訓練場にて 前編
お読みいただきありがとうございます。
貴族とか王族とかそういう名前って、クロード・フォン・リーガンとかルーク・フォン・フォブレとか、・が二つ付いてるやつしか見たことないんですよね。やらかしたかもしれない。
*あらすじ:馬車に乗って、ギルレオン王国に移動中・・・
今俺はかなりヤバい状況にある、別に敵が襲ってきたとかそんなんじゃない。
ただ単純にアリナが俺のほうをニコニコしながら見つめてきているのだ、しかも無言で。
前世なら困惑はしただろうけどそれで終わり、その後は勘違い系男子になるだけで終わったんだろうが、今この場ではそうはならない。
今俺はやましいことがある、否、ある可能性がある。もし俺が魔人だったらとか、異世界人が迫害の対象だったらとかいろいろ心配事が多いのだ。俺は件の魔人とは違って戦いに関してはからっきしだ、抵抗したところで無意味だろう。だから何か感づかれたんじゃなかろうかと、びくびくしているわけだ。
ちなみにさっきの三人だが、リンダさんは御者、残りの二人は俺が今乗っている馬車の上で見張りをしている。俺の知っている馬車にはこんな機能は無かったんだが、多分向こうの世界とは違うんだろうな。あんなデカいイノシシなんて某姫の物語には出てこないから。
というわけで客車の中には俺とアリナの二人しかいない。だから今この中はひたすらの沈黙である、ただ馬が地面を蹴る音が響きわたるのみ。
でもさすがに少し気まずいので何か質問してみることにしようか。さてなんにしようかな。
「・・・ギルレオン王国ってどんなところなんですか?」
結局こんなありふれた物しか出てこなかった。もっと他にあるんだろうが気を紛らわせることが出来ればそれでよい。
「あら、興味がおあり?」
「えぇ、とても」
「うふふ、うれしいわね。じゃあ何から話そうかしら?」
気を逸らすことには成功したみたいだ。さて、質問に対する答えだが、何から、か。別に何でもいいが・・・、無難に風土についてでも聞いておくか。
「ギルレオンの風土について聞きたいです」
「わかったわ。私以上にこの国に詳しい人なんてお兄様とお姉さま、それからお母様とお父様ぐらいですから安心してくださいね」
「そうなんですか、いやぁ楽しみだな」
お世辞みたいな言葉であるが、心からの言葉であった。それを聞いて余程嬉しかったのか、アリナはにこにこ笑顔を崩すことなく、ギルレオン王国について話し始めた。
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ギルレオン王国は本大陸ーイウラシア大陸ーの北西、キルクルス半島に属する三つの国家のうち、最も小さな国である。
海を挟んだ対岸にはチョウアン霊峰国、西はゴケンコウ共和国、南はショクチェンドゥ武装国家に囲まれており、ゴケンコウとショクチェンドゥに関しては陸つなぎ。ギルレオンの持つ戦力を考慮すれば安全とは言い難い立場に置かれている。
ただしゴケンコウとショクチェンドゥとは三国間不可侵条約を結んでおり、国交もかなり友好的なため攻められる危険性はかなり低い。
しかしつい最近まで友好的な国交が築かれていたチョウアンが、イウラシア大陸で最も強大な国家であるソーン大帝国の戦火に呑まれつつあり、それが原因で国交が停止してしまっている。
そのせいで、チョウアンが資源確保のためにギルレオンを侵略してくる可能性が出てきたのである。チョウアンとギルレオンの軍事力は圧倒的にチョウアンのほうが上であるため、そのような作戦をとってきてもおかしくない。その場合ギルレオン王国はほぼ間違いなく制圧されるだろう。
ただしこればかりはどうなるのかわからない、杞憂に終わる可能性だってある。しかしギルレオンからしてみれば、最早祈ることしかできないのだ。
次にギルレオンの土地についてだが、初めに特産品について説明しよう。
ギルレオンの主な特産品は果実と麦、この二つ。昔は魚が取れていたが、チョウアンとギルレオンの間にある海峡ーガポシス海峡ーで、チョウアン側がほぼ毎日のように軍事訓練を行っているため、ギルレオンの漁船は漁業が行えない状況なのだ。
ただしこれは大した問題ではない。魚はゴケンコウから輸入できるし、果実と麦は隣国であるゴケンコウとショクチェンドゥに輸出しても有り余るほどの収穫量なのだ。それ故大昔は、この地を奪いに様々な国が戦争を仕掛けてきたのだが、アリナ達ギルレオン王国の王族、その先代たちが知恵を振り絞り出来上がったのが、今の友好な関係なのだ。
そして先ほど話した特産品である麦、この麦はギルレオン全土のほぼ大半を占める平原で栽培されている。この平原の名を黄金平原というらしい。
