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創り人の箱庭  作者: サボ
第三章
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3-11『お茶会をしよう』

第三章

第十一話『お茶会をしよう』



 直に尋ねてみるがよい。

 そうファービリアさんは言ってくれたけど、あの人とまた偶然出会うことができるだろうか。

 前にヒールが図書館に連れて行ってくれた時には、偶然会えたけど。

 領主代理としてここに来てるんだし、きっと色々と仕事を抱えて、いつも忙しくしてると思う。

「私って、そう簡単にヒイラギさんに会えるんでしょうか?」

 ぽつんと呟いた言葉に、ファービリアさんは目を丸くした。

 きょとんとした表情すら美しいとか、本当にこの人もどうかしてる。

 この閉じられた世界で各領地の代表になる人たちは、何かしらどうかしてないと駄目なんだろうか。

「そなたが望めば、大抵の謁見は叶うであろうよ」

 変なことを考えてた私に、ファービリアさんはあっさりとそんなことを言った。

 え、ええと?

「い、いやいやいや!?」

 声が引っ繰り返った。

 そりゃそうだろう、『望めば誰でも会ってくれるよ』なんて言われて、『あ、そうなんです?』とかあっさり受け入れるには、相手の立場が重過ぎる。

「忘れてはおらぬと思うが、そなたは『稀人』ぞ?」

「そ、それは忘れてないですけど……」

 自分がこの世界で『稀人』と呼ばれて、崩れかかったバランスを元に戻せるんだとか言われてるのは、よく判ってる。

 そんな凄い人っていう自覚はまだないけど、みんながそう望むなら、できるだけのことをして応えたいとも思ってる。

 だけど、それがイコール、『いつでも要人に会えるんだよ』なんて言葉にはならなくないか?

「確かに陛下は、そなたが世界樹の核に触れることが必要と石板が告げたと仰ったが、世界樹の核に触れるなどという絵空事、誰もどのようにすれば良いかなど知らぬのよ」

 ふ、と自嘲じみた笑みを浮かべて、ファービリアさんは続ける。

「実際に西の大樹の核には触れて見せたが、それが全て、『あの扉の向こうにそなたが赴いたから』という事実だけで成し得たことではないやもしれぬ」

 私は確かに、あの異界で大樹の核に触れた……らしい。

 曖昧な言い方になってしまうのは、大樹の核と思しき、あの巨木から生えたような白黒の女性に触れたことが、そのまま核に触れたっていう実感に私自身でさえ繋がらないから。

 次の異界に行った先で、また同じように巧くやれる自信も確信も、私にはなかった。

「本当はな、そなたの望むこと、全てを許容してやれれば、それが一番良いのではあるが」

 そう言って、少し寂しそうに微笑わらうファービリアさんを見て、私は漸く、彼女が言いたいことを理解した。

 『稀人』という存在はあまりにも貴重なせいで、そう簡単に危険に晒すわけにはいかないんだろう。

 幾ら陛下の近衛騎士である三人が付いてくれているとはいえ、堂々と危険地帯を歩く許可が下りるわけじゃない。

 だからといって一つの部屋や牢屋に閉じ込めて、異界に行くこと以外の全てを拒むなんてことをしたら、その先で本当に大樹の核に触れることができるのか保証はない。

 この世界になんの執着も持たない人が、それを救う為に何かができるなんて、説得力がなさ過ぎる。

 危険の少ない場所で、できる限りの便宜を図ってやるから、世界を救ってみせろ。

 極端に言えば、そう告げられてるのと同じだ。

 これもきっと、一種の飼い殺し。

 そう思いはするけど。

「大丈夫です。ここまで良くして貰ってるのに、それ以上は今のところ、望んでないですから」

 私は苦笑に近い笑みを浮かべて、そう答えた。

 確かにある意味じゃ飼い殺しだろう。

 もっと自由をと望む人も居るだろう。

 だけど私は、今はこのままで充分だと思う。

 これから先、沢山のことを知ったら、このままじゃいられないのかもしれないけど。

 先のことは判らないから、そんな言葉を選んだ。

「左様か」

 ふ、と優しく微笑わらって、ファービリアさんは一つ頷く。

 ヒイラギさんの深過ぎる意図さえ読み切るんだ、私の考えなんて全部お見通しでいてくれるんでしょう?

