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創り人の箱庭  作者: サボ
第三章
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3-9『女王様御来訪』

第三章

第九話『女王様御来訪』



 リクから割りと……っていうか、かなりとんでもないお願いをされた、そのすぐあとのこと。

 なんとなくお茶の仕切り直しをしようと思って、ルーディアさんを呼ぼうとした、その時だった。

 す、とリクが立ち上がる。

「……?」

 何をしようっていうんじゃなく、ただ私の傍に立ってリビングの出入り口のほうを見る彼に、首を傾げた。

 だけどリクは私に何か言うわけでも、視線を向けてくれるわけでもない。

 私は戸惑いながら、リクと、彼が見てる先……ドアのほうを見比べた。

 特に何も変わりはないと思ってた、その矢先。

「?」

 なんか、ドアの向こうから騒がしい音が近付いてくるような?

 と、思った直後。

 すぱあん! と小気味のいい音をさせて、そのドアが開いた。

「余が参ったぞ、アディ!!」

 それとほぼ同時に、物凄い自信に満ち溢れた声が響き渡る。

 思い切りよくドアを開けたのは、ファービリアさんだ。

 今日もきらきらと輝かんばかりの美貌に大輪の花が咲き零れるような満面の笑みを浮かべる彼女の背景には、それこそ光を放つ花が舞ってるみたいだった。

「わ、我が君……!」

 困惑しきりって顔のクレアさんが、電飾でも背負ってんじゃないかって人の後ろで慌ててる。

「い、いらっしゃい、ませ?」

 なんて言えばいいのか全然判らなくて、結局間の抜けた言葉しか出せなかった私に、ファービリアさんは更に華やかに微笑んだ。

「うむ!」

 満足そうに一つ頷いて、ファービリアさんはずんずんと室内に入ってくる。

 ああ、今日も絶好調に麗しい。

 そんな様子を見ながら、リクが一つ溜め息を吐いた。

「ゆっくりと休めたか?」

「あ、は、はい……」

 近付いて来るファービリアさんの勢いに飲まれるように、反射的に立ち上がりながら、私は何度か頷く。

 騎士二人の手を掴んだまま、物凄い休んだ自分を思い出して、逃げ出したくなったけど。

「ふむ……?」

 間近にやって来たファービリアさんは、私の顔を覗き込むようにして目を細める。

 ち、近い……!

 美に愛されたとしか表現のしようのない麗しいお顔が、近過ぎて緊張する……!

「髪も肌も手入れが甘い!」

「は、はい!?」

 突然強い口調で断言されて、私の声は完璧に引っ繰り返った。

 視界の端で、リクが深く溜め息を吐きながら片手で顔を覆ってるのが見える。

 それと、クレアさんが両手で顔を覆ってるのも。

「あれだけ長時間、砂漠という過酷な環境にったのじゃ、肌も髪も傷んでおる! 余の加護が多少あったとはいえ、なんのケアもせずとも良いものではない!!」

「え、ええええ!?」

 拳を握り締めて力説するファービリアさんを見ながら、意味のない声が喉から出ていくのを聞いているだけで精一杯だ。

 ああ、でもそういえば、ファービリアさんも私と同じようにあれだけ強い日差しと乾燥に曝されてたのに、今目の前に居る彼女は普段と何も変わらない、圧倒的な美の化身だ。

 顔や首の肌は勿論のこと、髪の一筋に至るまで、輝かんばかりの美を誇る、いつものファービリアさんだった。

「クレア!」

「は、はっ!」

 唐突に呼ばれたクレアさんは、若干どもりつつ、それでも踵を踏み鳴らして筆頭近衛としての姿勢で応える。

「余のケア用品を持って参れ! 今すぐに!!」

「は? あ、はっ!!」

 完全に意味不明な指令を出されたのに、それでも即座に踵を鳴らして礼を返すクレアさんって、物凄い有能だよね。

 勢いに飲まれきった私の頭の片隅が、そんなことをぽつりと呟いた。



 いきなりやってきたファービリアさんが、物凄い意味不明な命令をクレアさんに出して暫く。

 誰も口を挟めない、圧倒的なオーラを振りまきながら、私の肌や髪のケアをし終わったファービリアさんは、なんだか物凄く満足そうな顔でお茶を嗜んでいらっしゃる。

 終始圧倒的な先導力を見せつけまくったファービリアさんが、ひと息吐くところを見計らったかのようにお茶とお菓子を出してくれたルーディアさん、本気で有能過ぎるんじゃないだろうか。

