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創り人の箱庭  作者: サボ
第二章
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2-21『お偉方の確認事項』※サンシュクリット視点

第二章

第二十一話

『お偉方の確認事項』※サンシュクリット視点



 理屈も意味も判らねえ。

 あの妙なドアの先から帰ってきた奴らの報告を聞いた正直な感想がこれだ。

 陛下がアディたちを退室させて少し。

 妙な沈黙が広い部屋に横たわる。

「……で?」

 その沈黙がむず痒くて、俺はがりがりと頭を掻きながら、どうにもならねえ言葉を吐き出した。

 それでもそのあとに誰かが喋り出すってこともなく、またイヤな沈黙が訪れる。

 ああ、イヤだイヤだ。

 無駄に時間だけが過ぎるこういう沈黙は、マジで意味がねえ。

 平均寿命がみじけえ種族舐めんな。

 俺たち獣人族に、無駄にしていい時間なんて一秒もあるか。

「おいヒイラギ」

 軽く握った手で口元を隠すようにして緩く俯いてる奴に声を掛ければ、ちらりとこっちに視線を放ってくる。

 冷静そうなその目には、『なんで真っ先に私なんですか』って言葉がありありと浮かんでた。

 黙ってりゃお付きのサイゾウと同じくれえ冷徹そうなヒイラギだが、そうでもねえってのがなかなかおもしれえもんだ。

「こういうときの解説役は、お前だろ?」

「誰がそう決めたんですか……」

 にやっと笑って、誰も何も言わねえ無駄な時間を仕切れと言えば、深く溜め息を吐く。

 だが、イヤとは言わねえ。

「はあ、これも若輩の務めですか」

 聞き慣れた言葉は、言い訳にちけえと思う。

 ヒイラギはまだ東の領主じゃねえ。

 確かにこの席に座る奴らの中じゃ、一番立場がよええだろう。

 だが、そりゃ飽く迄形式上の立場ってだけの話だ。

 こいつがどれだけ使える奴か、そんなもんはこうして肩を並べてる俺らが一番よく判ってる。

 この場所に並べるだけの肩書があるなら、そういうのが一番得意な奴がやりゃいいだけの話だ。

 ま、誰より先にこいつの優秀さを見抜いて、なんだかんだ公の場に連れ回し続けた現領主の作戦勝ちとも言えるか。

 それでも書類上の立場は誰よりよええんだって自分から伝えるようなこの言葉は、多分、コイツなりの言い訳だ。

「取り敢えず、ファービリア閣下やアディから伺ったお話は、全部、ひと言の例外もなく、実際に起こったことだと認識します」

「ふむ」

 回りくどい言い方をするヒイラギに、ファービリアはただ一度頷く。

 俺も含めてこの場に居るほとんどが掴み切れねえ報告を、コイツはもう飲み下してるらしい。

「アディが触れた、人の形をした、木の幹から生えていたもの。それは恐らく、現状の西の大樹の化身、それそのもので間違いないでしょうね」

「そう言い切る理由は?」

「その存在に最も近いファービリア閣下が『そう』だと思ったことと……」

 俺の問い掛けにそこまで答えて、ヒイラギは一度目を伏せた。

 誰も何も言わずに、ただ無言で先を促す。

 その見えない圧力に溜め息を吐いてから、ヒイラギはもう一度口を開いた。

「腐っていたからですよ」

「は?」

 その言葉は俺の想像の斜め上で、ただ無意味な声しか返せなかった。

 腐ってた?

 いや、確かにファービリアやアディは『腐敗臭がした』とは言ってたが、だからってなんでそれが大樹の核だって証拠になる?

「本来であれば南の大樹のみ力が弱まるこの時期に、東も弱まりつつあります。未だ嘗てそんな歴史が文章として残されていないので正確なことは判りかねますが、大樹の衰弱が二本だけで終わるとは、私には思えません」

 そりゃこの場に揃ってる連中、全員が思ってることだろう。

 どんな歴史書を紐解いても、黎明の石板に尋ねてみても出て来ねえ異常事態だ、このままで済むとは誰も思っちゃいねえ。

 ……って、だから、か?

