ソーンという脅威1
今日はひな祭りですが何も用意してません。幼女がいないからね、しょうがないね。
*あらすじ:昼食を終えて会談開始
和気藹々とした昼食も終わり、会談を行うために会議室にやってきた俺達。その会議室は他の部屋とは違い木目調の少し落ち着いた内装をしていて、先ほどの雰囲気とは打って変わり心落ち着けられる空間となっていた。
「ここはキラキラしてないんですね」
「おう、初代王の命令さ。何でも金ぴかにするのもふさわしくねぇし、かと言って石造りにするのも牢屋みてぇで嫌だってことでこんな形になったんだよ」
「ほう、そんな意図があったんだな」
「まぁな」
他に比べて異質な造りとなっている理由をルーが丁寧に説明してくれた。
まぁ確かに重要な会談を行う場が厳粛ではなく華美な雰囲気に包まれていたら少し気は散ってしまうかもしれない。
ちなみにこの部屋は元々石造りであり、わざわざ木の板に張り替えている。この城自体石で出来ているので当たり前っちゃ当たり前なんだけどね。
「座る場所はどうすんだ?」
「あぁ~、まぁどこでも良いですよ」
上座とか下座とかはあったらどうしようって思ってたけどそこは関係無かったらしい。その辺のルールには詳しくないので助かった。
というわけでこの場では詰めて座ることにした。俺は最後尾なので出入り口から一番近い場所に座っている。
「では会談を始めましょう。この場は私ベア・チョウアンが仕切らさせて頂きます」
誰も文句は無いのでベア王の発言に皆頷き返す。そして会談が始まった。
「初めの議題はソーン大帝国に抵抗するために結ぶ、リュート殿とチョウアンとの間の防衛同盟についてです。我々とペルティーダ代表ルー王がお話させていただきますが、この間自由に質問していただいて構いません」
「分かりました」
これはまた珍しい法式だな、自由に質問できるとは。
まぁ多分人数が少ないからだろう。会談に参加する人数は俺、ロイド王、ベア王、ルー、そして護衛の二人の計六人。多少質問が発生した所で進行の妨げにはならないと判断したのかもしれない。
或いは俺達に対する誠意なのかな?いずれにしても質問を自由に発せられるのは議題の的としては有難い。
「まずはソーン大帝国とのいざこざについてなのですが、まず前提として彼の国は隣接する国家に対して常に戦線を広げており、降した国を吸収してその領土をどんどんと拡大させていました」
「それこそ破竹の勢いでな。でも最近は停滞状態にあった。何でか分かるか?」
「う~ん、残った国家が強かったから?」
「正解だ」
ルー曰く、ソーンは文献に残る太古の時代から戦禍を隣国にばら撒いていたらしい。内乱によって分裂することはあれどそのたびに武力によって統一され、再び隣国に戦禍をばらまくのがソーン大帝国という国家だそうだ。
そしてソーンの国家元首はその時代の中で最も強い者がなるとされている。つまりは覇権主義であり実力主義なのだ。元首に具申したければその元首よりも強くあるほかない。強者が全てを得て弱者が全てを失う、その弱肉強食こそがソーンの礎であり誰もその事に違和感を抱かないのだ。
そしてそんな思想を持つソーン大帝国を長年凌いできた国家が弱いはずがない。その数は僅かではあるものの確かに存在はしていたのである。
「だからまぁ、さっきも言った通り戦線は停滞状態にあったんだよな。最近までは」
「最近まではってことはまた変わったと」
「はい、簡単に言えば古代から抵抗を続けてきた隣国がソーンによって次々と滅ぼされたのです」
神妙な面持ちでそう言い放つベア王。そしてその発言に質問をしたのがロイド王だ。
「もしやマチルダも?」
「えぇ、その通りです」
「・・・ふむん、想定していたよりも不味い事態の様だ」
