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とある魔王の無双譚  作者: azl
諸外国との交流
93/145

大帝国の強者達

三本投稿二本目です。


*あらすじ:視点はソーン大帝国へ

 『新たなる魔王リュートが誕生、その領土をキルクルスの不帰の森とする』

 この情報を得たソーン大帝国の上層部はその翌日の夜、来たるチョウアンとの戦争にて投入予定だった強者達を集め、緊急の会議を行う事にした。その事実と日中に集められた新たなる情報が、チョウアンへの勝利に対する大きな障害となる可能性をはらんでいたのである。


 その会議の場はソーン城の大会議場、用意された席は計六つで内四席は着席済みだった。そこに座るのはソーンの誇る最強格の戦士達、そしてミツヒデが異世界から呼び出した異世界人でもある。


「ったく、俺様を待たせるなんざとんでもないクソだな!!」


 会議場にそんな怒号が響いた。

 長時間待たされている事に激昂し、そう吼えるのはソーンが誇る”闘星”の六番目、六闘星のリッパーである。彼は非常に短期でありそれでいて傲慢、ちょっとした事ですぐに激昂し誰も手が付けられなくなるのだ。

 年は若く少し痩せ形。かつては喧嘩に明け暮れていたためか、その体は傷と痣まみれである。


「ひひひ、そう言うで無いわ。むしろ貴様のような弱者が高貴なるあのお方の瞳に映っておることを誇るべきじゃろう」


 そしてそんな彼を戒めるのが四闘星のゼニスだ。彼は強者には媚び、弱者には驕る非常に利己的な性格をしていた。年は四十代後半とこの面子の中ではかなり年老いている。故にその利己的な性格は、彼の経験に裏付けされた彼なりの処世術である可能性も捨て切れないだろう。

 尤もそのような態度が非常に短気なリッパーに受け入れられる事は無いのだが。


「貴様!!舐めた口聞くんじゃねぇぞ!!」

「ほほほ、結果はやる前から分かっている気もするが、文句があるならかかってくるがええ。儂は逃げも隠れもせんからの」


 激昂したリッパーに嘲笑を向けるゼニス。

 だがそれも無理もない話だ。かつてリッパーはゼニスに挑み、完膚なきまでに叩き潰されたのである。それ故結果はやる前から分かっているというのも決して誇張表現ではないのだ。

 とはいえリッパーが弱い訳では無い。帝国においては最強格の戦士であることは間違いないのだが、異世界から召喚された戦士の中で一番弱いという事実は否定出来ない。

 召喚された者達の”能力”の強さ自体は殆ど拮抗しているのだが、彼はそれを十分に扱う事が出来ていないのだ。


「お前は儂よりも弱い、だから舐められるのだ。それが嫌なら実力で証明してみるが良い」

「ふん、良いだろう。だったらこの場で」

「二人共、くだらない言い争いは辞めるんだ」


 日に油が注がれ、リッパーとゼニスが一触触発の空気を作り出す。だがそんな二人を窘める者がいた、三闘星のセシルである。

 彼女は高潔な性格の持ち主だ。戦士の割には温和であり誰にでも平等に接する、いうなればゼニスやリッパーとは真逆の性格の持ち主と言える。彼女はこの面子の中で一番若く非力だ、だが彼女は自身に齎された”能力”を十分に活かし、ソーン大帝国における四番目の地位を獲得したのだ。


 そしてゼニス、リッパー、セシルのやり取りを、腕を組んで黙って見ていたのがソーンにおける三番目、二闘星のピストラである。

 彼は召喚前から戦いの場に身を置く傭兵であった。彼は他の召喚者よりも戦いに関する経験を積んでいた。それ故齎された”能力”をセシルよりも十全に活用し、異世界人達の頂点に立ったのである。


「ここで争った所で何の意味も無いだろう。実力を証明したいのなら正式な手順を踏んだ上でやると良い」

「チッ、あんたが言うなら聞いてやる・・・」

「ホホホ、儂は始めからそのつもりでしたぞ」


 意外にもセシルの提案を受け入れるリッパー。

 彼女はその性格のおかげで他の戦士達からの人望も厚かった。そしてそれはリッパーも例外では無いのである。それ故彼は彼女の言う通り言い争いをやめ、言われた通り席に座る。

