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創り人の箱庭  作者: サボ
第一章
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1-12『ここから始まる』

第一章

第十二話

『ここから始まる』



 なんていうか、そうかーん……。

 陛下との謁見の間に、ぞろぞろ揃った皆々様を見ると、そんな言葉しか思い浮かばない。

 陛下と四方の代表、それからそれぞれの護衛役が勢揃いした場って、こんなに壮観なんだ。

 銀の大樹でこの人たちを見た時は、ただ美形が随分大勢揃ってるなあ、くらいにしか思わなかったけど、彼らの属性……っていうか、肩書っていうか、そういうのを知ると、途端にそんなふうに感じるんだから、自分も現金なもんだ。

 いやまあ、あの時も壮観だとは思ったけど、それはただ美形度合いに圧倒されたっていうのが正しい。

 今みたいに、彼らの身分を知ってから感じる『壮観』って感情とは、言葉は同じでも種類が違う。

 そして、このたった二日でこの場に居るほとんど全ての人たちと面識を持った中で、一人だけ、知らない人が居た。

 陛下の後ろに控える、ガッチガチの強面オジサマ。

 身長、横幅ともに、鍛え抜かれたリクより一回り大きい。

 でも太ってるとかそういうんじゃなく、ただただ純然と鍛え抜かれ、膨らんだ体躯。

 左の頬にざっくりと傷跡のある色黒の顔で、あとは髭でもあれば、『山賊のお頭様とかですか?』とか口走ってしまいそうな人だ。

 陛下の騎士団の団長さんだと紹介された彼は、ヒュージさんと仰るんだそうだ。

 今も私の後ろに立っていてくれるリクとカリス、ヒールは、そもそも陛下の騎士団だって言ってた。

 だから彼らは、あの山賊の頭……じゃない、騎士団長の部下で、本来は私の後ろじゃなく、陛下の後ろに控えなきゃいけない立場なんだ。

 ……いやまあ、騎士団が何人いるか知らないし、この三人がその中でどんな立場なのかも知らないから、本来はここに並びはしないのかもしれないけど。

 ま、そんなこと考えるだけ無駄だよね。

 特に今は。

「おはよう、よく眠れたかい?」

「はい、お陰様で」

 見た目の年齢に不釣り合いな、心底穏やかな微笑みを浮かべる陛下は、きっと私の為だろう、砕けた言葉を選んでくれてる。

 それにありがたく乗っかって、精々が丁寧語って程度で応えた。

 そんな私に、陛下はにこりと笑みを深くする。

「良かった。それじゃあ、君が一番聞きたいだろうことを話すね」

 砕けた口調は陛下の見た目にとても合うものだったけど、彼が今から言おうとしてることは、きっと砕けもしなければ軽くもない。

「稀人にやって貰いたいことは、衰退のバランスを崩した大樹を、元に戻して欲しいということは話したよね?」

「はい」

 これだけ人が揃ってて、口を開くのが陛下と私だけ。

 そのことに、違和感さえ覚えない。

「その方法なんだけど、六層に渡る異界に行って、大樹の核に触れてきて欲しいんだ」

「……はい?」

 思ってもみなかった……いや、何をやるのかそもそも想像すらできなかったっていうのもあるけど、なんともいえない言葉に、間の抜けた声が出る。

 いやだって、ここだって私にしたら異世界なんだよ?

 それを更に異界に行けとか言われても、ちょっと待ってよこれ以上なんの話? って感じるだけだ。

「ええっと……いや、あの、それって、元々私が居たはずのところに行くってこと、ですか?」

「はは、そこに繋がっていればいいんだけどね」

 あわあわと息を詰まらせながら言った私に、陛下は困ったような苦笑を浮かべる。

「何処に繋がっているかは、私にも判らないんだ」

「え、ええ……?」

 そんな無責任な、という台詞は、辛うじて飲み込んだ。

 この世界で一番偉い人に向かって、流石にそれは言わないほうがいいだろうと、ぐるぐる回る心の何処かに残った理性が判断してくれたから。

「無責任でごめんねえ」

「え!? あ、う、いや、いやいやいや!」

 辛うじて飲み込んだそのままの言葉を真正面から言われて、危うく頷きかけたよ。

 やばいやばい、なんだこの王様は。

 慌てる私に、ころころと笑うこの王様はなんなんだ。

「本当に私にも詳細は判らないんだ」

 申し訳なさそうに少しだけ目を伏せて、陛下は続ける。

「ただ、六層ある異界それぞれに大樹の核があると、石板が告げたんだ」

 ああ、また石板か。

 そもそも私が稀人としてここにやってくるとか言い出したのも石板なんだから、この流れも当たり前かな。

「……? あれ? 六層全部に、核がある?」

 ふと思い至って、首を傾げた。

 大樹があるのは、東西南北に分かれた領地と、中央の計五か所。

 なのに、六層全部に核があるっていうのはおかしくないか?