 私はといえば、ファービリアさんが凄い勢いで髪と肌のケアをしてくれるのをただ受け入れるだけで、なんか疲労困憊って感じになってた。

 リビングのソファーに腰を下ろしてるけど、正直言って、ちょっと横に倒れたい気もする。

 横にはリクが座ってるから、そんなことできやしないんだけどさ。

 それでも、ファービリアさんが手入れしてくれた肌も髪も、なんかつやつやしてるのが鏡を見なくても判るくらいで。

 肌はつやつやしてるのに表情は若干疲れてるっていう、妙な状態になってるわけだ。

「閣下……流石に自ら離宮の扉を開けるというのは、いささかやり過ぎでは?」

 やっとひと息吐いたところで、リクが静かな声でそう言った。

 ファービリアさんは『おや?』とでも言いたげに大きな目を瞬かせる。

「なんじゃ、珍しいこともあるものじゃの」

 物凄く面白いものを見付けた、とでも言わんばかりの笑みを浮かべて、ファービリアさんはティーカップをソーサーに戻した。

「公の場であれ私的な場であれ、そなたが余に意見するとは」

「……恐れ入ります」

 にやにやと微妙に性質たちの悪い笑みを浮かべるファービリアさんに、リクは静かに頭を下げる。

「しかし、この場でこの言葉を告げられるのは、自分以外にはないかと」

 それでも真っすぐにファービリアさんを見て、リクはそう言い切った。

 ファービリアさんの横に座るクレアさんは、困ったような、慌てたような顔で、二人を見比べている。

「そうよのう! 確かに、それはそうであろうよ!」

 口元を手の甲で覆って、ファービリアさんはころころと笑った。

 ええっと、確かルーディアさんに教わったことによれば、常に護衛やお付きを従えてるような貴人は、自分でドアを開けるようなことはほぼ皆無って話だった。

 自覚はいまいち薄いけど、私も常に護衛の騎士が居る身分だから同じらしい。

 ついでに言えば、貴族同士の行き来は先触れを出すの礼儀だから、貴族の人たちに会いたいと思ったら誰かに先触れをお願いしなきゃいけない。

 私はこの世界で爵位があるわけじゃないけど、それと同等の立場と認識されてる。

 つまり、なんのお知らせもなく私の部屋のドアを思い切り自分で開けたファービリアさんは、色んなお決まりを盛大に破った無礼者、っていうことだ。

「確かに、無礼な来訪であったことは詫びよう」

 艶然と微笑みながらの詫びは、言葉で言ってるだけで全然心が籠ってないように感じた。

 ファービリアさんは心から悪いと思っていればちゃんとそれと判る言い方をしてくれる。

 だから、心が籠ってないように感じるってことは、本当に心が籠ってないってことだ。

「じゃが、余とアディの仲じゃ、多少の無法は許されようぞ」

 そう言って、ファービリアさんは実に楽しそうに、ころころと笑う。

 あ、あはは……なんて返せばいいのか、よく判らないな。

「確かにびっくりしましたけど、特に用事があったわけでもないので、大丈夫なんですが」

 そう言ってから、私はファービリアさんを見つめる。

「できれば次からは、お越しになることを先に教えて頂けるとありがたいです」

 異世界からの来訪者としてここに居る私に、これといって明確な予定があることは少ない。

 だから、私に会いたいと言ってくれる人がいつ来てくれても、迷惑だってことはないんだ。

 だけど、やっぱり急に来られるとびっくりするし、なんの準備もなくお出迎えしていい相手なんてほとんど居ないと思うんだよね。

「ふむ、左様か」

 自分でもどんな言葉を告げればいいのか判らない、躊躇うような顔になってるであろう私を見つめて、ファービリアさんは穏やかに微笑んだ。

「あ、あの、別に来てくださるのが迷惑だとか、そういう話じゃなくてですね……?」

「よい」

 誤解しないで欲しいと思いながら、手をぶんぶんと振る私に、ファービリアさんは優しく微笑んで首を振る。

