魔王共
見た目を考えてました。
「遠慮しないで座って座って。ちょっとお話したいこともあるし、僕の隣がいいと思うよ」
そう言われてフェルシアさんの隣に腰かけた俺。
椅子は均等感覚に並べてあったはずなのだが、フェルシアさんの黒髪が俺の頬を撫でている。
「いやぁ、新しい候補者なんて数百年ぶりだね。ルー君以来だっけ」
ルー。
これもどっかで聞いたことがある気がする。
ー”百獣の王”ルーのことでしょう。
あぁ、思い出した。
確かペルティーダ共獣国を支配する、獣人族の王だっけ。
何でも戦乱の時代に、いくつもの小国を武力で統一して出来上がった国らしい。
チョウアンに隣接する国なのだが、ギルレオンとの国交は無いそう。
まぁ魔王の支配する国だし、しょうがないか。
まぁそれはいいとして、先ほどから気になっている単語がある。
”候補者”、これって一体?
「あの、さっきからおっしゃってる候補者ってのは・・・」
「おいおい、僕と君の仲じゃん。そんなかしこまるじゃないよ」
「はぁ・・・」
向こうの世界でいうチャラ男みたいだな。
俺の意思とは関係なく、ぐいぐい押し込んでくる。
まぁついさっきみたいな高圧的な態度よりかは、断然いいんだけどね。
「じゃあその候補者ってのは?」
「簡単さ。新しい魔王の、候補者だよ」
・・・なるほど。
これは断った方が良いかも。
今の俺はギルレオンに住まわせてもらっている身。
人類の敵である魔王になろうものなら、流石に追い出されるだろう。
「辞退させてください」
「えぇ~、いやだよ。話だけでも聞いてってよ」
駄々っ子のような口調。
だがその目に光は灯っていない、否が応でも聞かせるって感じだ。
断ったら後が怖い。
まぁ、聞くだけならいいか。
そんな風に考えて、ついさっきの意見を撤回することにした。
・・・断ったらマジでヤバそうだし。
「じゃあ聞かせてください」
「おお、そう言ってくれると信じてたよ」
そう言って顔をキラキラさせるフェルシアさん。
じゃあ君がここに居る理由だけど、と前置きして言葉を発する。
「君は遺跡を攻略してここに来たよね。その遺跡ってのが、魔王となるのに適切か不適切かを判断する、試練のようなものだったのさ」
「つまりあの遺跡はフェルシアさんが作ったってことですか?」
「そういうこと。君は頭がいいなぁ」
「本当だの。ルーとはえらい違いだ」
「あの阿呆、暴れ始めて大変だったからな。今ではおとなしくなったが・・・」
「ほんとっ、困っちゃうよねぇ」
クゥエンディさんとルキフゲさんが、これでもかってくらいのジト目をフェルシアさんに向けている。
もしかしたら彼らもフェルシアさんの被害者なのかもしれない。
「それで話を戻すけど、僕は何でその遺跡を作ったと思う」
「う~ん・・・、強い奴を見つける為ですか?」
「正解だよ」
そう言ってフェルシアさんがパチパチと拍手をする。
満面の笑みである。
「魔王ってのは強い奴が成るべき。つまり、弱者と強者の選定のために作ったのがあの遺跡ってわけさ」
「そうだったんですか」
「そうだよ。でも思ったよりも強い奴っていないんだよね、ゴーレムなんかに殺されちゃってさ」
「魔生白金製だからな、仕方なかろう?」
「変なオプションもついていたよな?それなのにお前は文句を言っているのか?」
「うるさいなぁ。こっちは大事な話してるのっ!!」
そう言ってフェルシアさんが不機嫌そうに叫ぶ。
クゥエンディさんとルキフゲさんは、肩をすくながらも口を閉じた。
「で、ユウキは魔王になってくれるんだよね?」
「えっ、嫌ですけど」
沈黙がしばし。
三秒間ほど時が止まった後、フェルシアさんが口を開いた。
「何で嫌なの?」
「俺今ギルレオンに住まわせてもらってるんですよ。迷惑はかけられません」
「・・・じゃあ持ち帰って相談してみてくれ。それまで返事は保留ってことにしよう」
えらく真剣な口調で、そんなことを言ってきた。
どうもよっぽど俺のことを手放したくないらしい。
何でそんなに固執するんだ?
