森の屋敷にて
「「「「グギャ、グギャア!!(ようこそいらっしゃいました!!)」」」」
ゴブリンに連れられて屋敷に入った俺たち。
そこにいたのは両の手では数えきれないほどの、大量のゴブリンたちだった
彼ら全員、規則正しい隊列を組んでおり、人間の軍隊に匹敵するほどの統率である。
けどそんなことはどうでもいい、一番肝心なのはその理由である。
「ちょっと待ってくれ、お前らは何でこんなことをやってるんだ?」
俺がゴブリンたちにそう問いかける。
するとその隊列の先頭にいた右腕の無いゴブリンが、俺の前に跪き口を開いた。
「グギャ、グギャア!!(それは、貴方様が我らの救世主にあられるからです!!)」
救世主?なんで?
俺ってゴブリンに対して何かやったっけ?
「おいおい、何の話かまるで分からんぞ。人違いじゃないのか?」
「グギャ、グギャア、グギャ、グギャア!!(いえ、人違いなどではありません。あなた様はあの憎き魔人を追い詰めた、我らの恩人であります!!)」
魔人。その単語で連想されるのはあの赤髪の魔人である。
もしやこいつら、あいつの居場所を知っているのか?
「おい、その憎き魔人ってのは赤髪の魔人のことか?」
「グギャア(その通りです。)」
「じゃあそいつの居場所を教えてくれ、今すぐにでも始末しないといけない」
「グギャア・・・(そのことなんですが・・・)」
次は絶対に逃がさない。
そんな意思を込めて、そう宣言する。
だけどそれを聞いたゴブリンの顔色が、どんどんと暗いものとなっていった。
「どうした?」
「グギャア、グギャア(実はすでにその魔人を、我々の手で殺めてしまったのです)」
「何、それは本当か?」
「グギャア。グギャ、グギャア・・・(はい・・・。申し訳ありません、貴方様のお手柄を横取りするようなことをしてしまって・・・)」
ふむ、なるほど。
何でこいつが暗い顔をしているのか分かった。
こいつは俺が怒っていると思っているのだろう。
別にあいつが死んだのならそれでいい。自分でとどめを刺せなかったのは残念だが、そこまで悲観するようなことではないのだ。
「気にするな、あいつが死んだのならそれでいい。だけどただ一つ、どうしても聞いておきたいことがあるんだが・・・」
「グギャ?(何でしょう?)」
「その魔人が死んだことを証明出来るか?」
無いなら無いでしょうがない。
とはいえ可能であれば証明してほしい。
そんな意図での質問である。
そしてその質問への返答は、”出来る”だった。
「グギャ。グギャ、グギャア?(可能です。少し移動する必要がありますが、よろしいですか?)」
「構わない、連れて行ってくれ」
「グギャ、グギャア(かしこまりました。どうぞこちらに)」
そう言って先頭のゴブリンが歩き出す。
俺たちはそれに遅れないように付いて行くのだった。
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「うお、これはなかなか」
ゴブリンによって連れられてきたのは、この屋敷のとある一室。
その部屋の扉を開けてまず飛び込んできたのは、R18-Gの光景だった。
どんなものだったかは想像に任せるが、見るだけで吐き気を催してくる。
「で、あれが例の魔人なのか?」
「グギャ、グギャア(その通りです。なんでも我々が戦争で留守にしている間に、居残り組の仲間たちが始末したそうです)」
曰く、今までゴブリンたちは、赤髪の魔人の絶対的な力に逆らえず、奴隷のような扱いを受けていたそう。
だがしかし、そんな彼らに転機が訪れた。
つい先日起きた、俺と赤髪の魔人の戦いである。
その戦いの結末は、赤髪の魔人の逃亡に終わったものの、この屋敷に帰還した魔人は相当に弱っていたらしい。
そしてそれを好機と見た居残り組が、その魔人にとどめを刺したそうだ。
「グギャ。グギャア、グギャア(貴方様には感謝してもしきれません。この身を、生涯貴方様に捧げることを誓います)」
そしてそのクーデターのリーダーが、この右目に傷があるゴブリン。
なんでもこいつ、俺に恩を返すために生涯仕えるつもりらしい。
そうでもしない限り、恩を返すことが出来ないと考えているそうだ。
しかしそれでこいつはいいのだろうか?先の戦いで彼らの仲間も結構殺されているのだ。
恨みの一つや二つあると思う。
「だが俺たちはお前の仲間を殺したぞ?例の魔人みたいに」
「グギャ、グギャア。グギャ、ギュア、グギャア。
(それは違います。赤髪の魔人は己の快楽のために力を振るっていました。しかしあなた様は大切な仲間を守るため、力をお使いになられました。我らも貴方様と同じく、侵略者相手には容赦をしないでしょう。ですので貴方様が負い目を感じる必要はありません)」
「分かった。そう言ってくれると気が楽になるよ」
「グギャ、グギャア。(はい、何も気負わなくていいのです)」
そう言って右目に傷があるゴブリンがほほ笑んだ。
