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創り人の箱庭  作者: サボ
第二章
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2-4『妖精王の力』

第二章

第四話

『妖精王の力』



 後ろ向きに倒れそうになった私を支えてくれたのは、ファービリアさんだった。

 足場を失くして不安定な私の手を取って、胸に抱き込んでくれるその力強さときたら、見た目を盛大に裏切る安定感だ。

「無理に立とうとせず、余に身を任せよ」

 しっかりと私を抱き留めてくれながら、ファービリアさんは小声で口早にそう告げた。

 その言葉に逆らう気なんて何処からも湧いてこなくて、私は大人しくファービリアさんに身を任せる。

 驚くほどの力強さは間違いなく男性のものだけど、それでも足元が崩れた砂地で私を支えたままその場に立っていられるはずはない。

 ずるずると砂に流されるように落ちていく先に、大きな窪地が出来ていた。

 すり鉢状になった砂地の底に引きずり込まれていくようなこの感覚……蟻地獄が異常なくらいに巨大化したら、こういう感じになるかも?

 とか思ってたら、窪地の底から二本の角が生えてきた。

 いや、角っていうか、ハサミ?

 ガチャガチャといかつい音をさせて、ずるずると落ちていく私たちを狙っているかのようなそれは、正に巨大蟻地獄。

 まさか、こっちも魔素堕ちした魔物!?

「大事ない! そこにれ!」

 私を支えて巨大蟻地獄を見据えたまま、ファービリアさんはそう叫んだ。

 振り返れば、窪地の縁にリクとクレアさんの姿がある。

 今にもこっちに向かって突進してきそうな姿勢のまま、二人は止まっていた。

「アディ、余にしっかりと掴まっておれ」

「は、はい……!」

 間近で囁かれる声に心臓が跳ねるのを感じながら、それでも言われるままファービリアさんにしがみつく。

 こんな事態だっていうのに、甘い蜜みたいな優しい香りに、頭の奥がくらくらした。

 だけど、しがみついた身体は見た目の華やかさを裏切る硬さで、この人は確かに男性なんだと実感させられる。

 普段のドレス姿だと、ふわふわの布地と重ねられたレースで誤魔化されてたけど、今の騎士服みたいなシンプルなものだと感触がよく判った。

「そこそこの大物じゃな」

 いや、ほんと、それどころじゃなかったっけね!

 身体に直接響いてきたファービリアさんの声で、はたと我に返る。

「ふぁ、ファービリアさん……!」

「舌を噛む。迂闊に喋るでない」

 あの二人を縁に留め於いて、何をどうするつもりなんだと名を呼べば、ファービリアさんは至って落ち着いた声で忠告してきた。

 いやそりゃ確かに舌噛みそうですけどね!?