「恐らく、西の大樹も同じようになるんでしょう」

 俺が結論に辿り着いた正にそのタイミングで、ヒイラギは小さく頷いた。

「こんな状況でもなければ、『本来力を弱めているはずの大樹』以外の核から腐敗臭がしたなんて、到底理屈の通らないことです。ですが、今、この時ばかりは、そのほうが理に適っています」

 そう言って、ヒイラギは細く息を吐く。

 表面化はしてねえだけで、西もヤバイって話、か。

 こうなりゃ多分、北や中央も無傷ってわけにゃいかねえだろう。

「そのこと自体は、予想の範囲内です。改めて突き付けられると、矢張り悩ましいところではありますけどね」

 また俺の心の中を覗いたようなタイミングで、フォローみてえなことを言ってくる。

 コイツと付き合ってると慣れたもんだが、こういうとこ、ほんとに親父によく似てるわ。

「稀人は無事、西の大樹の核に触れることができた。今回の目的は確実に達したんですから、それは喜ばしいことでしょう」

 まあ、そりゃそうだわな。

 ヒイラギの言う通り、石板が告げたことを正確に達したんだから、そりゃ喜ばしかろうよ。

「問題は、アディが一人になった先の話です」

 緩い苦笑を浮かべて、ヒイラギは続ける。

「『博士』と名乗ったらしい人物が、何を目的にした何ものであるのか、全く想像がつきません」

「そうじゃのう」

 その妙な奴に会う直前までアディと同じ空間に居たらしいファービリアが、細い指先で顎を撫でた。

「せめてファービリアも一緒だったらあ、もう少し情報はあったかもしれないねえ」

 それまで黙って話を聞いていたクイニークが、独特の間延びした声で言う。

「いや、それは判らぬな」

「うん?」

 即座に首を振ったファービリアに、クイニークは目を瞬かせた。

「此度、少しの間とはいえ行動を共にして判った。アディは賢く、素直な子じゃ。異界から参った分、こちらの常識に疎いが、欠点とするならそれのみよ」

 へえ、と、俺は目を見開いてファービリアを見る。

 竜人族に次ぐ長命種の長なだけあって、ファービリアはありとあらゆる状況で、ありとあらゆる奴らと渡り合ってきた。

 人を見る目はそれこそ百戦錬磨で、頭の回転も相当だ。

 そのファービリアが手放しで誉めるような相手は、かなり珍しい。

「余が共にったところで、先程の報告以上の言葉が出たか判らぬ」

「確かに、アディが話してくれた内容は、実に鮮明で克明でした。微に入り細を穿った説明だったと言えるでしょう」

 肩を竦めたファービリアに、ヒイラギが同意した。

 そうなんだよな。

 アディが報告する前まで喋ってたのがファービリアだったから、それと比べると報告慣れしてねえたどたどしさがあったが、それでもアイツの報告に難点はなかった。

 あったことをそのまま話そうとしてたんだろう、お世辞にも滔々とは言えねえ話し方でも、細かく状況を説明してたと俺も思う。

 感想を交えていいって先に言われてたお陰で、多少は話しやすそうだったっけな。

「あの子が博士と名乗る者と対峙して告げた言葉、その遣り取り。聞いておる分に、それ以上の何かを余に引き出せたとは思えぬ」

 傲慢を絵に描いたような見た目しといて、腹の中は負けず嫌いと男としての意地が渦巻いてるようなコイツが、『自分にゃできたか判らねえ』なんて言葉を重ねて言うとはなあ。

 そりゃ、俺もアディのことは気に入っちゃいるが、俺が同じ立場だったとして、同じこと言うかねえ。

「正直言って、私がアディの立場だったとしても、これ以上の情報を持ち帰れた自信はありません」

 ダメ押しとばかりに、苦笑を浮かべたヒイラギが言う。

「情報量は圧倒的に相手が上で、しかもこっちに情報を渡す意思がない。しかもごく短時間の面会となれば、これ以上はなかなか難しいでしょう」

「まあ、そりゃな」

 ごもっとも、と頷けば、ヒイラギは溜め息を吐いた。

「寧ろ、『何も憶えていない自分のことを知っていそうな相手』を目の前に、大乱闘を演じて終わらなかっただけマシです」