 それでも微笑わらってくれるなら、私も安心してふらつける。

 例えこの先、私がこの王宮に縛られることを厭うことがあったとしても、彼女が全力で止めるならきっとそれに従うし、後押ししてくれるなら安心して飛び出そうと思えた。

 ……まあ、正直言って、この王宮から飛び出して、まともに生きていける自信、欠片もないんだけど。

 いやでもほら、選択肢があるって、大事だよね!

「ふむ、しかしそなたが要らぬ遠慮をしておるというのは気に入らぬ」

「は?」

 急に話が変な方向に向かいそうな気配がして、私は何度も目を瞬かせた。

「うむ! 余によい考えがある!」

「え、は、は、い?」

 光を振りまく満面の笑顔でそう断言されても、何も返す言葉がない。

 視界の端でリクとクレアさんが、なんか『あ、始まったよやれやれ』って感じの顔をしてたけど、それを追及する暇もなかった。





 ファービリアさんの『良い考え』。

 それは意外にも……って言ったらちょっと申し訳ないけど、とにかく割りと普通の考えだった。

 『今から余と茶会をしよう』。

 ファービリアさんが満面の笑みで告げたのは、そんな大人しいものだったんだ。

 私が領主さんたちにいつでも謁見できるような立場とは思えない、とか言ったもんだから、じゃあもっと仲良くなれるように盛大なパーティでも開こうとか言い出すかと思った。

 ファービリアさんって、なんかこう、派手好きというか、思い切りがいいイメージだし。

 お茶会ならまあ、なんとなく『貴族の嗜み』みたいなイメージがあるし。

 大体、向かい合って紅茶飲んで話してるのの延長だろうって、そう思ったんだけどさ。

 まさか、ゲストを呼び付けるとは思わなかったよね。

「なあ、俺、アディが茶会に呼んでるっつうから来たんだけど?」

「その通りじゃが、なんぞおかしなところでもあるか?」

 場所は、私にと用意された離宮の庭にある東屋。

 目の前に並ぶのは、ファービリアさんが『茶会をしよう』と言ってから小一時間程で完璧に用意された、中央自慢の茶葉とお菓子。

 これをこの短時間で手配してセッティングしてくれたルーディアさん、本気で凄いと思うくらい、きらきらと輝く極上品ばかりだ。

 で、使われてる茶器や菓子を盛られた器さえも一級品とひと目見て判るくらいの滅茶苦茶に優雅な場で、思い切り溜め息を吐いてるのが、ゲストで呼ばれたサンシュ。

 その向かいに座る私の横で、実に優雅な所作でティーカップを持ち上げてるのがファービリアさん。

 リクたちお付きの人たちは、私がお願いしてそれぞれの主の横に座って貰ってるんだけど……いやまあ、リクの主は私じゃないんだけどさ。

 そんなことより、いきなり呼ばれたサンシュとウェルバニーさんに、本当に済みませんって言いたい……!

「……いや、別に」

 ファービリアさんとの対話を諦めたように盛大な溜め息を吐いて、サンシュはティーカップを持ち上げた。

 見た目と性格からして、お茶も無作法にがぶ飲みしそうな感じなんだけど、サンシュは実に優雅な所作で紅茶をひと口、味わうように飲む。

 隣のウェルバニーさんは、それを見てから同じように……いや、サンシュよりも更に優雅な手つきで紅茶を味わっていた。

 なんていうか、獣人族ってもっとがっついてるっていうか、礼儀作法がこっちとは違うようなイメージだったけど、そういうこともないらしい。

 ひょっとしたら、獣人族の中でも育ちがいいからかもしれないけど。

「アディが俺を茶会に誘うなんて、おかしいと思ったんだよ」

 はあ、と大きく息を吐き出して、サンシュは肩を竦めた。

「あ、あの、ごめん、ね?」

 なんとなく、サンシュはお茶会なんて好きじゃないんだと思って、つい謝罪が口から零れる。

「いや、お前が謝るようなこっちゃねえよ」

 おどおどしてる私に、サンシュはにかっと笑って見せた。

「大方、本当はお前がやっても何も問題ねえことを、ファービリアが代わりにやって見せたってこったろ?」

 う、うわあ。

 なんなんだ、領主って。

 正直、腹芸とかなんとか、そういうものとは縁遠いように感じるサンシュなのに、ちゃんと状況を把握してる。

 とても『説明に向かない』なんて評された人とは思えない。

 やっぱり領主とか領主代行になれる人って、何かしら出来がおかしいのか?

