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創り人の箱庭  作者: サボ
第一章
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1-15『妖精さんとのランチタイム』

第一章

第十五話

『妖精さんとのランチタイム』



 リクに送って貰って戻ってきた部屋は、静かで落ち着いていて、なんともいつも通りの優しい温度で満たされていた。

「疲れたか?」

 リビングスペースのソファーに座って、思わず溜め息が出た私に、立ったままのリクが静かに声を掛けてきてくれる。

「あ、いや、気疲れしたとかそういうわけじゃないんだけど」

 陛下以下、お偉方と謁見したからって、気疲れしたとはあんまり思えない。

 わけの判らないことを言われて困惑したことは確かだけど、事前にほとんどの人たちと会話してたお陰か、気疲れって程のことはなかった。

 だってあの人たち、個人個人だと凄い気さくなんだもん。

「なんかここに戻って来ると、落ち着く気がして」

 それでも、他の誰の目もないこの場所は、なんだか落ち着くんだ。

「何か不満や不自由があれば、すぐに言ってくれ。自分が上と交渉しよう」

「あ、うん。ありがとう」

 おお、気を遣ってくれてるなあ。

 それも、無理に気を遣ってくれてる感じは一つもなくて、ごく自然な様子なんだから、この人は凄いと思う。

 ぱっと見、表情が少なくて怖い感じもするけど、話してみるとそんなことはない。

 微笑わらうと雰囲気が一気に穏やかになるヒイラギさんと、タイプとしては似てるかも。

「じゃあ取り敢えず、座って貰っていい?」

 差し当たって不満……というかなんというか、私だけが座ってることに違和感があって、そう言ってみた。

 リクは少し困ったような顔をしたけど、大人しく私の向かいに座ってくれる。

「本当は、こういう場所でもリクたちは立ってるものなんだよね?」

「正式に護衛を務めている場ではな」

 一応、と思いながら訊いたら、リクは苦笑を滲ませながら頷いた。

「座っていると、どうしても反応が遅れるからな」

「ああ、そっか。そうだよね」

 誰かを護るとか、何かと戦うとか、そんなことに馴染みはないけど、立ってるのと座ってるのとじゃ、そりゃあ反射速度が違うだろう。

「因みに、どのくらい変わるの?」

「そうだな……一秒はないかもしれん」

「はい?」

 一秒ない誤差って、そんな気にすること?

 いやその前に、普通は一秒ないもんなの?

