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とある魔王の無双譚  作者: azl
諸外国との交流
63/145

柔天流<後編>

あらすじ:リクの指導は続く

 平静を装い模擬戦という名の指導を行うリクではあるが、実際の所はそこまで余裕があるわけでは無い。サノスの一撃はあまりにも強力過ぎるのだ、リクの両腕はずきずきと痛んでいるし、木刀を握り続けるのも相当に難しい。

 ただそれでも彼が諦めないのは、偏に彼の持つ教官気質故だろう。技を全て教えてしまえば、彼に勝ち目はなくなってしまう。それを理解してもなお彼が指導をやめないのは、サノスという稀代の剣士との出会いに、心から歓喜していたからなのである。

 彼はきっと世界の頂点に立つ剣士に成り得る、そんな剣士の礎の一端になれるのなら、彼はそれで構わない。はっきり言って勝敗などはどうでもよかったのだ。



「五の太刀は他の技に比べて少し特殊な技です。今から手本を見せますが、闘気の流れを意識して見ていてください」

「えぇ、分かりました」


 その返事を聞き、リクが闘気を放出し始める。


「闘気を纏うのではなく、放出するのがコツです。五の太刀は当てることに特化した攻撃ですから、纏うよりも放出した方が目的に合致しているのですよ」

「あの、放出して意味があるんですか?」

「あります。闘気というのは一種の魔法のような物なのです。ですから剣士自身が強く望み、命じ、想起すれば、おのずと闘気自信が答えてくれるのです」


 リクは自信満々にそう答えるが、サノスはよく分っていない様子である。


「・・・すいません、よく分らないのですが」

「まぁ、見てれば分かりますよ。準備は出来てますか?」

「それに関しては十分です」

「宜しい、では参ります」


 サノスがそう返事を送った刹那、リクから放出された闘気がサノスの体を包み込んだ。


「五の太刀:朧!!」


 リクがサノスに向け突きを放った、そしてサノスはその突きを木刀で掠らせ、すらりと避ける。その対応は何一つとして間違っておらず、完璧だった。しかし次の瞬間、彼の体の全身を殴られたような鈍い衝撃が走る。


「ぐっ、これは?」

「五の太刀は必中の太刀。相手を闘気で包み込み、その闘気によって対象を全方位から攻撃するのが特徴です」

「・・・じゃあ対処法は無いってことですか?」

「いえ、あります。自分の体に闘気を纏わせ、盾の様に防げばいい」

「なるほど、じゃあもう一回お願いできますか?」

「えぇ、それじゃあ参ります」


 そう言って、リクは再び闘気を放出する。


「五の太刀:朧!!」

「四の太刀:空蝉!!」


 リクの突きがサノスの木刀を直撃し、包ませた闘気もサノスに向け攻撃を開始する。


「・・・どうです?」

「ふふ、君は本当に凄いな」


 しかしサノスは無傷だった。リクのアドバイスを精確無比に実行してのけたのである。

 普通はそう簡単にはいかない、闘気を扱うのは非常に難しいのだ。だがサノスは持ち前のセンスでそれを一発でやってのけた、まさに驚愕の一言である。尤もサノスの才に慣れ切っていたリクから漏れたのは、驚愕の叫びではなく感嘆の言葉だったのだが。


「言う事無しですね。それで、五の太刀は扱えそうですか?」

「問題無いです、ある程度理解出来ました」

「よし、じゃあ参りましょうか」

「分かりました」


 そう言ってサノスが闘気を放出し始める。その闘気はリクの物よりも遥かに巨大で濃密、流石のリクも悪寒を感じ、全神経を集中し始める。


「五の太刀:朧!!」

「チッ!!」


 そしてその悪寒は的中する。サノスの”朧”はまさに破壊の波動、リクでは防ぐことが出来なかったのである。まず闘気の量が段違いなのだ、リクが身に纏うことが出来た闘気の量を、遥かに上回っていたのだ。


「四の太刀:空蝉!!」


 リクが闘気を木刀に纏わせ、”朧”を迎え撃たんとする。そして破壊の波動がリクを襲った。

 リクの体を包み込むかの様に、全方位から襲い掛かる闘気の刃。その刃は恐ろしく強靭で、リクの練った闘気の盾をいとも容易く貫いていく。リクとしてはここで指導が終わる可能性も考慮していた。

