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創り人の箱庭  作者: サボ
第一章
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1-7『弟? 妹?』

第一章

第七話

『弟? 妹?』



 竜人族のお茶会のあと、私たちは私にと宛がわれた部屋に戻った。

 散歩も結構長時間に渡っちゃったし、気付けば夕暮れ時だったし。

 はあ、やれやれ。

 のんびりと楽しい時間だったけど、気付いたら長時間話してて、少し疲れたかも。

 まあでも、これで北の獣人族、西の妖精族、東の人間族、南の竜人族。

 それぞれのトップに会えた……というか、ちゃんと再会できたというか。

 私があの大樹で目を覚ました時、あの場にみんな居たんだし。

 慌ただしくて全然覚えてないけど、トップの従者たちもきっと全員揃ってたんだと思う。

 木の上じゃなくて、降りた地面のところに。

 あ、そういえば東の公爵領主はヒイラギさんじゃないらしいから、正確にはトップ全員と会ったわけじゃないか。

 なんで東だけ領主本人じゃなくて代行を立ててるのかは判らないけど、ヒイラギさん本人は領主じゃない。

 それにしては陛下や他の人にも気安い感じだったところを見ると、多分、ヒイラギさんが代行であれこれやるのは今までにも沢山あったことなんだろう。

 ひょっとしたら、今の東の領主は病弱とかで、娘のヒイラギさんがずっと政務をこなしてたとか。

 あの人だったら、そつなくこなしそうだなあ。

 あのきびきびした説明とか、柔軟な受け答えとか見てると、なんとなく、そう思う。

 いやまあ、最後のほう、なんか疲れ果てた顔でゴラちゃんに頬擦りしてたとこを思い出すと、そつなくとかなんとかそういう言葉は引っ込むけど。

「疲れたか?」

 ぼんやりとそんなことを考えていた私に、リクが静かに声を掛けてきた。

「ああ、いや、大丈夫だと思う」

 曖昧な答えになってしまったのは、昨日からずっと膨大な情報に飲み込まれて、自分でも気持ちの整理が巧くできてないことが判ってるからだろう。

 ちょっと疲れたな、と思ってたのは確かだし。

「ほんとに大丈夫? 私だったら全然知らない世界に召喚されたりなんかしたら、その時点でだいぶパニック起こすと思うもん、無理しちゃダメだよ?」

「そりゃそうだなあ。俺もあたふた騒いでるだろうなあ」

 ヒールとカリスの言葉に、私はただただ苦笑を浮かべるだけだ。

 実際、私だって変に落ち着いてるなって、自分に対して思ってる。

 でも、以前の記憶がないせいなのか、私は妙に達観した部分があった。

 なるようにしかならないっていう、諦めの境地みたいな。

「お前って、結構図太いな」

「カリス!」

 素直な感想を口にしたカリスを、ヒールが思い切りどつく。

 あはは、『図太い』ってのは、確かに誉め言葉じゃないもんなあ。

 でも、その言葉は間違ってないと思う。

「いいんだよ、ヒール。確かに図太いんだから」

 どう説明したらいいのかは判らない。

 だけど、今はそう言う他にないんだ。

 そう言って微笑む私の手を、ヒールはがしっと掴んだ。

 瞬間、世界の色彩が褪せる。

「ほんとにいい子ねえ……!」

「はい?」

 色が戻って来たかどうかってくらいのタイミングで言われて、私は間の抜けた声を上げるしかできなかった。

 『祝福』と『呪い』を掻き消すこの現象、私は他の誰かと何度かやってきたから慣れつつあるけど、ヒールはあの一回だけのはず。

 それでいて、もうどうでもいいみたいな感じで受け流すの、凄過ぎない?

 っていうか、『いい子』って何??

「あー、アディ。お前、ヒールから『近所の子』認定されたわ」

「はあ?」

 肩を竦めるカリスの言葉の意味が、全然判らない。

 なんだ、近所の子認定って?

