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創り人の箱庭  作者: サボ
第一章
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1-6『思いの外、年上でした』

第一章

第六話

『思いの外、年上でした』



 それにしても、シューレット君って、偉い人の近衛の割りには若いよなあ。

 小柄だけどしっかり筋肉の付いた身体は、これから成長していけばリクみたいになりそうな予感がする。

 陛下のほうがシューレット君より若いとは思うけど、あれはあれで特殊な事情があるから別の話だろう。

 そうだなあ、シューレット君は十五歳くらいで、陛下は十二歳くらいかな。

「? 俺がどうかしたか?」

 ついぼんやりとシューレット君を眺めてたせいで、彼にそんな声を掛けられた。

「あ、いや、シューレット君って随分若そうだけど、幾つなんだろうって」

「は?」

 正直なことを言ったら、シューレット君は茶色い目を丸くする。

「あー、竜人族のこと、何も知らないんだな、お前」

 こりこりと頬を掻いて、シューレット君は苦笑を浮かべた。

「え? いや、竜人族どころか、他の種族のことも全然知らないんだけど」

 反射的に正直なことを言ったら、シューレット君はけらけらと高く笑う。

「そりゃそうだ! 異世界からの稀人なんだから!」

 からっとした性格してるみたいだなあ、この子。

 カリスとかサンシュに近いかも。

「取り敢えず俺、百年以上は生きてるぜ?」

「は?」

 言葉の意味を、一瞬理解できなかった。

 ひゃ、ひゃくねん?

「判った! 竜人族の一年は三百六十五日じゃないんだ!」

「なんだその結論!?」

 思ったことをそのまま口に出してたらしく、シューレット君に突っ込まれた。

 いやだって、彼はどう見ても十五歳くらいじゃないか。

 っていうか、この世界の一年も三百六十五日なんだ。

 反射で言った言葉だけど、その点から覆されてないってことは、そういうことだろう。

「そうじゃなくてねえ、竜人族っていうのはあ、人間族と比べると長生きさんなんだよ~」

 あはは~、とか笑いながら、クイニークさんはなんか可愛い言い方をする。

「うちのねえ、三区隣のヨーデフさんなんて凄いんだよ~」

 誰だそれ。

 三区隣って、三軒隣とかそういう感覚なんだろうか。

「ヨーデフさんはねえ、もう五百年くらい生きてるんだよ~」

「ご、ごひゃく!?」

 何それ!?

 木でもそんなに長生きしてるものは珍しくない!?

「そうなんだよ~。それにねえ、ちょっと二十年くらい前に亡くなっちゃったんだけど~」

「クイニーク様、そこまでそこまで」

 更に言い募ろうとしたクイニークさんを、シューレット君は手をひらひら振って止めた。

「説明は俺がするんで、茶々入れだけお願いします」

「あ~、あはは~、ごめんねえ」

 シューレット君、なんか凄く失礼なことを言ってる気がするんだけど、クイニークさんは気にした様子もなく笑う。

 ちらっとリクたちを見てみたけど、誰もこれといって表情を変えてなくて、これが普通のことなんだって実感させてくれるだけだ。

「すんませんね、クイニーク様はなんか説明しようとすると、どんどこずれてくタイプなんですわ」

 あ、あー……成る程成る程、思い出した。

 ヒイラギさんと陛下が、『何か疑問を持った時に、解説を依頼しちゃいけない二人』って話をしてくれて、その中の一人だ、クイニークさんって。

 確か、訊きたいことを説明してくれる前の段階が長くなるとかなんとか。

 シューレット君曰く、話がどこまでもずれてくタイプなら、そりゃそうなるわ。

 解説を依頼しちゃいけないもう一人はサンシュだったわけだけど、今にして思えば確かにそうかも。

「ああ、いや、気にしないで」

 別に実害を被ったわけじゃないから、怒る筋合いもない。

 はは、と苦笑した私に、シューレット君はにかっと笑う。

「じゃあ続けるけどさ、俺たち竜人族ってのは、人間族と比べると平均寿命が五倍くらい違うんだ」

 五倍?

「人間族の平均寿命が六十から七十くらいで、俺たちは三百から四百くらいってとこだな」

 振れ幅が酷い。

「で、俺が百歳くらい、クイニーク様は二百五十くらいなわけなんだけどさ」

「くらい?」

 さっきから微妙に曖昧な表現をするな、と思ってたんだけど、領主の年齢まで濁すってそういう風潮なのかな?

「ああ、竜人族ってのはあんまり生きた年数に頓着しないんだ。これは同じ長寿の妖精族も同じなんだけどな」

 あ、妖精族もご長寿さんなんだ。

 ってことは、あの美の化身みたいなファービリアさんも、見た目を裏切るお歳ってこと?

 五十年くらい前は、ってなことぽろっと言ってたけど、そういうこと?

「で、これもどっちの種族でもあることなんだけど、外見の年齢が結構若いうちで止まることがあるんだよ」

「外見の成長が、止まる?」

 鸚鵡返しの私に、シューレット君はひとつ頷いた。

「うちの領地全体で三割くらいの割合で、人間族でいうところの十代前半のまま見た目の成長を止める。俺も、それから今の陛下もそうだ」

「えっ!?」

 声を上げてから、そりゃそうだろうって思い直す。

 幾ら石板に選ばれた奇跡を与えられても、妙に落ち着いたっていうか、達観してる雰囲気もあったし、逆にちょっと納得した。

 陛下が百歳を超えてるなら、そりゃあの落ち着きも達観ぶりも納得する。

「因みに陛下は二百超えてるから」

「ええ!?」

 思ったより歳食ってた。

 いやもう、百歳超えてたらどこまでいっても大差なく感じるのは、私の知識で百歳以上になる人は稀っていうものがあるからだろうか。

 取り敢えず、私は生粋の人間族ってことだ、うん。

 それにしても、シューレット君より陛下のほうが年上なんだ……いやもう、年上の幅が広過ぎて、よく判らないぞ。

「見た目の歳が止まるのはねえ、大体十代なんだよ~。でもねえ、たまにそうじゃない人もいてねえ、カナウェラ温泉街のマルビアさんはねえ、七歳くらいで止まってるんだよ~。ああ、うちの領地にはねえ、活火山が沢山あってねえ、温泉も沢山あるんだよ~。ああ、それからねえ」