この名前の所以は言わなくても大体わかると思うが、平原で栽培されている麦、それが見渡す限りを埋め尽くすことからこの名がついた。実は生前麦というものを見たことがなかったのだが、今回の人生では見ることが出来るかもしれない。
さて、ギルレオン王国の大半を占めるのは黄金平原。では残りはなんなのかというと、人の手が行き届いていない草原と、巨大な森である。
前者については割愛、後者について説明しよう。ギルレオンに広がる巨大な森、ただし普通の森ではない。その森に入った人々の中で、帰って来た者は一人としていない、いわば不帰の森である。
もっとも誰一人というのはさすがに盛っているらしく(森だけにwww)、史上を見れば片手で数えられるぐらいの人ならいるんじゃないかしら。とアリナ談。まぁそれだけしかいないのならいないのと同じ、不帰の森というのも納得である。
なおその名のニュアンスから大体察せられるが、調査隊を送ろうにも帰ってこられる保証が余りにも無いせいでこの森の調査は一切進んでいない。
ちなみに俺が迷っていた森はその不帰の森だったらしい。なんでそんなところにいたのかしら?とアリナに聞かれたので適当にはぐらかしておいた。
「ふぅ、久しぶりに話し込んじゃったわね。満足いただけたかしら?」
以上がアリナの話していた内容をまとめたものである。
「はい、助かりました」
かなり有意義な時間だった。想像以上に詳しい話を聞けて大満足だ。その分この国が抱える問題を知ってしまったわけなのだけれど。
「あら、そう言って頂けると話し込んだ甲斐がありましたわ」
アリナがニコニコ笑顔をさらにニコニコさせた。こういうのを太陽のような笑顔っていうんだろう。
「アリナ様、もうすぐ着きますぞ」
リンダさんに言われてアリナが客車の窓から首を出す。俺もつられて同じことをやってみると、目線の先に大きなお城が見えてくる。
その麓には城下町も見える、そしてその街を守護する大きな門も。
「むぅ、もうそんな時間ですか。楽しい時間はあっという間ですね」
アリナが寂しそうに俯く。だがさすがは王族というべきか、すぐに表情を改めて今後のことを説明してくれた。
「とりあえずリュートさんには城に来てもらうことになると思います。私はお父様にそのことを伝えに行きますので、しばらくリンダと一緒に行動してください」
「わかりました」
「うふふ、私は貴方のことを信じたのだけど・・・、やっぱり間違いじゃなかったみたい。でもリンダは貴方のことをまだ完全には信じ切れていないみたいだから気を付けてね」
アリナがリンダに聞こえないよう、こそこそ声で話しかけてきた。
息がかかってドキドキしたのは内緒である。
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「リンダ、私はお父様に今回のことを説明してきます。あなたはリュートさんを案内してあげて頂戴」
「かしこまりました、アリナ様もお気をつけて」
アリナは頷き返し城の中に入っていった。
その後しばらくは沈黙がその場を支配していたが、おもむろにリンダさんが口を開いた。
「・・・案内しろと言われてもどこを案内すればいいんでしょう?」
このおっさん思ったよりも愛嬌があるな。ずっと黙りこくってたから何か俺に文句でもあるのかと思ってたんだけど、どうも俺をどうやって持て成すべきか考えていたらしい。
「でしたら僕たちの訓練場に案内しましょうよ。リュートさんもそれでいいですよね?」
リンダさんがうんうん唸っているのをよそに、ラインさんーこいつは呼び捨てでいいなーが妙案思いついたりと、嬉しそうにそんなことを聞いてきた。
「訓練場?あんなつまらん所にか?」
「あぁいえ、私は訓練場に行ってみたいです」
これは本心。ゲーム好きからしてみれば剣と魔法の世界の訓練場なんて、一番気になるところだ。
「おや、そうなんですか。じゃあそうします。あと、私に対して気を遣う必要はありません。今のところ非公式ですが、本日中に公式の来賓になるでしょうから」
え、まじ。そうなの?
感謝状みたいなの渡されて終わりだと思ったんだが・・・。
「そうなんですか?」
「えぇ、まぁ。こういうと失礼ですが、我々王国からしてみると貴方が危険人物である可能性を捨てきれていないのです。そんな人物を、野に放つわけにはいかないでしょう?」
なるほど、そう考えると理解できる。俺という危険な存在を、ギルレオン王国という檻に入れておこうというわけか。
でも衣食住のほうは提供されるのだろうか?