ベア王の返答に何か考え込むロイド王。でも俺は上手く話しに付いて行けていない。
「そのマチルダっていうのは?」
「小国家でありながら強大な軍事力を持つ言わばソーン大帝国に対する防波堤です。彼の国は幾百年に渡りソーンの戦火を振り払ってきたのですよ」
なるほど、つまりはその幾百年の歴史が動いたという訳か。そう考えるとロイド王の反応も納得出来るな。
しかし特に理由も無く動くとは思えないよな。マチルダがソーンとの戦争が継続出来なくなったとは、これまでの歴史を鑑みると考え難いし・・・。
「その理由は分かってるんですか?」
「えぇ、確信には至っていませんがほぼ間違いない情報です」
おっと、駄目元で聞いてみたのだが把握出来ているとは思わなかった。
「その理由というのは?」
「我々は新皇帝ミツヒデの就任だと考えています」
新皇帝ミツヒデね・・・。あ?ミツヒデ?どっかで聞いて事ある気がするんだけど。
「そのミツヒデの名字は分かります?」
「名をミツヒデ、名字をアケチというそうです」
おいおい、こりゃまた面白いな。まぁ死んだ時期的だとか文献に残っている性格を鑑みた感じ全くの別人だろうけど、なかなか珍しい偶然もあったものだ。
ただし別人と断定している訳ではない。時系列が狂ってる可能性もあるし転生に関する法則だとかも丸で分からない。いずれにせよ無いとは思うがゼロとは言えない、そんな感じの意識を持っておくことにする。
「んで、そのミツヒデがリーダーになった途端にソーンの軍が勢い付いたと」
「そういうことです」
なるほど、確かに新皇帝就任と何らかの関係があると考えるのが妥当だろうな。
だけどどうやってやったんだろうか? その手の内が分かっていればある程度対応は出来るかもしれない。
例えば強力な軍事兵器を開発しただとか、或いはより強力な魔法の研究に成功したとかだったらまだ対処は可能である。
つまるところ情報が必要なわけだ。
「そりゃまた厄介ですね。それで、そのマチルダをどうやって落としたのかは分かるのですか?」
「えぇ、まぁ一応」
ベア王がそう言うものの少し言い渋る様子を見せた。この反応を見るにその情報が十分信用出来る物ではないのかな?
「あるんですね?」
「はい。ですが少し信じ難いことでありまして・・・」
「いえ、一応聞いておきたいです」
当たりだったようなのでそう返しておいた。
この世界ではありとあらゆることが起こり得る。この世界に来てその事を痛感していたので、どんな信じ難い物であってもそれが真実で無い可能性を排斥することは出来ないと思うのだ。
「出処は信用出来るんですが・・・、一応お話しますね」
「はい、よろしくお願いします」
「えぇ、じゃあ言います。死んだ斥候の情報曰く、約千体にも及ぶ上位悪魔がマチルダを攻め滅ぼしたというのです」
「初めて聞いたときはビビったぜ。だって普通に考えて有り得ねぇもん」
信じ難いと称されたベア王の情報にルーがそう捕捉する。
ただそう言われても何が有り得ないのかがよく分からないな。一体どういう意味なんだろう?
ー上位悪魔の召喚にはそれなりに代償が必要なのです。ですから普通に考えて千体呼ぶなど不可能なのですよ。
俺のそんな疑問に答えてくれたのは、頼れる相棒”赫イ智慧”である。先程の説明を受けて考えると、単純に上位悪魔千体呼ぶための代償を用意出来ないから有り得ない、って言う事なのかな?
ーその通りです。
よし、肯定されて一安心だ。ちなみにその代償ってどんな物なんだ?
ー魔素や魂が一般的です。今回のケースならマチルダの人々やソーンの兵士達の魂でしょう。
なるほど。つまりはソーンの魂、或いは魔素を召喚の際に先払いとして渡し、マチルダの人々の魂をその働きに対する報酬としたわけか。ちなみに千体呼ぶにはどれくらいの魂が必要になるのかな?