 しかし、だ。


「ッ!?一体何が!?」


 なんとその結果は無傷、闘気の刃が一瞬にして掻き消え、リクは傷一つ負うことなく”朧”を防ぎ切ったのだ。

 が、実の所を言えばリクだけの実力ではない。あの闘気の刃はリクの体に届き得たし、少なくとも模擬戦が継続不可能になるのは避けられなかったであろう。

 にも拘わらずそうならなかったのは、偏にとある魔人の尽力のおかげだった。サノスはその魔人に礼を言った。


「・・・ありがとうございます」

「気にすんな、俺が見たかっただけだ」


 その魔人、リュートは、リクの体に”朧”が直撃する寸前に、その体の周囲を結界で囲っていた。だからリクは無傷で済んだのだ。

 尤もサノスの”朧”により、リュートの張った結界は砕けてしまっている。即興だったとはいえ、かなり濃密な魔素で作られていたそれを破ったサノスの剣技に、リュートも内心では驚いていた。


「リュート様、ありがとうございます」


 そしてそのことに気が付いたリクも、リュートに礼を言う。


「気にしなくていいです、どうぞ続けてください」


 リュートとしても柔天流の剣技を見たことが無かったので、彼ら二人の模擬戦から色々吸収してみようと考えていた。だからもう少しだけ、彼ら二人に模擬戦を継続させたかったのだ。


「ではお言葉に甘えましょうか」

「ですね」


 そして彼ら二人も、そんなリュートの思惑を感じ取っていた。それ故再び木刀を構えて、次の技の練習に移る。


「次は六の太刀に参りましょうか。六の太刀は柔天流の中でもっとも攻撃的な技です。受け止める準備をしておいてください」

「分かりました」

「では参りましょう、六の太刀:隼!!」


 六の太刀:隼は、今までの柔天流の主流であった突きではなく、上段から振り下ろす斬撃を行う技である。

 勿論ただの斬撃ではない。刃に纏わせた闘気が”啄木鳥”と同じ要領で連続攻撃を行うのだ。だがその闘気の斬撃の威力は”啄木鳥”に比べて大きく跳ね上がっている。当然その分闘気の扱いは難しくなり、必要となる闘気の量も増えるのだが、その代償に見合った見返りは返ってくると言えよう。


「空蝉!!」


 六の太刀:隼の真髄はその火力にある。それを瞬時にして理解したサノスは、受け止めることはせず受け流す事に徹した。それが彼の身を救うこととなった。


「・・・どうです?」

「お見事です」


 激しい音を立てながら、リクの放った斬撃を闘気によって弾き返す。ただ受けた衝撃は凄まじいもので、サノスの両腕がじんじんと痺れていた。


「どうです?出来そうですか?」

「えぇ、なんとか」


 リクの問いかけにそう答えたサノス。木刀の周囲に闘気を纏わせる。


「良い感じですよ、準備は完了ですか?」

「えぇ、いつでも構いません」


 それを聞いて、リクも周囲に闘気を放出し始める。


「それは?」

「闘気の応用例の一つです。まぁ思いっきりかかってきてください」

「分かりました、じゃあ行きますよ!!六の太刀:隼!!」


 サノスにより振るわれる木刀の一撃、それは今までで一番強く、苛烈なものだった。だからこそリクも万全の状態でそれに臨んだのだ。


「空蝉!!」


 リクの木刀にサノスの斬撃が直撃する。リクの体に凄まじい衝撃が走る、が、それはサノスも同じだった。


「「くっ!!」」


 二人同時に呻き声をあげ、後ろに軽く吹っ飛ぶ。


「今のは?」

「簡単に言えば相手の闘気を弾き返す際に、弾き返す方向を指定してやる技です。守りのための闘気を広範囲に放出するので、”空蝉”と合わせれば更に威力を削ぐことが出来ます」


 サノスの問いかけに、そう答えたリク。

 普通闘気に闘気をぶつけても、大抵はそのまま消滅する。しかし卓越した技能があれば、その闘気同士を合成し、更にその方向をコントロールすることが出来るのだ。その跳ね返した先に闘気があれば、その闘気と跳ね返した闘気同士をぶつけて打ち消したり、あるいはその闘気同士を合成することが出来る。つまり自分の身に余る強力な技でも、技能次第では防ぐことが出来るのだ。