「そういう事でしたら納得です。ところで衣食住のほうは・・・」
「その点に関してはお気になさらず、私からも厳しく通達しておきますから」
そういう事なら安心だ、何も心配する必要あるまい。
「わかりました。俺はもう何も心配しなくていいってわけですね」
「・・・まぁ余程変なことをなさらない限り大丈夫です。それでは訓練場に行きましょう。付いてきてください」
そう言ってリンダさんが先頭、ラインとリゲルさんが後ろに付いて行く形で歩き出す。
この形、小学生の頃の工場見学を思い出すな。
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金属と金属がぶつかり合う甲高い音。何かが燃えたような焦げ臭いにおい。まさしく剣と魔法の世界を詰め込んだそこ、訓練場。何のかんの言って、ここまでワクワクしたのは久しぶりだな。
「・・・こう言うのもどうかと思いますが、見てて面白いですか?」
「はい、とても!!」
リンダさんが心配そうにしているが何も問題はない。何せ俺の目の前に広がる光景は、夢にまで見た光景なのだ。ゆえにどんなものでも興奮の対象に成り得るのである。
「僕たちギルレオン王国の軍隊は日々訓練に明け暮れています。なのでそう言っていただけると、訓練してきた甲斐があるってもんですよ」
「だね。まぁ僕ら魔法軍もライン所属の騎士軍も、緊張のせいか動きがたどたどしいですけど」
へぇー、そうなのか。素人目にはわからないな。
「ふむ、何故なんだ?」
「リンダ、それはね、僕があいつらを軽く脅したからさ」
「っ!?誰!?」
いきなり後ろから声をかけられてびっくりした。
ゆっくり後ろを振り向いてみるといかにも魔導士です!!って服装をした金髪の男性が立っていた。イケメンである、ついでに背も高い。
「どういうことだ?」
「そのままの意味さ。アリナ様のお客様がお前らの訓練を視察に来るぞ!!って脅してやったんだよ」
「なるほどな。そう考えれば無理もない、か?」
「そうだろ?まぁこの国の訓練場に王族たちのお客様なんて滅多に来ないから、むしろそうなって当然だと思うぜ」
謎の男がそう言う。
でも確かに訓練場なんて自分の国に備わっているし、別に珍しいものでもないからな。しかもこのギルレオンの軍事力はかなり弱いらしい、そう考えればわざわざ見に来る理由がないんだろう。
「で、そこの君がアリナ様のお客様かい?ふーん・・・」
リンダさんとの話が終わって、その男の視線は俺のほうに移ったらしい。品定めするみたいに俺の方をじっと観察している、はっきり言って怖いのでやめていただきたい。
「ねぇリンダ。この人、魔法訓練場に連れて行ってもいいかな?」
「私に聞くな、リュート殿に聞いてくれ」
「おっとそれもそうだ。で、リュート殿、であってます?」
「え、はい。あと別に殿は付けなくてもいいですよ」
「いや、そういうわけにもいきません。アリナ様のお客様なんでね。ところでさっきのお話の続きですけど・・・」
「おいロメオ、口の利き方には気を付けておけよ」
「ああ、いえいえ、僕は気にしてませんよ」
「おお!!ありがとう。いやぁ幼い頃からその辺は徹底的に教育されたんだけど、全然身につかなくて」
このロメオと呼ばれた男、満面の笑みである。よっぽど安心したのだろう。
「ふん、そのせいでお前は客人の対応に振り分けられることがあまりないからな。だがリュート殿だから許して頂けているのだということを忘れるなよ」
「へいへい、分かってますよ。それでリュート殿、さっきのお話受けてくれますか?」
「訓練場の話ですよね、いいですよ」
「おぉ、良かった。少し君の使う魔法が気になってね。その保有魔素量を見た時、ビビビッと来たんですよ」
前言撤回絶対駄目だ。俺の魔法はもはや魔法と言えるものではない、ただの破壊行為である。あれをここで披露するなんてありえない、忘れがちだがここは町の中なのだ。
「ああいえ、やっぱりやめておきます」
「いやいや、気にしなくていいって。こう見えても俺ってこの国の魔法軍長だから、アフターケアの心得もばっちりだし」
「私からも保証しましょう。そいつの悪いところは口の利き方と態度、後それから・・・。まぁ結構な数がありますが、魔法の腕前はピカイチです。安心してくださって構いません」
いやぁ、そういう問題でもないんだけど・・・。
しかしここまで言われたら非常に断りにくい、仕方がないのでロメオさんを信じてみる、か?
いや、信じよう。何か起きたらこいつらの責任だ。
「わかりました、行きます」
「お、そう言ってもらえると信じてましたよ。それじゃあ行きましょう」
そう言ってロメオさんが歩き出す。迷わないように付いて行かないと。
「・・・本当にあいつは奔放だな。リゲル、ライン、私は訓練の監督をするから、お前たちはロミオの後を追いなさい」
リンダさんがそんなことを言ったのが聞こえた。
なんというか、ロメオさんって自由人なのかな?
いや、見たら分かったわ。リンダさんも彼には結構苦労させられてるのかもしれない。
とにかく、俺はロメオさんの後に付いて、魔法訓練場に向かうのだった。
御読みいただきありがとうございました。
キリが悪いですがここでいったん終了、後編は近いうちに投稿します。