 そして彼がちょうど席に座った時、ここまで沈黙を貫いていたピストラが突如口を開いた。


「・・・皇帝陛下がいらっしゃったようだ」


 彼がそういった瞬間、その視線の先にあった会議場の大扉がゆっくりと開かれる。


「皆の共、待たせたな」


 開いた扉からそう荘厳に言い放つ若い黒髪の男、彼こそがソーンの頂点に立つ現皇帝アケチ・ミツヒデである。その身はまさに覇者とでも称すべきオーラを纏っており、思わず畏怖の念を抱いてしまう。


 そしてそんな彼の後方に控える金髪の年老いた男が一闘星のフィストである。

 彼は闘星の激しい入れ替わりの中で一闘星の座を守り抜いたソーンの誇る最強の戦士であり、その座にふさわしい実力主義的思想を有している。

 現に彼は入れ替わって堕ちていったかつての同僚達に対する一切の情を有していない。弱いから堕ちたのであり、堕ちた彼らへの興味など悉く消え失せているのだ。

 そんな彼の興味は現在の上位六闘星に向いている。尤も少々性格に難がある者が多いので、少し鬱陶しく思っている一面もあった。その筆頭がリッパーである。


「ふん、俺様を待たせるとはいい度胸だな」

「貴様、皇帝陛下に楯突くつもりか?」


 苛立っていたリッパーがミツヒデとフィストにそう言い放った。あまりにも身の程を弁えていないその態度にフィストが一瞬気色ばむが、それを手で制したのがミツヒデだった。


「まぁ待て、自由に言わせて置けば良いだろう」

「おっと、皇帝陛下よ、俺様を待たせたというのに謝罪の言葉の一つも無しなのかい?」

「まぁそう言うな。色々と情報が錯綜して大変だったのだ」

「・・・そうかい、それは失礼したな」

「あぁ、理解してくれて助かるよ」


 リッパーの言い分にそう返し椅子に座るミツヒデ。そしてリッパーの方もゼニスの時の様に声を荒らげたりしない。簡単な話だ、自分よりもミツヒデ、そして彼に常に付き添っているフィストの方が自分よりも圧倒的に強いことを彼は理解していたのである。そして普段は事を荒らげないフィストとミツヒデの二人にも、許容出来る出来ないのラインが有ることを彼は知っていたのだ。

 それ故彼はこれ以上事を荒げるのをやめた。仮にここで引き下がらないのなら、自らの命に危険が及ぶことを彼は十分に理解していたのである。


 堂々たる振る舞いで椅子に座るミツヒデとフィスト、そして会議が始まった。


「早速だが会議を始める。まじ初めに新魔王リュートの誕生について、これは皆の耳にも噂という形で入っていたと思うのだが、この情報は真実だったらしい。かの魔王の領土となる不帰の森があるキルクルス三国の領主たちが皆、新魔王リュートの誕生を承諾し、彼との間に良き関係を作りたいと言う旨の宣言を今日の日中に発表していた」


 ミツヒデの声が会議室に響き渡る。

 新魔王の誕生、その情報に対して面白そうに笑みを浮かべる者もいれば、少し不安げに顔を落とす者もいる。然し口を開く者は誰もいない、この場では皇帝が絶対であり、彼が意見を求めぬ限り勝手に口を開く事は許されないのである。

 静寂の中再びミツヒデが口を開く。


「しかしここまでなら問題は無いだろう。いずれキルクルスも手中に収める計画にはなっていたが、所詮はいつしかの驚異、今気にするべき問題では無かったはずだ。だがつい先程、我らの覇道の障害に成り得る情報が発表されたのだ」


 そういったミツヒデが懐からある書簡を取り出す。そこに書かれていたのはつい先程チョウアン王朝が発表した声明を文字に書き起こした物である。

 その声明というのはチョウアンとリュートが結んだ共同防衛同盟に関するものだ。ミツヒデはその書簡に書かれていた内容を一字一句間違える事無く会議室にいる戦士達に聞かせた。そしてそれを聞いた者の表情は多種多様だ、先程のように面白そうに笑う者もいれば心配そうに視線を落とす者、そして物思いに耽る者など様々。そしてそれを見たミツヒデ、満足げに笑みを浮かべ今回の会議の意味を説明した。