「砂に宿りし精霊たちよ、余の声を聞き応えよ。其の力、余が為に使え」

 密着させた身体から、直に響いてくる声は男性のそれだ。

「刺し貫け! 砂の杭!!」

 ファービリアさんが男性の声で叫んだ瞬間、砂でできた巨大な錐みたいなものが、すり鉢の底から生えてくる。

 鋭利なそれは勢いよく蟻地獄を刺し貫いて、巨大な体躯を宙に掲げた。

 完璧なまでに胴体の中央を刺し貫かれた巨大蟻地獄は、宙でギチギチと何度か身じろぎして、ぐたりと四肢を垂らす。

 ファービリアさんの、精霊魔法、なんだ。

「これで終いのようよな」

 女性の声で、ファービリアさんはそう言った。

 それでも一度できたすり鉢状の地形は変わることはなく、私はファービリアさんにしがみついたまま底に辿り着く。

「アディ!!」

「我が君!!」

 高いところから、リクとクレアさんの声が聞こえた。

 見上げれば、さっきと同じ場所に二人の姿がある。

 ファービリアさんの『そこにれ』っていう言葉を忠実に守ってる辺り、流石と言っていいところなんだろうか。

「大事ない。そちらに戻る故、そこで待て」

 上の二人にそう言って、ファービリアさんは少しだけ目を伏せる。

「砂の精霊たちよ、余たちを運べ」

 囁き声に応えるように、足元の砂が淡い銀色に輝きだした。

 そのまますり鉢の縁のほうに、砂が逆流するかのように流れ出す。

「え、えええ……?」

 勝手に地面が動いて運んでくれる感覚は、エスカレーターに近いかもしれない。

 だけど足元は淡く輝く砂で、ただただ違和感が凄い。

 ファービリアさんは涼しい顔をしてるし、リクたちも驚いた様子はないから、これが普通なんだろう。

 改めて、やっぱり自分が知ってる世界とは、根本的なところが違うんだなあ。

 そんな余計なことを考えてたら、すぐに縁の所まで辿り着いた。

「ご無事ですか、我が君?」

「大事ない。アディ、何処も痛めておらぬか?」

「あ、私は本当に何もしてませんし、大丈夫です」

 魔素堕ちの魔物を相手にした三人と違って、私は本当に何もしてない。

 蛇と蠍はリクとクレアさんが倒してくれたのを見てただけだし、あとはファービリアさんにしがみ付いてただけだ。

「少し身体を動かして、痛みがないか確認したほうがいい」

 過保護なことを言いながら、リクが私のほうに手を差し伸べてくれる。

 その申し出を断るのもなんだかおかしな気がして、私は大人しくリクの手を取った。

 そうしてみてやっと、未だにファービリアさんにしがみ付いたままだったことに気付く。

 慌てて謝るのも変な気がして、取り敢えず私は軽く身体を動かしてみた。

 手首、足首、膝、腕、肩……うん、特に違和感はない。

「大丈夫みたいだよ」

「そうか、無事で良かった」

 ほっとしたような顔で言うリクには、やっぱりちょっと過保護なんじゃないかと思ってしまう。

「私より、二人とも怪我とかしてない?」

 はっと思って、リクとクレアさんを交互に見た。

 ファービリアさんは『大事ない』って言ってたし、近くで見てた限り怪我のしようもなかったから、きっと大丈夫だと思うけど。

「自分は何も問題ない」

わたくしもです」

 二人は揃って緩く首を振った。

「この二人が、あの程度に後れを取るものか」

 ふふん、と微笑わらうファービリア様、お美しゅう御座います。

「えっと、初めてこういう戦いを見たので、つい……」

 何が『つい』なんだ、と自分でも思うけど、そんな言葉が口から出た。

 そりゃ確かに二人は強いと聞いてたし、リクが強いのは実際に見てたけど、やっぱり実際の戦闘だと心配にもなるよ。

わたくしどもは戦闘のプロです。どうぞ心穏やかにいらっしゃいますよう」

「え、あ、いやその! 皆さんの護衛としての実力に不安があるとかそういう意味じゃなくて!」

 クレアさんの言葉に、ぶんぶんと手を振った。

 護衛役として皆さんが不満だとか、そういう話じゃないんだよ。

「ただ単純に、怪我しないかどうか心配っていうだけです」

 早口になりながらそう言ったら、クレアさんは少しだけ不思議そうな顔をして、小さく首を傾げた。

「クレア、アディはそなたらの身を案じておるだけじゃ。アディ、クレアのように誰かを護る為に生きる者の中には、案じられること事態が理解できぬ者もおるというだけじゃ」

 クレアさんと私にそう説明してくれたファービリアさんだけど……案じられることが理解できないって、どういうこと?

「誰にも怪我がないというのであれば、先に進むことにするかの」

 私の疑問を知ってか知らずか、ファービリアさんは一度ぐるりと周りを見回した。

 もう何かが襲ってくる様子もなくて、随分向こうまで続く砂色の大地を、強い日差しが照らしてる。

「しかし、リンギルにシターニ、クルフとはの」

 細い顎に手を当てて、ファービリアさんはぽつりと呟いた。

「知ってるんですか?」

「知っておるも何も、元々余たちの世界にる魔物じゃ」

「え? あ……え……?」

 そりゃあ知ってて当然か、と思ってから、その異常さに気付く。

 忘れそうになるけど、ここは異界であって、私が元居た世界でもなければ、ファービリアさんたちが居た世界でもないはずだ。

 それなのに、ファービリアさんの精霊魔法も普通に使えるし、出てきた魔物も見知ったものらしい。

「その、ここって本当に異界なんでしょうか?」

「石板がそう申すのじゃ、異界ではあるのじゃろう」

 思わず呟いた私に、ファービリアさんは軽く肩を竦める。

「少なくとも、陽が傾かぬ一日など、余は体験したことがない」

「あ、それは確かに」

 確かに、一日中昼の世界なんて、絵本やゲームの中でしか聞いたことがない。

 一日中陽が沈まない白夜なら現実で有り得ることだけど、それだって陽は傾く。

「自分たちの世界を、切り取ったような世界、というような形でしょうか」

「そうじゃの。そもそも『大樹の核がある異界』と言うておるのじゃ、余たちの世界とかけ離れた場所にする道理はない」

 リクの言葉に頷いて、ファービリアさんはそう言った。

 確かに、あの世界を支える大樹の核がある場所なんだから、似た環境なのは当然かもしれない。

「なんにしても、余の力が揮える場で助かったと言うておくべきじゃな」

 自嘲するように微笑わらって、ファービリアさんは続ける。

「余の戦闘力は、クレアやリクと違い、ほぼ精霊魔法に依るものじゃ。年の功で多少は回るこの頭も、ヒイラギには敵わぬでな」

 多少は回る頭って……ここに来てから特に思ってたけど、ファービリアさんの先導力は凄く高い。

 元々人の上に立つことに慣れた人だからとはいえ、そのカリスマ性は頭の回らない人には備わらないことじゃないと思う。

 それでも、簡単にヒイラギさんには敵わないと言って捨てる。

 その余りの潔さに、なんだかぽかんと口が開いた。

「なんじゃ、府の抜けた顔をしおって」

「え、あ、いや……その……ヒイラギさんって、そんなに頭がいいんですか?」

「ふむ?」

 前々から色んな人に言われてたことだけど、ヒイラギさんってそんなに頭がいいんだろうか。

「そうじゃのう、アレの父はアレより小賢しいが、逆を言えばアレの父以外に敵はらぬと言うても間違いはなかろう」

「こ、小賢しい……?」

 とても誉め言葉とは思えない単語を、思わず繰り返す。

「今の東の領主は、頭が回り過ぎる上に愛妻家に過ぎておってな、己が嫁と離れずに済むのであれば例えそれがどんな手段であっても良しとする不気味な男なのよ」

 苦笑交じりに言い捨てるファービリアさんの言葉に、リクもクレアさんも斜め下を見るだけだ。

 お付きの二人がフォローの一つもしないってことは……多少の脚色はあるかもしれないけど、少なくとも現東領の領主がとんでもなく頭が切れて、異常なくらいの愛妻家ってことは間違いないのかもしれない。

「ヒイラギは父譲りの才覚を持っておるが、あの男よりは話が通じる。そういう、まったく面倒な星を背負わされて生まれてきたのが、あの娘よ」

 うわあ、なんてうか……気の毒。

 よそ様にこんな解釈をされる東の現当主じゃなくて、『だからこっちに頼らざるを得ない』と評価されるヒイラギさんが気の毒だと思う。

「さて、先に進むとするか」

 ぼんやりと変なことを考えてた私は、ただファービリアさんの言葉にうなずくだけだった。



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