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とある魔王の無双譚  作者: azl
出会い
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一悶着

お読みいただきありがとうございます。


*前回のあらすじ:洞窟を出るとイノシシに襲われている男を発見、助けに行こう!!

 戦闘中の三人のもとへ駆け寄る俺、抗議の声は飛んでこなかった。


「そこの人、ありがとうございます~」


 さっきから叫んでいた金髪、ーラインって呼ばれてた騎士ーが仲間のほうへと走っていく。


「馬鹿者っ!!貴様も協力せんかッ!!」


 しかしそれを許すはずもなく、老騎士が叱責を飛ばしていた。

 まぁそうなるわな、俺でもそうなるとわかってた。


 まぁいい、兎にも角にもこのイノシシをどうするか考えよう。

 俺が駆け寄ってきた後、奴の興味はラインではなく俺に移っている。いつ襲ってくるかわからない状況、その証拠に奴の獰猛な瞳は俺を捉えているし、屈強な蹄も大地を蹴り続けている。


 とはいえ拮抗状態にあるのは否定できない。しばらく睨み合いでもやるのかなと思っていたが、イノシシの方は俺とは違って気が短かったらしい。

 

 蹄で地面を強く蹴った。恐ろしい速さではあったが今の俺なら容易に視認できる。どうやら今の俺の動体視力は大幅に上がっているようだ。

 さらに言えば、俗にいう反射神経ってやつも前の世界にいた時よりも大幅に増加していた。


 イノシシがこっちに向かって駆け出してくるが、それを楽々回避する。しかし当然一回突っ込んで終わりでもなく、奴は大きく弧を描きながら帰ってくる。その速度はどんどんと速くなっていった。


 しかし、だ。今の俺にとっては大した問題じゃなさそうである。

 不思議な力?らしきものが備わっているらしく、やたら時の流れがゆっくりに感じられる。

 当然体の動きもそれに伴って遅くなるわけなんだが、何ら気にする必要はない。その分前もって動けば良い。少なくともこのイノシシ相手には造作もないことであった。


 でも避けたところで、どこを叩けばいいんだ?そう考えていた矢先、勘というべき何かが、ここを蹴れと訴えかけてきた。

 この体思ったよりも謎が多い。が、今はそんな事悠長に考えている場合じゃない。


 先程俺に訴えかけてきた直感に従って蹴りを入れてみる。するとちょうどそこに突っ込んできていたイノシシの前足に蹴りが直撃する。

 刹那、響いたのは肉のぶつかり合う破裂音。イノシシは転び、その腹を天に晒している。ちなみに俺の足は無傷であった。


「そこの君!!あとは僕の魔法に任せてくれ!!」


 たいした武器も持っていないのでどうしようかと悩んでいた手前、先ほどの魔導士風の人がそう叫んだ。俺も魔法が使えるのでお手並み拝見と行こうか・・・、なんて言える立場ではない。

 俺のあれは魔法とは言えないんだと思う。確かに洞窟は明るくなったが、絶対違うもの。魔法を見た事なくても分かる。

 というわけでこの世界に来て初めての”魔法”なわけだ、心躍るね。


 俺がその場から離れるのを見て、魔導士の男が詠唱をはじめた。

 凄まじく集中している、そしてその後・・・。


「炎よ、敵を焼き払え!!火炎弾(フレイム)!!」


 魔導士の杖から炎の球が放たれる。サイズはイノシシの体躯と同じぐらい、焼き払うのには十分であった。

 その火の玉はイノシシに接近し、その体を包み込む。

 こうして勝負は決したのだった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「助かりました、旅の人」


 さっきの戦いの後、魔導士風の人がお礼を言いながら近づいてくる、悪い気はしない。

 まぁ一応謙遜しておくのがこの場のマナーってやつかなと思って、口を開こうとしたのだが、先ほどの老騎士が突然静止の声を上げた。


「リゲル、少しそこで止まりなさい」

「リンダ騎士軍長、どうかなさいましたか?」

「・・・そこのあなた、名前は?」


 先程の老騎士、ー騎士軍長だったみたいだなーが魔導士と入れ代わりに近づいてきた。しかしいきなりどうしたんだ?なんか険悪な雰囲気だな。

 とりあえずここは怪しまれない立ち回りをしないと。だが名前か、当然名前ならある。しかしこの世界の人間の名を聞いた限りだと、少々ばらすのはヤバいかもしれない。

 この世界では転生者という存在をどう扱っているのかわからない。その手前明らか様に特殊な名前をばらすのは、少し悪手な気がするのだ。それこそ転生者が迫害の対象だった場合なんて最悪だ、もっともこれが杞憂である可能性も否定出来ない訳なんだけど・・・。


