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創り人の箱庭  作者: サボ
第一章
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1-20『とある酒場の看板娘』

第一章

第二十話

『とある酒場の看板娘』



 その日は一日、ヒイラギさんたちに色んな資料を見せて貰って過ごした。

 映像が記録された魔法石はたくさんあって、世界の果てにある壁以外にも、街や村、山や川、森など、本当に色んなものがあったなあ。

 海がないのがちょっと不思議だなと思ったけど、よく考えるまでもなく、不思議でもなんでもない。

 この世界の川は、最終的に大瀑布になって、世界の果ての底に向かって落ちていく。

 湖はあっても、海にはならないよな。

 それ以外の自然は、私が知ってるものと大差なかった。

 もっとも、その自然の中にちらほら見えた魔物は、当たり前だけど全く知らないものだったけどね。

 ヒールが選んでくれた絵本には、ざっくりとこの世界の構造が描かれていて、文字が読めなくても凄く興味深いものだった。

 絵本によると、この世界には地平線の終わりと底はあるけど、空は何処までも遠いらしい。

 大地の終わりの壁は映像で見せて貰ったけど、底は誰も行ったことがないんだそうだ。

 それは空の向こうも同じなんだけど、あの崖の底に終わりがあるっていうのには、一応根拠があるらしい。

 その根拠っていうのが、大樹の根元辺りから染み出る清水なんだって。

 私、最初に中央の大樹の枝に引っ掛かってたわけだけど、あの時には清水がどうとか周りの景色がどうとか、そんなものを見る余裕がほとんどなかった。

 あれからあの大樹のところには行ってないから、本当に水が湧いてるのかはよく判らない。

 でも、絵本が言うことには、大地の果てに落ちていった水を、五本の大樹がゆっくりゆっくりと吸い上げて、根元から少しずつ吐き出してるんだそうだ。

 そうして湧き出た水は街の水路に流れ出て、川に合流して、また大地の果てに向かっていく。

 この世界でも勿論雨が降るらしいから、川の水の全てが湧き水ってわけじゃないけど、この世界の大河には基本的に大樹の湧き水が入ってるってことらしい。

 ヒールが選んでくれた絵本の中には魔法に関するものもあって、色々話を聞いてると時間はあっという間に過ぎていた。

 人に教えるのが巧いって色んな人に言われてるヒイラギさんの解説付きだから、余計に引き込まれて時間を忘れる忘れる。

 一緒に居たサイゾウさんはほとんど喋らなかったけど、ゴラちゃんも実は凄く判りやすい説明をしてくれた。

 で、午前中から書庫に籠って、気付けばもう夕方。

 途中でヒイラギさんたちにお昼を御馳走になったけど、ほとんどぶっ通しで色んな資料と絵本を見せて貰ってた。

 ちなみに、東のほうのご飯は和食っぽい雰囲気で、なんだかほっとする安心感があったなあ。

 東のほうの人って、髪や目の色もそうだけど、文化も日本人に近い気がする。

 さておき、ヒイラギさんたちにまた解説して貰う約束をして自室に戻った私は、リクとカリスとも合流して軽めの夕食を済ませた。

 そのあと、連れて行きたい所があるって話の通り、王宮の外に連れ出された。

 ちなみに、食事の量とかタイミングとかの調節は、全部付いててくれてる護衛の人……今回で言えばヒールがやってくれてる。

 お陰様で、折角作って貰ったものが無駄になってるってことはないみたい。

 護衛の仕事って、本当に多岐に渡るっていうか、なんていうか。

 私だったらできそうにないな、とか思ってしまう。

 というか、それって『騎士』の仕事なんだろうか?