ーそれは場合によるので測りかねます。
俺の質問にそう返す”赫イ智慧”。その場合ってのは何なの?
ー一言でいうなら強さです。強い個体ほど要求される代償も増えるのです。
ほう、それはまた面白いね。じゃあ今回の襲撃を最低で見積もったならどれくらいの魂が必要になると思う?
ー弱い上位悪魔を呼ぶのに少なくとも十人分の魂は必要でしょう。ですので千体なら一万人の犠牲が必要となります。ただし呼び出した後に契約を結べるかどうかは別問題です。
この呼び出した後の契約というのが先程述べた働きに対する報酬、つまりはマチルダの人々の魂の提供だと”赫イ智慧”が言っていた。
ちなみにこの呼び出した後の契約をケチると召喚者の魂を持っていかれることもあるらしい。
後は契約を破った場合も同様だ。悪魔は狡猾でありながら契約を重んずる種族だそうなので、その辺しっかりしているそうだ。
だから上手く言いくるめて不利な契約を結んだとしても、悪魔が報復を仕掛ける事は無いそうだ。名前の割に存外律儀な種族なのだと”赫イ智慧”が言っていた。
「千体召喚されたってことは少なく見積もって一万人の犠牲が必要ってことで良いんですよね?」
「その通り、博識ですね」
そして先ほど得られた知識をベア王と共有しておいた。そして向こう方も同じ結論に至っていたようである。となるともう少しその悪魔について知りたい所ではあるな。
「その悪魔についてもう少し詳しい情報はあるんですかね?」
「天空の魔法陣から現れ、皆同じ顔をしていたという情報は入っています」
「あ?おかしくねぇかそれ?」
ベア王の発言を遮ってルーがそう言い放った。彼もこの情報は知らなかったらしい。
「悪魔って個体差があったよな、皆同じ顔って有り得なくね?」
「まぁそうですが、どちらかというと数の方が重要じゃないですか? 我々チョウアンとしてはこの問題に関してはあまり問題視していません」
「あぁ・・・、まぁ確かにその通りか。顔は見間違いだとか思い込みだとか、そういった個人の主観が入っている可能性もあるし、そう考えると数の方がよほど大事だもんな」
ベア王の発言を聞いて珍しくルーが思い悩む様子を見せた。
しかし同じ顔か。”赫イ智慧””はこれについてどう思う?
ー彼らも言っているように悪魔の顔は個体差があります。そして斥候が見た情報を正しいと仮定するなら、強力な個体が”能力”を使用したものだと推測します。
俺の質問にそう返す”赫イ智慧”。確かに有り得なくは無い話だな。ちなみにその”能力”ってどんなのが思い浮かぶ?
ー”分身体”とかでしょう。この前テスラが習得していましたね。
は!?いつ!?俺知らないんだけど!?
ーサノスに負けてられないと躍起になった結果習得出来た能力の様です。
マジか、俺も頑張らねぇと。
で、話すを戻すけどその”分身体”があれば千体の分身を作るくらい訳無いのか?
ー不可能です。テスラの”分身体”では百体はおろか数十体作り出せれば良い方でしょう。
はぁ!?じゃあ千体呼び出すとか無理じゃん!!
ーいえ、不可能ではありません。
不可能では無い?でもヨミの”分身体”は百体作るのも難しいんだろ?
ー権能の強さはその権能の宿る”能力”の強さ、或いは肉体の強さによります。テスラの場合は”特質能力”に根差す権能のため、数十体作るのがやっとという訳です。
俺の質問に淡々と返す”赫イ智慧”。”特質能力”に根差す分身体は数十体作るのがやっと、つまりは”特質能力”で無ければもっと多くの分身体を生み出せる・・・。
え!?じゃあ何!?相手方には”特質能力”の上位にあたる”至天能力”や”究極能力”を持つ者がいるって”赫イ智慧”は言いたいのか!?