「どうしてそんなに引き留めるんですか?」
「簡単さ。キルクルス半島には魔王がいないからだよ。確かギルレオンってキルクルス半島にあったよな」
「そうですね」
「そう。だから君が魔王になったなら、キルクルスで領土を持ってほしい。そして・・・」
「つまり俺にあの人たちを裏切って、領土を奪い取れってことですか?」
「う~ん、ちょっと違うかなぁ」
「ん?キルクルスの支配権を握りたいんじゃないんですか?」
いまいち釈然としない。
俺を魔王にすることによって、キルクルスを魔王の支配下に置きたいってわけではないのか?
「違う違う、もう支配なんてどうでもいいんだよ。昔は支配しよっかなぁなんて考えてたけどね」
そういって視線を俺から別の所へ移すフェルシアさん。
その目線の先にはクゥエンディさんの姿があった。
その当事者であるクゥエンディさん、ばつが悪そうに口を開く。
「私も昔は努力していたさ。ただだんだん苦しくなってきて・・・」
「嘘つき。僕が何も言わないことをいいことに、サボってたんだろ?」
「・・・」
クゥエンディさんが目をそらす。
思ったよりも愉快な人だな。
そしてそれを見たフェルシアさん、肩をすくめながらこう言った。
「ま、そういうことさ。今更支配なんてどうでもいいんだよ」
「じゃあなんでキルクルスに魔王を置こうとしているんです?」
「簡単だよ。キルクルスの人間が僕たちに逆らわないようにするためさ」
曰く、イウラシア大陸は魔王たちの力によって、魔王への叛意を削ぐことに成功しているそう。
一応ソーン大帝国という例外もあるが、これはいったん無視する。
そしてキルクルス、キルクルスには魔王がいない。
それゆえキルクルスの中から、魔王への反抗勢力が生まれる可能性があるそう。
だから俺をキルクルス初の魔王にすることによって、その可能性を消し去ってしまいたいそうだ。
もっともその過程で、魔王への反対勢力が生まれる可能性もあるが、その時はその時とフェルシア談。
「理由は分かりましたけど、その必要ってあります?」
「念には念を、っていうしね。僕にはやらないといけないことがあるからさ」
「そのやらないといけないことってのは?」
「それは内緒。誰にも話したことないね」
悪戯っ子みたいに舌を出すフェルシアさん。
どっちかというと子どもよりの体つきのため、ぎりぎり可愛いに収まっている。
「そうですか」
「そうそう、だから持ち帰って考えてくれよ。魔王って結構楽なんだぜ?」
「いや、そんなことは・・・」
クゥエンディさんが口を開く。
だけどその意見は、一瞬にして打ち破られることとなった。
「あるさ。現にお前、魔王らしいことやってるか?」
「・・・」
「な?魔王の中で真面目に働いてる奴なんて一人も・・・」
「待て待て、コールがおるだろう」
「おっと、そうだった。灯台下暗しってやつだよ、ゴメンね」
コール、これは覚えてる。
確か”黄金の賢哲”の異名を持つ、最古の三魔王の一人だ。
ちなみに支配領土はないらしい。
一応はここ、スカラの魔境となっているけど、実際の所はフェルシアさんが動かしてるみたいだし。
「そういえば、コールさんは支配領土を持たれていないんですよね?」
「そうだね、ここに住んでる。今は書斎にでもいるんじゃない?」
「え、そうだったんですか。じゃあ挨拶した方が良いですかね?」
「彼女は気にしないと思う。無視していいよ」
じゃあそうするか。
ちなみに、元はコールさんも無人の支配領土を持っていたそうだが、フェルシアさんに譲り渡したのだと。
それ以来ずっと裏方として、魔王たちを支え続けているらしい。
「それで、魔王については分かってくれたかい?君は何もしなくていい、悪いことなんて何もないさ」
「・・・一応相談してみます」
「おっと、そりゃいいな。是非待ってるよ。魔王になると良いこと尽くめだからね」
「そうなんですかね・・・」
「根拠はある。魔王ってのは強い奴の称号さ、それだけで歯向かう意思もなくなることだろう。君の配下のゴブリンたちのためにも、ぜひ前向きに考えてくれ」
この人はどこまで把握してるんだ?