 ファービリアさんやヒイラギさんが特別とかじゃないのか?

「いや、その、なんていうか……お茶会をやるって言って小一時間もしないうちに、こんなに豪勢な場が出来上がって、しかも領主様が二人もいらっしゃるとか、不思議としか言えなくて」

 そうなんだよ。

 そりゃ号令掛けたのはファービリアさんだけど、名目は私主催のお茶会。

 そう言い出したのはファービリアさんで、だからこそ用意されてるものは中央産ばかりだ。

 これがもしファービリアさん主催なら、メインになる全てが西のものになるってことらしい。

 そして、ついさっき言い出したお茶会に中央の最高級が用意されたのも、あれこれ忙しくしてるであろうサンシュがやって来てくれたのも、全ては『私の』茶会だから。

 いや、さあ。

 そりゃね、私は自分の価値ってものをちゃんとは理解してないかもしれないけど、これはどうなの、ファービリアさん?

「そなたが望めば、大抵のことは叶うのよ」

 光が弾けて零れるような笑みを浮かべて、ファービリアさんはさっき言ってたのと同じようなことを言った。

 なんかもう、美麗と優雅をこれでもかと盛った人を目の前にすると、何言われても返す言葉がないもんなんだな。

「本来であれば、先程申しておったヒイラギを呼び付けるのが良いのであろうが」

 形のいい唇を見惚れるほどの笑みの形にして、ファービリアさんは続ける。

「四方領主で最も気後れのせぬであろうこの狼辺りが、一番手には最適であろうよ」

 な、なんか、物凄く失礼なこと言ってない?

 そう思うのに、『はい、そうですね』とか言って頷きたくなるこの感覚は、俗にいう魅了状態ってやつなんじゃないだろうか。

「なんだよ、ヒイラギの代わりか?」

「あ、いや、そういうんじゃなくて……!」

 不機嫌そうな声のサンシュに、私は慌てて両手を振った。

 『あの人は緊張するから代わりに君ね』なんて言われたようなもんだ、そりゃ気分を害して当然。

 なんて言えばいいのか判らなくて、ただ慌てるだけの私を見て、サンシュは豪快に笑った。

「はっはは! 冗談だ、冗談。どうせいつも通り、こいつが勝手にさくさくやったんだろ?」

 親指でファービリアさんをしゃくるように指差してから、サンシュは肩を竦めた。

「他の奴らと比べて、俺が声掛けやすいってのは当たり前だ。他の奴らは、揃いも揃ってうさんくせえからな」

 い、いや、胡散臭いってことはないと思うし、その前にそれってファービリアさん目の前にして言っていいやつ?

 あわあわしながらファービリアさんを見てみたけど、『胡散臭い』と正面から言われたはずの彼女は、至極いつも通りの涼しい顔だ。

 隣に座るクレアさんはちょっとだけ眉を寄せてるように見えるけど、食ってかかるってこともない。

 リクやウェルバニーさんはいつも通り静かな様子で、慌ててるのは私だけみたいだった。

「え、ええっと……?」

 なんて言えばいいのか判らなくて、私は曖昧な笑みを浮かべて、言葉にもならない声を零す。

「あ~、なんだ」

 そんな私を見て、サンシュはがりがりと頭を掻いた。

「俺を呼び付けるくらい、気にすんなって話だ」

 に、と笑って、あっけらかんとそう言ってくれる。

 本当はあれこれと忙しくしてるだろう立場の人だ、その言葉通りに受け取っちゃいけないだろうって、そう思いもする。

 だけど、それを弁えた上での我が儘を申し入れるくらいは、許されるのかもしれない。

「うん、判った」

 そう思いながら頷けば、サンシュは楽しそうに笑ってくれた。

 人間とは顔の造作自体が違うのに、不思議と表情は伝わってくるもんなんだって、改めてそう思う。



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