ー断定はしません。が、そう考えるべきだと進言します。
マジかよ、無碍にできない案なだけに絶望感がヤバい。
当然確定ではない、でも確定では無いにしろ最悪を想定して動くべきだろうな。だってそう考えると辻褄が合うのだから。
そしてマチルダに現れた悪魔が”召喚された”と考えるのも難しくなってきた。だってそういったものを持つ悪魔を召喚するなんて不可能だろうから。
兎にも角にもこの情報は共有しておくことにしよう、真偽はどうであれ警戒をするに越した事は無いのだから。
「その悪魔達なんだけど、多分千体の悪魔を召喚したんじゃなくて、一体の悪魔が能力を使って千体作りだしたものだと思うんだよね」
「あ?どうやって?」
「例えば”分身体”とか」
ルーの質問にそう返す俺。しかしこの場にいる面子は皆賢く、一度はその結論にたどり着いていたらしい。
「いんや、考え難いぞそれは。”分身体”なんざ作れて精々数十体程度だろ? それをやるとしたら”分身体”が使える上位悪魔が少なく見積もっても百体近く必要になる訳だが、むしろのそっちの方がキツイと思うし」
「私もルーと同意見ですね。”能力”が使える悪魔何てそうそういませんから契約料も馬鹿にならないと思いますよ」
根拠があって信憑性もある話だが、俺にはその結論にたどり着いた理由がある。ただ別に論争を繰り広げたい訳では無いので、在り得る可能性という体でやんわり説明しておくことにした。
「まぁ確かにそうなんだけど”至天能力”や”究極能力”なら出来なくは無いから、相手方に滅茶苦茶ヤバい奴がいるかもって一応警戒しておいてほしいと伝えたかっただけさ」
「は?”至天能力”だ?何言ってんだお前?」
あれ?ルーが怪訝そうにそんなことを口にした。もしやあの神話ってそこまで有名じゃないのかな。
「”至天能力”ってのは神々の戦争の時代に」
「ンなこと知ってんだよ、俺達は神話の話をしてんじゃ・・・。てお前まさか、その”至天能力”が実在するって考えてんのか!?」
ルーが驚いた様子でそう叫ぶ、理解が早くて助かったよ。絶対では無いけど可能性としてはある、敵の戦力を過小評価するのは避けたい所なのだ。
だが何よりものこの反応を見るに”至天能力”は存在しない物として扱われているようらしい。
でも当たり前か、ちょっと前まで俺も信じてなかったからね。
「まぁな。最悪を想定して動くべきだろ」
「・・・神話の時代の”能力”か。実在するとは考え難いが一応そう仮定しておこう」
ルーがそう小さく呟いた。
実際は実在するし俺が持っているという絶対的な根拠もあるのだが今はぼかしておく。何となく手の内はばらさない方が良い気がするのでね。
「でだよお前。そんな奴に対してどうやって戦うんだよ?神話の能力になんざ勝てる気がしねぇけど?」
「”至天能力”には”至天能力”をぶつければいい。”特質能力”は通用しないだろうから気をつけろ」
俺はこの時意見の共有が上手くできて気が緩んでしまっていた。だからこの発言も意図したものではなく漏れ出たものに近い。
”特質能力”が通用しない件についてはもう少しぼかして答えるつもりだった。
だって何でそんな事知ってんだって追及されそうだったから。そのため・・・。
「あのな、お前は何でそんな他人事なんだ・・・。ってテメェ!?」
ルーがびっくりした様子で俺の襟元をつかんだ時にはもう遅かった。やっちまったと思ったよね。
「お前”至天能力”を持ってんだろ?」
「えっと・・・」
「有事だ、洗いざらい吐きな」
「・・・はい」
そのルーの雰囲気に気圧された俺は、先ほど秘匿にしておきたいといったばかりの情報を洗いざらい吐く事になるのだった。
次の投稿は三月八日です。