「どれかの核が二つに分かれているのかもしれないね。詳細はよく判らないんだけど、石板はそう告げたんだ」

「あ、いえ、その、はい」

 申し訳なさそうに眉尻を下げる陛下の言葉に、なんに意味もない言葉を返す。

 ううん、石板に踊らされてる気がしなくもないけど、その旋律に乗る以外、私には選択肢がないことも事実。

 ついでに言うと、この場の誰も石板のお告げ云々って言葉に表情一つ変えないところを見ると、『石板が告げることは絶対であることが常識』っていう共通認識があるんだろう。

 私には……私に残された記録には、そんな『絶対』はない。

 だから違和感を覚える。

 だけど。

 だけど、絶対に正しいことを誰かが教えてくれるなら、それは凄く楽なんじゃないかって、そんなことを思う。

「だからね」

 陛下の声が聞こえて、はっとした。

「君には六層、それぞれここに居る選ばれた人たちと一緒に行って貰うことになる。第一階層はファービリアとクレア、それからリクが同行するよ」

 反射的にファービリアさんを見たら、にっこり笑って優雅に手を振ってる。

 彼女の斜め後ろに立ってるクレアさんは、いつも通り無言無表情で、なんの反応も見せない。

 振り返ったら、リクは私のほうを見ていて、ほんの僅か、微笑んでくれた。

「……この人選も、石板ですか?」

「そうだね」

 おう……石板の万能性よ……。

 私の感覚からしたら、神様からのお告げって言われたみたいにぼんやりしたものなんだけど、この世界の人にとってはそんなものよりずっと確かで、強制力のあるものなんだろう。

