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とある魔王の無双譚  作者: azl
諸外国との交流
59/145

会談前夜1

ブックマーク登録ありがとうございます。


*あらすじ:色々サノスと相談した後、ギルレオン城に帰ってきました。

 俺達がギルレオンに付いた頃にはもう日も沈みかけていて、美しい満月が顔を出しつつあった。


「へへへ、どうだ?俺もまだまだ負けてないだろ?」

「はぁ、はぁ、そうですね。私も精進しないと・・・」


 サノスが息絶え絶えになりながらそう答える。

 ちなみに俺は全然息切れしておらず、疲れというものを微塵も感じない。理由は一体何だろうね?


ーそれは我が主が”物質体”から解脱した存在だからでしょうね。


 はぁ、”物質体”から解脱ねぇ。ちょっと俺には難しい話だな、もう少し分かりやすく話してくれ。


ー簡潔に言うと、”精神体”だけになっても生き残れるようになったということです。だから”物質体”がいくらボロボロになろうとも、我が主の命には一切の問題もありません。勿論この世界に干渉するためには、”物質体”が必要となりますが。


 そうやって”赫イ智慧”はすらすらと説明するが、俺はいまいち理解が追い付いていない。つまり何だ、俺は肉体が滅んでも死ななくなったってことか?


ーそうです。


 え?まじ?


ー大マジです。


 まじか、そりゃヤベェな。

 なんでも魔人公に進化した際に、”物質体”を必要としない存在、いわば”精神生命体”とでも言うべきものに進化したのだと。”物質体”を動かすための酸素を取り入れる必要が無いので、息切れすることもないらしい。そう言えばフェルシアがそんなことを言っていた気がする、てか進化する前から酸素は必要なかったような・・・。


ー要らないとは言えませんでしたが、ほとんど必要なかったですね。そもそも魔人というのは超常の存在なので、一般的な生物の物差しで測るのは、少し無理があるかと。


 それもそうだな、そういえばこの世界にも酸素みたいなのってあるの?


ーありますが、働きが異なる場合があります。


 ほう、なるほどね。まぁ化学が苦手だった俺にとっては、前世との比較なんて無理ってもんなのだが。


 閑話休題。


「さてと、サノス、もう休憩は済んだか?」

「はい、お待たせしてすいません」


 サノスは息を整え終わったようだ、結構走ったのになかなかやるじゃないか。


「結構いい時間だし、飯でも食おうか」

「飯、ですか?」

「おう、食堂でな」

「食堂?」


 聞きなれない単語だったのか、サノスが小首をかしげていた。


「そうだなぁ・・・、お前、レストランってわかるか?」

「それは分かります。食事をするところですよね?」

「おぉ、その通りだとも。食堂ってのはレストランと大体同じ意味さ」

「へぇ~、じゃあ今から食事を取るってことですね?」

「おう、その通りだとも。しっかりついて来いよ」

「分かりました。人間の料理は初めてなので、楽しみです」

「ははは、そりゃいいな。楽しみにしててくれ」


 そう言って俺は城のほうに歩みを進めていたが、その途中でサノスがある疑問を口にした。


「あの、そちらはお城しかありませんよ?」

「ん?いや、城の食堂で食うんだぞ?」

「えぇ!?」


 俺がそう返してやると、サノスがびっくりした様子で叫んだ。一体どうしたんだろう?