「ヒールは下町育ちで、周りに居る子供は全部弟妹って感じで育ってるんだ。お前もその一人になったってこと」

 は、はいい?

 やれやれっていうか、なんかもう、『そういう面倒見のいいとこもこいつらしくていいだろ?』みたいな顔で言われても、なんて返していいのか判らない。

 痴話喧嘩と惚気はよそでやってくれ、と口元まで出かかったけど、なんとか腹の奥に飲み下す。

 なんか、炎上しそうだったから。

「私はヒール好きだし、嬉しいよ」

 いい子だと撫でてくれるのは嬉しいし、触れれば変な作用が出るって判ってるのに、躊躇いなく触れてくれるのも嬉しい。

 この『祝福』と『呪い』を掻き消す力、副作用がないなんて誰も保証してくれてないのに。

「いい子ー!!」

 そう叫んで、ヒールはぎゅううっと私を抱き締めてきた。

 あったかくて、柔らかい。

 なんか凄く、安心する。

「……アディは、ヒールより年下なんだろうか」

「は? ああ、ううん、どうだろなあ?」

 ふと耳に届いた、リクとカリスの声。

 私には記憶がなくて、自分が幾つなのかも、正確なことは判らない。

 鏡で見た自分の姿は、顔立ちが中性的だなあっていう印象が先に立っちゃって、年齢がどうこういう観点はすっ飛んでた。

 冷静に考えて、私って幾つくらいだ?

「二十歳は超えてない感じだと思うけどなー」

 こりこりと頬を掻きながら、カリスはしげしげと私を見つめる。

「髪や目は、東の人に多い感じだけどね」

 ヒールが言う東の人たちっていうのは、東の領地……つまり、ヒイラギさんたちのことだろう。

 確かにヒイラギさんやサイゾウさんは髪も目も黒かったし、名前の響きも他の地域とは違うというか、和風というか。

 記憶もないのに和風とか言うっていうのもどうかと思うんだけど、そう感じるんだから仕方がない。

 誰に説明するわけでもないし、この際割り切ることにしよう。

「私は正解が判らないから仕方ないけど、みんなって幾つくらい?」

 そういえば、と思って首を傾げたら、三人三様、きょとんとした顔をした。

 リクはちょっと表情、判りづらかったけど。

「あ、そういえばそんな話してなかったな。俺は23、ヒールは19、リクは25だ」

「へえ、みんなバラバラなんだね?」

「そうね~」

 そのまんまな感想を言ったら、ヒールは頷きながら二人を見た。

「みんなこの中央出身で『祝福』と『呪い』を授かってるから、騎士団に入るのは決まってるようなものだし。会うのは必然ってところかしらね」

「ここで『祝福』と『呪い』を授かってる人は、みんな騎士団に入るの?」

「ううん、そういうわけじゃないわ」

 私の言葉に、ヒールは緩く首を振る。

「ひと口に『祝福』だとか『呪い』だとか言っても、騎士に向き不向きがあるのよ」

「え? あ、そっか」

 騎士団と言えば、誰か、又は何かから、警護対象を守るものだ。

 みんなは王の騎士団なんだから、警護対象はこの世界で一番守らなきゃいけない存在。

 何からあの陛下を守る為の騎士団かはよく判らないけど、少なくとも戦う力は強くないといけない。

 ……いや、ほんとに何と戦うの?

