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創り人の箱庭  作者: サボ
第四章
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4-24『二度目の帰還』

第四章

第二十四話『二度目の帰還』



 サンシュがドアを開けてくれた時、先に見えたのはやっぱり真っ白な空間だった。

 草原にぽつんとドアが立ってるだけなんだから、それを開けて本来見えるのは同じ風景のはずなのに。

 それを確かめてから、サンシュは躊躇いなくドアをくぐった。

 最初の異界のときもそうだったけど、この場で一番地位のある人が、こんな正体不明のドアを真っ先にくぐるのってどうなんだろ?

 そう思いはするものの、ファービリアさんもサンシュも、前を行くって決めたら誰にも譲らないんだろうな、なんて思いもする。

 それが判ってるから、筆頭護衛の二人も止めなかったのかもしれない。

 そんなことを考えながら、私はヒールに連れられるように、三番目にドアをくぐった。

 この順番、結局二番目の異界でずっと続いた並び方だな、なんて思いながら歩ける辺り、最初の異界のときよりは余裕があったのかもしれない。

 そしてあの時と同じように、ドアをくぐって瞬きをした瞬間に、視界が……世界が変わる。

 暗いけど、銀色の柔らかな光に溢れた場所。

 異界では最後まで感じることのなかった、温もりが確かにある場所。

 私がよく知る人たちが、ずらりと並んだ場所。

 ああ、良かった。

 私たちはまた、この場所に帰って来れた。

「お帰り」

 あの時と同じように、真っ先に声を掛けてくれたのはアルフォンス陛下だ。

 優しく穏やかな笑みを浮かべて、真っすぐに私を見て出迎えてくれる。

「お帰り、みんな」

 続けられた言葉も、あの時と同じだと思う。

 それに対して、私が感じることも同じだった。

「ただいま、帰りました」

 やっぱり、私が帰ってくる場所は……『ただいま』っていう言葉が自然に出てくる場所は、ここなんだ。

 記憶を全部持った私がどう感じるかは判らない。

 だけど少なくとも、今の私が帰りたいと望む場所は、ここだ。

「よう戻った!」

「はぎゅっ!?」

 既視感。

 めっちゃ既視感。

 前も帰って来た時、こんな感じで横ざまからタックルされて、喉の奥から変な声が漏れて、視界が白黒に一瞬染まった。

「ヒールがおったのじゃ、傷はないな? 痛みはないな? 何も損のうておらぬな?」

 矢継ぎ早に言いながら私の両頬を包み込んでくるのは、ファービリアさんだ。

 間近で見る心配げな顔はいつも通り美の権化で、こっちの顔が赤くなる。

「おお、このように一人だけ髪が乱れて、可哀想に……!」

「あ、わりい。それ、俺がやった」

 物凄く悲壮な顔をするファービリアさんに、サンシュがけろっと声を掛ける。

 そうえばぐっしゃぐしゃに頭を掻き混ぜられたままだったっけ。

「何をしておるのじゃ貴様っ!」

「そこまで睨まれることじゃねえだろ!?」

 私を庇うように抱き締めて、なかなかの剣幕で睨み付けるファービリアさんに、サンシュは叫び返す。

 あ、あはは。

 なんか、いつも通りだなあ。

 ちらっと見れば、やっぱり立場を取られちゃったような陛下は少しだけ苦笑してる。

 済みません、陛下。

 私が謝ることじゃないかもしれないけど、済みません。

 心の中でそんなことを思った私の目は、ふと別の方向に向かった。

 意識して探したわけじゃないけど、こっちを見てたリクと目が合う。

「……」

 この場での自分の立場を弁えてだろう、声を掛けてくることはなかったけど、リクは心底穏やかに、安心したような微笑みを向けてくれた。

 それに微笑み返して、改めて帰って来たんだと力が抜けた。





 異界から戻ってきた私たちは、前回と同じように静かな会議室みたいなところに移動した。

 そこでやっぱり前回と同じように、報告会みたいなことをする。

 前は大筋を説明してくれたのはファービリアさんだったけど、今回はウェルバニーさんがその役目を担ってくれた。

 立場的にはサンシュがそうするべきなのかもしれないけど、彼は『俺よりウェルのほうが説明役に向いてる』って最初に宣言した。

 異界に行ってる間はあんまり気にならなかったけど、他の誰も異議を申し立てなかったから、やっぱりそうなんだろう。

 そういえばほぼ初対面のとき、雑な説明されたことがあったっけ。

 そんなことを思っていられたのも、ウェルバニーさんが説明できることを言い切るまで。

 北の大樹の核に会うまでや、そこから先の説明は、私とサンシュしかできない。

 低く静かな声で、過不足なく滔々と異界での出来事を話してくれたウェルバニーさんには到底及ばない、私の拙い報告を、やっぱりみんな静かに聞いてくれた。

 言葉に詰まれば、前と同じように、ファービリアさんやヒイラギさんが優しく静かにフォローしてくれる。

 前とは違って今回は同行してないファービリアさんだったけど、私が話しやすいようにしてくれるのは同じだった。

 こういう席で、ファービリアさんやヒイラギさんは、いつもそういう役目を担ってるのかもしれない。

 二回目になっても、やっぱりすらすらとはいかない私の報告を、前と同じように皆さん根気強く聞いてくれた。

 感想も交えた私の報告を全部聞き終わった皆さんは、前とはちょっと違う、不思議そうな顔をしてる。

 あれ?

 こんな不思議そうな顔されるようなこと、言ったっけ?