「急になんだ?そんなに叫んで」

「どうしたって、城の中に勝手に入っていいんですか?」

「・・・なるほど、言われてみればその通りだ」


 非の打ち所のない、完全なる正論であった。


「ちょっと待ってくれ、連絡を取ってみるよ」

「畏まりました」


 一言そう言ってから、魔法通話を起動した。連絡先は・・・、アリナでいいか、一応王族だし。


『アリナ?聞こえてる?』

『あらリュートさん、聞こえてますわ。どうかなさいました?』


 うし、繋がった。ホットと一息ついてから、アリナに用件を話す。


『悪いんだけどさ、ギルレオン城に俺のお客さんを連れ込んでいいかな?』

『お客さん?どなたですの?』

『俺の配下だな、不帰の森に住んでるって話しただろ?』

『あぁ、あのお方ですか!!もちろん構いませんわ』

『おぉ、そりゃよかった』

『私としても、出来るだけ早くお会いしたかったのです。私もお見せしたい物があるので、どうぞ入ってきてください』

『お見せしたい物?』

『それは来てからのお楽しみです♪』


 アリナの感情が、魔法通話を通して伝わって来た気がした。これ以上ないくらいの上気分である。


「うし、サノス。許可も出たし、城に入るぞ」

「へっ?いや・・・」

「ぼさっとすんな!!とっとと行くぞ!!」


 サノスの背中をつんつん突く。

 あんまりアリナを待たせるのも申しわけなかったので、可能な限り急いだのだった。



「あ、リュートさん!!」


 城の大広間に入ると、アリナが俺達の方に小走りで駆け寄って来た。その奥にはラトさんも控えている。

 アリナは淡いピンクのワンピースだった。走るたびに揺れるスカートの裾が、桜みたいで大変美しい。


「ごめん、待たせちゃって」

「いいんですよ、また会えたのでトントンです。そちらがリュートさんのお客様?」


 アリナがサノスの方を見て、そう尋ねる。


「申し遅れました、私はサノスと申します。どうぞお見知りおきください」

「あら、しっかりしたお方ね。私の名はアリナ・ギルレオン、第五王女にしてリュートさんの”妻”になる女ですわ!!」


 やたら妻を強調して自己紹介するアリナ、それを聞いたサノスは少しびっくりした様子を見せていた。まさか王族だとは思ってもいなかったらしい。


「なっ、王族の方でしたか。これは大変な失礼を・・・」

「ご謙遜を、立派な態度でしたわ。それに私、礼儀に関してはあまり成ってないとよく言われるのです。だからそう気張らないでくださいませ」


 そう言ってアリナがほほ笑む。相変わらずとても可憐な笑顔で、直接向けられたわけではない俺も、少しどぎまぎしてしまった。


「それはそうとリュートさん、私の要件なんですけど・・・」

「あぁ、言ってたね。何かあったの?」

「うふふ、見て驚きなさい!!ラト、こっちへ」

「畏まりました」


 ラトさんもこっちにやってくる、右腕には料理で使う銀のボールを抱えていた。


「これは、生クリームですか?」

「おや?ご存じで?」

「・・・むぅ」


 そのボールの中に入っていたのは、多分生クリームであろう。ラトさんの振動に従って、プルプルと震えている。

 ただそのことを指摘すると、アリナが不機嫌そうな顔でこっちを睨んできた。一体なんでだろうな?


「アリナ様はリュート様に喜んでいただくために、最近ますますお料理のお勉強に取り組んでいらっしゃいます」

「あ、こら、言わないでよ!!もう!!」

「え、マジで!?ありがとう」

「・・・まぁ、いいですけどね」


 ちょっとそっぽを向いているものの、尻尾があったらぶんぶん振ってると思う。上がった口角を見れば簡単に予想できた。


「ところでリュート様、よくこれのことをご存知でしたね。あまり一般には出回っていない代物ですが?」

「あぁ、前世ではかなりメジャーな物だったんですよ」

「ほう、興味深い。また今度お話を伺ってもよろしいですか?」

「えぇ、構いませんよ」


 そう言ってやると、ラトさんがぺこりと頭を下げた。礼儀正しい人である。

 ただ生クリームか、せっかくだしあの特技を披露してもいいかもしれない。


「ラトさん、せっかくなのでその生クリームを貸してもらっても?」

「私は構いませんが、一体どうするつもりで?」

「それは食堂に行ってからのお楽しみです」


 そう言うと、皆様全員不思議そうな顔を浮かべていた。ま、今に見てなさいな。



「おあがりよ!」


 芳醇な豆香るコーヒー、その水面から顔を出しているのは・・・。


「すごい、ガントだ!!」


 そう、ガント。今回俺が作ったのは、生クリームを使ったラテアートだ。正確にはパンナアートかな?ラテは使っていないからね。とはいえここまでの反応をいただけると、作者冥利に尽きるというもの。