「状況によっては命取りだ」

「そ、そう、なん、だ?」

 私が何を疑問に思ってるか判ったんだろう、その一秒に満たない時間が大事なんだというリクに、巧い返事が思い付かない。

 その一秒未満の時間で、自分に何ができるのか、さっぱり判らないから。

「訓練を積んでいなければ、ピンとこなくて当たり前だ」

 この人は、本当によく私の考えを読むなあ。

「……私、そんなに顔に出てる?」

「うん?」

 首を傾げて尋ねれば、リクは少しだけ驚いたように何度か目を瞬かせた。

「ああ……君が殊更判りやすいということではない。自分は生粋の騎士だ、そうではない者と相対したとき、多くは君と同じ疑問を抱く」

 あ、成る程。

 慣れてらっしゃるってことか。

「君は貴族だ騎士だといった存在とは縁遠い世界に居たと言っていたが、この世界の住人とて、多くは同じような生き方をしている」

「そっか、そうだよね」

 この場所が特殊なだけで、騎士とも貴族とも縁遠い人だって大勢居るんだよね。

「もっとも、そう判りにくいわけでもないが」

「ええ……?」

 いや別に、ポーカーフェイスを目指してるつもりも、クールな存在に憧れてるわけでもないんだけど、判りやすいと言われちゃうのもなんだかなあ。

「護衛する身としては、そうであって貰ったほうがありがたいものだ」

 小さく笑いながら、リクはそんなことを言う。

「そんなもん?」

「ああ。君がサイゾウ殿やクレア殿を護衛することになったと想像してみるといい」

「へ?」

 護ると言われても何をしたらいいのか判らないけど、例えば私があの二人のお世話係になったとして……うん、駄目だ。

 だってあの二人、表情が完全に『無』の一文字で、必要以上のことを喋らない。

 クレアさんに至っては、私はその声を聞いたこともないくらいなんだ。

 そんな相手が考えてること、望んでることを予測して何かをするとか、フォローするとか、無理だと思う。

「うう……私には勤まりそうにないです……」

「はは、自分もあまり、自信がない」

 朗らかに笑うリクに釣られて、私も笑った。

 やっぱりこの人は、見た目がちょっと厳ついだけで、表情がないわけでも会話がしづらいわけでもない。

 私の護衛って形で傍に居てくれる人たちが、こういう付き合いやすいタイプで本当に良かった。



 自室で他愛もない会話をしていたところで、西の公爵、ファービリアさんの遣いの人がやって来た。

 ファービリアさんが昼食を一緒にどうだって誘ってくれてるって話で、特に用事のない私は、その言葉をありがたく受けて彼女の部屋に向かった。

 迎え入れてくれたファービリアさんは、今日も相変わらず絶好調に麗しい。

「よう参った」

 口角を上げる角度さえ完璧に計算され尽くしたかのような、圧倒的な美の顕現。

 澄んだ声も、大きな目も、潤んだ唇も、もうほんと、見惚れるしかない。

「むさ苦しい者どもの相手も疲れた頃合いであろう? しばし、ゆるりとするがよい」

「あ、あはは……」

 にっこりと笑ってそんなことを言われても、なんて答えていいか判らないな。

 この人と比べれば、誰も彼もがむさ苦しいだろうし。

「ほれリク、そなたも掛けいよ」

「……は、ありがたく」

 ファービリアさんの勧めに、リクは少しだけ躊躇ってから頷いた。

 この場に自分の席が用意されてるとは思ってなかったんだろう。

 実を言うと私もリクの席を予め用意してくれてるとは思ってなくて、ちょっとびっくりした。

「案ずるな、此度はクレアも同席故な」

「え?」

 思わず声に出してしまった私の斜め向かいで、お面みたいに無表情のクレアさんが、小さく会釈する。

 細長いテーブルに、向かい合わせに用意された四つの席は、ホストのファービリアさん、ゲストの私とリク、それからクレアさんのものみたいだ。

「たまには我が近衛も交え、中央最強の騎士と食事というのも良かろう」

 柔らかな微笑を浮かべたファービリアさんに一礼して、クレアさんがその隣の席に腰を落ち着ける。

 落ち着いてゆっくり見ると、クレアさんも凄い美人だなあ。

 隣のファービリアさんが型破りの超絶美人ってことがあって隠れがちだけど、よくできた無表情の人形を見てるみたいな気になる。

 微笑わらったら、さぞかし綺麗だろうなあ。

「……私に、何か?」

「えっ!?」

 そう声を掛けられて、不躾にもしげしげとクレアさんを見つめてたことに気付いた。

 それより何より、初めてクレアさんの声を聞いたことに驚いて、反射的に変な声が出る。

 静かで落ち着いた、感情の汲み取れない声だった。

「あ、いえ、その、綺麗だなあって思って」

 我ながら、なんて間の抜けた答えだろう。

 思ってたことをそのまま口にしてしまったそれは、この場に妙な静寂を呼び込んだ。

「……その言葉は、我が主の為の言葉です」

「え?」

 数秒続いた沈黙を破ったのはクレアさんで、その意味を理解できなかった私は目を瞬かせる。

「ほほ。確かに余は美しいが、余の妻も麗しかろう?」

「いやほんと、お二人ともお綺麗で……妻?」

 ファービリアさんの言葉に、またしても思ったままのことを口に出しながら、ふと気になる単語があったことに首を傾げた。

 今、妻って言った?

「なんじゃ、誰も言うておらぬのか? クレアは余の最愛の伴侶であるぞ?」

「我が君……」

 思い切り胸を張って、得意満面って感じで断言したファービリアさんの隣で、クレアさんは微かに頬を赤らめる。

 ああ、ちゃんと表情があるんだなあ。

 っていうか、この二人が夫婦って……見た目完璧に百合カップルじゃないか。

「まあよい。ゆっくり食事をしながら、話をすることにしようぞ」

 ファービリアさんがちらりと視線を部屋の隅に遣れば、そこに控えていた給仕の人たちが昼食の準備を始める。

 改めて見ると、ここの給仕の人たち、みんな妖精族っぽい雰囲気だ。

 なんていうか、全体的に線が細くて綺麗な顔立ちで、雰囲気が人間とはちょと違う。

 金髪碧眼が多いのは、そういう種族だからなんだろうか。

 多分、四方代表の方々は、それぞれの領地から給仕ができる人たちを何人か連れて来てるんだろう。

「うちの者、自慢の西料理じゃ」

 給仕の人たちが用意してくれた、色どり鮮やかな前菜の盛り合わせに目を落として、ほう、と息が漏れた。

 今まで自分の部屋で用意されてた料理だって、充分手の込んだ見た目も美味しいものだったけど、これはそのどれより華やかだ。

 まるで皿の上に花束が描かれているような優雅さは、妖精族らしいと思う。

 ファービリアさんはそれに手を付けず、にこにこ微笑わらって私を見てる。

 多分、まず私が手を付けるのを待ってるんだろうと思ってひと口食べてみれば、ほんのりと花の香りがした。

 食材自体は野菜だと思うんだけど、ソースから花の香りと、蜜みたいな甘さを感じる。

「美味しい」

「おお、口に合うたか?」

 反射で零れた言葉に、ファービリアさんは嬉しそうに微笑わらった。

「西料理は花や蜜を使ったソースが名物でな。北の獣人たちには鼻がムズムズするとか申してあまり好まぬのだが、そなたの口に合うなら重畳よ」

 満足そうに微笑んでから、ファービリアさんは実に優雅な手付きで、小鳥が啄ばむ程度の量を口に入れる。

 それからパスタと魚料理、デザートまで用意されたんだけど、形的にはスペイン料理に似てるかもしれない。

 妖精族って言葉のイメージで、勝手に菜食主義なんじゃないかと思ってたけど、お二人も同じメニューだったからそういうわけじゃないんだろう。

 因みに、今まで用意して貰ってた食事は、フランス料理っぽい雰囲気だったような気がする。

 食後には紅茶でもコーヒーでもなく、花の香りが満載のハーブティが出された。

 たっぷりの蜜が混ぜられたそのお茶は、濃厚な花の香りも相まって、なんだか花そのものを楽しんでるみたいで面白い。

「さて、食後の予定じゃが」

 食事中は、出されたメニューや西料理の特徴なんかを話してくれてたファービリアさんが、なんだか物凄く楽しそうな笑顔で私を見た。

「余に付き合うて貰うぞ?」

「え? あ、はい」

 これといって予定もない私は、その言葉に頷くだけだ。

 それを見たファービリアさんは、形のいい唇をにんまりと持ち上げる。

 あ、明らかに、何か企んでらっしゃるみたいだけど、いったい何を……?

 反射的にリクを見たら、なんとも渋い顔で首を振った。

 ええええ、と思いながらクレアさんを見たら、切れ長の目を伏せて、リクと同じように緩く首を振るだけ。

 えの、あの、もしもし?

 私、何される感じ?



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