主人公発のフラグが回収されない確率、0
*あらすじ:チョウアン城下町に向けて移動中・・・
馬が地を蹴り草原を駆ける。その度に耳に飛び込む森の音と規則的に鳴る蹄の音は実に子気味良く、流れ行く美しい草原の情景も相まって久しぶりの心落ち着かせられる穏やかな時間を堪能出来た。
「皆様、お体の方は大丈夫でしょうか?体調が悪くなったりとか・・・」
「無いな、至極快適だよ」
「そうですね、問題無いです。サノスはどうだ?」
「私も無いですね、乗る前は少し心配でしたが何事も無くて良かったです」
ベア王の問いかけにそう返す俺達。てっきりガタガタ小道を行くものだと思い込んでいたが、実際はそんなことはなくて安心した。そのような道を行こうものならケツが痛くて大変だろうからね。
今現在、俺達はチョウアンが整備した石レンガの上を走っている。この道、どうも本当にチョウアンまで続いているらしく、地平線の先にもその道路が確認出来た。
右は優緑の草原、左は深緑の森、人の手が加えられながらもそこにある自然と上手く調和しており、これからやることになるであろう国作りにおいても結構な参考になる気がした。
ちなみにサノス君に関してなのだが、実は俺が結構頑張っていたりする。簡単に言えば幻覚魔法を使って酔わないように頑張っている。幻覚魔法、まさかこんな使い道があったとはね。
ちなみに今回のケースだと、サノスにだけ幻覚が見えるように発動していた。
幻覚魔法には空間に作用し、その空間を見る者全てに対して幻覚を見せるタイプと、空間には作用せず個人にだけ幻覚を見せるタイプがあり、今回は後者。こっちの方がコスパが良いのである。
「到着まで残り二時間ほどです、何かあったら遠慮なくどうぞ」
「うむ、そうさせてもらおう」
まぁ問題も起こらないだろうけどね、流れる景色を眺めるのも結構面白いので退屈することもないはず。
なんて考えていたのだが、その考えは甘かったのだと知らされることになる。事態の急転はその会話の直後に起こった。
「ッ!?どうした!?」
歩みを進めていた馬車が突如急停止したのだ、状況を確認するためベア王が喚呼する。
「矢です。これは・・・」
「止まったのは失敗だったかもしれません」
そしてその問いかけに二人の御者さんがそう答えた。この展開はまさか・・・。
「ケケケ、あんな豪華な馬車に乗るお偉いさんは、金持ちに違いねぇなぁ!!」
「へへ、その通りですぜお頭!!」
やっぱりそうじゃねぇか!?おい!?
窓から外の様子を見てみると、こちら側に近づいて来る複数の人影が確認出来た。
フラグ回収しちゃったなぁ、あんなこと言うんじゃなかったよ。
「お前ら、金と美人は奪えるだけ奪え!!何ならその場で楽しんじまっても構わないぜ」
「おぉ、流石ですお頭。それで、男はどうしましょうか?」
「全員殺した後、証拠が残らないように壊し、燃やすぞ」
「分かりましたお頭ぁ!!」
下卑た笑みを浮かべながら野盗共が歓声を上げた。なるほど、相当な下種の様だ。
窓から見た感じ敵の数は七人程度、皆しっかり上から下まで武装しており中々に面倒そうではある。
「ふむん、さてどうしますかな」
「御者も腕は立ちますが七人相手となると厳しいでしょう」
ベア王とロイド王がそう意見を交わし合っているが何も問題はない。だって面倒ではあるがあくまで面倒止まりだからな、別に無理ではないのである。
「俺とサノスが出ます」
「む、ですが危険では?」
俺の発言にロイド王がそう返すが、別に然程危険でも無かった。敵の実力を見誤る事は無いし、それにベア王にとっても俺の実力を判断する良い機会だろう。百聞は一見に如かずともいうからね。
「これでも魔王の端くれ、野盗の相手ぐらい造作も無いです。それにここで力を見せておけば、ベア王にとっても良い判断材料になるんじゃないですか?」