「今日君達に集まってもらったのはチョウアンに対する宣戦布告の可否を問うためだ。無論今すぐにと言う訳では無いが近い未来発せられる事になるだろう。新たなる魔王が彼の国の防衛に協力する以上、戦いはより熾烈を極めると容易に想像出来るが、それを踏まえた上で今後の戦線拡大に対する意見を君達のような強者に聞いておきたいのだ」


 ミツヒデが会議場を見渡しながらそう問いを発する。そしてその問いに真っ先に答えたのがリッパーだ。


「ぶっ潰せば良いだけだ!!新参の魔王ごときに臆する必要など無い!!」


 荒々しくそう吼えるリッパー。

 彼はこの世界に来てかなり増長していた。彼は間違いなく強いのである。そしてソーン大帝国では強者というだけで、その行いの全てが肯定されるのだ。

 それ故彼を咎められる者はおらず、彼に恭順するしか無い。否、いないという訳では無いのだがそれは全体の内の本の一握り。リッパーからしてみればこの国において最強格である自分が、新参の魔王ごときに負ける可能性など万に一にも無かったのである。

 そしてそんなリッパーの意見は、決して突拍子の無い驕り高ぶった意見ではない。彼の言ったその案に賛同する者がいたのがその裏付けの一つである。


「我もその者と同意見ですぞ。我々至高の軍団が一魔王ごときに負けるはずがないのです!!」


 ゼニスがミツヒデに向かってそう自信満々に言い放った。

 末端の戦力増強のため造られた古代遺物(アーティファクト)、それの発明者はゼニスだった。そしてその古代遺物が齎す影響は発明者である彼が一番理解していたのだ。だからこそ自分達ソーンの軍勢が新参の魔王ごときに負けることなどありえないと考えていた。

 古代遺物を埋め込まれた人間は”応用能力”レベルの”身体強化”の影響を常時受ける事が出来る、そのような兵士が数万人近く集まるのだからどう考えても負けるはずがなかったのだ。


「ふむ、君達の意見も的を得ているな。他の者はどう思う?」


 ミツヒデは物思いに耽りながら他の参加者にも発言を求める。そしてそれにセシルが答えた。


「私はチョウアンへの侵攻を中止すべきだと考えます」


 彼女は好戦的な二人と異なり、チョウアンとの戦争に否定的だった。勝ち負けは問題ではなく、その戦争に自分の仲間達が投入されるのが嫌だったのだ。

 実は彼女、現皇帝ミツヒデからある軍団の団長に任ぜられていた。規模はあまり大きくないが、その分兵士同士の絆が深い。彼女からしてみればそんな彼らを、死の危険が付きまとう戦争に投入させるなどあり得なかったのだ。

 然しそんな彼女の願いを理解できる者はこの場にいない、次の瞬間飛んできたのは彼女の発言を避難する声であった。


「馬鹿な事を言うな!!何故勝てる戦を放棄する!!」

「そうだぞ、新入りの魔王ごときに我々が負けるわけがない!!」

「だが新しい魔王はここ数百年間現れなかったのだぞ?であればその新参である魔王リュートが相当な強者であるのは間違いないだろうが!!」

「だからなんだ?俺はそんな奴よりもずっと強いに決まってる!!」

「その通り、我らの軍団が一魔王ごときに滅ぼされるものか!!」


 セシルの正論をリッパーとゼニスが声を揃えて避難する、彼らの瞳にはもはや目先の利益しか映っていない。戦果を上げればその分甘い汁が吸える。自分達が魔王リュートに負けるなど夢にも思っていないので、自分達の発言が間違っているとは一切考えられなかったのだ。


「ふむ、ピストラはどう思うのだ?」

「私もゼニスやリッパーと同意見です。闘星上位や数万の戦士が集まれば魔王を倒すなど容易いでしょう」


 紛糾する会議を収めるためミツヒデが発したその問いに、そう答えたピストラ。

 ピストラは他の二人と違い、新参の魔王の驚異を軽視するようなことはしていない。だがそれでも勝てないとは丸で思わなかった。何故なら自分達は強いから、仮にその新参の魔王リュートが強者であったとしても一人の強さには限界があると考えていたのである。


「承知した。では最後にフィストはどう思う?」

「何も問題無いでしょう。新参の魔王などなんの障害にもなりません」

「では決まりだ。予定通りチョウアンへの侵攻作戦は継続させる」


 皆の意見を纏め、ミツヒデが会議場の面子にそう伝える。

 セシルの意見は事実上無視されているが彼女がそのことに対して反発する事はない。した所で意味が無いし、皇帝陛下の意見に口を出すということは自らの死を意味することを彼女は良く知っていたのだ。