「やはり言い淀みおったか、赤髪の男よ。貴様こそが我が国を滅ぼさんとする魔人というわけか。だが運がなかったな、この国最強の騎士である私と出会ってしまったことが運の尽きよ」


 俺がいろいろ言い訳を考えていたら、老騎士が我が意を得たりと言わんばかりに捲し立ててくる。


「・・・え?何の話をしてるんですか?」

「ふんっ、人間の真似事はよすがいい。貴様の情報はもうすでに、我々も掴んでいるのだよ」

 

 やばい、いろいろ考えてたせいで想像にもしなかった最悪の方向へ事が進んでいる。こうなるなら割とガチで本名を言った方がよかったかもしれない。

 こうなってしまった以上、誤解を解かないといけないんだけど、状況が状況でもう無理な気がする。

 だって言い逃れできないもの、髪の色は赤だし。魔人がうんたら言ってたけどこれに関しては言い訳の仕方すらわからない。見た目は人間に近いわけだが、俺も自分の種族を知っているわけではない。もしかしたら本当に魔人の可能性だってある。


 というかこの体は”先代”から受け継いだものなのだ。もしかしたらその”先代”が老騎士の探している魔人なのかもしれない。


 まぁそこまでの可能性を留意しても、俺がこの国を滅ぼそうとしているというのは明らか様な濡れ衣だ。だって俺はそんなこと微塵も考えていないもの。

 兎にも角にも、今は出来るだけぐだるしかなかろう。


「待ってくれ!!確かに俺の髪は赤いぞ!!だけど俺はこの国を滅ぼそうなんて考えてもないよ!!」

「フン、口だけなら何とでもいえる。貴様がその魔人ではないという証拠でもあるのか?」


 俺の心からの言葉は、お決まりの常套句によって簡単に否定されてしまった。

 相手方もそんな証拠ないと思うのだけど、この世界では魔人はだいぶ危険な存在なのかも。だから見つけ次第対処しようとしてるのかな?

 まぁ、事が起こる前に動くというのは大事なことだもんな。

 ただ今この瞬間だけは声を大にして言えた、そんな考えくそくらえッ!!と。


 しかし実際にそんなこと言えるわけもないので、継続してぐだれるだけぐだる。


「逆に聞くが俺がその魔人だという証拠はあるのか?」

「ふん、あるわけなかろう。しかしそのようなことを聞いてくるなど、自分には何かやましい物があるのだと言っているようなものだ。気付かないのかね?」

「もちろん気付いているさ。可能であれば俺としても自分の無実を証明したいんだが、あいにくその証拠が無いんだよな」


 ここから先はも~同じことの繰り返しよ。ずっと同じこと言い合ってるので埒が明かない。ここまで来ると残された二人の方にも申し訳なくなってくる。要所要所でゴメンネとぺこりぺこりしてはいるので、気を悪くしてはいないだろう、多分。