「ふむ、確かにその通りですね。ではここで一つ実力を見せて頂くのも良いかもしれない」
「よし、決まりですね。じゃあ行くぞサノス」
「御意」
嫌だと言ったら全部俺が片付けるつもりだったがそれは杞憂だったみたいで安心した。俺たちは客車の扉を開け外に出る。
「よぉ、悪いな賊共。この馬車の中には男しかいねぇんだわ、だから帰ってくんね?」
まずは一発軽いジャブから。出来るだけこいつらを下に見て、神経を逆撫でするような言葉を選ぶ。決して俺の性根が腐ってるわけではない、決して。
「ほう、お前、俺達の目当てが女だと?」
「何だ、金の方が大事だったか?」
「チッ、聞いてやがったようだな。だがお前、しゃしゃり出てきたのは失敗だったぜ?」
「どういうことだ?」
俺がそう聞き返すと、野盗の長は嘲るような笑みを浮かべた。
「俺らにとっちゃ男はどうでもいいんだわ。だから男は殺すように命じたんだが、聞こえなかったか?」
「あぁいや、聞いてたよ。でもお前ら俺より弱いだろ?だから出てきたんだ」
「はん、見たところお偉い身分の若造とその護衛のようだが、よっぽど腕に自信があるようだな。こっちは七人と森の奥にいる六人の計十三人、対するそっちは護衛とお坊ちゃんの二人。どう考えても勝ち目は無ぇだろうが」
「へぇ、そうなんだ」
聞きたい情報を聞けて大満足だよ。実は今、俺が対峙している野盗の中に弓矢を持つ者がいなかったのだ。だからそいつが何処にいるのか上手く聞き出そうと思っていたのだが、まさか向こうから吐いてくれるとはね。事が上手く行き過ぎて思わず口角が吊り上がるのを感じる。
「テメェ、何笑ってやがる」
「大したことじゃない。サノス、森の中にいる奴らを始末して来い」
「畏まりました」
そう言うとサノスが森の方へ消えていく。俺の身を案じない辺り、俺の勝利を疑っていないんだろうな。
「何考えてやがるんだ貴様?」
「簡単な話、護衛がいなくてもお前らに勝つのは簡単だと判断した」
実際その通りだからな、はっきり言って負ける要素が見当たらない。しっかりと相手の力を見極めたうえでそう判断した。
しかし野盗の長は力量差の判断を見誤る所か、その発言に対してキレてしまったらしい。その厳つい顔を不愉快そうに歪め、声を荒げながら俺を捲し立てる。
「テメェ、耳はいいようだが目はあまり良くないようだな!!俺たちは七人、お前は一人、それにお前みたいなお坊ちゃんに後れを取るほど俺らは弱くねぇんだよ!!」
「雑魚がいくら群れても変わらんだろ」
「貴様ッ!!後悔させてやる!!」
俺が締めにそう煽ると、野盗の長は顔を真っ赤にして突っ込んできた。本当に雑魚だったな、折角だし俺の新しい戦術の犠牲になってもらおうか。
俺は”思考加速”を発動させ座標計算を超高速で行い、そしてとある魔法を発動させた。
「は?」
「舌噛みたくなけりゃ歯、食いしばれ」
一瞬にして俺の目の前に現れる野盗の長。あまりの事態に目を白黒させるその顔を正面に見据え、その顔面に拳を叩き込む。そしてその刹那に飛び散る血の飛沫、俺の拳は長の顔面に命中し、その意識を奪った。
「が、あ・・・」
そして野盗の長は力なく息を吐く。そしてそのまま大地に膝を着き、倒れた。
「まだやるか?」
あまりの事態に膝をがくがくと震わせ、怯えた視線でこちらを見る野盗共にそう問いかけた俺。馬鹿じゃないならここで投降すると思うが、どうだろう?
「げ、幻覚だ。お前ら騙されるな!!」
「そ、そうだ。お頭がやられるわけがねぇ!!」
う~む、そう来たか。奴らに退くという選択肢は無いらしい、まぁモルモットが増えると考えればありなのかな。
いずれにせよ投降しないのなら相手するしかない、可能であれば生かして捕えたい所である。という訳で俺はこいつらを煽ることにした、乗ってくれたらほぼ勝ち確だが、どうする?