「では今日の会議はここで終了する。明日の鍛錬に備えしっかり準備しておくように」


 ミツヒデが会議の終幕を宣言する。皆一様に椅子から立ち上がり部屋から出ていく中、ミツヒデとフィストは未だ会議場に残ったままだ。そして彼ら以外の者全員が部屋から出たのを確認すると、フィストがおもむろに口を開いた。


「・・・馬鹿な奴、新参とはいえ魔王に敵う訳がなかろうに」


 その内容は先程の愚かな者共に対する非難、フィストの化けの皮がゆっくりと剥がれ落ちていく。


「そう言ってくれるなゼノン。真の強者を知らぬならあの意見もわけないて」


 フィストの避難にそう答えるミツヒデ。

 ゼノン、それは一体誰の事なのか、それはすぐに分かることとなる。


「その名で呼んでくれるな。状況によっては取り返しがつかなくなる」

「おっと、悪かった」


 そのゼノンとはつい先程までフィストと呼ばれていた男のことである。年老いていた顔はもうそこにはなく、顔にかかった霞が晴れた後、美青年とでも称すべき風貌に様変わりしていた。

 一闘星のフィスト、彼は異世界人が召喚された後もその座を守り抜いたとされていたがそれは間違いだった。彼も他の者達と同じく新たなる強者によって、その座を蹴落とされていたのである。尤もその事実を知るのはミツヒデとゼノンと呼ばれた男、そしてフィスト本人だけであった。


「然しこれほどまでに上手く行くとはな。ただセシルだけは我々の計画の障害になる可能性がありそうだ」

「うむ、この間も私が行っている魔結晶の実験に興味を示していた。もしやすると今回の戦争の意義にも気付いてしまうかもしれんな」


 ミツヒデとゼノンがそう意見を交わす。

 ミツヒデの目的は世界の統一だ、それは何事にも代えがたい物であり絶対にたどり着くと誓った夢である。しかしそれの達成には少し遠回りが必要なのだと彼は考えている、その理由が魔王だった。


「”百獣の王(ブレイブキング)”ルーを最後に百年程生まれてこなかった魔王。であればその名を冠すためには何らかの条件が必要なのは容易に想像できる。そして今回誕生した魔王リュートはそれこそ数百年以来の逸材なのだろうな」

「うむ、だがまさかその事実にたどり着き、それを危険視しているのがセシルだけだとは思わなかった。しかしキルクルスの魔王か、となると先遣隊として不帰の森に送ったあの赤髪は・・・」

「恐らくは魔王リュートに始末されたのだろうな。あれでも一応エンヴィ程度の強さはあったから、我々にとっては結構痛手だ」

「うむ、やはりそうか。では同じ過ちを犯さぬためにも、次からは”名”を与えてやった方が良いかもしれんな」

「あぁ、そうしよう。しかし誤算はあったが計画自体は問題なく進んでいるようだ。手駒である彼奴らはどうも図に乗っているようだが、そのおかげで我らの思う通りに動いてくれた。計画は間違いなく遂行出来るだろう」


 そう言ってミツヒデとゼノンがニヤリと笑う。

 今回の戦争、ソーン側が勝てるなど彼らは微塵も思っていない。それでもチョウアンに宣戦布告を行うのは勝利以外の目的がそこにあるからなのだ。今は勝てないだろうがそのうち勝てる算段を彼らは有していたのである。


「ゼノンよ、今度こそ世界の全てを我等の手の中に収めようではないか」

「そうだな友よ、次こそは我らの悲願を叶えよう」


 そう言って拳を付き合わせる二人。実はこの二人もある世界からやってきた転生者だった。かつて世界を自らの手中に収めようと奮闘するも、その野望はある男によって打ち砕かれてしまったのだ。


「この世界には我らを屠ったあの男はおらぬ。それゆえ一歩一歩確実に事を進めれば今度こそ夢を叶えられるであろう」

「私も遠慮するつもりはない。私の持てる力、表でも裏でも十全に発揮してみせよう」


 二人の不敵な笑い声が会議場に木霊した。

 叶えそびれた夢を叶える。彼らは一歩一歩確実に、その夢の実現に向けて軍靴を進めているのである。

次は国と用語集になります。

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