その表情はまるで聖母のような表情で、若干ドギマギさせられる。
・・・おかしいな。
相手はゴブリンなんだがな。
「じゃあそうさせてもらうよ。ところであの死骸はどうする?」
「グギャ、グギャア(それは我々でも議論していたのですが、貴方様がいらした時に決める。というのがその議論の結果です)」
「分かった。じゃあ燃やしてしまおう」
俺は指先に小さな魔力弾を練り上げ、魔人だったものに向けて放つ。
そしてその魔力弾を着火させ、魔人だったものを炭に変えていった。
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先程の大広間に戻ってきた俺たち。
召使のゴブリンが用意してくれた椅子に腰かけ、束の間の休息を取っていた。
「いやぁ、申し訳ない。私には彼らがなんて言ってるのかさっぱりわからなくて」
「気にしないでください。適材適所って言葉もありますし」
ロメオさんが申し訳なさそうな顔でそんなことを言ってきた。
変なところで真面目だよな。普段からこんなだったらいいんだけどね。
「グギャ、グギャア?(ところでリュート様、私、いえ私達は貴方様に生涯お使いしたいと考えているのですが、どうか受け入れてはくださらないでしょうか?)」
そんな折、左腕の無いゴブリンが、そんなことを問うてきた。
俺個人としてはそんなことを言われても。という感じである。
「お前らはそれでいいのか?」
「グギャ、グギャア(我々のような弱き種族は、常に強い者の下について生きております。ですのでそのことにつきましては、何の問題もありません)」
「なるほどな。けど、俺は常にここに居るわけじゃないぞ?今はギルレオンに住んでるからな」
「グギャ、グギャア。(構いません。貴方様は我々を必要な時に扱き使ってくださればいい。ただその対価として、我々に壊滅の危機が訪れたとき、その強い力をもって守護していただきたいのです)」
なるほど。
そういう事なら断る必要もないだろう。
一方が一報を搾取するわけじゃない、WINWINの関係ってやつだ。
問題は見受けられない。
立場が云々っていうのも大丈夫なはず。
あくまで俺はギルレオンの客人だから、問題ないだろう。
「分かった。その話を受けよう」
「ッ!!グギャア!!(ッ!!ありがとうございます)」
「「「「グギャア!!(ありがとうございます!!)」」」」
ゴブリンたちが一斉に跪く。
むず痒いのでやめてほしい。
「そうかしこまるなよ。顔を上げてくれ」
「「「「グギャア(かしこまりました)」」」」
そう言って一斉に頭を上げるゴブリンたち。
けどどうも畏まった雰囲気はほどけなかった。
「そういや居残り組だとかなんだとか言ってたけど、それは何なんだ?」
「グギャ、グギャア。グギャア・・・(我々ゴブリンは、それぞれ給仕担当、戦闘担当、諜報担当の三部門に分けられていたのです。そして先の戦いに参加したのが、私と彼女がリーダーを務める戦闘と諜報担当の二部門。つまり居残り組というのは・・・)」
「給仕担当のことだな」
「グギャア。(その通りです)」
給仕担当のリーダーが、目に傷のあるゴブリン。
戦闘担当のリーダーが、右腕の無いゴブリン。
そして諜報担当のリーダーが、左腕の無いゴブリンである。
「お前らに名前はあるのか?」
「グギャア。(ございません。我らなど名もなきゴブリンで結構です)」
「そういうわけにはいかんだろう。リーダーとして示しがつくまい?」
「ちょっと待って、リュートさん。もしかして・・・」
「よし、お前らは今日から、ヨミ、サノス、テスラと名乗るといい!!」
給仕担当がヨミ。
戦闘担当がサノス。
諜報担当がテスラ。
とある神様の名前、その一部を拝借させていただいた。
思い付きに近い名前を宣言した俺。そしてその瞬間、俺の体からごっそりと魔素が抜き取られたのが分かった。
えっ、こんな取られるの?
っていうかこれはヤバい。意識が朦朧としてきた。
・・・そういえば簡単に名前を付けちゃダメって言われてたっけ、すっかり忘れていた。
前回は問題が起きなかったせいで、かなりうっすらとしたものになっていたのだ。でも今回はそうはいかないかも。
でもなんでだ?ゴブリンって下位の種族なんだろ?
上位になればなるほど要求量は増えるそうだけど、ゴブリン程度でも駄目なのか。
ー解。先の戦いで大きく魔素を失っていたのが主な原因です。
ちなみにその三体、ヨミ、サノス、テスラはゴブリンではなくその進化形態であるハイゴブリンです。
ですので名づけに使われた魔素もかなりのものとなっています。
あぁなるほど。要は詰めが甘かったわけか。
次からはもっと慎重に行動しよう。
薄れゆく意識の中でそう反省した俺。
だけど今更どうしようもなく、ただ抗う事も敵わず、俺の意識は暗闇に沈むのだった。
服ってたくさん種類があるんですね。
むずい。