「すごい、まさかこんな物が出来上がるとは・・・」

「いやはや、かなり長く生きてきましたが、こんなものは初めて見ましたぞ!!」

「なんと愛らしい・・・、飲むのがもったいないですよぉ」


 いつの間にか俺たちの周囲には、このラテアートを見に来た人達の集団が出来上がっていた。頼まれたら作ってやるのにね。


「皆様、リュートさんが困ってるでしょう。それにこれは私のために作ってもらったものです、じっくり見たかったら後で作ってもらいなさい」


 別にアリナのために作ったわけではないが、そこに突っ込むのは野暮という物だろう。そう考えて、そのやり取りを黙って見ていた。


「ふぅ、追い払うのも少し疲れますわね」

「ははは、お疲れ様です」

「おほほ、この後お疲れになるのは、リュートさんの方でしょうね」

「かもね」


 まぁそれはそれで構わないのだが。ちなみにこのラテアートは、文化祭のために身に着けたテクニックである。その後バイトで活かしたりしてたので、結構良い経験だったと思う。


「それじゃあ、リュートさん。頂いてもよろしいかしら?」

「いいよ、召し上がれ」


 そう伝えると、アリナがその細い指でティーカップの持ち手を摘まんだ。王族らしい非常に上品な仕草で、そのティーカップを桃色の唇に近づけ・・・。


「ふふ、ふふふ」

「・・・ぷっ」


 俺だけでなく、ラトさんも噴き出した。それを見たアリナは、きょとんとした顔をしている。


「どうかなさいましたの?」

「く、口、ふふふ、ははは、ははははは!!」

「ふふふ、あ、アリナ様、口の周りに生クリームがっ・・・」

「えぇ!?」


 そう言われてアリナが指で口を拭う、その指の先端には生クリームが付着していた。そしてそれを見たアリナ、顔を真っ赤にして俺たちに抗議を始める。


「何で教えてくれなかったんですか!?」

「いやぁ、悪い悪い。面白くてさ」

「もう知りません!!」


 そっぽを向かれてしまった。その顔は若干朱に染まっているが、それは怒りというよりも羞恥によるものだろう。


「でも可愛かったぞ?」

「ッ!?いきなりは反則です・・・」


 アリナが顔をもっと赤くする、可愛いね。今なら某高木さんの気持ちが分かるかも。

 まぁそんなこと言ってられたのは、今この瞬間だけだったのだが。


「チィッッ!!!!」


 聞いたことの無い舌打ちが、ラトさんの方から聞こえてきた。人間ってこんな音も出せるんだな、などと呑気なことを言っている場合ではない。俺は今、ラトさんにマジの目で睨み付けられている。アレは殺人鬼の目だ、不味い、何とか話題を逸らさなければ。


「お、おい、サノス、どうした?そんな顔で固まって」


 辺りを見渡して見つけたのは、出された料理をじっと見つめているサノスの姿だった。隠れ蓑にするにはちょうど良かったので、少し頼らせてもらおう。


「あら、お口に合いませんでしたか?」

「あぁいや、そういうわけじゃないんです。ただ・・・」

「ただ?」

「こんな美味しい食べ物がこの世界にあったのだと、少し驚いてしまいまして」

「あらあら、ギルレオン国民としては嬉しい限りですわ」


 ゴブリン達にとって、料理というのはほとんど無縁の存在だったそうだ。やるにしても火に掛けるくらいで、大抵は生で食べていたそう。赤髪の魔人は食事には一切の興味を示さなかったそうなので、そういった物と触れ合う機会は一切無かったのである。