「あのさ、騎士団の敵って、どんなものがあるの?」

 思ったことをそのまま口にしたら、三人は顔を見合わせた。

 ああ、まあ、至極普通の常識を改めて訊かれたら、そういう感じになるよねえ。

「そうだな……今の王政に異のある者や、魔素堕ちした魔物だな」

「まそ、おち?」

 律義に答えてくれたリクの言葉には、聞いたことがない単語が入ってた。

 いや、その前に。

「魔物って、みんな危ないものじゃないの?」

「そういうわけじぇねえよ」

 今日何度目か首を傾げた私に、カリスがひらひらと手を振る。

「お前、ヒイラギさんに説明して貰ったってことは、ゴラもそこに居たんだろ?」

「ゴラちゃん? うん、居たけど」

 カリスに訊かれて、私はあの動く人型根菜を思い出した。

 なんともまったりとした顔をした、掴み所のない、でも物凄くヒイラギさんに愛されてる感じの、不思議な生き物。

「ありゃ魔物だ」

「え!? いや、ああ……うん、そうだね」

 一瞬驚きかけたけど、ゴラちゃんを魔物以外のなんだと訊かれたら、返す言葉に困る。

 マンドラゴラっていえば、そりゃあ魔物……魔植物? だよね。

「魔物っていうのはね、動物や植物が魔素を受けて、姿を変えたもののことを言うの。基本的には姿を変える前の生き物の性質を強く受け継いでて、野生動物とあんまり変わらない感じなのよ。繁殖もできるし」

 ヒールはそう言ってから、人差し指を立てた。

「魔素堕ちっていうのは、魔物が更に魔素の影響を受けて、変質したもののことを言うの。こっちは凶暴で、特に人に対する敵対心が強いわ。あと、こっちは繁殖できないの」

 ええっと、つまり、魔物は友達になれる可能性があるけど、魔素堕ちは絶対に無理、っていう感じかな?

「そっかあ、この世界のマンドラゴラは、みんなあんな味なんだあ」

「いや、そりゃ違う」

 うんうん、と頷いた私に、カリスがひらひらと手を振った。

「マンドラゴラっていやあ、普通は地面に植わってて、引っこ抜いたら悲鳴を上げて、それ聞いたら死ぬって魔物だ。動物ってより植物って感じで、自分で歩くやつなんて居ねえよ」

 うん、それはなんでか知ってるマンドラゴラそのものだね。

 でも、ゴラちゃんは違う。

 自分の足で歩いて、普通に喋って、なんかニヒルに『ふ』とか笑ってた。

「ヒイラギさんとこのゴラは特別製なんだよ。あんな、歌って踊れるマンドラゴラなんて、他に見たことねえ」

 え、ゴラちゃんって、歌って踊れるの?

 いや、それくらい出来そうだけど。

「立場上、多くの魔物や魔素堕ちを見てきたが、ゴラと同じマンドラゴラは見たことがない」

 駄目押しとばかりに、リクがそう言った。

「父も祖父も見たことがないと言っていたから、恐らく変異種なのだろうが……」

「変異にも程があるだろ、アレ」

 言葉尻を濁したリクと、肩を竦めながら言い切ったカリス。

 あー、やっぱり程があるんだ、あの子。

「でも、ヒイラギ様が可愛がってる気持ち、結構判るなあ。実際、結構可愛いし」

「いやあれ、可愛くはねえだろ」

「何言ってんのよ、可愛いじゃない」

「そりゃ愛嬌はあるけどよ、可愛いとは違わねえか?」

「かーわーいーいー」

 ヒールとカリスが、そろそろお馴染みになりつつある言い合いを始める。

 二人は取り敢えず放っておいて……うん、私もゴラちゃん、可愛いと思うなあ。

 なんか、ゆるキャラっていう言葉が思い浮かぶ。

 なんのことだか、よく判らないけど。

「ちなみにリクは、ゴラちゃんのこと可愛いと思う?」

「……」

 私の問い掛けに、リクは少しだけ視線を斜め下に向けて、何か思案してるみたいだ。

「……『可愛い』という言葉の尺度は、男女で少々違うように思っている」

「な、成る程?」

 答えになってるような、なってないような。

 言いたいことはなんとなく判るけど、じゃあ私がゴラちゃんを可愛いと思うこの気持ちは、女性の部分ってことだろうか。

 はて、それじゃあ男性の部分は何処にあるんだろう?

 ううん、つくづくどっちつかずの曖昧な存在だなあ、私って。

 ……ヒールが私のこと、下町の家族みたいな認定してくれたって話だけど、妹扱い? それとも弟扱い?

 ま、どっちでもいいか。



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