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とある魔王の無双譚  作者: azl
諸外国との交流
62/145

柔天流<前編>

*あらすじ:ショクチェンドゥの訓練場へ移動中・・・

 ショクチェンドゥの訓練場には大きい訓練場と小さい訓練場の二つがあり、大きい方は今、陸軍が訓練のために使用している。

 だから彼ら六人がやってきたのは、小さい方の訓練場である。ただ小さいとは言ってもそれなりの広さはある、ギルレオン魔法訓練場の三分の一くらいはあるだろう。


「持ってきましたよ、訓練用の木刀です」


 リクが訓練場の物置から、木刀の詰まった箱を持ってくる。サノスとリンダの二人はお礼を言って、その木刀を手に取った。かなり頑丈な代物だ、屈強な戦士が乱暴に扱っても簡単には壊れないよう作られている。

 ホークは木刀を取った二人の姿を見て、口を開いた。


「さてと、儂ら三人の総意としては、君らに模擬戦をしてもらいたいと考えておる」

「模擬戦、ですか?」

「その通り。まぁ模擬戦だから怪我しないようにほどほどにな」


 ホークの言葉を神妙な面持ちで聞く三人、尤も答え自体はすぐに出たようだったが。


「ロイド様がお望みならば、それに応えるのが臣下の務め。ギルレオン騎士軍長として、恥じない戦いをお見せしましょう」

「だな。最近貧弱な部下ばかり相手していたから、少々鈍っていたのだ。ここいらで一つ体を思いっきり動かすのもありかも知れないね」

「う~む、私としてもこの体を全力で使ってみたいという気持ちはあるのですが・・・」


 だが一人、サノスだけはあまり乗り気ではなかった。

 彼は自分の肉体のことをよく理解できていない、自分の力がどれほどのものなのかを把握しきれていないのだ。それ故模擬戦の相手を傷付けてしまうのではないかと心配していたわけなのだが、その心配は杞憂と言う物だろう。