 騎士ってものに馴染みがないせいで、その辺からして疑問だ。

 そんなことを考えていると、つい周りの三人を見てしまう。

 カリスは前を、ヒールは隣を、リクは後ろを歩いてくれてるわけだけど、このスタイルも護衛のしやすさを考えてのものなんだろうなあ。

「周りが珍しい?」

 三人をぐるっと見てたら、きょろきょろしてると思ったんだろう、ヒールが微笑みながら首を傾げる。

「あ、うん」

 今は騎士三人組を見てたけど、初めての外の景色はやっぱり物珍しい。

 そう、今は王宮の外に居るんだ。

 中央の王宮がある場所には街があって、城下町とも言えるそこは当たり前かもしれないけど凄い活気に満ちている。

 もう陽は完全に落ちてるのに、魔法石を使った街灯があちこちにあって結構明るい。

 魔法石は高価なものだし、設置したら一生ものっていうわけでもなくて交換が必要だから、この街灯があるのは都会だけなんだって、ヒイラギさんたちに教えて貰った。

 外に灯りが全くない地域も多くて、そういうところは夜になると本当に真っ暗になるらしい。

 灯り一つ取っても珍しいんだけど、建ち並ぶ建物は全部石造りだったり、屋台で出してる食べ物は見覚えがないものばかりだったり、珍しいポイントが多過ぎる。

「ここは世界一の大都会だからね、よそから来た人は誰でも珍しがる景色だと思うわよ~」

「だな。地方出身の奴とかと話すと、結構面白いよな」

 ヒールの言葉に、前を歩いてたカリスが肩越しに振り返って笑った。

 そういえば、三人は全員この街出身なんだっけ。

「三人は、地方に行ったりすることは少ないの?」

「私たち、陛下付きの近衛騎士だからね」

 首を傾げれば、ヒールはそう言って頷いた。

「王都騎士団のほうは、たまに外に出ることもあるけどな」

 ひら、と手を振って、カリスは進む先に顔を戻す。

 この王都には、三人やヒュージさんたち陛下付きの近衛騎士団の他に、王都騎士団っていう組織がある。

 近衛騎士団は基本的に陛下の身辺警護や、陛下から直接下される命令に従うことを主な任務としていて、王都騎士団は王都そのものの防衛を任務としているらしい。

「王都騎士団のほうは王都を護ることが主な任務だが、地方の戦力では手に負えない場合、そこに派遣されることもある」

 カリスの言葉を補足してくれたのはリクだった。

 この世界にもアウトローっていうかならず者っていうか、まあ、野盗とか盗賊とか呼ばれる人たちが居るらしいんだけど、そういうのの他にも魔素堕ちした魔物が居る。

 どっちも地方だとそれぞれの警備団が迎撃するみたいなんだけど、手に負えない場合に王都騎士団たちの出番っていうことみたいだ。

 この世界に来た当初、国境もないこの場所で、どのくらいの外敵が居るんだろうと思ってたけど、私が想像してるよりは出番がありそう。

「さて、と。ちょっと裏道入るからな?」

 カリスがもう一度肩越しに振り返って、親指で先の道を指した。

 今まで歩いてきた明るくて大きな道の脇に、ひっそりと小道が伸びてる。

 見回せば他にも横道はあるけど、そのどれと比べても細くて暗い。

 脇道っていうよりも、建物同士の隙間みたいな雰囲気だ。

「アディが一人で外を歩くことなんて有り得ないけど、万が一のことがあったら、一人でこういうとこ入っちゃダメよ?」

「あ、うん」

 ヒールに釘を刺されるまでもなく、一人でこういうとこに入る気はないな。

 細い道は案の定人通りが全くなくて、さっきまでの大通りの喧騒がまるで嘘みたいだ。

 ほんの少し脇道に逸れただけみたいなものなのに、空気感が全然違う。

 判りやすくゴミや物が溢れてるだとか、ガラの悪い人たちがたむろしてるだとかがない分、冷たい風が虚ろな陰気さを纏って頬を撫でた。

 すぐ近くに馴染みの三人が居てくれるのを頼りに足を進めれば、奥のほうから小さな灯りが漏れてくることに気付く。

「ほれ、着いた」

 前を歩いてたカリスが少しだけ横にずれて、先を見せてくれた。