「あ~、おう。俺ならその場で羽交い絞めだな」

 思わず天井を仰いで、ふ、と笑う。

 もし俺が記憶を失くしてて、目の前にそんなわけの判らん奴が現れたら、質問に答えるだとかそいつを観察するだとか、そんなんの前に首根っこ引っ掴んで地面に引き倒すわ。

「あはは~、サンシュらしいねえ~」

 クイニークは実に楽しそうにころころと笑ってるが、ファービリアはあからさまな顔して溜め息を吐いてた。

 陛下は穏やかに微笑むだけで、いまいち真意が掴めねえ。

「取り敢えず、今回の話は一旦預かって、少し検証させて欲しいんですけど」

 いいですかね? って感じで小首を傾げるヒイラギに、異を唱える奴は誰も居なかった。

 正直、すぐに次の話ができるほど、単純な報告内容じゃなかったしな。

 あの報告を多少なり纏めて終われただけ、まだマシだろう。

 っつうか、検証って何やるつもりなんだよ、コイツ。

「小難しい話はお前らに任せる。結論出たら話してくれや」

 はあ、と息を吐いてひらひらと手を振れば、ヒイラギは苦笑を浮かべた。

 どんだけ頭のいい奴らが雁首揃えて話し合ったとしても、博士とか名乗った奴が何ものなのか、そんなことまでは判りゃしねえだろう。

 それでも『先に進む道筋』を立てるのは参謀連中の仕事だろうし、肉体労働は俺らの領分だ。

「俺の出番が来たら、派手に暴れてやるからよ」

 に、と笑って付け加えりゃ、ヒイラギの苦笑がますます深くなる。

「期待しているよ、サンシュ」

 ほとんど喋らなかった陛下が、穏やかに微笑んでそう言った。

「お任せあれってな!」

 ファービリアが言うにゃ、異界じゃそれなりの戦闘があったらしい。

 そりゃ確かにファービリアも、クレアも、それから勿論リクもつええだろうけどよ。

 純然たる肉体での戦闘力で言やあ、やっぱり獣人族おれたちだろ。

「ウェル、同行する際は、そなたがようアディを見ておれ」

 わざとらしい溜め息を吐いてから、ファービリアはわざわざウェルにそう言った。

「は。何よりも優先致します」

「お前は誰の筆頭近衛だよ?」

 胸に手を当てて一礼する俺の筆頭護衛に目を細めても、ウェルは素知らぬ顔だ。

「随分お気に入りだね?」

 なんか言ってやろうと思った俺を遮る形で、陛下がにこにことファービリアに言う。

「余は賢く強いものが好み故な」

 さらりとそう言ってから、不意にファービリアは表情を曇らせた。

「アディは確かに賢く強いが、同時に愚かで弱い」

「は?」

 全く逆の評価を並べられて、俺は思わず、間の抜けた声を上げる。

 俺は確かにアディのことを気に入っちゃいるが、それはアイツの素直さに惹かれたってとこだ。

 獣人族は、他の種族と比べても、正直に生きる奴に惹かれる気が強い。

 強けりゃ偉いって風潮もあるが、それが気に入る入らねえの基準なわけじゃねえ。

「危ういのよ。あの身体と同じでな」

 そう言われると、返す言葉がねえ。

 男と女、両方の性を持つ身体なんてものは、妖精族にしかねえもんだ。

 どっちつかずのそりゃ危ういもんだろうが、いまいち実感が湧かねえってのが正直なとこだな。

 ファービリアがそうだった頃、俺はこいつに会ったこともねえし。

 ただ、なんとなく、直感で判る。

「お前が言うのと同じかどうかは 判んねえけど、ちいっと誰か見てねえといけねえなって感じはするよな」

 なんでだって訊かれても、巧くは答えられねえ。

 ただ直感で、そう思うだけだ。

 獣人族の直感は、他の種族と比べても抜きんでてるから、馬鹿にできたもんじゃねえ。

「あの三人を付けて、正解だったかな?」

 ふ、と微笑んで、陛下が続ける。

「普段は三人に任せるけれど、みんなも少し気を付けてあげてくれるかい?」

 改めて言われた俺たちは、全員揃って頭を下げた。



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