チョウアンの王
今日は二話投稿です。
*あらすじ:ベア王がやってきているらしい・・・
月が沈み、太陽が東から顔を出す。チョウアンの王、ベア王はその様をギルレオンに向かう甲板の上で眺めながら、自らの行いを思い出し陰鬱な気分に浸っていた。
彼の兄、ボア王の時代に築かれたギルレオンの国交、それをこちら側から打ち壊すかのような愚行をしてしまったことに、彼は負い目を感じているのだ。
チョウアンの王ベア・チョウアン、元々彼は王位継承権を持たない次男であった。物理学と数学に優れ、世に出た論文を次々と吸収していき、王位継承権を持たない身であることから、行く行くは物理学会のリーダーになるであろうと周囲から期待の声が上がっていたほどの秀才である。
彼のその頭脳は稀代の魔法学研究者ガレオスに並ぶとされ、”物理会のガレオス”とも称されたほどである。
周囲の人々もそして彼自身も、ベアは物理学の研究者になる、そう信じていた。だがその状況は彼の兄であるボア王の病死によって急転することとなった。
ボアとベアは二人兄弟であり、ボアに子どもはいなかった。つまり王の跡を継げる者がベアしかいなかったのだ。
元来王家の地位は王の血を持つ者に継承されてきた。その歴史は一度も途絶えることなくボア王の時代まで続いていた、だからベアは王の地位を継いだ。今までの伝統を守ること、それが自らに流れる血の義務なのだとベアは悟ったのである。
そしてベアは国王の地位に就いた瞬間に物理学と数学の世界から離れ、支配者として必要な知識を大急ぎで吸収し始める。それを身に着け、活用することは彼にとって1+1を解くに等しい至極簡単な行為であった。
現に彼が国王に就いたたった三年の内にチョウアンはめまぐるしい発展を遂げている、彼の持つ知識と人を導くリーダーシップが国を大きく動かしていったのだ。
まさに名君、彼の手によって破竹の勢いでチョウアンは発展していった。全ては参考書通りに進み、全てが彼の頭脳で予想されたとおりに動いていた。だからこそ彼はイレギュラーに注意を払えなかった。
彼が国王に就任してから三か月が経ち国家運営が基盤に乗り始めたころ、その事件が起こる。
「ベア様大変です!!ソーン大帝国がマチルダを攻め落としたとの情報が入ってきました!!」
「何!?あの要塞都市を打ち破ったというのか!?」
マチルダというのはチョウアンとも国交があった小国のことである。領土は小さいが軍事力は非常に強く、彼の都市を守護する要塞はまさに鉄壁。ソーン大帝国と隣接するという最悪の立地ではあったが、彼の国がソーン大帝国に飲み込まれるなどあり得なかったのだ。
「何故そのようなことがあり得るのだ?密偵からの情報は?」
「それが・・・」
「・・・死んだのか」
報告者の顔色を見て大体を察したベア、だが密偵は死ぬ間際、ある情報を残していた。
「はい、死にました。とはいえその密偵の一人がある情報を残しています、いるのですが・・・」
「どうした?」
「いるのですが、どうも正気で発せられた情報だとは思えないのです」
「良い、言ってみよ」
ベアがそう促すと報告者が口を開く。
「天空に魔法陣が浮かび、その中から同じ顔をした幾千にも及ぶ悪魔たちが現れたというのです」
「・・・万が一にもあり得るか?」
「階級によります。チョウアン魔法軍が束になれば下位悪魔を千体呼ぶことは可能でしょう」
「なるほど、肝心なのはその階級か。確か悪魔は四つの階級に分かれているのだったな。で、その召喚された悪魔の階級は分かるのか?」
「・・・上位悪魔でした。上位悪魔を千体呼ぶなど、チョウアン魔法軍が束になっても不可能です」
「・・・真偽の判断は出来るか?」
「不可能です、送り出した使い魔たちは皆殺されたとの報告が入っています」
「了解した」
ベアが重々しく口を開いた。
悪魔はそれぞれ下位悪魔、中位悪魔、上位悪魔、そしてその悪魔たちのカーストの頂点に立つ唯一の存在、悪魔王の四つの階級に分かれている。
内人間の召喚に応じるのは上位悪魔まで、悪魔王は上位悪魔の証言で存在するという事だけが分かっているだけで、実在するのかは分かっていない。
そしてその悪魔たちは非常に強力な力を持つ。下位悪魔までなら上質な魔法使い一人で対処できるだろうが、中位、或いは上位悪魔ともなるとそうはいかない。それこそ一軍団が束になって掛かる必要があるだろう。
尤もそれほどまでに強力な力を持つ悪魔達を動かすのはそう簡単ではない、悪魔達のお眼鏡に適う様な契約を提示しなければならないのだ。
とはいえこの契約に至るまでにいくつかの過程がある。まず初めに肝心なのは悪魔を呼ぶ際に使う魔素の量、これが多ければ多いほど上位の悪魔が召喚されるしその数も増える。
