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創り人の箱庭  作者: サボ
第一章
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1-4『迷う言葉』

第一章

第四話

『迷う言葉』



 私が『祝福』や『呪い』は、やっぱりデリケートなものなんだ、と思い直してたら。

「いよっしリク! ちょっと付き合え!」

 雑談は終わりだ、とでも言わんばかりに、サンシュはリクに向き直った。

「それは……」

 リクは即答しないで、ちらりと私のほうを見る。

 ……?

 ああ、そっか。

 リクは今、私付きの騎士ってやつだから、物事の優先順位は『私』にあるんだ。

「なんの相手?」

「軽い運動だよ。言っただろ? 俺ら、身体が鈍るから軽い運動してたとこだって」

 首を傾げれば、サンシュのほうがそう答えてくれる。

 成る程、ちょっとした手合わせに付き合ってくれって話ね。

「あてのない散歩だし、見学させて貰えたら嬉しいかな」

 『やっていいよ』なんて偉そうなことも言えずに、私はそんな言葉で先を促す。

 実際、誰かが戦ってるところなんて見たことがない……というか、記憶にないから、どんな風に手合わせするのか見てみたい。

「判った」

 私に一つ頷いてから、サンシュに向き直る。

「武器を取って参ります」

「おう、一番使い慣れたの持って来いよ!」

「は」

 短い返事のあと、リクは踵を返した。



 人が戦ってる姿を見た記憶はない。

 柔道とかボクシングとかプロレスとか、そういうのも観た覚えはない。

 だけど、例えどんな試合を見たことがあったとしても、今目の前で繰り広げられてるこれと比べちゃいけないと思う。

 見たことはない。

 だけど、私が想像するそれは『試合』だと知ってる。

 これは、『試合』なんかじゃない。

 『戦い』だ。

「おおおおおお!!」

「はあああっ!!」

 晴れ渡った庭先に響くのは、低く吠えるような気合の声と、鋭い斬撃の音。

 平和の象徴みたいな背景に、その音は酷く不釣り合いだと思う。

 あと、目にも止まらない動きで打ち合う大柄な二人も、この景色に全然似合わない。

「大丈夫? 怖くない?」

 隣に並んだヒールが、私の顔を覗き込んでそう訊いてきた。

「怖くは、ないよ」

 怖くはない。

 ただ、圧倒される。

 リクが巨大な大剣を、縦に振るか横に薙ぐか。

 サンシュが屈強な拳を使うか足を使うか。

 選択肢は勿論それ以上あって、でもそれを瞬きするより短い間に選んで打ち合う。

 お互いの攻撃をかわすか防ぐかできなければ、大怪我に直結するだろうに、二人とも遠慮が全くない。

「怖くはないけど、ただ、驚いてる」

 戦う圧力が、ちりちりと肌を焦がすようだ。

 そんな光景を目の当たりにして、ただただ、驚いてる。

「ま、この二人がやり合ってんの初めて見た奴は、ビビるか引くかのどっちかだわなあ」

 そう言って、カリスはからからと笑った。

「あのさ、これ、手合わせなんだよね?」

「そうだな。割りと本気の手合わせってやつだ」

 『割りと』本気ってことは、これ、全力じゃないってこと!?

「サンシュ様のお顔をご覧ください」

 低い声でそう言って、ウェルバニーさんはサンシュのほうを指さした。

「笑っておられるでしょう?」

「あ、確かに……」

 動きが素早過ぎてよく見えないけど、確かにサンシュは笑ってる。

「如何なサンシュ様といえど、あのお顔のまま相手を殺すことはできません」

 そ、そりゃそうだ。

 人懐っこい感じのサンシュが、笑いながら誰かを殺すなんて想像できない。

「あー、ガチのときのサンシュ閣下って、もっとアレな顔で笑うからなー」

「ほんとねー」

 カリスとヒールの会話に、こう、力が抜けるっていうか、なんていうか。

 結局笑うんだ。

 これはアレだ、戦闘ジャンキーってやつだ。

 戦うことが楽しくて仕方ないってやつ。

 リクのほうは相変わらず無表情のままで、見た目からは楽しんでる様子は窺えない。

 それにしても、動きが速過ぎて、何をやってるのかよく見えないな。

 これのどの辺が『ちょっとした運動』なんだろう。

 二人にとっては、まだまだ本気には遠いのかもしれないけど、私にしてみりゃ異次元だ。

 ……そういえば、リクは普段、あの大剣を携帯してなくていいんだろうか。

 騎士……それも王様付きの騎士ってことは、四六時中戦える状態じゃないとまずいんじゃないのかな?