「ほほう、よく分かったな。ついさっきのは幻覚魔法、お前らみたいな馬鹿にだけ見えるとっておきだ」
「アァ!?テメェ!!ぶっ殺してやる!!」
おいおい、こいつら本物の馬鹿か?まさかこれほどまでに簡単に誘いに乗ってくれるとはな。
ちなみに先ほどのは幻覚魔法ではない。馬鹿にだけ見せるなど、俺でも無理だ。じゃあどうやってやったのか、答えは転移魔法である。”赫イ智慧”が第三者を転移魔法の対象にする術を確立してくれたのだ。
尤も実際に使ってみたのは今回が初めてだった、野盗相手なら失敗しても怒られないだろうと思ってやってみたのだが、成功したようで良かったよ。貴重な証人だから殺すのは避けたかったからね。
そんでもってこの襲い掛かってきている計六名の馬鹿共も可能であれば殺したくない訳だが、一応殺さないで済む方法がある。やったことは無いので成功するかどうかは不明だし、結構痛い目見てもらうことになるのだが、まぁ大丈夫だろう。
「子馬鹿にしてたお坊ちゃんに舐められる気分はどうだ?」
「野郎ども、殺せ!!」
「ふん、殺す気はないが殺されても文句は言うなよ」
俺は野盗たちにそう伝え、両の手を思いっきり叩く。なるべく大きく、強い音が鳴るように。
そしてドタドタと音を立て野盗全員が膝から崩れ落ちた。彼らの両足と両腕の骨が粉々に砕け散ったのだ。
「う、うわああああ!?痛い!?痛いッ!?」
「どう?降参する?」
「します、します!!靴も舐めますからどうかお慈悲を!!」
「分かった。だったらおとなしくしてろ」
一応これにて解決かな、一人も死んでないので助かった。
では先程の原理を解説しよう。先程、野盗共の四肢の骨が粉々に砕け散った理由、それは俺の持つ権能”破壊身”によるものだ。
この”破壊身”という権能、”破壊王”への進化によってかなり柔軟性が上がっており、俺が媒介である物ならなんでもその機能を有せるようになっていた。
簡単に例えると俺が”創造ノ王”で作った物だったり、或いは俺が粘土で作った粘土細工だったりに”破壊身”の機能を与えられる、つまり俺が作った物がそれを触った者に対して、その権能を発動できるようになっていたというわけだ。
今回の場合は音が媒介、この音は俺が発した音なので”破壊身”の機能を持つことが出来る。音とは波の一種である、つまり彼らの四肢がその波に触れてしまったが故に、その骨が粉々に砕け散ったという訳だ。壊す壊さないはそれなりに融通が利くようになっていたので、今回は骨を砕くに留めておいた。やろうと思えば原形を残さないほどに壊すことだって出来る。
そしてこの技を防ぐためには”究極能力”か”至天能力”を所有していなければならない。だからそう簡単には防ぐ事は出来ない技なのだ。
さて、こっち側の盗賊討伐は済んだ。後はサノスだけ。
あいつなら大丈夫だとは思うのだが、何故か少し嫌な予感がしたので一応連絡を取っておくことにした。
『サノス、首尾はどうだ』
『少し悪いです。中々のチームワークでして防ぐので手一杯なのです』
魔法通話でサノスと連絡を取ってみたのだが、彼にしては珍しく妙に切羽詰まった様子だった。これはコンタクトを取って成功だったかもしれない。
単純に敵が強いのか、或いはサノスに何らかの迷いが生じているのか、それを見極めておきたい所ではある。場合によっては俺が出ることも視野に入れないといけないからね。
『ふむ、みたいだな。それで救助は必要か?』
『それは必要ありません。ただ無傷での捕縛が条件なら、少し手助けが欲しいですね』
そんなことだろうと思ってた、普通に考えてサノスが負けるはずがないからね。
可能であれば生かしておきたい所ではあるが、別に死んでも問題は無かった。だって野盗の内の七人は生け捕りにして捕えてあるから。
むしろサノスが死ぬ事の方が大問題、見ず知らずの下種共よりも身近にいる部下の命の方が大切なのは言うまでもないだろ?
『いやその必要は無い、別に殺しても構わん。見ず知らずの賊共よりもお前の命の方が大切だ』
『であれば問題ありません、直ぐに済むでしょう』
『分かった、頑張れよ』
『はい、お任せを』
頼りになる返事を聞いて魔法通話を切った。
サノスなら大丈夫だと思うが、その胸に残る妙な感覚は拭えなかった。
次の投稿は二月二十一日です、ほんの少しだけお話が進むかもしれません。宜しくおねがいします。