そしてその次に大事なのは悪魔と結ぶ契約の質だ。その質が悪ければ、最悪帰りの駄賃として召喚者の魂を持っていかれることもある。そして上位の存在になればなるほどその質が大事になってくる。要はケチっては駄目ということだ。
こういった特性はいわば傭兵のようなものである、駆け出しの傭兵なら金さえ払えば働いてくれるかもしれないが、腕利きになるとそうもいかない、それなりの賃金を払わないといけないわけだ。
そして悪魔たちの階級は人間たちの研究によってある程度明細化されており、特に上位悪魔は皆人に近い容姿を持つという法則を発見していた。
以上の情報を頭にインプットしていたベアと報告者は、マチルダに現れた悪魔についての考察を始める。
「その悪魔たちへの契約は恐らくマチルダの人々とソーン軍の魂、あるいはその魔素だろうな。しかし本当に数千にも及ぶ上位悪魔が現れたのだろうか、俄かには信じがたいぞ」
「人の形をした悪魔だったという報告でしたのでほぼ間違いないでしょう」
「・・・最悪だな。となると上位悪魔で確定だな」
「ですね」
そう頷き合い、二人は件の悪魔たちを上位悪魔だと断定した。
報告者の情報が嘘の可能性もあるが、彼らはそれを嘘だとは扱わなかった。
それには当然理由がある、彼らはソーン大帝国の新皇帝ミツヒデをイレギュラーな存在として扱っていたからだ。
実際ソーン大帝国の元首が入れ替わった時期から、彼の国の戦線は凄まじい勢いで拡大していっている。その戦線の中にはチョウアンも含まれており、ソーンの変化をひしひしと感じているのだ。
故に彼らはその情報を嘘だと扱わない。あり得ない勢いで戦禍をばらまき、領土を拡大していくソーン大帝国の新皇帝ミツヒデなら、どんなあり得ないことでもあり得る、そう考えていたのである。
だからこそ幾千の悪魔達を上位悪魔だと断定した。しかしそれは間違いだった、実際はもっと凶暴で最悪なものだったのだが彼らがそれを知る事は永遠にないだろう。
「で、今後の対応はどうしましょうか」
「取り敢えず会議を開こうか、皆の意見を聞いておきたい」
そう言ってベアが会議を開くことを決定した。これが全ての始まりだった。
なんと軍部を担当する大臣の男がいつの間にか暗殺されていて、ソーン大帝国の人間となり替わっていたのである。
その結果その会議はとんでもない方向へと舵を切り、結果ギルレオンに対してあの様な態度を取ってしまったというわけだ。
そしてその事実が判明したのは昨日のこと、ルーが城に入るや否や軍部大臣の匂いが変わっていることに気が付いたのである。
「お前、前会った時と匂いが違うな?」
「おや、これはルー様、よく気が付かれましたね、付ける香水を変えたのですよ」
「いや違ぇよ、もっと内面の話だ。お前、ソーンの匂いがするぜ?」
ルーがそう指摘した刹那、軍部大臣の顔が霞がかった。
「・・・ククク、流石は魔王だ。まぁ目的は済んだしボクは帰ることにしましょう」
そしてそう言った瞬間に軍部大臣の姿が虚に消えたのである。そしてその時ベアも自らの過ちに気が付いた。
「・・・してやられた」
「ははっ、まぁそう言う事もあるだろ、問題はこの後どうするかだぜ。それにほぼ完璧に近い擬態だったし気が付かなくても無理はねぇよ」
「じゃあ何でお前は気が付いたんだ」
「ははっ、俺は鼻が利くからな。で、お前はこれからどうするつもりだ?」
「・・・ギルレオンに行って謝罪して来る」
そう言うとベアは夜のチョウアンの街へと足を踏み入れ、そのまま港へと向かったのである。
これが先日のことだ。
彼の眼下にゆっくりと、されど確かに近づいて来るギルレオンの街並みが映っている。彼は大きく深呼吸して心を入れ替えるのだった。
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翌朝、俺達はギルレオンにある港へと足を運んでいた。
海吹く風が潮の匂いを運び、まさに海って感じがする。濁り一つない大海原の先には見渡す限りの水平線が広がっていた。
「いやはや良い海ですね」
「だろ、ただまぁゴケンコウには劣るだろうがね」
俺の感嘆の声にロイド王がそう返した。
ゴケンコウの海、一回見てみたいものである。
「それで、到着時間は何時頃なんですかね?」
「もうそろそろ・・・、お、見えてきたぞ」
ロイド王が指差す先に視線を移すと、巨大な帆を広げる木製の船がゆっくりとこっちに近づいて来ているのが見えた。
「いよいよですね」
「だな」
あれの中にチョウアンの王、ボア王が乗っている。
ゴブリンたちの代表として、しっかりと立ち回らなければな。
またちょっと仕事が忙しくなってきているので、しばらく投稿を休みます。暇なときにゆっくり書いていく予定なので、投稿されないってことはないと思います。