 なお、この技は初めから準備しておかないと実行に移すのは相当に難しい。それ故”朧”の時はうまく実行することが出来なかったのだ。


「・・・今のはちょっと難しそうだ」

「ははは、まぁ最初は難しいと思いますよ?」


 そう言ってサノスが少し残念そうな表情を浮かべるが、それは単に今までが異常過ぎただけだろう。そもそも初見の技を模倣できるだけでも、大分常軌を逸しているのだ。


「そうですかね?」

「そうですよ、そもそも初見の技を模倣できるってだけでも相当ですからね?」

「それもこれも、偏にリュート様が私を見出して下さったおかげですよ」

「えっ、俺は関係ないだろ!?」


 観客三人の内、一人がそんな声を上げた。残りの二人は全く信じていなさそうな顔である。


「では私が教えられる最後の技、七の太刀に移ります」

「おや、これで最後ですか」

「えぇ、本来なら九つあるんですが、残りの二つは未だに上手く扱えないんですよ」

「といいますのは?」

「単純に消費闘気量が多すぎて満足に扱えないんです。まぁサノス殿なら扱えるかもしれませんが、俺には無理ですね」


 そう言って、少しだけ残念そうにリクが微笑んだ。

 尤も彼がその事実に絶望して、鍛錬をやめたことは一度たりともない。八の太刀と九の太刀が扱えないのなら、他の技をもっと極めればいいのだから。


「七の太刀の必要闘気量はかなりのものですが、その威力は”隼”や”啄木鳥”には劣っていまいます。ただその特異な性能を鑑みると、それらの技に劣るとは一概には言えません」

「つまりは扱い方が肝心と?」

「その通り、しっかり観察しておいてください」

「分かりました」


 その返事を聞いたリクは、木刀と自分の体に闘気を纏う。


「では行きます。七の太刀:疾風迅雷!!」


 凄まじい速度でサノスに接近し、サノスの木刀に突きを放ったリク。確かにサノスはその姿を捉えていた、しかし次の瞬間には、彼の視界の中からリクの姿が消え去っていた。あまりの事態にサノスも動揺を隠せない。


「消え・・・」

「後ろですよ」

「ッ!?いつの間に・・・」


 その最中、そんなリクの声がサノスの耳に入ってくる。出処は彼の背後、慌てて振り向いてみるとそこには先ほど消えたリクの姿があった。


「”疾風迅雷”は闘気のベクトルを操ることによって、高速移動を行う技です。私はこれの習得にかなりの時間を有しましたので、ちょっと時間がかかるかもし」

「大体わかりました」

「へ?」

「こうですよね?」


 刹那、サノスの姿が掻き消えた。ではどこに?リクの背後にである。


「後ろです」

「まさかッ!?あの一瞬でこの技を!?」


 流石のリクも驚愕を隠し切れない。七の太刀は他の六つとはだいぶ毛色が異なっている、それ故サノスでも七の太刀の習得にはそれなりの時間を有するだろうと考えていたのだ。実際リクも”疾風迅雷”の習得にかなりの時間を有した。しかしサノスはそれを一瞬で習得してのけたのである、驚くなという方が無理な話だった。


「・・・やはりあなたは素晴らしい剣士だ。貴方ならきっと、世界最強の座にも着けるかもしれない」

「そんなものには興味ありませんよ。私にとっての望みはリュート様のお役に立つこと、ただそれだけなのですから」

「なるほど、中々に殊勝な心掛けだ。さて、これにて私の指導は終了です。それでは本格的に模擬戦へと移りましょうか」

「ですね」


 そして再び睨み合う両者、再び木刀を構え直す。

 今から行うのは真剣勝負である、先ほど以上に空気がぴりついていた。


「それじゃあリンダ殿」

「お任せを」


 リンダがそう返す。

 授業はもう終わり、今まさに卒業試験が始まろうとしていた。

次の投稿は来週の月曜日です。

模擬戦回は練習も兼ねてるのでもう少し続く予定です。

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