 この世界にどれだけの歴史があるか判らないけど、石板のお告げを正しく実行してきたからこそ、今があるんだろうし。

「ふふ。なんじゃ、不安そうじゃの」

「え!? あ、その……」

 それまで無言を貫いていたファービリアさんの言葉に、私は巧く声が出ない。

 不安っていうのとはちょっと違う気がするんだけど、不満がないわけじゃない。

 巧く言葉にはできないけど。

「何も案ずることはない。そなたを守る程度、余一人で充分なほどじゃ」

 私の胸の奥にある、不安というか不満というか、とにかくわだかまりみたいなしこりのことを、『身の安全が保障されないことへの不安』と取ったらしい。

 扇で口元を隠し、実に優雅にころころと微笑わらいながら、ファービリアさんはまったく優雅じゃないことを言う。

「ファービリアはこう見えて、本当に強いよ。だから、安心して」

 ふわりと微笑む陛下の言葉も、なんだか腑に落ちないというか。

 ……ああ、そうか。

 やっぱり私とここの人たちは……いや、この世界は、根本的なところが違うんだ。

 私には、彼らのように石板の言葉を絶対と感じる、その感覚がない。

 いっそ同じ感覚があれば……せめて、神託は絶対とかいう感覚があれば、同調も出来ただろうに。

 残念ながら、私が知ってるのはただの記録でしかなくて、『信託は絶対』って思う人も居るっていう、本で読んだ知識程度の他人事そのものだ。

 ああ、私、やっぱり異世界の人間なんだなあ。

「……アディ」

 低く、小さな声に、はっとした。

 反射的に振り返ったら、少ない表情を『心配』という形にした、リクの顔があった。

「大丈夫、ありがとう」

 リクと同じくらい小さな声で返して、緩く微笑む。

 彼は私が何を感じたかは判っていないはずだ。

 だけど、様子がおかしいと感じて声を掛けてくれた優しさは、嘘偽りのない本物。

「アディ?」

 私たちの声が届かなかったんだろう、陛下が不思議そうに首を傾げる。

「済みません、大丈夫です」

 話を中断してしまったことを謝って、陛下に微笑んだ。

「ファービリアさんのことも、信用してないわけじゃないんです。でも……その、強いっていうのは本当、なんですか?」

「ふむ?」

 失礼とは判っていたけど、どうしても信じられなくて、ついそう口にする。

 ファービリアさんは喉の奥を鳴らすようにして、それでも至極優雅に首を傾げた。

「ほほ、余が力あるものと信じられぬと?」

「あ、いや、その……」

「そうじゃろう、そうじゃろう。余は見た目から儚く、風にも手折れそうな風情であるが故にな!」

 口籠った私のことなんて気にした様子もなく、ほほほ、とか優雅に笑いながら、結構とんでもないことを言い出す。

 た、確かにファービリアさんの見た目は、彼女が言う通りのものだけど、それを自分で言えるって凄い。

「お前、それ自分で言うのかよ」

「黙れ獣」

 はあ、と溜め息混じりにぼやいたサンシュを、ファービリアさんはぴしゃりと遮る。

「てっめえ……!」

「はいはい、この場で喧嘩はなしで、ね?」

 ぎり、と歯噛みしたサンシュを、陛下の穏やかな声が宥める。

 ここに揃ってるのって、この世界のトップばっかりだと思うんだけど、なんか微妙に緩いっていうか、なんだか独特な空気だなあ。

「アディは確か、サンシュとリクの手合わせは見たんだよね?」

「あ、はい」

 穏やかな表情のまま陛下に訊かれて、素直に頷く。

 誰に聞いたのかは判らないけど、王城の敷地内で結構派手な騒ぎになったから、そりゃ王様に話が行くよなあ。

「ファービリアはね、二人と真正面から戦っても、負けはしないくらいに強いんだよ」

「え……は……?」

 え、いや、あの、待って?

 『負けはしない』って妙な言い方だとは思うけど、要するに引き分けに持っていくことはできるってことだよね?

 ってことは、あのえらい勢いの手合わせ、ファービリアさんも止められるってことだよね?

 この、口元隠しながら優雅に微笑むファービリアさんが、そんなこと出来るなんて思えない。

 だって、『野蛮なことなど、余の与り知らぬ次元の話じゃ』とか、ころころ笑って言いそうな雰囲気なのに。

「ほほ。本気で猛った余を止めることができる者など、そうおらぬよ」

 こんなにも優雅に、優し気に微笑むファービリアさんが、あの二人を止められるとは思えない。

 でも、誰も茶々を入れないし、否定もしないところを見ると……っていうか、当のサンシュとリクも否定しないところを見ると、でまかせじゃないらしい。

 ってことは……ほんとに?

 ほんとにこの風にも折れそうな佳人……って、男性に使っていい表現なのか判らないけど、とにかくそういう見た目のファービリアさんが、見た目通りじゃないってこと?

「見た目がこれだもんなあ、そういう反応になるのも判るけどよ」

 唖然としてる私に、のんびりした声を掛けてくれたのは、ヒイラギさんの膝に座ってるゴラちゃんだった。

「魔法を使う力ってのは、腕力脚力とかとは違って、見た目じゃ判らねえもんだ」

 あ、そっか。

 どうも魔法ってものに馴染みがないせいか、強い=肉弾戦ってイメージしかなかったけど、魔法使いなら筋骨隆々じゃなくてもおかしくない。

 現にヒールの見た目は小柄で華奢で優し気だけど……いやまあ、性格はこの際、脇に置いておいて……少なくとも見た目は年相応の少女のヒールでも、人を殺すことは難しくない。

 カリスの頭の上に水の玉を出してそれを落としたことがあるけど、それをもし人の頭部そのものを包むように出したら、どうなるか。

 陸で生きる生き物は、鼻と口を水で覆われたら、生きていけない。

 あのか弱い見た目で……いや、もう、性格はほんと、置いとくとして……人を簡単に殺せる力があると思えば、このファービリアさんが強いっていう理屈も判る。

「ほほ。余には劣ろうが、ヒイラギもこう見えて強いぞう?」

「いや、私はそれ程では……」

 口元を隠して微笑むファービリアさんと、なんともいえない表情で斜め下を見てるヒイラギさんが、なんだか対称的に見えて不思議だった。

 ゴラちゃんが、ぽん、とヒイラギさんの手を叩いてるが見える。

 よく判らないけど、取り敢えずあの二人には見た目以上の力があるってことだけは、なんとなく判った。

 ああ、なんていうか、あれだ。

 人は見かけによらない。

 その言葉を、こんなに強く実感することになるなんて、思ったこともなかった。

 まあ、思ったことも何も、記憶自体がここ数日しかないんだけど。

 それでもなんか、背筋が寒くなるような。

 そんな気がした。



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