね」

 胡蝶のことが頭に浮かび、何とも言えない思いが胸を占めた。

「まあな……」

「ジー様をお慕いになるとは、その方はよっぽどのもの好きですね」

「そうだな。物好きだったな」

 一拍置いて、吹雪は淡白な口調で訊いてきた。

「やはりお振られに?」

「……あるいは、そういうことになるのかもな」

 それ以降吹雪は沈黙し、会話自体が途切れた。


 車内には無機質な静寂が満ちた。空間が広いせいか、沈黙による息苦しさのようなものは特になかった。しかしそのせいで、思考が放し飼いにされた動物のように、俺の意志とは関係なく様々な記憶を頭の中に取っ散らかした。

 俺は溜息を吐き、窓の外を見やった。

 太陽を遮るような位置に、白い入道雲が浮かんでいた。

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