「料理っていうのは火に掛けるだけじゃないのさ。煮たり蒸したり、或いは調味料を使ったり」

「なるほど、やはり人間の文化は素晴らしいです!!」

「だろ?でもな、頑張ったらお前でもできるようになると思うぞ」

「なんと、本当ですか!?」

「本当さ、まぁそのうち付き合ってやるよ。ただキッチンが無いから、あの屋敷じゃ料理は出来ないけどな」


 あの屋敷、豪華な部屋と拷問室以外、ほとんど何もないのである。一応空き部屋があるのだが、狭すぎて料理するのには向いていないのだ。


「でしたら早いうちにあの屋敷の取り壊しを行いましょう」

「は?取り壊し?」

「そもそもあの屋敷はリュート様のお住まいとしてふさわしくありません。もっと豪華絢爛な建物を、なんとしてでも用意して見せます!!」

「う~ん、まぁ、そん時は頼むわ」


 この熱気に水を差すのも悪いので、そう曖昧に答えておいた。俺としてもあの屋敷に住むのはあまり好ましく思っていなかったので、それなりに喜ばしい提案でもあった。


「うふふ、もしかしたらギルレオンも人材を派遣するかもしれないから、その時はよろしくね?」


 その話の後に、アリナがそんなことを言ってきた。ロイド王が似たようなことを言った時は、その好意に甘えようとしか考えていなかったけど、もしかしたら裏があるのかもしれない。だから少し、探りを入れてみることにした。


「本当にいいのかな?返礼品はたぶん用意できないぞ」

「えぇ、問題ないわ。隣国として当然の務めです」


 アリナはそういうけど、恐らくはそれだけじゃない。多分牽制的な意味も含んでると思う。

 フェルシアの宣言によって、正式に設立される俺の国、そこで産出する資源を、他の国よりも先にギルレオンに寄越せ~!!みたいな。


ーまぁ大して問題ないのでは?元よりその兆候は見られていましたから。


 まぁな。アリナを嫁に出すってのもその一環だったからね。最も、俺の方からも文句は無い訳だし、別段問題にすることでもないだろう。人材も枯渇するだろうから、今は黙って受け取っておくのがベストなはず。


「じゃあそん時はよろしく頼もうかな」

「えぇ、そうして下さいませ」


 そうこう話しているうちに、サノスも食事を食べ終わったようだった。今日の献立はパン、手羽先、そしてミカンだった。サノスの皿は食べかす一つ残っておらず、模範みたいな皿である。


「ご馳走様でした」


 さてと、サノスも食べ終わったことだし、あの提案をすることにしよう。


「アリナ、一つ頼みたいことがあるんだけど」

「どうしました?」

「明日の三国会談用の服を用意してほしいんだ」

「はえ?その服で宜しいのではなくて?」

「あぁ、いや、俺じゃなくてサノスの服だよ」


 サノスが着ているのは、俺が作ってやったテーラージャケットと白いシャツである。問題かどうかと聞かれると、問題無い気もするのだが、まぁ念には念をというやつだ。結構大きな会談なので、それなりに畏まった服の方が良いかもしれない。