「サノス殿、我々はそこまで軟ではありませんよ」

「その通り、そう心配しなくて構いません」


 二人のその言葉を聞いて、サノスの考えも改まった。


「でしたら一つ、お願いしましょうかね」

「決まりだね、なら初めは俺が相手をしよう」


 そう名乗りを上げたリク、周りからも反対意見は出なかった。


「リクよ、サノス殿は中々の強者故、負けるなとは言わんが恥じぬ戦いはするように」

「お任せを、恥ずかしい姿は見せません」

「サノス、お前もしっかりやってくれよ!!でもスタンピードは使用禁止な」

「心得ました、リュート様」


 元よりサノスもそのつもりだったので文句は無い。

 リクも木刀を取って、訓練場の中央へ向かった。



「では審判は私が勤めましょう」

「よろしくお願いします」


 サノスとリクは木刀を構え、互いに向かい合う。

 双方の了承を得て、リンダが開始の合図を出した。


「始めっ!!」


 先に動いたのはサノス、その声が響くと同時に大地を蹴った。


「はっ!!」


 無造作に放たれる突き、しかしその速度は尋常ではなく常人に捉えるのは不可能だろう。尤も彼が相手をしているのはショクチェンドゥの誇る強者なわけで・・・。


「温い」


 そう呟き、その一撃を木刀の面で綺麗に受け流すリク。そしてそのまま流れるような動作で、木刀を薙ぎ払った。


「っぶね!!」


 とはいえサノスの身体能力も中々の物だ。持ち前の直感でその一撃を回避し、再び剣を構え直す。


「サノス殿、少し踏み込みが甘くないですか?」

「踏み込み、ですか?」


 だがそんな折、リクがそうアドバイスを送った。実際サノスは剣の使い方というものをよく分っていなかった、取り敢えずで剣を振っていたのだ。

 だからサノスも特に反発することなく、そのアドバイスに従った。


「こんな感じで踏み込んでみてください、さぁどうぞ」

「こう、ですか?」


 その言葉を踏まえ、サノスが突きを放つ。


「ッ!?」


 その変化は劇的だった、サノスの突きの速度が更に上昇したのだ。

 それを慌てて受け止めたリク、あまりの衝撃に少しだけ後ろへ吹っ飛ばされる。


「まさかこれほどとはッ!?」


 リクとて油断はしていなかった。次の攻撃を万全で受け止められるよう集中していたし、受け止め方も何一つとして間違っていない。

 単にサノスが異常過ぎただけなのだ、たった一つのアドバイスだけでこれほどまでに成長するなど、誰が予想出来ただろうか。


「天賦の才、ですかね」


 その成長の理由は、サノスが天により与えられたそのセンスにあった。

 今まで抑圧され、開花することの無かったその素質。その素質が今、リュートとの出会いによって大きく花開いていたのである。


「ふふふ」


 リクにとってその状況は、あまりにも絶望的な物である。しかし彼は笑った、絶望故ではない、彼は根っこからの教官気質だったのだ。


「面白い。サノス殿、貴方に私の知る技全てを教えて差し上げましょう!!どうぞ全力で掛かってきなさい」

「分かりました、胸を借りるつもりでやらせていただきます!!」


 そう返し、サノスは再び突きを放った。


「おっと、二度目は効きません。少なくとも同じ場所を狙った攻撃は、ね」


 だがその攻撃はリクの体に当たることはなかった。リクはそれを木刀で掠めながら回避し、カウンターの突きを放つ。


「くっ!!」

「攻撃を可能な限り最小限の動きで回避し、烈火の如き勢いで攻め立てる。それこそが我々の流派、柔天流の真髄です」


 柔天流、それは剣士たちに広く広まった二大流派の一つである。

 一気呵成の勢いで相手を攻め立て、反撃の暇を与えず圧倒してのける。二大流派のもう一つ、剛地流と対を成す戦い方だった。


「攻撃する位置を悟らせてはなりません、少なくとも私なら対処できますよ!!」

「・・・じゃあこれならどうですか?」


 瞬間、放たれる高速の突き、リクはそれを簡単に防ぐ。

 しかしその瞬間に気が付いた、その攻撃は牽制で次の攻撃こそが本命だったのだと。現にサノスは木刀を上段に構え、次の攻撃の準備を完了していた。

 そしてリクがそれを認識した刹那、サノスが木刀を振り下ろす。


「良い判断です、ですが遅い!!」


 しかしリクにとっては然程脅威ではなかった。その一撃は少しばかり遅かったのだ、その剣戟を剣で掠めて受け流し、次の攻撃を用意する。


「一の太刀:霧雨」


 柔天流には全部で九つの技がある。その九つの技の基礎となっているのが、この一の太刀:霧雨だ。霧雨の要は攻撃の速度であり、その速度こそが柔天流の真髄である。それ故柔天流の極みを望む剣士たちは皆、この技をひたすらに打ち込むのだ。


「ぐっ!!」

「さぁ、貴方になら見えたはずです!!俺に打ち込んでみてくださいッ!!」

「分かりました!!霧雨ッ!!」


 踏み込み、突きを放ったサノス。その一撃はまさに矢の如し、流石のリクでも回避することは不可能だった。


「くっ!!」


 避けることが出来ないと悟ったリクは、その一撃を真正面から受け止める。尋常ではない衝撃がリクの両腕に走った。


「これはまた予想以上の吞み込みの速度ですね」


 しかし彼がその痛みを顔に出すことはない、平静を装ってリクはそう言葉を送った。そしてサノスに対する指導を開始する。


「では次のステップ、二の太刀を教えましょう。二の太刀からは”闘気”と呼ばれる物が必要となってきます」

「闘気、ですか?」

「えぇ、こんな風にね」


 そう言って、リクは木刀に闘気を纏わせる。

 闘気とは魔素と同じ、一般的な法則に縛られない不可視のエネルギー体である。ただし魔素とは違って大気中に存在することはなく、生物の体の中だけに存在するとされている。


「まぁ俺もこれの習得には時間がかかりました、出来なくても・・・」

「こうですか?」

「・・・マジかよ」


 リクが驚愕のあまり固まった。

 柔天流も剛地流も、二の太刀が一番の鬼門とされている。何故か?それらを使用するには”闘気”が必要不可欠だからだ。

 だがその闘気を扱うのは、魔法を扱うのに比べて遥かに難しい。幾多の剣士たちがこの闘気によって、志を砕かれたのは言うまでもないだろう。

 そしてリクも、その志砕かれかけた剣士の一人だった。それ故サノスの恐ろしいまでの才能に一種の畏怖すら覚えていた。


「では二の太刀をお見せしましょう、しっかり全身で感じるように」

「分かりました」


 サノスがそう返事をし、木刀を構え直す。そしてそれを確認したリクも再び木刀を構え直した。


「二の太刀:紫電」


 リクが闘気を纏わせた木刀で突きを放ち、その先端から衝撃波を飛ばした。しかしサノスはそれを真正面に見据え、木刀で弾き飛ばす。


「っと。なかなか面白いですね」


 二の太刀:紫電は、遠距離の相手を想定した技である。武器に纏わせた闘気を対象へ飛ばす、いわば飛び道具なのだ。

 そしてその速度もまさに電光の如し。威力は控えめだがその分速度は速い、サノスには通用しなかったものの、常人では認識するのも難しいだろう。


「やりますね、それじゃあ次はあなたの番です」

「分かりました。二の太刀:紫電!!」


 サノスが構えた木刀で突きを放った。そしてその瞬間、リクに向けて放たれる衝撃波。彼は全神経を集中させ、その衝撃波を迎え撃つ。


「くっ、重いっ!!」


 その衝撃波の衝撃でリクの体が軽く吹っ飛んだ、練りこまれた闘気の量が尋常ではなかったのだ。軽く見積もってもリクの三倍以上はあるだろう。それほどまでに、サノスの肉体は優れていた。