 そりゃ、リクの身長くらいあるんじゃないかっていうあの大剣を、常時持ってろっていうのは邪魔かもしれないけど。

 でも、それなら大剣に代わる武器を携帯してるもんじゃないのか?

「あのさ」

「ん?」

 隣のヒールに呼び掛ければ、小さく首を傾げながら私を見る。

 小柄な彼女がそういう仕草をすると本当に可愛いんだけど、口調っていうか言動っていうか、そっち方面が男前なんだよなあ。

「いや、ちょっとした疑問なんだけど、リクっていつも武器持ってなくていいのかなって」

「ああ、あいつ、いざとなったら素手でもやれるし、剣くらい幾らでも呼べるからな」

「はい?」

 私の問いに答えてくれたのは、カリスのほうだった。

 だけど、その答えには疑問しか浮かばない。

 素手で強いのはまだ判るけど、剣を呼べるってどういうこと?

「あ、魔術?」

「違うわ。リクは魔術をほぼ使えない」

 思い付いたことを口にすれば、ヒールがすぐに否定する。

「アディ、『英雄』って言葉を聞いて、どんな人を思い浮かべる?」

 え?

 どんな人って言われても……。

「えっと、凄く強くて、負けなくて、目的を必ず達する人?」

 我ながら、なんて浅い答えなんだろう。

 そう思いながらも、それ以外に言葉が湧いてこないんだから仕方がない。

「うんうん、漠然とし過ぎててそういう感じの答えになるの、判るわ~」

 何度か頷いて、ヒールは浅い私の答えを肯定してくれる。

 なんか、ほっとした。

「その曖昧な雰囲気ね、そのまま形にしたのが『英雄』って『祝福』なの」

「……え?」

 この頭の悪そうな言葉、それをそのまま形にしたのが、『英雄』?

「目的を果たすまでは死なない。苦境も必ず乗り越える。そうでなければ『英雄』じゃない。『英雄』は、目的を果たして後世に語り継がれるから『英雄』なの」

 ヒールの言葉は、私の答えと同じくらい、空を掴むような雰囲気だった。

 でも、ヒールが言いたいことは、なんとなく伝わってきた。

 というか、私の中にある曖昧なものを、的確に言葉にして貰えた、そんな気がする。

「リクの『英雄』っていう『祝福』はね、そういう呪いなのよ。生涯の目的を達するまでは、どんな奇跡でも起こしてみせる」

 どんな、奇跡でも。

 それは酷く重くて、胸の奥にずしりと食い込むだけの力を持った言葉だった。

「リクはあんまり自分の『祝福』が好きじゃねえんだよ」

 独り言を呟くように、カリスは続ける。

「どんな勝負に勝つのも、どんな苦境を乗り越えるのも、全部『英雄』だから。それだけで片付けられるのが、嫌いなんだ。あいつ、小せえ頃から尋常じゃねえ努力し続けてきたからな」

 その言葉は、過去を知らない自分でも、何故だかすぐに納得できた。

 だって、リクの身体は作り込まれた筋肉の塊で、それが一朝一夕でできるものじゃないってことくらい、簡単に想像できる。

 例え身体を作ることさえ『祝福』の加護が作用してたとしても、なんの努力もなくあの身体が出来上がるなんて思えない。

 彼はきっと、リクの言う通り、小さい頃から努力に努力を重ねてきたはずだ。

 それを、『英雄』の『祝福』を授かってるから当たり前だなんて言われたら、そりゃいやおい待てよって言いたくなる。

 そうか、だからリクは『英雄』の『祝福』についての話になったとき、視線を落とすことが多かったんだ。

 『英雄』の話題になって、注目を浴びるのが嫌なのかと思ってた。

 でも違った。

 リクは、多分。

 誰よりも。

 『英雄』という『祝福』に、呪われている。

 ああ、なんて。

 ……なんて、言えばいいんだ?

 可哀想?

 違う。

 お気の毒?

 違う。

 違う。

 そんなマイナスの言葉なんて、リクには向けられない。

 向けたくない。

 じゃあ、なんて言えばいい?

「それはまた……七面倒くさいお祝いだね」

 結局私が言えた言葉なんて、マイナス要素さえ拭えない、ありきたりなそんなもので。

 もう少し気の利いたことも言えないのかって、自分でもそう思う。

「ほーんと、めんどくさいお祝いだよ」

「だな」

 それでも、ヒールもカリスも、私を笑うことも諫めることもせずに頷いてくれた。

 無言を通してるウェルバニーさんも、小さく頷いてる。

 ああ、ほんと。

 めんどくさい『祝福』もあったもんだなあ。



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