オタク系侍女
*あらすじ:幽冥城に来ました。
「それでそれで、帰ってから何かありました?ねぇねぇ?」
「・・・」
幽冥城の会議室にそんなおちゃらけた声が木霊する。
その声の主はこの城のメイド、ユイである。先程までのクールビューティーっぷりはもうそこにはない、うざ絡みと呼んでも差し支えないくらいグイグイと迫られて大変困っていた。
「ユウキ君って異世界転生主人公みたいな経歴なんでしょ?てことはそれはそれは素晴らしい体験とか・・・」
「無い!!」
「またまた〜」
きっぱり否定するも挫けることなくそう訪ねてくるユイ。
幽冥城のメイド、カガワ・ユイ。なんと彼女は俺と同郷の異世界人だったらしい。
この事実が判明したのは俺の魔王就任の宴会の時である。皆が酒を飲んでてんわやんわしている時にその話を聞いたのだ。
彼女、どちらかというとオタクよりの趣味をしていたようで俺と話が合った。だからその後オタク知識を披露したりされたりして楽しんだのだが、その結果がこれという訳である。
「転生系主人公にふさわしくユウキ君にはヒロインがいらっしゃいましたよね?確かアリナさんでしたっけ?その人となにか進展があったりとかは・・・」
「無い!!」
彼女の質問にそうきっぱりと答える。
まぁこうやって絡まれるのも悪い気はしない、もともとこういうくだらない話をするのは好きだった。
「ったく、お前も懲りないな」
「あらあら、私としては何か面白い話を聞きたいだけ。むしろそういった話を掘り出せないユウキ君の方が悪いんじゃない?」
とんでもないいちゃもんを着けられてしまった。しかし面白い話ねぇ、だったら俺に絡むより書斎で本を探してきたほうが有意義だと思うけど。
「面白い話なら書斎で本でも探してきた方が良いんじゃねぇの?」
「それはもうやりましたとも。ですがこの世界の書籍は大抵が専門書でして、娯楽のための小説や漫画といった物が丸で無いのです」
ユイがとても悲しそうな表情でそう言った。
幽冥城の書斎にはこの世界のほぼ全ての書籍が集まっている。だがその書斎が保管する小説や漫画といった読み物の割合は全体の三%も締めていないとのこと。
そしてこれはコールさんがそういった物を集めていないからという理由ではなく、娯楽本の発行数がかなり少ないことに起因しているそうだ。
「そもそもこの世界では書籍の発行自体があまり盛んではないようです。向こうの世界のように高速の印刷が行える訳ではないので、そういった娯楽小説が後回しにされているのが現状だそうです」
「なるほど・・・」
どうもそういった事情があったらしい。俺の場合は最近忙しすぎて娯楽の事を考えている暇は無かったのだが、もう少ししたらその問題に直面していたかもしれないね。
「てことでユウキ君、頑張って絞り出してくださいな~。転生系主人公ならなんか凄い経験してるんじゃないんですか?ほら?壮絶な過去がある人との出会いとかヤバいくらいの鬱展開とか?」
「無いしこれからも無い・・・、はず」
「えぇ?じゃあピンチになっている女の子を助けたとか」
「・・・無い」
無くは無い気がするものの後々面倒そうなのでそう答えておいた。
しかしユイの娯楽を求める姿勢には頭が上がらない。まぁ上げたくないけどね。
「たく、いい加減諦めろよな」
「はぁ?絞り出せないユウキ君が悪いんですよ。こんなんじゃエルダーウッド先生の小説の方が全然面白いじゃないですか」
「エルダーウッド先生?」
「はい、恋愛小説を執筆している大先生ですよ。下世話な書籍だなんだと比喩する奴もいますけどね、娯楽を求める私からしてみれば砂漠の中のオアシスのような存在ですよ!!」
ユイが強くそう言い放つ。どうもそのエルダーウッド先生の小説が大好きだったらしい。
「そのエルダーウッド先生の小説は面白いの?」
「とても面白いです!!ただお子様には進められない官能小説であるという点だけが欠点ですが・・・」
「官能小説かよ・・・」
ユイの元オタクの血が垣間見れるな、俺ならそれを紹介するのに少し臆してしまいそうだ。尤も好きな物を恥じる事無く紹介出来るというのは良い事だと思う。
実際俺がそういった物にのめり込んだのもアニメ好き外国人留学生の影響だったからね。それ以降結構世界が広がったと思う、食わず嫌いは良くないのだ。
「ま、俺はそういうのにも理解がある方だと自負している」
「はぇ〜、オタクじゃなくてエロオタクってわけですか」
ニヤニヤしながらユイがそう聞いて来る。なまじ否定出来ない場所まで足を突っ込んでいたので何とも言えない、だから適当にはぐらかしておいた。
「うるさいぞ。で、その小説は面白いのか?」
「面白いですよ、心理描写も巧みですし、情景描写も卓越しています。ただ一つツッコミ所がある展開がありましてね」
「ツッコミ所?」