 袋小路の先に隠れるようにひっそりと佇んでいたのは、小さな灯りを燈す平屋の小さな建物。

 看板もなければ軒先に商品が陳列されてるでもない、その上見えてる場所には窓もない閉塞的なそこは、店にも見えないけど民家にも見えなかった。

「ここは?」

「俺たち御用達の酒場だ」

 首を傾げた私に、カリスが茶目っ気たっぷりにウィンクする。

 おおう、なんか、目を奪われるなあ。

「なんでこんなとこに~、とか思うかもしれないけど、入ったらすぐ判るわ」

「え? そ、そうなの?」

 ヒールの言葉の意味は判らないけど、この三人が案内してくれた所が危険なわけもないし、私が来ちゃいけない場所ってこともない。

 この三人は、私が無条件にそう思うくらいのことを、もうしてくれてる。

「んじゃ入るぞ」

 そう言って、カリスが飾り気のない木製のドアを開けた。

 薄暗さに慣れてきてた目に、中から零れてくる光が少しだけ眩しい。

 それでも目を焼くほどじゃない明かりの中に、私は足を踏み入れた。

 外観よりは少し広く感じる店内は、オレンジ色の温かな光が優しく満ちてる。

 薄暗い外との差が大き過ぎないお陰で、すぐに目が慣れた。

 場所柄のせいか、それとも時間が早いせいなのか、店内にお客さんの姿はなさそうだ。

「あらあ、いらっしゃい」

 不意に呼び掛けられた声のほうに視線を向けて。

 固まった。

 カウンターの向こうに居る人がにっこり笑って手を振ってくれてるけど、それに反応もできずにただただその人を凝視する。

 角ばった骨格と、鍛え抜かれて膨らんだ筋肉。

 ガッチガチの強面。

 顔形と体型は見覚えがあるんだけど、その他の全体的に違和感があった。

 その違和感に目を瞑れば。

「……ひゅ、ヒュージ、さん?」

 近衛騎士団長殿のヒュージさんに、顔形と体型はそっくりだ。

「あっら、やっだあ!」

 違和感の塊が、真っ赤に塗られた唇から零れる。

「兄さんを知ってるのね?」

 大きな口をにっこりと笑みの形にして、濃い紫色のシャドウを付けた目を細めるその容姿は、なんとも迫力があった。

 っていうか、兄さん?

「マダムと団長は双子なんだよ」

 驚いて固まってる私が面白いんだろう、笑いながらカリスがそう教えてくれる。

「ま、マダム……?」

 改めてマダムと呼ばれたお方を見れば、目鼻立ちと体型はそっくりそのままヒュージさんなんだけど、派手で濃い化粧が施された顔に傷はなさそうだ。

 燃えるような赤くて長い髪は綺麗な形に結われてるけど、あれってウィッグだと思う。

 豪快に露出度の高い、やけにぴったりと身体のラインを強調するドレスは、ひたすらに鍛え上げられた筋肉をこれでもかと見せつけてくる。

 何処をどう見ても、私の想像する『マダム』の要素が一つもない。

「そうよ~。アタシはこの店の店主兼看板娘なの!」

 ばっさばさの睫毛に縁どられた目で、バチンと音がしそうなくらいのウィンクをするマダム。

 ……濃い。

 今まで会った人たちの中で、一番濃い。

 こんなガッチガチのオネエが店主で看板娘とか、凄いなこの店。

 それにしても、流石双子だけあって、ヒュージさんによく似てる。

 なんか、ヒュージさんが女装してるみたい。

 カリスがあの時、『団長の顔をよく憶えておけ』、『あとから面白いことになる』って言ってたの、このことか……。

「マダムって呼んでね、新しい子猫ちゃん!」

 こ、こね……こ?

「あ、は、はい……」

 あまりの迫力に私はただ頷くことしかできなくて、返事も喉の奥から絞り出したようなものになった。

「あははは! そうなるよなあ!」

 カリスは大きな声で笑いながら、バンバンと自分の膝を叩いてる。

「ちょっとカリス! アンタいっつもアタシで遊ぶんじゃないわよ!」

 そんなカリスにマダムが叫んだけど、その声にはどこか楽し気な音が混じっているような気がした。



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