「はい、そこまでそこまで」

 また話が逸れそうになったっていうか、完璧に逸れたクイニークさんを、シューレット君が慣れた調子で止める。

 短時間で二回も止められたクイニークさんは、ちょっとしゅん、としてるように見えた。

 でも、クイニークさんって自分の領地のことをよく知ってるだな。

 領地に温泉が沢山あるのを憶えてるのは当然としても、さっきの『三区隣の人』とか、今の『温泉街の人』とか、個人のことを名前までちゃんと言える領主様って、当たり前のことかちょっと疑問だ。

 今度、他の領主さんに訊いてみようかな?

「北の獣人族、西の妖精族、東の人間族、それから南の竜人族。この中で一番平均寿命が長いのは竜人族だ」

 シューレット君は右手の人差し指を立てて、言葉を続ける。

「俺たちは平均寿命が四百年くらい。妖精族は三百年くらい。人間族は六十か七十年くらいかな。それで、獣人族は四十年くらいだ」

「え、四十年?」

 他の何より気になったのは、獣人族の寿命の短さだった。

 多分、ついさっきサンシュたち獣人族と会ってたからだろう。

 私の知ってる人の平均寿命は、シューレット君が言ってる人間族のそれとあんまり変わらない。

 だからなのか、それよりもずっと短い……いやまあ、竜人族とか妖精族の寿命と比べれば、誤差の範囲内かもしれないけど、その辺は種族の差ってことで置いといて、とにかくあの二人が想像よりもずっと早く寿命を迎えることが、なんだかショックだった。

 今すぐ死んでしまうとかいうわけじゃないのに、どうしてこんなにショックなんだろう。

「そうだよ。今領主やってるサンシュクリット閣下は十八だから、まだ折り返しでもないけど」

 サンシュが十八?

 二十代半ばくらいに見えたんだけど……ああそうか、平均寿命が違うから、成長速度そのものが違うのか。

「まあそれでも、サンシュ閣下はヒイラギさんと同じ時代に元老院やるってことはないだろうな」

 元老院って、確か歴代の領主経験者がなる、『陛下』の相談役っていうか、実質この世界を運営する四人だって、ヒイラギさんに教わったっけ。

 ヒイラギさんは幾つか判らないけど、まだ領主にもなってない。

 そして、もう領主になってる、彼女よりも寿命の短いサンシュ。

 サンシュがよほど長生きするか、今の東の領主が夭逝するかしなけりゃ、元老院で同じ時間を共有することはないだろう。

「なんか……不思議な気分」

 どういう言葉で表現すればいいのか判らない感情を、曖昧に呟いた。

「そうか?」

「う~ん、ひょっとしてえ、アディがいた世界はあ、人間族だけしかいなかったのかなあ?」

 きょとんと首を傾げたシューレット君の隣で、クイニークさんがぽん、と手を叩く。

「憶えてはいないんですけど……多分、そうなんだと思います」

 記憶はないけど、知識はある。

 少なくとも、人間と同じ言葉で意思疎通ができるのは、同じ人間だけだった。

 それも、ここにはない国っていうものを境目に、言葉さえ通じないことも多かった。

 そんな状態をやっぱり巧く表現できなくて、なんともいえない、変な笑みになってしまう。

「それならねえ、ちょっと不思議な気がするよねえ」

 にこにこ、にこにこ微笑むクイニークさんの言葉に、ほっと息が抜けた。

「俺たちはこれが普通だから、逆に人間族しかいない世界ってののほうが、不思議な気がするけどな」

 なあ、とでも言いたげに、シューレット君はリクたちを見る。

「確かにな」

「他の種族も、混血も、当たり前にいるのが私たちの普通だしね」

 リクは無言で頷き、カリスとヒールは視線を合わせた。

 そうだよなあ。

 カリスみたいに他種族との混血だっているのが、こっちの普通なんだよなあ。

 剣や魔法が当たり前なのも、貴族が領地を治めてるのも、大樹が世界を支えているのも、世界の果ては壁で囲われていることも。

 そもそも稀人とかいうものも、全部こっち側の普通。

 その普通に合わせて、私は生きていかなきゃいけない。

 元々の記憶、なくて良かったのかもしれないなあ。

 今まで生活してきた別の世界の記憶があったら、余計に混乱してたかもしれないし。

「歳の話はあ、これくらいにしようかあ」

 パン、と手の平を打ち合わせるようにして、クイニークさんはにっこり微笑んだ。

「僕の領地のことを~、話てあげるよ~。シュー、チョコレートがあったよねえ? 出してくれる~?」

「あ~、はいはい」

 笑顔で頼まれて、シューレット君はひらひらと手を振って立ち上がる。

 今まで何人か領主と従者ってのを見てきたけど、この二人ほど気安い関係な人たちはいなかった。

 クイニークさん本人もあんまり偉そうな雰囲気じゃないから、この二人を見てると主従っていうよりも友達みたいな感じだ。

 いやもう、気安いを通り越して、無礼だよね。

 公爵と従者っていう関係にも、色々あるんだなあ。



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