 で、あまりにも埒が明かないので、隙をついて逃げ出そうかと考え始めたその時、急に事態が動き始めた。


「ええい、埒が明かん!!かくなる上は!!」

「リンダおやめなさい!!」


 その声は馬車の方から聞こえてきた。

 声の主は銀髪の女性、その女性が老騎士を窘めたのである。

 堂々たる振る舞い、その容姿も美しい。しかしその中には、少しばかりのあどけなさを残していた。

 見た目で判別するなら彼女は俺よりも年下だろう。だが踏んできた場数はあちら側のほうが圧倒的に上なのだと、その挙措から推測できる。


「アリナ様!!その者は危険です!!早く馬車の中にお戻りください」

「私はそこのお方とお話ししたいの、少し静かにしててくれないかしら?」


 そのアリナと呼ばれた女性は老騎士相手に一切怯まず、俺のほうに近づいて来る。恐らくは高位の身分、それこそ騎士が護衛する地位にある人物なのだろう。

 まぁあんな豪華な馬車に乗ってたってことは、そう考えて間違いないはず。


「私の護衛が申し訳ありません。あの人は私を守ろうとしただけで・・・」

「ああいえ、お気になさらず」


 俺はもっと気の利いたことが言えないのだろうか、本当にこういう時に駄目だな。

 とはいえ今回ばかりは問題なかったみたい。


「まぁ!!そう言っていただけると助かりますわ」


 良かったぁ、と胸を撫で下ろしつつもお話は続く。


「それはそれとして。旅のお方、あなた私の国に来てみない?」

「え?」

「アリナ様お待ちくださいませ。この者は一切の素性が分かりませんゆえ、それは少々危険かと」

「あら、そのお方は私を助けてくださったのでしょう?でしたらわが国で正式にお礼するっていうのが礼儀じゃないかしら?」

「いえ、この者が魔人である可能性が捨てきれません」

「では一つ質問させてください。我が国に魔人の相手が務まるような者がいますか?この国で一番強い貴方でも無理なんでしょう?」

「・・・恥ずかしながら」

「うふふ、まぁその気持ちもわかるわよ、私だって嬉しくはないもの。だから正面切って戦おうとするのはやめなさい。いいわね?」

「・・・仰せのままに」


 聞いた感じ俺を懐柔する方向性へ舵を切ったようだ、老騎士のほうも渋々納得した様子。だが正面切ってそれを言ってのける胆力には脱帽してしまう。

 しかしこの国には魔人に対抗できる奴がいないのか?じゃあその赤髪の魔人ってやつが現れたら本当にまずいのではなかろうか。


「さて、旅のお方。先ほどのお話受けてくださるかしら?」

「そのお話っていうのは、私が国に行くという・・・」

「えぇ、その通りです。少し申し遅れましたが、私の名はアリナ・ギルレオン。ギルレオン王国の第二王女です。で、さっきの騎士の名前が・・・」

「リンダです。まだ貴方を完全に信用したわけではありませんが・・・、これ以上の追及はやめておきます。私の部下たちですが、そこの金髪がライン、もう一人の魔導士がリゲルです」


 やっぱりお偉いさんだったか、ある程度予想してたんだが思ってたよりお偉いさんだった。まさか王女だとは思わなんだ。あと老騎士も結構融通が効くみたい、まぁ主の命令にこれ以上逆らうわけにもいかないだけかもしれないが。


「えぇと、俺、私の名前は・・・、リュートです。」


 先ほども言っていたが、まだ本名を明かすわけにはいかない。当然これも偽名、だが大切な古い友人の名である。


「うふふ素敵なお名前ですね、それと今は公の場ではありませんからそう固くならないで下さいね。ところで私のお願い事は聞いて下さるのかしら?」


 これは国に行くか否かという話であろう、これに関してだが答えは始めから出ている。

 当然YES、断る理由が何一つとしてない。


「もちろんです、断る理由がありませんので」

「まぁそれはうれしいわ!!それでは早く行きましょう。さぁ馬車に乗って」

「え、馬車に?」

「遠慮することはありませんわ、さぁ」

「・・・こうなるとアリナ様は言う事を聞きません。諦めて乗ってくだされ」


 老騎士ーリンダーもよく困らされているのか、諦めたように助言してきた。もしかしたら気が合うかもしれないな。


 ちなみに俺が頑なに嫌がっていた理由はただ一つ、あまりにもアリナが美少女だからだ。

 俺は生前女性に免疫がないまま死んでしまった、恋人はおろか女友達といえる存在一人おらず、ずっと同性とつるんでいた。そのせいで同性の付き合いの幅だけはやたら広かったのだが・・・、それはそれで楽しかった。


 まぁそれがここにきて仇となるなんてね、この世界ではもう少しだけ交友の幅を広げてみたいものだ。

お読みいただきありがとうございました。

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