「はい、ある小説で女性の主人公が想いを寄せている男性に告白するシーンが有るのですが、そのシーンがえらくビッチ染みてて主人公の経歴と恐ろしくマッチしてないんです」
「どういうことだ?」
今の説明でちょっとばかり興味を持ってしまったのでそう聞いてみた。
「なんと自分の部屋に連れ込んで下着姿で告白するんですよ、普通だったら羞恥心が勝って絶対そんな事こと出来ません。官能小説の主人公なだけあって裸を見せるのに慣れてんのかなぁ~って思ったらその主人公は男と付き合ったことがないそうです。なんでもどうすればその男性に振り向いてもらえるかを突き詰めた結果だそうですが、どう考えても突拍子もない展開でしょう。だって普通に告白するだけでもテンパりますもん、こんなの初な主人公には出来ないと思いませんか?」
「うむむ・・・」
思わずそう唸ってしまう、最近やられた気がするんだけど・・・。
いやまさか、ね。ビッチじゃなくてもやれるでしょ、多分。
「それはもしかしたら部屋が暑かったからかもしれないぞ。ほら、あまりにも熱くて服を着たくなかったとか」
「へ?いやいやその理屈はおかしいでしょ。いくら暑くても他人を部屋に呼ぶ時は服を着ますって」
「ぐぬぬ」
「あらら、もしかしてリュートさんDTですか?きっと女の子の部屋に上がったことがないんでしょうね」
「いいやあったぞ。ありえる可能性を提示しただけだ」
「強がっても無駄ですよ。ヘビーなオタクが女の子に好かれる訳ないんですから」
ぐぬぬ、割と正論で言い返せない。ヘビーなオタクかどうかは置いといて強がりなのは事実、だって女の子と付き合ったことなんて無いからね。
「ぷーくすくす。その反応を見るに認め」
「ユイ、待たせたな」
「お帰りなさいませ、ご主人さま」
おいおいおいおい、こいつ飛んだ猫被り野郎だな。フェルシアが帰ってくるや否や恐ろしいくらい態度が豹変した。
「いやぁ、ユウキ、退屈させちゃったかな?」
「退屈というか大変というか・・・」
「あぁ、ユイは君の前だと本性を晒け出すみたいだからね。僕には分からない苦労があるんだろう」
「ははは、ご冗談を」
ユイがこれでもかというくらい顔を引き攣らせた。どうもバレているとは思ってなかったらしい。
「で、悪いんだけどユイ、もう少しだけリュートの話し相手になっててくれ」
「それは構いませんが、お手伝いは不要なのですか?」
「構わない。他の魔王達にもユウキの領土について伝えておきたいんだよ」
「そういうことですか。であればユウキ様を飽きさせる事無きよう励む所存です」
「ははは、頼りになるな。んじゃ、お前らには積もる話もあるだろうし僕はここで退散させてもらうよ」
フェルシアがそう言って会議室が出ていった。残された俺達二人に何とも言えない沈黙が圧し掛かる。
「やれやれ、まさかバレていたとは・・・」
「ははは」
ユイがそう言って顔を赤くした。なんと返せば良いのか分からないのでとりあえず笑っておく。
「ていうかユウキ君って本当につまらないですね。異世界転生系主人公にふさわしいチート能力だったり嫁だったりを手に入れたのに、なにも王道らしい経験をしていないなんて」
ユイが八つ当たり気味にそう煽ってくる。照れ隠しの煽りだ、大変良い気味である。
「ふん、八つ当たりか?」
「いいえ、平凡なのを煽っているのです」
「平凡で良いだろ?」
「ふんっ、私だって異世界転移系という属性を持っているのに得られたのは戦闘に何の役にも立たない”特質能力”だけですよ。知識や経験と言った物で無双できるほど優れた人物という訳では無いし、あなたの事が羨ましい限りです」
「別に良いことばかりでもないけど・・・。てかさ、なんでお前幽冥城でメイドとして住んでるんだ?フェルシアに召喚されたのか?」
「あれ?言ってませんでしたっけ?」
不思議に思ってそう問いかけると、ユイの方も不思議げに首を傾げた、どうも話したつもりになっていた様子。
「言ってないよ」
「ふむ、じゃあ言いますと実は私ソーン大帝国に召喚された後命からがら逃げてきたのです」
「ソーン?」
「え?そうですけど・・・」
少し驚いて視線をユイの方に向けると何故かすっと顔をそらされた。兎にも角にもソーンの情報であれば入手したい所ではある、俺は視線をそらそうとするユイの肩を掴んで話を続ける。
「ユイ、ソーンについて教えてくれないか?どうしても必要な情報なんだ」
「か、構いませんけどその口調と声色でこっち向くのはやめてください。ほれ、いえ、キモいので!!」
「き、きも・・・」
キモイと言われて精神にショックを受けた俺をよそに、ユイが自らがこの世界に召喚された時の事について話し始めた。
全然大丈夫を誤用だと思ってたんですが実は問題ないらしいですね。
次の投稿は四月十三日です。