 体に含む闘気の量はそう簡単には増えないのである。だから剣士の社会は才能がものをいう社会なのだ、数少ない闘気を効率的に操作し、凄まじい強さを誇る剣士もいるにはいるが、それでも限界というものはある。


 それを十二分に知っていたリクは、つい先ほど以上にサノスをより高い高みへ導きたいと思った。挫けそうになる心に発破をかけて、無理やり立ち直させる。


「ほう、中々やるようですね。それでは次は三の太刀です」


 そう言って、先ほど以上の闘気を木刀に纏わせるリク。柔天流の技の内、彼が扱えるのは全部で七つ。その七つ全てを教えてしまえば、彼に勝ち目はなくなってしまうだろう。だがその心に諦めや絶望の色はなく、むしろ高揚に近いものばかりを感じている。


「三の太刀は柔天流の中でかなり攻撃的な技です。体感する準備は出来ましたか?」

「えぇ、構いませんよ」

「でしたら参りましょう、三の太刀:啄木鳥!!」


 三の太刀:啄木鳥は、初めに一点を突いた後その一点へ闘気による連続攻撃を行う剣技である。それ故破壊力が尋常ではないほどに高く、流石のサノスでもこれを受け止めるのは苦難の技だった。


「くっ、中々キツイ!!」

「サノス殿、攻撃を真正面から受け止めるのではなく、受け流すようにしてみてください。それではもう一度!!」


 そして再びリクが”啄木鳥”を放つ。


「受け流す・・・」


 冷静にそう呟いたサノスは、”啄木鳥”を集中して観察する。一点特化型ならその一点から逸れればいい、その考えに至ったサノスはすぐに実行に移した。


「まさかここまでとは!?」


 闘気はサノスの胴の真横を突く。サノスは突きを掠らせ躱すことで、”啄木鳥”の一点攻撃を虚へと向けたのだった。”啄木鳥”の連続攻撃は、始めに攻撃を受けた座標が対象となる、それ故”啄木鳥”を食らいたくないのであれば、最初に攻撃を食らう座標をずらすか、その座標から離れればいいわけだ。

 しかし言うは易く行うは難しともいう。実際その通りで、上記の論理を実行するためにはとてつもない修練と技能が必要となってくる。だがサノスはそれを初見でやってのけた、これには流石のリクも驚愕を隠せない。


「まさか一瞬で対応してのけるとは思いませんでしたよ」

「そうですかね、まぁ一回見たからかもしれませんよ?」


 そう言って控えめに笑うサノスであったが、一回見たから対処出来たというのもおかしな話である。とはいえその異常な才に段々慣れて来ていたリク、すぐにサノスへの指導を再開した。


「では次はサノス殿の番です。折角ですので四の太刀も見せて差し上げましょう」


 四の太刀は柔天流の技の中で唯一のカウンター技だ、受け流し技といった方が適当かもしれない。

 リクからしてみれば、サノスの”啄木鳥”を真正面から食らうのは避けたかった。”紫電”であの威力だったのだから、”啄木鳥”を真正面から受けるなどまさに無謀の極みだったのだ。


「準備完了です、いつでも行けます」

「じゃあ参りますよ。三の太刀:啄木鳥!!」

「四の太刀:空蝉!!」


 刹那、サノスの突きがリクの木刀を直撃する。そして闘気による連続攻撃がリクの体を吹っ飛ばす、はずだった。


「ッ!?ほう・・・」


 しかしリクの体は微動だにしない、なんとリクに向けて放たれた闘気の全てが悉く消滅したのである。


「サノス殿、これが四の太刀:空蝉です。闘気同士を衝突させることによって、そのエネルギーを消滅させる。かなり難しい技ですが貴方なら出来るでしょう?」

「えぇ、把握出来ましたよ」

「流石です、では参りますよ」


 その瞬間、リクの姿が掻き消えて、気付いたときにはサノスの眼前にいた。


「三の太刀:啄木鳥!!」

「四の太刀:空蝉!!」


 リクの放った”啄木鳥”を、闘気によって打ち消すサノス。リクに比べると粗削りではあったものの、”空蝉”を扱うという目標は達していた。


「・・・では次は五の太刀です、準備はいいですか?」

「えぇ、よろしくお願いします」


 サノスは額に流れる汗を拭って、そう答えた。

次の投稿は十二月二十三日、イブイブです!!

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