 いや、異界で起こったことは、全部不思議なことと言えばその通りだけど。

 異界の話はこれで二度目だし……。

「ありがとう、アディ」

 ついきょろきょろと視線を彷徨わせてしまった私に、陛下が穏やかに微笑んでくれる。

「あ、は、はい……」

 なんともいえない空気はそのままだったけど、陛下の静かな笑顔に、ほっと力が抜けた。

 この人の穏やかな表情は、いつでも周りを落ち着かせてくれるな。

「ヒイラギ、何か訊いておきたいことは?」

「そうですね……」

 陛下から前と同じ言葉を受けて、ヒイラギさんは真っすぐに私を見る。

「前と同じことを訊くけど、話し忘れたこととか、逆に言い過ぎたって思ったことはあるかい?」

「ええっと……いえ、ないと思います」

 ううん、と首を捻ってひと通り考えてから、首を振った。

「じゃあ、私から……というより、私たちから一つ質問なんだけど、『カミサマ』っていうのはどういうものなんだい?」

 小さく首を傾げるヒイラギさんの前に座ったゴラちゃんも、同じように小首を傾げる。

 なんか可愛い。

 とか考えてる場合じゃないか。

 皆さんが不思議そうにしてたのって、異界の先であったこととか、博士に言われたこと云々じゃなくて、私が話した感想の一つに対してだったんだな。

 この世界には神様って概念がないみたいだから、そう思うのも仕方がないんだけど。

 っていうか、神様っていう概念がない人たちに、それを説明するのってどうしたらいいんだろう?

「アディが生まれた世界だと、普通にあった存在なんだよね?」

「あ、はい。そうなんだと、思います」

 胸を張ってそうだと言い切れないのは、未だに過去の記憶が一つも戻ってないから。

 なんとなく見たことがある気がするだとか、聞いたことがあるような気がするだとか、そう思うことはあっても、はっきりと思い出したことなんて一つもない。

「巧く伝えようとか、判って貰おうとか、そういうこと考えないでもいいよ」

「え?」

 どう説明したもんだろう、と困ってたら、ヒイラギさんが苦笑しながらそんなことを言ってくれた。

「元々こっちにはない概念の説明だからね、難しいだろう? 私たちだって、アディに『祝福』や『呪い』のこと、巧く説明はできてないだろうからね」

 苦笑を滲ませるヒイラギさんの言葉に、ゴラちゃんがうんうんと頷いてる。

 やっぱり可愛い。

 陛下や四方領主やその筆頭近衛たちに囲まれて報告するなんていう緊張感しかない場所で、味のあるゴラちゃんの存在ってかなりの癒しだと思う。

 それはさておき、ヒイラギさんの気遣いは相変わらず凄いなあ。

 普通、『そういう概念がない相手への説明だから難しいよね』なんて、そんな発想になる?

「アディの言葉でいいよ。その『カミサマ』っていうものを説明して貰えるかな? それを私たちがどう飲み下すかは、私みたいな存在の役割だよ」

 優しく微笑んで、ヒイラギさんは静かに首を傾げる。

 この人、本当に色々と凄いな。

 こんな風に言えるようになるまで、きっと沢山の葛藤があったんだろうなあ。

 まあでも、確かに私も『祝福』や『呪い』のことや、魔術のことなんか、『そういう世界もあるんだろう』って無理矢理飲み下してる感じだからなあ。

 あと、世界の果てがあるとか、そこに壁があるとか。

 おあいこといえばその通りなんだろう。

「え、ええっと、それじゃあ」

 できるだけ簡単な言葉で、できるだけ自分の思ってる存在と近いように話そうと改めて思ってから、ふと気付く。

 そういえば、『神様』っていう存在が当たり前の世界でも、それを言語化しろって言われたら難しいもんだわ。

 いや、『神様』なんて言葉に限らず、『右』っていう概念を『右』って言葉を使わずに説明するのが難しい、っていうのと同じなのかもしれない。

 辞書で言葉を説明してる人の凄さを、改めて噛み締めるな、これ。

「『神様』っていうのは、こう……自分たちの言葉で説明できないことの一切を押し付ける相手、みたいな」

「うん?」

 私の言ってる意味が判らなかったんだろう、ヒイラギさんは喉を鳴らすような声で先を促した。

 小首を傾げるヒイラギさんに合わせるように、ゴラちゃんも小首を傾げる。

 可愛い。

 いや、だからそうじゃない。

「ええっと……理屈で説明できないことを、全部その存在が関わってるってことにする相手っていうか……例えば山を作ったのは誰か判らないから神様なんだとか、雨が降らないのは神様が怒ってるからだとか、死後の世界は神様が牛耳ってるだとか、そういう感じで……」

 自分で説明しといてなんだけど、最後の一つは難癖付けてるような感じがしなくもない。

「人じゃ到底敵わない力を持ってるのが神様だから、崇拝したり危険視したり、色んな扱いをされてて。神様に祈ったらその力を貸して貰えるとか、そういうこともあったりなかったり……って、つ、伝わります?」

 自分で言ってて不安になって、思わずそんなことを訊いてしまった。

「ううん……成る程ねえ」

 説明した私ですら納得いってないことを、それでもヒイラギさんは『成る程』と言って頷いてくれる。

 その表情は怪訝そうっていうよりも、しみじみ噛み締めてるような、意味不明なものをなんとか飲み下そうとしてるような、なんともいえない顔をしていた。

「まあ、その辺りはこっちでどうにかするとして」

 そう言って、ヒイラギさんはちらりと陛下のほうを見る。

 陛下はそれに小さく頷いて、穏やかな笑みを浮かべた。

「ありがとう、アディ。今日はこれで大丈夫だから、ゆっくり休んでね」

「え? あ、は、はい」

 にこにこと微笑む陛下に釣られて頷いたけど。

 私、これだけでいいのかな?



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