頂点
「なぁ、俺は何でその幽冥城とやらにいるんだ?」
ユイさんと一緒に廊下を歩く俺。
黙ったままでいるのも空気が重くなって嫌なので、そんなことを質問してみた。
だけど、ユイさんもその詳しい理由については知らなかったらしい。
「申し訳ありません。私にもわかりません」
「じゃあなんで俺を迎えに来てくれたんだ?」
「主様に命令されたので。もしあなた様が危険な人物だったらどうしようかと、内心ひやひやでした」
なるほど。分からないならしょうがない。
でも彼女の主である魔王フェルシアは、その理由を知っているんだろう。
そう結論をつけて廊下を歩く。
そしてその突き当りに、紫色の大きな扉が現れた。
「こちらが会議室です。どうぞお入りください」
そう言ってユイさんがその扉を開けた。
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そこにあったのは巨大な円卓。
六つの椅子が均等感覚に並べられている。
そしてその椅子の一つに、白髪の男性が腰を掛けていた。
手には本を持ち、それを真剣な表情でめくっている。
その顔立ちは若干の老いを感じるものの、ぱっと見の雰囲気は若々しい。
そんな感覚も相まって、まるで絵画の中の登場人物のようだった。
だがしかし、その男が人間ではないことは一目見てすぐにわかった。
背中に生える四対の翅。
サファイヤのような青い輝きを放つその翅は、まるで妖精のようだった。
「では私はお茶を持ってきます」
そう言ってユイさんが部屋から出ていく。
その所作一つ一つが美しい。
そして翅の生えた男性も、読書をやめて俺たちのやり取りをまじまじと見つめていた。
「やぁ、君が新しい候補者だね?どうぞよろしく」
ユイさんが部屋から出ると、俺に声が掛けられた。
その声の主は、翅の生えた男性。
候補者だとか何とかいわれてもよく分らないが、取り敢えず挨拶は返しておこう。
「どうも初めまして。俺の名前はリュートです、よろしくお願いします」
いつも通りのテンプレートあいさつ。
だがその返答はいつも通りではなかった。
「ハハハ、リュートじゃなくてユウキだろ?」
冷や汗が出てくる。
本名を見透かされる可能性もあるにはあると結論を出していたが、こんなにも早く見透かされるとは。
今更リカバーも効かないだろうし、おとなしく白状するとしよう。
別にばれても相手によっては問題ないしね。
「・・・よく分りましたね」
「これでも結構経験豊富だからね。私の名はクゥエンディ、よろしく頼むよ」
そうにこやかに挨拶を返してくれた男性、クゥエンディさん。
でもクゥエンディってどこかで聞いたような・・・。
ー解。クゥエンディは、”原初の妖精”の二つ名を持つ、魔王の一人です。
えっ、魔王!?この人が!?
全然見ただけじゃ分からない。
魔王ってこう邪悪な雰囲気を漂わせてる感じかと思ってたよ。
「ほっほっほっ、邪魔するぞっ」
そうそう、今ちょうどこの部屋に入ってきたあの人みたいに・・・、って骸骨!?
「おや、おや、そこの魔人が新しい候補者の方ですかな?」
「そうみたいだね」
「おぉ、おぉ、数百年ぶりの攻略者、吾輩胸が弾みますなぁ」
「全身骸骨に胸なんてないだろう?」
「ほっほっほっ、手厳しいですな」
クゥエンディさんと楽しそうに会話する骸骨。
その骸骨は豪華絢爛な衣服を身にまとっている。
クゥエンディさんは魔王だった、となるとこの骸骨も多分魔王なのだろう。
そしてその該当する魔王に、俺は心当たりがあった。
「そしてそして申し遅れました。私の名はルキフゲ。貴方の名は・・・、ユウキ殿、でよろしいのですかな?」
さも当然のように見透かされた俺の本名。
だが相手があの”冥府の王”ルキフゲなら仕方ないことだろう。
ここで舐めた態度を取ったら潰されるかもしれない。
そう考えて若干下手に出ながら、挨拶を返す。
「はい、その通りです。私の名はリュートと申します。どうか・・・」
「ほっほっほっ、そう畏まらなくて結構。吾輩、堅苦しいのは苦手なのです」
じゃあ態度を崩すことにしよう。
このままこの態度を取ったら潰されるかもしれない。
「えっと、じゃあそうさせてもらいますね」
「うむ、うむ、ぜひそうしてくれたまえ」
そう言ってルキフゲさんが椅子に座る。
こうやって見ると気のいいおじいちゃんみたいだ。
だがその秘めた力はとんでもなく、警戒を緩めるのには時間がかかりそうだ。
クゥエンディさんの力はかなりのもの、俺じゃ多分太刀打ちできない。
だけどルキフゲさんはそれよりもさらに多い、警戒するなというのが無理な話だった。
そんな感じで若干気が重くなっていたのだが、突然円卓の上座側ー俺から見てだけどーにあった扉が開かれた。
「「魔王フェルシア様がおいでになられます」」
そう宣言したのは二人のメイド。
ユイさんと・・・、誰だろう?
額に角が生えているので、人間ではないはず。
「ふむふむ、出迎えにしては少しばかり遅かったのう。客人に対して少し失礼な気もするが・・・」
安心してほしい、俺は微塵もそんなこと考えていない。
「貴様が新たな候補者か・・・」
刹那、会議室に満ちたのはとんでもないほどの威圧感。
その言葉一つだけで、場の空気ががらりと変わった。
クゥエンディさんとメイドさん二人は、少し怯えた様子で、ルキフゲさんは少し驚いた様子で、その声の主のほうを見つめていた。
彫刻のように整った中性的な顔立ち、夜空のような黒い髪、陶器のように透き通った肌。
まさしく芸術品とでも称すべき風貌。
しかしその人物が放つ威圧感の前には、恐ろしく小さいものに感じられる。
絶対強者、黒い死神、暗黒の王、魔王フェルシアを恐れ、名付けられた二つ名は大量にある。
だがその中で、最も有名な二つ名があった。
”魔を統べる者”。
カリスマ、知性、そして魔王たちを統べるその強大な力。
それらを恐れ、名付けられたこの二つ名は、人間たちの恐怖の対象となっている。
まさしく絶対的な頂点。
これが”魔を統べる者”・・・。
「貴様、名を何という?」
有無を言わせぬ威圧感。
ここで嘘を付こうものなら、間違いなく殺されるだろう。
「イカルキユウキです」
「ユウキ、か。覚えておこう。して、貴様はなぜこの幽冥城にやってきた?」
「えっと、遺跡を探索してたら、いつのまにか・・・」
「・・・よもや貴様、余を害するつもりではあるまいな」
「そんなこと微塵も考えていません」
「・・・ほんと?」
「えっ、はい」
いきなりきつかった空気が緩んだ。
そしてうっかり俺の口調も緩んでしまう。
そしてそれを聞いたフェルシアさん、円卓の上座から俺のほうへ近づいて来る。
もしかして、やらかした?
そんな風におびえていたら、フェルシアさんが俺の隣に立った。
そして、
「いやぁ~、よかったよかった。もしそうだったらどうしようかと思ってたよ」
俺の肩に手を回し始めた。
重苦しかった威圧感など微塵もない。
あまりの変貌っぷりに、クゥエンディさんもメイドさんも、驚き顔で固まっている。
「僕の名前はフェルシア。よろしくってな」
そう言ってポーズをとりながら、ウィンクするフェルシアさん。
え、なに?
これが”魔を統べる者”?