「そう言う事でしたら、私がお選びしましょうか?」


 俺がその旨を話すと、ラトさんがそう提案してくれた。断る理由がないので、有難く受けることにしよう。


「すいません、お願いします」

「えぇ、任せてください」


 ラトさんは了承してくれたが、それに待ったをかける者がいた。アリナである。


「ちょっと、リュートさんは私に・・・」

「絶対ッ、駄目ですッ!!」


 とんでもない気迫だった。その顔から絶対に折れないぞという固い決意が見て取れる。


「ちぇっ、分かりましたよ」

「分かればよいのです。それではサノス様」

「えぇ、よろしくお願いします」


 そう言ってサノスとラトさんが立ち上がり、食堂から出て行った。


「ではでは、私達も向かいましょうか」

「あ、ちょっとだけ待ってくれ」


 サノスが使った食器を片付けなければ。俺達は一足早く食べ終わっていたので、片付けは既に済んでいる。


「どうしました?」

「食器を片付けないと」

「あらあら、給仕に任せればよろしいのでは?」

「う~ん、大した手間じゃないし、俺がやるよ」


 そう言って食器を持って立ち上がる。アリナの言う通り給仕に任せてもいいのだが、どうもこういう性分なので、まぁ仕方ないであろう。


「・・・ふふふ、また一つ見つけてしまいましたわ」

「何をだい?」

「えへへ、内緒ですっ」


 一体何を見つけたのやら。まぁ本人は嬉しそうだし、どうでもいいかな。



「あの、この服はさすがに・・・」

「いえ、着てみないことには分かりません」


 ラトさんによって、着せ替え人形にされているサノス。助けを縋る眼で見てきたが、全力で無視させてもらった。

 俺達がやってきたのは、ギルレオン城の衣装室。まるで服の大森林である、どれもこれも高そうなので、汚さないよう慎重に移動しなければならなかった。


「むむむ、この部屋には苦い思い出があります」

「へぇ、苦い思い出って?」

「この部屋ってドレスがいっぱいあるんですけど・・・、言わなきゃダメですか?」

「・・・結構だ」


 アリナが胸を触り始めたので、大体察した。

 しかしとんでもない量のドレスだな、流石は一国の衣装室である。


「てかドレス多いんだね」

「厳密に言えば、ローブデコルテです。男性服でいうところの燕尾服に当たりますわね」

「ほ~、詳しいんだな」

「えぇ、王族として当然ですわ」


 そう言って無い胸を張るアリナ、おお威張りである。


「で、この辺の服なんですが、建国際の後夜祭で開かれる、ダンスパーティーに使われています」

「ダンスパーティーとな?」

「えぇ、毎年の恒例行事で、この城のダンスホールで行われています。ギルレオン城の給仕も、この辺の服を着て参加するのですよ」


 なんでもそのダンスパーティーで、カップルが成立することもあるらしい。現にウルスラさんとロイド王が出会ったのも、このギルレオンのダンスパーティーだったそうだ。


 しかし建国祭、建国祭ね・・・。


「その建国祭、俺にも手伝わさせてくれないか?」

「へ?建国祭を?」

「あぁ、俺って異世界人だから、何か力になれるかもしれないし・・・」

「勿論構いませんわ。父もきっと喜ぶでしょう」


・ ・・ならばいい。今から少しずつ手を打てば、きっと上手く行くはずだ。


「期待に沿えるよう頑張るよ」

「まっ、気張らず頑張りましょ?」

「・・・そういうわけにもいかないけどね」


 言うつもりはなかったのに、口から漏れ出ていた。


「あら?何か仰りました?」

「いや、ただの独り言だよ」


 若干不思議そうだったが、すぐに折れてくれたので助かった。サノスは未だにラトさんの着せ替え人形になっている。


「あら、これは・・・?」

「どうした?」


 アリナが驚嘆に似た声を上げた、俺もつられて覗く。


「お母様ったら、大事に保管してらしたのね・・・」


 彼女が開けた扉の中には、一着のウェディングドレスがあった、とてもとても美しいウェディングドレスだった。美しく織られたタフタにオーガンジーのバラが咲いており、所々に高華な煌めきを放つ小さな宝石が植え付けられていて、自ずからその美貌を引き立てていた。


「・・・ユウキさん」

「どうした?」

「私たちの婚約が正式に発表される日付について、ご存知ですか?」

「いいや、知らないな」


 俺がそう答えると、アリナは少し俯いてこう答えた。


「建国祭の初日に行われる演説の中で、私たちの結婚が発表されるようです」

「・・・そっか」

「えぇ、そうなんです。挙式が行われるまで、あくまで私たちは婚約者という関係です。ただ・・・」

「ただ?」

「お父様とお母様が婚約を交わしたのも、この建国祭の日だったそうです。ちょっとズレはありますけれど、なんだか運命的な物を感じてしまいます」


 そう言って顔を赤らめるアリナ。それを見てしまっては、自分の意思とは関係なしに言葉が出て来そうになる。


「アリナ、あのさ・・・」


 またしても言葉が漏れる。


「どうしました?」


 蕩けた声だった。

 いっそ言ってしまおうか。そう思ったけれど、赤インクを垂らしたみたいに赤い顔を見て、その考えもすっと消え去ってしまった。


「いや、何でも無い。忘れてくれ」

「へ?」


 アリナは怪訝そうに、それでいて少し子恥ずかしそうに首を傾げている。

 だがそれでも構わない、だって少なくても今伝えるべきではないのだから。今言っても、約束は果たせない。

 次の投稿は十二月九日の予定です。


 

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