異常なまでの情報収集能力なのか、はたまた心を読み取られているのか。
でも”解析・鑑定”が何も言ってこないので、多分前者なのかな?
ーいえ、”解析・鑑定”の網をかいくぐる”能力”の可能性もあります。
そう思っていたのだが、その”解析・鑑定”本人(本能?)から、その説が否定されてしまう。
まぁ確かに相手は絶対的な頂点、その可能性も十分にあるか。
「まぁ前向きに考えておきます」
「おっと、ありがとう。それじゃあ準備が出来たらこっちから呼び出すよ」
「分かりました。それじゃ帰りますね」
「うん、気を付けて帰れよ」
「はい」
ユイさんがドアを開ける。
俺はそのドアをくぐり、幽冥城を後にしたのだった。
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クゥエンディもミズガルズに帰り、会議室にいるのはルキフゲとフェルシアだけとなった。
そしてそれを見計らったかのように、ルキフゲが疑問を口にした。
「お前の”能力”が使えるとは、珍しいこともあったものだな」
「いやぁ、昔のトラウマを思い出しちゃってね」
「トラウマだと?」
フェルシアは強い。ルキフゲでは、今のフェルシアに百回に一回勝てるかどうかだ。
そんな彼のトラウマ、ルキフゲも興味を示す。
「そのトラウマとやら、吾輩に教えてくれるか?」
「う~ん、あんまり自分のことって話したくないんだけど・・・。まぁ、いいよ」
ただし口外しちゃだめだぜ。と念を押して、フェルシアが話し始めた。
「生まれて間もないころ、俺って増長に増長を極めてたんだよね。だからいろんなところに迷惑をかけてたんだけど、そんなときに一人の魔人がやってきたのさ。そん時の俺は若かったからね、意気揚々と戦いを挑んだんだけど、ぼこぼこにされちゃった」
「それが彼なのか?」
「そうだと思ったんだけど違うみたい。おんなじ赤髪だったから、ビビっちゃったよ」
「ほう、ほう。それで、その魔人の名は何と?」
「その時は立てないくらいにコテンパンにやられてたから、直接聞いたわけじゃないけど、たぶんサタナエルって名前だね。六魔公の筆頭だった魔人だよ」
「六魔公?聞かない単語だな」
「知らなくていいよ、別に。この世界には首を突っ込まない方が良いこともあるのさ」
「なるほどな。つまりお前はその危険な奴らの筆頭に、目をつけられてしまったってわけじゃな」
「別に危険じゃないさ、嗅ぎまわるのがよくないだけで。それに次に勝つのはこの僕、あの忌々しい赤髪の顔を、涙でぐちゃぐちゃにしてやるさ」
そう言って子供みたいに笑ったフェルシア。
ルキフゲはその顔を若干ジト目で見ながら、言葉を発する。
「ほう、ほう、そりゃ結構な自信だの。だがお前、コテンパンにやられても、その性根は治らなかったようじゃな」
「何言ってんのさ。これでも人当たりがよくなった方だぜ?」
「なるほどなるほど。よくなり過ぎたのか」
「ハハハ、まぁ悪いよりかはいいだろ?」
「全くだ」
「正直者だなぁ、君は」
そう言ってフェルシアがワインに口をつける。
フェルシアは今、喜びの絶頂にいた。
新たなる魔王の誕生、新時代がやって来つつある。
代り映えのしない、つまらない日々の終わりを予感していた。
三日おきくらいの投稿になっていきます。
でも次回投稿は九月二十七日です。
きっと。