「今は気が急いて押し入ったまでのこと。常ならばこのようなことはせぬよ」

 優しい、優しい微笑みは、心から私を心配してくれてるっていうのがよく伝わってくるものだった。

 普通の人みたいに、会いたいと思ったからちょっと寄ってみたっていうのを体験したくて、こんなことをしたわけじゃないって、その顔を見てやっと気付く。

 異界でのあれこれを身近で見てたから、ただただ心配してくれていたんだろう。

 それだけのことで貴族の長とも言える人が色々すっ飛ばすのはどうかと思いはするけど、それだけ心配してくれてたんだろうと思うと、なんだかこっちの表情も緩む。

「はい、来てくれて嬉しいです、ファービリアさん」

 私はそれだけ告げて、にこりと笑った。

 貴方が来てくれたこと、それそのものが嫌だったわけじゃない。

 でも、貴族中の貴族である貴方の立場で、やってはいけないことをやって面倒なことになるのは避けて欲しい。

 私の本心はそんな感じで、この遣り取りで全部伝わるのか、それは判らなかった。

 だけどきっと、ファービリアさんなら、察してくれるんじゃないだろうか。

 輝かんばかりの美貌と、学者が裸足で逃げそうなほどの努力に裏付けられた知識と、上に立つ者としての慈愛と厳しさを持ち合わせる彼女なら、きっと。

「誠、殊勝であることよのう」

 なんだかしみじみとそんなことを言いながら首を振ったファービリアさんは、ふと真っすぐな目でリクを見た。

「じゃからこそ、一つ問うておく」

 殊勝、と評価してくれた対象は私なのに、ファービリアさんは真っすぐ、リクを見ていた。

「なんぞ面倒事を頼まれはせなんだか?」

 え、な、なんでそういう話になる?

 しかも私にじゃなくて、なんでリクに訊いちゃうのかな?

 私は戸惑いながらファービリアさんとリクを見比べた。

「……『塔』へ連れて行ったほうがいいと」

「ほう?」

 リクは少し躊躇うように間をおいてから、陛下の花壇であった遣り取りを、報告し始める。

 散歩ついでに陛下の花壇を見せて貰ったこと。

 そこで陛下に会って、手を繋ぐ形で『祝福』や『呪い』を消し、花に触れて貰ったこと。

 片隅でゴラちゃんに会って、ヒイラギさんからの言伝を聞いたこと。

 最初に結論を告げたあと、順を追って無駄の一つもなく、リクは静かにあったことを語ってくれる。

 ファービリアさんは片眉を持ち上げて小さく頷きながら、リクの無駄のない報告を全部聞いた。

「成る程の……」

 聞き終わったファービリアさんは、小さく溜め息を吐いてそう呟く。

「『塔』にるのが何ものであるのか、それはあとに説明するとして」

 そう前置きをしてから、ファービリアさんは真っすぐにリクを見つめた。

「リークレット・レヴァン。そなた、一族の悲願をアディに告げたのではないか?」

「えっ!?」

 声を上げたのは、私だけだった。

 正面から告げられたリクも、ファービリアさんの隣に座るクレアさんも、何も言わなかった。

 ただ、クレアさんははっとしたような顔をファービリアさんに向けたけど、リクは表情一つ変えず、視線も動かさない。

 まるでリクだけが、ファービリアさんがそう言うだろうと判ってたみたいだ。

「……はい」

 小さく、小さく息を吐いて、リクは短く答える。

「ど、どうして、そんなことが……?」

 確かに真実ではあるけど、どうしてその結論に達したのか全然判らなくて、私は首を傾げた。

「何、そう難しいことではないよ」

 戸惑う私に優しく微笑んで、ファービリアさんは麗しい笑みを浮かべる。

「そう成るよう、あの娘が仕向けた。ただそれだけのこと」

「は、はい……?」

 さらりと言われた言葉が全く理解できなくて、私はただ、間の抜けた声を上げることしかできなかった。



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